学年別トーナメントは規模大きな大会であった。
参加人数が多い。
試合の回数は必然的に多くなる。
しかも、試合の一つ一つに結構な手間がかかるのだ。
試合があると当然装備が壊れたり、あるいは消耗した弾薬を補給する必要が出てくる。
だから、試合の合間に整備をしなければいけないのである。
しかも、生徒自身で整備を行う為の設備には限りがあった。
試合の日程は相当な配慮の元決められてはいるのであるが、生徒たちにとってはきついものがある。
すでに経験済みの二年生以上はまだしも、一年生はかなり苦しんでいる。
とは言え、きついだけの大会でも無かった。
まず、一つの利点は多くの試合を観戦できることだ。
参加者である生徒であるが、整備、試合を除けばあとは出番は無い。
勝ち上がる人間ならまだしも途中で負けてしまった生徒は大分時間に余裕ができる。
無論、猫の手も借りたいほど忙しい大会の運営、つまり生徒会等は、そういう生徒に号令をかけるが、それだって一日中拘束される類のものでは無い。
学園の中であればモニターで試合を観ることもできる。
IS同士の試合を肌で感じ取ることができる機会は貴重であった。
そして、これほど規模が大きな大会になると、また別の側面も出てくることになる。
試合が行われる度に会場は盛り上がる。
ISは超兵器である。
機能を追及されたそのフォルムには機能美があった。
宙に浮き、スラスターの煌めきを目に残し、斬られた大気の筋が描かれる。
試合の中での目的に適った駆動はISの美しさを何倍にも跳ね上げた。
それが機能美というものである。
だから、会場で歓声が止むことは無い。
一般的な高校には学園祭というものがある。
IS学園にもむろんある。
そういう学祭のような雰囲気がこの大会にはあった。
お祭りの様相を呈していたのだ。
だから、生徒たちは基本的にはこの行事を楽しんでいる。
やはり、ときおり味わう非日常の空気には心地の良いものがあるらしい。
はしゃいでいる生徒も多い。
そして、そこには例外が存在していた。
周囲のお祭り気分を冷たく見つめる、眼があった。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
冷たい眼であった。
ラウラは周囲の雰囲気などどうでも良かった。
大会そのものに対しての興味もあまり無い。
こんな程度の低い連中の中で一番を決めた所で何の意味があるのだろうか。
そんな不遜な言葉さえ浮かんでくる。
とは言え、参加する以上負けたくはなかった。
万が一にでも負けるとは考えていない。
一回戦、ラウラは"シュヴァルツェア・レーゲン"のAICという能力を使わずに勝つつもりでいた。
敵は火力を追求したタイプと防御と速度を追求したタイプの組み合わせであった。
底上げされた速度で敵が組み付き、火力でもって薙ぎ払う。
防御力により生き残った片方は残ったターゲットを狙う。
危うくその餌食になりそうだったのである。
自爆戦術を前に能力を使わざるを得なかった。
AICにより敵の弾丸を全て停止させ、その隙に箒が火力を担う敵を迅速に墜とし、ラウラもまた組み付いてきた敵を瞬時に片づけたのだ。
その試合内容に不満がある。
量産機を相手に一瞬でも敗北を予感してしまった自分が情けなかった。
それがラウラから油断を取り除いたのである。
続く二回戦。
相手はスタンダードな量産機であった。
"打鉄"の二機は通常の仕様である。
肩の防御パーツに近接戦用ブレード。
何の変哲もない、シンプルな仕様。
もし、異様なものがあるとすれば、それを操る二人の技量であった。
強かった。
斬撃が。
突きが。
あるいはそれらに付随する当身が。
そこには容赦が無かった。
しかも、敵の攻撃は連動していたのである。
ラウラは正面から、箒は背面から攻撃を敢行。
それぞれが攻撃を加えていく。
敵はここで連携の強みを生かしてきた。
攻撃の最中、隙を見せた相手。
その見え見えの罠に強打でもって突っ込んだラウラと箒。
