「力が欲しいですか?」
全身を赤で揃えた人物がそう言った。
性別は分からない。
男であるようでもあるし、女であるようにも見える。
声からも判別がつかない。
「力か……」
箒はその言葉を舌で転がした。
力。
そもそも、己にとっての力とは何であろうか。
それを箒は考えていた。
この赤い、紅い空間で。
「むうっ……!」
「流石ですね……」
「それは誰に対して言っているんだ?」
「位相の異なるこの世界にすら干渉するほどの"何か"を発する人間、そして、この"何か"を感じ取ることが出来るあなたの両方にです」
箒の身体を闘気が包み込んだ。
この空間へと流れ込んできているこの熱風。
それをどうやら目の前の赤い人物は知っているらしい。
だが、それよりももっと気になる単語が出てきた。
「私の世界だと? 貴様がこの空間を作っているとでも言うのか?」
「半分はそうでしょう」
「半分?」
「この空間を作り出しているのは私であるとも言えます。しかし、それでは半分しか説明できていません。
何故ならこの空間はあなたの力によっても構成されているからです」
「ならば、私の世界と言ったのは――」
「はい。私があなたの力を借りて、この世界を作り出しているから、そう表現しました。
現に私はあなたの力を使っていますが、この世界を操作しているのはわたしです」
箒はあたりを見渡した。
この赤い空、血の張ったような湿った地面。
病的なまでに赤い太陽。
全てが余りにも赤い。
「この光景は一体なんだ? これは貴様がそう見せているのか?」
「それもまた半分正解と言えましょう。
私はこの世界を操作し、ここを作り出しましたが、この世界がどう見えるかはあなたのイメージ次第の部分があります」
「イメージ?」
「はい。あなたが私の作った世界をどう捉えているのか、という要素があります。
もっとも、今の段階では私の世界をそのまま見ているのと大して変わりはありませんが」
そう言うと赤い人物は言葉を止めた。
「分かった、貴様の話を理解したとは思えないが、ここが作られた世界でそこに私がいる。
それだけははっきりと分かった」
「ええ、現状の把握としてはそれで十分でしょう」
外の世界が、というより箒が元居た世界がどうなっているのかの説明はない。
しかし、箒は今はそれが気にならない。
紅い人物の問いに答えることが、そのまま現状の打破に繋がる。
海の中にいる人間が陸を目指すときに、陸の見えている方向に進むことが自然だと思えるように、箒にとって回答することはごく自然なことであったのだ。
「それで力を欲するかどうか、だったな」
「ええ」
「欲しいさ。力とは有った方が良いものだ」
「では、これ以上の力を欲すると?」
「……いや、力は既に十分に持っている」
と、箒は己の中に目を向けた。
力。
それならばもう十分に持っているはずだった。
だが――、チクリと胸を指すものがあった。
「しかし、それは矛盾しているな。力を十分に持っているのなら、私はここには来なくても良いはずだ。
だが、私は力不足のせいで今ここにいる」
「――」
「でも、不思議なんだ。いざ、力がいるか、と問われれば要らないと思ってしまう。己の練り上げた力のみで十分だと――」
「ふむ」
箒は考え込んだ。
それを真似するように赤い人物も腕を組んで、首を傾けた。
大人びている、もっとも素顔は見えないが、外見に似合わない幼い所作。
それが案外似合っている。
先に答えを出したのは意外なことにもこの赤い人物であった。
「それは力の捉え方の問題かもしれません」
「ほう?」
「あなたは力という単語で複数の意味を表現しているのではないでしょうか?
力は十分にある、力が欲しい、とあなたは一見矛盾した表現をしていますが、それぞれの力が違う意味を持っていたとすれば矛盾はしないのでは?」
そう言われて箒は考えた。
力が十分にある、と考えたときは己の何に目を向けていたか。
そうだ、篠之流だ。
剣を振るい、敵を制圧する技術、腕力、気魂。
そこに不足があろうはずもない。
では力が欲しい。
そう思ったときに己は何が足りないと感じていたのか。
「ぐッ!」
「――大丈夫ですか?」
赤い人物の声はもう箒には届いていない。
箒の中をイメージが駆け抜けていた。
一夏を庇う箒。
それで傷ついた箒を抱きかかえる一夏。
一夏の腕の中で感じる僅かながらの歓喜。
そして――、
「糞ッ……!」
箒は全て思い出した。
福音と闘ったこと。
一夏を庇って己が重傷を負ったこと。
そして、己が最後まで立っていられなかったこと。
箒は悔しくて悔しくて歯をかみ締めた。
ぎりぎりと鳴る歯ぎしりの中で箒は思い出していた。
――その歓喜をはるかに超える屈辱を。
赤い人物が不思議そうに、そして、気圧されたようにして箒を見つめる。
箒は突如叫んだ。
「私は最後まで立っていられなかった!」
一夏を庇ったところまでは良かった。
しかし、そこから先は良くない。
まだまだ、闘う気でいたのに肝心の己自身がそれを実行できなかった。
それどころか、そんな己を一夏は心配していた。
私が頼りないというのか?
