ベルくんちの神様が愛されすぎる 作:(◇)
前日譚ヘスティア、リリルカを拾う。
ヴェルフ&ベル、
リリルカが目を覚ましたのは魔石灯で灯された暗い部屋だった。此処は、と眠る前の自分の記憶を探ろうとして隣から寝息が届く。
『……ふにゃ』
『……ふにゃ、じゃないですよ。何をしているんですか、この神様は』
ベッドはお世辞にも良いものではなく、二人で寝るには狭い。そもそも自分とは全くの見知らぬ関係の人物を隣に置いて無防備に寝られる神経がどうかしている。そしてリリルカは昨晩のことを思い出した。
ヘタクソな治療を行い、ポーションを飲まされ、そのままシャワーで体を洗われた。まるで捨て猫を拾ったように自分は扱われていて、それを自分はなすがままに受け入れていた。自暴自棄だったと言ってもいい。そのことを思い出してリリルカは思わず顔を赤くした。自分が散々に思っていた神に助けられたことに、悔しさや恥ずかしさが混じった複雑な感情が溢れてきたからだ。
『不用心すぎません? ……本当に、馬鹿なんじゃないですか?』
リリルカの服は部屋に干されており、それを着替えて辺りを見渡した。目についたのは棚に置かれた小奇麗な小物入れだった。近くには財布が無造作に置いてあり、ひょっとして自分はこの神に試されているのではないかとリリルカは邪推する。
しかしこの部屋の主である神はいまだに起きようともしない。幸せそうな表情で熟睡していることがはた目からでも分かる。
『……授業料です。これに懲りたら余計なことをしなければいいんです』
財布を無視して小物入れの中を確認すると、着飾るためのアクセサリーが見つかった。安物だらけの中から剣の形どったペンダントが見つけると、それを直ぐ懐へと仕舞った。
現金は無くなればすぐ気が付くが、それ以外で普段から使用しない物は気が付くまで少し時間が空く。一番金目になるだろうモノを素早く物色したリリルカは、音もたてずに部屋を抜け出した。
教会の地下から外に出て、一度振り返ってみてもあの女神が来る様子は無かった。あれだけ熟睡していたのならそれも当然だろう。そして懐から盗み出したペンダントを取り出して、そこに彫られていた神聖文字に気が付いた。
『ヘファイストスの神聖文字……っ!? 本当に、本物? 冗談でしょう?』
下界の者でもヘファイストスという神聖文字は、冒険者なら誰でも知っている。正確には【ヘファイストス■■■・・・】と彫られており、その後ろにある文字まで意味は分からない。だがリリルカも名前の部分を見て、自分の手の中にあるモノがどれだけの価値があるのかを理解してしまった。
思わずぎゅっとペンダントを握りしめる。そして自分が取っている宿へ向かって足を速めた。
『(売るためのルートは持っている。魔法を使わずに姿を見せてしまっていたのは減点ですが、眷属の一人もいない神なら見つかった所で問題もなし。それなら――)』
さっさと売って金銭に変えてしまえばいい。ひょっとすると自分がファミリアから脱退するのに十分な資金を手にすることもできるかもしれない。
あれほど望んだ自由が目の前までやってきている。思いがけない幸運に思わず口元に笑みを作る。
“ああもう! やっぱり大丈夫なんかじゃないじゃないか!”
“はい、ポーション! 着替え! 脱げない? 手伝うよ! なにを恥ずかしがっているんだい、女どうしだっていうのに!”
“上手いもんだろう? ミアハに教えてもらったんだ。体調が悪くなったらこの料理がいいってさ!”
“いいよ、君が眠れるまで近くに居るからさ、ゆっくりおやすみ?”
