課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

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【前回までのあらすじ】

「ここはどこだ?」

 なんやかんやで平行世界に干渉するロストロギアが暴走し、いくつもの平行世界が繋がり、何人かの平行世界人が次元の狭間の無人島に閉じ込められてしまった。
 帰還するには皆で力を合わせた上で、この無人島の謎を解かねばならない。
 そのためには、この無人島で生き抜く必要があった。

「皆、五人で力を合わせて頑張ろう!」

 ティアナ・ランスター、T。
 オットー、O。
 かっちゃん、K。
 アイシス・イーグレット、I。
 オッドアイズペンデュラムドラゴン、O。
 人は彼らを、TOKIOと呼ぶ。

 異なる世界のミッドチルダの住人達が集結し、元の世界に帰るための奮闘が始まった。


昔の君と今の君

 昔、昔のこと。

 Kは先生、お嬢さん、といった愛称で呼んでいた師匠達から、色々なことを学んでいた。

 課金癖を消したかった彼女らの教えは、彼女らの望んだ効果を得られなかったものの、今でも彼の心の片隅に残っている。

 

「今日は合理的な考え方とは違う、幻想的な考え方を教えようか」

 

「幻想的?」

 

「そ。一言で言っちゃえば、"正義は必ず勝つ"ってやつ?」

 

 トレーニングルームの設定を調整しているリーゼアリアから離れたところで、リーゼロッテと課金少年が向き合って座っている。

 心構えを教えるのも、師匠の役目であった。

 

「私達は管理局の人間だからね。

 例えば、人質は見捨てられない。

 合理的に考えれば見捨てるのが最善だとしても、組織としては見捨てるわけにはいかない」

 

「市民にそっぽ向かれますからね」

 

「そういうこと。皆が求めているのは

 『自分がピンチの時に助けてくれる治安組織』

 だから、そう在ってくれない組織なんか要らないよってなるわけよ」

 

 ロッテは呆れた顔で肩をすくめる。

 力の無い人々の気持ちも分かる、だけど人質を取られて事件の時にまともに動けなかった記憶もある、そんな顔だ。

 

「最悪、この手の人間は悪の要求に屈して不利になる選択を選んでもいい。

 人質を取られたことを理由に、悪の言うことを一つだけ聞くとかね。

 まあ私個人の考えとしては、人質取られたからって要求に屈するのは論外だけど」

 

 古今東西、人質とは鉄板の戦術である。

 子供をさらって人質にし、身代金を要求する。

 銀行で人質を使い、警官隊の突入を抑制しつつ金を手に入れる。

 銃を片手に一般人を大量に確保して、テロリズム式に政府に要求を通そうとする。

 

 大昔から現代までなくなっていないということは、それだけ有効であるということ。

 ロッテもこんなことを言っているが、Kが人質に取られれば要求に従おうとするだろう。

 そして、人質を取った犯罪者の大半がなんだかんだで捕まっているのは、それに対する治安側の対策も練られているということなのだ。

 

「じゃあ先生。人質を見捨てないってのは当然として、幻想的な考え方ってのは?」

 

「諦めるな。

 終わらせるな。

 生存者を増やせ。

 可能性を増やせ。

 しっちゃかめっちゃかにしろ。

 最善の選択肢を、混戦の選択肢が上回ることもある。

 『どちらが勝つか分からない』状況なら、正しい信念を持ってる奴の方が強いからね」

 

「最後まで諦めないからですか?」

 

「そういうこと。我欲で戦う奴は、自分のためにしか頑張らない。

 でも他の人を想えば、その人のためと自分のためで、少なくとも二倍は頑張れる。でしょ?」

 

 "なるほど、幻想的だ"と少年は思った。

 ロッテが語る言葉は精神論、理想論でしかない。そこには何の保証もないのだ。

 だが、これを信じて戦わなければならない人間も居るという意味では、絶対に心の中に置いておかなければならない考えでもある。

 現実的でなく、夢のある、精神の在り方を基点にした考え方。

 それはまさに、幻想的だった。

 

「相性問題で考えてみな?

 悪人は人質とか、自由な手段を使えるから管理局員に対して強い。

 だから、悪は自分が優勢の時は強い。

 私達は人を生かすから、多くの人の支えがあって、ピンチに助けてもらえたりする。

 だから、悪とは逆に自分達が劣勢の時にこそ強い。ま、この辺は考え方の一つだけどね」

 

 ロッテは『皆が身につけるべき考え方』と、『人それぞれの考え方』、その二つを弟子に教えるタイプの師匠でもあった。

 正義の味方や法の味方がどう考えて動くべきかに、完全な正解はない。

 現実的な考え方でも、幻想的な考え方でもだ。

 答えはそれぞれが出すべきものである。

 

「私達に求められているのは、ただ勝つことだけじゃない。

 人質を犠牲にしてでも、悪を必ず倒すことでもない。

 人質を助けるために動きつつ、最後には必ず悪を倒すこと。肝に銘じておきなさいな」

 

 答えは自由。されど、揺らがしてはならない前提条件というものもある。

 

 少年期の記憶を思い返すのを止め、青年は現実に帰還した。

 

 想い出を浮かび上がらせながらの思考は一秒か二秒か、その程度だったろう。

 

「―――以上。皆、出来る限り通信は維持するんやで!

 急を要する事態なら自己判断、そうでなかったらロングアーチに連絡すること!」

 

「はい!」

 

「ほな、行っといで!」

 

 既にはやては六課の戦闘員達を出撃させ、司令部(ロングアーチ)と非戦闘員で前線の仲間をバックアップする体勢を整えている。

 Kの仲間達もまた、各々思うがままに移動先を見定めていた。

 市民がまだ逃げ切れていない地区で、またはガジェットだけしか居ない地区で、もしくは破壊され尽くした市街と基地の一角で、他にも地上部隊が戦っている場所などが対象となるだろう。

 

 そしてヴィヴィオに車椅子を押された青年が、チンクの声に応じ、皆に呼びかける。

 

「リーダー。まずはどこに向かう?」

 

「二人のおっさんを拾いに行こう。

 まずは味方サイドの不安材料を摘みに行く」

 

「了解した」

 

「順繰りに片付けるぞ。

 優先順位を間違えたら、どっかで躓きそうだ。

 一部の時間制限があるやつを後回し時間ギリギリに対処する形になるが、仕方ない。

 それじゃあ皆、打ち合わせた通りに。勝ってまた会おう! 気持ちよく勝とうぜ!」

 

 仲間達は応え、その各々が戦うべき場所に走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年、チンク、ヴィヴィオは道中でゼストを拾いながら地上本部へと向かう。

 『優先して倒さなければならない存在』として定義されたKを見つけたガジェットやラプター、戦闘機竜は一斉にこちらに群がってくるが、ここにはそれも苦にしない強者が二人居た。

 

「アギト、ユニゾンだ」

 

「オッケー旦那! ユニゾン・イン!」

 

 最高のコンディションのゼストと、融合機たるアギトが一つとなる。

 ゼストは無数に群がってくる雑魚には目もくれず、竜の一体を見据え、それに集中。ありったけの力で跳躍し、AMFの影響を受けないアギトの炎を槍に纏わせ、竜を溶断しにかかった。

 狙うは首。

 振り下ろされる槍。

 上がる絶叫。

 悶える竜。

 ユニゾンで倍加した力でも首を落とせなかったことにゼストは目を細めたが、返す刃で正反対の方向から首に斬撃を叩き込み、今度こそ竜の首を落としてみせる。

 

「IS発動、ランブルデトネイター」

 

 ゼストが雑魚に目もくれずに大物を狙うなら、雑魚を蹴散らすのはチンクの役目だ。

 チンクの力は、金属を爆発物に変える固有技能・ランブルデトネイター。

 彼女はこれを使い、銀のナイフを両手の指に挟んで六本同時に投擲した。

 AMFの効果を一切受けない大爆発が、小型ガジェットを吹き飛ばしていく。

 

 砲撃魔法に比するその威力に、ガジェットの装甲は耐えられない。

 砕け散ったガジェットの破片をチンクはキャッチし、空からのレーザーや地上からの銃撃を空舞うように跳んでかいくぐり、ラプターの首筋に破片をぶっ刺した。

 そして、起爆。

 細い首に爆撃を食らったことで、ラプターの首は胴体から離れて吹っ飛び、一瞬にしてその機能を停止した。

 

 ランブルデトネイターは、『金属を爆発物に変える力』だ。

 力の特性上、あまり大きな金属を武器に変えることは出来ない。

 だが、敵が金属兵器であるのなら、倒した敵すら武器に変えることができるだろう。

 今チンクが、体から離れたラプターの頭部を爆弾に変え、空の敵を一掃する大型爆弾として投げて起爆したように。

 

 機械兵器、特にAMFで人間が弱体化していることを前提とした機械兵器に対し、チンクはイベント特攻キャラに近い優位を保つことができるのである。

 

「遅れるなよ、騎士ゼスト」

 

『あ? ゼストの旦那に何言ってんだお前! お前の方こそ遅れんなよ!』

「気を付けておこう。チンク」

 

 怒るアギトの声を尻目に、背中合わせのゼストとチンクは冗談を交わし合う。

 そうして、遠距離技や炎熱付加のサポートが得意なアギトと、中距離戦において無双の強さを誇るチンクと、地上部隊最強の近接技能を持つゼストの共闘が始まった。

 

