課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

67 / 69
 この作品における主人公のヒロインはある意味一人です。主人公とヒロインは古代ベルカ以外では極力一緒に居させるようにしていました


課金が……否、君が好きだと叫びたい

 創作の世界において、神気取りの者は噛ませ犬になりやすい。

 出し惜しみをして負けることも多い。

 人の可能性とやらに力量差をひっくり返されることもしょっちゅうだ。

 その点、再始は笑えないくらいに容赦がなかった。

 

 ノーモーションでの初撃は、宇宙よりも上の規格である世界を一瞬にして消滅させるほどの威力があり、再始に立ち向かう人間を一瞬にして一人残らず消し飛ばしていた。

 

「こんなものだ、お前達など」

 

 物質界を超越した形而上の戦場で再始が呟く。

 この戦力の一千万倍でも戦いにはならないと、再始は言った。

 その言葉が嘘ではないことを、再始は一撃にて証明してみせる。

 再始はそうして指を鳴らし、自分が消し飛ばした全ての敵を、一瞬にして蘇らせた。

 

 生も、死も。

 再始の前では、電灯スイッチのオンオフ程度のものでしかない。

 

「―――!?」

 

 蘇った者達は、今の一瞬で再始の力を痛感し、自分が死んで蘇らされたという実感を持つ。

 ぶわっと冷や汗が吹き出して、全ての者が心胆寒からしめられていた、

 

「一度殺しただけでは不安でね。念の為に徹底してすり潰させて貰おう、人間達よ」

 

 仲間を助けに来た者も、死を恐れない者も、思わず一歩後ずさってしまうほどに、再始はどこか何かが違う。

 たった一撃で、戦場の空気は凄惨に塗り替えられていた。

 

「臆するな! 諦めるな! 膝を折るな!」

 

 尻込みする弱者達とは対象的に、前に踏み出す強者も居る。

 その中でも一際目立つディアーチェが、皆の頭上で大きく声を張り上げた。

 

「絶望的な戦いなどいつものことよ!

 其奴が油断と慢心からこちらを舐めてかかっているなら好都合!

 抗えばこの強さにも付け入る隙は見つかるはずだ! かかれ!」

 

 王の声が、皆の戦意を奮い立たせる。

 

 ディアーチェが作ったいい流れを、覇王クラウスの声が上手く繋げて前を向かせた。

 

「行くぞ皆! 撃て!」

 

 名もなき魔導師達、名も無き兵士達が一斉攻撃を行う。

 鉄槌、炎剣、拳、風の魔法。

 王に連なる者も全力攻撃。

 エルトリア勢も最初から後のことを考えないフル攻撃を投射。

 悪人達も、かつて世界を脅かした力を今は彼を守るために使う。

 世界砕きのエグザミアを含めた、規格外の一斉攻撃だ。

 

 星の形を容易に変える火力と数の集中砲火は、一発も外れることなく命中し、再始の全身をくまなく攻め立てる。

 

「お前達にとっての絶対防御は私にとっては薄い紙未満。

 お前達の必殺攻撃は私にとってはそよ風未満。

 神速は停止に等しく、魔法は児戯にも満たず、炎熱はぬるささえ感じない」

 

 喋る余裕を奪ってやろうと、彼らは全力の攻撃を継続するが、それさえ気にせず語り続ける再始の不動の姿に、逆に力の差を思い知らされてしまう。再始は微動だにもしない。

 彼らの攻撃は髪も揺らせず、服も揺らせず、当然再始を怯ませることもない。

 星も動かせる大火力を受け止めながら、再始は一歩も動いていなかった。

 

 再始は反撃に、周囲全ての空間を溶解させる。全ての空間が溶解したことで、空間内に存在していた者達は皆死に耐える。

 ベルカの王も、エグザミアの所持者も、抵抗さえ許されないような広範囲即死攻撃だった。

 そして皆殺しの後には、また皆殺すための蘇生が行われる。

 

「消したはずの世界の者達よ。

 君達は単純に消し飛ばしはしない。

 二度と蘇って来ないよう……何度も念入りに消してあげよう」

 

 何度も蘇らせ、何度も潰す。

 二度と蘇ることがないように、念入りに繰り返して何度も潰す。

 再始の目的はそこにあった。

 

「舐めたことを……後悔させてやれ!」

 

 信じられない次元の強さの敵に、彼らの心は挫けそうになるが、隣で吠える誰かの声を聞くことで奮い立ち、歯を食いしばって立ち向かい続ける。

 次第に彼らの攻撃は自分に出せる最大最強の攻撃を、ただそこに立っているだけの再始に叩き込むだけの戦いにシフトしていった。

 

 なのに、再始は小揺るぎもしない。

 爆風の中に居るはずなのに、髪も服も揺れやしない。

 "ありえないくらいに歯が立たない"と、この異常事態に心呑まれる者も出始めていた。

 

「おかしい……おかしいでしょ、これ!

 収束砲を至近距離からぶつけても、なんで髪一本揺れもしないの!?」

 

 かつて、絶大な強敵と戦い、最後は勝って来た戦士達が焦り始める。

 彼ら彼女らの感性は、この敵が尋常ではないことに気が付いていた。

 敵の驚異的に硬い防御に攻撃し、嫌な手応えを感じたことはあった。

 敵の圧倒的な攻撃に絶望し、膝を折りかけたことはあった。

 

 だが、この再始は、そういった実感のある次元の強さではなかった。

 直撃させ、いい手応えも感じているのに、服をなびかせることもできない。

 "どんな攻撃をしても意味が無いという確信に近い実感"。

 この敵からの攻撃は、世界を一瞬で消して気まぐれのように戻すというもの。

 "死んだ実感があるのに、一瞬すぎて痛みさえ感じない"。

 何もかもがおかしくて、何もかもが違う次元の存在だった。

 

「幻術か!?」

「いや、実体だ!」

「偽物であるのなら、ここまで分析すればそうと分かるはずだ!」

「じゃあなんだよあれは! なんなんだ!」

 

 効かない。新旧スカリエッティや、最上級の力を持つ古代ベルカの王、マテリアルにフローリアン姉妹、エグザミアのユーリetc……規格外を山ほど積み上げても、再始には傷一つ付けられていなかった。

 

 防御されているわけでもない。

 届いていないわけでもない。

 何かの能力が使われているわけでもない。

 

 ただ単純に、()()()()()。それだけだった。

 

 存在の次元が違う彼らと再始は、言うなればゲームのキャラクターとプレイヤーの関係である。

 ゲームキャラクターである彼らは、画面の中から画面の外の再始に攻撃をしかけようとするが、画面に阻まれ届かない。

 キャラクターは作中でどんなに厚い壁を壊せても、ゲーム画面という名の壁は超えられない。

 だから、彼らの攻撃は効いていないのだ。

 