待ち構えていたのは、連携の妙。
敵が入れ替わっていた。
避ける動作がそのまま連携に繋がっていた。
反撃はヒットことしなかったが、これは一つの始まりであった。
入れ替わり、立ち替わり、刀が空間を奔る。
背を向けた相手に追撃を掛けようとすれば、もう片方の斬撃が空に現れる。
一人の敵と打ち合っていたと思えば、いつの間にか二人掛りで攻撃をされる。
体感的に一人で二人を相手にしている様であった。
連動する二人の動きに淀みが無い故の奇妙な現象であった。
そんな強敵を相手にラウラがAICを使わないのは、敵が警戒を怠っていなかったからだ。
一人に対してAICを使えばもう片方がすかさず攻撃を仕掛けてくる。
かと言って、二人を一遍に停止させるのには必要な集中は、敵の苛烈さ故にできない。
敵の戦法はAICへの根本的な対策とはいかないが、ひとまず凌ぐことができるレベルではあった。
しかし、油断を取り除いたラウラにはそれすらも通用しなかった。
「邪魔だッ!」
箒に入ったラウラからの通信が響き、その直後。
ラウラはワイヤーブレードを振り回した。
肩のユニットに接続された二つのワイヤーの先についた円形刃。
それを自由自在に振り回し広範囲を攻撃に巻き込む。
これには、敵である二人も、味方である箒も、距離を取った。
ワイヤーブレードは敵と箒を分断するように動いたので、敵と箒に間が空いた。
そこにラウラが割り込む。
介入を阻むようなラウラの動きに箒は戸惑いを見せた。
ラウラは宣言した。
「私一人で十分だ……」
そして、その宣言通りのことをラウラは実行して見せたのだ。
意思通りに動くワイヤーブレードは二人を簡単に分断せしめ、片方を徹甲弾で行動不能にし、残った一人を腕から伸びたレーザーブレードで滅多切りにした。
AICで敵を止めている間が致命的であるのなら、迅速に片付ければ良いという判断であった。
畳みかけるような勝利である。
量産機が相手であったが、ラウラはその全能力を駆使して闘ったのであった。
「何故あんなことをしたんだ?」
二人きりのロッカールーム。
試合が終わってすぐにラウラは箒に詰め寄られた。
あんなこととは箒を遮り、一人で敵と闘ったことを意味していた。
「何故?
貴様何か勘違いをしているんじゃないだろうな?」
「なに!」
「私が貴様の助けを欲したことなど無い。
邪魔だから、どいてろ。そう思ってそうしたまでのことだ」
「そうか、大晃だな」
関係無いはずの大晃の名は何故か強く響いた。
「あいつが二対一で勝って見せたから、お前は対抗したんだな?」
「それの何が可笑しい」
「……」
「私はこの大会でやつを完膚なきまでに叩き潰す。
やつの名声ごとへし折ってやる」
ラウラの顔が暗く歪んだ。
勝ち続ければいつかは大晃と当たることになるだろう。
そんな確信がラウラにはあった。
いずれ大晃とぶつかるまで勝ち続け、そして、潰す。
大晃と当たるのが決勝であることも都合が良い。
優勝し、自分の力を証明すること。
その晴れ舞台で大晃を叩き潰すこと。
同時に達成した暁には、人生最大の歓喜が己を包み込むだろう。
その快感が今から楽しみですらあった。
「ならば、一つ忠告してやろう」
「なんだ?」
「あんな闘い方をしてたんじゃ、遠からず負けてしまうぞ」
「なに!」
「まだ決まっていない話をするのは、私の流儀ではないが、もし順当に行くなら準決勝でセシリア、鈴のペアと当たることになるだろう」
「ウェイトの大きい空間兵器に不完全な遠隔武装。
いずれも私の敵ではないな」
「お前は、相手を甘く見すぎだ。
鈴には零落白夜に肉薄する度胸と技術が、セシリアのビットには技巧者の厭らしさと鋭さが宿っている。
己の武器の弱点を知っている二人をそう簡単に倒せるとは思えないな」
箒の忠告を、ラウラは嘲笑で持って受け入れた。
「ならば、次の試合で証明してやろう」
「何を?」
「私がどれほど優れているのかをだ。
