臨海学校というものがある。
海辺の民宿や旅館に泊まり課外活動を行うことだ。
IS学園にはその臨海学校があった。
そして、そのイベントには必要なものがあった。
それは――。
大晃は大型ショッピングモールまで来ていた。
理由は一つ。
臨海学校に必要な水着を買うためであった。
最も本人としてはどうでも良いことであった。
学内で売っている適当な水着で済まそうとしていた。
そうならなかったのはシャルロットが執拗に誘ってきたからであった。
「ねえ、大晃?」
「なんだい?」
「臨海学校の水着はどうするつもり?」
シャルロットが言った。
場所は教室で周りに人もいる。
シャルロットは"シャルル"ではなく"シャルロット"として転入していたのである。
だから、シャルロットが本来の女として振舞っていても問題はなかった。
「いや、適当なのを見繕って持っていくつもりだよ」
「ダメだよ!」
大晃の答えをシャルロットは強く否定した。
「だって、折角の臨海学校だよ。どうせならちゃんとしたところで買っていこうよ」
「でもな。俺にはこだわりとか無いんだよ」
「そうだ! 新しいショッピングモールが近場にできるんだってね。僕行ってみたいな」
シャルロットにはプランがあるようだった。
話を聞く気は全く無いらしい。
大晃は苦笑した。
「分かったよ。シャルロットの案に乗ってやろうじゃないか」
大晃はそう言ったのであった。
それでショッピングモールに来ている。
大晃は周囲を見回した。
大きいショッピングモールだった。
とにかく広い。
広さだけならIS学園のアリーナ程はあるかもしれなかった。
そして、そこに店がたくさん入っている。
「あんまりキョロキョロなさらないで貰えます? タイムスリップしてきた原始人のようですわ」
「確かにお父さんは現代人とは程遠いように見える。お父さんは原始人だった?」
「……本気にしないで下さいな」
セシリアとラウラが大晃の横で言葉を交わしている。
大晃は一人で来たわけではなかった。
あの後、シャルロットがクラスの代表候補生達と一夏、箒を誘ったのだった。
そして、一夏が鈴を誘った。
だから、セシリアとラウラもここにいた。
「しかし、ここまで人数が多くなると動きずらいな」
「集合時間と場所だけ決めて自由行動をした方がいいな」
七人が全員で動くのは難しい。
大晃の呟きを聞いた一夏は個人での行動を提案した。
「おっけー。じゃあ、一夏、水着見に行きましょ。面白いの選んであげるわ」
「待て。抜け駆けはさせんぞ。一夏、私も一緒に連れて行け。
ついでに、私の水着も見てもらうぞ」
「分かったから、二人とも落ち着けよな」
一夏はそう言って鈴と箒に付いて行った。
「わたくしは自由に動かさせて貰いますわ」
セシリアは一人で別行動を取ると宣言し、大晃から離れていった。
残っているのは大晃とシャルロット、ラウラの三人だ。
「さてと、俺も行くかね」
大晃もまた一人で動こうとする。
シャルロットがそんな大晃を引き留めるように口を開いた。
「ちょっと、待ってよ。私たちの水着選びに付き合って欲しいな。
ラウラもそう思っているよね」
「私は水着には特に興味が無い」
ラウラはそう言いつつも、大晃の顔色を窺った。
「しかし、二人が一緒に行くというのなら、私もその水着選びとやらに付き合おう」
「じゃあ、決まりだね」
「おいおい、俺は一緒に行くだなんて言ってないぞ」
「でも、ラウラは一緒に行きたいって」
「そうだな、私はお父さんと一緒が良い」
食い下がる二人。
特にラウラには親にすがりつく子供のように大晃を見つめる。
ラウラと大晃の目が合う。
やがて根負けしたように大晃が眼をそらした。
「ラウラ、お前さんには勝てないねぇ。
