課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

50 / 69
「やはりエルトリアか……いつ出発する? わたしも同行する」

「花京院」
「略してカキン」
「称してかっちゃん」
「ハイエロSSRほすぃ」


課金聖闘士(ゴールドセイント!)! 君は課金額(コスト)を感じたことがあるか!?

 スルト。それは、アルハザードの残した最悪の遺産。

 惑星を片手で握り潰すスケールのサイズと、その巨体を満足に動かすための時間操作技術が特に有名だ。

 その一部が、この世界には残されていた。

 

 この世界線では、大昔に破壊されたスルトの一部がこの世界に落下し、遺跡として千年以上もの間残されていたのだろう。

 アミタが時を越えるという事象に心当たりがあった理由、姉妹が擬似時間操作を行える理由も、これではっきりした。

 

 スルトの一部を解析し、オーパーツとして時間操作技術を獲得、実用レベルまで性能を落として実装した科学者が居るということだ。

 

(闇の書、砕け得ぬ闇、死蝕、スルト……)

 

 荒野に突き刺さるスルトの一部、今は遺跡と呼ばれているそれを、彼は見上げる。

 

(繋がりそうで繋がらない。何か、見落としてるのか?)

 

 頭が上手く回らない。

 この世界に来てからずっと、闇の書の欠片が活性化している。

 気分の悪さが、彼の思考力をそこそこに削り取っていた。

 

「あらぁ? 顔色が悪いわよ?

 そんなんじゃ役に立たないだろうし、隅っこで置き物になってなさいな。邪魔よ」

 

「心配だ、って思考を隠しきれず悪ぶるファッション悪女は黙っとれ」

 

「ファッション悪女!?」

 

「言われなくても休んでるよ。心配してくれてサンキュ」

 

 ツンデレとはまた違うファッション悪女の気遣いをありがたく思いながら、青年は遺跡の壁に背中を預けて座り込む。

 

(時間を遡る……過去や未来に移動……

 ガチャに不具合……運営からの詫び報告……

 過去に使った石を全部返却するとの告知……

 まさに時を越えた詫び石……良運営の証……

 ……あ、やべえやべえ、ついついソシャゲのことを考えてる)

 

 とりあえず休憩しなければ、まともに仲間の援護も行えなさそうな状態であった。

 そんな彼に、シュテルが駆け寄って来る。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ」

 

「そうですか、大丈夫じゃなさそうですね。回復魔法をかけます」

 

「おいコラ」

 

 主の意見をぞんざいに扱い、至極合理的な判断をするシュテル。回復魔法でようやく回るようになってきた頭で、彼はまた何かを考え始めた。

 

(というかなんだ。いくらなんでも体調、急激に悪くなりすぎじゃないか)

 

 すると、すぐに違和感が湧いてくる。

 今の数分、彼の体調は明らかに急激に悪化していた。

 

(もしかしてこれ……

 オレの中の闇の書の欠片が活性化してるってことで……つまり……)

 

 『近付いている』ってことじゃないのか、と彼が気付いた、その瞬間。

 遺跡の前に広がっていた広大な荒野が、爆発した。

 

 

 

 

 

 まるで、星が卵のようだった。

 星の外殻が砕け、卵からヒナが出てくるように、星の内から何かが出てくる。

 

「お早い再襲撃ですね」

 

 シュテルにとって、それは見覚えのあるプログラムだった。

 アミタにとって、それは一度だけ見た朧気な少女の、はっきりとした姿だった。

 キリエにとって、それは初めて見るものだった。

 青年にとって、それは救うと約束した少女だった。

 

「アミタ、キリエ。あれが、『砕け得ぬ闇』です」

 

 シュテルが杖を構え、つられて姉妹も銃を構える。

 

「さっき見た時よりも、形がはっきりしている……?」

 

 アミタは、先程幻影のようだった少女が確たる実体を持って現れたことに驚き。

 

「普通の女の子に見えるわね」

 

 キリエは、シュテルが大仰に語っていた砕け得ぬ闇が、十代半ばの可愛らしい少女の容姿をしていたことに驚いた。

 

「……ユーリ」

 

 青年が少女の名を呼ぶと、少女は青年の方を向く。

 死んでいた目が、何も見ていなかった瞳が、青年を見据える。

 彼が彼女の名を呼んだことが、最後の暴走の引き金になった。

 

「出力24%、システムU(アンブレイカブル)-()D(ダーク)、起動」

 

 砕け得ぬ闇、すなわちユーリ・エーベルヴァイン。

 

 あの日、信じていた父に全ての気持ちを裏切られ、改造された少女。

 

 少女は狂気に飲み込まれ、一も二もなく青年に襲いかかった。

 

「―――!」

 

 ザコの中のザコと名高い課金厨はその奇襲気味の突撃に反応できなかったが、優秀なシュテル達は違う。三者三様の反応を見せた。

 シュテルはバインドを発射し、アミタは銃を撃ち、キリエはユーリに斬りかかる。

 

 だがユーリは、眉一つ動かさずにそれを切り抜けた。

 虫取り網の隙間をくぐる羽虫のように、するりとバインドと銃撃の合間を抜ける。そして平然と魔力で固めた手刀を振り、キリエの剣を弾いてみせた。

 

「嘘、私より速い!?」

 

「キリエ! 頭下げて!」

 

「!? わわっ!?」

 

 ユーリはキリエの攻撃を防ぐに留まらず、そのままキリエの首をもぎ取りに行く。姉の声でなんとかかわしたものの、キリエの背中には悪寒が走ったままだった。

 

 キリエはアミタよりいくらか速く動ける戦士だ。そのスピードは素のフェイトに匹敵し、無理をすればフェイトを超え、ソニックを使われれば再度逆転されるという域にある。

 すなわち今の砕け得ぬ闇は、フェイトのソニックに付いて行けるほどの速度を発揮しているということになる。

 

「ごめん、止められない!」

 

 単体の戦闘力では、キリエはユーリに遠く及ばない。

 ユーリはキリエを置き去りにして、その向こうの青年との距離を一気に詰める。彼女は腕を引き絞り、心臓を狙った貫手を突き出さんとする。

 

「ユーリ」

 

「―――」

 

 だが、名を呼ばれたその瞬間。

 ユーリの動きが一瞬止まり、濁った目から闇色の濁りがすうっと抜けていく。

 だが、瞳が正常な輝きを取り戻し切るその前に、瞳はまた濁ってしまった。

 止められた貫手は、再度突き出される。

 

「残念ながら、ここは通せません」

 

 だがそこで、二人の間に割って入ったシュテルに、その貫手は弾かれてしまった。

 シュテルが右手に展開した頑丈なシールドが、砕け得ぬ闇の貫手を弾く。

 追撃を放つべくユーリの魔力が唸りを上げるが、シュテルは防御と並行して発動していた高速移動魔法と攻撃魔法をこのタイミングで同時に発動。

 

 青年を抱えて後退しながら、ユーリを火柱で飲み込むことに成功していた。

 

「やった!」

 

 アミタが勝利を確信した声を上げるが、シュテルはこの程度で勝てただなんて思ってはいない。

 彼女は右手をじっと見つめる。

 砕け得ぬ闇の一撃を受けた彼女の右手は痺れ、まともに動かない状態になっていた。

 

(なんという膂力。

 今の一瞬の躊躇いがなければ、私の防御の魔力充填は間に合わなった。

 そうなっていたら、肩ごと腕の一本は持って行かれていたかもしれない)

 

