大晃とシャルロはテーブルを間に挟んで向き合った。
大晃はオレンジジュースを口いっぱいに含み、シャルロもまた食前酒を飲んだ。
給仕が消えてから、シャルロは口を開いた。
「私も君には聞きたいことが多い。
ただ、私から呼びつけておいて私のしたい話をするのは礼儀に反する。
だから、まずは君が懸念していることについて解決しておこうか」
「同意見です」
「まあ、その前に確認だけしよう」
「確認?」
「君がどこまで知っているかについてだ」
大晃はシャルロットの名前を知っている。
それをシャルロに伝えたということは、シャルルが本当は女であることは分かっていると、言ったのと同じである。
ただ、シャルロは大晃がシャルロットから受けた説明が何であるかを知らない。
シャルロットがどこからどこまで話したかを、シャルロは知りたいようだった。
「シャルロットが女であることは当然、スパイとして送り込まれたことも俺は聞いていますよ」
「やはり、そうだったか」
「あなたがシャルロットをどうするつもりなのか、聞かせてもらえますか?」
「もちろん、だとも」
シャルロは居住まいを正した。
「私はシャルロットをどうこうするつもりはない」
「しかし、あなたが何もしなくても、他の企業や国が黙っていないんじゃないですか?」
「言い方が悪かったな。娘はIS学園を卒業すると同時に私の庇護下に入るだろうと、言いたかったのだ」
大晃はシャルロの話を聞いて、眉を顰めた。
「分かりました。じゃあ、聞きたいんですが……」
「何かな?」
「シャルロットが将来何かの仕事に就きたいとなった場合はどうなります?
例えば、それがISの国家代表だったりした場合は?」
「私の娘をずいぶんと高く買ってくれているようだ。答えとしては何とも言えない。
ただ、シャルロットが国家代表を望んだとして、このことが明確に足を引っ張ることはないだろう」
「本当に?」
「君はこのことを大げさに考えているようだね」
「大げさ?」
「分かりやすく言えば、君は勘違いをしている」
シャルロはまたしても口を開いた。
息子にものを教える父親のような口調になっていた。
「シャルロットをIS学園に送り込むに当たって私は根回ししたよ。入念にね。
その結果、見過ごしてくれた人が大勢いるわけだが、これがどういう意味を持つか君には分かるかね」
「お互いに弱みを握り合っているということですか。しかし、何故そんなことが……」
「許されているのか?
それはやはり、君のデータが貴重だからだろう。
自分で手を出すのは気が引ける、しかし、世界で最も珍しい男性適正者のデータは喉から手が出るほど欲しい。
そういう連中に言ってやったのだよ、黙認してくれるのならデータを一部分けてやっても良いとね。
私のしようとしていることを見過ごすだけでそれが手に入るなら、安い物だと考える人間は君が思っているよりも多いのだよ」
「なるほど、少しだけ事情が飲み込めました」
「君は自分の価値をどうやら知らないようだな」
シャルロは饒舌になり始めていた。
「とにかく、そういう事情がある以上、シャルロットが糾弾される事態にはならない」
「……ふむ」
「君には不快な思いをさせてしまったようだね。しかし、私は会社のためにそうせざるを得なかったのだ。
分かってはくれまいか?」
シャルロは笑みを携えた。
端正な顔立ちには余裕がにじみ出ている。
「やはり、納得はいきませんね」
「理由を教えてくれるかな?」
「あなたは会社のことなんて考えてないよ」
「何?」
シャルロはその言葉で表情を変えた。
狼狽までは行かずとも、動揺に届きそうな顔だ。
大晃は上半身を傾けた。
「会社の為に娘を送ってくるほど形振り構わないんだ。
俺は思っていたよ。かなり追い詰められて今回のことを仕組んだんだとね」
しかし、その考えが間違いだった。
大晃はシャルロを見て、そう悟ったらしい。
それは直観に近い。
心理戦は別段得意ではなかったが、向かい合えば見えてくるものはある。
「あなたからはそんな追い詰められた気配は感じない」
