ベルくんちの神様が愛されすぎる   作:(◇)

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二話下

 へぶはっ、と。ヴェルフは地面に胸を打ち付けて肺の中の空気を吐き出した。その痛みが早く立ち上がれと自分を催促しているようにも感じ、うつ伏せになった身体を起こした。

 まだ終わってはいない。ベルが投げたモルブルボムは作用したのか、自分は今動けるのか、ミノタウロスの足は止まっているのか。無我夢中で自身の状態が分からないなど言い訳にもなりはしない。言い訳をしながら死んでいくぐらいなら、一つでも自分の思う最善を尽くす方が先なのだから。

 感覚を研ぎ澄ませる。視覚聴覚嗅覚すべてで現状を把握するためにヴェルフは片膝を立てて辺りを見渡し情報を取り入れた。

 

 

 

「がぁぁあああああああああああああああ!? なんだ! なんだこれ!!? なんなんだこいつはぁ!!」

 

「ああああーっ!? やっちゃった……」

 

 

 ブラックアウトした視界に再度色が灯ると、そこには鼻を押さえてのた打ち回っている狼人と駆け寄る少年が居た。

 

「……どういう状況だこれ」

 

 死の気配から遠く離れた風景に戻されたからか思わずヴェルフは呟いた。

 戦闘中背後に感じていたミノタウロスの威圧感は霧散し、死ぬ前兆は微塵も感じられない。その代りにベルと狼人の近くには、潰れたトマトになったなにかがあった。

 もしかしてあれがミノタウロスだったものか?

そうヴェルフが考えれば頭の整理は簡単に進んでいった。上級冒険者にミノタウロスは討伐されて、自分とベルは助けられたということだろう。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 その言葉と共にヴェルフの目の前に手が差し出される。死の脅威が去った安堵感から、ヴェルフは特に思う事も無くその手を掴んで立ち上がった。

 

「ああ、悪いな……ってお前はさっきの」

 

 ヴェルフに手を差し出していたのは、先ほどベルと自分が助けようとした女性だった。どうして逃げなかったのか、と問う前にヴェルフは彼女の持つ装備や姿を見て察しがついた。

 今の自分の手ではひっくり返っても打てはしない業物を持ち、金の瞳に金の髪、蒼の軽装の姿は、ヴェルフも耳にしたことのある人物のものであった。

 アイズ・ヴァレンシュタイン。【剣姫】の二つ名で呼ばれる彼女のことは、姿を見たことは無いが名前だけは知っている。レベル2到達のレコードホルダーであり、最大手ファミリアである【ロキ・ファミリア】の精鋭の一人だ。

 

「いや……すまん助かった。俺はヴェルフ。アイツはベル、パーティが危険な時に助けてくれて感謝する」

 

「アイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン。気にしないで。寧ろ迷惑をかけたのは私達だから」

 

「私達……?」

 

 なお助けたのは後ろでのた打ち回っている狼人、ベート・ローガである。ヴェルフはそれには気が付かず、アイズの起伏の少ない表情を見て内心で苦く思っていた。

 自分たちのやったことは無駄な世話だったらしい。ただ自分もベルも相手が格上だったことに気が付けなかったのだから、ベルの判断が間違っていたとしてもそれに思うところは無い。

 そして相手が助けてくれたことは事実であり、有名人だからと言って対応を変えるのは失礼にあたるだろう。ヴェルフは礼の言葉を伝えるがアイズから返ってきた、迷惑をかけた、という言葉に内心で首を傾げた。

 話を聞けばミノタウロスが上層まで来てしまったのはロキ・ファミリアが原因らしく、遠征の帰りにひと暴れしようとしたらミノタウロス達が怖がって逃走してしまったようだ。一目散に逃げていたミノタウロスは道中で他の冒険者に攻撃されながらも突っ切って此方に来たらしい。

 

「そういうことだから、私達が下手を打たなければ君たちが危険に巻き込まれることも無かった。本当にごめんなさい」

 

「だけど助けられたことは事実だからな。俺は恨むつもりは無いから気にしないでくれ」

 

