第8話完成しました。
今回は主人公視点ではありません。
頑張って多めに書いてみましたが、中々難しいですね。
文章がうまい方は尊敬します!
それではお楽しみください。
東京都港湾部
高度経済性長期、様々な国から輸入した大量の物資を一時的に保管する目的に作られた倉庫群がそこには存在している。
大、中、小と様々な企業が保有していたその倉庫群は、経済成長の鈍化によって相次いで手放されていき、現在では一部の施設を除いて、ほとんどが稼働を停止、新しい買い手も見つからずに放置され、不良グループや、ならず者の拠点として、本来の用途とは全く違った使い方をされている。
その倉庫群の一角、とある部品メーカーが保有していた中規模の倉庫から数百メートル離れた地点に、ある集団が集まっていた。
その集団は、全員が闇に紛れるかのような黒い衣服に身を包んでいる。
それも全員が特殊部隊が着用するようなアサルトスーツを纏い、顔を隠すように、ヘルメットと暗視ゴーグルを着用している。
「
部隊を先導していた一人が、無線機を使用し報告を行う。
その報告から、暫くして、集まった集団の近くに一台の車両が停車する。
車が停車すると同時、集団の全員が素早く姿勢を正す。一切、音を立てずに行われた、乱れることない動作が集団の練度の高さを表している。
そして、集団が視線を向ける先にある車両の扉が開き、中から壮年の男性と、少女が姿を見せる。
壮年の男性の名は、更識楯無。
日本においえ裏工作を行う暗部組織に対抗する、対暗部用暗部組織の十六代目当主である。
その楯無の傍らに立つ少女は、更識刀奈。
更識楯無の娘にして、更識家次期当主候補筆頭と目される、若くして才能に目覚めた逸材である。
「皆の者ご苦労。楽にしてくれ」
声かけられた集団は、足を肩幅程度の広さに開き、休めの姿勢をとる。
「では今回の任務について説明する。目標はここから数百メートル離れた場所にある倉庫の地下にあるとされる、非合法な研究施設。研究対象として捕まっている人間の保護を優先するが、研究者たちが抵抗をするようであれば殲滅も許可されている」
楯無から語られる任務内容を聞かされた者たちは真剣だった表情をより引き締める。
「甲、
楯無は言葉を区切った後、待機する隊員たちに訪ねる。
挙手する者はおらず、全員が己がすべき事を把握したことを示すように、決意の眼差しを向けている。
その眼差しを受けた楯無は、満足そうに頷き、指示を出す。
「全員、必ず生きて戻るように!各自、持ち場に着け!」
号令と共に、指定された位置に向かい、隊員たちが散開する。
その姿を見送る楯無に、刀奈が声をかける。
「父さん……礼兄さんの事は伝えなくてよかったの?」
かつて更識の家に居候し、刀奈たちを救うために、誘拐犯たちに立ち向かい、姿を消した少年の名を刀奈が口にする。
楯無は一瞬、表情を暗くした後、表情を真剣なものに戻し、刀奈の問いに答える。
「余計な情報は、部隊の者たちの行動を狂わせる。家の者たちも礼を好いていた、だからこそ、その情報を知ることで躍起になる者も出てくるだろう。だが、それによって部隊の者たちに危険が及ぶかもしれない。故に、礼の情報は伝えなかった」
「でもっ……!」
楯無の言葉を、頭では理解しているものの、納得の出来ない刀奈は反論をしようとするが、その言葉は途中で止まる。
「部隊の纏め役である者たちには、それとなく伝えてある。だから、ここは引いてくれ」
「はい……」
唇の端を噛み、拳を強く握りしめた楯無の姿を視線の先におさめながら、一歩後ろへ下がる。
この中で最も、礼の事を想い、救えなかった事を後悔していたのは彼であると、当主として生きるということは、命を預かる者たちの安全を第一に考え、己の心を殺さなければならない時があることを、刀奈はここで初めて知った。
