超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

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14話、強化月間・ラウラの苛立ち

 異様な視線であった。

 

 転校生として紹介されたその少女。

 銀髪に、眼帯に、どこか冷たい印象を抱かせるその佇まい。

 冷徹な雰囲気の中にあって視線だけが熱を放っていた。

 

 雪の中にマグマが蠢いているようであった。

 その熱は何に起因しているのか?

 どうやらその答えは視線の先にあるようである。

 

 一夏と大晃――この二人を視界に捉えていた。

 

「――ッ!」

 

 大晃が笑った。

 人を引き込む笑みで、少女の瞳の奥にある激情を楽しんでいるかのように。

 少女はその大晃の笑みすらも気に入らないようで、より多くの感情を込めているように見える。

 

「何を笑っている」

 

 少女の声は静かではあるが、針を突き立てるような居心地の悪さがある。

 そんな声を聞いても、大晃は笑みを深めている。

 

 少女は喧騒をゆっくりと押しのけるようにして、大晃の前に立った。

 

「貴様、何故答えない」

「いや別に、ただ……」

 

 二人の声に危ないものが満ちる。

 問い詰める形の少女に対して、大晃はひどく優しげに囁きながらもどこか擦れたような声を出している。

 

「面白いなぁ、と思ってさ」

 

 無邪気な、そして、どこか人を逆なでするような言葉が、少女の中の引き金を引いた。

 右腕が掻き消え、顔面を抉るように奔る手刀が――。

 

「調子に乗るなよ、糞餓鬼どもが」

 

 突如放たれた衝撃に少女の動きが止まった。

 千冬は踵を軽く踏み鳴らしていた。

 手刀が大晃との距離を零にするまでの刹那に反応し、少女の動きを止める反応速度はやはり並ではない。

 

「失礼しました、教官」

「教官ではない。ここでは織斑先生と呼べ」

 

 警戒から、大晃との距離を取り、そして千冬に頭を下げる少女。

 教官。

 何故千冬がその敬称で呼ばれるのか、一夏には心当たりがあった。

 

 ――そうだ、千冬姉は確かドイツで。

 

 ドイツ軍に"借り"を作った千冬は、その借りを返すために教官として貢献したのである。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ラウラとだけ名乗って少女は口を閉じた。

 

「シャルル・デュノアです」

 

 その隣の少年もシャルルと名乗って、それきり口を閉じた。

 先ほどまであった騒がしさはもう無く、自己紹介を長々とする気になれなかった。

 

 冷たい空気の中で自分の席に向かう二人。

 

「私は貴様を教官の弟だとは認めない」

「なにッ!?」

 

 ラウラは一夏とすれ違いざまにそう言う。

 一夏の言葉に何の反応も見せないで着席するラウラ。

 

 その言葉に何の意味があるのか。

 単に偉大な姉の弟としては不釣り合いだと罵っているにしては、一夏に浮かぶ苦痛の表情は深い。

 

「さてと、大事な連絡はまだある。

 六月末からある、学年別トーナメントのことだ」

 

 千冬の話はまだ続いている。

 というのも、学年別トーナメントまで丁度四週。

 伝えるべきことは、山ほどあるのだ。

 

「転校生はともかくとして貴様らも知っての通り、学年別トーナメントはタッグを組んで闘うことになる。

 組む相手を決める期限は本日より二週間だ。

 組めなかった場合、無作為に選ばれた相手がパートナーになるが不利なことこの上ない。

 どうせ誰かと組むことになるのだから、積極的に相手を探していくように」

 

 良いな、と千冬が告げると、クラス全員が神妙に頷いた。

 

「それから、安城」

 

 唐突に大晃の名前が呼ばれて、本人が立ち上がった。

 自分が呼ばれた理由もこれからする話の内容も把握しているような素振りで、大晃はクラスを眺めた。

 

「貴様らの中には安城と組みたい者も大勢いることだろう。

 だから、事前に説明しておく。

 安城大晃と組むことはできない」

 

 クラスメイトたち怪訝な顔をする。

 

 組むことができない、つまり、組む相手が事前に決まっているのか?