 簡易回復魔法で手の機能を取り戻し、シュテルは手や杖を発動経路に使わない防御魔法を展開、そこに多量の魔力を込める。

 そこに、砕け得ぬ闇の暴風雨の如き魔力弾の雨が衝突した。

 

 艦隊や要塞を凌駕するパワーと防御力が人間サイズに凝縮され、人間サイズ相応の機動性と回避能力と相乗効果を起こしている。

 まさに、人の形をした破壊の災厄だ。

 世界を滅ぼせる力が、ただの拳に、ただの魔力弾に、凝縮して込められている。

 砕け得ぬ闇がまだ全力の二割程度しか力を発揮できていないことだけが、不幸中の幸いだった。

 

課金強化(エンチャント)起動(プラス)。『攻撃範囲拡大』」

 

「アクセラレイターッ!」

 

「シュテルさん、一旦下がってください!」

 

「了解です。パイロシューター」

 

 この距離は不味い。そう判断した彼らの行動は早かった。

 強化魔法にて全員の攻撃範囲が拡大され、加速したキリエが二本の剣から放った光の斬撃と、アミタが連射した光の銃弾が、砕け得ぬ闇を滅多打ちにする。

 そして青年を抱えたシュテルが後退し、置き土産に炎の魔力弾を50発ほど置いていく。

 

 シュテルの魔力弾が全弾命中し、激しい爆発を起こしたと同時に、姉妹とシュテルはなんとか合流を果たしていた。

 

「……頑丈すぎない? キリエちゃん、ちょっとドン引きかなーって」

 

「私は言ったはずですよ。アレの名前は、『砕け得ぬ闇』だと」

 

 今ので倒したかも、とキリエは思っていた。

 だが爆炎の名から、多少服が煤けているだけのユーリが出てきたのを見て、うげっと端麗な顔を歪める。

 シュテルは砕け得ぬ闇の性能、魔力、そして『その強さの本質』をしっかりと見据え、一つの覚悟を決めた。

 

「アミタ、キリエ。お願いがあります」

 

「なんでしょうか?」

「よっぽど無茶なお願いじゃなければ、聞いてあげるわよ」

 

「もしこの戦いで私が死んだら、マスターを何が何でも元の世界に帰して下さい」

 

「―――」

 

 その時、息を呑んだのは誰だったのか。

 

「な、何を言ってるんですかシュテルさん!?」

「そ、そうよ! 弱気になっちゃだぁめでしょ! わたし達も居るじゃない!」

 

「元の世界に帰れば、ナノハが居ます。あの人になら希望を託せる」

 

「お前らしくもないな、こんなに早く、オレが驚くくらい早く諦めるのは」

 

「諦めているのではありません。合理的な判断です」

 

「いいから、全員でこの場を切り抜ける方法を考えようぜ。できるだろ?」

 

 四人は考える。必死に。

 シュテルはこの相手に片手を塞いだままなのは自殺行為であると判断し、青年を地面に座らせ、申し訳程度の結界魔法で彼を守護する。

 砕け得ぬ闇は棒立ちのまま、そんな青年をじっと見ていた。

 やがて、彼女の瞳から濁りが減って、珊瑚色の少女の唇が静かに動く。

 

「ずっと、あなたに会いたかった」

 

 人の形をした化物が喋ったことに、そしてその声がとても可愛らしいものであったことに、アミタとキリエは驚いて、目を見開く。

 

「え……喋った?」

 

「……そりゃ、喋るさ。ユーリは人間なんだから」

 

 長くウェーブのかかった髪を揺らし、細く折れそうな手を薄い胸に当て、ユーリは小さな体で大きな嬉しさを精一杯に表現する。

 ユーリは華奢な少女だ。

 こうして話していると、儚げな雰囲気の大人しい少女にしか見えない。

 

「来てくれると信じてました。

 あなたは私が迷子になると、必ず来てくれる人だったから。

 私が泣きそうになると、誰よりも早く来てくれる人だったから」

 

 ユーリは想い出を懐かしむように目を瞑り、過去の記憶に思いを馳せる。

 金の髪の少女の口元に、自然と笑みが浮かんでいく。

 彼女の脳裏には、楽しかったあの頃の記憶が浮かんでいることだろう。

 何も知らなかったあの頃に、迷子になった自分の手を引いてくれた彼の笑顔を思い出す。引いてくれた手の暖かさを思い出す。

 ユーリの手に、あの日触れた彼の手の体温が蘇る。

 

 そして、その手を――

 

「来てくれて嬉しいです。だから、壊しますね」

 

 ――魔力で固めて凶器に変えて、彼の首元に突き出した。

 

 超速で反応したシュテルの魔力弾の間をすり抜けるように飛び、突き出されたユーリの刃は、割って入ったアミタの剣に弾かれる。

 ユーリの殺意は止まらず、突き出した手の剣をノータイムで振り下ろした。

 そこでアミタと、アミタに僅かに遅れて来たキリエの剣、二人合わせて四本の剣が受け止める。

 

 衝突の瞬間、信じられない音がした。

 ぶつかる手刀と、四本の鉄剣。

 踏ん張るために足元にエネルギープレートを展開していたはずなのに、姉妹の膝から下がプレートごと地面より下まで沈み込む。

 

「くっ、ぐっ、重い……!」

 

「イカれてんじゃないの、あんた!?」

 

 アミタはその重圧に表情を歪め、キリエは会話の流れと行動が全く噛み合っていない狂人じみたユーリに、棘のある言葉を吐きかけた。

 ユーリがハッとして、瞳の中の濁りが薄まる。

 砕け得ぬ闇としての自分と、ユーリとしての自分の間で揺れながら、ユーリは必死に自分を抑えて後ろに下がる。

 

「……そうです、私は、壊れています。

 不覚でした。一瞬でも、それを忘れて、夢を見るように、希望を持ってしまうなんて……」

 

 先程まで、少女の顔には懐かしさと嬉しさが入り混じっていたはずなのに―――今は、底無しの絶望しか浮かんでいなかった。

 

「これが砕け得ぬ闇の本質です。

 私の意志では止められない破壊の嵐。

 私が望まずとも破壊に向かう私の意志。

 無尽蔵の力があるということは、無尽蔵の破壊をもたらすということ」

 

 ユーリの瞳から、光が消える。

 絶望と悲しみが瞳に満ちて、闇色の濁りが湧いて来る。

 

「私が誰かの手を握りたいと思えば、握り潰してしまいます。

 抱きしめたいと思えば、望まずとも粉砕してしまいます。

 誰かを思えば、何かを考えれば、それだけで破壊に繋がってしまう……」

 

 ()()()()()()()という当たり前の感情の動きが、彼女の中で、その対象を破壊するという行動に直結してしまう。

 好意を向けた相手も敵意を抱いた対象も区別なく壊す。

 目に入れば全てを殺す。

 慈しみも優しさも、殺意に変わってしまう。

 ユーリが優しければ優しいほどに、他者に対して情を抱きやすい性格であればあるほどに、『砕け得ぬ闇』の危険性は指数関数的に増大する。

 

 今こうして彼女の中で、"過去に優しくしてもらったから殺す"という、歪んだ行動決定が行われているように。

 

「逃げて。……あなたを、壊したくない」

 

 ユーリは壊したくない、と口にしながら、長い長い魔力の槍を放出する。

 槍は規格外の魔力を込められ、暴風を纏い、発射の余波だけでアミタとキリエを吹き飛ばした。

 

「くぅっ!」

「きゃうっ!?」

 

