超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

33 / 84
32話、生誕

 血だまりのようであった。

 あたり一面を赤い水が張っている。

 それが血の色に似ているものだから、血だまりと思ってしまうのである。

 空もまたおかしな色をしていた。

 夕焼けのきつい赤が空を満たしている。

 そんな気がおかしくなるほど赤い場所に箒はいた。

 なぜこんな所にいるのか。

 思案するがどうにも思い出せない。

 大切な何かがどこかにあるような、それを置き去りにしてきたような感覚だけがあった。

 とにかく、何もしない訳にはいかない。

 箒は歩き始めた。

 周囲を見渡しながら――。

 代わり映えしない風景であった。

 何処を見ても赤、朱、紅。

 しかも、目印になるようなものは何一つない。

 時間の経過が分かるものすらない。

 自分がここに来てからどれほどの時間が経ったのか――。

 箒から時間の感覚が失せようとしたときにようやく目の前に人が現れた。

 赤い帽子に、赤いマント、赤い靴。

 洋風を思わせる男であった。

 いや、それすらも分からない。

 顔が見えないのだから。

 ただ、服装から男だと思っただけで、顔を見ればそこに美しい女性の顔があっても違和感はない。

 

「力が欲しいですか?」

 

 その問いが箒に届くのと同時だった。

 熱風が箒の身体に叩き付けてきた。

 それは臨界点に達しつつある闘いの気配だった。

 そして、箒は――。

 

 

 

 オータムは必死だった。

 大晃との闘いの最中、銀の福音が乱入して来たのだ。

 本来ならばこちらが大晃の闘いに強引に割り込んでいたのだが、これでまるっきり立場が入れ替わってしまった。

 大晃は福音が乱入してくるだろうことを知っていたのである。

 ほとんど妄想に近い理屈であったが、大事なのは大晃が福音の乱入を受けても平然と、それどころかより苛烈さを増したことである。

 逃げるオータムを大晃は逃がさなかった。

 逃亡を防がれたオータムの先にいたのは福音だった。

 このときならまだ福音をやり過ごすことが出来たかもしれない。

 福音の最重要ターゲットは大晃に過ぎないのだから。

 しかし、位置が悪かった。

 大晃と福音を結ぶ直線状にオータムは放り込まれたのである。

 福音にとってオータムは標的でもないが、わざわざ気を遣う相手ではない。

 巻き込むことをいとわずに、福音の広域武装が次々と放たれる。

 オータムが生き延びるには福音を攻撃する以外に手はなかった。

 そして、オータムは生き延びた。

 福音の標的の一つになることと引き換えに――。

 

「オラぁッ!」

「Laaaaaaッ!」

 

 大晃と福音が激突する。

 福音の広域爆撃を潜りぬけて拳がクリーンヒットした。

 その衝撃たるや――。

 瞬間、音のドームが広がる。

 無数の爆撃音すら掻き消す。

 圧倒的な音だった。

 もはや想像も付かない力が拳から生まれていた。

 福音も負けてはいない。

 機体にも匹敵する大きさの翼によりなんとかその場に留まる。

 機体に回転を掛けて、その足の爪先を大晃の顔面へと潜り込ませた。

 顔面に強烈な一撃を喰った大晃は構わずに拳を向ける。

 大理石と白銀のぶつかり合い。

 そこに乱入する者があった。

 オータムだ。

 今この瞬間も広域爆撃は続けられている。

 大晃との肉弾戦の間にもばら撒かれ続けた弾丸はオータムとエムにも向けられている。

 もはや、大晃と福音は、まともとは思えなかった。

 きっとここから逃げようにもその瞬間、二機から予想以上の攻撃を向けられるに違いない。

 二機の速度はこちらを上回る以上逃げるのは無理だ。

 ならば、こちらから行く。

 それがオータムの決定だった。

 エムもそれに異論はないのかビットを操り、砲口を敵共へと向ける。

 福音の弾丸はいくらか撃ち落とされた。

 残った弾丸は頑丈な装甲脚を盾にして対処した。

 どうにか耐え抜いて接近を果たして、装甲脚を二機へと同時に叩き付ける。

 

「あはぁッ!」

 

 そんなオータムに向けて大晃が拳を向ける。

 嬉しそうだな。

 そう思いながらオータムは迎撃する。

 拳を受け止めた。

 残りの脚で攻撃を仕掛けた。

 瞬時に射撃モードへと移行。

 七つの砲口から弾を連射する。

 その瞬間、大晃の身体が回った。

 そこに奔る光の筋。

 エムだ。

 もう一人の同行者で、常々気に入らないと思っていた女だ。

 エムが放ったレーザーが大晃を狙っていたのだ。

 その顔には済ましたところは一切ない。

 真剣にこの男をどうにかしなければ、自分自身が危うい。

 それが分かっている顔だった。

 レーザーは大晃には当たらないだろう。

 大晃がまたもや精密な回転でそれを避けるに違いなかったからだ。

 しかし、それで良い。

 何故ならここにはもう一機大晃を狙う奴がいる。

 