 しかし、一生徒が誰と組んで闘うかなどと、わざわざクラスの全員に説明することではない。

 なら、どうして――、と。

 

「今回のトーナメントでは各学年から一人ずつ、タッグではなく一人で勝ち抜いてもらう人間を選定することになった。

 一年では安城がその枠に選ばれたわけだ」

 

 事前に本人の了承は得ている、と補足が入る。

 

「何故、大晃がペアではなく一人で闘うことになったのか。

 わざわざ説明するまでもあるまい」

 

 その通りであった。

 大晃が一人でトーナメントに挑む理由は一つしかない。

 大晃は強い。

 無人機と大晃との闘いを目の当たりにした人間はその強さがどれほどのものか知っている。

 無人機の件は戒厳令が敷かれている為知らないものが多いにしても、公式でも一夏とセシリアと大晃の三つ巴の闘いで実力は十分に見せつけている。

 

 だから、クラスメイト達は納得するし、転校生のシャルルにしても周りに同調して特に反論はしない。

 ただ、一人だけが立ち上がって大晃をねめつけた。

 

「先生納得がいきません!」

「ボーデヴィッヒ……」

「何故このような男がそれほどの評価を受けるのですか!」

「お前が何に不満を持っているかは知らんが、これは既に決定事項だ。

 何を言われようが、変わることは無い」

「残念だったな」

 

 千冬への抗議は届かず、大晃は笑う。

 その笑みは決して不快なものではないはずだが、ラウラは嫌悪感を感じる。

 またしても殴り掛かりたい衝動が芽生えるも、千冬に注意されたばかりなので、どうにか耐えて着席した。

 千冬はため息を吐いた。

 伝えるべきことはまだあるのだ。

 

「それから、今週からトーナメントに向けての特別カリキュラムが運用される。

 具体的には、座学よりも実技に重点が置かれた授業内容になり、放課後のアリーナと訓練用ISの使用時間が大幅に増加する。

 使用可能な武装のリストアップも配布するから、是非これらを活用してトーナメントへの準備を万全にして欲しい」

 

 一息で言い切り、教室を見渡す。

 内容が伝わったことを見計らってから、千冬はまた口を開いた。

 

「意見や質問のある者はいるか?」

「はい!トーナメント戦のタッグですがクラスを跨いでペアを組んでもよろしいですの?」

「特に同じクラスでなければいけないという縛りはない。同じ学年であればどのクラスの人間と組もうが自由だ」

 

 なるほど、確かに別のクラスの人間と組みたい場合もあるかもしれないが、学年以外の縛りは無いようである。

 セシリアはその答えに納得して、着席した。

 

 それ以外に手を挙げる人間はいなく、ホームルームでの連絡事項も終わる。

 

「では授業を始める」

 

 一限目の座学が始まった。

 

 

 

 

 

 強化月間というものがある。

 つまり大会に向けて全生徒の実力の底上げすることを目的に期間限定で特別カリキュラムを行うのだ。

 公式の大会に集まる各国の要人やスカウト。

 彼らにIS学園生徒たちのレベルの高さを見せつけることは、IS学園が存続するに当たって大事なことである。

 

 訓練用のISは数に限りがあるが、それでもフル稼働させてISを使う感覚を掴ませる。

 それが千冬の言う特別なカリキュラムの正体である。

 その貴重なISを使用する機会にしても、事前に座学を挟みつかむべき挙動を提示することにより、最大限効果を上げている。

 

 IS学園として、有限な時間を有効活用することを奨励しているのだ。

 

「では、定点回転から」

 