大晃の丁寧な言葉遣いが砕けた話し方になっていた。
大晃は生き生きとしゃべっている。
「そもそもがおかしいんだ。
シャルロットは嘘はつけるが人は騙せない性質の人間だ。
スパイにするべき人間じゃない。
本当に会社のことを考えるならもっと別の人間をスパイにするだろう」
大晃は笑みを深めていく。
真っ直ぐにシャルロをのぞき込む目には異様な力がある。
「俺はそれすらも出来ないほど追い詰められているのかと思っていたんだが、どうもそうではないらしい。
じゃあ、答えは簡単。あなたはもっと別のことを考えている」
そう締めくくるとオレンジジュースを手に取った。
しゃべり過ぎて喉が渇いたと言わんばかりに、一気に飲み干した。
「敵わないね」
「あまり見くびらないで欲しいですね」
「ああ、話し方なら先のままで良いよ」
「それはどうも」
シャルロは少しの間、口を閉じた。
そして言った。
「本当のことを話そうか。
私が君の所に娘を送り込んだのは、君に娘の友達になって貰いたかったからさ」
一転して表現が緩いものになった。
大晃はいぶかしむように言った。
「友達程度の関係で満足なのかい?」
「まあ、君と娘が結婚を考えるほどの関係だったら良かったと思うよ」
「へぇ」
「別に機体の情報が要らないということではないのだよ。
ただ、そちらに対してはあまり期待していない。
娘が君をだませるとは到底思えないからね」
端的に言うのならシャルロットはスパイとしての役目は期待されていなかった。
むしろ女であることがばれること前提のハニートラップであった。
しかも、本人にはハニートラップとしての自覚はない。
あくまで、スパイとしてシャルロットはIS学園に送り込まれていたのだから。
学園という閉鎖空間内で秘密を共有するというシチュエーションは年頃の男女には有効的であるだろう。
それは人を手のひらで転がす悪辣な考えにも見える。
「なるほどね。やっと、分かったよ」
しかし、大晃はすんなりと受け入れた様子で椅子に持たれかかった。
「怒らないのかね?」
「あなたがシャルロットを可愛がっていることが分かったからねぇ」
「本当にそう思っているのかね?」
「ああ。結果が全てを物語っている」
「……詳しく聞かせて欲しいね」
大晃は椅子に持たれかかったままに、言った。
「IS学園に送られたことはシャルロットにとって良いことだった。
俺と一夏、さらには他の仲間たちと出会うことができた。
これから学園で生活を続けていけばシャルロットの人の輪は大きくなる。
そして、ここが重要なんだが、IS学園は生徒への介入を基本阻止する。
同意が無い場合はね。
であれば、今後の身の振り方をシャルロット自身が考える余裕も出てくるでしょう。
そう! IS学園に送られてきたことの全てがシャルロットにとってプラスになっている。
このことから、あなたがシャルロットのことを想ってIS学園に送り込んだことは明らかだ」
大晃の口から出たのはその根拠だった。
確かにIS学園に送り込まれたことがシャルロットにとってプラスに働いていることは否定できない。
学園生活と大会を通じて、仲間も出来た。
今後を学園で過ごせば、社交的なシャルロットのことだ。
友達も増えることだろう。
トップクラスの人材が集まるIS学園で友達を増やすことには大きな意味がある。
きっと、シャルロットの人生を助けてくれる。
例えば、卒業後の進路を決めるときに大きな力になってくれるかもしれない。
しかし、それでシャルロがシャルロットを可愛がっていることの根拠には普通ならない。
それがシャルロの打算の結果かもしれないからだ。
シャルロは言った。
「それは、おかしいな。
確かにIS学園に送ったことは娘にとって良いことだったのだと思う。
しかし、それならば普通に入学させるほうが話は早い。
本当に私が娘のことを思うのであれば、そうしてやるべきだ」
「逆ですよ。
あなたは娘が可愛くて仕方ないからスパイとして入学させたんです。
俺とシャルロットの間に接点を作ろうとしてね。