 明らかに本人の意志ではないにもかかわらず、明らかにユーリの思考力と魔導制御による魔法発動。膨大な魔力が、精密な制御で青年の心臓に向かう。

 その攻撃を、表情一つ変えずにシュテルの防御壁が受け止めた。

 

「壊せませんよ。私が居る限り」

 

星光(シュテル)

 

 砕け得ぬ闇が馬鹿みたいに魔力を込める。星光も同量の魔力を込める。

 魔力量が無限のユーリが力では勝るが、魔力運用ではシュテルが勝る。

 二人はロストロギア級の魔力をぶつけ合い、衝突する魔力をスパークさせながら、周囲の地面をめくり上げるほどの衝撃波を撒き散らす。

 守る者と壊す者。

 シュテルの魔力は燃える炎のような赤で、ユーリの魔力は流れる血のような赤だった。

 

星光(シュテル)……私は、あなたも壊したくない」

 

「なら私は、あなたに壊させたくないのだと言いましょう」

 

 防御の維持だけでシュテルの魔力がガリガリと削れていくが、シュテルの魔力も底なしだ。このまま倒される気配は無い。

 ユーリは徐々に人間らしさが削られていく表情と雰囲気を一変させ、自身の存在そのものを、より攻撃的なものへと"傾けていく"。

 

「『魄翼』」

 

 それを可視化させるように、ユーリの背中から赤く巨大な翼が生えた。

 

(これは―――!?)

 

 シュテルはその翼を見た瞬間、本能的に命の危機を察知した。

 半ば反射的に砲撃を撃つが、翼が一振りされただけで、シュテルの極大威力の砲撃は殴り壊されてしまう。

 

「薙ぎ払え、魄翼」

 

 ユーリが『魄翼』と呟く度に、異常な戦闘性能を誇る赤き翼が現出する。

 翼はユーリの機動力を増大させ、近寄れば無双の刃として振るわれ、シュテルがバインドを放てばそれを引き千切り、迎撃に魔力弾を撃てばそれらをまとめて吹き飛ばす。

 この翼の持つ圧倒的な汎用性と破壊力は、これ一つだけで戦闘を終わらせるのに十分な性能を持ち、他の魔法の一切合財が必要なくなるほどのものだった。

 

「くっ……!」

 

 仮にシュテルの魔力弾のダメージを1、砲撃を5、連射砲撃の全弾命中を8であるとしよう。この翼は8~15で、平均12という恐ろしい攻撃力を持っている。

 

 だがそれ以上に問題なのは、砕け得ぬ闇が持つ『圧倒的な防御力』だった。

 ゲーム的な表現をすれば、『スーパーアーマー』といったところだろうか。

 

(やりづらい。マスターの支援魔法があって、私がこんなに苦戦するなんて……)

 

 シュテルの誘導弾が高速で連射され、ユーリが高速で飛翔する。

 シュテルの誘導とユーリの回避がしのぎを削った結果、十数発の燃える魔力弾の内六発がユーリに命中した。

 だが、ユーリは止まらない。

 ユーリはそのダメージを意にも介さない。

 

 ユーリは飛翔を継続し、互いの距離をゼロにした。

 魄翼を振り上げたユーリが、それをシュテルに振り下ろす。

 シュテルは咄嗟に球形の防御魔法を張ったが、防御の上から叩き落され、地面に叩きつけられてしまう。

 

「このっ……なんて力任せな……!」

 

 ユーリは魄翼の効果時間が終わればすぐに、更なる魄翼を使って来る。

 今度は魄翼で高速移動効果を生み出したようで、地面に叩きつけられたシュテルが起き上がった頃には既に、目の前に魄翼を振り上げたユーリが居た。

 シュテルは目を細め、地味だが発動の速い身体強化を、足にピンポイントで使用。

 右に跳び、振り下ろされた魄翼を紙一重で回避する。

 

 魄翼のあまりの威力に地面にクレーターが出来たが、シュテルはそこに目もくれず、強化した足で前に踏み込み、杖をユーリの腹を狙って突き出す。

 ユーリはそこから砲撃が来ると予測し、腹にピンポイントでシールドを張るが、この行動はシュテルの誘いでしかなかった。

 

 シュテルは腹に突き出した杖を囮に、巧みな重心移動を織り交ぜ、スカートを翻すハイキックを叩き込んだ。

 

「ブラストファイアー!」

 

 杖が来る、と思った瞬間には側頭部を蹴られているという魔技。

 シュテルはそこに、足の甲から簡易に発動する砲撃魔法まで組み合わせてきた。

 

 ユーリは側頭部を強打され、こめかみという急所に砲撃をくらい……なお、倒れなかった。ひるまなかった。砕けなかった。

 

「ナパームブレス……バイパー」

 

「!?」

 

 その瞬間。

 ユーリが更なる攻撃として放ったものを、シュテルの目は追いきれなかった。

 理解できたのは、ユーリの手元で魔力が爆発しそれに吹き飛ばされたことと、地面から生える数百本の赤い槍が、自分を狙って伸びて来ていることのみ。

 

(速く、多く、鋭い。なんと厄介な)

 

 防御魔法さえも間に合わない、刹那の瞬間。シュテルはバリアジャケットに魔力を通し、硬度を強化。空中にて体を丸め、無数の槍から胴体と顔の急所を手足で守った。

 手足の肉が抉れる感触と、バリアジャケットの硬度に槍が逸らされる感触の両方を感じながら、シュテルは槍の押す力に逆らわないよう後方に跳ぶ。

 槍の全てをしのぎきった瞬間、シュテルは杖を前に突き出していた。

 

「ディザスター・ヒートッ!」

 

 血まみれで、息も絶え絶えで、けれども落ちない技のキレ。

 シュテルは魔法の物理ダメージ割合を増やすことで、砲撃の連射に物理干渉効果を持たせる。

 砕け得ぬ闇を破壊する目的だけではなく、砲撃で物理的に押し、距離を離す作戦だった。そして、それは理想的に成功する。

 

 ユーリはこの攻撃を食らってもなおケロッとしていたが、攻撃の衝撃はあまりにも大きく、シュテルとの距離を大きく離されてしまっていた。

 

(私の戦力……そして砕け得ぬ闇の戦力……これは……)

 

 回復魔法を自身にかけ、シュテルは傷を治していく。

 自身の体がプログラム体であることを十分に理解した上で使われたそれは、抉られた肉と失われた血液を、一瞬で元に戻してみせた。

 

 砕けぬ闇は頑丈だ。しかも、砕けない。

 いくら頑丈さを越えてダメージを通しても、全く倒れる気配がない。

 攻撃を当てている回数は明確にシュテルの方が多かったが、にもかかわらずユーリは眉一つ動かすことさえしていなかった。

 

「互角!? なんて、戦い……!」

 

 再び空に上った二人を見て、アミタが声を上げる。

 援護しようとしているのに、中々最適な時と位置を掴めず、彼女らは現状遊兵と化していた。

 

 アミタとキリエには、現状戦いは互角であるように見える。

 砕け得ぬ闇の能力は脅威の一言だが、シュテルが技でその上を行っているからだ。

 回復が使えるシュテルに目立った傷がなく、砕け得ぬ闇の衣装に焼け焦げた跡が目立ってきたのも、二人の判断に拍車をかけていた。

 

「形勢が互角? ……いや……」

 

 だが、シュテルをよく知る彼の視点には、別のものが映っている。

 

「……少しだけ、シュテルの方が悪い」

 