 頭を小さく下げるアイズにヴェルフは軽く手を振ってやめてほしいと応える。実際に此方の被害と言えるのはベルの消費した道具ぐらいだ。投げた魔石は後で回収すればいいし、自分は安全に格上のモンスターと命がけで切り合ったという経験ができた。感謝こそすれ恨む筋合いはないだろう。

 

「まぁベルの方は……どうだろうな」

 

「彼にはアイテムを使わせてしまったから補償したい」

 

 ベルが使用したアイテムはアイズが初めて見るものであり、ベルと共に行動しているヴェルフにとっても滅多に使わない貴重品という印象があった。

 

「……え、えーと。大丈夫、ですか?」

 

「大丈夫に…見えるか……糞がぁ! ゲホッ、カハッ」

 

 咽る狼人の冒険者と頭を抱える少年がまだそこに居た。思わずアイズは首を傾げる。

 

「……あのアイテム、身体に影響はある? 【耐異常】のアビリティを突き抜けてあの効果が出るのは少し異常だと思うけれど」

 

 狼人――ベートの余りの悶えぶりに流石のアイズも心配になって尋ねる。情報の漏えいにも思えるが、一級冒険者達はほぼ例外なく【耐異常】のアビリティを保持している。言葉にしたところで問題は無い。

 【耐異常】はモンスターの毒だけでなく人為的に造りだした毒でさえ防ぐため、ベートは大丈夫だろうとアイズは考えていた。

 しかしこうも状態異常が長いと流石のアイズも心配にもなった。

 

「いや、一定時間で完全に効力は失うって話だ。……実際に試し打ちに付き合わされて、ベルの奴が暴発させたが、あの狼人みたいになっていただけだったな」

 

 モルブルボムについては商品化の前段階としてミアハ・ファミリアから実験をクエストとしてベルと二人で頼まれていたことが有る。ダンジョンでの使用とそれ以外での使用での差異などのデータを得るのが目的だった。

 しかし製品を作る段階で製作者であるナァーザが、うっかりとその臭いをまともに嗅いでしまい、のた打ち回っているのをベルが大爆笑したらしい。それを見たヴェルフは、何かしらの因縁でもあるのだろうかと首を傾げていた。

 ただ試作品として渡されたそれがダンジョンの外とは言え暴発したのは、それも一因ではないだろうかとヴェルフは予想する。苦情が周りから来てその日は散々だったとヴェルフは思い出す。

 テロに使えそうなこれは流石にダメだと互いの主神から止めが入り、今はベルが特注品として頼むだけで商品にはなっていない。

 

「あと数十分もすれば臭いも取れるだろうよ。まぁベルがああなったときはぶん殴って気絶させたけどな」

 

 ヴェルフぅ!僕を殴って気絶させろぉおお!! と叫んでのた打ち回っていたベルを思い出し、大きな問題にはならないだろうとアイズに笑いかける。

 なんか臭ぇから嫌だと断った時のベルの表情と、死なば諸共実験を再開すると伝え別の試作品を取り出したナァーザの表情は今でもヴェルフは覚えている。あの惨事の後でも後遺症は無かったため恐らくは大丈夫だろう。

 

「…………そう、分かった」

 

「? 何を……」

 

 神妙な顔で頷いたアイズは、すたすたとベートの近くまで寄った。それに気が付いたベルは道を開けるが、ヴェルフもベルも何をするのかと首を傾げる。

 唯一その場所で嫌な予感を感じたのはベート・ローガただ一人だ。何かがマズイ、此処で蹲ってる場合じゃねぇ。長年戦闘者として培ってきた直感が、サンドバックにされても立ち上がるボクサーの様に、ふらふらとしながらも身体を起こした。

 

「おいアイズ、てめぇなにを……ほぐぁ!!」

 

「おぅ……」

 

 あくまでも治療行為の一端であり、嫌な予感はあっても殺意を微塵も感じることができなかったベート。決め手、右のボディブロー。見事にKO判定を出されたベートは再び気絶した。

 俵でも持つようにベートを肩に掛けたアイズは、モルブルボムの残り香に顔を顰めつつもベルたちに向き直る。

 ベルにヴェルフと同じような説明をした後、ミノタウロスの魔石はその補償代わりに受け取って欲しいと言って一礼し、去って行った。正直二人とも唖然としていたため、悠々と歩くその姿にかける言葉も無かった。

 

――

 