仕方がない、俺も一緒に付き合ってやるよ。その水着選びにな」
大晃は笑って言ったのだった。
「これなんてどう?」
「似合ってはいるが、他にも良いのがあるだろう」
女性用水着売り場でシャルロットが水着を身体に当てた。
シャルロットが手に取った水着は少々派手だった。
確かに似合ってはいるが、もっとシャルロットに会っているものがあるはず。
それが大晃の意見だった。
シャルロットも本命の水着では無かったからだろう。
素直に意見を聞き入れて、水着を元の場所に戻した。
「あ! ラウラにはこれが似合ってそうだね」
「お父さんはどう思う?」
今度はラウラの番だった。
シャルロットに勧められた水着を肩に当てるラウラは不安そうだった。
普通なら機能性だけで選ぶが、今はそうも行かない。
大晃とシャルロットに付き合ってもらっているのだから、二人が納得するような水着を手に入れたい。
ラウラの肩に自然と力が入る。
見た目を気にするなど初めてのことだった。
今、シャルロットが選んだこれが果たして似合うのか、ラウラには全く見当がつかなかった。
「ああ、クールでキュートだ」
「クール?」
「ラウラらしいってことさ」
「そうか! 私はクールなのか!」
「じゃあ、これはカゴに入れておこうね」
ラウラの顔が満面の笑みになった。
シャルロットはすぐさまそれをカゴに入れる。
「あ、あれなんて――」
シャルロットが自分かラウラの水着を見繕って、大晃が意見を言う。
そういう流れが出来上がっていた。
「ラウラよ。お前さん、俺をずっとお父さんって呼ぶよな」
「ああ」
「確か言っていたよな。
『日本では尊敬する人をお父さんと呼ぶのが一般的だと聞いた』と」
「言ったな、確かに」
「一体どこでそんな話を聞いたんだ?」
「私が部隊の隊長であることを知っているか?」
「通称、黒ウサギ隊か?」
「知っているのなら話が早い。副隊長のクラリッサにこの話を聞いた」
「へえ」
「あいつは頼りになる。お父さんに紹介する機会も、あるかもしれない」
「……それは楽しみだ」
こういう会話が大晃とラウラの間で在ったりもした。
そうして、水着を選んでいると時間はあっという間に過ぎていった。
大晃は平和な時を過ごしていた。
そして、すでに"何か"が始まりかけていた。
それはあの無人機襲撃事件が直接のきっかけであった。
暗い闇の中であった。
そこは部屋であった。
大きなベッドがあり、大きなソファーがあり、窓はカーテンで閉め切られていた。
夜、電気がついていないため、部屋は闇で包まれているのである。
ベッドには二人の女が絡んでいた。
一人はIS学園への無人機襲撃時、大晃を襲った人間オータムである。
もう一人は金髪を長く伸ばした、女であった。
この女こそがオータムに大晃襲撃を命令した人間であった。
オータムはその女性の胸に顔を埋めていた。
「もうそろそろ、落ち着いたかしら」
「少しだけ」
オータムはそう答えた。
そのオータムの頭の中にはある男がいた。
安城大晃。
この男と闘ってから、幾分か時間が経った。
運が良かったな。
生きて、それも取り返しのつかないダメージを負わないで生還できたことに、オータムはそんな感想を持っていた。
そもそもが無茶な任務であった。
確かに、IS学園に襲撃があるという情報はある"つて"で分かっていた。
後は、その日に組織の力とコネでもって身分を偽り、学園に侵入。
文字にすれば、それだけのことであるが、それは大変なことであった。
まず、いくら身分を偽ろうと、IS学園が許可を出さなければ侵入は難しい。
IS学園の門をくぐるためには、それ相応の身分もそうであるが、その身分に相応しいそれらしい理由が必要であった。
どうでっちあげるか?
