なかなかISもライダーもでず申し訳ないですが、もうしばらくお付き合い下さい。
それではお楽しみいただけると幸いです。
「せいっ!」
「はあぁぁぁっっっ!!」
畳張りの道場で僕は1人、日課となっている修練を行っている。
楯無さんの好意により、居候生活を送り始めてから既に数年の月日が経過し、その日々の中で暇な時を過ごしていた僕に、楯無さん、正確には、16代目更識楯無さんは、更識家の関係者が修める武術、更識流の修行をすることを提案してくれた。
転生前に、これといって武術や鍛錬などをしたことのなかった僕は、はじめ楯無さんの指導に全くと言っていいほどついていくことができなかった。毎日、行われる厳しい鍛錬で身体がボロボロになることも、精神的に追い詰められることもあった。
けれど、できなかった事が次の日にできていたり、日々鍛えられ絞まっていく体を見た時の達成感を味わうことで辛いことも何とか乗り越えることができた。
そうやって、辛い時期と楽しい時期を繰り返すうちに、気づけば今に至ってしまった。
「今日も早くから精が出るな」
僕が型練習終えると、いつの間にか道場の脇に控えていた楯無さんが声をかけてくる。
出会いから数年が経った今でも、その立ち姿は衰えることはなく、むしろ以前よりも剛直なものになっている。
「この後は、いつも通りで平気かな?」
そう言いながら楯無さんは、道場の中央、僕に向かい合う形になるように歩を進める。
僕は頭を縦に振ることで同意を表し、構えを取る。
いつの頃からか、僕が道場に先に来て型練習を行い、楯無さんが来た段階で実践練習を始めるという流れが出来上がっていて、僕ら2人はお互いに確認することなく、今日までこの流れを続けていた。
「それじゃあ始めようか」
そらしていた意識を引き戻し、楯無さんへと集中させる。
僕と楯無さんを中心に、緊張感が道場の中を包んでいき、空気が重たくなっていく。
じりじりと摺り足で、僕と楯無さんは距離を詰めていく。
「シッッ!」
お互いの間合いに入ったと認識した瞬間、僕は右手を楯無さんの喉元に向かって放つ。
武道において『貫手』と呼ばれるこの技は、拳打よりも幾分かリーチが長く、拳を握るよりも早く打ち出すことができる。
熟練の腕を持つ楯無さん相手に後手は不利になることを分かった上で選んだ一手は寸分違わずに、喉元を穿つ軌跡を辿る。
「させないよ」
楯無さんが告げたと同時、肌を打つ音が耳に響き、右手に鈍い痛みが走る。
楯無さんの手によって払われた右腕が、繰り出した技の勢いを殺せぬまま空を切る。
次いで、流される僕の体の動きに合わせるように放たれた楯無さんの拳が、僕の腹をとらえ、鈍い音を響かせる。
「ぐうっっ」
緩んだ腹に打ち付けられた拳の重さに、思わずくぐもった声をあげてしまうが、痛みに思考を鈍らせている暇は無い。
与えられた衝撃を利用し、後方へ下がりつつ体を反らす。
先程まで僕の体の顔があった場所に、楯無さんが放った蹴りが通過する。
チッという音と共に、前髪が揺れ、ギリギリ回避が間に合ったことを僕に伝える。
「今の蹴りを避けるなんて、なかなかやるじゃないか」
「初手の貫手を裁いて、カウンター打ち込んでおいてよく言いますよ」
距離が離れたのを良いことに、楯無さんは口を開く。
ズキズキと響く、腹の痛みに耐えながら僕は楯無さんの言葉に返す。
手痛い一撃をもらった僕に対し、無傷の楯無さんはまだまだ余裕だ。
「それじゃあ次は攻めさせて貰おうかな」
そう言うと楯無さんは、素早い身のこなしで僕の間合いへ入り、右の拳を突き立ててくる。
「簡単にはやらせないですよっ!」
勢いよく迫る楯無さんの右腕の内側に合わせるようにして左手を起き、クルリと回転させる。
先ほどの僕と同じように、勢いのついた楯無さんの体は、拳の流された方向に進んでいく。
しかし、カウンターを警戒してか、左手が既に腹の近くに構えられている。
その動きを見た僕は、流された体の勢いを殺させぬように払った腕をつかみ、左足で楯無さんの足を刈る。
浮いた体を立て直すことは幾ら楯無さんでも不可能で、勢いのまま畳に手をつく形になる。
チャンスとみて、追撃をかけるために、体を楯無さんの方に向ける。
そして僕は認識の甘さを思い知らされる。
「つっ!?んぐあっっ!」
振り向いた瞬間に、顎から脳天へと突き抜ける衝撃を受ける。