「私に気を使う必要はない。存分に戦え、騎士ゼスト!」

 

 チンクが愛用のナイフ、拾ったナイフっぽい形の金属片、Kが"捨てといて"と昔渡してきた何だかよく分からない刃物を次々投げて行く。

 それも、走って前に出るゼストと並行するようにだ。

 機械兵器のAIはその行動を読みきれない。先程のように爆撃してゼストごと一掃するつもりなのか、爆撃せずただの投擲攻撃を仕掛けてきたのか、既存データからは判断しきれなかった。

 

 だがチンクが仕掛けたのは、そのどちらでもない。

 チンクは爆発させるものと爆発させないもので分け、ゼストと常に念話で意思疎通することで、爆発攻撃と非爆発攻撃を織り交ぜる攻撃を仕掛けに行ったのだ。

 遠方からゼストを狙っていたガジェットが爆発で吹き飛び、ゼスト近くのラプターのセンサーアイに爆発しないナイフが刺さり、そのラプターをゼストが切り捨てていく。

 

「そうさせてもらおう、チンク。行くぞ、アギト」

 

『あいよ、炎熱付加重ねがけ!』

 

 機械兵器の視点では、どの金属が爆発するのかは全く分からない。

 ゆえに、全ての金属が爆発するという前提で動くしかない。金属片やナイフが刺さった仲間からは、無理をしてでも離れないといけなくなってしまう。

 そうして陣形がグズグズになり、機械兵器同士の隙間が空けば、そこに切り込んだゼストとアギトの独壇場だ。

 

『ぶった切れえ、旦那ぁ!』

 

 切り捨てられ、爆発に巻き込まれ、熱で融かされ、叩き壊されていく機械群。

 彼らがこの二人(三人)に勝ちたいのなら、高濃度AMFでゼストの能力が数ランク分ダウンしている今しかない。

 チンクと共闘しているのがゼスト一人しか居ない、今しかない。

 

 だが、ゼスト・チンク・アギトのチームにはまるで隙が無かった。

 この中の一人が孤立していれば、ガジェットが囲んで叩けば攻撃で圧殺することは可能だっただろう。しかし、三人揃った今死角はない。

 AMF下でも効果のある攻撃、すなわちゼストは近接物理攻撃だけを行い、アギトは炎熱付加と炎熱での遠距離攻撃を行い、チンクは中距離爆撃と中距離支援を行う。

 見ていて面白いくらいに、その攻勢は圧倒的だった。

 

「ほえー、すっごい……」

 

「ヴィヴィオの小学生並みの感想は心が安らぐな」

 

「小学生ですぅー! お兄さんもしかして私の歳忘れた!?」

 

「お前の誕生日ケーキに毎年ローソク立ててるの誰だと思ってんだお前」

 

 ゼスト達が切り開いた道を、青年と車椅子とそれを押すヴィヴィオが進む。

 瓦礫が散らばる道を最速で、かつ瓦礫を避けながら進むヴィヴィオの歩みは速くも遅くもない微妙なところであったが、露払い達(ゼスト達)の進軍速度から見るとちょうどよいくらいだったのかもしれない。

 

 かくして一行は、時空管理局地上本部に辿り着いた。

 

 地上本部は半壊していたが、それでも多くの人間が集まっていた。

 各支部や各基地が破壊されたからか、拠点を失った地上部隊がここに集まり、臨時戦闘部隊として再編成され各地に送り出されているようだ。

 空からのレーザー砲撃を何本も食らったせいか本部は原型も残っていないが、生存者達が瓦礫から機材を引っ張り出して組み上げて、急場しのぎに立てたテントの下で後方支援を行っている。

 重傷者の地上部隊員が回復魔法をかけられ、地上本部に殺到するガジェット達に立ち向かっていく姿は、今ミッドで戦っている時空管理局の総意を体現しているかのようだった。

 

 一行はダンボールで作られた急場しのぎの窓口でアポを取り、この状況で陣頭指揮を取っている一人に男に会いに行く。

 ヴィヴィオはその男とゼストが会った時、その男とゼストの間に不思議な空気が流れ、自分達が『部外者』として弾かれたかのような錯覚を感じた。

 

「レジアス」

 

「……ゼスト、か」

 

 "男と男の間に言葉は要らない"とでも言うかのように、レジアスはふっと笑う。

 ゼストの登場に危機感を覚えたのか、レジアスの娘にして実力で彼の秘書の座を勝ち取ったオーリス・ゲイズが二人の間に割って入るが、レジアスは娘の行動を手で制する。

 

「下がれ、オーリス」

 

「ですが」

 

「下がれと言っている」

 

「……分かりました」

 

 しぶしぶと去って行くオーリスに目もくれず、レジアスはゼストに歩み寄る。

 今にも何かが始まりそうな、破裂する寸前の風船のそれに近い緊張感がその場に満ちる。

 相手の顔に拳を届かせられる距離で、ゼストとレジアスは鋭い眼光をぶつけ合っていた。

 

「用件は分かっているな?」

 

「ああ」

 

 二人の言葉は、いつかこんな日が来ると思っていたかのように、その日に話すべきことを決め合っていたかのように、少しの揺るぎも感じられない。

 

「私は、私の責務を果たそう」

 

 Kと共に歩き出したゼストの後に続いて、レジアスもまた、その場を歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最高評議会の手の者しか知らない、最高評議会の脳が保存されているその場所に、レジアスに案内された者達が足を踏み入れて行く。

 『誰もこの場所を知らない』というセキュリティも、『選ばれた者しか扉を開くコードを得られない』というセキュリティも、レジアスの前には意味をなさない。

 レジアスは通信機で適宜地上部隊に指示を出しつつ、迷いのない歩みを進めていく。

 

『何を考えている、レジアス』

 

『そうだ。お前にはその者達の排除を命じた』

 

『ならば何故、貴様はその者達を連れてこの場所に来た?』

 

 誰も居ない廊下に、三人の最高評議会の声が響く。

 侵入者を撃退するための機銃が動くが、この場で機銃にやられかねないほど弱いのは非魔導師のレジアスと、車椅子の青年のみ。

 レジアスはゼストが、青年はヴィヴィオが守ることで事なきを得た。

 機銃は破壊され、スピーカーからの声にレジアスはいつもの重厚な声で返答を紡ぐ。

 

「既に答えが分かっているというのに聞くことを愚問と言うのではないか? 最高評議会」

 

『おのれ、レジアス……裏切ったか!』

 

『いつからだ!』

 

 そう、つまりはそういうことだ。

 世間一般ではソーシャルゲーム管理局とは犬猿の仲、不倶戴天の敵、どこかで殺し合ってそうだとまことしやかに語られているレジアス・ゲイズ。

 彼は裏で、ソーシャルゲーム管理局と繋がっていたのである。

 敵対関係を演じ、内通を隠す。

 大昔から伝わる理想的な背信の一手として、現代においても使われているものだ。

 

「裏で私がこの者に資金援助を行っていた話でもするか?

 それとも、この者達が動きやすいようこまめに調整を行っていた話でもするか?

 それとも、ホテル・アグスタでこの日のために裏で情報共有をしていた話でもするか?

 あの日、海と陸と教会とソーシャルゲーム管理局の間で情報共有が行われていた話だ」

 

『貴様……!』

 

「背信がここ十年の話だと思うな。貴様らが思っているよりも、ずっと前からだ」

 

 ホテル・アグスタでは直接的に顔を合わせていなかったかもしれない。

 二つの部屋に分かれて話しており、両者の関係は最悪だと誰もが思ったかもしれない。

 が、"ずっと近い距離に居た"のだ。

 部屋に居た時も、ホテルを脱出する時も、言い方を変えれば部屋一個分も離れていない位置に両者は居た。

 意思の疎通、人知れず情報の伝達を行うことは、そう難しいことではなかっただろう。

 

 上位者としてレジアスを監視していた最高評議会も、スカリエッティの襲撃が予定されていたあの日までは、レジアスを監視しきれなかったということだ。

 

『そうか、分かったぞ。

 戦闘機人とガジェットでゼスト隊を全滅させようとしたあの日。

 何故あの時、ゼストの危機をその男がどこで知ったのか、ずっと疑問に思っていた』

 

 スピーカーが車椅子の青年とレジアスの方を向き、最高評議会の一人が忌々しげにうめく。

 

『! そうか!』

 

『レジアス、貴様が情報を漏らしていたのだな、

 ゼストを救い、その部隊ごと時空管理局を脱退する流れを作るために……!』

 

「そうだ」

 

 ティアナが見た、あの日のゼスト隊と戦闘機人の戦闘記録からもその事実は明白だ。

 ゼスト隊に、シュテルの砲撃を予測していた者は居なかった。

 戦闘機人側に、シュテルの砲撃を予測していた者は居なかった。

 だからこそ、あの一撃は奇襲として成立したのだ。

 

 ならば、『誰がゼスト隊に仕掛けられた罠の情報を漏らしたのか』という話だ。

 

 ゼストはエリオに言った。

 "レジアスは裏切り者だ"と。

 が、誰にとっての裏切り者であるかは言っていない。そんな詐欺。

 

 レジアスは、ゼストを裏切ってなどいなかったのである。

 

『貴様とその男は、犬猿の仲であったはずだ。

 ソーシャルゲームを残すために、規制と補助を行う男。

 ソーシャルゲームを社会から排除するために、政治的に動く男』

 