「Laッ!」

 

 福音の翼が伸びた。

 回避に気を取られた隙を狙って、翼で包み込もうとしているのだ。

 大晃は逃げようとする。

 周囲を覆う翼に上下左右が止められた。

 逃げるならば後ろだ。

 その逃げ道をオータムは遮った。

 大晃が再び拳を向けてくる。

 オータムをその逃げ道からどかす為だ。

 大晃の肉体から凄まじいプレッシャーが放たれる。

 瘴気のようなものに身体を包まれた。

 それでもオータムは退かなかった。

 この絶好のチャンスに弾をありたっけ叩き込む。

 上、下、左、右――。

 あらゆる方向から叩き付ける決死の連射にオータムは手ごたえを感じ――。

 衝撃。

 首から上が吹っ飛んでしまった。

 否、それは錯覚だ。

 首から上を確かめるまでもなくそれが分かった。

 そうでなければ思考が止まっているはずだからだ。

 脳が揺れて思考が少しおかしくなっただけだ。

 しかし、それだけの代償を払った甲斐があった。

 大晃は脚での攻撃を避けきれなかった。

 エムの援護もある。

 大晃は完全に逃げ場を防がれた。

 しかし、大晃はただで転ぶ男ではない。

 大晃はその場に踏みとどまりはしなかった。

 攻撃を受けたその瞬間に脱力し、自ら飛んだのだった。

 その先にいるのは、銀の福音。

 

「しゃぁッ!」

 

 大晃の気迫が伝わってくる。

 転身した大晃はやたらめったらに突きと蹴りを放つ。

 連打、ではなく乱打。

 全身を生かした打撃が無数の衝撃となって福音を襲った。

 

「Laaaッ!」

 

 電子音の絶叫。

 福音もまた退かない。

 衝撃に機体制御を崩しながらも砲口から弾丸を射出する。

 連射、ではなく乱射。

 翼の砲口全てを用いた射撃が無数の衝撃となって大晃を襲った。

 銀の福音と無手の二機が激しい爆音と閃光に包まれた。

 どうなったか?

 オータムが距離を離して身構えた。

 

「やるじゃねぇか」

「La……La、La」

 

 二機ともに未だ健在。

 大晃の乱打は途中で弾丸により阻まれ、福音の乱射は拳によって姿勢を崩されることで威力が落ちた。

 大晃は息を切らしてはいないし、福音もまだまだ闘えそうであった。

 と、ここでオータムは思う。

 今ならば、互いが釘付けになっている今ならば逃げられるのではないかと。

 

「おい!」

「La!」

 

 そう思った瞬間であった。

 大晃と福音が息の合ったタイミングでオータムを振り返った。

 どちらもここから誰一人として逃すつもりはない。

 オータムの試みは現状が逃亡が不可能であることを再確認する結果に終わった。

 ここで逃げられるようだったら最初からそうしている。

 糞!

 オータムは悪態をつきつつも冷静に考える。

 このまま闘い続けられるのか、と。

 ダメージは少ない。

 大晃との闘いではまだ拳を一つか二つ貰ったぐらいだ。

 福音からの弾丸も防いでいる。

 装甲脚の頑丈さに感謝するべきであろう。

 エネルギーもまだ余裕はある。

 拳をもらった顔面の方は痛みが引かないが、一戦位ならばなんとかなる。

 エムは遠距離での攻撃が主軸であるからオータムよりもさらに余裕があることだろう。

 一見こちらの方が優位に見える。

 しかし、それは今まで運があったということだ。

 どちらか片方の攻撃があとこちらに数度クリーンヒットするだけで良い。

 それでもう目に見える有利な材料は消えてしまう。

 今までの闘いはかなり際どいものだった。

 今後も同じように潜り抜けれる自信はオータムにはない。

 あるいはエムならばそういう強気の姿勢を維持できるかもしれないが、それにしたって確実ではない。

 事実、エムにとっての肝であるフレキシブルすら通用していない。

 状況はかなり厳しかった。

 

「ぬぅ!?」

 

 と、ここで一つの変化が起きた。

 福音の頭部に爆発が起こったのだ。

 超高速で飛来した弾丸が福音の頭部に命中したらしい。

 この変化に誰ともなく声を上げたのだ。

 