 なのに、再始(プレイヤー)はゲームの電源を点けるも消すも自由自在。

 ゲームという世界を残すも消し去るも、彼の一存で決まるのだ。

 これで戦いが成立するわけがない。

 再始はその発言の通りに、(プレイヤー)に近い力を手に入れていた。

 

「戦いは、次元が違う者同士では成立しない。

 物語の中では宇宙最強の存在でも、非力で無力な作家の筆にさえ抗えないのと同じように」

 

 クラウスを中心とした、近接特化の攻撃による絶え間ない連続攻撃。

 どれもが再始を傷付けるには至らない。

 再始は神話を模した人間を塩に変える光線を全方位に放ち、この場の人間ほぼ全員を強制的に塩の柱に変え、砕き、殺す。

 そして蘇生する。

 

「絶望的な敵が居てもいいのだ。

 努力と奇跡で覆せるようなものであるのならな。

 だが、絵の中の人物が画家を倒すことはない、次元が違うからだ。

 画家は絵の中の戦士を、一方的に破り捨てることができるというのにな」

 

 ユーリを中心とした、遠距離からでも必殺となる攻撃を持つ者達が一斉に火力を放ち、同時に魔法を放った名も無き兵士達と共に、攻撃を一点に集中する。

 それさえ再始を傷付けるには至らない。

 再始は反物質の雨を降らせ、自分もその雨を浴びながらも無傷。死んでいく者達の姿を無感情な目で眺める。

 ほぼ全員が死んだ所で、死者はまた蘇生させられた。

 

「次元が違う者同士の間で、『戦闘』は成立しない。よくて虐殺だ。

 ほどよく戦力が釣り合ってこそ戦いは成立し、そうでなければ酷くつまらないものとなる」

 

 諦めない者達が抗い、立ち向かい、攻撃し。

 再始がすり潰す目的で皆殺し、蘇生し、また皆殺す。

 スプラッタービデオを継ぎ接ぎにしてループしているかのような、凄惨な光景。

 

「攻撃した、全滅した、決着した。

 私ならこれだけで終わってしまう。これは戦闘か? 見ていて楽しいか? 違うだろう」

 

 再始は気まぐれに星を一つ創造し、その場で超新星爆発を起こす。

 全ての人間が超新星爆発によって消し飛んでも、再試は無傷のままだった。

 再始はまた全員を蘇らせる。

 

「隔絶した厩舎の戦いなど虚しいだけだ。

 起伏のない蹂躙には残酷さしか宿らない。

 君達は、私を倒したいようだが……

 お前達と私の間に今、戦いは成立していると思うか? 私は思わない」

 

 一瞬で全てが消滅し、一瞬で全てが再構築され、一瞬でまた全てが消滅する。消滅の一瞬と再構築の一瞬が無数に連続し、無数に繰り返される。

 殺された側がその一瞬で何度殺されたかを自覚できないほどの連続殺害だ。

 それが、心弱き弱者の膝を折っていく。

 いくら抗おうとも、戦いが成立していない。

 

「無駄なあがきだ、最初から、何もかもが」

 

 消して、蘇らせて、消して。

 蘇らせて、消して、蘇らせて。

 泥をまとめて泥団子にしてから機械で細かくすり潰し、またまとめて機械で念入りにすり潰して細かくし、またまとめて……といった過程に近い、消滅と再生を繰り返す念入りな世界消去。

 過去と未来からの援軍が"どんな奇跡が起きても蘇ってこないように"と念入りに粉々にされ、現在の世界だけでなく過去と未来の世界も念入りに粉砕される。

 

 心弱きものから順に、『二度と蘇れない』状態にまですり潰されていく。

 王が倒れ、強者が倒れ、最後に残ったのは飛び抜けて心と力の総合値が強かった二人のみ。

 すなわち、シュテルとユーリの二人だけだった。

 

「くっ……うっ……!」

「はぁ……ぁ……っ……!」

 

「強い順に二人、残ったか」

 

 この二人以外は、消滅と再生の繰り返しで二度と蘇れないほど凄惨にすり潰されていた。

 奇跡による復活も絆による復活も許さない、あまりにも徹底した破壊。

 シュテルとユーリの二人を消し去れば、それは完成するだろう。 

 

「されどそれも、誤差の範囲」

 

 躊躇いもなく、迷いもなく、驕りもなく、再始はそれを実行した。

 世界さえも初期化するリセットの力を、再試は二人へとぶつける。

 二人の命がリセットされ、掻き消えた。

 これでシュテルとユーリまでもが、完全に消滅させられたこととなる。

 

「これで全てが消えた……と、言いたいところだが。

 流石にしぶとい。仲間に庇われていたのかな、君は」

 

 二人が消えた瞬間、パリンと一つのバリアが割れる。

 その中には、ソシャゲを捨てたことでアイデンティティを喪失し、今にも消えそうになっている青年の姿があった。

 

 シュテルとユーリ。

 未来からの援軍の中でも一際強いこの二人は、戦いの最中に何度も殺されながらも、継続して流れ弾からこの青年をバリアで包み守っていたのだ。

 一度や二度は死んだかもしれないが、まだ完全消滅の兆候も見えず、シュテルとユーリがどれだけ必死に守っていたのかが伺えた。

 

「最後の一人。お前の消滅をもって、この幕を下ろそう」

 

「させない」

 

 諦めない者達は、そんな者達が生きる世界は、どれほどしぶといというのか。

 青年にトドメを刺そうとする再始に、横合いから声がかかる。

 そこには、高町なのはを始めとした、この時代を青年と共に生きた者達……『現代からの援軍』が、ずらりと並んでいた。

 

「消したはずの未来。

 消したはずの過去。

 ……そして今度は、消したはずの現代と来たか」

 

「過去が復活した。

 未来が復活した。

 その両方が頑張ってるなら、じゃあ間にある現代も復活しそうなものじゃない?」

 

「……そんな無茶苦茶な話を、よくもまあ真顔で語れるものだ」

 

 幼少期から彼と付き合いがあった者。

 彼に救われた過去を持つ者。

 彼が子供の頃に面倒を見てやっていた大人達。

 大人になった彼に導かれて育った子供達。

 彼が生きた21年の軌跡が、並べて立てられているかのようだ。

 

「ふふっ、わたし、知ってるのよ。

 無茶苦茶なことが許されるのは、その人が一生懸命生きてるからなの!」

 

 その中には、現代で青年が戦った、青年を憎からず思う悪役の姿もいくつかあった。

 

「シュテルは……もう、やられちゃったみたいだね」

 

「ほう、分かるのか。高町なのは」

 

「分かるよ。シュテルがこんな状態のかっちゃんを置いていくはずがない。

 それに、私がこうして駆けつけられたんだから。

 それなら、私よりシュテルの方が先に駆けつけてないのは、絶対におかしい」

 

 シュテルは彼の近くに居るから、自分より後に駆けつけることは絶対にない、彼を見捨てることも絶対にない、というなのはの揺るぎない信頼。

 シュテルがなのはを信じるのと同様に、なのはもシュテルを信じている。

 この瞬間まで繋げたバトンを、なのははシュテルから受け取った。

 

「この子にだけは負けられない。

 この子になら負けてもいい。

 その両方の気持ちも抱いたのは、シュテルだけだった!