闘う為に生まれてきた存在がどういうものか、観客に、貴様に、あの二人に、大晃に、見せつけてやる!」
最後はほとんど叫んでいた。
優勝した時に味わうはずの快感の一部が全身を走っているようであった。
ラウラが背を向ける。
箒はそんなラウラの背に憐憫の眼を向けた。
過去の己に向けたその眼差しは――、思いの外優しいものだった。
セシリアと鈴も勝ち進んでいた。
二回戦。
二機の"ラファール"を相手に勝利を収めていた。
グレネードにバズーカ、レーザー砲。
とにかく多種多様な火器を積め込んだ敵であったが、相手が悪かった。
例えば、それが一夏とシャルルのペアであるならば、一人くらいは落とせたかもしれない。
その勢いのままに勝利することもあり得た。
他の量産機であったとしても、十分に勝ちを拾えただろう。
だが、セシリアと鈴のペアは屈指の難敵であった。
専用機持ちであるということ以上に、一つ一つの技量が高い。
ただ、ISを動かす、というそれだけで差が出てくる。
セシリアの"ブルーティアーズ"にはビットがある。
レーザーを放つ自律砲台として活用されるそれらには柔軟性があった。
そこにセシリアの鋭利な意思が加わればもう手が付けられない。
グレネードは放ったその瞬間に、手元で爆破させられた。
バズーカはトリガーを引き絞る直前に砲身を狙い打たれた。
それにより射線が味方を向いてしまい、発射された弾頭は味方に直撃してしまったのだ。
セシリアは発射の直前を狙い、敵が味方に砲身を向けてしまうようにレーザーを放ったのである。
完全にビットを己の五体のように操っていた。
鈴も負けていなかった。
鈴が操る"甲龍"は汎用性を重視された第三世代機である。
その特徴は特大の青龍刀を二つ繋げたような武器と肩についたアンロック型の衝撃砲だ。
一瞬の薙刀のようでもあるその武器は、二つに分割することも可能で、長大な槍と二刀流という二つの使い方がある。
間合いもある程度切り替えが可能な武器は、鈴の思い切りの良さも相まって厄介なものに仕上がっている。
衝撃砲も無視できない。
空間を圧縮して放つ目視が不可能な弾丸はそれだけで対処が難しい。
射程が長く、それでいて近接戦における打撃としても転用が可能なのである。
遠近の間合いを自在に操り、それでいて苛烈な攻めを見せる鈴の前に敵は敗れたのであった。
謳い文句通りの汎用性が"甲龍"にはあったのだ。
その二人は話し込んでいた。
次の闘いへの対策を練る為であった。
セシリアの部屋は豪華である。
貴族的な観念からか、あるいはただの趣味趣向なのかの判断は難しいが、一歩足を踏み入れればそこは別世界である。
まずベッドが目に入るだろう。
透き通るような、それでいてしっかり彩のあるレースが、天幕としてベッドを豪奢に仕立てている。
ベッドそのものもかなり上等なもので、横になればクッションが優しく体を包み込み、重力から疲れを開放するのだ。
ベッドから眺める景色もまた最高で、天幕の彩が別の世界へと誘い、眼に残った風景が素晴らしい夢への旅立ちを予感させるだろう。
もちろん、眼に痛い白い照明などが使われるはずもない。
光量を絞ったオレンジの電球は夕暮れの優しい光で、白く突き刺してくる光と違い、温もりのある空間を演出している。
見とれて足を踏み出した人間は踏みしだいた感触に驚くことだろう。
部屋に敷いてある絨毯から足の裏に返る反力が柔らかい。
反射的に床を見渡せば見える幾何学模様を眼で追えば、その複雑な成り立ちに眼を奪われてしまう。
見た目と機能が両立した部屋である。
そこに置いてある、紅茶を飲むためのテーブルと椅子。
セシリアと鈴が腰を掛けているのを、ルームメイトは何とはなしに見ていた。
「AICか……、どうしたものか」
「あの完成度の高さは予想外でしたわ」
そのルームメイトの耳に入ってくるのは二人の作戦会議。
勝ち進めば当たる可能性の高い、ラウラは二人にとっては相性が悪い。
"ブルーティアーズ"のレーザーも"甲龍"の衝撃砲も"シュヴァルツェア・レーゲン"のAICの前では停止させられるのみである。