そう考えたオータムが目を付けたのはクラス代表対抗戦である。
クラス代表対抗戦に注目する国家やIS企業は意外に多い。
世間一般的な注目度こそないものの、すでにこの段階から動いている組織はあるのだ。
その狭き門を"亡国機関"の人脈と力で持ってして、時には自らが動くことによって、オータムは勝ち取ったのである。
オータムは無事にIS学園に潜入、後は大晃をどう人気のない場所に誘い込むか、という問題だけが残った。
しかし、その問題も大晃があっさりと応じたことで解決した。
思いがけず物事を上手く運べた。
だから、油断していたのかもしれない。
このときオータムが考えていたのは、ここまでの経緯をどう愛しの上司に面白おかしく伝えるかであった。
そして、任務を遂行した喜びを上司と分かち合い、甘い時を過ごそうと思っていた。
それが打ち砕かれた。
大晃はオータムの思惑を知っていた。
敢えて気づかない振りをしていた。
人気のない場所に誘い込んだと思っていたオータムは、その実、大晃に誘い込まれていただけであった。
後は散々であった。
ISを装備して、生身の大晃と闘った。
本気で殺すつもりであったが、無理であった。
大晃の肉体を壊しつくすことがどうしても出来なかったのだ。
結局、殺すどころか逃げ帰ることになってしまった。
胸に顔を埋めるオータムを抱きしめて女は訊いた。
「ねぇ、何を考えているのよ?」
「大したことは考えてないよ」
「嘘よ……」
「あいつをすぐに殺すべきだ、と今でもそう思っている」
「……」
「いや、正確には私が殺っておくべきだった、か」
「オータム……」
オータムは答えた。
帰ってきてすぐに、オータムは大晃を殺すことを進言したのである。
大晃は強い。
もし、勝つことができるとするのなら、発展途上である今しかない。
時間が経てば経つほど、強くなるであろう大晃は、放っておけば手が付けられない存在になる。
オータムは本気でそう考えているのである。
「何度も説明したことよ。
警備がより厳重になったIS学園に潜入するのは骨なことだわ。
あなたが頑張ってくれたおかげで今回は潜入できたけれど、もう同じ手は使えない」
そんなオータムを抱えながら女は言った。
女の言う通り、もう、同じように身分を偽っての潜入はできない。
大々的に外部から人を呼ぶ学園祭や"キャノンボール・ファスト"ならばそれも可能かもしれない。
しかし、それは二学期に入ってからの催し物であり、オータムの言う"すぐ"には当たらない。
当分はIS学園に侵入し大晃を襲う手立てなどないのである。
「どうして、そんなに怯えるの?
やむを得ず自爆させたISはともかく、あなた自身には大したダメージは無いじゃない。
いくら相手が強いといっても、所詮は攻撃手段が素手の未熟者。
対策を練れば簡単に勝てる相手だと、思うのだけど」
回した腕でオータムの顔を優しく、引き寄せた女はその眼を覗き込む。
オータムの眼の奥には、刻まれた恐怖が未だに残っていた。
「怖いんだ。拳を叩き付けてきた、血まみれのあいつが……。
もし、ISを装着していたなら、わたしがああなっていた、あいつがそう言っている気がして……」
「大丈夫よ。私があなたを守ってあげるから」
「やめてくれ。
もし、お前の身に何かあったら、私は耐えられそうにない」
「あら、私がその野蛮人に後れを取ると思っているのかしら?」
「そうだ。あの野蛮人だからこそ後れを取るかもしれないと、思っているんだ」
囁きながらオータムはその女を強く抱いた。
親にすがる子供のように、腕の中の存在を確かめていた。
「分かったわ。
今すぐとは言わないけど、二学期が来る前にあの男は始末することにしましょう」
「でも、それは無理だってさっき……」
「IS学園の中で襲うってことなら無理よ。
でも、IS学園の外でなら話は少し違ってくる」
「……課外授業か」
「ええ」
「しかし、腐ってもIS学園のことだ。警備は厳重じゃないのか?」
なるほど課外授業ならば、まだ可能性はあるように思える。
しかし、それでも簡単ではない。
課外授業の間、そこら一帯は一般人の出入りは基本的には禁止される。
警備に使用されるのは、持ち運び可能でありながら相当な出力を誇る、シールド発生装置。