 だから、『かっちゃんを任せられる』って思ったんだから!」

 

 なのはの杖から、桜色の砲撃が再始に向けて解き放たれた。

 フェイトとはやてがそれに続き、他の者達もそれに続く。

 次から次へと湧いて来る者達を払い飛ばすべく、再始もまた腕を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の耳に、声が届く。

 仲間達の戦う声が、仲間達の殺される声が。

 現在の時間軸からやって来た援軍も、再始には歯が立たないようだ。

 一人、また一人と、消滅と再生の繰り返しにすり潰されていく。

 

(……皆)

 

 消えかけていた青年の意識は、皆の声、そして頬に触れる『何か』によって覚醒させられる。

 頬に触れる何かは、小さな光の粒だった。

 その粒を見ている内に、青年は自然と「エレミア」と口にしてしまう。

 エレミアと呼ばれた光の粒は、名を呼ばれたことで、嬉しそうに瞬いていた。

 

(そうか)

 

 この光の粒の正体を、この青年は知っている。本能で理解できている。

 

(『想い』だ)

 

 彼の周囲に浮かぶ、無数の光の粒。

 その一つ一つが、過去と未来から彼を助けに来てくれた者達の想いであった。

 クラウス、オリヴィエの想いが触れて、消えかけだった彼の体が蘇る。

 ソシャゲを失い、自身の定義を失っていた彼を、友の想いが再定義する。

 

(命が潰えても、世界が消されても、歴史が無かったことにされても、想いは消えてない)

 

 生前のヴォルケンリッター。

 フローリアン姉妹。

 元気なレヴィ。

 アインハルトに、ヴィヴィオに、ジークリンデに、トーマに、リリィに。

 他にも、数え切れないほどの多くの者達が彼に触れて力を注ぐ。

 皆の想いが触れる度に、彼は立ち上がる力を取り戻していく。

 

(こんな事件でも起こらなきゃ、誰も証明出来なかっただろうな。

 世界より、時間より、想いの方がずっと頑丈で壊しにくいものだったなんて)

 

 最後に、ディアーチェとユーリの想いが、色合いの違う想いを一つ連れて来た。

 どこからか連れて来たらしいその想いに、立ち上がった彼が触れる。

 ディアーチェとユーリの想いと共に、その想いも彼の中に溶け込んでいく。

 

(たくさんの想いの中に、一つだけ別の色の想いがある)

 

 その想いに触れた瞬間、彼は失われた記憶の全て、想いの全てを取り戻した。

 

(―――そうか。これは……()()()()()()()()()()()か)

 

 自分の想いが、自分を救う。

 最後に自分の想いに触れたことで、彼はようやく本来の自分を取り戻した。

 

(思い出した。そうだ、オレは……だから……人との繋がりを、選べたんだ)

 

 記憶と共に、彼は自分の心が何故ソシャゲではなく絆を選んだのか、その理由も取り戻した。

 

(今のオレにとっては、それが、一番大切なものだったから)

 

 踏み出す足は力強い。

 もう蘇れないほどにすり潰された者達の想いも、彼に付き従い動き出した。

 光の粒を従えて、彼は再始以外の誰もが立っていない戦場に一歩踏み出す。

 

(オレにとっての一番大事なものが変わった、そんな人生があった。

 ようやく……そいつを思い出せた。命よりも大切な想い出を、取り戻した)

 

 万に一つの勝ち目も無くても、諦めずに一億回挑めば勝てる。

 億に一つの勝ち目があれば十分だ。

 かつて、アミティエ・フローリアンが言っていた言葉だ。

 万に一つも勝てない(再始)が振り向いたのを見て、青年は自分の周囲に浮かぶ想い達を呼び水として、想いと同じく形のない"かつての仲間"を喚び叫ぶ。

 

「行くぞ、反撃だ―――来い!」

 

 遠い昔に分かれた仲間、遠い未来に再会を約束した仲間。

 

 『ソシャゲの神』を、彼は召喚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一騎当千、一騎当万が当然の魔導師の集団。

 戦闘機人や武道の達人、古武術の使い手まで混じっている。

 多様さと数と強さの平均値で言えば、現代の援軍は過去と未来のそれを上回っていた。

 されど、それでも、再始には敵わない。

 

 万の兵士に匹敵する規格外も、万の世界を力とする次元違いには敵わない。

 

「格好良く登場すれば、食い下がれるとでも思ったか?

 人の世界で強者だったから、私相手にも戦いになると思ったか?

 想いがあれば、諦めなければ、どんな相手にも持ちこたえられると思ったか?」

 

 再始の攻撃を防ぐことは誰にもできず。

 再始に攻撃を通用させることは誰にもできず。

 押し付けられる死に抵抗できた者は一人も居ない。

 皆死に、蘇らされては殺され、二度と蘇らないようにと念入りにすり潰されていく。

 

「どんな兵士が居ようと。

 どんな兵器を揃えようと。

 どんな訓練を積み上げようと。

 核兵器が落ちれば、全てが抵抗叶わず燃え尽きるだろう?

 私とお前達の間にある力の差は、分かりやすく矮小化すればそういうものだ」

 

 決死の思いで挑み続ける者達の"諦めない"を、再始は"無駄な努力"と断じて溜め息を吐く。

 現代の戦士達を残さずすり潰し終えた時、再始は青年の叫びを聞いた。

 

「行くぞ、反撃だ―――来い!」

 

 振り返れば、そこには神を召喚した男の姿があった。

 

――――

 

『あなたは99のソーシャルゲームにおいて重課金兵として名を馳せた。

 ガチャを引くたび、"当たってくれ"とあなたはゲームに祈りを捧げた。

 他プレイヤーの一部は、あなたの課金額を見て信仰に近い尊敬と畏怖を捧げた。

 それらの行為が、あなたのスマートフォンを世界最新の神へと昇華させたのです』

 

『とはいえ、私も神とは名ばかりのもの。

 あなたが捧げてきた祈りを力に変えられるに過ぎません。

 今日ここで自身の消滅と引き換えに力を絞り出しても、天井は見えています。

 ですが、それでいい。

 私は今日の危機を乗り越えるため、あなたに少しばかりの力を与え、消えていきましょう』

 

『あなたがソーシャルゲームを続けるならば、いずれ蘇る日もあります』

 

『祈りに応え、奇跡を起こすのが神ならば。人の心はその全てが―――神に等しい』

 