 砕け得ぬ闇は、青年やシュテルが予想していた以上の強敵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分が悪いだなんてことは、シュテル自身が一番良く分かっていた。

 高速移動と転移魔法を織り交ぜて、スーパーアーマーじみた防御力で突っ込んでくるユーリを翻弄しつつ、彼女はひたすら攻撃魔法を撃ち込んでいく。

 だが、それで倒せる気は全くしなかった。

 

 ユーリはどんな魔法を食らおうが、兎にも角にも突っ込んで来る。

 そのせいで、冷静で的確な対応が売りのシュテルですら、何発もクリーンヒットを貰ってしまっていた。

 見かけは華奢で儚い少女であるのに、とにかく硬い。

 何度叩いても倒れない。

 いくら撃っても壊れない。

 シュテルは、鋼鉄の要塞を壊そうと素手で殴っているような気分、あるいは大海を消し去ろうとひたすら魔法を撃っているような気分になっていた。

 

 これが、沈むことなき黒き太陽。

 これを倒そうとするということは、水面(みなも)に映った影落とす月に刃を振るい、両断しようとする愚行に等しい。

 

(何か一つ)

 

 シュテルは思案する。戦いながら勝機を探る。

 運良くバインドの一つが引っかかってくれたのを見て、シュテルは即座に巨大な炎剣を形成して叩きつけたが、「魄翼」の一言で全てが粉砕されてしまった。

 

「足掻けば足掻くほど、きっと終わりが苦しくなります。

 どうか、受け入れずに逃げるか、諦めて受け入れるか、安らかな道を……」

 

 魄翼は巨大化し、伸長し、巨大な赤い手となってシュテルを握り潰さんとする。

 まるで、100mの腕でラッシュを繰り出しているかのようだ。

 シュテルは無駄のない飛翔で、それらをなんとか回避していく。

 

(何か一つ、チャンスがあれば……)

 

 そして、シュテルは高度を落とした。

 魄翼が腕として使われている今ならば、地面の近くに行けば地面が邪魔になるため、攻勢が緩むかもしれないと考えたのだ。

 ユーリの行動分析を元にしたその予想は、見事に当たる。

 

 砕け得ぬ闇は魄翼を収め、別種の攻撃を仕掛けるべくシュテルを追って高度を下げる。

 なのだがここで、シュテルやユーリの予想の全てが、横合いから飛び出してきた少女の無茶な行動でひっくり返されてしまった。

 

「待っていました、理想的な位置で低空に降りて来るこの瞬間を!」

 

「アミタ!?」

 

「気合いで持ちこたえます! 一気に決めて下さい!」

 

「……それは、意味の無い足掻きです。エルトリアのギアーズ」

 

 砕け得ぬ闇の全身から、手の平サイズの魔力弾が無数に生まれる。

 それはシュテルとアミタのみならず、その後方の青年やキリエまでもを飲み込むほどの圧倒的な弾幕だった。

 シュテルはシールド、アミタは銃撃で防ぎ、前に出ている二人の代わりにキリエが青年をカバーする。キリエはそうして、シュテルの後顧の憂いを断った。

 

「迷ってる暇も余裕もないでしょ、シュテル!」

 

「……ええ、そうですね」

 

 シュテルが下がり、代わりにアミタが前に出る。

 

「ヴァリアントザッパー、フルドライブ! E.O.D.ッ!」

 

 アミタは大量のエネルギーをこの一撃に一気に突っ込み、Sランク魔導師の全力砲撃数発分の力を圧縮、銃の中に弾丸として装填した。

 

「私の運命は変わらない。

 でももしかしたら、あなた達の運命なら変えられるかもしれない。だから……」

 

「そんな運命なんて、私が終わらせます!」

 

 ユーリの言葉を途中で断ち切り、アミタはアクセラレイターをフル稼働、超加速を行う。

 アミタはユーリの周囲に球状の軌跡を残すように跳び回り、残像を残しながら撃ちに撃つ。隙間なく弾丸を敷き詰めていく。

 やがて、砕け得ぬ闇を包囲する無数のエネルギー弾の包囲網が完成した。

 

「エンド・オブ・デスティニーッ!」

 

 それだけで、並大抵の敵ならば倒せただろう。

 エネルギー弾の包囲網はユーリに殺到し、その体をめった打ちにする。

 だが、軍艦を容易に貫通しうる弾丸も、ユーリの体は撃ち抜けない。

 アミタもそれは承知の上だ。

 ゆえに彼女は、弾丸の包囲網を一層だけでなく二層三層と重ねていき、常にユーリを360°全てからの射撃弾幕に晒すことで、その体の動きを止めようとしていた。

 

「……小細工を」

 

 そうしてアミタが稼いだ僅かな時間に、青年が後退したシュテルに声をかける。

 

「シュテル! 限界突破だ!」

 

「! 待って下さい、今のあなたのコンディションでは!」

 

「五秒だけだ! やれるな!?」

 

「……はい!」

 

 それは、勝利に繋がる命懸けの賭け。

 しっかりと安定性を考えた限界突破の準備・発動・完了には、数秒必要だ。

 その時間も、アミタは稼ごうとする。

 

 砕け得ぬ闇は周囲を跳び回るアミタを叩き潰そうと魄翼を振り回すが、何故か当たらない。何故か捉えられない。

 全てのスペックにおいて砕け得ぬ闇に劣り、シュテルに劣り、総合的に見ればキリエにさえ劣っているアミタを、何故かユーリは捉えられない。

 

「何故、あなたは落ちない?」

 

「心に勇気があるからですッ!」

 

「……わけが分かりません」

 

 アミタには、数値化できない『勝負強さ』があった。

 ユーリが飛ばして来る攻撃をキリエが切り払い、キリエに守られたシュテルと青年が数秒を使い切り札を切る。

 

全枚投入(フルドライブ)限界突破(リミットブレイク)。限定五秒!」

 

 たった五秒の、究極が生まれる。

 

《 Re:Rise Up Evolution. Limited 5 Second 》

 

 この五秒で決めきれなければそこで詰まされると、青年は予測していた。

 その意志を汲むように、シュテルは死ぬ気で全リソースを攻撃に傾ける。

 

「ブラストファイアー!」

 

 一秒経過。渾身の一撃が砕け得ぬ闇に突き刺さる。

 

「ディザスター・ヒートッ!」

 

 二秒経過。力任せの砲撃連射が全てクリーンヒットする。

 

「ぐっ……!」

 

 三秒経過。限界突破の負荷で、死にかけていた青年の心臓が止まり、限界突破が揺らぐ。

 

「マスター!」

「構うな、撃て!」

 

 四秒経過。青年は義腕を思考操作し、心臓停止で動かなくなった体の中で唯一動く義手を使い、心臓を強打。無理矢理に心臓を動かして、限界突破の維持をする。

 

「……ルシフェリオン! ブレイカーッ!」

 

 五秒経過。最後の一秒に、彼の覚悟を受け取ったシュテルは、一秒で撃てるシンプルな収束砲を選択し、開放。

 砕け得ぬ闇を、明星の光で飲み込んでいく。

 収束砲の光が消えた時、そこには倒れた砕け得ぬ闇の姿があった。

 

「か、勝った……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝った、と誰もが思った。

 されど終わらない。悪夢は終わらない。

 周辺の魔力素が信じられないスピードでかき集められ、砕け得ぬ闇に収束していく。

 集まった魔力は、その体へ。

 かくして、闇は蘇る。

 