『貴様らは正反対の人間であったはずだ。なのに、何故……』

 

「勘違いするな。この男と儂は、あくまで一時的に共闘しているに過ぎん」

 

「まあ、そういう感じなんだわ」

 

「隣に居ることすら気に食わん。この男は人と社会に堕落をもたらす人間だ」

 

 最高評議会が課金青年と課金嫌いの中年、二人に言葉をぶつける。

 だが、返って来たのは酷く嫌悪感の混じった言葉であった。

 レジアスは現在進行形でこの課金厨を嫌っている。

 自分がポケットマネーで支援金を出しても、それを戦闘に使う前にソシャゲで使い切ったりすることがあるような、この青年を嫌っている。

 その嫌悪自体はしょうがないと言えばしょうがないのだが、裏で内通していたということを考えると、その仲の悪さには違和感すら感じた。

 

「私は寛容になどなれん。

 嫌いなものは嫌いだ。

 真面目に生きている人間が好きだ。

 社会に有害なものは何が何でも弾くべきだと考えている。

 この課金厨でソーシャルゲーム廃人という救いようがない男も、嫌いでしょうがない」

 

 唾を吐き捨て、されど課金青年と肩を並べて歩くことだけはやめないレジアス。

 

「だが、自分が唯一絶対に正しいなどと思ったことはない。

 私が救えないものの中に、この男だけが救えるものもある。そのくらいは認めている」

 

「見ろヴィヴィオ、これがおっさんのツンデレだよ」

「ほへー」

 

『……貴様がその男を認めていたとは驚きだ。ゆえに説き伏せられたか?』

 

「違う。私が貴様らに反逆すると決めたのは、この男が原因ではない」

 

 最高評議会とレジアスは互いだけに向けて言葉をぶつけ合っている。

 そして会話に一区切りが来たこの瞬間に、彼らはとうとう最高評議会の部屋に辿り着いていた。

 広々とした部屋。

 明かりはなく、"目のある人間"がここで暮らすことを想定していないかのように暗い。

 そこにあった脳味噌が浮かんだ透明な三つのカプセルが、おそらくは時空管理局最高評議会の正体なのだろう。

 カプセルに充填された魔力混じりの保護液がじんわりと漏らす魔力光、チンクが勝手に閉じないよう開けたまま抑えているドアからの光が、部屋に差し込む数少ない光だった。

 

 部屋は真ん中に透明な壁があり、それで二つに仕切られている。

 防弾性能等が高い透明な壁だ、とゼストは即座にそれの正体を見抜いた。

 この施設の主である三つの脳は、侵入者を遮る壁を用意していたようだ。

 壁は声すらも遮断するようで、三つの脳の言葉はスピーカーからしか届かず、レジアス達の声もスピーカー越しにしか向こうに届かないようになっているらしい。

 

 レジアスは最高評議会との対面にも心動かさず、話を続ける。

 

「最高評議会。ジョン・マッケンジーのことを覚えているか?」

 

『……いや、記憶に無いな』

『覚えていないが、それがどうかしたのか?』

『全員が認識しているわけでもない人間が、我々の話に関係があるのか?』

 

「もう、ずっと前……十年以上、前のことだ」

 

 ドアを抑えながらレジアスを見ていたチンクが、車椅子を押しながらレジアスを見ていたヴィヴィオが、同時に驚いた顔をする。

 昔話をし始めたレジアスから覇気が消え、表情から険が取れ、顔に懺悔が滲む。

 すると、レジアスの顔が、二十年分は老けて見えるようになったからだ。

 実年齢以上に若々しく見えていたレジアスが、実年齢以上に老けて見えるようになった変化は、二人の少女の心に大きな動揺をもたらしていた。

 

「ジョン・マッケンジーという少年が居た。

 孤児院出身の幼い子供だった。魔導師としても優秀な、地上部隊の人間だった。

 頑張っていた子供だった。周囲が心配するくらいの努力家だった。

 働くことで自分を肯定していた人間だった。

 仕事の中にこそ、自分が生きる意味を見出していた子供だった。

 成果を出して初めて、自分を肯定できる少年だった。

 もっとも、儂は又聞きでしかその少年のことを知る機会はなかったのだがな」

 

 レジアスが言葉の合間に吸う息の音すらも、その場の空気を緊張させていく。

 誰もが茶々を挟めない、余分な言葉を挟めない、そんな空気。

 

「少年の心はギリギリで、少年は自らの心を救ってくれる娯楽を求めた。

 そして運悪く、底なし沼の娯楽に手を出してしまった。

 "娯楽に対する自制心"が育っていない者はどっぷり熱中してしまう沼にだ。

 ソーシャルゲーム……それに、時間も金も吸われ、少年は真面目な勤務姿勢すら損い始める」

 

 それは、レジアスを変えた一人の子供の話。

 レジアスが会ったこともない、話したこともない子供の話。

 

「そして、少年は自殺した。

 吸われる金、吸われる時間、始まる借金。

 仕事にも支障が出始め、失われていく職場の信頼。

 徐々に寝不足などの要因で成果を上げられなくなり、自己嫌悪が加速する。

 やがて、少年は自分を肯定できる要素を全て失い、自殺した。麻薬中毒者の末路のように」

 

『……ああ、思い出した。

 我らの管理局のイメージダウンに繋がるからと、世論を調節した覚えがあるな』

 

「ああ、そうだ。貴様らは徹底して、"あの少年の自己責任だ"と世論を誘導した」

 

 少年の責任であれば、時空管理局のイメージダウンには繋がらない。だから、そうした。

 

「儂も、その世論誘導に参加し……

 そのくせ管理局のイメージ維持のためだけに、ジョン・マッケンジーの葬式に参列した」

 

 レジアスの言葉には、自己嫌悪と、懺悔と、そして何よりも大きな後悔が込められていた。

 

「そして、見た。

 子供の葬儀で泣く、我が娘の姿を。

 その少年の死に泣く、少年の同僚達の姿を。

 幼い子供が自殺したというだけで、心から悲しむ者達の姿を」

 

 数字の上ではたった一人の死人だった。

 文字の上では『子供』という二文字の死人だった。

 だが、実際に葬儀に参列して見たものは、書類を見ているだけでは絶対に知ることの出来ないものだった。

 

「そして、知った。

 その時初めて知った。

 自殺するほど追い詰められたその子供は、娘が教導していた者だったのだと。

 自制心こそ足りなかったが、誰よりも優しく、皆に好かれる子供だったのだと。

 儂は何も知らなかった。

 何も知らないままに、管理局のイメージを守るため、子供の死後の尊厳を踏み躙ったのだ」

 

 少年に自制心がなかったのが悪かったのだと、そう皆が思うように仕向ける世論の誘導に、レジアスは加担した。

 死人の尊厳ならば踏み躙っても構わないと、生者の助けになるのであれば死者などどうとでも使ってやるのだと、そう思ってすらいた。

 子供を踏み台にするという行為に、書類上での処理なら心痛まないほどに、その時のレジアスは汚れきっていた。

 だから、してしまった。

 それが、レジアスの心を生涯苛む後悔となる。

 

『自制心がないから自ら死を選んだ。

 そんな悲劇であろうな。

 だが実際に、ちゃんと自制心を持っている真面目な子供の管理局員の方が大多数――』

 

「違う。自死ではない。殺したのは"儂達"だ。

 最高評議会(きさまら)が愚物から金を吸い上げ、還元する構図を提案した時、儂は同意した。

 真面目に生きている市民に還元できるのであれば、それが最善であると思ったからだ。

 それが回り回ってこんな悲劇を生んだのであれば……我々こそが、殺人者なのだ」

 

 反吐を吐くように、レジアスは透明な壁の向こうの脳に向かって、言葉を吐き捨てる。

 

「自殺とは、自分で自分を殺すのではない。

 大抵の場合、他人に、環境に殺されるのだ。

 周囲が自分に与える苦しみが、死の苦しみを超えるから自殺するのだ。

 自殺も殺人だ。苦しみを消し去るために、"自分を最も苦しめている者"を殺すのだからな」

 

『……』

 

「あの子供が手を差し伸べられていれば。

 どこかで法の強制力が発動し、あの子供を止めてくれていれば。

 そう思わずにはいられない。

 私は、儂は……地上の正義の守護者だなどと言われながら、あの子を殺すことに加担したのだ」

 

 あの子を救えなかった、とレジアスは言わなかった。

 子供を守れなかった、とレジアスは言わなかった。

 もしもあの日に戻れたなら、とレジアスは言わなかった。

 そんな"いい言葉"で自分を飾り立てることを、他の誰が許したとしても、レジアス自身が許せなかったから。

 

「魔導師の子供は、早くから子供顔負けの倫理観や人生観を備えることが多い。

 悩める普通の二十代の青年より、年齢一桁の魔導師の方が老成していることもザラだ」

 

 レジアスは、海と呼ばれる次元航行部隊が嫌いだ。有能な人間をガンガン地上から引き抜き、地上の治安悪化の遠因となっているからだ。

 それも仕方のないことなのだが、レジアスは公的にそれを認めつつ私的にそれを恨んでいる。

 だが、嫌いな理由はそれだけではない。

 最近の海が、『力を持つ人間を集める』ことに執心するあまり、何か大切なものを忘れているような気がするからだ。

 