ふと、
先ほどまでの浮ついた気分が一気に冷めたような気がした。笑えてしまうぐらい自分に都合のいい状況なのに、なぜか笑えない。宿へ向けていた足取りは酷く重くなった。暖炉のような暖かいあの光景を、思い出してしまうたびに嫌な気分になった。
『……なんで今更』
同じようなことはあった。あの神様がもたらした暖かさは、かつて花屋の老夫婦が自分に与えてくれたものと同じだ。あっけなく壊れてしまったけれど。
どうせ壊れて失ってしまうなら今無くしても後で無くしても同じだ。だったら自分に一番利がある選択を取るべきだ。
『……』
まだ空は晴れない。曇り空。
――
リリルカを見つけて追いかけるヴェルフだったが、実際にどうするかは全く考えていなかった。一緒に組みたいと思っていた相手が見つからなかった所で急に視界に入り、思わず行動してしまったのだ。
会って話すかどうするのか、とりあえず話す席を作ってから考えるか。そのような発想になってしまったのはベルという、事をぶん投げれば何とかしてくれる相方が居てしまったからだろう。
「(……つか、なんで俺はリリスケを追いかけているんだ? そりゃあリリスケが逃げてるから追いかけるんだが、別に俺が声をかけたわけでもねぇぞ?)」
敏捷のステイタスはヴェルフの方が勝っているにも関わらず、大通りから裏路地へ、巧みに走り続けるリリルカに距離を詰めることができなかった。
「ちょっと待て、待てっての! リリスケぇ!」
ヴェルフの声が届いたのか後ろ目にリリルカがヴェルフの方へと視線を向けた。
帰ってきたのは驚きの表情だった。それが確認できたと同時に、そのままリリルカは逃走を続けていた。
逃げられた、無視された、という思うより、なんで逃げるんだ、という疑問の方が大きく、ヴェルフは走りながら後ろを走るベルへと言葉を投げる。
「なぁ! 俺なんかアイツにやったか!? 身に覚えがねぇぞ!?」
「ああ!? なんだお前は!? あの糞サポーターにやられたんじゃねぇのか!?」
まったく知らないヒューマンの男がそこに居た。
「……誰だお前!?」
「こっちのセリフだ!」
後ろを駆ける音が聞こえていたからベルだと思い込んでいたが、見知らぬ男が駆けていたことにヴェルフは気が付かず、驚きの声を上げる。ロングソードを背にした冒険者風の装いのその男も、言葉を返しながらも足は止めなかった。
ヴェルフはその男に見覚えは無く、逆もまた然り。ならば共通の相手は今追いかけている人物になる。
路地裏へと入り奥にリリルカが走るのが見えヴェルフと男は追いかける。通路の奥に大通りの光が見えたところで、白い影が空からリリルカの前へと着地した。
「なっ! ひゃあ!?」
「ごめんよっ!」
リリルカは回避しようとしたがその白い影……ベルはその回避先へと廻り、走り抜けようとしたその体を捕まえる。ヴェルフを走らせ住宅地の上からそれを確認したベルは、進行方向へと辺りを付けていた。
「なんなんですか貴方は!? 離してください!」
「ちょ、ちょっと待ってごめんアーデさん! 逃げないで!?」
暴れて腕の中から逃げ出そうとするリリルカを何とか抑えてベルはその言葉を口にする。自分の名前を呼ばれたことでベルのことにリリルカは気が付き目を丸くする。
「……? クラネル様? って、今はそれどころじゃ!」
「悪いな坊主、助かったぜ。それで……よくも騙してくれたよなぁこの糞サポーターが!」
リリルカの言葉は男の声によって遮られる。そこでベルもその男のことに気が付いて視線を向けた。武器や防具を身に着けた冒険者の装いと発した言葉、それを観察してある仮説を立てる。
ヴェルフはその間に二人の近くに駆け寄った。直ぐにベルが耳元でヴェルフへと尋ねる。
「……ヴェルフ、お友達?」
「いや、まったく知らねぇ。なぁあんた、リリスケになんか用か?」
ヴェルフの言葉に男は意外だと言わんばかりの表情だ。
「なんだお前ら? そいつに用があるわけじゃねえのか? ……まあいい、そいつはコソ泥だ。ダンジョン内で罠に嵌めて俺の荷物を盗んでいきやがった」
怒りの視線を向ける男にリリルカがひっ、と小さくつぶやいて怯えた
「リリスケが……? 本当なのか?」
「嘘なんかつくかよ! モンスターを引き寄せて、俺が対処してる最中に荷物を奪って消えやがったんだよ!」