数機の量産型IS。
専門の医療チームまでついてくる。
簡単に言えば、シールドで囲まれた空間の中で授業は行われ、不測の事態があろうと外に出ることなく対処できる体制ができているのである。
突破は容易ではない。
「あら、オータムは忘れたのかしら。
今回の潜入は『博士』の計画があったからこそのものよ」
「……確かにエムの野郎は博士に気に入られている。
けど、それはエム個人のことであって、博士が私らに協力してくれるわけじゃない」
「ええ。例え、エムを通した所で、あの博士が力を貸してくれるとは思えないわね」
「じゃあ、難しいんじゃ……」
「そんなことはないわ。
博士が起こす騒動に乗じて行動を起こすことはできる」
女は何やら思案する。
妙案が思いついたようで、嬉しそうにオータムの頭を撫でた。
「じゃあこうしましょうか。
博士がIS学園の課外授業で騒動を起こす企てをしていることは、エムから既に聞いている。
そこであの男を襲うのよ。
詳細はこれから決めなくちゃいけないけど、悪い案ではないと思うわ」
だから、あの男の話は終わりと女は突如オータムの上になった。
オータムは強制的に仰向けに押さえつけられる。
オータムは怯えたように女を見た。
女はそんなオータムを愛おしそうに見ている。
「な、何を……」
「仕事の話はおしまいってことよ」
女はオータムの鎖骨を撫でた。
二人は今、シャツを羽織っているだけで、ほとんど裸だ。
これから起こることへの予感がオータムの中で恐怖と期待へと変わる。
「い、嫌。今はダメ!」
口をついて出た悲鳴はまるで生娘のようであった。
未だに抜けきらない大晃への不安から、オータムはこの部屋に訪れたのである。
女はわざとオータムを乱暴に扱って、その恐怖を掻き立てる。
いつも気丈なオータムが子犬のように怯えている。
これを楽しまないわけがなかった。
オータムはどうにか女に抱き着こうとするのだが、両腕は女が足で挟み込むように抑えているので動かしようがない。
「可愛いわね、オータム。そんなに怖かったの?
大丈夫、私が慰めてあげるから」
「やめてくれよ……!"スコール"」
スコールと呼ばれた女はオータムの言葉を無視した。
餓えた獣のように、オータムをひたすら貪る。
オータムの悲鳴交じりの嬌声が部屋に響いている。
――可愛い。
改めて、スコールはそう思う。
いつもなら、目聡くこちらの気持ちいい所を攻めてくるオータムが、今はされるがままになっている。
性の知識が無い少女が未知の快感に怯えるように、不安と快楽が混じり合ってうまく呼吸ができないのか、口をパクパクしている。
そのオータムの痴態がスコールの脳を満たしていくのだ。
スコールはそんなオータムをたっぷりと味わい尽くすことに決めた。
二人の頭からは大晃のことなど抜け落ちていった。
不思議の国のアリス、という童話がある。
主人公アリスは二足歩行の白うさぎを追いかけて、文字通り不思議の国に迷い込んでしまうのである。
その空間は不思議の国というイメージが立体になったようであった。
「うふふふふん」
女の声であった。
上機嫌にハミングをしている。
女は完璧なプロポーションをしていた。
顔も、腕も、脚も、胸も、腹も、腰も、その全てが均整の取れた理想的な、運動を碌にしないくせに健康的な肉体であった。
その肉体を包んでいるのはゴスロリに近い服装。
魔法少女――、それに近いかもしれない。
そして、その大人な雰囲気に似合わぬうさぎの耳、俗に言う、うさ耳を頭に付けている。
アリスに出てくる白うさぎを連想させる恰好であった。
実際に、彼女は白うさぎ、さながらの人間でもあった。
アリスを不思議な世界に誘うことで混沌を与えたように、この世に"IS"と呼ばれることになる可能性を示すことで混沌を与えた。
彼女こそが、インフィニット・ストラトス、略してISの開発者であり、篠ノ之箒の姉であった。
篠ノ之束とは世界を変えた人間である。
「面白い子だね」
眼の周りに隈を作りながらも、はっきりとした口調で束はつぶやいた。
高い、不安定そうな椅子に腰を掛けながら、束は指先に付けた糸を動かしてコンソールを動かしている。
糸の先についた複雑な機構が連動して、やがてはコンソールの操作に変換されるのである。