 と、覚えていれば実戦で必ず自分を助ける技術を覚え込ませる。

 その教官としての役目を半ば担うのが専用機持ちの一夏・セシリア・ラウラ、そしてシャルルと大晃の五名である。

 それぞれが中心となったグループを作り、貸し出し用のISを交代交代で使うことになっている。

 選ばれた五人は、

 

「ええっと身体を軸が貫いているような感覚で、ええっと――」

「頭部と腰を線分で結んで、その線分を軸として――」

 

 と、各々裁量でその技術を教えている。

 これは、己の技術を他者に噛み砕いて教えることで、その理解度を深める側面もあるが、実際には難しいようだ。

 現に一夏・セシリアは教えることに難儀している。

 実際の挙動を理解してはいるしコツもしてはいる二人である。

 しかし、いざ教えるとなるとどこから教えればよいのか、中々難しいものがある。

 周りの生徒はアドバイスを理解するのに苦労している様子だ。

 

「回り込む相手がいると仮定して、そいつを正面で捉え続けることをイメージすることだ。

 どれほど俊敏な相手だろうが落ち着けば、有効な痛手を与える布石になるからな――」

「ISにはPICとスラスター二つの動力がある。

 この二つを生かして動かすのがISの基本なんだ。

 まずはPICで静止をさせて、スラスターを点火して回転の動作を加えてね。

 それが自然と定点回転になる。

 ゆっくりでもいいから、一つ一つの動作をしっかりと意識するんだよ――」

 

 反面、大晃とシャルルの教えられる立場の生徒たちは確実に基本を身に着けようとしている。

 大晃は使い所をイメージさせることで、シャルルは使い方をイメージさせることで、皆の理解を深めていく。

 

 そして、この四人とはまた違うスタンスの人間がいた。

 

「あの、ボーデヴィッヒさん何かアドバイスは?」

「無い。好きに練習するがいい」

「……はい」

 

 ラウラの周囲だけ空気が冷え切っている。

 周りの生徒を見下すような冷めた態度で、周りの生徒も思うように動けない。

 千冬は今朝方と同じようにため息を吐いて、ラウラに近寄った。

 

「ボーデヴィッヒ」

「は!」

「真面目にやれ。貴様らだけ遅れているぞ」

 

「失礼しました!」

 

 千冬の言葉にうろたえた様子でラウラは。

 仕方なくといった様子で周囲の生徒にモノを教えていく。

 

 そんな様子で進んでいく授業。

 千冬と真耶がそれぞれのグループを、特に上手くいっていないグループに回り指導する。

 そんな様子を少し余裕ができたグループの人間は眺め始めた。

 

「いや~~、皆大変だね」

「おいおい、さぼるなよ」

 

 のほほんとした声は本音の物。

 周りを見て呟いたのであるが、サボっているわけではない。

 あともう少しで小休止という所で、ほんの僅かの時間で周りを見ただけのことだ。

 

「むぅ~~。ひど~~い。サボってなんかいないもん」

「ははは、分かった、分かった。

 もう交代の時間だからな。

 ただ、もう少しだけやってみようじゃないか」

「ええ~~、もうそろそろ交代させてよ」

 

 大晃の言葉に口を尖らせた本音であるが、教え方に不満など無い。

 しっかり自分に時間をかけて教えてくれるのは、ありがたいことである。

 しかし、本音は自分が物覚えの悪い人間だと思っている。

 現に他の人間よりも多くの時間を使ってしまっていて、後に控える人間がつっかえている状況。

 本音とて流石に焦りが出てくる。

 

「俺が見たところお前さん、もう少しでできるようになるさ。

 残りの人間全員がお前さんほどの時間を使っても大丈夫な位には時間はあるんだ。

 焦ることはない」

「う~~ん」

「さあ、やってみろ」

「……うん」

 

 唸った所で結果は変わらないらしい。

 大人しく従う形で、本音は空中で静止した。

 イメージをする。

 静止と回転を同時に行う。

 形に成り掛けるそれは、霧散する。

 回転とはすなわち、動くことである。

 静止することと動くことを並行して行う。

 そのこと自体を本音はイメージできないのだ。

 