 レジアスは、レアスキルが重要視される風潮が嫌いだ。

 非魔導師なのに有能で出世頭なレジアスは、魔導師から見下されることが多かった。つまりはそれが転じた劣等感、というのが大きい。

 レアスキル持ちの子供に大きな責任を放り投げ、ホッとした顔で大人が胸をなで下ろすという構図が、レジアスは嫌いだった。

 

 ゆえに彼は、間違った私情と正しい信念が混ざった理屈で、口汚く彼らを罵ったりもする。

 

「だが、時空管理局には暗黙の了解がある。

 子供が頑張っていても、子供一人に全てを丸投げしないこと。

 周囲の大人ができることをし、経験を伝え、分かることを教え、子供を支えることだ」

 

 レジアスは大切なことを、ちゃんと分かっている。

 けれど、一つの大切なことを重視するあまり、他の大切なことをよく見失ってしまう。

 そして、間違えてしまう。

 その先にあるのは、大きな後悔だけだというのに。

 

「でなければ、どこかで破綻するからだ。

 時空管理局の根底には助け合いの精神がある。

 力が無く経験のある大人を、力があり経験の無い子供が助ける。

 力があり経験の無い子供を、力が無く経験のある大人が支える。

 全ては支え合いだ。それは、非魔導師でありながら中将となった私もよく分かっている」

 

 魔法を使えない身でゼストを始めとする魔導師に支えられていたレジアスには、魔法を使えない身でゼストを始めとする魔導師達を支えていたレジアスには、その信念が根底にある。

 でなければ、非魔導師で口が悪いレジアスが上に立つことを、周囲が認めるものか。

 

「あの葬儀で。

 首を吊って死んだ子供の葬儀で。

 その子供が死ぬまで、何も気付かなかった儂は、手洗い場で自分を鏡で見返した。

 言葉にしがたいほどに、その時の儂の顔は醜かった。

 子供の死を招き、子供の尊厳を踏み躙り、厚かましくもそれを後悔している顔だった」

 

 レジアス・ゲイズは間違った。

 どこかで何かを間違えた。

 だから、その時―――レジアスは、鏡の向こうに、歩みを止める自分を見た。

 

「鏡の向こうの自分が、鏡のこちらの自分に、憎しみの視線を向けていた」

 

 鏡の向こうの自分は、偽りのない自分に他ならない。

 地上の正義の守護者と呼ばれた彼は、正義をこの地上に維持するために、治安を維持する人と金を集めるために、人知れず何かを踏み躙ることを、迷わず行うことができなくなっていた。

 

 そしてレジアスは、かつて迷いなく信じていた自分の信念を語り始める。

 

「市民を守る手段が悪しか無いのなら、悪を成そう。

 善でも悪でもいいのなら、善を選んで守るだけだ。

 善も悪も、平和を掴むための手段でしかない。

 そして悪を成したなら、それは絶対に隠蔽する。

 市民が、善により守られ、善として生きるのが当然であると、しかと認識できるように」

 

 懺悔するように、かつて迷いなく信じていた信念を語る。

 

「悪を成したことが露見したならば、責任を取って辞めもしよう。

 だがそれまでは、罪を重ねようがやるべきことをやる。

 それが為政者というものだ。

 それが善であれ、悪であれ、市民のために、市民に出来ないことをする。

 それが、儂に課せられた責任だ。……責任であると、信じていた」

 

 後悔するように、かつて迷いなく信じていた信念を語る。

 

「必要ならば、休みなど取らん。休みなく働き続けよう。

 金など要らん。欲しいものは、この地上の平和だけだ、

 この命さえ惜しくはない。

 それが、地上の平和と安寧を預かっている儂の果たすべき責任であるからだ」

 

 血を吐くように、かつて迷いなく信じていた信念を語る。

 

「時空管理局員レジアス・ゲイズという存在が終わる、その時まで、儂は走り続ける」

 

 いつまでも信じられていたら、泥にまみれたまま前に進む覚悟を貫けていれば、それはそれで幸せだったかもしれないのに。

 彼はいつの間にか、泥中の蓮ですら踏み潰してしまっていた。

 

「そう考えていた。

 もう止まれないと思っていた。

 ……だが、いつの間にか儂は、足を止めていた。疲労感に呑まれた心は、もう動かなかった」

 

 泥の中で立ち止まってしまえば、後は沈んでいくしかない。

 

 レジアスは後悔からか、あの子供の葬儀の日から、自分自身を見つめ直し始めた。

 

「完全に自由な社会は遠からず崩壊する。

 それは人間の歴史が証明していることだ。

 麻薬の所持、武器の所持、犯罪の自由……完全な自由が許されてしまえば、社会は終わる」

 

 そして、進んでいたはずの道を見失い、何が正しいかを定義していく内に、進む道を見失いながら目指す場所を定義するという状態に陥ってしまった。

 

「社会から弾くべきものは弾くべきだと、私は考える。

 規制と制御が存在しない自由社会など存続できるわけがない。

 その時から、なのだろうな。

 悪質になり始めたソーシャルゲームを、ミッドチルダから根絶しようと思い始めたのは」

 

 進むべき道を完全に見失いながらも自分を取り戻したレジアスは、その時から課金王である彼と『仲間』になれないことを決定付けられていた。

 社会のために規制を持ち込み、ソシャゲを排除しようとするレジアス。

 ソシャゲのために社会に影響をもたらす立場を選び、ソシャゲを規制し援助するK。

 二人は正反対で、相反する水と油でありつつも、違う絵柄が書かれたコインの裏表でもある。

 

「屍が、見えた気がした。

 儂が今まで踏み躙って来た全ての者が、生ける屍となる夢を見るようになった。

 儂にすがりつき、恨み言を言いながら、地獄に引きずり込もうとする亡者どもの夢だ」

 

 違う点があるとすれば……いつだってKの傍には誰かが居てくれていたが、その時のレジアスが頼れる相手は、誰一人として居なかったということだろうか。

 死んだ少年との関係を考えれば、彼は娘に頼ることもできなかっただろうから。

 

「悪夢を見て、儂も老いたと感じたものだ。

 弱気になることなど、ずっとなかったはずだったのにな」

 

 今まで地上の平和のために踏み躙って来た人間が、ミッドチルダの未来のために政争で徹底して潰して来た無能な敵対派閥が、最大多数の最大幸福のために犠牲にして来た者達が、夢に出て来て自分を責める。

 それで気を病まなかったレジアスは、まさしく豪傑と言えるだろう。

 だが、迷いは生まれた。

 迷ったレジアスは、かつての自分の行動をなぞるような行動を取った。

 

「だが、ひとたび迷えば、儂は……ゼストと、共に理想を語った友に、会いたくなってしまった」

 

 かつてレジアスが間違えた時、ゼストは体を張ってレジアスにそれを伝えた。

 かつてゼストが間違えた時、レジアスは理屈をもってゼストにそれを伝えた。

 片方が間違えば、もう片方がそれを伝える。

 そんな約束があった。

 

 二人で互いを見張り合えば、いつまでも間違えず理想を追って行くことができる。

 ゼストとレジアスは、若き日に酒を飲み交わしながらそう語り合ったものだ。

 馴れ合いすぎない、相手に嫌われることも承知で間違いを指摘し合える、確かな友情。

 だからこそ、迷うレジアスが最後に頼るのは、ゼスト以外にありえない。

 

 どこの世界でも同じだ。

 ゼストとレジアスは、自分一人では最善の道を進めない。

 どこかで間違ったり、どこかで大切な人を死なせてしまったりする。

 けれども、二人で話し合えている内は、最善の道を進むことができるのだ。

 この二人が分かり合えている内はこの二人に悲劇は起こらず、この二人にすれ違いが発生した時にこそ、この二人の破滅の運命は確定する。

 

 それゆえに、レジアスがゼストに相談しに行ったその時に、二人の運命は変わったのだ。

 

「ゼスト、儂は……何か間違ったのか?

 何を間違えたのだ? それとも、何も間違えていないのか?」

 

 レジアスはその日に、最高評議会などの部分は伏せ、話せる部分だけを話した。

 それを話せば、地獄の道連れにしてしまうと思ったからだ。

 ゼストは肝心要の部分が抜けた話を聞かされても、レジアスの苦悩がどこにあるかを的確に見抜き、親友としてレジアスに語りかける。

 

「レジアス。お前は子供の頃、どんな未来の社会を思い描いていた?」

 

「お前は若かった頃、どんな時空管理局であって欲しいと願っていた?」

 

「お前の理想が本当に求めていたものはなんだ?」

 

「お前は理想を実現させるために平和を求めているのか?

 それとも、平和のために自分の理想を切り売りしているのか?

 お前は、平和でない社会があったから平和を求めたのか?