無理矢理に引き上げられた顎先、天井が視界に入るよりも先に見たのは、畳に手をついた瞬間に、その勢いを利用して回転するように振り上げられた足だった。
◇
「礼君っ、礼君!!」
僕を呼ぶ声に意識を取り戻し、閉じていた目を開くと、板張りの天井が目に入る。
意識を取り戻したものの、まだ完全な覚醒には至らず、頭はぼんやりとして、まるで霞がかかっているような気分だ。
「目が覚めたかい?」
ぼうっと天井を眺めていると、突然視界に、楯無さんの顔が現れる。
思わず声を上げた僕に驚き、楯無さんは顔をひっこめる。
「すまなかった……年甲斐もなく本気になってしまった」
寝ていた体を起こし、楯無さんの方を振り返ると、申し訳なさそうな顔をして僕の方を見ていた。
「いえ……これも鍛錬の一部ですし、一応、受け身も取ったんで」
意識を失う前の出来事を思い出しながら、僕は楯無さんに応える。
こうやって、実践練習の際に気を失うこともこれまでに幾度かあり、その度に、僕らはこんな風なやり取りを行っている。
僕としては、こういった事態が起きるのも分かった上で、更識流を学ぶことを決めたのだが、心根の優しい楯無さんは、まだ若く、経験も少ない僕に対して本気を出してしまうことが納得できないようで、どうしてもこのやり取りは長くなってしまう。
「いや……それでもね」
今回もこれまでと同じように長くなりそうだななんて考えていると、武道場の外から僕らに向かって声がかかる。
「お父さん、礼兄さん、そろそろご飯できるみたいよ」
その声に答える為に武道場の扉を開ける。
そこには、更識家の長女、更識刀奈が立っていた。
更識刀奈、先ほど言ったように更識家の長女で、簪ちゃんのお姉さん。
簪ちゃんよりも濃い青の髪に、そっくりな赤い瞳で、性格はおとなしい簪ちゃんとは真逆の明朗快活な少女である。
「わざわざ呼びに来てもらって……ありがとう、刀奈ちゃん」
「兄さん……刀奈ちゃんなんて他人行儀な呼び方はダメってこの前言ったのに」
お礼を言いつつ笑いかけるが、僕の呼び方に、刀奈ちゃんは不満そうに頬を膨らませて、訂正するように指摘する。
「あぁ……ごめんごめん、でもさすがに呼び捨ては……」
「もう!わたしがいいって言ってるんだからいいでしょ!」
そう言って、膨らんだ頬を赤くして、僕に詰め寄ってくる。
更識の家にお世話になるうちに、刀奈ちゃんや、簪ちゃん、更識家に古くから使える布仏家の虚ちゃん、本音ちゃんと接する機会が増えていった。
更識、布仏、両家共に女姉妹で、男兄弟が居なかったためか、始めは警戒されて近づいてもらえなかったのだが、助けた際に仲良くなった簪ちゃんが僕にくっついているうちに、いつの間にか彼女たちも僕に話しかけてくれるようになった。
そんな風にして、お互いの仲が近づいていくうちに、僕は彼女たちから兄と呼ばれるようになったのだが、血のつながらない女の子たちに兄と呼ばれるのには違和感を覚えしまう。
その影響か彼女たちに名前を呼び捨てでいいと言われているにも関わらず、未だにちゃん付けで彼女たちを呼んでしまい、こうやって度々、不機嫌な顔をさせてしまうのだった。
「わかった、わかった。次から気をつけるから……」
僕は不機嫌になって詰め寄る刀奈ちゃんの頭に手を置きながら、次はちゃんと呼ぶと約束する。
「そう言って、ちゃんと呼び捨てしてくれたことないじゃない……」
頭を撫でられながら、刀奈ちゃんは僕が約束を守っていないことを口にする。
それでも、先ほどの不機嫌そうな顔はどこへやら、恥ずかしそうに顔を赤くして、僕に撫でられたままでいる。
「礼君、そろそろ汗を流しに行こう。朝食に遅れてしまう」
「はい、わかりました! それじゃ、僕は楯無さんと汗を流してくるから、またね」
楯無さんに返事をした後、刀奈ちゃんの頭から手を離す。
「あっ……」
手を離した際に、刀奈ちゃんが、少し残念そうな顔をしたので、もう少し撫でてあげようかとも思ったのだけれど、朝食に遅れてしまうと、他の人たちに迷惑がかかってしまうので、僕は仕方なくその場を後にするのだった。
いかがでしたでしょうか?
もうしばらくしたら物語に変化を出すと思います。
それまでもうしばらくお待ちください。
あと、遅くなりましたが
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