 ミノタウロスという固体にしては小さい体躯であったが、とれた魔石は相応に大きなもので、ベルとヴェルフは思わず息を呑む。この魔石を換金したのならモルブルボムを使った分の金銭は余裕で取り返せるだろう。問題は作成を嫌がる製作者に頭を下げる程度の事だ。

 回収を終えた二人は、ミノタウロスに追い掛けられた道中で放り投げた魔石入りのバックパックを拾いに向かった。幸いなことに盗まれたりすることは無くその場所にあり、稼ぎが無くなるという事は防ぐことができた。

 

「たっくとんだ目にあったな。もう一度ミノタウロスと戦えって言われても絶対にやんねぇぞ」

 

「やめてよダンジョンで……えっと、神様曰くフラグ、だっけ? そういうの立てるの。本当にもう一体来たらどうするのさ」

 

 神様たちの中でダンジョンや危険地帯で意味深な事を言うと本当に発生するというジンクスがある。俗称フラグと呼ばれるそれを立てて冒険に出ようとする眷属たちを、神達は冷や冷やしながら見守っているのだとか。

 肩に太刀を据え気楽に歩くヴェルフをジト目で見ながらベルは答えた。

 

「あーーそんときは……ベル、作戦立案は任せた。もう一回あの臭い玉使うとかどうだ?」

 

「在庫がもうないよ……下手にたくさん持つと誤爆して道具やら食料やらオシャカになっちゃうし。他の冒険者に押し付けるしかないんじゃないかな?」

 

「……マジか?」

 

「マジだよ」

 

 事実上対処不可能という事である。

 確かにそりゃマズイ、と。ヴェルフは気持ち急いたのか、少しだけ歩幅が広がった。とは言えベルとしては下層から帰ってきたロキ・ファミリアの団員が居ることが分かっているので、ほぼ有りえないと考えている。

 ただ自分もヴェルフも少し気が緩んでいる。互いに引き締めるため、ベルは何も言わず歩幅を合わせた。

 

「それよりも、この魔石。僕が消費したアイテム分は引くけれど、分配はどうしよっか?」

 

 鈍い光を放つミノタウロスの魔石を取り出してベルはヴェルフへと尋ねる。小さくとも中層のモンスターである。レベル1である自分たちにはそこそこ大きな収入に成ることは間違いないだろう。

 消耗品や、今回使用したモルブルボムの値段を差し引いてもなかなかの額が手元に残ることになる。

 

「ん? そりゃああっちの詫びってことなんだから、5:5で分ければいいだろう?」

 

「……いや、ミノタウロスの矢先に立ったのはヴェルフだからね? とりあえずいつも通り、下層のモンスターだから普段通りの8:2で」

 

 ベルとヴェルフがパーティを組んでいるのは互いに目的があってのことだ。お互いの利があったからこそ、レベル2への到達資格(ステータスオールD)を得ているヴェルフと駆け出しのベルは組んでいる。違うファミリアである二人が好意だけで相手に付き合うのは酔狂でもあるし相手のためにもならない。

 当然適正階層には差が出るため、ベルの適正より下の階層ではヴェルフのサポーターをしていた。分配はヴェルフの側に偏っているし、ベルにとっての適正階層では使用したアイテム量を引いて等分にすることになっている。

 なら今回のミノタウロスについてはどうか。自分の働きとベルのアイディアがあって初めて発生したものだ。ならば5:5だとヴェルフは考えていた。

 

「下の方の魔石はそれでいいがコレはお前と俺の成果だ。それならコレは例外だろう」

 

「それはそうだけど……」

 

 何かを言いたそうで口ごもるベルに、どうしたんだとヴェルフは内心で思うが、やがてあることに気が付き納得した。

 アイズが一級冒険者であることに気が付いていれば、あるいはベルが助けようとしなければ、もっと安全にミノタウロスは対処できただろう。少なくとも自分が死にかけるという危ない橋を渡る必要は無かったわけだ。

 要するにベルはヴェルフに危険な目にあってこいと言ったことを、結果論とは言え自分の判断ミスを気にしているようだった。

そのことに気が付いたヴェルフは、空いた手の指で輪を作ると、そのままベルのでこ目掛けて弾いた。ぺしんっ、という爽快な音と小さな悲鳴を上げて思わず額を抑えるベルに思わず苦笑する。