 お前は、平和でない社会で犠牲になる者を見て、平和を求めたのではなかったのか?」

 

 もっと説得力のある言葉があるかもしれない。もっとレジアスにぶつけるべき言葉もあるのかもしれない。もっと理想的な言葉もあるかもしれない。

 だが、レジアスに必要だったのは、ゼストの言葉だ。

 他のどんな言葉より、ゼストの言葉はレジアスの心に染みた。

 

「……お前は昔から、一人で抱え込みすぎるとロクな結論を出さん。

 犠牲にしたくないと思っているものまで、自分の意志で犠牲にしてしまう。

 もう少し、俺を頼れ。地獄の底まで共闘してくれと言われても、俺は拒まん」

 

「―――」

 

 かくして、過去のレジアスは心に変革を起こした。

 

 最高評議会に反乱するために人知れず手を打ち始め、その過程で大嫌いな課金厨の男とすら手を組み、手を汚す汚名にじっと耐えながら、今日という日を待ち続けた。

 

「あの日ゼストと話し、思い出したのだ。

 儂は……『これが現実だ』という言葉が嫌いだった。

 『どうしようもない、しかたない』という諦めが嫌いだった。

 だから、この手を汚してでも、綺麗な理想を現実にしたいと、そう思ってしまったのだと」

 

 地上部隊には、レジアスの求める治安水準と平和を維持できるだけの質が足りない。

 数を集めてもダメなのだ。

 質が足りなければ、強い犯罪者は倒せない。

 だから彼は、仕方ないとはいえ人を引き抜く海を罵り、法律的にギリギリな魔導砲・アインヘリアルを強引に製造し、人道を無視して戦闘機人の量産をスカリエッティに急がせた。

 

「この手と共に、理想を汚していることにも気付かずに」

 

 レジアスは、この上なく間違えた。

 綺麗な理想を掲げたまま、汚れてしまった。

 レジアスは、この上なく後悔した。

 彼が踏み躙った子供の死が、彼を変えた。

 ゆえにレジアスは今、この上なく強い意志をその目に宿している。

 

『お綺麗な理想だな。

 だが、理想だけではどうにもならないと、お前自身がよく分かっているはずだ。

 人材不足はどうする?

 我らに反乱し、我らの助力を拒み、ダーティな手段を全て放棄し……

 それでどう地上を守る? 戦闘機人の量産と兵器使用こそが、お前の希望だっただろうに』

 

『お前は罪悪感に耐えられなくなっただけだ』

 

『理想を追うのであれば、在り方を変えず、その苦しみを乗り越えるべきだった』

 

 最高評議会は、事実をぶつける。

 その言い分に正義は無いが、正論のように部屋の中に響き渡った。

 近年、世界をいくつも同時に吹き飛ばすような危険物『ロストロギア』の危険性への理解度が高まったことで、海の部隊規模が拡張され、地上部隊の有能な人間が海に引き抜かれる事態も無視できない規模になってきた。

 

 それでもなお、世界を複数個吹き飛ばすようなロストロギアが次元世界に散らばっているという現状に対応するためには、海の戦力は数質共に足りていない。

 地球で起きた事件だけを見ても、それは明らかだろう。

 だがしかし、海に人員を引き抜かれた地上の治安が悪化していくというのも、地上部隊……ひいては時空管理局が解決しなければならない案件である。

 

 レジアスが在り方を変えた。

 それはいい。

 だが、現状ミッドチルダを蝕んでいる問題は何も解決していないのだ。

 

『スカリエッティが起こした今日の事件で、治安は更に悪化するだろう。

 貴様がその手を汚さなければ、市民が負担を被るだけだ。

 貴様が綺麗で居たいという我欲のせいで、市民が苦しむことになるのだ。

 まさに今この時こそ、戦闘機人を"物"として使いこなす手腕が求められているのではないか?』

 

『人材不足はどうにもならんぞ』

 

『本当にそれでいいのか? レジアス・ゲイズよ』

 

 レジアスはかつて、地上の戦力不足を人造魔導師や戦闘機人の量産によって補おうとし、最終的に戦闘機人の量産という方向性で問題を解決しようとしていた。

 逆に言えば、今すぐにでも地上の問題を解決するには、それだけの非人道的手段に走る必要があったということなのだ。

 

 チンクが眉をひそめる。

 戦闘機人である彼女からすれば、かつてレジアスが抱いていたミッドの守護構想や、今最高評議会が口にしている内容は、不快極まりないものなのだろう。

 だが彼女は、黙ってレジアスの背中を見つめる。

 レジアスの言葉を待つ。

 チンク以外の皆が、そうしているのと同じように。

 

「儂はもう決めた。貴様らに何を言われようが、揺らぐことはない」

 

『何を決めた? 諦めることか?』

 

「違う。次に託すことだ」

 

『―――何?』

 

 その言葉が。

 

 レジアスのことを一から十まで理解していると、そう驕っていた最高評議会の思考を停止させ、その心を驚愕で満たした。

 

「……40年。儂が管理局に入ってから40年。

 入局から今日まで、平和のために己が全てを捧げる日々だった。

 妻と出会い、娘を授かり、妻と死に別れた。

 ゼストと会い、頼れる仲間が出来、それなりに使えると認めてやれる部下も出来た。

 死んだ同期も居た。市民に感謝されたこともあった。手を汚したこともあった。

 長い……長い日々だった。だが、それは、儂にとって長い時間であったというだけだ」

 

 レジアスはどこか、吹っ切れたような語調で語る。

 

「聞けば貴様らは、何百年と平和のために尽力してきたという。

 それでもなお、最高評議会として目指すべき場所には到達していないという。

 なら、もっと早くに気付くべきだったのだ、儂は。

 ……たかが数十年の尽力で、地上に儂の望む平和をもたらすことなど、できるはずがないと」

 

『……!』

 

「驕っていたのだ、儂は。

 儂が定年で管理局を去る前に、理想の光景をこの地上にもたらせると信じていた。

 自分がやらなければ他の誰にもできないと、思い込んでいた。

 手段を選ばなければ平和を掴めるはずだと、自分に言い聞かせていた。

 だが、そうではない。そうではないのだ。

 人一人の尽力で平和をもたらせるほど、人が生きる世界は狭くも、安くもなかった」

 

 多くの人が生きる世界。

 様々な思惑が絡む世界。

 善も悪も混じった世界。

 この世界は一人が頑張っても、三人が必死に長生きして頑張っても、『それだけ』で理想的な形になるほど簡単にはできていない。

 レジアスや最高評議会のかつての尽力が平和にいくら貢献しても、レジアスと最高評議会の理想が現実にならないのは、つまりそういうことなのだ。

 

 そこに平和をもたらすため、ひとりぼっちで醜い手段を駆使していたレジアスも、長い時を経てようやく妄執の沼から抜け出すことができた。

 

「なんてことはない。

 儂が愚かな手段に走ったのは……

 絶対に不可能なことを無理矢理可能な事にしようとした歪みが、そこにあったからなのだ」

 

 誰にも頼れない人間に、誰にも後を託せない人間に、幸福な終わりはありえない。

 

「儂は『次』に託す。

 ここからは後継者を育て、儂のノウハウの全てを叩き込むことも考える。

 そして儂のノウハウの全てを伝えた後、最後に儂の理想と夢と信念を託そう。

 全てを託せる若者が居ないだなどと愚痴りながら、誰も信じない日々はもう辞めだ」

 

『レジアス……!』

 

「これから儂は力尽きるまで、この地上の平和のために尽力しよう。

 そして行き着いた道の果てに、儂の理想を継いでくれる次の誰かに、平和を託そう。

 儂の命一つでは足りなくとも、託した次の誰かが頑張れば、あるいは届くかもしれん」

 

 レジアスは、自分一人では地上に平和をもたらせないと理解した。

 レジアスの後継者が地上に平和をもたらせるかは分からない。

 後継者の後継者の代になっても、それはできないかもしれない。

 

 けれどもいつか、"レジアスが夢見た地平"に辿り着く日が来るかもしれない。

 同じ場所を目指し、人から人へバトンが繋がれ、前に進み続けて行けるなら……辿り着けない場所(ゴール)など、無いはずだから。

 

『次の者に託す、などと……』

 

「命とは、人間とは、そういうものだろう?」

 

『―――!』

 

 これがレジアスの出した、彼の人生という問いへの答え。

 

「これが儂の答えだ。後に託せる誰かを見つけられなかった、哀れな老害どもよ」

 

 そして、後に託せる誰かを見つけられず、世界を平和にしなければ安心して死んでいくこともできず、脳だけになっても世界の平和にこだわり続ける最高評議会への、痛烈な皮肉だった。

 

『貴様は、貴様は、諦めただけだ……!』

 

「違う!

 正義は勝つ、悪は滅びる!

 無辜の民は傷付かず、何も悪いことをしていない人間は苦しまない!

 そうであって欲しかった! 現実はそうではなかった!

 儂も貴様らも同じく、それゆえ理想を目指し、どこかで間違え、道を外れた人間だ!」

 

 彼らはどこかで間違え、道を外れただけで、目指したものは美しかった。

 掲げた理想は綺麗だった。

 彼らは生半可なことでは諦めず、一度や二度の挫折ではへこたれない。

 

「だから我々は、夢見た光景を見ることはない。

 我らが夢を叶えることはない。

 儂も貴様らも本当に求めたものを手にすることもなく、夢半ばで未練を残して死んでいく」

 

 ならば、彼らの行動の報いとして与えられる、最大の罰とは何か?