 本音は戸惑い、潜めていた動揺が表に出始める。

 

「本音が手こずっているのは、静止と回転を同時にやるのは矛盾していると感じているからだ」

 

 静かに音が響いている。

 本音の肌を伝わり、内部まで浸透していく。

 

「だが、真に安定した回転とは動かない一点が存在してこそ」

 

 駒が回るとき、そこには決して動くことのない軸が存在している。

 それと同じように。

 

「イメージするんだ、お前さんの中心を、お前さんの中にある決して動かないものを」

 

 ああ、そうだ、確かにある。

 本音はそう思った。

 言葉が容易に想像させる不動の一点。

 力の中心。

 体内に存在する、収束地点を本音が感じ。

 

「今ッ!」

 

 声が背中を押した。

 スラスターに熱が灯り、機体の回転を光の軌跡で彩り――。

 

「おう、出来たじゃないか」

 

 本音は見事、180度身体の向きを変えた。

 とっさの出来事であった。

 

「やったなぁ、それだぜ、それ」

「あっ」

 

 大晃が拳を本音の腹に軽く当てる。

 これもまた本音にしてみれば突然である。

 凶器のような拳を受けても感じたのは、大晃の熱だけで恐怖は微塵も感じない。

 逆に伝わってくる、優しい感触。

 

「良かったじゃないか」

 

 そして、笑いかけてくる大晃。

 何やら訳が分からなくなった。

 本音からボンッと音が鳴り、赤くなった顔を隠した。

 顔が赤くなったのは、拳が熱かったからだと言い訳をしながら。

 

「もう、からかわないでよ!」

「おい、ちょっと待て――」

 

 本音は忘れていた。

 地面に降り立ち、ISを解除する。

 これがいけなかった。

 本来ならISを座った姿勢にして解除するはずが、立った姿勢のままでISを解除してしまったのである。

 立ったままだと、ISは結構高い。

 死ぬほどではないが、怪我はしてしまうことは十分にあり得る高さだ。

 にも関わらず、本音はそこにはない地面を踏もうとして結果――、

 

「きゃあ!」

「おっと」

 

 足を踏み外す。

 幸い、近くには大晃がいた。

 大晃は本音を抱きかかえた。

 二本の腕が下から本音を包みこんでいる。

 

 本音は知っている。

 大晃の腕力ならば人を紙屑のように引き裂けることを。

 その二本の腕に包まれているのに、恐怖はない。

 先ほどと同じように優しさを感じる挙動に、どれほど大切に扱ってくれているのかを理解する。

 胸の鼓動が高まった。

 

「大丈夫かい?」

「……うん」

「顔が赤いようだけど熱でもあるのかい?」

「何ともないよ~~。大ちゃんの身体が熱すぎるだけだから」

「ふふん、そいつは悪かったね」

 

 顔を見られないように俯く本音は珍しく、狼狽えている。

 不思議に思った大晃であったが、他の女子たちが私たちに任せてと言うものだから、同じ女子の方が分かることも多いはず。

 体操座りになって必死に顔を隠す本音を放っては置けなさそうにしていたが、周りの人間が注意を向けている。

 それで、問題はないと判断したのだろう。

 大晃は残りの人間の指導に入った。

 

「らしくないよ!のほほんさん!」

 

「う~~~~~~」

 

「ほら、元気出して、あんなことされたら誰だってああなるから。恥ずかしくないよ!」

「お水飲んで!お水!」

「いつも通り、のほほんとしよう!のほほんと!」

「のほほんッ!のほほんッ!」

 

「皆は、私を、絶対、からかってるよぉッ!」

 

 千冬の介入があるまで、そういう状況は続いた。

 

 

 

 授業で作られたグループ。

 その進行度合いはまちまちであった。

 