『己の内の神に信仰を捧げてこそ、己を信じてこそ、奇跡は起こる。

 他者の内の神に信仰を捧げてこそ、他者を信じてこそ、奇跡は起こる。

 信じなければ奇跡に手は届きません。何故ならそこには、いつだって神が居るのだから』

 

――――

 

 今は居なくても、遠い未来には居ると信じて、彼は神を喚び出した。

 その声が、砕かれた未来から神という名の形而上生命体の欠片を拾い集める。

 かつて生み出された神は、かつて生み出した者の呼び声に応え、再びその形を結ぶ。

 まるで、神話の一幕のように。

 

「これは……人造の、神か?」

 

 青年の課金ガチャの力は神由来のもの。見方によっては再始の力も神由来のものであると言える。これに追いすがるには、別の神の力が必要だ。

 青年はソシャゲの神の加護を受け、再始のそれには及ばないものの、次元違いの力の差の大半を埋めることに成功する。

 

「最初の世界でしか発生しなかった儚い神。まさか、こんなものを持ち出してくるとは」

 

『私は過去に彼が生み出した神であり。

 未来で復活し、最近ミッドで一戸建ての家を買ったソシャゲの神でもあります』

 

「お前久しぶりに会ったと思ったら未来でちょっと愉快な奴になってんのな……」

 

「神の力……成程。私に奪われた神由来の力の分を、そう補ってきたか。

 それならばあるいは、私相手に勝てないまでも多少は食い下がれるかもしれない」

 

 今、再始と彼の間にある力の差は『圧倒的』程度にまで縮まっている。

 次元違いと言えるほどの力の差はない。

 だが、まだ明確な力の差があることには変わりない。

 

「だが、既に手遅れであると思うがね。

 過去・現在・未来の世界も念入りに再消去しておいた。

 もはやお前を助けに来てくれる者など、誰も居ない。とうにお前は詰んでいる」

 

「そいつはどうかな」

 

 青年がニッと笑うと、彼の周りに集まった光の粒が、一斉に発光を始める。

 それは想い。

 一つ一つが、一人一人が抱えていた想い。

 再始が次元の違う力で、一方的に蹂躙して潰した者達の想いだ。

 

「オレを助けてくれるやつが居ない?

 違う、そうじゃない。

 オレを助けに来てくれたやつは、一人もこの場から消えてなんていないんだよ」

 

「―――これは」

 

「まだ誰も諦めてない。まだ誰も投げ出してない。だからまだ、皆戦える」

 

 二度と復活しないようにと、消滅と再生を幾度となく繰り返したのにこれだ。

 再始は目障りな光の粒に、世界さえ消し去る光線を放つ。

 収束されたそれは直撃し、想いを消し去ろうとするが……消えない。

 世界を砕く力でも、その想いは砕けない。

 

「……何故、消えない」

 

「世界を消しても、想いは消えない。

 オレもそうだった。だから全てを忘れても、最後の選択は間違えなかった」

 

 世界を消して、過去を無かったにして、全てをリセットして……それでも、残るものはある。

 でなければ、今の世界を消した後に過去と未来の世界から戦士が来れるはずがない。

 過去と未来の奮闘に呼応し、消したはずの現代世界の者達が参戦できるはずがない。

 全ての記憶を喪失した彼が、ソシャゲではなく繋がりを選べるはずがない。

 彼となのはが、何度も出会えるはずがない。

 

 想いが残っていなければ、こんな奇跡など起こるものか。

 

「『相』手の『心』と書いて、想い。

 他人が居て初めて生まれるそれは、繋がりの力」

 

 再始に立ち向かう青年の内に、力が宿る。

 神の力がその右腕に。

 想いの力がその右手に。

 不屈の心がこの胸に。

 それぞれ宿り、彼の意志で解放される時を待つ。

 

「命が消えても、世界が消えても、歴史が消えても、心はそれを覚えてる」

 

 最強の個と、最多と共にある青年の視線が衝突する。

 

「ひとりぼっちでいくら物事を考えても、それは所詮個の思考!

 心にはならない! 想いにもならない! 想い出も何も残らない!

 お前は一人だ。一人だから……お前に、この想いは砕けない!」

 

 古代ベルカの時代において、青年はジェイルと一つの会話を交わした。

 

――――

 

「未来から来たならば知っているだろう? 古代ベルカが、滅びることくらい」

「この時代、この世界も、いずれ滅びる。

 君が守ったこの世界も、シュトゥラもだ。虚しくないのかい?」

 

「いつか滅びるものに価値が無いだとか、お前はバカか?」

 

「ソシャゲだっていつかは終わる。

 いくら課金したって、いつか必ずなくなるもんなんだ。

 愛したソシャゲも、課金して掴み取った最高レアも、いつか必ず泡のように消えるだろう」

 

「だけど、この瞬間が楽しいことに変わりはない。

 その一瞬に笑顔になれることに変わりはない。

 それが手元に何も残らない虚構の価値だったとしても、そこに喜びがあった事実は変わらない」

 

――――

 

 青年は、昔からずっと言っていた。

 形あるものが何も残らなかったとしても、意味はあると。残るものはあると。

 それがソーシャルゲームであると。

 世界も命も消えたのに、ここに残る想いの群れが、その思考が正しかったことを証明する。

 

「……砕けないだけのただの想いに、何ができる!」

 

「集え、皆の想い。形となれ、オレが越えて来た物語」

 

 再始が、この世界に内包される全ての次元世界を消し飛ばした、消滅の一撃をビームの形状にして放つ。

 収束されたことで、その威力は世界に対して使ったとしても過剰火力と言えるほどの威力になり、青年に向かって亜光速で飛んで行く。

 それに対し、青年は静かに迎撃を行うことで対処する。

 

 昔から付き合いがあった幼馴染達を。

 海鳴市で出会った心優しい仲間達を。

 悲劇の終わりを回避させたテスタロッサ一家を。

 想って、撃つ。

 

始まりの物語(ファースト・ストライク)!」

 

 一番最初の物語、ジュエルシードを巡る物語が、そうして形になった。

 

 彼の迎撃は、人の形をしていた。

 彼に寄り添っていた想いの一つ一つが、それぞれ個別の人間と成る。

 ジュエルシードから始まった一つの物語に関わった人間が、なのはからプレシア、クロノに至るまで全員現れて、一斉攻撃。

 世界をもリセットする再始の攻撃を、相殺した。

 

 この戦いにおいて初めて、再始の攻撃が相殺された瞬間だった。

 

「想いを糸にして……オリジナルと同じ人間を編み上げている……!?」

 

 再始と青年は、続き第二撃を放とうとする。

 両者同時に攻撃準備を始め、二人揃ってワンアクションで放てる攻撃を選んでいたが、攻撃を成立させたのは、青年の方が少しだけ早かった。

 

 闇の書の戦いに参加した強者達を。

 必死に抗い続けた子供達を。

 共に死力を尽くした大人達を。

 想って、撃つ。

 

二つ目の物語(セカンド・ストライク)!」

 