男の言葉をヴェルフは信じたくは無かったが、冷静な部分の思考はそれもあり得ると結論を出していた。
一瞬ベルに視線を向ける。男の言っていることは本当か、という意味を込めたものに対してベルは頷いた。
「なぁ、ベル」
「本当だと思う。アーデさんが冒険者間で問題を起こしたことは、ギルドに報告されていたから」
「……ああ、成程な。ギルドから紹介が無かったってのはそれが原因か」
ヴェルフから見てリリルカは優秀なサポーターだ。だがギルド側が彼女を紹介する選択をしなかったのは、前科者であり問題を起こされた場合、話がこじれてしまうからだった。
「それで、お前等はそいつ何だ? このままじゃ俺の気が済まねぇんだ、無関係だって言うならさっさとそいつを引き渡せ」
「そりゃあ……」
ヴェルフは言葉に詰まり、頭を軽く掻きながら考える。
正当性は男の方にありその復讐に合うのはリリルカの自業自得だ。女だから、子供だから、という理由付けは冒険者になった時点で無いも同然だとヴェルフは思っている。
ヴェルフがリリルカを庇ってやる理由は何処にもなかった。この状況でリリルカ以外の冒険者なら、ヴェルフも迷うことなく引き渡していただろう。
「(リリスケとは別に深い縁があるわけじゃねぇ。やらかしたのも自業自得。だけどなぁ、命かけて戦って、背中任せた奴がボコボコにされるのを見逃すってのはどうなんだ?)」
実質の階層主戦で同じ戦場に居たのはリリルカだけではない。そして彼女とはたった一度そこでチームを組んだだけだ。
だが、ヴェルフにとってあの戦いは特別だった。ベルに対して強い友情を抱いたのはその戦いであり、自分が前に進むための切っ掛けになった戦果を手にした場所でもあるのだから。
無論そこでリリルカにまで友情を感じるほど、ヴェルフ自身も安い人間ではない考えている。ただ見逃すのは引っ掛かる、程度の感情を抱く程にはリリルカに対して好意的な感情はあった。
「(……詰まる所、このまんまリリスケを引き渡すってのはなんか違うって分かってんだ。なら、そうするか)」
最終的にヴェルフは自分の感情論で決めた。メリットデメリット、考えなければならない事は山ほどあるのだろう。ただベルが発言しないのなら、どっちを取ってもよいという事だ、という意思疎通はベルとできている。
「なぁ、ベル。なんとかなるか?」
「なんとか
「分かった、じゃあ決まりだな」
事実、ベルもヴェルフがどう選択してもよいように考えていた。
オラリオに来る前の旅で『おとうさん』が何度も女性に騙されており、ベル自身女性にも悪人は居ることを知っている。リリルカがその類であることは分かっていた。
言ってしまえばリリルカがどうなろうとベルは別に良かった。ヘスティアと出会ったときと同じように、ドライな面があるのは変わっていなかった。変わったとすれば、その隣にはオラリオでできた友が居て、彼ならどうするのか何となく想像できたことだろう。
「あー、悪いんだが俺らはリリスケと組むつもりで探してたんだ。引き渡すってのは勘弁してくれねぇか?」
「……え?」
「はぁ!? お前俺の話聞いてたのか!? そいつは薄汚ぇサポーターだぞ!?」
「そりゃあ、そうなんだけどな。金は……まぁリリスケが持ってる分なら渡すし、足りないなら少しは出す。それじゃダメか?」
ヴェルフの発言には男も、そしてリリルカも目を見開いて驚いた。
だがベルだけは違った。小さく口元で笑みをつくると、リリルカを抱えたまま一歩前に出る。
「金じゃねぇんだよ、このままじゃ俺の気が収まらねぇって言ってんだ!」
男が背中のロングソードに手をかける。それと同時にヴェルフが大刀の柄に手を据えようとしたところで、後ろから声をかけられた。
「ヴェルフ、アーデさんのことお願い」
「ん? おう、任せた」
ベルが抱えていたリリルカをヴェルフへと渡す。両脇の下を持つようにヴェルフはリリルカを抱えた。
前に出てきた
ベルがこの街へ来る前の旅での資金源は、『おとうさん』と共に稼いだ賞金稼ぎとしての褒賞と、行商人としての利益だ。後者をベルと共にいた
そして……
【軌跡】を引き落とす。
【軌跡引用】 詐術 話術 交渉術 心理学 商学
――
ヴェルフはリリルカを抱えながら、ベルが男と交渉している光景を見ていた。男の顔を赤らめさせ、青ざめさせ、そして今は喜色の笑みすら浮かべさせている。その様は祭りでガキどもに当たり無しくじを売りつける屋台の親父のようだとヴェルフは思った。要するに、えげつない、の一言だった。