 一番、進み具合が悪いのはセシリアのグループである。

 セシリアの専門的な知識を踏まえた上での説明は、確かに正しい。

 しかし、教える上での要領は悪く、いまいち分かりにくい。

 どうにか、目標の達成には近づいているものの、真耶の助けがあってこそ。

 そうでなければ目標をこなす目途は立たなかっただろう。

 

 それと同じくらいに遅れているのは一夏のグループである。

 とは言え、セシリアよりはいくらか分かりやすい。

 言葉足らずの部分があるものの、最終的には動作のイメージをどうにか伝えることは出来ている。

 ただ、一夏の持つ優柔不断な部分が足を引っ張った。

 

「ごめん。立ったまま解除しちゃった」

 

 ISが立ったまま解除されると、立った姿勢のまま固定される。

 そうなると、降ろるときと乗るときに難儀する。

 何故なら、生身の人間がISの操縦席から降りるときも乗るとき、機体を伝う以外の方法がなくなるからである。

 

 それは危ないので、ISに乗る一夏が抱きかかえて送り迎えをすることになるのだが、問題はここからである。

 後続の女子たちが全員立った姿勢のままでISを解除するようになってしまったのだ。

 さらに後ろに続く人間からのプレッシャーがあるから仕方ない部分があるとはいえ、これでだいぶ時間をロスしてしまった。

 

 では、残りグループはどうなっているのか?

 シャルル、大晃、のグループは理想的な進み具合であった。

 

 シャルルも大晃も教えることに関してはある程度のコツを知っているらしい。

 雰囲気も悪くない。

 教えるときの物腰は二人ともが柔らかいものであったし、それでありながらきっちりと必要なことは口にする。

 教えを受ける側も自然と吸収していく。

 

 だから、冷たい空気が張り詰めるラウラのグループの女子生徒たちは羨ましそうに周りを眺めていた。

 

 

 

 きっかけは無数にあった。

 しかし、決定打はやはりラウラは手を抜いている。

 その事実を確信したことではないか、と箒は他人事のように思っている。

 

 ラウラは淡々と教えていた。

 しかし、生徒の大半はISに慣れていない。

 ラウラはその一人一人に対して冷淡に当たった。

 

「何故、その程度のことができない」

 

 冷ややかな言葉に傷つく人間もいる。

 流石に泣くような人間はいなかったが教える度に、冷めたセリフを投げかける。

 

「分からないだ?自分で考えろ」

「甘えるんじゃない」

「これ位のことが出来ないとはな」

 

 ラウラの指導から逃れたくて、全員が真剣になっている。

 授業の進み具合としては悪くない。

 雰囲気は最悪であったが。

 

 そして、箒に順番が回ってきた。

 空中に静止して、回転。

 それだけのことであるが、意外と難しい。

 特に、スラスターの出力と力の向きの調節には、そこそこの精度が求められる。

 中々、上手くいかない。

 

「早くやって見せろ」

 

 ラウラの言葉には答えないで無言で反復練習を行っていく。

 

「何か、コツとかはないのか?」

「そんなものは無い。早くしろ、時間がもったいない」

 

 質問にもそっけない態度を取るばかりである。

 とにもかくにも、何とかコツを掴んで、望み通りの挙動を再現することができた。

 だが、達成感は無かった。

 あるのは、これでようやくラウラの指導から抜け出せるという安堵位のものだ。

 

「ふん、最初から手を抜かずにやれ」

 

 その安堵に浸る間もなく放たれた冷や水のような言葉に、箒は言い返してしまったのである。

 

「手を抜いているのは、お前の方だろう」

「なに!?」

 

 ラウラの怒りの形相で箒に詰め寄った。

 

「私が手を抜いているだと!」

「そう言っている」

 

 箒は揺らがない様子で言った。

 