 彼らが息を呑んだその一瞬で、砕け得ぬ闇は無傷の姿に戻っていた。

 

「……嘘でしょ?」

 

 呆然とアミタが呟く。夜の闇に剣を振ろうが、闇が砕けることはない。

 

「私は倒せない。

 私は滅ぼせない。

 どんな魔法も私を砕くことはできない」

 

 完全に目覚めていない闇の目覚めを誘発し、より強い闇を引き出すに終わる。

 

「倒したように見えたとしても、それは私の覚醒を促すだけ」

 

 もう限界突破は使えない。にもかかわらず、砕け得ぬ闇は先程よりも強くなって蘇って来た。

 

「沈むことなき黒き太陽、影落とす月……」

 

 自然と、キリエはシュテルが言っていた比喩表現を呟いていた。

 成程、これを見てしまえば、かの比喩表現が誇張でもなんでもないことがよく分かる。

 

 歪んでいる。

 壊れている。

 禍々しい。

 ありえない。

 

 なのに、どうにかしようと手を伸ばしても、人の手では空には届かない。

 人の知恵では、大規模な天体の異常など治せない。

 闇を降り注がせる太陽と、光を反射せず遮り続ける月なんてものがあったなら、その下で人が生きていくことなど、できやしないだろう。

 

「出力38%。制限機能、段階開放」

 

 ユーリの姿は、また様変わりしていた。

 最初は朧気な姿。次に確かな実体。そして今は、先程まで魔法として使用していた魄翼を、常時背中に展開するようになっていた。

 それは、今の砕け得ぬ闇が、魔法発動というフェーズすら経由せず、先程行っていた破壊をワンアクションで振るって来るということを意味する。

 

「……ふぅ」

 

 その姿を見て、シュテルは深く溜め息を吐いた。

 

 分かっていたことだった。

 砕け得ぬ闇は、限界突破が使えなければ到底倒せない強敵。限界突破が使えても勝てるとは断言できない反則存在だ。

 命をかけないのであれば、無駄死にするしか無く。

 命をかけて初めて、『次』に繋がる僅かな希望を残せる可能性があった。

 

「アミタ、キリエ。後はお任せします」

 

「え?」

 

「どうしたの、急に」

 

 シュテルの硬い声色に、姉妹が意味を理解できずに少し戸惑う。

 青年は、その声色から何かを察したのか、怪訝な目でシュテルを見始めた。

 より強くなったユーリが前に踏み出すが、そこでシュテルが設置していたバインドが発動する。

 

「バインド? ……そうか、君だけは、私が復活すると……」

 

「はい。予想していました。当たって欲しくない予想でしたが」

 

 バインドは膨大なシュテルの魔力の数十%を注がれた、とてつもない強度を持つオーバースペック気味のバインドだった。

 砕け得ぬ闇の動きを、数十秒は止められるほどの規格外のバインドだった。

 だが逆に言えば、このバインドでも砕け得ぬ闇は一分と止めていられない。

 

「マスター、ご自愛なされますよう、伏してお願い申し上げます」

 

「シュテル!」

 

「これが最後の回復魔法です」

 

 シュテルは微笑み、回復魔法をかけて、敬愛する主に言葉を残す。

 まるで、遺言のように。

 

「生きて下さい、マスター。

 貴方が生きていれば、私はそこに帰って来ます。

 ですが、あなたが死んでしまえば……

 やる気をなくした私は、きっと帰って来ないでしょう」

 

「シュテル!」

 

「え、ちょっと……」

「まさか!」

 

 シュテルが地に杖を突き刺せば、愛杖・ルシフェリオンが地に魔法陣を描き出す。

 ユーリはシステムに与えられている魔導知識から、その魔法陣の効果をひと目で見破った。

 これは、自分の命を犠牲にし、強大なものを封印する術式だ。

 

「自分の身を犠牲にした封印魔法……

 自分を生きた楔とすることで、私を封印するつもりですか」

 

「私の命を、最大限に効率よく使う、一番の方法です」

 

「私はこんなものでは止められないよ、星光(シュテル)

 

「時間稼ぎになれば御の字ですよ。……それに」

 

 シュテルはプログラム体である自分の体が分解されていくのを感じながら、死を恐れる様子も見せず、微笑む。

 彼女は一度だけ『彼』の方を向き、その姿を目に焼き付けて、またユーリと向き合った。

 

「貴女は一人かもしれない。

 でも私も、マスターも、一人ではない。

 一人じゃないということは、後を託せるということなんですよ」

 

「―――」

 

「だから恐れはありません。

 ……マスターを守る役目を他人に任せるのは、少しだけ癪ですが」

 

 もう、喋る口と、杖を握る手と、胴体くらいしか残っていない身で、シュテルは仲間達に後を託して、消えていく。

 

「私はここで、人柱になりましょう」

 

 二度とこの世界に戻れなくていい。そのくらいの覚悟で、彼女は自分の命を使い、封印の魔導式を起動した。

 

《 Sealing 》

 

 シュテルとユーリが消えていく。

 魔法陣が星の内部へと沈み、封印を完了させていく。

 全ては消え、後には魔力の残光だけが残された。

 

「シュテルーーーっ!!」

 

 人の叫びが、虚しく残酷な世界に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放っておけばこの世界の全てを破壊していたであろう悪夢を、彼らはひとまず封印することに成功していた。

 だが、その代償はあまりにも大きい。

 これが古代ベルカの時代の戦いで、そして11年前の戦いで着けられなかった決着のツケであるというのなら、あまりにも不相応に大きな代償だった。

 

「シュテル……」

 

「かっちゃんさん……」

 

 青年もショックが大きいようだ。

 立ち直りの早さに定評がある彼だが、流石に今の一幕に何も感じないわけがない。

 アミタが青年の肩に手を置き、彼を慰めようとしていたが、キリエは何と言葉をかけて良いのか分からず、けれど放ってもおけず、悩み始める。

 こういうところで男心が分からないのが、彼女がファッションビッチたる所以である。

 

(見るからに親しそうだったし……

 家族とか、親友とか、あるいは恋人とか?

 そんな人がああなっちゃった人に、どう声かければいいってのよ……)

 

 キリエは振る舞いこそ軽い女だがその実、姉より遥かに真面目な少女である。

 真面目ゆえに考えすぎてしまう。真面目ゆえに思い詰めてしまう。

 

 落ち込んでいる人が居れば、手を差し伸べる。

 彼女の心は、そういう風に出来ていた。

 

(こうなったら、キリエちゃんファイナル手段……って、あれ?)