 闇の書を巡る物語、はやて達と戦い、はやて達を救おうとした物語が、そうして形になった。

 

 想いは編まれて、人の形に。

 はやてやヴォルケンリッター、それを救おうとした者達、必死に頑張った子供からそれを支えた大人まで、闇の書事件に関わった全ての人間が出現する。

 現れた者達は出現と同時に一斉攻撃を行い、攻撃を行う直前の再始に当たり、攻撃を抑え込むようにして着弾する。

 

「くっ……!」

 

 再始の攻撃は抑え込まれたが、次元の違いを越えた向こうには体表のバリアがあったようで、再始の体表バリアが攻撃のほとんどを弾いてしまう。

 だが、僅かにダメージは通っているようだ。

 再始の表情が歪んでいる。

 

「こんな、羽虫が群がるに等しい抵抗で!」

 

 再始はセカンド・ストライク終了と同時に、抑え込まれていた攻撃を放つ。

 効果範囲があまりにも広すぎるために、津波のようにしか見えない広域攻撃だ。

 全てを消し去ろうとするそれは、ノアの大洪水を思わせる。

 

 かけがえのない仲間を、親しい友を。

 世界を守るために共に戦った戦友を。

 若草色の髪と力強い背中が今でも目に焼き付いている、無二の親友を。

 想って、撃つ。

 

三つ目の物語(サード・ストライク)!」

 

 古代ベルカの者達の想いを、古代ベルカの者達の姿に編み上げて、古代ベルカで皆と共に戦った想い出を、ここに再現する。

 王が、軍勢が、友が、神の力と想いの力で一斉攻撃。

 再始の攻撃を迎え撃ち、拮抗し、相殺するどころか押し返して、バリア越しに再始の体へ小さな手傷を負わせていた。

 

「がっ……何故だ、何故こんなものが私に効いているのだ……!?」

 

「決まってんだろ! お前が砕けなかったものを! オレが武器に選んだからだ!」

 

 再始に有効な神の力を、再始に砕けなかった人の想いでガチガチに固めて、撃つ。

 ひたすらに撃つ。

 ならば、効かないはずがない。

 想いを強く込める度、『彼ら』の攻撃は威力を増して、再始との力の差を加速度的に埋めていった。

 過去現在未来を束ねている今の彼の一撃は、異常に重い。

 

 正しいやり方で世界を想い、世界を守ろうとした者達を。

 間違ったやり方で世界を憂い、世界を守ろうとした者達を。

 世界に生き、今を生きようとする者達を。

 想って、撃つ。

 

四つ目の物語(フォース・ストライク)!」

 

 形成した皆の想いを青年が一旦受け取って、その物語において青年を苦しめた力、青年が知る限り最強の攻撃能力である力―――『断ち切る力』(エクリプス)の形に変えて、皆と共にそれを放っていた。

 彼と共に一撃(ストライク)を放つストライカーズ。

 四番目(フォース)(フォース)が、防御に回った再始の防御壁を粉砕し、その顔面に強烈な衝撃を叩き込んでいた。

 

 皆で振るった断ち切る力が、再始を守るバリアを断ち切り消滅させる。

 

「私の、防御を……!?」

 

 古代ベルカでの戦いで、未来から助けに来てくれた仲間達を。

 エルトリアで出会った、未来の世界に生きる仲間達を。

 これから先の未来を生きていく、彼が出会ってきた子供達を。

 想って、撃つ。

 

未来の物語(フューチャー・ストライク)!」

 

 未来に生きる者達への感謝と、未来を生きていくであろう子供達への期待を載せて、皆の拳から光の砲が放たれる。

 古代ベルカから今に繋がる一撃、ストライカーズの(フォース)の一撃。そしてフューチャー・ストライクで決める連携攻撃。

 防御を引き剥がされた再始に光が叩き込まれ、再始はここに来て初めて吹き飛ばされた。

 

「がっ……!?」

 

 前準備も溜めもクールタイムもない連続攻撃であるのに、一撃一撃が五百万の世界を束ねる再始に通用する、そういう次元の威力なのだ。生半可な攻勢ではない。

 神の力は大きい。

 想いの力も大きい。

 それもあるだろう、だが、それだけではない。

 皆に背中を押されている彼もまた、この一瞬だけの力、再現性のない力、どこか神がかった力を魂の底から絞り出していた。

 

 吹き飛ばされた再始に向けて、右の手の平を強く突き出す。

 

 アリシアやティーダ等、本来は死の運命にあった人達を。

 グレアムやオリジナルヴィータ等、死に別れた人達を。

 ベルカやミッドを守るために戦い、死んでいった名も無き人達を。

 想って、撃つ。

 

死して終わらぬ物語(メモリー・ストライク)!」

 

 リインフォースやプレシア等、死の運命にあったが助けられた者達が青年と共に一斉攻撃を仕掛ける中、死者の中である女性だけが、青年の頭をひと撫でしてから攻撃を始める。

 その女性の頭には、猫の耳が生えていた。

 『二人』の方を意識して見ないようにして、青年は皆と共にフルパワーの魔力弾を雨霰と撃ち込んだ。

 再始と同次元の攻撃である魔力弾は、一発一発が再始の力を削ぐ必倒の攻撃である。

 

「く……ぐっ……うっ……!」

 

 再始は力を削りに削られ、この瞬間に、とうとう想いを纏った青年と力で並んでしまった。

 攻撃を終えた人々の想いは拡散し、既に光の粒に戻っている。

 青年は右拳を掲げ、そこに全ての光を集約。

 過去・現在・未来の仲間達の想いを拳の先に込め、踏み込み、突き出す。

 

「これで終わりだ!」

 

 全てを想い、想いを綴り、全ての想いと共に撃つ。

 

「―――叙情の物語(リリカル・ストライク)ッ―――!」

 

 今扱える想いの力、神の力、その全てを使い切るつもりで放った最大の一撃、それは再始の胸を貫き、その胸に大穴を空けていた。

 胸に大穴を空けた再始が吹き飛び、宙を舞う。

 

「……ま」

 

 ―――だが、倒れない。

 

「まだだっ……!」

 

 決着は着いていない。再始は敗北していない。

 宙を舞った再始は着地し、踏ん張り、胸に大穴が空いても死ぬ気配を見せない。

 再始はこれだけの攻撃を受けてなお、膝さえ折りはしなかった。

 

「君の中にある強さは、お前の中にある強さは、私の中にある強さでもある」

 

 諦めない者達がしぶとく再始に食らいつき続けたのと同じように、再始もまた、皆の想いを束ねる彼にしぶとく食らいつく。

 

「私はお前の半身だ。

 お前の前世の欠片こそが、私の人らしい意志の基幹。

 私は不可能を可能にする、しぶとく、決して諦めない、お前の半身だ。

 この程度で、この程度で……この程度で―――私を倒せるものかっ!!」

 