ルームメイトもラウラの試合は見ている。
それ位の分析はできていた。
展開も素早く、ならば、突破は困難なのだろうか。
自分ならどう対処したものかと、頭を捻った。
「まあ、やりようはありますわね」
「どうやって?」
「単純明快なことで、兎に角四方八方から撃ちまくればよいのですわ」
「それだけ何とかなるものなの?」
「ええ」
しかし、意外なことにセシリアは強気であった。
AICを操るラウラは生粋の軍人でそう上手くいくはずがない。
が、セシリアには自信があるようであった。
「わたくしはあの人に勝たなければいけないのです」
「あの人?」
「安城大晃、……勘違いしないでくださいな。
あれは良い闘いでした、恨みなどあろうはずがありません。
しかし、あのままでは終われないのです、終わりたくないのです」
「……セシリア?」
「ラウラさんの反応には良いものありますが、大晃さんほどではありません。
その警戒網をすり抜けるほどの動きが今のわたくしにはあります」
「大丈夫!?」
セシリアは顔を赤く染めて、ぼうっとしている。
肉体に溜まった疲労が表に現れたかと思って、ルームメイトは声をかけたのだ。
心当たりがあった。
しかし、セシリアは何でもない風に返事をした。
「大丈夫ですわ、少し興奮しただけ。
確かに忙しい毎日ですけれども、体調管理は決して怠ってはいません」
大晃に勝つ。
セシリアはそれを目標としているらしい。
そして、安城大晃と闘う為には決勝まで勝ち残らなければいけないのだ。
この晴れ舞台こそが決着にふさわしいのだろう。
「まあ、あんたがまだ全力じゃないのは分かっているわよ。
そのあんたがそう言うのなら信用してあげようじゃないの」
鈴はそう言ったが、セシリアは何のリアクションも見せなかった。
頭の中ではもうすでに大晃との対決が始まっているらしい。
「ねえ、あんた?」
「何?」
「この娘、なんでこんなにあいつのことを気に掛けているわけ?
私もこの大会中一緒にいるけど、いまいち分からないのよ」
「うーん、そうだね。
上手くは言えないけど、好きとか嫌いとかじゃないんだと思うんだよね」
「どう言うことよ?」
「執着しているんじゃないかな」
「執着?」
執着。
鈴にはピンとこない言葉も、ルームメイトが三ヶ月考えてようやくたどり着いたものであった。
「だって、毎日毎日アリーナに行ってたんだよ」
「毎日!?
授業もあるって言うのに……」
セシリアは毎日――、大会期間中は使用制限が掛かるので無理であったが、アリーナで訓練をしている。
代表候補生が練習に熱を上げるのは珍しいことではない。
しかし、アリーナの使用時間は限られてくる。
だから、セシリアはアリーナをいつ使うかを念頭に置いて、日々のスケジュールを管理しているはずであり、唯さえ忙しい学園生活の中でそれをするのは大変なことであった。
それを三ヶ月。
当然、間近でその姿を見ることになるルームメイトは、こう思うようになった。
これは執着だと。
帰ってきて、時折うわ言のように大晃の名を呟くセシリアは、練習中も大晃のことを考えているのだろう。
国家代表を目指すなら、強くなることは至上命題である。
だから、セシリアには強くなる為の特別な理由はいらない。
国家代表候補になった時点で、強くなることそれのみが十分な動機となるからである。
だが、セシリアはわざわざ大晃を強くなる動機にしている。
代表候補としても異常な量の練習は、好きとか嫌いとか感情の一つを抜き出した所で測れない。
セシリアの全忍耐、全感情を動員した日々の終着点に大晃がいる。
もし、この根っこにあるものに名をつければ執着以外には無い。
それが今のところの結論であった。
「まあ、何を求めて執着しているのかまでは分からないんだけど」
「成程ね。まあいい線言ってるんじゃない。
そうでもなくちゃ、三ヶ月も頑張れるわけないし」
「えへへ」
自分は一夏に何を求めているのだろうか?