 

 意を決して踏み出すキリエ。

 だがその視界の端に、何かが映る。

 不思議に思って、キリエはその場所を凝視した。

 そして、"見てしまう"。

 

 見た。

 見てしまった。

 キリエは目を見開き、絶句する。

 

 地を侵す赤き魔力。

 魔力に飲み込まれる大地。

 封印式にあるはずのない隙間を力任せに作り上げ、その隙間が押し広げられる。

 地の底より、赤き光と共に、金の髪の少女が浮き上がって来ていた。

 

「ふざけないで……そこは、やられておきなさいよ……!」

 

 キリエの声に反応し、青年とアミタもまた、シュテルの命を懸けた封印を何事もなかったかのように抜けてきた金髪の少女を、視界に捉えた。

 砕け得ぬ闇は、砕けない。

 

「何故、出て来られるんですか……?」

 

「私の出力は今、本来のそれより少し高い。

 シュテル・スタークスが命を捨てれば、私の四割は封印できる。

 彼女は命を捨てて来た。

 ……だから、私の力の40%程度が封印され、5%がこうして表出している」

 

「―――!」

 

 顕現率45%。封印率40%、出力5%。

 それが、今の砕け得ぬ闇。

 砕け得ぬ闇は現在進行形でシュテルに封印され続けているが、それさえも無限の魔力でゴリ押しし、ありえざる復活を現実のものとしていた。

 

「だから言ったのに」

 

 砕け得ぬ闇は、まだ地表に残っていたシュテルの魔力の残光を踏み潰し、ゆっくりとアミタ達との距離を詰めて来る。

 三人は思わず、一歩後ずさっていた。

 

「誰も殺したくない。

 誰も壊したくない。

 誰も傷付けたくない。

 だから……だから……近付かないで」

 

 たった5%。されど5%。今の砕け得ぬ闇でも、アミタ達より遥かに強い。

 

「ああ、そうだ。

 私が壊してしまう前に、壊してしまおう。

 壊してしまう前に壊れていれば、壊さずに済む。

 逃げてしまう前に、速く近付いて皆を壊……違う違う違う! だめ!」

 

 ユーリは必死に自分を抑えようとし、けれど抑えきれず、内側から吹き出す無限の魔力に心侵されて、その心を反転させる。

 

「ああ、ああ、頭の中に虫が居る。虫が居ます。

 頭蓋骨の下を虫が這い回っている。

 頭の裏側で、羽音を立てて、這いずる音を立てて、動き回ってます。

 嫌、いや、嫌、こんなのいや、取って、取って!

 誰か取って!  誰か助けてぇっ! ああ、ああああ!

 痛い痛い痛い痛い! 痒い! 頭の中に、頭の中に……あああああああっ!!」

 

「ユーリ!」

 

 救いが無い。

 最大の力を持ち、最大の加害者であるはずの少女が、何の罪も無い女の子で、最大の被害者であるという事実こそ、何よりも救いが無い。

 

「かっちゃんさん……あの子、泣いてます」

 

「ああ、泣いてるんだ。ずっと……ずっと……一人で……」

 

 ユーリは叫ぶ。

 喉が張り裂けそうな声色で叫ぶ。

 息も切らさず、呼吸の継ぎ目さえなく叫び続ける彼女は、その叫びだけで今の体が人外のものであることを周囲に知らしめていた。

 

 やがて、彼女の叫びに『死蝕』が呼応する。

 空を覆っていた紫の雲が、紫天の空が渦を巻く。

 腐りきった大地が液状化し、毒々しい色合いの沼となり、ユーリの足元から湧く血のような真っ赤な液体と混ざり始めた。

 その光景には、『地獄絵図』という呼称こそがよく似合う。

 

 赤と紫の沼にはスルトの一部が――先程まで彼らが遺跡として調査していたスルトの一部とは別のもの――いくつも浮かび上がっていた。

 

「……そうか」

 

 青年とシュテルがここに来た経路は何だっただろうか?

 過去と未来を繋ぐ時空間の穴だ。

 スルトの能力は何だっただろうか?

 自身の破壊を防ぎ、機体の稼働に使われる、時空間に干渉する力だ。

 

「繋がった。そうか今、この世界にある災厄は、全部……!」

 

 青年の脳内で、全てが繋がる。

 

「だとしたら……そうだ、なんで忘れてたんだ?

 あれに賭けてみれば、もしかしたらあの時みたいに……!」

 

 希望への道筋も、繋がる。

 

「何か策があるんですか?」

 

「いやんなもんねえよ。シュテルがああなった時点で万策尽きてる」

 

「……ですよね」

 

「策は無い。だが、希望はある」

 

「「 ! 」」

 

 この状況をどうにかする方法なんて、何も思いついていなかったフローリアン姉妹は、彼の言葉に希望を貰った。

 根拠もなく、未来の可能性を心の底から信じている響きが乗せられた言葉。

 それが、アミタとキリエの雰囲気を引き締める。

 

「わたし達は何をすればいい?」

 

「オレを、あの遺跡の一番奥に連れて行ってくれ」

 

 彼が指差すは、先程まで調査していたスルトの遺跡。

 その一番奥にさえ行ければ、どうにかなる希望があると彼は言う。

 

「りょーかいっ。さて、じゃあお姉ちゃん、そいつ頼んだわよ」

 

「キリエ……」

 

「心配そうな顔しないの。どっちかは残って足止めすべきでしょ」

 

 アミタは少し迷ってから、彼を抱える。

 キリエは武器を構えて、世界単位での滅びを起こしているユーリを見据える。

 姉妹は、希望を守り戦う担当と、希望を運ぶ担当に分かれたようだ。

 

 キリエは顔色が悪い希望の額に軽く拳を当てて、彼にエールを送る。

 

「あんたを信じて、あんたに賭けてあげる。

 ……この状況どうにか出来たら、覗きの件は許してあげるわ」

 

「ありがとう、ファッションリーダー。その髪飾りの花、似合ってるぜ」

 

「褒めたって何も出ないわよ! やる気は出るけど!」

 

 そうして、姉妹は正反対の方向に走り出した。

 アミタは遺跡の中へ。

 キリエは浮かんでいる砕け得ぬ闇へ。

 ユーリはシュテルを壊してしまった罪悪感に表情を歪め、青年だけを見ていたが、接近してくるキリエにシステマチックな反応を見せる。

 

「ああ」

 

 濁った瞳に、殺意が満ちていた。

 

「壊れて」

 

 40%の出力が封じられようが、覚醒段階が進んでしまった事実は変えられない。

 ユーリの背中には常時展開の魄翼があり、それは容赦なく振るわれる。

 キリエはそれを跳躍で回避。

 彼女がかわした一撃は衝撃波を生み、キリエの右斜め後方はるか彼方にあった一つの小山を、攻撃の余波だけで粉砕していた。

 

(初撃に全力。それしかない。

 全ての攻撃を無視するあの防御力の前じゃ、半端な攻撃はそもそも成立しない!)

 

 キリエは跳躍回避から、空中を蹴って一歩で距離をゼロにする。

 そして、今自分が出せる全力中の全力――Sランク魔導師の収束砲数発分――のエネルギーを剣に込め、双剣を可変合体。一本の巨大な両手剣に統合。一点突破の力として、振り下ろす。

 

 

 

「ヴァリアントザッパー! オーバーストライクッ!!」

 

 

 

 倒せるだなんて思ってはいなかった。

 気を引きながら、動きを止められればそれでよかった。

 攻撃の反動で武器と体を壊してもいいとさえ、覚悟していた。

 全力をぶつければどうにかなるはずだと、キリエはそう思っていた。

 

 ―――その考えが、本当に甘かったのだと。振り下ろした両手剣が、ユーリの指二本に挟み止められているのを見て、キリエは心底痛感した。

 

「……いくらなんでも、防御硬すぎない?