 

「受け入れなければならないのだ、その現実を。その罰を。

 それが……いつしか『悪』と変わらぬものになってしまった我々が受けるべき、罰なのだ」

 

 それは平和と幸福を世界に満たすことができず、見知らぬ誰かが不幸になる現実を嘆きながら、自分の手で平和を掴めない終わりに至るということに、他ならない。

 

『認められるか! そんな結末など、そんな終わりなど―――』

 

「受け入れなければならんのだ。我らは、この手を汚したのだから」

 

 終わった、と誰かが思った。

 最高評議会の中にも、もはや喋る気力を失い、全てをあるがまま受け入れている者も居る。

 レジアスに食ってかかっている者も、レジアスの言葉に共感してしまったのだろう。

 その言葉には、悪足掻きやヤケクソに近い感情が見える。

 

 最高評議会は確保され、どこかで然るべき法の裁きを受けるだろう。

 脳だけになっても、管理局法に則れば人権は保証されるはずだ。

 どこかの田舎で、世界の命運に関わらないまま、余生を過ごす終わりを迎える。

 それが、彼らには最大の罰となるだろう。

 

 罰となる、はずだった。

 

「え?」

 

 最高評議会の脳が浮かぶカプセルの後ろに女性の姿が見えて、ヴィヴィオは思わず声を漏らす。

 

「なっ」

 

 そして、女性の姿がふらりと消えて、カプセルが割れた。

 

『な、何事だ!?』

 

 割れたカプセルから、保護液が流れ出す。

 脳だけになった最高評議会が空気に触れれば、それだけで彼らは死に至るだろう。

 いや、そうでなくても、保護液流出の過程で脳がほどければ、割れたカプセルの端に脳がぶつかれば、それだけで即死に至るはずだ。

 

「ゼスト!」

「分かっている!」

 

 この状況に最も早く反応したのは、戦士として優れているチンクとゼストだった。

 チンクがナイフを投げ、ゼストがそれを槍で叩き、透明な壁に食い込ませる。

 

「起爆!」

 

 そして時間差で、ナイフを爆破した。

 プラズマによる岩盤破砕技術――いわゆるPAB工法――に似た物理作用が、透明な壁に埋め込まれたナイフの爆発制御によって実現。強固な壁は、一撃にて砕け散る。

 爆発と爆風が、Kの前髪を揺らしていた。

 

「無事ですか、マスター!」

 

「あ、シュテルさん!」

 

「マスターが危ない気がして、来てしまいました。しかしこの状況は一体……」

 

 そこに、シュテルが飛び込んで来る。

 ヴィヴィオが喜びの声を上げ、ゼストやチンクが安堵の息を吐いた。

 先程最高評議会のカプセルを割った人間が誰かは分からないが、これで戦力的な不安は無くなった、という安心感が雰囲気に出ている。

 シュテルは心配そうな顔で、車椅子の彼に歩み寄る。

 

 そしてKは、自分が今使える魔力の全てを拳に握り込み、シュテルの鼻っ面に叩き付けた。

 

「がぶっ!?」

 

「!?」

 

 殴り潰すような右ストレート。叩き付けられる金属の義手。鼻が折れる音がした。

 周囲の驚愕をよそに、青年は吹き飛んだシュテルを鼻で笑う。

 すると、シュテルの顔が折れた鼻を中心に崩れ、顔だけでなく体格までもが変貌していく。

 彼女の名はドゥーエ。

 骨格や皮膚ですら自由自在に変化させられる、変幻自在の工作員たるナンバーズだ。

 やがて崩れた顔の下から、先程最高評議会に攻撃を仕掛けた女性のシルエットに近い顔が出て来た。女性は焦燥を顔に浮かべながら、声を荒げる。

 

「な、何故分かったの!?」

 

「いや、うちのシュテルはもうちょっと可愛いし」

 

「そ、そんなわけない……!

 私の固有技能、ライアーズマスクは、容姿を完璧に模倣する技能!

 写真で撮影した姿以上に本人に近い容姿を作れるのに、見抜けるわけが……」

 

「じゃあ心がシュテルよりブサイクだったんじゃねえの?」

 

「―――!?」

 

「シコリティセンサーを使うまでもねーわ。あだち充の主人公とヒロインを見習え」

 

「こ、この男っ……!」

 

 ドゥーエが激怒し、爪の武装を展開。

 暗殺しようという思惑を投げ捨て、この煽りばっかり達者な課金厨を殺さんとした。

 が、そこに無慈悲に刺さるカウンター。

 車椅子を押していたヴィヴィオが咄嗟に前に出て、ドゥーエが前に踏み込んだ力さえも利用し、えげつないカウンターをドゥーエの顔面中心にぶち込んだのだった。

 

「し、しまったつい、お兄さんと同じポイントにフルスイングのオーバーハンドを……」

 

「いいパンチだヴィヴィオ。お兄ちゃん嬉しいぞ。お前の右は世界を獲れる」

 

「今のところ獲る気無いよ……」

 

 ドゥーエ、戦闘不能。

 気絶した戦闘機人No.2はピクリとも動かない。

 青年は車椅子に肘を預け、今襲ってきたばかりのドゥーエを即座に思考から追い出し、割れたカプセルと死にかけの脳を見る。

 

(マズいか)

 

 少しばかり、青年の心に焦りが湧いて来る。

 間に合うか、と青年は思った。

 そして部屋の中に新たに駆け込んできた二人を見て、間に合った、と青年は思った。

 

「お待たせしました!」

「おまたせや!」

 

「! いや、ギリギリ間に合ったぞ、二人とも!」

 

 そして、『彼らの最後』が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヴィエ様の背中に、クラウス様の背中に、エレミア様の背中に、そしてベルカ様の背中に。

 私は憧れた。

 私達は憧れた。

 ああなりたいと、そう思った。

 彼らのような英雄になれなくても、彼らのように人や世界を救える人間に、人や世界が救われる結果に繋げられる人間に、誰かに優しくなれる人間になりたいと、私達は思っていた。

 

 人を許さない人が居た。

 罪人がいくら反省しても、罪を償っても、許さない人が居た。

 何も関係ない第三者の中に一番多く、罪人を許さない人達は居た。

 彼らは罪を犯した者が幸せになることを許さなかった。

 『罪人は罪人のままで居てくれなければ困る』と無自覚に考えていた。

 『お前達は私より下等だ、下等のままでいろ、罵倒するのだから』と無意識下で考えていた。

 

 だから、誰かを許してあげられる優しい組織を作ってあげたかった。

 

「頑張ろう」

 

 そう自分に言い聞かせながら、私達は世界を巡る。

 ベルカ様達が勝利した光景を見た時、私達は世界が変わる確信を持っていた。

 でも、自分達の世界を出れば、ほとんどの世界は変わらず醜い戦乱を継続していた。

 だからがむしゃらに、その現実を否定するために、私達は頑張った。

 

 あの人達の奮闘が無意味であっただなんて、思いたくなかった。

 あの輝かしい勝利が何の意味も無いものだなんて、思いたくなかった。

 あの戦いの中で見た皆の奮闘、皆の勝利、皆の想いが、数百年も経てば無かったことになるだなんて、私は思いたくなかったんだ。

 

 クラウス様達の戦いは、もっと意味のある物だったんだと、私は証明したかった。

 オリヴィエ様達が求めた平和は、ちゃんと実現した上で長く長く続くんだと、大きな声で言いたかった。

 エレミア様達が示したように、人はきっかけ一つでもっと優しくなれるのだと、示したかった。

 ベルカ様のように、誰もが自分の人生を楽しんで生きられる世界を、皆で笑って追われる結末を目指せると、私は夢見ていた。

 

「まだ、休めない」

 

 人がたくさん死んだ。

 平和を求めるということは、平和でない場所を巡るということ。

 私は、私達は、たくさんの人の死を目にし、沢山の人と死に別れた。

 その中には、私達の仲間も、私の友達も居た。

 

 戦争で消える世界もあった。

 世界間戦争以前の問題で、世界の中で人類種を滅亡させる勢いの戦争をしている世界もあった。

 ただ自分の国を大きくしたいというだけの理由で戦争を仕掛け、敵対勢力の星に星ごと殺す細菌兵器を撃ち、平気で虐殺を行う国すらあった。

 そんな国に対してさえ平和を説く私の姿は、酷く滑稽だっただろう。

 あの時の、あの王様の嘲笑の声は、一生忘れないと思う。

 

 助けられなかった人の想い出が、心の中に積み重なっていく。

 一年生きればその数は倍に、二年生きれば三倍に、三年生きれば四倍になっていった。

 十年経つ頃には、あの人達への憧れは残っていても、思い上がりは消えていて。

 あの人達に憧れる気持ちはあっても、あの人達のようになれるだなんて思えなくなっていた。

 それでも、あの人達のようになれなくても、あの人達に胸を張れる自分達でいようと、私たちは歯を食いしばって励ましあった。

 

「まだ、何も成せていないんだ」

 

 ある日、ある時、ある世界でのこと。

 倒した悪と、焼け焦げた母の死体と、私達が命がけで助けた子供が居た。

 私達は偽善の笑顔で子供を慰めながら、心に抱える罪科を増やす。

 もうとっくに、人が一人死んだくらいでは心痛まなくなっていた。

 人の死に動揺するような"当たり前"も既に失われていた。

 私達は、人の死を見るたびに、大きな悲しみを感じるたびに、摩耗していく自分達の心が鈍感に……人として当たり前の感情が感じられなくなっていくことに、気が付いていた。

 

 助けられなかった母と、助けられた子供、そして殺した悪の死体を前にして、私は思う。

 一人守れれば、一人守れなかったことは帳消しになるのか?

 一人助ければ、助けるために一人殺したことは帳消しになるのか?

 一つ良いことをすれば、一つ悪いことをしたことは帳消しになるのか?