男女の仲が深まるためにはそれなりのスパイスがあった方が良いと踏んだんでしょう。
そして、それは成就した。
いや参りましたよ、俺もいつの間にかあなたの手のひらの上にいたようだ」
「興味深い考えを聞いたよ」
「当たってるでしょう?」
「いや、私が娘を可愛がっているなんて、そんな青臭い考えを君が持つとは……少し意外だった」
シャルロはグラスを手に取って、中のワインを口に含んだ。
口内で香りを一しきり楽しんだ後、飲み込んだ。
喉を通り過ぎた酒の余韻に浸りながらシャルロは言った。
「しかし、君が言うからかな、なんとなくそんな気がしてきたよ。
不思議なものだ」
「もう少しシャルロットの前で素直になってみたらどうです?」
「それはやめておこう。
私のような人間はそういうのが苦手なのだよ」
そこまで話をしてシャルロはベルを鳴らした。
給仕が前菜を持ってテーブルに置いた。
料理の説明をしてから、給仕は再び部屋から消えた。
話はひと段落して本格的に食事が始まった。
食事はごく普通に行われた。
料理のうんちくをシャルロが述べて大晃が相槌を打つ。
大晃が上手そうに食べるのをシャルロが眺める。
そういう中にあって意味のある会話が始まったのは、腹が大分満たされた頃だった。
シャルロが口を開いた。
「そういえば話しそびれたな」
「何をですか?」
「私はね、実は君のファンなのだよ」
「へぇ」
「君の最初の闘いを映像で見たときには震えたよ。
まさかこんな人間がこの世に存在しているとは、信じられなかったものだ」
シャルロは好奇心が抑えきれなくなった子供であった。
静かな口調の中には隠し切れない興奮がある。
シャルロは言った。
「君は何故素手で闘うことを選んだんだね?」
「あのISはいわくつきでね。
近接戦闘、とくに格闘戦専門の機体でなければコアが受け付けてくれないんですよ。
まあ、あなたほどの位置にいる人間ならすでに知っているんでしょうがね」
「ふむ」
「で、俺は人をぶん殴るのが好きですから。
鍛えに鍛えて、あの機体を操れるようになったというわけです」
「なるほど、君があのいわくつきのISに乗る理由は分かったよ。
しかし、身体への負担は大丈夫なのかね?
あれほどの出力のISは自然と搭乗者の肉体を蝕んでいくものなのだが」
「心配はいりません。
俺の身体は頑丈ですから」
そう言って、大晃は胸を叩いた。
分厚い胸には言葉通りの頑強さが見て取れる。
シャルロはしみじみと言った。
「しかし、あれは良い闘いだった。
闘いの中で成長してみせた織斑一夏とセシリア・オルコット。
そして、それらすらも上回る安城大晃。
君の闘いの良さが全て詰め込まれた闘いだった」
「へへへ、むず痒いですね」
「それだけじゃない。
今回の大会でも君は実に良い闘いをしてくれた。
封殺を試みる相手の手段を逆手に取るのは実に良かった」
そこまで言ってからシャルロは他の闘いの全ての感想を語っていった。
「もちろん、この大会の決勝戦も素晴らしい試合だった。
勘違いしないでくれよ、皮肉ではないのだからね」
「分かってますよ、俺もあの試合は楽しかった」
最後にはタッグトーナメントの決勝戦、つまりは大晃の負け試合の話になったのだが、大晃の顔に暗いものはない。
むしろ、清々しい表情で試合を振り返ってすらいる。
シャルロは言った。
「君は本当に不思議な男だなぁ」
「そうですか?」
大晃は首を傾げた。
「君が負けた試合の話をしているのに君はなんとも楽しそうにしているじゃないか。
正直に言ってこの話をするのはまずいかもと思っていたのだが、杞憂だったようだ」
「振り返れば振り返るほどに、あれは良い闘いだった思うので」
「その気持ちは私にも分かるよ。
何と言うのかな、君は負けはしたがきっと充実した時を過ごしたのだろう」
シャルロはそう言ったのだった。
それからまたしても意味のある会話は消えた。
咀嚼音と会話だけが静かに響く、しかし、居心地の悪くない沈黙。
思い思いに食事を楽しんだ結果として生まれた静寂。
