今回は短めです。
楽しんでいただけると幸いです。
何が起きているのだろうか……
自分の身に起きている事態がいまだに理解できないでいる。
「あの……、あぅ、何でもないです……」
僕の目の前には、強面の男たちが横並びに並んでいる。
その中央には、袴に身を包んだ壮年の男が腕を組んで立っている。
この男性も、恐ろしいほどの威圧感を放っている……
デパートから男たちの手で連れ去られ、僕は、黒塗りの車に乗せられた。
車内は完全に無言で、僕の両隣にいた黒服の男は、微動だにせず、車の進行方向を見続けていて、車内には緊張感が充満していた。
そんな車内で過ごすこと1時間ほどで、車は、1軒の豪邸に入っていった。
車が、車庫に止められると、僕は、車から降ろされ、豪邸の庭に連れていかれることになる。そして、僕が庭に連れてこられると同時に、先ほど説明したような状態に男たちが並び、壮年の男性が、並ぶ男たちの間から顔を出したのだった。
以上、状況説明終了……
僕は、重苦しい空気から逃れるために、ここに至るまでの経緯を思い出していたが、ついぞ、思い出し終わるまでに、状況が好転することはなかった。
「……君は……」
僕が、好転しない状況に冷や汗をかいていると、壮年の男性がついに口を開いた。
僕は、男性の言葉を聞き逃さないように、耳をしっかりと澄ませる。
「君は、なんの目的で簪に近づいたのかな……?」
気のせいだろうか、男性の後ろに鬼が見える……
あぁ、周囲の男の人たちの後ろにも、おぞましいオーラが燃え盛っているような気がする。
答えを間違えたら、即座にこの男たちの餌食になってしまうだろう。
僕は、震えそうになる声を必死に抑えながら、声を発する。
「あのっ、簪さんが困っていたようなので……」
『ギンッ』と音が鳴りそうな視線をこちらに向ける壮年の男性。
その目を見た瞬間、僕の体は、僕の意思とは関係なく震え始めた。
これまで経験したことのない恐怖を感じる、背中から冷たい汗が吹き出し、僕の体を濡らしていく。
僕は必死に体の震えを抑えようとするが、全くうまくいかない。
男の瞳から視線を外せばいいだけのはずなのに、視線をそらすという単純な動きを思い出せない。
やがて膝が笑い出し、立つことすらままならなくなる。重力に負けた僕の体は、衝撃を抑えることもできずに、地面に倒れこんでしまう。
意識が徐々に沈んでいく……
次第に暗くなる景色に、僕を見つめる男たちの足元。
もう駄目だと、このまま僕は永い眠りについてしまうのだと脳裏によぎった瞬間
「お父さんやめてっ!」
僕が助けた少女、簪ちゃんが声をあげて僕のもとに駆け寄ってきた。
簪ちゃんが僕の体に触れた瞬間、僕の体にかかっていた圧力がスルリと消える。
力の抜けた体を動かすことは叶わず、かろうじて動く頭だけを動かし、僕は、僕に寄り添う少女を見つめる。
簪ちゃんは、僕のことを心配そうに見下ろしている。
その瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。僕が、心配させまいとぎこちなく笑いかけると、簪ちゃんは笑いかけてくれる。そして、僕の頭を優しくなでた後に、表情を厳しいものに変えて立ち上がり、僕を睨んでいた壮年の男性に詰め寄る。
「お父さん! なんでこの人をいじめるの?」
簪ちゃんの強い語気に、壮年の男性、簪ちゃんのお父さんは一歩後ずさる。
その姿には、先ほどまでの威圧感はなく、どこかしら頼りなさが垣間見える。
「ねぇ、なんでっ!」
簪ちゃんはお父さんにどんどんと詰め寄り、距離を近づけていく。
詰め寄られたお父さんは、表情が曇っていき、苦虫をかみつぶしたようなものになっていく。
何かしらを話そうとするが、言葉がなかなか出てこないようで、簪ちゃんの問い詰める声だけが庭に響く、お父さんを囲んでいる男たちも、詰め寄られる姿を見て苦笑いを浮かべている。
「もうっ!お父さんなんて大嫌い!」
とどめとばかりに簪ちゃんが大声で禁断のワードを口にする。
簪ちゃんのお父さんは、その言葉を聞いた瞬間に、先ほどの僕と同じように庭に倒れこんだ。
先ほどの僕と違う点があるとすれば、一発KOで、白目をむいて、泡を吹いていたことくらいだろうか……
親子喧嘩の一部始終を眺めていた僕は、決着がついて数秒後意識を失った。
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。