 分からない。

 何も分からない。

 私達は三人でいくら話し合っても、そこに答えを見つけられない。

 守れなかった人の思い出に(うな)されて、多数を助けるために悪を殺した罪悪感は心に残り、正義と平和を世に残すために汚れた手はどこか冷たい。

 理想を追い求めていると、ただ生きているだけで、苦しかった。

 

「そうか」

 

 ある日、三人の内の一人が言った。私は耳を傾ける。

 

「なんで僕は、気付かなかったんだろう」

 

 嫌な予感がして、私は耳を塞ごうとする。けれど、遅かった。

 

「理想の世界があるってことは。

 理想の未来があるってことは。

 理想じゃない今を足掻きながら生きる限り、地獄を生きるしかないってことなんだ」

 

 その日から、私は自分が報われる未来も、私が救われる未来も、諦めた。

 期待するだけ辛いだけだと、そう思ったから。

 

 私達が苦しもうとも、世界は同情などしてくれない。

 世界と世界の戦いを止める組織は、まだ完成の目処も立っていなかった。

 

「挫けてなんていられるか」

 

 頑張った。

 

「俺達しか、これを止めようとしてるやつはいないんだ」

 

 私達は、頑張った。

 

「じゃあ、俺達が止めるしか無いじゃないか。この、地獄を……」

 

 選択肢など無いに等しく。

 諦めることなど、私達の心が許さなかった。

 

 理想に燃えていた始まりの熱意は、既に熱を失っていた。

 されど、理想を貫く冷たい覚悟はそこにある。

 その頃には既に、私達の理想は、熱意が冷めても無くならないものになっていた。

 いつしか、私達が熱を込めて口にするものは理想ではなく、戦乱に対する憎悪についてのことばかりになっていった。

 

「……時空管理局、出来そうだな」

 

「ああ」

 

「長かった」

 

 皆に、優しくなって欲しかった。

 いきなり隣の世界の人に優しくなれなくてもいい。

 せめて、同じ世界で隣に生きている人にくらい、優しくして欲しかった。

 そこに罪人だった人が生き、そこで罪人だった人が幸せになることくらい、許して欲しかった。

 

 いつの間にか、私は自分を罪人であると認識していたから。

 その叫びにはいつからか、実感が乗るようになっていた。

 

 話し合いを求めて、武器を持つ人と人の間、世界と世界の間に割って入って行った私達に返って来たものは、大抵の場合銃弾だった。

 私達は、前後から撃たれる。

 私達は、左右から切られる。

 私達は、上下から笑われる。

 戦乱の間に割って入っていくということは、そういうことだった、

 

 傷付けられ、壊され、それでも同意してくれる人達と平和を求めて叫び続け、その度杖と刃を向けられて、回復魔法を使って命を繋ぎ、走り続け。

 私達の体はいつしか、取り返しがつかないくらいに壊れ果てていた。

 

「まだ死ねるか」

 

 死ねないと、私は思った。

 

「まだ何も終わってない。時空管理局だって名ばかりだ」

 

 死ねないと、私達は思った。

 

「回避できる戦争が、まだ山のように残ってるんだ。どんな、どんな形でも、生きてやる……!」

 

 どんな姿になったとしても、どんなに醜い醜態を晒したとしても、生きなければならない。

 ただ生きたいというだけで、ただ死にたくないというだけで、こんな地獄のような人生を生きようだなんて思えるものか。死ねない。死ねないんだ、まだ。

 私達は、私は、まだ死ねない。

 

 そうだ。

 まだ終われない。

 まだ死ねない。

 だって世界には、まだ数え切れないほどの残酷が残っている。

 普通に生きているだけの普通の人達が、理不尽に不幸になってしまう仕組みが残っている。

 オリヴィエ様のような、聖王のような、指導者が要る。

 人造魔導師や戦闘機人で地上の平和を守り、海にも戦力をもっと回さなければ。

 レジアスの代わりも用意しなければならない。

 ああ、そうだ、ジェイルのようなやつがまた現れた時のために、備えもしておかないと。

 スルト、スルトもそうだ。あれがまたやってきた時のために、しなければいけないことが山ほどある。

 ロストロギアで世界が滅びるなどあってたまるか。

 私達の故郷のように、終わりなき戦乱が続く環境など、残しちゃダメだ。

 やらなければ。

 しなければ。

 頑張らなければ。

 休んでいる暇なんて無い。

 あの日あの時あの場所で、私が憧れたあの王達のように、私はたくさんの人達の上に立っている者の責務を果たさないと。

 見ていますかクラウス様。

 褒めてください、オリヴィエ様。

 助言をください、エレミア様。

 また痛快な笑顔を見せてください、ベルカ様。

 助けてなんて言いません。

 もう、心の中であなた達に助けを求めるような、軟弱な私は見せません。

 だからどうか、もう一度。

 もう一度、もう一度だけでいいですから。

 お願いですからもう一度。

 

 もう一度、会いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はまた、会いたい。

 

 僕は世界を守っていた彼らに、また会いたい。

 

 『彼らのように私達も世界を守りたい』と思うようになった、夢の源泉に、俺は……

 

 せめて、もう一度。

 

 私達の人生は、どうでしたか?

 

 俺達が頑張ったことに意味があったと、大好きなあなた達の言葉で、声で―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走馬灯が、現実に重なる。

 人生の全てを一瞬で駆け抜けるように思い出した三脳の前に、一人の青年が歩み寄る。

 車椅子の上だったとしても、その姿を見間違えるわけがない。

 

「……ベルカ様」

 

 目も無い体で、三人は目を疑う。

 視界を脳に投影する視覚デバイスが、端末から彼らの脳に映像を送っているのだ。

 青年の後ろにぼんやりと見える、"懐かしい姿"に向かって、彼らは声を絞り出す。

 

「クラウス様? オリヴィエ様? エレミア様?」

 

 脳の電気信号を、声帯デバイスが声に変えているだけの声。

 なのに、その声は、自然と震えた声になっていた。

 涙ぐみ、万感の想いを込めた声を、声帯デバイスが声と成し、届ける。

 

「ああ」

 

 ここが、彼ら三人の人生のゴールであるのなら……なんと、幸せな結末だろうか。

 

「ああ、ああ、ああ……!」

 

 善は報われる。悪には報いがある。

 それが世界のあるべき形だ。

 だが、悪に対する報いを自分勝手に蹴り飛ばす青年が、車椅子の上(そこ)で笑っていた。

 

「凄い久しぶりだな。元気にしてたか?

 最後に会ったのは……ええっと、スルトの中だな」

 

「ベルカ様!」

 

「様付けやめろよ、サブイボ出るから」

 

 何も変わらない、想い出の中のベルカそのものな姿に、彼らの心は沸き立っていく。

 

「三人とも、よく頑張ったな」

 

「……あ」

「―――!」

「っ、ッ、もったいない、お言葉です……!」

 

 死に行く中、"よく頑張った"という言葉が心に染みる。

 ずっと、ずっと、憧れた人達から言って欲しかった言葉だった。

 ただそれだけで、報われた気がした。

 

「お疲れ様。ゆっくりおやすみ」

 

 "休んでいい"と、ずっと言われたかった。

 

 足を止めて、休みたかった。

 

「後は、オレ達に任せておけ」

 

 "後は任せろ"と、他の何よりも信頼できる憧れの人達に、ずっと言われたかった。

 

(こんなに)

 

 報われ、満たされ、心暖かな気持ちになり、ゆえにこそ彼らは取り戻す。

 

 失われていた、かつての自分の心根を。

 

(こんなに満たされたまま、この人の好意に寄りかかったまま、死んで行って、いいのだろうか)

 

 死にかけ、崩れかけの脳でしかない体に鞭を打ち、男は叫ぶ。

 

「ベルカ様。

 最後に……最後に、一つだけ聞かせてください。

 時空管理局という組織を、私たちは作りました。

 誰かを許せる、優しい組織を作ろうと想い、ここまで来ました。

 私達は、私達は……何か、間違えてしまっていたのでしょうか?」

 

「かもな」

 

 あっさりとそう言われ、三人は心の痛みを覚える。

 

「まあ、正しい間違ってるの話を脇においておいても、優しくなかったことだけは確かだ」

 

「―――」

 

 そして、その一言で、その痛みと共に、自らの罪の全てをすっと受け入れた。

 

「ああ、なるほど」

 

「私達は、間違っていた」

 

「平和を目指すだけでは、足りなかった」

 

 過去の自分を思い出し、三人は死の際に"絶対に忘れてはいけなかったこと"を理解する。

 

「私達には……優しさが、足りなかったのですね」

 

 忘れていたのは、優しさだ。

 合理を求める者は、いつだって最初に優しさを切り捨てる。

 名も無き民に、作られた命に、踏み躙られる人に罪悪感を覚えなかった時点で……彼らの中から、人が当たり前のように持っている優しさが失われていたことは、明らかだった。

 

 そこに優しさがなければ、平和な世界はただのディストピアに堕ちる。

 

「優しさのない平和に価値はないと、知っていたはずだったのに……」

 

「いつの間にか、忘れてしまっていた」

 

「……知らない間に、随分ボケていたみたいだ」

 

 三人は自嘲の言葉を吐き、けれどもその自嘲の言葉に、青年が待ったをかける。

 

「まあでもオレは、そこまで嫌いじゃない」

 

「……え?」

 

「少なくとも、オレよりかはずっと世界とか平和とかを考えてたんだ。

 褒めたいし、凄いと思ってるし、凄い奴と仲間だったって事実が心底誇らしい」

 