 

「たっく、駆け出し(ルーキー)が要らん世話しなくてもいいぞ。報酬は5:5で決定な。なんか思うところがあるなら今度飯でも奢ってくれ」

 

 勿論高い所でな、と。ヴェルフは気にしていないと言うように片手を振った。

 実際ベルと組んで数か月が経つ。パーティを組んだこと自体にも契約は絡んでくるが、互いに互いの背中を任せられる程度には信頼を得ているつもりだ。もしもベルが同じファミリアに入団していたとしたら、戸惑うことすら無く彼の事を友人だと応えていただろう。

 とはいえ気恥ずかしさもあり、それを面と向かって言うつもりは無かったが。

 

「(まぁ流石に鞍替えはねぇな。ベルの奴、自分の所の神様に首ったけだしな)」

 

 ヘスティアが居ない場所の話ではあったが、ヴェルフは一度だけベルに自分のファミリアに来ないかと聞いたことが有る。自分の神様が好きだからやめておくよ、という答えに納得してそれ以来は聞いていないが、もう少し早く自分の神と出会っていればと思う事もある。

 それになんの臆面もなく自分の主神を好きだと言えるのなら、良い関係を築くことができている証明でもある。

 

「ん……それじゃあ明日あたり、帰りに何処か食べにでも行く? あぁ、こっちは神様が付いてくると思うけれど」

 

 案の定自分の所の神様を誘うベルにヴェルフは思わず苦笑する。

 自分も同じようにできたらと思うが、そんなに暇のある身では無いからまだ無理だろうなとヴェルフは考えた。

 

「お、いいなそれ。それなら明日はベル先生のおごりで、豪華に行かせてもらおうか」

 

「こっちは駆け出しなんだからちょっとは手加減してよ?」

 

 軽口をたたき合う二人の足取りはそれと同じように軽い。勿論警戒を緩めるつもりはないが、上層ダンジョン入口近くまでくれば多少なりとも緩んでしまうのは仕方ない。

 翌日はそれに加えてベルが夕食を奢ってくれるときた。ダンジョンでの冒険を平穏と言うには物騒すぎるが、日常に少しの彩が着くことをヴェルフは有り難く感じていた。

 

 まぁ明日の夕食時頃には(ことわ)られたベルを慰めることになるのだが。

 

 

――

 

 ヴェルフと別れたベルはとっくの昔に暗闇となったオラリオを歩いていた。オラリオに来て迷わない程度の時間は経っているし夜目は効く。神の宴からヘスティアがまだ戻っていなければ、迎えに行くのも良いだろう。

 神様であるとは言え下界では人と同じ存在であり、妙な輩に絡まれる可能性は十分にある。まぁ寧ろ妙な輩には神様自身が絡みに行くのだが。彼ら彼女らは面白い(もの)が大好きなのだから。

 とそこまで考えたところで、タッタッタ、と何かが欠けてくる音が此方に向かってきて、ベルは思わず其方へと振り向いた。

 

「べ~ル~くぅぅぅん!!!」

 

「ちょっ! 神様!?」

 

 そこには背中に風呂敷を背負ったヘスティアが、ベルに向かってダイブしてくる姿があった。

 

「もう嫌だぁ!神って奴は変態しか居ないじゃないか!喧嘩仲間だと思ってた奴がボクの貞操を狙っていたなんて! ちくしょう思えば所々怪しかったんだアイツ!」

 

「神様が変態しか居ないのはいつもの事なんじゃないでしょうか……なぜか周りは流石は神様進んでいると褒め称えますけど」

 

「ううう、君がまともな感性で居てくれてボクは幸運だよ。神達は進みすぎなんだ減速してくれてもいいじゃないか」

 

 昔から神様を親として見ていたベルは、価値観の一部は神に寄っている。主に冒険者たちの二つ名を見て顔を歪ませる程度ではあるが。

 抱き留めたヘスティアをひとまず地面に降ろす。ギャグ調で滝のような涙を流す神様を見て、ああまたからかわれたのか、とベルは気が付いた。ヘスティアの交友関係について多くは知らないが、どうやら弄られるキャラであるらしい。一般的な神らしくないと言う理由もありそうだ。