「一時、標的変更」

 

 遠くからの奇襲。

 これに福音は強く反応した。

 大晃とオータム、そして、エムを相手取る最中に超遠距離から自身を狙う敵がいる。

 それは福音としても見過ごせるものではない。

 無論、大晃をこのままにしておくつもりはない。

 未だに、闘気が福音の内にあるナターシャに叩き付けられている。

 その肉体の反応がセンサーに現れている以上、大晃を戦闘不能状態にすることは決定事項だ。

 しかし、こちらから届かないところから攻撃を受けるのはまずい。

 福音は弾丸を周囲にでたらめにばら撒いた。

 敵を打つためではなく足止めの為にだ。

 弾丸が爆発を起こし、周囲が爆炎で包まれる。

 その隙に福音は向きを変えた。

 福音ははるか彼方の敵へ向けて、超高速移動を開始した。

 福音の姿が消えていく。

 

「なに!?」

 

 謎の第三者の介入。

 この事態で己はどうするべきか。

 そう考えていたオータムは現実に引き戻された。

 オータムとエムへとレーザーが飛んできたのだった。

 声がした。

 

「まさか、こんなところでご対面できますとは。わたくしはツいていますわね」

 

 それは青い機体だった。

 英国の騎士を思わせるデザイン。

 金色の髪を優雅になびかせる少女が一人そこにはいた。

 

「英国の最新機、サイレント・ゼフィルス。まさか、あなたのような小娘が使っているとは思いもしませんでしたわ」

 

 セシリア・オルコット。

 いつもなら切り離されているビットがスカートのような形でくっついており、ブースターとして機能している。

 これこそがブルーティアーズの高速パッケージである。

 と、セシリアはエムに目を向ける。

 消耗をした様子のエムを見て、セシリアは薄く笑った。

 全身から貴族に相応しい威圧感を放ちながら言った。

 

「しかし、情けないですわね。フレキシブルを使えてその体たらくとは。

 一芸に秀でた程度で図に乗るからそうなるのですわ」

 

 遠目からエムのフレキシブルを見ていたらしい。

 エムは答えた。

 

「その一芸すら身に着けられなかったのは、どこのどいつだ?」

「確かに……では確かめてみますか? 一芸すら身についていない、わたくしがどれほどのものなのか?」

 

 セシリアとエムの視線のぶつかり合い。

 二人の間に緊張が走った。

 大晃はそれを横目にして、言った。

 

「なるほどね、残りの専用機持ちで福音の無力化に来たってわけだ」

「ええ、わたくしは大晃さんのお手伝いに来ましたのよ。感謝してくださいな」

「ああ、頼もしいな」

「ふふん」

 

 大晃とセシリアが言葉を交わす間に、遠くから轟音が届いてきた。

 福音の方も戦闘を開始したらしい。

 大晃はそれを確認するとゆったりと構えを取った。

 

「じゃあ、こっちも始めようとするか」

「わたくしがそちらの少女をやります。あなたは金髪の女性を頼みますわよ!」

「応!」

 

 大晃がオータムへと、セシリアがエムへと、それぞれ闘いを仕掛けていった。

 

 

 

 彼方へと飛び立った福音。

 その先には確かに一つの人影があった。

 手に大きなライフルを持っている為に妙なシルエットになっている。

 銀の髪に、眼帯を付けた少女。

 それはラウラであった。

 大晃の援護及び福音の無力化が、ラウラを含めた専用機持ち達に与えられた任務だ。

 事前に状況は分かっている。

 乱入者と福音。

 これをどう相手にするのか。

 その方法もすでに決めてあった。

 誰か一人が福音をおびき寄せて、残った乱入者と闘う。

 問題は人数配分であった。

 福音の無力化も本来なら難しい任務だ。

 ある程度の人数で相手をしたい。

 しかし、乱入者も一筋縄ではいかないだろう。

 いくら大晃と共闘したにしても、苦戦を強いられることは分かる。

 

「わたくしが相手をいたしますわ」

 

 そこで声を上げたのがセシリアであった。

 確かに乱入者の一人はサイレント・ゼフィルスを操っている。

 これはセシリアのブルーティアーズの姉妹機である。

 つまり、元々はイギリスが開発したISだ。

 イギリスの代表候補であるセシリアが黙っているはずもない。

 セシリアは言った。

 

「もちろん一人で行きますわ。あなたたちは福音の相手をお願いしますわね」

 