映像が束の前に浮き上がった。
大晃の顔であった。
それは無人機からの映像であった。
つまり、世界初の無人機を作ったのは、その無人機を一夏と鈴の試合に乱入させたのは、この束であることを示していた。
そんな束が見ているのは、大晃が哀しみの笑顔を浮かべた場面である。
アリーナに駆け付けた大晃が眼にしたのは、アリーナで怯える女子生徒たちの顔、顔、顔。
そんな大晃の表情の変化を、無人機は記録に残していたのである。
「……いい顔をするねぇ。
この表情の裏には一体どんな感情の動きがあるんだろう?」
束は呟いた。
映像に見入って、何かを考えている。
場面は大晃が歩き始めた部分に移っていた。
最後には大晃は走り出していた。
走って、跳躍して、アリーナのシールドの前に立った。
シールドを見つめている様子の大晃。
その大晃の姿が一瞬で膨らんだように見えた。
無人機の度重なる乱入により打ち破られたシールドは瞬時に張り直され、限界ぎりぎりの出力で稼働し続けた。
それらのよる不調でシールドに生まれた、有るか無しかの明滅。
的確にタイミングを捉えて、一瞬で大晃は無人機に近づいたのである。
衝撃――、
拳で殴られた無人機。
そこから先の映像は拳を振る大晃だけが映っていた。
映像の中の大晃とともに、濃厚な気配が叩き付けられるような凄まじさがあった。
「なるほど、"金子先生"が目を付けるだけのことはあるね。
あのじゃじゃ馬を手懐ける人間がいるとは、思わなかったな~~」
でも、と続けて困ったような顔をした。
「う~~~~ん。
ちょっと厄介そうだねぇ、この子。
次のイベントで間違いなく邪魔してきそうな感じがする」
そう言いながら束は警戒心を纏っている。
自分の計画に邪魔が入るかもしれない。
そして、それは絶対に阻止しなければならない、そう考えているようであった。
そもそも、この女が、世界をひっくり返してしまった"天災"が、いまさら計画の一つや二つ。
潰された所で痛くも痒くもないはずなのに、何がそこまで束に警戒心を抱かせるのか――。
「箒ちゃん、箒ちゃん」
おもむろに映像が宙に浮き上がった。
箒がただただ、無人機を見つめて座っている様子が映っている。
怯えはない。
ただ、アリーナの席に腕を組んで座り、正面から無人機を見据えている。
「一皮むけたねッ! お姉ちゃん、嬉しいよ~~」
大晃の時にはなかった喜び。
それに満ちた声が響いている。
束はただのシスコンで喜んでいるのではない。
映像を通してでも伝わる気配がある。
成長の気配だ。
長年悩んでいた何かが解消されて、吹っ切れることによって得た力。
箒の態度の裏にはそれがあった。
姉としてこれほどまでに嬉しいことはない。
「もうすぐ、だから待っていてね、箒ちゃん。
あなたに最高のISと最高の舞台を与えてあげるから」
別の映像が浮かび上がった。
一夏が切り掛かってくる姿がそこには映っていた。
「いっくんと並び立てる力をあげるから……」
次に起こす騒乱は全てが箒の為のものなのだから。
白に並び立つ紅を妹に届けるため。
誰にも邪魔はさせない。
とはいえ、束は別に大晃に嫌悪感を抱いているわけではなかった。
間延びした言葉には束にしては珍しい、他者への関心と感心があった。
大晃はどうやら束の興味を引いたようであった。
好感とまではいかないが、面白い、という感情を束は大晃に対して持ってはいる。
それが大晃にとって幸運なのかは分からない。
何故なら、束の本質は白うさぎ。
不思議の国のアリスの主人公、アリスが白うさぎによって不思議の国に迷い込んだ。
白うさぎはアリスを混沌へと導くきっかけになった。
束はその白うさぎと同じ、混沌への出入り口のような人間である。
果たして、大晃はその渦に飲み込まれて、沈まずにいられるだろうか?
分かることはただ一つ。
束は大晃を知った。
知ったその上で、大晃を何かに巻き込もうとしている。
それだけである。
大晃は知らない。
既に何かが動き始めていることに。
しかし、持ち前の勘か、第六感か――。
平和に過ごす傍らでで起きつつある何かに今気が付いたかのように、大晃は笑う。
それは、思いがけずにおもちゃを見つけた子供のような笑みであった。