IS~復讐の仮面~   作:流離の素人

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第12話

砂煙がもうもうと立ち込める倉庫の一角。

その発生源に俺は立ち竦んでいた。

俺を中心にして、コンクリートで作られた床が陥没し、クレーターを生み、ひび割れが放射線状に拡がっている。

 

立ち竦む俺の足下には、重度の傷を負い気を失っている男、楯無さんが横たわり、視線を上げると、あちらこちらに、更識の人間がうめきを上げながら苦しんでいる。

 

「嗚呼っ、ガァッ」

 

その光景を改めて視界に捉え、俺は慟哭の声を漏らした。

 

楯無さんが地面に叩きつけられる直前に呟いた俺の名前。

その呟きによって、俺が過去に見てきた光景がフラッシュバックし、閉じられていた記憶の扉が勢いよく開き、失っていた記憶が甦った。

 

その瞬間、断たれていた人格と肉体の接続が再び行われ、俺の体を、俺自身でコントロールすることが可能になった。

 

落下する楯無さんの体を必死に抱え、地面に勢い良く着地したが、その際の衝撃からか楯無さんは気を失ってしまっていた。

 

「すいません。楯無さん」

 

ゆっくりと楯無さんの体をコンクリートに下ろし立ち上がる。

そして、自身に取り付けられた無線機から、消防のコンピューターにアクセスし、救助を要請する。

 

「港湾部の倉庫で沢山の人が倒れている。救助を頼む」

 

一方的に用件を伝え、通信を切る。

オペレーターの戸惑う声が聞こえたが、気にすることはなかった。

 

「刀奈……」

 

現場から逃げ出した少女の名前を呟く、今更無駄だとは解っているが

弁明をしたいという想いから俺は行動を開始した。

 

 

 

 

立ち並ぶ倉庫郡の屋根を、与えられた脚力で飛び越え進んでいく。

着地する度に、衝撃に耐えきれず屋根が崩れる事もあったが俺は気にせず跳躍し続ける。

 

「見つけた」

 

上空から必死に走る刀奈の姿を捉え、その横を通過し、港湾部の入り口に着地、刀奈に向かい歩いていく。

 

コンクリートの地面に足が触れる度にカツカツと耳障りな音を発てる。

その音に刀奈も気づいたのだろう、動かしていた足を止め、怯えた表情で俺を見つめる。

 

(そんな怯えた顔をしないでくれ)

 

刀奈の足から力が抜け、地面に座り込む。

 

(誤解なんだ、こんなことをしたいなんて思ってなかった)

 

誰にも聞こえない後悔の念を頭に浮かべながら、刀奈に近づいていく。

そして、無意識に俺の手は刀奈の首へと伸びた。

 

(何故!?)

 

再び起こる俺の意思とは関係なく挙動する体の動きに戸惑いながら、次第に力を入れていく指を離そうともがく。

しかし、それすら意に介さずに俺の手は力を加え、刀奈の細い首を締め上げていく。

 

『裏切りは許さぬ』

 

頭の中に声が響く。

 

『タイプライダーよ。よもや貴様の意識が目覚めるとは思わなかったが、それもここまで』

 

(やめろ、やめろ、やめろ)

 

声に抗うが意味をなさない。

譫言のように刀奈が俺の名を、愛する妹の名を呼ぶ。

 

『貴様の意思など要らぬ。我らDeSの命令のままに動く人形となれ!』

 

刀奈の体から力が無くなる。

それでもなお、俺の手は刀奈の首を掴み続ける。

 

(やめろ、やめろ、やめろ!!)

 

顔を覆う仮面の下で慟哭の涙を流しながら、俺は心で叫ぶ。

そして、その抵抗の意思に呼応するように、左手が震え出す。

 

「お前らの、好きにさせるかよ」

 

ザクッ

 

刀奈の体が地面に落ちる。

そして、金属音と共に、切断された俺の右手も地面に落ちる。

 

刀奈の体を見下ろす。

僅かに体が動き、浅い呼吸を繰り返している。

 

『む、無駄な抵抗を』

 

頭の中に響く声が、ほんの少し悔しさの混じった呻きを洩らし、言葉を紡ぐ。

ノイズが頭の中に流れ出す。

恐らく、俺の意思を消すために何かをしているのだろう。

 

先程まで動かせた左手も、もう動かすことが出来なくなっている。

 

抵抗もここまでと、諦めの思考が頭をよぎる。

恐らくこの後、俺の意思は消され、刀奈は息の根を止められてしまうだろう。

 

(くそっ、せめて刀奈だけでも……)

 

居るはずの無い神に願う。

それが無駄なことと知りながらも。

 

『我らに逆らった貴様には、屈辱と後悔を与えよう』

 

終わりに向かう時計の針が徐々に動き始める。

動き出す俺の体、持ち上げられる右足。

これから起こる出来事、刀奈の頭が潰れ、血と脳漿を撒き散らす最悪のビジョンが流れる。

 

(誰か助けてくれ!)

 

 

心からの願いを込めて、誰かへと助けを求める。

 

 

そして、願いは聞き届けられる。

眼前に突如現れた、銀色のカーテンが世界を一変し、そこから一人の男が現れた事によって。

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