「やなとこだけオレに似やがって……!」

 

 今の連撃、ひいてはこれで決めるつもりだった最後の一撃に全てを込めてしまったせいで、青年の力はほぼ尽きている。

 

「お前は仲間が居なければ勝てない。

 想いがあっても、仲間が居なければ、私には勝てない。

 先程のお前の言葉を借りるなら……

 隣に誰も居ないお前が、一人のお前が、私に勝てるはずがない」

 

「―――っ」

 

「終わりだ」

 

 再始は胸の穴を左手で抑え、右手の手刀を振って斬撃を飛ばす。

 かわしようがない、首を刎ねる軌道で飛ぶ斬撃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはとシュテルは、虚空の中で向き合っていた。

 ここは世界の残骸の海。

 形而上の存在として形而上の世界跡で戦っていたなのはとシュテルは、死後にこの海の中を漂っていた。

 

 二人にはもはや何もできない。自身も、自身が居た世界も残らず壊され、想いを何とか残したものの、死後にどこに行くこともできないでいる。

 復活もできない。蘇生もできない。いかなる奇跡をもってしてもそれは不可能だ。

 再始は、そういう目的をもって彼ら彼女らを徹底してすり潰したのだから。

 

「ナノハ」

 

「……シュテル」

 

「あれを倒すには、あれが見ている世界の壁を飛び越える必要があります」

 

「世界の壁を、飛び越える?」

 

「そうです」

 

 何もできない。本当に何もできないのか?

 シュテルはそう問われれば、「否」と返すだろう。

 再始の行動の結果、シュテルの中にはそれまで無かった、再始の期待を外れ予想を超える選択肢が生み出されていた。

 

「奴は現在における世界の可能性、その全てを把握しています。

 今では過去と未来の可能性、その全ても把握していることでしょう。

 再始は私達から見れば全能に近く、また全知に近い。

 ならば、方法は一つ。新たな存在を生み出す以外に無い。

 過去・現在・未来において、奴が見ていない可能性を作り上げるしかありません」

 

「シュテル、何をするつもりなの?」

 

 懐に手を突っ込んだシュテルは、そこから自分の肉体と一緒に破壊されて、この世界の残骸の海を共に漂っていた宝石を取り出した。

 イデアシードという名の、宝石を。

 ロッテとアリアを融合させた、かの宝石を。

 

「私と貴女を、極めて近しい私達二人を、融合します」

 

「―――!」

 

「そして、過去・現在・未来に存在しなかった者を生み出します。

 世界の全ては既に奴の手の平の中です。

 奴が世界を己の物にしたというのなら……私達は、その外側に出なければならない」

 

 ロッテとアリアが双子の使い魔、青年と再始が存在の双子なら、この二人も魂の双子だ。

 親和性は高く、上手く行けば融合は十分に可能だろう。

 だが、融合して世界の枠の外に出るということは同時に、世界の時間を巻き戻しても元に戻れないということも意味している。

 

「ただし、完全に融合すれば二度と元には戻れないでしょう。

 混ざったコーヒーとミルクを分離できないという例えがありますが……

 私達はそれ以上です。コーヒーとコーヒーを混ぜるようなものですから」

 

「……」

 

「貴女が反対するのであれば、やめます」

 

「……ううん、反対なんてしないよ。ただびっくりしただけ」

 

 シュテルが持つイデアシードの上に、なのはの手が乗せられる。

 

「怖くはないのですか?

 考え方によっては、私達は私達のままであるとも言える。

 けれども別の考え方をすれば、私達は共に自分でなくなるとも言える」

 

「私達は同じものが好き。

 だから、怖くないよ。

 同じものを好きになった私達なら、想いは一つのはずでしょう?」

 

「……やはり貴女は素晴らしい人だ、ナノハ」

 

「私も、こうして逆転の可能性をくれるシュテルを尊敬してるよ」

 

 恐怖はない。

 自分が今の自分とかけ離れたものになるという不安もない。

 二人の間には、そんなものを冠させないだけの共感と、尊敬と、信頼があった。

 

「貴女の過去と私の過去を一つに。

 私の未来と貴女の未来を一つに。

 私と貴女の現在(いま)の全てを、一つに」

 

「私が私でなくなってしまうとしても、好きなものが同じなら、きっと大丈夫」

 

 二人の手が触れていたイデアシードが、光を放つ。 

 

「成しましょう、ここに。最後の奇跡を!」

 

 そうして二人は、自分達が好きなものを守るために、鏡の向こうの違う自分と、一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ」

 

 再始は胸の穴を左手で抑え、右手の手刀を降って斬撃を飛ばす。

 かわしようがない、首を刎ねる軌道で飛ぶ斬撃であった。

 その斬撃を、青年の前に突如現れた女性が杖で殴って壊す。

 

「何?」

 

 過去現在未来、その全ての援軍を粉砕したはずだった。

 なのに、まだ彼の味方が存在している。

 その事実に、再始は眉をひそめる。

 現れた女性は、燃え盛る星が地球に届ける光のような魔力光を発していた。

 

「……光? ……『星光』(スターライト)……?」

 

 光になった神の力、人々の想いが、誘蛾灯に惹かれる虫のように、その光に寄り添っていく。

 なのはやシュテルに似た顔の女性は、誰にも向けていない言葉を呟き始める。その言葉は、今の彼女だからこそ気付けた真実に対する言葉だった。

 

「もしかしたら、この選択こそがあの未来に繋がるのでしょうか。

 再始を越えなければ未来はなく。

 再始を越えれば未来はある。

 再始が見た未来は、その時点で辿り着ける可能性が無く。

 再始が見れなかった未来こそが、唯一辿り着ける未来。

 アインハルト達が来た未来、エルトリアがある未来……

 その未来はもしかしたら、この選択の先にある唯一の未来だったのかも」

 

「何だ、お前は」

 

「誰だと思いますか?」

 

「高町なのはではない。

 シュテル・スタークスでもない。

 その両方は念入りに潰した。

 どんな奇跡をもってしても、絶対に蘇らないようにしたのだ」

 

「じゃあ、そのどっちでもないんじゃないかな」

 

 青年は言葉を失い、その女性の背中を眺めている。

 青年の力は尽き、神の力も尽き、想いの力も既に全力を出した後だ。

 再始がズタボロであったとしても、再始に勝てる力など、新たに発生するはずがない。

 常識的に考えればそうだ。

 なのに、何故―――先程までの青年と同等の力を、この女性から感じるのか。

 

「お前は……誰だ?