「ボーデヴィッヒ、お前が罵声を浴びせてきたしても私は良かった。

 私も一流派を背負う身、訓練に厳しいものがあるのは知っているし、軍隊式の教導とは如何なるものか。

 興味があった」

 

 箒は決してラウラが厳しいから怒ったわけではない。

 冷たい言葉ではなく、熱い罵倒であれば、そこに納得はできたことだろう。

 だが――、

 

「お前は私たちを見ていない。

 それどころか、何故こんな初歩的なものを真剣になって教えなくちゃいけないんだ。

 そんな態度を取っている」

「……」

「お前は今日、何も教えてはいない。

 ただ、面倒臭がっていただけだ」

「――ッ!」

 

 心のささくれを無理矢理引き抜かれたように、ラウラの顔が歪む。

 不快感を剥き出しに、箒を睨んでいる。

 対する箒は言いたいことを言って、少し落ち着いている。

 視線は真っ直ぐで、ラウラの内面を射抜くように向けられている。

 

「貴様らに何が分かるッ!」

 

 自分たちの胸に抱えたしこり。

 箒が一通り言語化したお陰で不満の出所はよく分かるようになった。

 その同じグループの生徒たちが二人を見ているからか、ラウラは"貴様ら"と言ったのだ。

 

「ISは兵器だ。

 あらゆる物を破壊し、IS以外では壊すことができない、この世に並ぶものの無い最強の兵器だ。

 しかし、貴様らはどうだ?

 危機感に疎い、意識が低い、挙句の果てにこの程度の挙動にどれだけ時間をかけるつもりだ?

 所詮ISをファッションか何かと勘違いしている貴様らに、何も分かるはずが無いのだ」

 

 ラウラの歪んだ顔はすぐに平常に戻っていく。

 その眼は相変わらず、箒を、周囲の生徒を、見下している。

 箒は苦々しげにラウラを見た。

 

「ご高説痛み入るな」

「教官ッ!」

 

 千冬が騒ぎを聞きつけた。

 こめかみを右手で押さえている。

 

「今日はっきりと分かりました。

 教官はすぐにドイツに戻ってくるべきです。

 こんな程度の低い場所でやるべきことなど何もありません!」

「それは私が決めることだ」

「しかし……」

「ボーデヴィッヒ、貴様にはクラスでの役割を果たすことが出来なかった、罰を受けてもらう」

「……!」

「ISを装備した状態でグラウンドを五周だ。

 アシスト機能を使うことは許さん。

 授業が終わるまでにやり遂げろ」

「了解しましたッ……」

 

 千冬の宣言は妥当である。

 授業で騒いだ人間に罰を与えないことには、示しはつかない。

 

 軍隊に居たラウラもそれ位のことは分かるのだろう。

 昏い目で千冬を見つめていたのも、ほんの少しのことで大人しく従い、ISを展開したままグラウンドに向かっていく。

 箒はそんなラウラをずっと目で追い続けていた。

 胸を締め付けられるような感覚を感じながら。

 

「篠ノ之」

「……はい!」

「ボーデヴィッヒが居ない今、このグループには指導役が居なくなってしまう。

 お前が代役で残りの奴らを指導しろ。

 無論一人では荷が重いだろうが、その都度助け舟は出してやろう」

「分かりました」

 

 いきなりな抜擢にも箒は動揺すること無かった。

 まず、箒は残りの人間を確認して、ISを順番に装備させた。

 一人一人にアドバイスをして、挙動を少しずつものにしていくのだ。

 手探りではあった。

 しかし、グループの全員が定点回転を習得するという目標は達成できそうである。

 

 だと言うのに、箒の気分が晴れることはなかった。

 胸が締め付けられるように苦しかった。

 馴れない指導に追われる箒の頭に、姿を現すのはラウラだ。

 胸に抱えた不満を発散することもできず、むしろそれを隠すように冷たい仮面を被っている。

 過去の自分自身をそこに見た気がした。

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