「……あの、ヴェルフ様。降ろしてもらってもいいですか?」
そうしていると抱えていたリリルカから声がかけられる。下ろすタイミングが無かったからか、抱えたまま忘れてしまっていた。
「あ、そういやそうだな。って、下ろすのは良いけれど逃げるなよリリスケ!?」
「リリルカです。……逃げませんから、その珍妙な名前で覚えられるのは止めてくれませんかね?」
さっき冒険者の男から声をかけられたときの怯えた表情は何だったのか、半目でヴェルフを見ながら不機嫌そうにリリルカは返答する。
ベルが男の耳元で何かをつぶやき麻袋を握らせた。満面の笑みを浮かべた男が友人にでも語り掛けるように、ベルの背中を叩く。そしてその麻袋を懐に入れると、ヴェルフたちへと近づく。
「おいサポーター、今日の所はこいつに免じて許してやるが、次やったら只じゃ済まさねぇからな!」
リリルカへ向かって言葉を吐き捨てる。びくり、と男の言葉に震えたリリルカは、暗い表情でうつむいた。
男は路地裏を抜けて去っていく。少しの静粛の後、先に口を開いたのはリリルカだった。
「……はぁ。クラネル様、幾ら使いましたか?」
「九千ぐらい。おめでとうヴェルフ、今日の収穫はさっき無くなったよ」
「ああ……ああ!? 待てさっき渡していた袋の中ってのは今日の稼ぎか!?」
ヴェルフの言葉にベルは頷き、ヴェルフは額を押さえて空を仰ぐ。リリルカとの諍いに割って入ったのは後悔していないが、稼ぎが無くなるのは流石に痛かった。
元々リリルカに道理が無い状態で相手に納得させるなら、利を与えるしかない。討論でへし折ることはベル自身もできるだろうが、後日同じことが起きるだけだ。多少の出費は仕方のないことだった。
「そうですか。お買い上げありがとうございます。それで、今度は私に何をやらせるつもりですか?」
投げやりに言ったリリルカの言葉にヴェルフは顔をしかめた。感謝をしてもらいたくて行ったのではないが、人買いのように言われては耳障りが悪い。
「いや買うってリリスケお前なぁ、そんなつもり俺にはねぇぞ」
「そんなに繋がりも無い相手を大金出して助けたなら、そう見えても仕方ないと思う……と言うよりも、やって欲しいことがあるのは事実だよね?」
ベルの言葉を聞いて表情を消したリリルカは、ヴェルフへと向き直り小さく頭を下げた。
「…………………春を売る予定はまだ無いので、できればそれは外してくれると嬉しいです。いえ、リリに選択肢が無いのは承知しているのですが」
「裏路地で追いかけまわして金を握らせて頼みごとをする……やばいヴェルフ、言い訳できない」
「おい、やめろ。俺を下衆に仕立て上げるのは本当にやめろ、俺が椿にぶっ殺される」
「嫉妬でですか?」
「ヴェルフ、愛されているんだね」
「この状況じゃ純粋な殺意しか無ぇっての!? つかリリスケ分かって言ってるよな!? ベル! お前まで俺をからかうんじゃねぇよ!」
憤慨するヴェルフにベルはごめんごめんと笑う。ベルとしては頼んだ食事や稼ぎが無くなったことに少しだけ思うところがあったが、ひとまず先ほどの冗談で水に流した。
「とにかく、こっちはリリスケを雇いたくて追いかけてきたんだ。サポーター、頼まれてくれねぇか?」
「……ヴェルフ様、失礼ですけど先ほどの話本当に聞いていました? あの冒険者が私に装備を奪われたって言うのが嘘だと思ってます?」
「……嘘、だとは思いたいけどよ。本当なんだよな?」
「ええ。ついでに言うのなら理由は金銭目的とそれらしい理由もありませんね」
自嘲するように言ったリリルカにヴェルフは次の言葉が出なかった。客観的に見てもリリルカに対して庇う理由が見えず、パーティに誘うにしてもデメリットが目立つ。ヴェルフが行動を起こす理由はそこには無かった。
「(つかなんでそこまでリリスケに拘っているかって言ったら……)」
「……そんなに悩まなくても、そのまま言えばいいんじゃないかな? ヴェルフらしくも無い」
悩んでいる様子のヴェルフにベルは一言助言を出した。目を丸くしたヴェルフはやがて納得したように頷くとリリルカへと視線を合わせる。
「なぁ、リリスケ。俺はお前らと組みたい。あの戦い……インファント・ドラゴンと戦ったときのことを意識し過ぎているのは自覚しているけれどよ、あのパーティをまた組みたいって思っているのも本音だしな」
