課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

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かっちゃん 20歳 (15歳前に急成長して成長停止)
シュテル 20歳 (マテリアルは年を取り、成長する)
ディアーチェ 20歳 (シュテルとだいたい同じ)
アミティエ 高校二年生 (innocent基準)
キリエ 高校一年生 (innocent基準)
ユーリ 十代半ば (11年前に一度表出したため)

 外見年齢こんな感じでしょうか……GOD組ってアンドロイドやプログラムなのに時間経過でちゃんと成長するんですよね


ホモスラ3 課金グギドラ襲来

 いつ気絶したのか。

 いつ寝たのか。

 それさえ分からないまま、彼は夢の中に居た。

 

「これは夢」

 

 夢の中で、彼はユーリと向き合っている。

 

「あなたの中の闇の書の闇の欠片が繋げた、心と心を繋ぐ夢」

 

 彼が見ているユーリは、彼の脳が作り上げた幻想ではない。

 ユーリが見ている彼もまた、脳が作り上げた幻想ではない。

 だが、目の前の相手が幻想でなくとも、この会話は幻想だった。

 

「何も産まない、陽炎の夢……」

 

 夢の中でしか話せないのなら、それは幻想以外の何物でもない。

 

「お久しぶりです、騎士様。またお会いしましたね」

 

「おう、そうだな。……お前オレのこと、かっちゃんさんって呼んでなかったか?」

 

「……もう、呼べませんよ。そこまで恥知らずじゃないです」

 

 ユーリは申し訳なさそうに、悲しげに俯く。

 彼の名を呼ばないという行為は、彼女なりの罪滅ぼしなのだろう。

 それで自分の中で何一つ罪が滅ぼせていないとしても、そうせずにはいられない。

 こういう幸薄い気にしいな人間は、彼の周りには結構多かった。

 

「お前、オレより恥知らずな人間が居ると思ってるのか」

 

「えっ」

 

「いい言葉を教えてやろう。

 『私は恥の多い人生を送って来ましたが、それはそれ、これはこれ』」

 

「ええ……」

 

「ちなみに名言の引用っぽく言ったが、今オレが考えた言葉だ。要は気にするなってことだよ」

 

 かっかっかと笑っている彼を見ていると、ユーリの脳裏に蘇る想い出があった。

 

―――オレも一応騎士を拝命してる身だからな。騎士は女の子を守るものだろ?

 

 記憶を失い、クラウスの真似をしていた頃の『ベルカ』としての彼もまた、今でも彼の中に息づいている。過去は無かったことになどならないからだ。

 彼とユーリが束の間の絆を育んだ過去もまた、無かったことにはならない。

 頬が自然と緩むのを感じて、ユーリはその表情を一瞬で引き締める。

 

「そういえばかっちゃんさん、ってのはアミタも言ってたな。お前ら案外気が合うかも―――」

 

「殺して下さい」

 

 ここで寄りかかるのも、すがりつくのも、助けを求めるのも簡単だ。

 だが、ユーリはそうしなかった。

 

「私を殺して下さい。それ以外にあなたが生きる道は無いんです。

 支離滅裂な思考で動く砕け得ぬ闇は、絶対に止まることはありません」

 

 彼女が望むのは、自らの消滅。

 この苦痛と絶望しかない人生を終わらせ、誰にも迷惑をかけずに消えていくことだけだ。

 ユーリ・エーベルヴァインにはもう、死以外の救いがない。

 少なくとも、彼女はそう思っていた。

 

「以前、オレがやってたソシャゲでさ。

 十二年に一回しかガチャに実装されないってキャラが居たんだわ。

 だから皆こぞって課金して、引けなかったら暴動起こすくらいの熱を発してた」

 

「……?」

 

「なんだけど、それも撤回された。

 十二年経たなくても引けるようにしますよ、って運営のアナウンスが来た。

 良い意味でも悪い意味でも、明日のことなんて誰にも分からねえよなあって思ったもんだ」

 

 だが、彼女と違い彼はそう思ってはいなかった。

 

「未来なんてもんは誰にも分からない。

 時間をちょくちょく越えてるオレですらそう思うんだ。

 諦めない限り、『この先』がどうなるかなんて誰にも分かるかよ」

 

 もう引けないと思っていたものが、ガチャに実装される。

 いつでも引けると思っていたものが、サービス終了で引けなくなる。

 「こんなクソソシャゲすぐ終わるだろ」と言っていたら隆盛して一大コンテンツになることもあれば、ある日突然愛していたソシャゲが終わることもある。

 

「お前はまだ子供なんだ。オレに望まない指図なんてしなくていい」

 

 彼は未来を語って、優しいデコピンをユーリの額に当てる。

 子供の間違いを正す、優しい叱り方だった。

 

「あの頃みたいに、またお前の手を引いてやる。

 迷子のお前が本当に行きたい場所に、連れて行ってやるよ」

 

「……迷子の、私?」

 

「助けてと手を伸ばせばいい。あの時みたいに、行きたい場所まで連れて行くから」

 

 青年に手を差し伸べられ、ユーリは古代ベルカの時代に、彼が最後に残した言葉を思い出す。

 

――――

 

「必ず、助ける! だから待ってろ!」

 

「オレを……オレの強欲さを信じろ! お前を諦めたりしない!