そして、適当な会話と相槌。
そうこうしているうちに食事は終わり、別れ際となった。
「最後に言っておくことがある」
シャルロは改まって言った。
「君は前々から話題になっていた人間だ。
クラス代表決定戦と君が時折行う模擬戦の情報は君の実力を裏付けるものだった、と私は思っている。
周りは必ずしもそうだったわけではないが……」
大晃はISに携わる人間の間ではその名が広がっていた。
しかし、公式戦の少なさから実力に疑問符を持つ者も少なくはない。
それがこの大会を機に変わることになる。
シャルロはそれを言いたいらしかった。
「今大会を決勝まで勝ち進んだ君の実力を疑うものはいなくなるだろう。
それがどういう影響をもたらすのかは分からないが、君の今後に期待しているよ」
それが別れ際にシャルロが言った言葉だった。
その後、シャルロの用意した車に乗り、寮の自室へと戻った。
同室のシャルロットが心配そうに訊いてきた。
「大丈夫だった?」
シャルロットは自分の父親であるシャルロを信用していない。
それが良く分かる言葉である。
「ああ、悪いことは何一つ無いよ」
「良かった」
シャルロットは胸を撫で下ろした。
そんなシャルロットの前で大晃は続けた。
「取り合えずだ、シャルロットのことだが……」
「あの人はなんて?」
「まあ、そうだな。
俺から言えるのは牢屋行きは無いだろうってこと位かな」
「……」
「詳しくは親父さんに聞いてみることだな。
卒業後にどういう進路を取ることになるとしても、親父さんと話しておくことは必要なことだろう」
「そっか、大晃はきっといっぱい話をしたんだね」
シャルロットは言った。
ぞっとするような冷たい声であった。
あの夜から、数日が経った。
大晃は大浴場に来ていた。
今まで男子は使えなかったが、それが使えるようになったのだ。
今は一人で浸かっている。
大晃は眼を閉じて言った。
「広い風呂はやはり良いものだな」
その呟きは広い浴場に響いた。
一人きりであることを意識させるような反響に大晃は耳を澄ませている。
大晃は気持ち良さそうに湯に浸かっている。
すると、突然眼を見開いた。
浴場の引き戸が開かれた。
そこには人影が一つあった。
「シャルロット!?」
そこに居たのはシャルロットであった。
全身にタオルを巻いているが、間違いなく全裸である。
大晃の驚きの声は当然シャルロットに届いた。
恥ずかしそうにしつつも、どこか勝ち誇るようにシャルロットは言った。
「えへへ、来ちゃった」
「もう、上がるか」
「待って……、逃げないでよ」
大晃は流石に風呂から出ていこうとする。
シャルロットは引き留めた。
ここにこうしてシャルロットがやって来たのには理由があった。
「話があるんだ」
「部屋でもできるだろう?」
「ダメ、今ここで話をしたい」
「だがな……」
「だって、大晃って余裕があるときははぐらかしてくるんだもん」
「俺がいつはぐらかした?」
「父さん……、あの人との話」
シャルロットが言った。
「私が何度聞いても、大晃はあの人に聞いてみろとしか言ってくれない」
「あのなぁ、俺は確かに親父さんと話をしたがな、それをシャルロットにどこまで話せるのかは正直分からん」
大晃は当事者であるのと同時に部外者だ。
正直、あの夜に話したことの大半はシャルロットに話しても問題はないだろう。
そんな話をシャルロがするはずが無いからだ。
しかし、親子の情に関わる問題なら話は違ってくる。
大晃が直接口をはさんで解決するとは思えない。
解決するのならば親子で直接話をするしかない。
「それっておかしくないかな?」
しかし、シャルロットは納得しない。
「だって、私は娘なんだよ。
確かに私は妾の子だけどね、それでもあの人の娘なんだ」
「……」
「なのに事情を知っているとは言え赤の他人の大晃には話をして、私と話をしないなんておかしいよ」
大晃は今になって何故シャルロットがここまで食い下がってくるのか理解した。