 

「神の宴は……この調子だと抜け出してきたんですね。忘れ物は有りませんか?」

 

「ん、大丈夫だよ。忘れたい物は沢山あるんだけどね。ただ、コイツだけはしっかりと忘れず取って来たんだぜぇ! 長持ちするのを多く詰めてきたから、これで二日はバッチリさ!」

 

 そう言いヘスティアはくるりと身体を半回転させ、背負っていた風呂敷を見せる。外から中身は見えないが、朝持って行ったタッパーには中身が詰まって帰ってきたのだろう。

 自分の所の神様に情けないことをさせてしまってベルとしては悔しい所もある。しかし褒めてもいいんだぞと言わんばかりに胸を張るヘスティアに、ベルは困ったように眉を下げて苦笑した。

 

「ありがとうございます。神様のおかげで夕食がちょっとだけ楽しみになりました」

 

「ふふん、そんなに褒めてもガネーシャの所の料理しか出てこないよベルくん?」

 

 ホームへと足を勧めながらヘスティアと会話を続ける。神の宴で散々な目に合ったことや、相変わらずお隣さんのタケミカズチがからかわれていただとか。

 ベルからは今日の成果やミノタウロスに会ったことを話す。驚かれ心配もされるが、ロキファミリアの団員に助けられたと聞いて複雑そうな表情をしていた。自分の所の団員を助けてくれたことの感謝や今日の出来事が脳内で絡み合っているのだろう。

 

 途中でそういえば、とベルは明日にヴェルフと食事の約束をしていたことを思いだす。

 ヘスティアと雑談をしているが、今日やるべきことと言えば後はステータスの更新をするだけである。

 

「(外食なんて久しぶりだからちょっと豪華にしたいけど、神様は今日いろいろ食べてきたんだよね。うーん……)」

 

 流石に二日連続で御馳走という奴は胃に優しくないかもしれない。ただヴェルフとは約束してしまったし、無理そうなら神様も断るだろうとベルはヘスティアへと尋ねた。

 

「と、忘れていました。神様、明日ヴェルフと一緒に外で食べてくる予定なんですけれど、神様も一緒にどうでしょうか? 胃に優しい料理も置いている場所ですからよかったら……」

 

「ヴェルフ君と? そうだね久しぶりに彼の顔も見ておくのもいいかな……あっ!」

 

 承諾しようとしていたヘスティアだったが何かを思い出したように言葉を切り、残念そうな表情をベルへと向けた。

 

「ごめんよベル君。明日は知り合いと子と一緒に夕食を食べる約束をしていたんだ」

 

「……へ、へぇー。そうなんですか。ちなみに誰とは聞いても大丈夫ですか?」

 

 ベルにとって断られたのは残念だが、重要なのはそこではない。ヘスティアは知り合いの『子』と言ったのだ。神様の知り合いには奴だとかアイツだとか言うヘスティアがそう言うのは、決まって下界の者達だとベルは記憶している。

 

「ええと、君に出会う前に知り合った子だね。ファミリアに誘いたかったんだけどもう別の所に入っているらしくてさ。悪い子じゃないし、ボクも何回も会っているから大丈夫だよ」

 

 そう言うヘスティアだったが、いろいろ考える前にベルは地味にショックだった。何故かは分からないが、ぷつぷつと煮えたぎるような感情が出てきたような気がした。

 ベルがヘスティアに会う前に知り合いがいることなど考えてみれば分かることだ。分かることなのだが、何と言うか、気に入らないと言うか、悔しいと言うか、微妙な感情だとベルは考える。

 

「……そう、ですか。分かりました僕一人で行ってきます」

 

「うんごめんね、埋め合わせは何時かするからさ」

 

 申し訳なさそうな表情をしているヘスティアに、とんでもないと言おうとしたベルだったがその言葉が出ることが無かった。

 自分よりも前に会った子、という言葉が気になることも事実で、だけどあまり聞きたくないと思うのも事実である。

 

「(何やってるんだろ。……分かってはいるけれど、子供っぽいとは思うけれど)」

 

 やっぱりヘスティアにとって自分が一番ではないという事に少しだけベルは拗ねていた。

 

 




立場入れ替え
ベル⇔ヘスティア
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