 オレを……お前の友達を、信じろ! お前がどこに居たって、いつか必ず見つけ出すから!」

 

「助け出したら、オレがオススメのソシャゲ教えてやるからな! 約束だ!」

 

――――

 

 あの日の約束は、まだそこにある。

 彼が差し伸べた手を取れば、彼は約束を果たすまでこの世界に残り続けるだろう。

 だから、微笑むユーリは、その手を取らなかった。

 

「前に会った時より、ちょっと大人になりましたね。騎士様」

 

「お前は、前に会った時より臆病になったな」

 

 少女は背を向け、彼の夢の中から消えていく。

 

「助けは要りません。どうか、生き延びて下さい」

 

 差し伸べられた彼の手を、自分の手で壊すことを恐れ―――少女は、姿を消した。

 

「笑い話にしようぜ、ユーリ」

 

 青年は差し出した左手を握る。差し出さなかった義手の右手も握る。

 握って、笑う。

 

「乗り越えられなければ悲劇。

 乗り越えられたならただの試練だ。

 笑おうぜ。笑って終わりにしようぜ。必ず、また笑えるようにしてやるから」

 

 ユーリは忘れていた。

 

 初めて会った時も、彼女が助けを遠慮したが……それでも彼は、強引にユーリを助けようとしたのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢から目覚めて、彼はベッドに横たわっている自分の姿を認識する。

 彼はポケットを漁り、ぼんやりした頭でソシャゲの行動力を消費し始めた。

 もはや残像を残さないレベルに至ったスマホ操作と、その操作についていくスペックのスマホが一通り行動力を消費し終えた頃に、彼はようやくベッドから起きる。

 

「……?」

 

 なんでここに居るんだろう、と彼は考える。

 またロストロギアの爆発にでも巻き込まれたんだっけ? と思い、血圧低下を始めとする体調不良+寝起きでぼーっとした頭で思考する。

 すると徐々に、彼は記憶の欠片を見つけ始める。

 

 

 

 

「相も変わらず優れた回復能力を持っているな、貴様は。

 ディアーチェの名において命ずる。我の臣下候補であるそこの二人もさっさと直すがよい」

 

「はいはい。うーし、さっさとキリエも回復回復……」

 

「ちょっと! 変なとこ触んないでよ!」

 

「は? オレそこに落ちてたネジ一本拾っただけ……」

 

「それを変なトコ触ってるって言うのよ! この痴漢!」

 

「ええいこのファッションヒューマン!

 機械らしさと乙女心を器用に両立させるんじゃあない! ごめんな!」

 

 

 

 変な記憶が浮き上がって来た。

 

「ああそうだ、そんで姉妹を回復させて……で……」

 

 修復の過程でネジを拾っただけで痴漢扱いされた記憶を蘇らせながら、彼はベッドの上でぼーっとしていたのだが、その途中で横合いからかけられた声に思索を中断させられた。

 

「起きていたのか。随分と遅い寝起きだったではないか、愚鈍め」

 

 はやてに似た声。はやてに似た容姿。

 だが髪の色と強気な瞳、見下す口調がその人物がはやてではないのだと知らしめる。

 その女性が初めて出会った時はバリアジャケットで、今は私服姿だったために、青年はちょっとだけ「はやはや」と呼びそうになり、ぐっとこらえてその名を呼んだ。

 

「ディアーチェ?」

 

「貴様は二人を回復させた時点で倒れたのだ。

 フィルター・フィールドは我が張り直したが、少し遅かったようでな。

 貴様は内的要因でも外的要因でもボロボロだった。

 血中の毒素や放射能の影響を抜き、回復魔法をかけ、この拠点にまで運んで来たというわけだ」

 

 ここは、ギアーズが環境復旧の過程でいくつも作っている拠点。

 病気・害毒・悪性生物の全てから人間を守る、人間の保護施設だ。

 星の表面で死に絶えつつある人間をここに一旦保護し、ここで休養を取らせ、人間が固まって生きている保護区に運び出す。それがこの施設の設立目的である。

 そのため、人の心と姿を持つ特例ギアーズであるフローリアン姉妹だけでなく、他のギアーズも無数にここで稼働していた。

 

 そのためか、ここの空気は本来のエルトリアの空気そのものだ。

 彼も普通に呼吸できている。ディアーチェが着ている服もここで貰ったものなのだろう。

 なのだが、ディアーチェは何故か、私服の上にエプロンを付けていた。

 

(何故エプロン……身長ちっこいから変に可愛らしいななんか……)

 

「涙を流し喜ぶがいい。今日の貴様の朝食は、我が作ってやることになったぞ」

 

「えっ」

 

 彼女は王のマテリアル。

 この世界では結実しなかった可能性。

 青年が人類最高クラスの嫁力であると信じてやまない八神はやてのコピー体である。

 

 

 

 

 

 

 エプロンを付けたディアーチェが台所に立ち、鼻歌交じりに流麗な手際で料理を作っているのを見て、青年は戦慄していた。

 同じくテーブルについているアミタとキリエもほへーっと感心している。

 

(はやては関西属性とお母さん属性が共鳴してたが……

 凄いな、傲岸不遜な闇の王って属性とお母さん属性が、ここまで不協和音を起こすとは……!)