 まるで、召使や執事に対するような物の言い方をした。

 有無を言わせぬ、貴族のオーラをセシリアは発していた。

 それで福音の相手はラウラたちが、乱入者の相手はセシリアがすることになった。

 だから、その意味では現状予定通りだ。

 福音も長距離から一方的にやられるのであっては優先順位を変更するだろう、という読みは当たった。

 福音はラウラの下に全力で向かってきている。

 それは想像以上に速く、もう攻撃の範囲内に福音が迫っていた。

 福音が攻撃の為に右腕を振り上げた。

 

「遅いよ!」

 

 右腕が弾かれていた。

 エネルギーで覆われた大型の盾。

 それを備えたシャルロットが現れていた。

 シャルロットが福音の進行方向を塞ぐように出てきたのだ。

 シールドバッシュ。

 そういう要領でシャルロットは盾を福音に叩き付けた。

 福音は超高速で飛んでいる。

 その軌道を防ぐように突然盾が叩き付けられたので、その分だけ威力は上がる。

 福音は両腕で防御する他なかった。

 

 ――ガキィンッ!

 

 盾と腕がぶつかり、金属質の音が周囲に広がった。

 超高速で飛来する物体が正面衝突したのだ。

 シャルロットの持つ特別製の盾にも凹みが生まれて、福音の両腕にも亀裂が生じている。

 どちらもその衝撃で吹っ飛んだ。

 シャルロットと福音は体勢を立て直そうとする。

 シャルロットと大型のスラスターを持つ福音では勝負は見えている。

 福音の方が素早く体勢を立て直しシャルロットへと逆襲するはずであった。

 それもラウラは分かっていたのであろう。

 最初に気を引いたライフルの一撃を福音へと放った。

 しかし、福音の機能はラウラの想像を超えていた。

 

「なに!?」

 

 ラウラの放った弾丸が空中で迎撃されたのだ。

 福音の大型スラスターは砲口が数多くついている。

 その砲口から銀の羽根を思わせる弾丸が発射されていた。

 次々と発射される弾丸が宙に群れを作っていた。

 弾の群れに飲み込まれる形で、ラウラの弾丸が掻き消されたのである。

 群れがラウラへと殺到する。

 ラウラは回避の体制を取り――、薄く笑った。

 

「おりゃあああ!」

 

 海面から再び影が飛び出してきた。

 それも二つ。

 その一つから赤い物が飛び出してきた。

 燃える火球。

 赤々と燃えるそれを福音は迎撃した。

 福音の持つ広域爆撃能力なら炎を散らすことさえ可能であるからだ。

 無数の弾丸が炎に向けて放たれた。

 しかし、火の勢いは弱まらない。

 炎を纏った衝撃破。

 それが福音を襲う。

 逃げる暇もなく、巨大な炎の柱が福音を包み込んだ。

 

「La……!」

 

 逃げ場のない炎の渦。

 福音はすぐさま脱出を試みた。

 前後左右のどちらでもよい。

 ともかく、ここに留まるわけにはいかない。

 福音は前方にめがけてスラスターを噴いた。

 それが敵の狙いだとも、気が付かずに。

 

「今よ!」

 

 炎の衝撃波を放っていたのは鈴であった。

 鈴の装備である衝撃砲の攻撃範囲をより広く、攻撃力をより強くした熱拡散衝撃砲で炎を纏った衝撃波を鈴は放っていた。

 その鈴の合図でもう一つの人影が動いていた。

 白く輝く機体が空を彩り、その手に握られた刃が青白く輝く。

 

「La!?」

 

 福音は驚いた。

 福音の進行方向に敵が待ち受けていたからだ。

 それは一度、闘ったことのある相手だった。

 一撃必殺の能力を持った敵である。

 それが今、至近距離で目の前にいる。

 まずい。

 福音のその思考が終わるのと同時に、その人影は刃を振り上げた。

 次の瞬間にはもう刃が振り下ろされ始める。

 刃がひと際輝いた。

 月光を何倍にも強めたような光だった。

 

「おらぁ!」

 

 その人影、織斑一夏が零落白夜を発動して刀を振り下ろしていた。

 刃は福音の翼を叩いた。

 機体に刃がめり込み、翼のうち片方が叩き切られた。

 福音は残った翼で一夏を包み込もうとした。

 砲撃により一夏を落としてしまおうとしているのだ。

 しかし、そのもう片方の翼は一夏へと届かなかった。

 

「私を忘れないでよ!」

 

 鈴が福音の背後から斬りかかっていた。

 振り下ろした双天牙月によって残った翼も切り落とされる。

 ダメ押しに回転を掛けたかかと下ろしが、福音の頭部に命中する。

 福音が海面へと叩き下ろされた。

 

「やったか!?」

 