それにあの時はそんなに悪い奴だとは思わなかった、と。そうヴェルフは言葉を続けた。
ヴェルフがリリルカに拘っていたのは、きっとインファント・ドラゴンと戦ったときと同じように、二人と組みたいと思っていたからだ。あの戦いはヴェルフにとっては大きな一歩を踏み出した出来事であり、そこで共に信じ合い戦ったベルとリリルカに対しては深い感情を得ていたのだ。本人の考えとは逆に、安い人間だと言われたら否定できないだろう。
ただし仲良しこよしをしたいわけではなく、打算も無論存在するが言った言葉はヴェルフの嘘偽りのない本心だった。
その言葉にリリルカは虚を突かれたような表情をした。しかし直ぐに睨むようにヴェルフへと視線を返し口を開く。
「あの時は、命が懸かっていたから協力しただけです。それにサポーター程度なら、私じゃなくても他に居るでしょう?」
「いいや、前組んだ時思ったんだが、リリスケはサポーターとしては凄腕だしな。それなら組む価値はあると思わないか?」
あっけからんと言うヴェルフの様子に、リリルカは呆れて溜息を吐いた。
「だからって
「……そこはたぶん大丈夫じゃないかな?」
能天気な言葉を口にしたベルを、リリルカはジト目で睨む。余計なことを言うなと視線は語っていたが、ベルは肩をすくめるだけだった。それが癪に障り、リリルカは咎めるようにベルへと言う。
「どこをどう見てその判断に至ったのか教えていただきたいですね。クラネル様からも少しは――」
「アーデさん、別にパーティに入りたいとも、その逆に嫌だとも言ってないよね? ヴェルフを諭すだけで」
「――――」
そもそもこの話は単なるパーティ勧誘であり、リリルカが一言断ればそれで終わる話だった。それでも長引いているのなら、勧誘された側に何か思うところがあるとベルは判断する。そこに悪意あるものなら、きっとリリルカならもっと
リリルカが悪い人ではあるが根が腐っているわけではないと、そう判断するには彼女の話の内容は十分だった。それならそこから先どうしたいのかは好意関係の問題だ。ベルもリリルカのことは嫌いではない。そして互いに冒険者であり、同じ階層で行動できる実力があるのなら、冒険に誘うことは何もおかしくない。
「――自意識過剰にもほどがありますね」
「あはは……そうなりたくないし、まずは仮に組んでみてもいいんじゃないかな?」
「物は試し、ってやつだな」
「その言葉、詐欺の常套句だと思うのですが」
「まあそう言うなって。行こうぜ、リリスケ」
ヴェルフは、にっ、と歯を見せて笑った。
――
何時もの最悪の日だ。命がけでサポーターを務めて、横暴な冒険者に突き合わされ、過去の自分のツケがついでとばかりに追いかけてきた。まぁ前科もちのサポーターなどそんなものだ。
自業自得と言ってしまえばそれまでだが、当たり前の日常を謳歌する大多数と比べ、理不尽ではないかと舌打ちをしたくなる。数日前、
少し前に短時間だけ組んでいた想定外の人物の声に驚き、捕まったとき諦めようとした。せいぜい怯えた子供のようにふるまい、同情を買おうとした。
『なんとかなるか?』
『なんとかするよ』
……想定以上に同情を高額で買われてしまったのだけれども。
二人は自分の殆ど繋がりがない他人も同然の間柄だ。それを助ける理由も無く、何かに利用したいのだと聞いて自然に納得できたし、理解ができて安心はあった。以前素を見せていたので冒険者
一緒にパーティを組む、という提案には目の前の鍛冶師がどれだけ愚かなんだと鼻で笑いたくなった。どうして
それを指摘して諦めさせようとして――少年の言葉に本心を抉られた。彼は、嫌いだ。
自分から彼らのことを拒絶できなくて、何かに期待している自分が嫌だった。
提案をし言葉を待つ青年と、小さく笑みを浮かべる少年が居た。自分は不満げに言葉を返す。
「リリルカ・アーデです。その珍妙な名前で呼ぶのはやめてくださいと言いましたよね? クラネル様、クロッゾ様?」
これは慈悲に縋ったわけじゃない。必要だから、有用だから互いに手を貸し合うだけだ。必要なら切り捨てるし、彼らからも同じことをされても仕方ないと思える。何も変わったことなんてない。
だから、笑う理由も何一つない。自分の顔に浮かんでいるのはきっと作りものだ。