その一夏の態度こそが箒にとっての最大の屈辱であった。
「分かったよ、私に足りない力とはどういうものかな……」
箒は言った。
「私は最後まで立っていたい。戦場で最後まで立ち続け味方を鼓舞する、そんな存在でありたい」
そこに箒がいて、闘っている。
その戦場で最後まで立ち続ける。
それが味方の励みとなる。
味方の誰もが、あの女は絶対に倒れない、という確信を抱く。
そういう人間に箒はなりたいのだ。
「最後まで倒れずにあそこに立っていられる。そのための力を私は欲する」
箒が赤い人物に目を向けた。
しかし、その目が見えているのは別のものだ。
この世界の向こうにある、戦場。
そこを見据えている。
赤い人物は頷いた。
「分かりました」
どろり。
地面を地平線の彼方まで埋める赤い液体。
それが突如粘性を持って動き始めた。
箒の身体へと押し寄せていく。
「あなたは私の想像をはるかに超えた闘争心を持っています」
赤い人物は帽子を取った。
「この力を持つに値する、それが分かりました」
帽子を両手で抱えた。
赤い髪が長く伸びている。
「どうぞ持って行って下さい。あなたならば、この力に耐えられるはずです」
赤い瞳が箒を見つめる。
端正な顔つきの女。
それが赤い人物の正体であった。
ふと、箒は呟く。
「貴様は……まさか……!?」
「はい、あなたの想像は多分あっているでしょう。
私は短い時間ですが、今まであなたと共にいました」
赤い人物は、否、"赤椿"は恭しく頭を下げた。
「武運を祈っております」
赤い粘液が箒を覆いつくす。
こんもりと盛り上がった赤い液体。
それがこの奇妙な世界にもあるらしい重力に従い地へと落ちる。
地面へと広がっていき、平坦へと戻っていった。
そこに箒の姿はもう無い。
赤椿は赤い空を見つめるのだった。
「はぁっ、はぁっ……!」
一夏は息を切らしていた。
福音との一対一の闘い。
他の誰にも頼れないこの状況で、一夏はなんとか粘っていた。
武装の相性が良かった。
エネルギーの結晶である銀色の羽根に対して、一夏が持っているのはエネルギー系統の武装に有利な雪片である。
エネルギーを掻き消すことの出来る零落白夜で凌いでいる。
しかし、それでも軍用ISとしても異常なスペックを持つ福音に対しては不利である。
速度、火力、攻撃の範囲と全てにおいてこちらを上回る福音は追い詰める。
既に白式の機体はぼろぼろで、エネルギーも付きかけている。
それに引き換え福音は機体に傷は見当たらず、エネルギーも無尽蔵と、ほぼ万全に近い。
「まだだ……!」
そんな絶望的な状況でも一夏は立っていられた。
頭の中には、箒の姿がちらついている。
理由は簡単だ。
気を失うその直前まで箒は諦めていなかった。
その姿が一夏を支えている。
「うおおッ!」
「La……」
腕に力を込めて、一夏は斬りかかる。
福音から発射される無数の羽根を避けて、弾いて、それでなんとか福音へと接近する。
刀を振り下ろした。
福音は固めた右翼で零落白夜を受け止めた。
いくら零落白夜がエネルギーを無効化するとはいえ、相手は物質化するまでに至ったエネルギーの結晶だ。
一枚であれば掻き消せるそれも、積み重なり層となっている状態であれば、貫くのは難しい。
「ぬぅ!?」
残った左翼を福音は振るってくる。
一夏はそれを何とか刀で受けるものの体勢を盛大に崩す。
格闘戦をしようにもスペックがかけ離れているこの状況ではそれも不可能。
力の差を見せつけるように福音は一夏を突き飛ばす。
そして、止めとばかりに福音は両の翼を一夏へと向ける。
無数の羽根が生えた翼から――、
「Laaaaaaッ!」
飛びだす山のような羽根の奔流。
もはや周囲をまるごと巻き込む羽根の嵐。
もう駄目なのか?