 ラウラがセンサーで敵の様子を確かめつつ言った。

 福音のエネルギーはもう底をついているようだった。

 翼をもがれ、体力も残っていない鳥。

 それはもはや闘えない。

 であるのならば、助けに行かねばならなかった。

 本来の目的は福音の無力化であって、討伐ではない。

 福音の中にいるナターシャを救い出すことも目的の一つだ。

 ラウラがその指示を出そうとした。

 しかし、まだ、終わってはいなかった。

 

「なんだ!?」

 

 海がすり鉢状に凹んだ。

 大量の海水が押し出されて、海面がぽっかりと空いたのである。

 普通なら重力に従い、海は元の状態に戻ろうとする。

 しかし、不思議なことに海面の凹みは無くならない。

 何らかの力場が海水を寄せ付けていないようであった。

 その力場の中心にいるのは、福音だ。

 "銀の福音"は己を抱いていた。

 海と言う子宮内からそのまま取り出された胎児のように、身を丸めている。

 ぢりぢりと空気が鳴った。

 福音を包む青い雷光。

 それが空気をちりちりと焼いている。

 そして、この世に生まれた赤ん坊がそうするように福音は――、

 

「オキャアアアアアアッ!」

 

 絶叫した。

 絶叫しつつも、その変化は終わらない。

 福音が大気に溶け込ませた雷が、色を取り戻して球形に姿を変えていくのである。

 空気が含むことのできる限界を超えて溢れた電気が現れたようであった。

 周囲を埋め尽くす雷の球。

 それが福音へと殺到し、福音は光に包まれた。

 光が有機的に、まるでアメーバのようにうねうねと姿を変えていく。

 

「これは、"第二形態移行"か……!?」

 

 まさか、この土壇場で形態移行が起こるとは。

 そんな驚きを意に介さず福音の姿は変わる。

 福音の光が収まり、福音が直立の姿勢を取った。

 福音の全身をびっしりと銀色の羽根が覆っていた。

 鳥が無数の羽根を纏っているように、福音から無数の羽根が生えていたのだ。

 雷のエネルギーによって生成されたはずの羽根は、一本一本が青く輝いている。

 その頭部から、翼が生えている。

 終わりなのではなく、真の闘いの始まりである。

 そのことに全員が気が付いた。

 

 

 

 福音が第二形態へと移行し、その場の全員が息を呑んだ。

 銀の羽根を無数に纏う福音は、薄く輝いていた。

 青い光芒の中に銀に輝く福音がいる。

 それは何とも神々しい光景であった。

 圧倒的な力を神から授けられている。

 そんな風である。

 しかし、ここで怖がっているわけにもいかなかった。

 福音は倒すべき敵である。

 専用機持ちの面々は気を引き締めて――、

 

「なに!?」

 

 福音の姿が消えていた。

 どこへ行ったのか?

 全員の視線が周囲へと飛ぶ。

 ISには全方位視覚がある。

 見通しの良いこの状況。

 福音は瞬時に発見できた。

 しかし、その僅かな時間が命取りだった。

 その僅かな時間で福音はラウラの後ろに回り込んでいたのだ。

 福音が翼を伸ばした。

 ラウラは翼に包まれる。

 そして、轟音。

 無数の爆発音が響いて、翼の内からラウラの姿が見えた。

 全身がボロボロだった。

 機体の機関部は大部分がやられて、移動はなんとかできるものの、実戦に耐えうる動きをすることはもう無理そうだった。

 福音はラウラを離した。

 ラウラはゆっくりと高度を下げていく。

 それに目を向けず福音は残りの三人に目を向けた。

 

「うおおおぉッ!」

 

 シャルロットが雄たけびを上げた。

 右手にショットガンを呼び出して福音へと突き付ける。

 しかし、シャルロットは引き金を引けなかった。

 エネルギーの翼が素早く動いて、シャルロットごとショットガンを払っていた。

 

「うがぁ……!」

 

 翼ではたかれたシャルロットが呻いた。

 福音は今エネルギーの集合体だ。

 しかも、翼はエネルギーのみによって構成されている。

 翼でシャルロットを叩いたその瞬間に、シャルロットに触れた部分のみを爆発させたのだ。

 それは弾丸を潜り込ませた上で、爆発させたに等しい。

 その一撃のみでシャルロットは海へと落ちてゆく。

 

「くっ!」

 

 シャルロットを落として、福音は次のターゲットに鈴を選択する。

 灼熱の衝撃砲をいともたやすく潜り込む。

 そして、一閃。

 エネルギーの羽根で覆われた拳で鈴の顔面を狙い打ち、海面へと鈴を叩き落した。

 残りは――、

 

「鈴!? 糞ッ!」

 

 一夏のみ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。