 

 だが、その光景に異様な不協和音を感じていることだけは、三人に共通する感情だった。

 ディアーチェは不敵に笑いながら、可愛らしいミトンで熱々の料理を運び出す。

 

「出来たぞ! 貴様ら、我の料理の腕に震え、永遠の忠誠を誓うがいい!」

 

 この世界は最悪の状況だ。化学合成された非天然ものの素材しかない。

 が、ディアーチェはそれを見事に仕上げてみせた。

 食感、味、香りをどうにかし、"(がん)が食えねえならがんもどきを作るしかねえ!"と吠えたかつての日本人の精神を、彼女は闇の王としてここに結実する。

 その腕前は、飯を食える作業機械な二人の姉妹が、思わず声を上げてしまうほどだった。

 

「あ、美味しい」

「ですね!」

 

 青年も美味しいとは思ったが、茶碗の三分の一程度の量を腹に入れ、箸を置いてしまう。

 

「ん、ごちそうさま」

 

「貴様ぁ! 我が丹精込めて作った飯を残すとはどういうことだ! そこに直れ!」

 

「お前も微妙に面倒臭いな畜生!

 妙に気合い入れて料理作ってると思ったらこれか! ごめんな!」

 

 だがディアーチェの憤怒と威嚇に、箸を取り直す。

 ただ怒られただけなら流しただろうが、この世界に生誕して初めて作った飯を残されたことに、ディアーチェがちょっと傷付いていたようにも見えたため、受け流すという選択肢は無かった。

 アミタはそんな青年の耳元に、心配そうに耳打ちする。

 

「あの、体調が悪くて食欲がないなら、素直にそう言った方が……」

 

「王様の命令だ。まあ、頑張るだけ頑張ってみる」

 

 青年の顔色は悪いが、先程の少量食事量では流石に魔導師の生活エネルギーが賄えないというのも事実だ。もはや点滴一つでさえ貴重品になったこの時代に、食の代替とした点滴だけで栄養を補給し、不自由に暮らさせるというわけにもいくまい。

 ディアーチェの手並みからして、栄養バランスは悪くないはずだ。

 アミタはちょっと食事に再度手を伸ばしてみるが、かなり柔らかめに作られており、青年の体に対する気遣いもちゃんとある。

 食べなければ力は出ない。

 かといって、無理に食べさせるのもどうかと思うわけで。

 

 そのためディアーチェが正しいのか正しくないのか、アミタはいまいち断言できないようだ。

 

「赤いの見るとあの翼を思い出しちゃうわねえ」

 

 そんな中、赤いソースがかかった皿にフォークを突き刺し、キリエが呟く。

 

「ああ、砕け得ぬ闇の『魄翼』ですか。あれは脅威でしたね」

 

「砕け得ぬ闇の大いなる翼のことか?

 アレを一気呵成に使われていたら、我も危なかったであろうな」

 

 行儀よく姿勢良く箸を動かすディアーチェの言葉に、倒れる前の青年からディアーチェが圧勝したと聞いていたキリエは、少し驚いた顔を見せた。

 

「そうなの? 圧倒的だったって聞くけど」

 

「貴様ら二人が先行して砕け得ぬ闇の力を削っていた結果だ。

 我一人では、5%のあれにさえ分が悪い。

 無様に負けたとはいえ、貴様らの奮闘も無駄では……

 ……おい貴様、何故我に説明させておきながら、ニヤニヤしている?」

 

「いーえー、王様はわたし達のことちゃんと見てて褒めてくれてるんだなーと思って」

 

「何を言っとるかこのたわけが!」

 

 むふふと笑うキリエ、怒るディアーチェ。二人揃って素直じゃない者達だ。

 悪戦苦闘して食事していた青年も、話してる内に少しは消化も進むだろうという希望的観測から、会話に加わり始めた。

 

「『魄翼』。人の内には魂魄、魂と魄があると言われてる。

 魂は陽、天、心、聖。

 魄は陰、地、体、魔。

 魄の方は感情でも表され、喜、怒、哀、懼、愛、悪、欲。

 現代で俗に『人らしさ』を感じられると言われるそれらが、魄であるとも言える」

 

 砕け得ぬ闇は一種の魔のものであり、闇そのものであるがために究極の陰でもある。

 

「夜天の王に類するものが持つという黒翼……ディアーチェにもそれがあるだろ?」

 

「うむ。だがこの翼は我だけのものだ。オリジナルは関係ない。そこは訂正してもらおうか」

 

「ん、悪い。魄翼はこれを模したものか何かであると思う。

 赤く光る、(そら)に舞い上がるための、体外(たいのそと)の翼。

 (たい)の延長で使える、(たい)と繋がらぬもの。

 魄の性質でそれを作るということは、世界そのものに反する存在を作ることに他ならない」

 

