IS~復讐の仮面~   作:流離の素人

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今回は更識刀奈視点に挑戦してみました。
いろいろとつたない点があるかもしれないですがご容赦ください。

それではどうぞ!


第10話

凄惨――

 

目の前で行われている一方的な暴力による蹂躙を目の当たりにして、私の頭に浮かんだのはその言葉だった。

 

黒い全身装甲の存在が腕を振るう度に、更識の精鋭である隊員たちの体から血飛沫が舞い地面を朱に染めていく。

足を降り下ろす度に、隊員たちが苦悶の声を発し、同時に鈍い音がなり、音の発生源となった隊員たちの体の一部が、人間の身体構造上、可動不可能な方向に折れ曲がる。

 

「なによ……これ……」

 

日本に害をもたらす暗部組織に対抗する組織として動く以上、扱う任務が危険なことは理解していたし、実際に危険な状況に陥ったことも幾度かあった。

けれど、これほどまでに、精鋭部隊が壊滅するほどの驚異に直面したことは無かった。

 

「があああぁぁっっ」

 

「よくも仲間たちをっ!ぐえっっ」

 

私が恐怖に震えるて動けない間にも、次々に隊員たちが傷つき倒れていく。

『怖い、戦いたくない』

そんな思いが足を震わせ、地面に縫い付けれたように足を動かなくさせる。

 

「殲滅」

 

組み合おうとする隊員たちを粗方片付けた後、正体不明の存在がこちらに狙いを定めて、一歩ずつ近づいてくる。

これまで築き上げてきた常識が通じない相手に、私の戦う気概は完全に折れてしまっていた。

 

「刀奈ああっっ、直ぐに逃げろっ!」

 

父が、私を庇うようにして立ち塞がる。

その姿は、戦えるようなものではない。

正体不明の存在の攻撃によって割られた額からは血が止まることなく流れ、力無くだらりと下げられた左手は関節が、あり得ない方向に向いている。

それでも父は私を逃がすために立ち上がってくれた。

 

「ごめんなさい……」

 

これから繰り広げられるであろう、父が蹂躙され傷つく姿を想像しながらも、私は踵を返し、震える足を無理矢理に動かし、出口へと駆け出した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

突入した時よりも長く感じる出口までの道のりを進みながら、何度も謝罪の言葉を口にする。

必死に戦った隊員たちへ

守ってくれた父へ

戦えなかった自分へ

 

恐怖心、無力感、絶望感、胸に去来する様々な想いに足が止まりそうになりながらも、止まらないように必死に一歩を踏み出す。

 

その途中で耳に入ったのは、何かが叩きつけられたような破砕音と、叫び声。

 

「父さん……」

 

父が倒されたことを感じとり、自然と瞳から涙が溢れる。

それでも足は止めなかった。

生き残る事が自分に残された使命だと言い聞かせて、目の前に見える倉庫の出口から、外へとけ脱け出す。

 

「まだ、もっと離れないと」

 

倉庫から脱け出せても終わりじゃない。

正体不明の存在は、自分の常識を軽々と覆す存在だから、気は抜けない。

乳酸が溜まって、キリキリと痛みだす太ももの悲鳴を無視して走り続ける。どこまでも、どこまでも。

 

後ろは振り返らない。

いいえ、振り返れない。

もし、自分の背後にあの黒い恐怖が迫っていたら、きっと足を止めてしまうから。

 

「もう少しだけ、頑張って」

 

息が切れ、脇腹が痛む。

それでも無我夢中で、倉庫が並ぶ区画を駆け抜ける。

 

そこから数分間私は走り続けた。

港の入り口はもう目の前に見えている。

後ろから追ってくる気配は無い。

もう大丈夫、そう考えたのがいけなかったのか、その音が寝静まって静かなはずのこの場所に響いた。

 

カツカツ、コツコツとゆっくりと、その音は鳴る。

ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。

それも背後からではなく、私が進もうとしていた港の入り口の方から。

 

「嘘……よね……?」

 

暗闇に赤い二つの光が灯る。

それはゆっくりとだが私の方に近づいてくる。

 

「そんな……」

 

追い抜かれた気配はしなかったのに、先回りされていた。

全力で走ってかいた汗とは違う、冷えた汗が体から流れる。

寒いわけではないのに、体がガタガタと震えだし、暑いわけではないのに喉が乾く。

 

「いや、いやぁ」

 

これから訪れる恐怖に思わず叫び声を上げて、その場にへたりこむ。

そして、目の前にまで近づいてきた正体不明の存在が、私の首に、紅で染まった手をゆっくりと伸ばしてくる。

 

首を掴む手の力が、徐々に強くなっていく。

それに比例するように、私は呼吸が出来なくなっていく。

 

(あぁ、もうだめなんだなぁ)

 

頭の中に諦めの思考が過ると同時、私の足は触れていた地面から離れる。

 

頭に浮かぶのは、これまでの短い人生の中で得た思い出たち。

 

「か……ざし……ゃん、れい……さん」

 

最愛の妹と、優しかった兄のことを薄れていく意識の中で思い浮かべる。

真面に声すら出せない状況の仲、途切れ途切れに、私は二人の名前を呼ぶ。

 

もう会えない、触れることすらできなくなる二人の事を想い、一筋の涙が零れる。

そして、私は意識を手放した。

 




楽しんでいただけたでしょうか?

それではまた次回!
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