確かに大晃の言う通りにシャルロットとシャルロが直接話をするのが、問題解決の近道だろう。
しかし、シャルロットには父親への信頼がない。
大晃が思っているほど簡単には話ができる仲ではなかったのだ。
「しょうがない。お前さんに付き合ってやるよ」
大晃は言った。
大晃とシャルロットは今背中合わせになっている。
シャルロットはタオルを巻いていない。
マナーを守らなければいけない、ということらしい。
しかし、男子はシャルロットを勘定に入れたとしても三人しかいない。
男子が使った後、湯は落とされるので、多少湯が汚れたところで誰かが困るわけではない。
それを理由にタオルは巻いたままで良いと大晃は言ったのだが、それでもシャルロットはタオルをほどいて湯に浸かっている。
シャルロットは言った。
「それで、あの人とどんな話をしたの?」
シャルロと何を話したのか。
大晃はその内容をシャルロットには伝えてはいない。
ただ、大晃の様子から危惧していたようなことが無かったことは、シャルロットにも分かる。
「そうだな、まずお前さんの将来についてだな」
「将来?」
「ああ、お前さんが今回のことで将来不利益を被るかもしれないと思って、訊いてみたんだ」
「あの人はなんて?」
「それは無いだろう、言っていたよ」
大晃とシャルロットは背中合わせで話を続ける。
シャルロットの質問にシャルロの言ったことと推測を交えて、大晃は答えていく。
大晃はあの夜にあったことの大体を話し終えた。
しかし、シャルロットの顔には納得しがたいものが残っている。
それを背中越しに察してか大晃が口を開く。
「シャルロットよ」
「なに?」
「もういい加減素直になったらどうだ」
「どういう意味かな?」
「やはり、親父さんときちんと話をした方がいいんじゃないか」
「なんで、そんなに私とあの人に会話をさせようとするのかな?」
「そりゃあ、俺がシャルロットに話をしたところでシャルロットは何も納得できないだろうからさ。
実際今だってそうだろう?
シャルロットが今回のことを真に解決しようと思うのなら、シャルロットの気持ちを親父さんに伝えなくちゃならん」
「……大晃には分からないよ」
シャルロットは顔を伏せて言った。
「父さんはね、私に何にも話をしてくれなかった。IS学園に入れられた時だって、いきなりだった。
それから、男になりきる練習なんてさせられてさ」
「……」
「多分父さんには父さんの思惑があったんだと思うよ。
ひょっとしたらそれは私の為を思ってなのかもしれないね。
大晃はだからそんな態度を取ってるんだろうね」
シャルロットは間をおいて言った。
「だとしても、私には何の説明をしてくれなかった父さんと話をしたいとは思わない」
例え、シャルロが何を思っていたしても、それを直接娘には告げていない。
その癖に、思惑のいくつかをシャルロは大晃に語っている。
娘の自分を差し置いて。
その怒りは静かであったが、重い。
冷たい石のような怒りだった。
シャルロットは続けて言った。
「大体、あの人は意気地が無さすぎるよ」
「そうか?」
「そうだよ、私と直接話す勇気が無いんだもん」
「まあ、照れ屋には見えたな」
大晃の呟きと共に沈黙が訪れた。
少ししてからシャルロットが今気が付いたように声を上げる。
「大晃ってさ、大きな背中してるよね」
「図体はでかいからな」
「まるで、お父さんみたい。
ラウラじゃないけど、お父さんにするなら大晃が良かったかな」
「勘弁してくれないか。
このままじゃ本当に"お父さん"があだ名になっちまう」
「私が大晃の養子になったらあの人は困るのかな?」
「困るだろうな。ついでに俺もな」
大晃は呟いた。
二人で吹き出した。
一しきり笑ったからだろう。
晴れ晴れとして表情になった。
「まあ、いいさ。
お前さん方が本当に話をしなくちゃいけないのなら、その機会はいつか訪れる筈だからね」
「来るかな、そんな機会が?」
「来るさ、必ずね。その時に言ってやれ」
「何て?」
「この意気地なし、とね」
二人の笑い声が浴場に響いたのだった。