 魔法とは、世界法則を捻じ曲げ在りえない事象を引き起こすもの。

 そのため、世界の在り方をよく理解した上で組み立てられた魔法は強力であり、同時に魔導に精通する者によりよく理解されることになる。

 

「神魂胎魄だ。

 あれは光り輝く翼だが、同時にこの上ない魔、比類なき闇でもある。

 魔力で構築された不定形の物でありながら、確たる実体を持つ……砕け得ぬ闇そのもの」

 

「しかしあれよね、あんたが頭良さそうな発言してると違和感が凄いわぁ」

 

「お前オレと出会って一日も経ってないくせに、オレのこと分かった風に言うのな……」

 

「さんざんわたしをファッション何々と言ってたあんたがそれを言うか」

 

 たまに真面目に話したと思えば周囲の反応がこれである。

 普段の彼の言動を考えれば、残念でもなく当然と言えよう。

 

「で、これからの予定なんだけど。時間をかけてわたし達の本拠に帰ろうかなって」

 

「時間をかける? なんでだ?」

 

「うぬの体調の問題だ。

 これからは施設内で数時間かけて貴様の体を治癒。

 睡眠や食事、我ら三人の近隣哨戒などを除いた時間で行軍することになろう」

 

 青年は目を丸くする。そういう風に気を使われるのは予想外だったのだろう。

 ここからアミタとキリエの本拠まではそこそこ距離があるらしく、闇の書の闇が体内で活性化している今の青年に、大きな負担がかかる強行軍は厳しいらしい。

 なので、人間を保護するための拠点を幾つか経由して、適度に彼を治癒しつつ、ゆっくりめのペースで目的地に向かおうとしているようだ。

 

「そんなオレに気を使って貰わんでも……」

 

「二日もあれば到着しますよ。

 シュテルさんの封印もすぐには解けないようなのだとか。

 王様が星や封印を少し調べていたようで、王様のお墨付きです!」

 

 アミタの表情や雰囲気からは、迷惑のめの字も見当たらない。彼女は本気で、他人の体を気遣い、他人の役に立てることを喜んでいるようだ。

 キリエも面倒そうにしているが、これもファッション嫌みでしかないため、彼女も内心ではそれなりに彼の体調を心配してくれているようだ。

 

「貴様が気に病む必要はない。

 砕け得ぬ闇はこの世界でいつの日か暴走するのは、自明の理よ。

 そうなれば、この二人が世界のために戦い破壊されるのもまた確実。

 うぬはその魔法をもって、この二人に"もう一度の機会"をやったのだ」

 

「うんうん、その通りです!」

「えー、わたしは感謝なんかしないんですけどー」

 

「ファッション恩知らずとそのお姉ちゃんに恩着せたつもりはないんだけどな……」

 

「ファッション恩知らず!?」

「この姉妹は貴様に感謝しておるのだ。素直に受け取っておくがいい。

 共に命をかけて戦ったことで、少なくない仲間意識もあろう。気にする必要など無いのだ」

 

 加え、ディアーチェも彼という足手まといを抱えてゆっくり進むことに異論がない様子。

 

「ああでも、こう言われてみれば王様が気にしないのは意外ですね。

 王様は優しいですけど素直じゃないですし、口だけでも反対するかと思ってました」

 

「言うではないか、鉄屑にするぞ?」

 

「わたしもそれは思ったなー。

 我に見返りが何もないではないか、とか? 口だけでも言うかと思った。

 王様、お人好しに見られたくない人なんだと思ってたし」

 

「貴様ら、姉妹揃って……! ま、まあいい。

 何の見返りもなしに我が動かんということは、確かな事実よ。

 我が主。我は全ての闇の者の頂点として、貴様に相応の報酬を求めるのだからな」

 

「なんだ? アカウントくれって言われても断腸の思いで一つしかやらんぞ」

 

「いらんわ! そうではない!」

 

 彼があまり使っていないアカウントを一つやろうとするという、天地創生に匹敵することを行おうとしていることからも、彼の中のディアーチェに対する評価の大きさが伺える。

 だがディアーチェは、そんなゴミに見えるものよりも、もっと別のものを欲しがった。

 

「『名』を寄越せ」

 

「名前?」

 

「そうだ、シュテルのように、我にも姓を付けるがいい。

 我らはマテリアル。その名は一貫してシステムに付けられたものだ。

 "この世界に本来の形で生まれなかった我ら"は……

 "人としての名を貴様に付けられる"ことで、心の中で一つの区切りをつけるのよ」

 

 名とは、区切りだ。

 それを付けることで、何かをそこから始めることができる。

 彼の人生の中でも、そういう場面はいくつもあった。

 

「我らは本質的にはプログラム。

 意識の持ちように一区切りが付けば、それ以外に変わるものもあろう。

 我にうぬが名を付けるという行為が、我という存在に未来の変革をもたらすのだ」

 

「名前、名前か……」

 

 青年は以前願いを込めて、シュテルにスタークスの名をやった。

 が、実は後になってから「もうちょっと女の子っぽいのにしてやればよかったかな」と思ったりもしていた。シュテルがその名を大いに気に入っていることも彼は知っているが、それでもディアーチェの名付けにその反省を活かさずにはいられない。

 