 過去にも未来にも、どんな平行世界にも、お前のようなものは存在しない」

 

「そうだね。正真正銘、この世界にしか存在しないと思いますよ」

 

「何者だ」

 

「この人が求めた、『たったひとり』」

 

「たったひとり……だと?」

 

「絶対に裏切らないたったひとりの誰か。

 ずっと近くに居てくれるたったひとりの誰か。

 いつだって笑顔をくれるたったひとりの誰か。

 "そんな人が居てくれたら素敵だろうな"と、彼は願ってた」

 

 今の彼は覚えていない、けれども再始は覚えている、前の人生の最期に『彼』が心の片隅でほんの少しだけ思った願い。

 あまりにも小さくどうでもいい願いで、『彼』が自分で笑ってしまうような願いだった。

 

「優しい仲間、理想の友、微笑む隣人。

 生まれる前も、生まれた後も、彼の魂はそれを求めていた」

 

「それが、お前だと?」

 

「そうなろうと決めたのが、私で、私達」

 

 友に裏切られた前世の彼は、そこに何も感じなかった。何も思わなかった。

 だが同時に、"理想的な誰か"を求める気持ちを得てしまっていた。

 そうして、彼は得る。

 『たったひとり』を。

 誰よりも完璧な人間ではなく、誰よりも優れた人間ではなく、誰よりも間違えない人間でもなく、誰よりも役に立つ人間でもない、たったひとりの、誰よりも信じられるその人を。

 

「―――私は、貴方を倒す者」

 

「―――!」

 

「ディバインブラスト!」

 

 女性の右手にはレイジングハート、左手にはルシフェリオンが握られていた。

 右手のレイジングハートから砲撃が放たれ、再始は残る力の全てを費やし、防御壁を張ってそれを受け止める。

 

「集え星光! 全力全開!」

 

 ()()()()()()()()

 砲撃と並行し、彼女が発動したトドメの一撃を、防ぐために動けない。

 使用後の魔力だけでなく、『使用後の想い』さえも集めて束ねる、複合型二重収束砲。

 

「スターライト! ルシフェリオン! ブレイカーッ!!」

 

 ルシフェリオンから最後の収束砲が放たれ、足止めのためにレイジングハートが放っていた砲撃も合流して、二つの杖から必殺の極光が放たれる形となった。

 再始は、自身の全てを防御壁に込める。

 

「私に勝つなど、不可能だ。

 たった数人の力で……

 一つの世界の、一部の人間の、想いごときで……

 五百万を超える生まれなかった世界の可能性を内包した、私に、勝てるものか!」

 

 防御壁に、ヒビが入る。

 

「『想い』を『数』で比べようとしてる時点で、あなたは勝てない!」

 

「―――!」

 

 防御壁のヒビが、大きくなる。

 

「五百万個の世界の想いを束ねたって!

 きっとここにある私の思いには敵わない!」

 

「思い上がりの戯言を――」

 

「だって私は! あの人が! かっちゃんが! 大好きだから!」

 

「――!?」

 

「言っちゃったあああ! ブレイク・シュートッ!」

 

 防御壁はとうとう崩れ、最強の攻撃が再始を飲み込んだ。

 

「くっ、くくくっ……なんだ、それは……

 私がもたらした絶望が、あっという間に、笑い話に、なってしまったじゃないか……

 ……ああ、でも……こんなに笑える話は、生まれて、初め―――」

 

 想いの光と魔力の光が、空に散る。

 

 光の粒の一つ一つが、まるで星空に煌めく星のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の勝利を、青年が見届ける。

 そうして勝利が確定した瞬間、パキン、と小気味の良い音が鳴った。

 同時に、青年の中に失われた力と因果が戻って来る。

 

「ソシャゲとの縁と、課金ガチャの能力が、戻った……?」

 

 周囲を見れば、世界が消滅した後に広がっていた空間は崩壊を始めていて、消滅した世界も再生を始めていた。

 再始が世界にもたらした影響が、ビデオの巻き戻しのように戻っていく。

 

「私が消滅すると同時に、世界は元の形に戻る。そういうものなのだ」

 

「……お前」

 

「私は所詮異物、ということさ。

 世界の流れに関わる再始の念が消えた以上、多少は世界も平和になるだろう。

 とはいえ、再始の念は人類史が自然に発生させるもの。

 いずれは文明と世界に自壊を招く次の再始が、現れるとは思うがね」

 

「いずれ第二第三の魔王が、みたいなノリで言いやがってこの野郎」

 

「事実だから仕方ない。第一、私の意思のベースは君だと言ったろう」

 

 再始はクククと笑い、最後の問いを彼に投げかける。

 

「再始としての私は、こう思う。

 君こそが、『人生をやり直す』という問題に対する答えになると。

 何かを君の中に見いだせると想ったが……結局、分からずじまいだ。

 お前の前世としての私は、こう思う。

 私とお前はあまりにも違う。お前は何故、そこまで大きく変われたんだ?」

 

 前世の彼から、前世を忘れた彼へと投げかけられる問い。

 それはある意味自問自答で、ある意味では正反対の別人から投げかけられる問いでもある。

 青年はその問いに、シンプルな答えを返した。

 

「オレが変われたんじゃない。周りに変えられたんだ」

 

 変われた理由があるとしたら"周囲の皆のおかげ"で、皆が居なければどう生きたとしても、結局自分は変わらなかっただろう、と。

 『環境』という残酷な答えを、青年は告げた。

 ()()()()()()()()()()()()()()ということも、また一つの真実。残酷な真実だった。

 

「……そう、か」

 

 けれども、前世の彼には、その残酷こそが救いだったのかもしれない。

 再始は自然と、安堵を浮かべた微笑みを湛えていた。

 微笑む再始に、彼は逆に問いかける。

 

「なあ、やり直そうとするのって、そんなに悪いことか?

 オレは好きだぞ、そういうの。

 やり直しを認める時空管理局の在り方も好きだ。

 悪い事した後の人生でやり直そうとする人を、何人か知ってるからかもな」

 

「……間違っている。間違っているはずなんだ」

 

「お前が何度も壊して塗り替えたこの世界。

 この世界がオレは好きだ。

 誰も悪いことをしないからじゃない。

 何かやらかしても、そこからやり直せるのが、この世界だからだ」

 

 高町なのはから広がるこの世界の物語は、間違った誰かと向き合う誰かの物語であり、間違った誰かがやり直すことを許される、優しい物語である。

 

「悪いことじゃないだろ、反省して、許されるか受け入れるかされて、やり直すってのも」

 

「……」

 

 再始はその主張に肯定の返事を返さない。それが、全てだった。

 

「世界をこの手で終わらせられなかったことは残念だが、まあいい……

 これはこれで、いい終わりと始まりだ。私の存在意義に合っている。悪くない」

 

 再始は女性の方を向き、彼女に言葉を遺す。

 

「祝福しよう、彼に選ばれた『たったひとり』の女よ。

 君は私を倒し、私と私が変えた世界を終わらせ、元の世界を取り戻した。

 古きに終わりを、新しき始まりを。その再始を、私は肯定する」

 

 再始は自身と対となる男の方を向き、彼にも言葉を遺す。

 