「……、……っ、……ッ……!」

「……ありがとうございます。本当に、感謝してます。最後に、あなたと会えて―――」

 

 脳が一つ、潰れて流れる。保護液の流れに、脳の残骸が流れて混ざった。

 脳が一つ、大気に触れて劣化したせいで崩れ落ちていく。

 その死に様は、安心して死んでいった人間の姿のようにも見えた。

 最後に残った脳が、最後の言葉を青年に向ける。

 

「ベルカ様。不躾な願いであることは承知しています。ですが、どうか、世界をお願い致します」

 

「頼むのはいいが、オレが世界を一人で救えるように見えるか?」

 

「……いえ、そうでしたね。あなたはいつも、一人ではなかった」

 

 一人では強敵に勝てもしないこの青年は、周りを頼る。

 そしてこの青年の周りには、自然と世界を救える大人物が何人か集まってくるのだ。

 あの時代もそうだった、とひとりぼっちの脳は思う。

 この時代でもそうなんだろう、とひとりぼっちの脳は思う。

 

「お願いします、どうか、もう二度と、戦乱の世が、来ないように……―――」

 

 ぐしゃり、と脳が潰れて溶ける。

 戦乱の世に生まれた騎士達は、そうして自らの命を走り切った。

 彼らはとうの昔に答えを出し、その答えに準じたのだろう。

 その人生が善であろうと悪であろうと、その人生を貶す権利は、どこの誰にもない。

 

 遠い昔に答えを出し、遠い昔に夢を見て、遠い昔に覚悟を決めた新人騎士達。

 

 彼らの終わりは、遠い昔に別れた憧れの人との再会で、締めくくられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チンクは先程まで、戦闘機人を物のように言う最高評議会に対し、隠そうともしない嫌悪感を露骨に向けていた。

 だが今は、憐憫と哀れみの視線を脳の残骸に向けていた。

 同情も共感もしない。ただ、哀れんでいた。

 

「死んだ、か。……せめて最後には、救いがあったと思いたいが」

 

 青年は課金回復の魔法を脳に向けるも、蘇生不可能という分かりきった結果が示されるだけ。

 

「無理か?」

 

「こいつらは、自分の意志でこの姿になった。

 この姿になってから、途方もない年月が経ってる。

 そして何より、本人達に生きる熱意がない。これじゃ、どうやっても助けられない」

 

 拳を握るKを横から見て、こんな顔もするんだ、とヴィヴィオは思った。

 そして、脳の方に視線を移す。

 死んでしまった三人の残骸を見て、ヴィヴィオはもの悲しげな表情を浮かべた。

 

「私、もう少し、何か言えたんじゃないかな」

 

「ヴィヴィオさん……」

 

「姿を真似るだけじゃなくて、この人達が求めていた言葉を、言ってあげられたんじゃないかな」

 

 ヴィヴィオはオリヴィエの姿に。

 アインハルトはクラウスに似た姿に。

 ジークリンデはヴィルフリッドに似た姿に。

 それぞれが変身魔法で変身し、"彼らの最後"を演出していた。

 

 変身魔法は、参考資料があればその精度を飛躍的に引き上げられる。

 かといって、本人からかけ離れすぎた変身魔法は高難易度だ。

 変身者を選び、Kによる情報提供があってこそ、彼女らの姿は三脳を騙せたと言える。

 

 だがヴィヴィオは、『オリヴィエの言葉』を彼らにあげられる最後のチャンスを、自分が未熟だったせいで潰してしまったような気持ちになっていた。

 

「何か……何か、言ってあげられたかもしれない」

 

「ヴィヴィオ」

 

「……」

 

「それでいい。お前は、それでいいんだ」

 

 そんなヴィヴィオを、ふざけた様子なんて微塵もないKが慰める。

 

「その気持ちを忘れず、優しい子に育ってくれたら、オレは嬉しい」

 

 遠い昔に別れた仲間が、こんな姿と心に成り果てていて。

 もう二度と会えない親友の姿が目の前にあっても、目の前に居るのはその子孫で。

 そんな状況で、Kが何を考えているか、何を感じているかなど……誰にも、分かりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は流れる。

 時空管理局内部の不安要素は消え、時空管理局の意思統一はここに成った。

 ゼストはKの護衛を他の仲間達に任せ、ゼスト隊との合流を図る。

 

「クイント、メガーヌ、他の部隊員はやはり集められないか?」

 

「他の部隊が援護に来てくれないと、難しいと思います」

「病院と緊急避難所の小学校、両方同時に守ってるみたいですから」

 

 だが、回収できた仲間はクイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノの二人だけだった。

 他のメンバーは市街地の重要拠点を守るのに必死で、合流には動けないらしい。

 

「まあまあ、そこはこちらから迎えに行けばいいでしょう?」

 

「確かに、そうだな」

 

 そこで、横から偶然合流できたティーダ・ランスターの意見が差し込まれる。

 確かにそうだ。あちらが合流できないのなら、こちらから合流すればいい話。

 ゼスト、クイント、メガーヌ、ティーダという高ランク魔導師四人が合流すれば、この高濃度AMF下でも大抵の敵は倒せるだろう。

 ゼストの融合機・アギトをレジアスの護衛に付けたことが不安材料と言えば不安材料だが、空を見上げればすぐそこにある月に比べれば、不安材料としては物足りないくらいだ。

 

(あと、一時間もしない内に落ちて来るな)

 

 これだけ地上が荒れた状態で、避難など間に合うはずもない。

 そもそも、まだAMFの影響で転送機が使えないというのが現実だ。

 月が落ちればミッドチルダは死の世界に成り果てる。選べる選択肢は多くない。

 

「よし、まずは合流し、その後―――」

 

『おっと、作戦会議中にすまないね』

 

「「「「 !? 」」」」

 

 と、そこで、会話に割り込んで来る通信があった。

 魔力通信はほぼ行えないこの環境下で、魔力通信に近い形態の通信法。

 こんなことができる人間など、限られている。

 

「ジェイル・スカリエッティ……!」

 

『おお、怖い怖い。そんな顔で睨まないでおくれよ。

 私は君達に喧嘩を売りに来たのではなく、君達を仲間に誘いに来たのだから』

 

「仲間? バカも休み休み言いなさい」

 

『ははは』

 

 陽気に笑うスカリエッティは、いっそ不気味ですらある。

 スカリエッティは相手の話を聞くことより、自分が話したいことを話すための話し方、自慰に近い話し方をし始めた。

 

『私視点、レジアスという男は御しがたい男だった。

 目的のためなら身内すら切り捨てる鉄の男。

 金でも、女でも、利権でも揺らがない、滅私奉公の男。

 地上の平和だけを求めていて、私欲には一切走らない厳格な男。

 それでいて有能で、指揮を執れば私の障害になりかねないという嫌な男さ。

 人質も取引も通じないあの男は、私では到底操ることができそうにない男だった』

 

「……なんだ? 何の話をしている?」

 

『面倒な存在を弱者に変えてくれてありがとう、ということだよ。

 その点、君達は御しやすい。情で動く人間ほど、手綱を握りやすい者は居ないからね』

 

 映像が切り替わる。

 戦闘機人と同種の機構で映し出された通信映像の中で、『メガーヌの娘』にナイフを突きつけ、笑うスカリエッティの姿があった。

 

「! ルーテシア!」

 

「スカリエッティ、貴様ッ!」

 

 ティーダは反射的に仲間に連絡を送ろうとする。

 だが、自分が使おうとした通信手段の全てに、同時に"ERROR Scaglietti"という小馬鹿にした表示が現れ、ティーダの通信を妨害していた。

 

(っ、まさかこれは……!)

 

 スカリエッティの準備期間は十分にあった。

 作戦を立てる時間も十分にあっただろう。

 ましてスカリエッティは、ソーシャルゲーム管理局の人間を脅迫して情報を抜いている。

 ゼスト達――かの管理局で有力な人間――の能力やデバイス性能、できることとできないこと、どんな通信手段を持っているかなど、事前調査で丸裸にしていたことだろう。

 

 そしてこの動乱の中でも、その動向を緻密に見張り、ここで仕掛けたのだ。

 ゼスト達が仲間を頼れないよう、全ての手段に対策を打ち。

 メガーヌの娘・ルーテシアを絶対に助けられない状況を作り、脅迫を仕掛ける。

 

『正義の味方を上手く使う方法なんて古今東西決まってるさ。人質を取ることだろう?』

 

 ジェイル・スカリエッティはいつだって悪辣で、良い理想のために悪を成そうとする人間とはまるで違い、悪行に罪悪感など抱かない。

 悪を成すことに迷いはない。

 何故なら彼は、始まりからして悪のようなものであるからだ。

 

 彼が目をつけたのは、ルーテシアを人質に取れば時空管理局と戦うくらいはしてくれそうな、情で動く騎士。……すなわち、ゼスト・グランガイツであった。

 

 

 




>別に時系列どっかとかではないけど無印より後なのは確定な幕間集系の話
>「それはそれ、これはこれ。闇の書の件で金が要るだろうって、Gからの支援金だ」
 まあレジアスに関してはだいたいそういうことです
 ミッドのとあるソシャゲをグラブルと仮称します。レジアスが支援した金の一部でかっちゃんがグラブり、その金でグラブル運営がTVCMを打ち、グラブるCMを見たレジアスが不快感を覚えるという負のサイクルが完成しております

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