 ふと、彼は一人の親友と昨年あたりにした会話を思い出す。

 幼少期に彼の人格形成にも関わった、もう十数年親しい付き合いを続けている男……クロノ・ハラオウンとの会話である。

 

 クロノは船を見せて言った。これが局の新造艦であると。船の名はクラウディア。

 いい船じゃないかと青年は言った。そして、その船の使い道を色々と考えてみたりした。 

 「このクラウディアはアースラみたいに壊されないといいな」「おい馬鹿やめろ」と、船の前であれこれと話した記憶があった。

 

 船には女性の名を付ける。時空管理局にも、地球の西洋で生まれたこの鉄則は存在した。

 アースラやクラウディアも、女性を示す名前である。

 何故船に女性の名を付ける慣習が出来たのか?

 一説には、男と共に未知の世界を切り開く、男が導いてやらねばならない存在。あるいはそれが失われると、男が溺れてしまう縁の下の力持ち。そういうものであるからだという。

 

 青年は、クロノが命を預けていた船の名前を思い出し、その英語読みの名を口にした。

 

「『クローディア』、ってのはどうだ?」

 

「……ふむ。クローディアか」

 

 彼がディアーチェに初めて抱いた色の印象は、紫と(クロ)

 その印象と、女性らしい響きのある名前を選んだのだが、彼の予想以上にその名前はディアーチェ受けが良かったようだ。

 

「悪くない。だが、我の名を他人にだけ任せるのも癪であるな。

 ミドルネーム。そう、ミドルネームが必要だ!

 王としての我にふさわしいミドルネーム……そう、(キングス)

 今日より我の名は、ディアーチェ・K・クローディアである! 敬意を込めて呼ぶがいい!」

 

「す、凄い!」

「何の臆面も無く自分の名前にキングスとか入れてる……!」

 

「ふははははっ! もっと褒めるがよい! このディアーチェ・K・クローディアをな!」

 

 コイツクッソキャラ濃いな、と、青年は他人事のように思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませれば、彼らも移動を開始する。

 拠点から拠点へと移動するには、当然死の大地の上を通らなければならない。

 拠点内なら非人型ギアーズに生活の補助をしてもらえていた青年も、外まで付いてきてもらうわけには行かないわけで。魔法のフィルターを張るディアーチェに抱えられ、またしても吊られたまま空の旅と相成っていた。

 

「敵性体発見。キリエ、王様、かっちゃんさん、気をつけて!」

 

 警戒も兼ねて一番前を進んでいたアミタが、声を張り上げる。

 同時に、彼女の目が捉えた映像がデータとして全員に送られた。

 彼らの進行方向から向かって来るのは、地面を走り、飛んでいるかのように跳ねて進んで来る青い群れ。

 

 つまり、サメである。

 

 かつてこの星にまだ人がたくさん居た時に、「B級サメ映画が現実になりやがった!」と散々言われ、最終的に一千万を超える人間を捕食したとも言われる水陸両用殺人災害であった。

 その牙は鉄骨を噛みちぎり、その肌はバズーカの直撃にも耐え、その体は宇宙空間での生存さえも可能であるという、恐るべき海の王者が群れを成している。

 

「消え去るがいい、邪魔な塵芥ども! アロンダイトっ!」

 

 しかし、無力な無数の人間に群がるならまだしも、空を飛ぶ非常に強い者達に群がるのであれば、サメも所詮まな板の上の鯉である。

 

 人類最高クラスの魔力を持ち、遠隔広域攻撃の技術であればシュテルにも比肩するディアーチェの砲撃が、まずサメの群れのど真ん中を一直線に消し飛ばした。

 誘爆効果もあったらしく、誘爆した砲撃の一部が次々とサメを消し去っていく。

 

「うわあ、ウーンズがオレの腕を吹っ飛ばした魔法の原型じゃねえか……」

 

「貴様が腕一本失った程度の想い出をうじうじ思い出したりするものか、たわけ。

 適当にうんざりした声を出すくらいなら、その労力で我を褒め称えるがよい」

 

「ディアーチェちゃんかっくいー」

 

「ちゃん付けで呼ぶな!」

 

 無い腕が痛み始めた青年の頭を、からかわれたディアーチェがはたく。

 

「仲良いですね、あの二人」

 

「仲良いのはいいんだけど、からかってるとあのバカ落とされ……あ、落とされた」

 

 アミタとキリエもまた、双銃を構えて遠距離戦に徹して戦っていた。

 二人がディアーチェ達を見ていると、我慢ならんとばかりに王様が青年を投げ捨てる。

 落下する青年がサメに食われそうになり、見捨て切れなかったディアーチェが再度青年を拾い上げるのを見て、なんだかんだあの二人仲良いなあと姉妹は思うのであった。

 

(しかし、凄まじいものです。

 私とキリエだけで、これほどの数を仕留めきれたかどうか……

 やはり、あの二人が『特別』なのだということなのでしょうか)

 

 アミタは考える。

 

(かっちゃんさんが居ると、そのエリアの悪性生物が私達に寄って来る。

 そのため、普通の人の危険性が相対的に減ります。

 王様は広域攻撃が得意。

 寄って来た敵の殲滅速度だけなら、シュテルさんより上かもしれません)