 女の子は柔らかいくらいが、殿方に好まれるのよん?」

 

「余計なお世話、です」

 

 ユーリは右手で剣を止めたまま、左手をすっと横に振るう。

 

「切り裂け、永遠の剣」

 

 その左手より、放たれるは赤い刃。

 それが、キリエの胴を切り裂きながら通過する。

 

「……つっ、うっ。かっ、は……」

 

 切り離されたキリエの上半身と下半身が、斬撃の衝撃で無残に地に転がって行った。

 

「キリエっ!」

「キリエぇッ!」

 

 遺跡に飛び込んだ青年とアミタが、同時に悲痛な声を上げる。

 青年はアミタを止めて、砕け得ぬ闇に追いつかれることも覚悟で、キリエに回復魔法を使おうとする。

 だが青年がアミタを止めるその前に、切られたキリエが声を張り上げる。

 

「……このくらいで死んだりしないわよ! 早く行きなさい!」

 

「!?」

 

 かくして二人は、遺跡内部に突入し、キリエが二人の視界から消える。

 だが遺跡に入る直前、彼は見ていた。

 キリエの体から赤い血が流れず、代わりにオイルが流れ、切られた断面に機械のような配線と機構が露出していたことを。

 まるで機械の断面のような、キリエの体の断面を、彼は見ていた。

 

「アミタ、あれは……」

 

「私達はエルトリアの『ギアーズ』。

 死触に侵されたこの世界を蘇らせられるために作られた、環境復旧機械です。

 私も、キリエも……人の形をしているだけの、機械で出来た人形(ヒトガタ)でしかありません」

 

「アンドロイド……!?」

 

「ナノマシンのおかげで、人と同じものを食べられる。

 人と同じように成長できる。

 簡易に調査しただけでは人間と見分けも付きません。

 それでも……私達は、鋼で出来た、作り物の人間なんです」

 

 人と同じ生涯を送ることができ、人と同じ心を持ち、人のように成長し、それでいて人より高い能力を持つ……フローリアン姉妹は、戦闘機人の一種の完成形のような少女達だった。

 アミタ、キリエレベルの完成度の人型機械であれば、ミッドチルダに持っていくだけでロストロギア認定されるだろう。

 それほどまでに、この二人に使われている技術は高度なものだ。

 現に、彼でさえ彼女がアンドロイドだと気付いてはいなかった。

 

「だから、申し訳ないだなんて思わないで下さい。

 人と人の世界を守るのが、私達の使命であり、生まれた意味です」

 

「……!」

 

「私達には生まれた意味がある。

 私達は生まれた意味を果たし続けられる。

 それは、ほとんどの人が得られないような、幸運なんだと思いますから」

 

 それは人のためにと作られ、人でないものとして生涯を生きた者の、あまりにも人らしい熱に満ちた言葉だった。

 そんじょそこらの人間より、アミタとキリエはよほど人間らしい。

 されど彼女らは、自分達が人間であるとは主張しない。

 人間を羨ましがったり、見下したりもしない。

 二人は姉妹で、エルトリアの機械人(ギアーズ)。人の心を持つ機械。

 "それでいいのだ"と、彼女らは胸を張り、口笛吹いてこの世界を生きている。

 

 ゆえに、その歩みはいつだって力強い。アミタはあっという間に遺跡の最奥に辿り着き、そこにあった機械の横に青年の体を置いた。

 

「ここで大丈夫ですか?」

 

「ああ、ここに来たかったんだ」

 

 アミタは彼をそこに置くなり、振り返り、戦闘態勢を取る。

 彼を追って、すぐそこまで砕け得ぬ闇が来ていたからだ。

 流れ弾が彼の方に行かないよう、細心の注意を払って構えたアミタだが、砕け得ぬ闇はおかしな様子でこちらに語りかけて来る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうして出て来た言葉は、ユーリの心の叫びであり、ユーリにこびり付いている残留思念の叫びだった。

 少女の口から、娘の言葉と父の言葉が同時に紡がれる。

 

()()()

 

 その声の両方に、青年は聞き覚えがあった。

 

()()()()()()()()()()()を、まだ覚えている」

 

 声に重なる少女の優しさと、声に重なる男の悪意に、青年は覚えがあった。

 

「だから、()()()()()()

 

 二つの声が重なる声。

 人間の耳では二人同時に喋っている声のようにしか聞こえないが、アミタの機械の耳には、二つの声紋が重なるおぞましい声に聞こえていた。

 

「なんですか、あれ!?」

 

「……最悪の父親の妄執が、娘の暴走に指向性を与えてるんだ……」

 

 砕け得ぬ闇――闇の書の闇――が近付けば近付くほど、彼の体調は悪くなっていく。

 シュテルが消えてしまったことでフィルターの効果も薄れ始め、人間が生きていけないこの星の大気もまた、彼の命を蝕み始めた。

 それとは対照的に、『娘を道具のように利用する父親』という構図を見てしまったアミタは激昂し、その心の熱を増していく。

 

「許せない。父を持つ一人の娘として、絶対に!」

 

 指一本動かすのも億劫になってきた青年に希望を託し、アミタは熱き血の叫びに従って、その全能力を持って砕け得ぬ闇へと戦いを挑んだ。

 

 五年前にスルトの中で見た覚えのある、"何一つとして絵柄の無い銀一色の地球儀"が青年の横で回転している。右に回転しているのか、左に回転しているのか、じっくり見ていても分からないのもあの時のままだ。

 青年はアミタの奮闘に僅かな力を貰いながら、這いずってガチャ接続端子を探す。

 

 だが青年が端子を見つけたその時には、アミタの腹がユーリの手に生えた魔力の棘に貫かれていた。

 

「づッ……こんなことで……こんなことで、諦めない!」

 

 だが、アミタは諦めない。

 大穴を空けられた腹から声を出し、腹を貫いていた赤色の棘を肘打ちでへし折った。

 

「っだらあッ!」

 

 少し驚いた様子のユーリの顔面に、アミタは武器ではなく、熱い拳を叩きつける。

 飛び抜けた防御力のユーリにダメージは通らないが、アミタは意地一つで砕け得ぬ闇を殴り飛ばしてみせたのだ。

 ユーリは不思議そうに、ほんの僅かな困惑をにじませて、アミタに問いかける。

 

「何故、あなたは諦めない?」

 

「言ったはずです! 私の心に勇気があると!」

 

 腹に穴が空き、オイルが漏れている。

 砕かれた体は電気がスパークし、アミタの表情には隠しきれない苦痛と苦悶があった。

 だが、折れない。

 だが、諦めない。

 その身が鋼で出来ていても、流れる血がオイルでも、アミティエ・フローリアンを突き動かすのはまごうことなく『熱血』だ。

 

「勇気とは! 負けてはならない戦いで!

 自分よりも強い相手に、挑み続けるためにあるものですッ!」

 

 ゆえに、彼女は止まらない。

 

「だから……私を諦めさせることは、諦めて下さいッ!」

 

 ゆえに、彼女は前に踏み出し続ける。

 

(自分よりも強い敵に、果敢に立ち向かう勇気。

 許してはいけない悪へと向かう正しい怒り。

 絶望で足を竦ませない、前へ前へと向かう希望)

 

 青年はむせるように血を吐きながら、時空を超える機械に己の能力を直結する。

 

 五年前の、あの時のように。

 

(それは現在(いま)にも、遠い過去(むかし)にも、遠い未来(あした)にも、在り続けるもの)

 

 心を鎮める。

 世界と仲間を助けるためのものを求め、心は何も求めないという矛盾を成立させる。

 全ては、物欲センサーを断ち切るために。

 

 心を強める。

 思い返すは、あの日助けに来てくれたアインハルトとトーマの姿。

 全ては、この絶望を断ち切るために。

 

「奇跡なんてものがあるんなら、来い」

 

 アミタがとうとうスペック差で押し切られ、吹き飛ばされて壁に埋められる。

 ユーリはアミタにトドメを刺すこともせず、青年だけを見て突撃して来た。

 青年は左手の上に、金を溶かす光(ガチャ・サンシャイン)を生成。

 右の義腕で取り出した預金通帳を、躊躇いもなく……その光の中に放り込んだ。

 