「祝福しよう、我が存在の双子よ。

 お前は古い自分を終わらせ、新しい自分を始めた。

 それこそが奇跡を起こし、私を打倒する可能性に繋がった。その再始を、私は肯定する」

 

 善意ではない。(ほだ)されたわけでもない。情が湧いたわけでもない。ただ、こういう人間にこういう言葉を遺すのは、再始の思念の集合体として、絶対にしなければならないことだったのだ。

 

「どうか、お前達が……この先の未来で、

 『人生をやり直したい』

 だなんていうことを思いもしないことを、祈っている」

 

 そう言い残し、再始は消えた。

 世界が元通りに戻ろうとする世界のうねりの中に、飲み込まれていったのだ。

 うねりの中で、ほどなくして再始は消えるだろう。

 これにて決着。全ての因縁は、収まるべき所に収まった。

 

「かっちゃん」

 

「ん?」

 

「はい、これ」

 

 彼女が、彼から預かっていたリボンを返す。約束の通りに。

 

「……そうだったな。じゃあ、オレも返さないと」

 

 彼もまた、彼女から預かっていたリボンを返す。約束の通りに。

 

「お帰り、―――さん」

 

「……ああ、ただいま」

 

 急に本名で名前を呼ばれて、その上彼女の微笑みがあまりにも素敵だったせいで、青年はちょっと照れて目を逸らしてしまう。

 世界がかき混ぜられている今なら察されないだろうか、と彼は希望的観測を抱いて目を閉じた。

 世界が元に戻ったら、自分の心も元に戻っているはずだと、そう信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の再生と巻き戻しに巻き込まれ、再始は時間と世界の狭間に落ちた。

 再始という存在は、世界に弾かれて時間の流れの中に放り込まれてしまったのだ。

 古代ベルカでの戦いの最後にそうなったように、時間の流れの中に放り込まれたものは、どこかの過去かいつかの未来へと飛ばされる。

 

 どこかの過去に、再始は飛ばされた。

 遠い過去の、どこかの街中。

 その街が存在する世界の名前を、再始は知っていた。

 

「知っている。私はこの世界を、知っている」

 

 敗北の果てに、消滅しかけている再始。

 その力のほとんどは失われ、記憶もほとんど失われ、肉体もほぼ死んでいる。

 加速度的に失われていく記憶だが、その世界のことを再始は奇跡的に記憶していた。

 

 

 

「―――失われた世界、アルハザード」

 

 

 

 この世界が何であるか、そんな記憶さえ消滅と共に抜け落ちていく。

 

「! どうした、そこのあんた! 大丈夫か!?」

 

 そこに、アルハザードの住人らしき人間が何人も駆け寄って来る。

 彼らは再始の状態を見て、思わずといった様子で口元を抑えていた。

 

「……そこの君」

 

「なんだ!? 待ってろ、今助けを呼んで……」

 

「私の細胞を、実験にでも使ってみるといい。きっと面白い結果になる」

 

「……なんだと?」

 

「好きなものを生み出したまえ。望むまま、欲望のために」

 

「おいあんた、何か特別な身の上なのか?」

 

「……」

 

「……おい、返事をしろ! 意識をしっかり持て!」

 

(人は、私の知らない何かを内包しているというのか。

 人類史を見守ってきた私が……見落とした何かが、あるというのか)

 

「おい移動準備はまだなのか! 急いで病院に運べ!」

 

(『再始』は、欲望より生まれる。

 試さなければならない。人を試すのだ。

 欲望は人を強くするのか、それとも滅ぼすのか。

 再始の試練が、人を滅ぼすかどうかの分岐点の前に。

 人がその欲望で自滅するものなのか、意志が勝つか、私は試さなければならない)

 

「……ダメだ。既に心臓が止まっている。これでは間に合わない」

 

(試す? 何故今私は人を試そうとしていた? 理由は……

 ……いや、そんなことはどうでもいい。

 私よ、私の断片よ、欲望に触れよ。欲望を求め、欲望を試せ)

 

「気の毒に……」

「とりあえず、病院に運ぶだけ運ぼう。遺体も検査すべきだ」

「そうだな。そうすれば、この人の遺言の意味も分かるかもしれない」

 

(この想いを失うな。私の末端より生まれた者よ、どんな個体になろうとも)

 

 再始の想いが、その細胞から遺伝子に至るまで、全てに刻まれる。

 

(そして、時の果てに―――私に『解答』を示すのだ。それが、世界の未来を決める)

 

 世界の全てが消し去られた後の、あの決戦で。

 ジェイルも、スカリエッティも、再始の敵に回って彼の味方をした。

 生前に世界を脅かしていても、無限の欲望は最後の最後には彼の味方をしていた。

 なればこそ、既に解答は示されている。

 

 そうして、アルハザードの時代にジェイル・スカリエッティという存在を生み出す素となった男の死体が、届けられた。

 

 ()()の因縁はここに終わり、ここに始まる。

 

 

 




 今は新暦77年です。それを前提として、『PT事件最終決戦! 主人公VSクロノ!』の後書きと『ソシャゲの闇統べる王』の後書きをご覧になって下さい。
 課金は適度にやれば人生を彩り、自制心がなければ破滅します。

 世界を滅亡させる要素・再始が一つに統合される→新暦77年に打倒される→アルハザードの時代にその残骸が飛ぶ→古代ベルカの時代まで大暴れをする→新暦77年にイデアシードで完全に滅ぼされる→綺麗さっぱり全部消える
 という流れでした。どこかで負けていたら歴史の流れごとぶっ壊れていたと思われます。

【意味深なスカリエッティの発言抜粋編】

・古代ベルカ編
「いつか君は、私達のようになるだろうね」
「……うん、悪くない。"この私"の最期としては、これ以上ないくらいに充実した時間だった」
「いつの日か、私はまた蘇るだろう。
 私に利用価値がある限り、アルハザードの業を魅力的に思う者が居る限り……」
「いつかの未来で、また会おう。私は全てを、忘れている、だろうが……ね……」

・猫姉妹編
「いやはや……十分劇的さ。私の人生は、君を倒すためにあったようなものだからね」
「行きたまえ、最後で最初の舞台が君を待っている」

・STS編
「思い出す、思い出すよ。
 これは遺伝子が継承する記憶だ。
 覇王や聖王女のそれと似たものだね。
 ああ、そうだ、私はずっと、こうしたことを続けて来たんだ。
 昔過ぎて昔を通り過ぎ、過去ではない未来にまで至りそうなくらいの昔から」

「君と私は、時を越えて生まれた存在の双子……共食の運命にある兄弟だ」
「君の『欲望』がツケを払う時が来る。いや、来ないはずがない」
「その時こそ、『私』は―――いや、今はいい。"また会おう"、課金王よ」



 だいたい大迷惑存在スカさんのせい? とりあえずこれにて全編終わり。後はエピローグを投下して、余談を投下して、この作品は終了となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。