 

 ディアーチェの魔導スタイルは広域攻撃型。

 はやてほどの指揮能力や連携能力はないものの、その分個人戦闘力が飛び抜けているようだ。

 その資質は、凶暴な生物が無数に群がってくるこの世界の特性に、非常に噛み合っている。

 

「こんだけ投げられたのは、キョウさんと道場で遊んでた時以来だぜ……」

 

「キョウさん? 何者だそやつは。我も聞かん名だな」

 

「高町恭也。オレの知る限り最高クラスにかっけえあんちゃん……ん?」

 

 からかうことでこっそりとキリエやディアーチェの人格を把握するという事をしていた青年だが、全てのサメが蹴散らされた頃合いに、遠く彼方に群生する森の存在を認識した。

 

「おお、この世界に来て初めて森を見たぞ」

 

「あれは普通の森じゃないですよ。『死蝕の森』と呼ばれるものです」

 

「死蝕の森?」

 

「一説には死蝕の中心とも言われている、猛毒の森です。

 あの周辺は飛び抜けて死蝕の効果が濃く現れているんです」

 

「しかもじわじわ広がってるのよねえ、アレ」

 

 森は、森林限界や強度限界の法則性を完全に無視し、どこにでも生え、どこまでも大きくなろうとしながら生えていた。

 青年に見えている範囲でも、高さ500mほどのものが平然と生えている。

 森からはおぞましい障気が漏れ、森が生えている周辺の大地は特に腐敗が酷い。

 ただの人間が近付けるような場所でないことは、一目瞭然だった。

 

「……あんな醜悪が広がっておるのか。目障り極まりない」

 

「死蝕と同じよ。広がらなければ可愛いもの。

 でも、森も死蝕も広がるものだから……人が住める場所がどんどん減っていく」

 

「おかげで現在残された人類保護区も、あと一つしか残っていません」

 

「あと一つ……」

 

「そこにまで死蝕が及んでしまえば、この星の人間は滅びます。……進みましょう」

 

 もはやこの世界に、人が生きられる場所など、数えられるほどしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点から拠点の移動が終われば、清い水でしか生きられないヤゴ並みの衰弱ボーイである課金厨の休養タイムだ。

 

「はい、機械に接続完了。

 苦しいところはない?

 痛いところは?

 何かあったらそこのスイッチを押せばいいわ。

 余計なことを言うあんたにも優しくするなんて、ああ、わたしはなんて慈悲深い……」

 

「お前本当にいいとこのお嬢様が変にこじらせました、みたいな奴だよな」

 

「外に叩き出すわよ!?」

 

 からかわれてる最中にもその目に色々と見透かされている気がして、青年の目から逃げるように、キリエは部屋から出て行った。

 

「……ああいうこじらせ方したことに、理由でもあんのかね」

 

 話している内に本質的な理解を深めてきたのか、青年が独りごちる。

 すると、キリエが開けっ放しにしていったドアの向こうから、今の呟きを聞いていたらしいアミタがやって来た。

 

「色々あったんですよ、キリエも。

 昔は私より素直で単純だったくらいなんですが……

 真面目で責任感がありすぎたことが、裏目に出てしまいまして」

 

「キリエが?」

 

「死蝕の影響。

 その犠牲になった人達。

 終わりの見えない毎日。

 父の……博士の余命宣告。

 キリエは色んなことを真面目に考えすぎてしまったんです。

 "いい子にして生きていくなんてバカみたい"なんて言ってしまうくらいに」

 

「ああ、なんか分かるわ。お姉ちゃんも大変だな」

 

「いえいえ、やってみると楽しいものですよ」

 

 青年の中で姉と言えば、自分やなのはに姉貴風を吹かしていた高町美由希のイメージが強い。

 美由希とアミタの髪型が似ているのもあって、彼はアミタに"いい姉"という印象を持っていた。

 

「体の状態はどうですか?」

 

「すこぶるいいな。すぐ悪くなりそうな気もするが」

 

 エルトリアの科学技術――正確にはフローリアン博士の技術――レベルは非常に高い。量産可能なものでさえ、ロストロギア級の技術が使われているほどだ。

 そこに魔法ストレージ・夜天の書と同様に多様な魔法を使えるディアーチェが加われば、闇の書が彼の体内をいくら食い荒らそうと元に戻すのは容易であった。

 

 とはいえ、すぐには終わらない。

 一日に合計数時間は必要になるだろう。

 アミタは機械に繋がれた彼の横に――膝を抱えて床に――座ったが、彼女は何も言わず、当然治癒もすぐには終わらず。二人の間に無言の時間が流れ始めた。

 

「……」

 

 彼は待つ。

 彼女は言葉を選ぶ。

 時が流れる。

 彼は急かすことなくアミタの言葉を待って、アミタは自分の中の気持ちを最も正しく表現できる言葉を選んで、ゆっくりと口にした。

 

「許せなかったんです」

 

 アミタの言葉は、砕け得ぬ闇……その向こうの、ウーンズへと向かっていた。

 