ルームメイトがはにかんでいるのを見て、鈴の胸に疑問がわいた。
目の前の少女に対する疑問も。
「ところであんたは何もしなくて良いわけ?」
「え?」
「まだ大会中でしょ。
次の試合の打ち合わせとかしないで大丈夫なの?」
大会中にのんびりしているのはどうなのだろうか、と鈴は思ったのである。
「うん……、私もう負けちゃってるから。
今日は非番だし、ゆっくりできるんだよぉ……」
「……そっか」
盛り下がってしまう空気。
誤魔化すように紅茶をすする鈴はワザとらしく音を立てて、セシリアはそんな鈴に注意することもなく考え込んでいる。
ルームメイトは二人の次の試合に思いを馳せるのだった。
そして――。
とうとう、ベスト4までが出そろった。
準決勝の予定はこうであった。
セシリアと鈴のペアと箒とラウラのペアの対決。
その後に、一夏とシャルルのペア対安城大晃。
アリーナでは二つのペアが睨みあっていた。
ここで勝った者が決勝にコマを進めるのである。
箒とラウラの間は相変わらずである。
ラウラは箒を拒絶するように、立っていた。
今までの闘いもその立ち振る舞いと同様に、箒がいることを否定するものであった。
一人で複数の相手をする。
それをテクニカルな闘いと呼ぶこともできるだろう。
だが、その出所は、自分の力を見せつけるという欲望であった。
己の中に篠ノ之流という強さを抱える箒にとっては過去に通り過ぎたものであった。
対する、セシリアと鈴は連携に磨きをかけている。
AICに対してもある程度の対策を講じて来ているだろう。
そして、何より、二人の佇まいには隙は見当たらなかった。
セシリアの意識領域が自分たちを覆い隠すほどに拡がっている。
今までの闘いでも見せているが、ビットの遠隔操作と機体操作を等間隔に意識できるようになっていた。
もはや明確な弱点は無い。
鈴もまたそうだ。
衝撃砲と青竜刀のコンビネーションには侮れないものがある。
現に一夏の零落白夜を前に退くことだけは絶対にしていなかった。
果たしてラウラにAICがあるとはいえ、簡単に落とせる相手では無い。
こちらが不利か――。
箒はそう思う。
ラウラは大きな力を持っている。
これまでの闘いから分かったことがそれである。
ワイヤーブレードはミサイルを切り払える精度と速度を持ち、レールカノンの威力は大きく、AICは攻防一体の強力な能力である。
そんな強力な武装とそれを操る技量を持つラウラと箒は組んでいる。
頼もしさよりも不安が多い。
まともな連携を取ることは難しいだろう。
そこにこそ勝機がある気がした。
恐らく、相手は一対一での闘いを挑んでくるだろう。
そして、その組み合わせは箒と鈴、ラウラとセシリアになるはずであった。
どうして、そんなことが分かるのか?
もし、自分が相手なら。
AICを持つラウラを相手に四方からの攻撃を仕掛けるに違いなかった。
それが出来るのはセシリアの"ブルーティアーズ"のみである。
その為に、邪魔な自分を排除しに掛かってくる。
それが箒の予想であった。
どうするべきか――。
まずは相手の意図をどう利用するかだ。
分断されれば当然箒は、鈴と闘わなくてはならない。
機体の性能差もあるが、それより問題は技量のほうだろう。
細やかな技術に関しては明らかに不足がある今、果たして上手く闘えるかどうか。
そして、もう一つ、ラウラとセシリアの闘いがどちらに傾くかが重要になってくる。
ラウラの実力に疑問の余地は無いが、あのセシリアを相手にどれだけ闘えるかは、箒にとって疑問であった。
セシリアは強い。
AICの停止結界は強力ではあるが全方位をカバーするわけでは無い。
ビットを鋭く動かせるセシリアが相手となればそこに駆け引きが生まれるはずである。
その駆け引きに勝てるかどうかである。
最も、その決着が付く前に、箒が負ける公算が高い。
そうなれば、結果的にラウラは鈴とセシリアの二人を相手にしなければいけなくなる。
分断されるのは不利な状況に追い込むだけである。
考えすぎてはいけないと、自分を諫めるように、箒は息を吐いた。
結局の所ここまでの考えは全て、ただの想像である。
試合の前の今、没頭したとして、状況を有利にすることはない。
ただ、目の前の出来事に湧いて出てくる閃きを拾えばそれが勝機につながるだろう。
箒はそんなことを考えて、呼吸を整える。
そして、その間も刻一刻と時間は進んでいった。
緊張感のあふれる睨み合い。
そこにブザーの音が割り込んできた。