顔の見えない楯無の背を見つめながら、刀奈は、自信の思慮の無さを反省する。そして、慕う兄を必ず助けてみせると心に誓う。
「各隊、準備が完了しました」
楯無と刀奈の間に沈黙が流れてから数分後、インカムから部隊の配置が完了したことを知らせる報告が流れる。
報告を聞いた楯無は、きびすを返し指揮車両へと乗り込み、備え付けられたマイクに向かい指示を出す。
「諸君、作戦を開始する!」
「甲隊、突入を開始します」
「乙隊、突入!!」
「丙隊、任務開始!」
それぞれの部隊を率いる者が、隊員に号令をかける。
倉庫の外観が映されたモニターには、隊員たちが突入する姿を確認することができる。
突入部隊が倉庫に潜入を果たすと、インカムからは隊員たちの足音と衣擦れの音だけが響くようになる。
ここから数分間、目標を確認するまでの間、各隊が緊張に包まれる。
指揮車両の中も沈黙に包まれ、中にいる人間の吐息の音だけが響いている。
緊張の面持ちで刀奈は、モニターを見つめ、いかなる音も逃すまいと、インカムに神経を集中させる。
「こちら、甲隊、施設内に研究者らしき存在は確認できず」
「乙隊より報告。施設内の機器は最近稼働された形跡は無し、資料等も見当たりません」
潜入を果たした部隊より連絡が入るが、目立った収穫は見られない。
時間だけが、刻一刻と過ぎ去り、不安感が部隊員たちを包んでいく。
そして、甲隊、乙隊の連絡より数分後、丙隊より報告が行われる。
「丙隊より報告、捕虜が幽閉されていたと思われるブロックに侵入、対象者たちを発見しましたが……全員の死亡を確認……」
悔しさを噛み殺した声音で告げられた最悪の報告に、指揮車両内は暗い雰囲気に包まれる。
インカム越しに各部隊の隊員たちが悔しさに包まれるのも伝わってくる。
「丙隊より追加報告、死亡者の中に、最重要保護対象者の姿はありませんでした」
刀奈にとっては、不幸中の幸いというべき報告ではあるが、決して喜ぶことの出来ない事実と共に語られたその知らせは、ただ虚しく感じられるものであった。
「部隊員に通達、現時刻をもって探索を終了。後始末は、警察に任せる。撤収を始めてくれ」
「甲隊、了解です……」
「乙隊了解……」
「丙隊了解……」
各部隊が、楯無の指示に従い撤退を始める。
周囲の警戒にあたっていた丁隊が、他の隊よりも早く集合地点に戻ってくる。
あと数分もあれば、全部隊が集合し、完全撤退が完了するだろうと、集まった隊員たちが考えていたその時、事態に変化が訪れる。
「工場の地上にて、
インカムから突如流れる、交戦を知らせる報告。
「交戦状況はこちらが不利!至急、応援をっ、あがあぁぁぁっっっ!」
救援を求める声は、突如、叫び声に変わる。話していた人物からの黄土色が無くなり、何処かで戦っているのであろう隊員たちの怒声と叫び声だけが流れ続ける。
倉庫の方からは、銃声が止めどなく響き、事態の深刻さを物語っていた。
「待機中の全隊員、装備を直ぐに整えろっ!即時、救援に入る!」
楯無の号令が響き、立ち止まっていた部隊員たちが慌ただしく動き出す。
号令を放った本人である楯無も、隊員たちと同じように装備の確認を行うが、途中でその手を止める。
「刀奈、お前はここに残りなさい」
「なんで!?」
準備を進めていた刀奈が、楯無の言葉を聞き、動きを止めて、反抗する。
「何があるかわからない。次期当主候補であるお前を危険に晒すわけには行かない」
楯無は、刀奈を下がらせようと説得を始めるが、彼女の、装備を整える動きは止まらない。
「言うことをききなさいっ!」
聞き入れない刀奈に、思わず声を荒げてしまうが、それでも彼女は止まらない。