「人間同士の親子なのに……

 ちゃんとした、人間なのに……

 血の繋がった、かけがえのない家族であるはずなのに……

 一人の人間である娘を、道具のように扱う、酷い父親というものが」

 

 許せなかったのだと、彼女は言う。

 彼女にも見えたのだろう。

 妻を殺し、娘を生贄にし、今もなお娘を望まぬ破壊に向かわせる、一人の醜悪な『父親』の姿が―――その妄執が。

 

「私とキリエには、お父さんが居ます」

 

「何度か話に出てた、博士のことか?」

 

「はい。私とキリエは博士を父と慕っています。

 そして、世界を救う父のことは敬意を込めて、博士と呼んでいるのです」

 

 青年は、少し驚いた。

 父のことを語るアミタの表情が、一度も見たことがないくらい、幼いものに見えたからだ。

 

「博士は紛れもない天才だったんですが、どこか抜けてるところがありまして……

 ある日、新型の環境復旧機械を作るつもりが、凝りすぎてしまったらしくて。

 人と同じ生活を送れる体、人と変わらない心をうっかり実装してしまったのだと聞きました」

 

「それが、アミタとキリエか」

 

「はい。

 博士は私達を、一人の人間として扱ってくれて……

 一人の娘として愛してくれて……

 血の繋がりがなくても、人と機械でも、家族になれるのだと私は知りました。

 私は十数年生きてきましたが、博士以上の『父親』を、他に知りません。

 あの人に作られた、あの人の娘であることは……私の、一番の誇りです」

 

 アミタは父のことを誇らしそうに語る。

 そして一転、正義感に似た怒りを顔に浮かべて、ウーンズのことを口にする。

 

「だから、許せなかったのかもしれません」

 

「オレが言って説得力あるか分からんが、あれは許せないのが普通だと思うぞ」

 

「そうでしょうか?」

 

 アミタは泣いている子を見過ごせなかった。

 泣かせている大人を見過ごせなかった。

 彼女自身がその熱量を正しく吐き出す方法を見失ってしまうくらいに、彼女の内に滾る正義の熱血は、燃え盛る想いを内包している。

 

「単に"気に入らないからお前殴るわ"でいいだろ、別に」

 

「ええ……それでいいんでしょうか」

 

「いいんだいいんだ。どうせもうそうしなきゃならんくらいに手遅れだし」

 

 青年はその想いを、戦いに向けるよう進言する。

 アミティエ・フローリアンにはまるで危ういところがない。

 彼女の根幹は常に地に足着いていて、何か失敗したり落ち込んだりしても、最終的には一人で立ち上がれるような心を持っていた。

 まるで、高町なのはのように。

 

 自分一人でも立ち上がれるが、他人の言葉を貰えばもっと早く立ち上がる。

 放って置いても前に進むが、他人と話せばもっと早く前に進んでいく。

 確かな協調性と独立性の両立。

 世の中こういう人ばっかりだったら楽なのになあ、と青年は思う。

 

(極力皆笑って仲良くしてくれよって想うけど、本当に時々……

 どうしようもないくらいに皆の笑顔を奪う人間が出てくるんだよなあ……

 なっちゃんでさえ戦わなければどうにもならないってのが、本当にアレだ)

 

 どうしようもない悪者も居れば、それと対になるヒーローも居る。世の中とは本当にバランスを取るように出来てるもんだと、青年は心の中で溜め息を吐いた。

 話し合うことで全ての人間が分かり合える世の中だったなら、高町なのはは魔法の杖なんてものを握ることはなかったのだと、彼は知っていたから。

 

「ゲンコツの使い方は二種類だ。

 悪い奴をぶっ飛ばす時。

 そして、誰かの目を覚まさせる時だ。

 アミタは砕け得ぬ闇を殴った時、どっちの拳を叩きつけたんだ?」

 

「……私は」

 

 高町なのはをずっと見ていた彼には、あの時アミタが叩きつけた拳が、『目の前の敵を倒す』という想いだけで放たれていなかったという事実が、見えていた。

 

「……ありがとうございます、かっちゃんさん! 心のもやもやが晴れた気分です!」

 

「役に立てたんなら何よりだ」

 

 どうせ誰にでも言えることだしな、と彼は心中で独り言ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年がジュエルシードお手玉などの一発芸――新人歓迎会局長挨拶用の秘技――を見せ、アミタがやんややんやと面白がる。

 アミタの武勇伝を聞き、青年が"おお"と感嘆の声を上げる。

 そんな時間が、ちょこっと過ぎた。

 

「ここの施設には何があるんだ?」

 

 青年がそう言うと。

 

「お任せ下さい!」

 

 とアミタが過剰に気合を入れる。

 アミタは病人運搬用のギアーズを呼び、この施設内でしか使えないが、移動と治癒を同時に行う機械に青年を乗せて運び始めた。どうやら施設を案内するつもりらしい。

 青年が「やべえこれフリーザ様が乗ってプカプカ浮いてたやつに超似てる……」と呟く内に、アミタはサクサク施設の内部を案内していく。

 一日も居ない施設なのだから、案内する意味などまるで無いのだが、二人が個性的かつ会話が噛み合う同士であったためか、そこそこに楽しい時間となっていた。

 