「泣いてる女の子の涙ぐらい、拭ってみせろ!」

 

 預金通帳の金は一瞬で溶け、ガチャを回す力に変わる。

 日々の修練、これまでくぐってきた修羅場、心の成長が、彼の課金実行速度を飛躍的に上昇させてきた。彼の二十年は、この一瞬の課金速度に集約される。

 一瞬で、通帳一つ分の金が輝き消える。

 

 そして、彼はガチャを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーリが突き出したのは、赤き剣。されど、それが青年を貫くことはなかった。

 

 赤き魔力の刃が、『闇』に防がれている。

 それは『闇』。触手のような、雲のような、泥のような、そんな何か。

 他にどんな言葉も適当ではなく、それはまさしく『闇』だった。

 

 砕け得ぬ闇となったユーリの魔力が、血の色の赤に例えられるように。

 その者の魔力は、夜天の下で世界に満ちる昏き闇……光差さぬ闇、そのものだった。

 形無き闇はユーリの攻撃を飲み込み、砕き、ユーリに逆に襲いかかる。

 

「下がれ、下郎が」

 

 その闇が触れたところで、ユーリに傷一つ付けられなかっただろう。

 だが、ユーリは反射的に下がってしまった。

 何故下がったのか、自分でも理解できぬままに。

 

「貴様が我を喚んだ主か。……なるほど、そうか。奇縁というものはあるものだな」

 

 彼のガチャ召喚は、成功した。

 ピックアップもされていなかった、ガチャの中にも入っていなかった女性を引き当てたのだ。

 例えるならば、常設ガチャに入らず期間限定でしか引けないレアキャラを期間外に引くという即BAN級の反則召喚。それは、奇跡と呼んでも差し支えないものだった。

 

 現れたのは、八神はやてにそっくりな姿をした女性であった。

 年齢は青年やシュテルと同年代。

 髪は夜闇と白夜を重ね合わせたような白と黒。

 柔らかい印象を受ける表情と目つきのはやてとは対照的に、その女性の表情は不遜で、鋭い目つきは全てを見下しているかのような印象を受ける。

 

(はやてを……最後の夜天の主を模した、マテリアル!)

 

 感じられる魔力は、はやてと同様に人類最高峰のもの。

 はやてそっくりのデバイス、はやてそっくりのバリアジャケット、だが外見から受ける印象ははやてよりもはるかに攻撃的で悪性のものだ。

 召喚されたその女性が名乗りを上げる前に、砕け得ぬ闇がその名を呼ぶ。

 

闇王(ディアーチェ)……!」

 

「そうとも。我こそは王のマテリアルにして、マテリアル達の王!

 全ての闇を統べる王! 伏して呼ぶが良い、我が名は『ディアーチェ』!」

 

 ディアーチェの背で、黒翼が開いた。

 紫の魔力が唸りを上げる。

 彼女はこの世界に自分が誕生したことを喧伝するかのように声を張り上げ、自分を召喚した青年を試すかのように、まず問うた。

 

「命じるが良い、我が主よ! 貴様は我に何を望む! 破壊か! 支配か! 混沌か!」

 

「勝てッ!」

 

「承知! その願い、このディアーチェが聞き届けようぞ!」

 

 即答する青年に、ディアーチェは楽しそうに傲慢な笑みを浮かべる。

 砕け得ぬ闇が魄翼を振りかざすが、その行動をディアーチェは許さない。

 

「じゃかぁしいわぁ!」

 

 ディアーチェが指を振れば、強固なリング状のバインドが針を通すような精密さで発動される。

 小さな力を要所に当てて大きな力を封じる関節技のように、ディアーチェが放ったバインドは巧みに魄翼の一撃を止める。

 そして、動きの止まったユーリに、ユーリの身長より大きな直径の魔力弾をぶちかました。

 

(はやてと同等の魔力を持ちながら、はやて以上に戦闘向きの魔導資質……!)

 

 八神はやては、一人では弱い。彼女は集団戦でこそ強い魔導師だ。

 だがディアーチェは、一人でも十分に強かった。

 はやてにあった目立つ欠点が埋められていた。

 攻撃面に至っては、はやてを超えているとさえ言える。

 

「くっ……闇王(ディアーチェ)……!」

 

「貴様もすぐに我が手に収めてみせよう、砕け得ぬ闇。

 我らが紫天の盟主よ。

 だが今は、主の命だ。―――来たるべき時まで、眠るがいい!」

 

 ディアーチェは左手で魔導書のページをめくり、右手の杖に魔力を収束。

 

 そして、圧倒的な魔力を解き放った。

 

「エクス! カリバァァァァァァッ!!」

 

 遠目には光の剣が突き出されたかのように見える、絶大な魔力光の奔流。

 それが砕けぬ闇を飲み込み、その姿を消し去って行った。

 消えたユーリは今度こそ復活の気配もなく、油断したところに再登場、ということもなく。

 ディアーチェは遺跡の床を踏み、星の地下深くを浅葱色の目で見つめ、そこにシュテルとユーリの存在を感じていた。

 

「……シュテルのやつは今度こそ上手くやったようだな。流石は我が臣下よ」

 

 どうやら、今倒したことでようやくシュテルの封印が十全に作用し始めたようだ。

 いずれはまた出てくるのだろうが、シュテルの目論見通りこれで時間は稼げたことになる。

 ディアーチェは耳元の髪を揃える仕草をして、こひゅーこひゅーと変な息をして壁に背を預けている青年の前に、歩み寄った。

 

「ありがとう。ええと、ディアーチェでいいのか?」

 

「うむ。では、貴様は臣下の礼を取れ」

 

「は?」

 

「貴様は我を召喚した、我の主よ。

 貴様はその栄誉に震え、臣下として我に(こうべ)を垂れるが良い。

 我は貴様の王で、貴様は我の主。なれば対等よ、違うか?」

 

「……」

 

 "キャラ濃いなコイツ"と、青年は自分を棚に上げてディアーチェの第一印象を定める。

 

「……まあ、それでいいか。よろしく、オレの王様」

 

「それでよい。存分に我に仕えよ、我が主」

 

 "あ、この子も変なやつだ"と、おそらく現在この星で一番変な青年が、自分を棚に上げてぼんやりと考えていた。

 

 

 




【アンブレイカブル・ダーク】

 原作でも最強クラス、ユーリちゃん。

 シュテルを含む三人のマテリアルが力を合わせた合体マテリアル。
 なのは、フェイト、クロノを始めとしたエース級戦力。
 リインとユニゾンしたはやてとヴォルケンリッター。
 高いスペックに加え、火力で言えば上記のメンツの全てを凌駕しているフローリアン姉妹。
 エクリプス・ゼロを自在に操れる段階のトーマとリリィ。
 修練を積んだ段階のヴィヴィオとアインハルト。
 そして援護のユーノとアルフ、リーゼ姉妹。
 ダメ押しに時空管理局の上澄みこと、海の部隊員も戦場形成役に投入。

 これで対砕け得ぬ闇用の特攻プログラムを開発し、設定上はこの全員を投入し、倒しきることはできないものの、砕け得ぬ闇に制御プログラムを打ち込む隙を作ることに成功し、勝ち目のない砕け得ぬ闇に勝利を納めたのでした。
 最終決戦の勝利までにユーリちゃんは上記のエース級をガチで五人分殺しています。
 無論、これは二次創作なのでユーリちゃんも強化されております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。