「もう、守られるだけは嫌なのよ。兄さんを失った時みたいに、私は何も出来ないままで逃げたくない!」
楯無の方を見ずに、ただ淡々と刀奈は呟く。それは、彼女がこれまで抱えてきた想いであり決意。
その決意があったからこそ、次期当主候補としての厳しい修行にも耐えることが出来た。だからこそ、ここで引き下がることは、彼女の矜持が許さなかった。
「父さん、私は止められても、絶対に引き下がらない」
全ての装備を確認し終えた刀奈は、楯無の顔をしっかりと見つめ、告げる。
その決意の眼差しは、例え何者であろうとも覆す事を許さない意思を表す、強く、光輝いたものであった。
「絶対に無理はしないと誓えるか?」
「えぇ、必ず守るわ」
楯無の問いかけに、視線を反らさずに答える刀奈。
「分かった。着いてこい」
たった一言だけ告げて、楯無は隊員と共に倉庫へと歩いていく。
その背に置いていかれぬよう、楯無も歩き始め、直ぐにその横へと並ぶ、数分ほど歩くと、倉庫へとたどり着く。
「中の状況は?」
先行して到着していた隊員に楯無が訪ねる。
訪ねられた隊員は、状況を報告する。
「交戦し負傷したと思われる隊員を、倉庫入り口から目視にて確認、交戦相手に関しては発見できていません。先行して集まっていた数人を、先行部隊として潜入させています」
「ご苦労」
隊員から説明を聞いた楯無が、入り口に立ち倉庫内へと目を凝らすと、数人の隊員たちが地面に横たわる姿を確認できた。
「先行部隊より報告があり次第、突入を行う!いつでも対応出来るよう姿勢を整えろ」
『了解』と楯無の命令に従い、いつでも走り出すことの出来るよう構えをとる隊員たち。
その構えをとってから数分と経たず、先行部隊から突入可能の合図が降りる。
「突入開始!!」
号令と共に勢いよく、それでいて隊列をみだすことなく駆け出す隊員たち。
先行部隊の元まで一気に駆け寄ると、各々が配備された小銃を構え、各方向の警戒にあたる。
「なんて惨いの」
隊員たちと同様に、倉庫内部へと突入した刀奈は、眼前に広がる光景を見て、思わず声を出してしまう。
何者かによって襲撃された隊員たちは一ヶ所に集められ、重なる様にして積まれている。
呻き声を上げる者、全く動きを見せない者、それぞれの隊員たちの体には大小様々な傷痕が見られる。
その傷痕から流れ出たであろう血液が、徐々に範囲を拡げながら、生臭い鉄臭さを放ち、凄惨さを助長する。
「負傷者を運び出す、警戒は怠るな」
負傷者を運び足すために数人の隊員が、彼らが積まれた山へと一歩ずつ近づいていく。
警戒にあたっている隊員たちも横目でその様子を伺う。
あと一歩でたどり着く、誰もがそう考えていた次の瞬間、ガンッという重たい音と共に、救助を行おうとしていた隊員の姿が消える。
次いで、警戒にあたっている地点から離れた場所で、激しい破砕音が発生する。
何事かと、その方向に目を向け、隊員たちは異常を理解する。
破砕音は、積まれた荷物に、人間が
ぶつかったことで発生した。
ぶつかった人間は、先程まで目の前にいた、救助にあたっていた隊員。
なぜぶつかったのか、恐らく吹き飛ばされたから。
では誰に。
その答えにたどり着いた者たちが、負傷者の山へと振り返る。
流れ出る血溜まり海の中。
隊員たちを嘲笑うかのように。
まるで己の強さを見せつけるように。
黒い悪魔が、いつの間にか現れていた。
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたのであれば幸いです。
文中にアンノウンと出しましたが、アギトではありません。
正体がわからない存在という意味で使わせていただきました。
次回はまた来週くらいになるかなと思います。
それではまた!