「ここは自然室です」

 

「自然室?」

 

「人工の自然と天然の自然を合わせ、かつての星の姿を取り戻している部屋です。

 人の心は不思議なもので、残酷な風景だけを見ていると心がまいってしまうんです。

 なので、博士の発案で作られた、リラクゼーションルームみたいなものですね」

 

 ドアを開けると、その向こうには春の光景があった。

 

「これは……凄いな」

 

「でしょう?」

 

 流れる小川。

 草の生えた土手。

 数本の木が見える道。

 空には青空、太陽、白い雲が見える。

 どこからどこまでが人工物で、どれが天然の物で、風景のどこからが投射映像なのか、青年の目を持ってしてもひと目では看破できそうになかった。

 

「あ、キリエ、王様!」

 

 そして奇遇にも、ここで話をしていたらしいキリエとディアーチェに合流する。

 アミタの声にキリエは振り向いたが、ディアーチェは一瞥しただけで、座り込んだまま川を見つめ続けていた。

 

「あ、いいタイミングに来たわね」

 

「いいタイミング?」

 

「今ちょっと話をしてたのよ。

 砕け得ぬ闇じゃなくて、ユーリ・エーベルヴァインちゃんのこと」

 

 闇の書、ひいては永遠結晶に取り込まれた後のユーリではなく。

 取り込まれる前のユーリのことを、キリエは知りたがっていた。

 おそらくは、『助ける』という決意を固めるために。

 

「聞かせてくれない? あの子とあなたの関係ってヤツ」

 

「……そうだな」

 

 その気持ちを、彼は嬉しく感じる。

 

「少し、長くなるぞ」

 

「べっつにいいわよーそのくらい、こっちから頼んだんだし?」

「どんとこいです!」

 

 目を閉じて、一つ一つ想い出を想起し、順序立てて話し始める青年。

 だが姉妹と違って、ディアーチェはさしたる興味も無いようだった。

 

「くだらん」

 

 ディアーチェは『そんな話は聞くまでもない』と言わんばかりに、草の生えた土手に横になり、瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で、ディアーチェは現実とは違う姿をしていた。

 はやてを真似た姿ではなく、少女の姿ですらない、男の姿。

 王のマテリアルとして、彼女はクラウス・G・S・イングヴァルトの形を真似ていた。

 

「ベルカ」

 

「ああ、分かってる。死ぬなよ」

 

「君もな」

 

 二人の男の会話が、その絆が、強く記憶に残っていた。

 王のマテリアルは負ける。

 クラウスの強さを完璧にコピーしたはずなのに、負ける。

 戦いの中で成長する覇王に、いとも容易く負けていた。

 

『我は負けた。覇王に負けた。同じ力であったというのに、負けた』

 

 心以外の全てを完全にコピーして負けたなら、敗因は心以外にありえない。

 

『何故、覇王は……弱いままに、あんなにも強くなれたのか』

 

 "憧れ"というバグが生まれる。

 覇王への憧れはマテリアル誕生の可能性が消えたことで、塵と消えた。

 だが、可能性を拾い集めた彼の課金召喚により、それはこの世界に蘇ったのだ。

 闇を統べる王と共に。

 

『我は問いたい』

 

 王は孤高であるべきだと、一般論がプログラムの内を渦巻く。

 だが同時に、あの時の覇王の強さに感じたものが、それを否定する。

 

『真に偉大な王となるためには……王に、対等な友は必要なのか?』

 

 あの時。

 戦ったあの時。

 クラウスの隣には誰も居なかった。

 だが、クラウスの心の隣には、一人の男が確かに居たのだ。

 王のマテリアルには、それがしかと見えていた。

 

『要るのならそれでいい。

 要らないのならそれでいい。

 だが……我は、王を名乗りながら、何も知らない。人から認められる王の資格など、何も……』

 

 王とは強欲であってこそのものだ。

 彼女は欲しがった。あの日覇王を強くしたものを欲しがった。

 彼女の人格と能力のベースになった、八神はやてと『彼』の性格の相性の良さが、乱雑なその強欲を少しばかり人らしい方向性に整える。

 

『あれが、我の手元にあれば』

 

 "対等な友"を、彼女は欲した。

 

『我は、覇王よりも偉大な王となれる。なれるはずだ。なりたいのだ』

 

 "偉大な王となること"を、彼女は決意した。

 

『那由多の可能性の壁を超え、我を呼んだ貴様なら、その答えを知っているのか?』

 

 本来在るべき臣下が誰も居ないこの世界で、彼女は己を叱咤しながら強がって胸を張り、見失った王道を探し求めていた。

 

 

 




今元の世界では
「かっちゃんの通帳の残高が一つ消えた」
「預金の霊圧が……消えた……?」
「なん……だと……?」
「いやまて、リーダーは三つ口座を持っていったはずだ!」
「救援隊の編成を急ごう。もし三つの口座が全部空っぽになったら……」
「大変だ! 時空の穴が消えかけてる!」
「なんだって!?」
とシリアスな展開が繰り広げられ、ちょっとした騒ぎになっています
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