一夏の心を諦めが支配しかける。
そのときだった。
一夏と弾幕の間に割り込む者がいた。
紅い機体を駆るその人物は一夏も良く知っている。
「箒!?」
箒は一夏の言葉を背に刀を振った。
その軌道上に生まれた赤い衝撃。
それが羽根を誘爆させて、弾幕を切り崩した。
「大丈夫なのか?」
「ああ」
「だが、傷があったはずだ、それは――」
一夏は箒の身体を見回した。
ひどい傷が全身にあったはずであった。
傷は見当たらない。
しかし、それは表面上のことだけで、重い怪我を身体に抱えているかもしれない。
そんな一夏の心配を切り捨てるように、箒は頷いた。
箒は油断なく構える。
その先にいるのは銀の福音。
「その話は後だ」
「しかし――」
「心配するほどではない。あの程度の傷など、私にとってはかすり傷とほとんど変わりがない。
それより、今度こそ、この福音を落としておかねば本当に大きな怪我をするかもしれない」
「馬鹿。先まで意識を失っていたじゃないか」
「そうだったかな」
惚けた様子で箒は言う。
それよりも、と箒は視線を内面へと向ける。
あの屈辱を思い出せ。
自然と箒の全身に力が入る。
歯を噛みしめて一夏の顔を見た。
心配そうに己を見つけた一夏を。
屈辱が力になる。
もう二度と力尽きて倒れはしない。
最後まで仲間を支える為に。
箒の身体から溢れ出た赤い瘴気。
それはいつしかはっきりとした形で現れる。
箒は不定形のそれを見て呟いた。
「こいつを受け取れ」
「え? なんだこれは?」
その赤いエネルギーはアメーバのように伸びた。
触角のように伸びたそれが機体に触れる。
すると、どういう理屈か、一夏の身体に力が点る。
身体だけではない。
機体にもエネルギーが供給されている。
「あり得ない……これは!」
ISにはそれぞれのコアごとにセキュリティがある。
エネルギーを供給するにしても、そのコアの承認が無ければエネルギーの受け渡しは成立しない筈であった。
だが、この赤いエネルギーは違う。
コアの承認を無しに、あるいは無理やりに承認を得てエネルギーを受け渡してきている。
エネルギーが満タン近くまでになると、箒は言った。
「もう良いな……では、行くぞ!」
ここで箒は両手に刀を構えた。
赤いエネルギーはもう赤椿の表面には出ていない。
先ほどの供給で全てのエネルギーを使ってしまったのではないかとも思える。
しかし、機体の内側にはあの赤々とした力が満ちているようで、箒は力強い立ち姿を見せている。
その箒の背に頼もしいものを感じて一夏は構えた。
箒は飛び出した。
赤椿は高速モードにある。
最短距離を突き進むだけの単純な動きは、それ故に福音の攻撃を掻い潜る。
箒はするりと潜り込んだ。
左右両手の刀を箒は振った。
右と左から襲い掛かる剣戟。
それに対する福音の対処もまた単純なものであった。
「Laaッ!」
「むぅんッ!」
両の手を突き出した。
銀の羽根で覆われた両腕の硬度は相当なものだ。
四つの腕が中空でぶつかり合う。
刀を抑える福音に、その刀を福音へと潜り込ませようと力を込める箒。
腕力勝負に近く、その腕力は拮抗している。
であれば、勝利を分けるのは腕力以外の部分。
出力で優っている福音が徐々に迫り出してくる。
前へ前へと、その推力を機体を前方へと進めることのみへと使っている。
福音は見た。
箒の口元に歪な笑みが広がっている。
「しゃあ!」
突如、押し合いの力が一点に収束した。
福音が感じたのは拳を放つときのような、己の力を一点に向ける感覚。
箒は押したのではなく、引いたのであった。
身体の位置を瞬時に入れ替え、刀を引いて、その刀を掴む福音をコントロールしたのだ。
福音は投げ飛ばされた。
前方へと回転する形で。
しかし、福音には精密な機体制御がある。
咄嗟に掴んでいた箒の刀を放して、体勢を整えようとした。
「おらぁ!」
その福音に、気合の声と共に放たれるのは、蹴りである。
回転が終わりきるその前に箒は福音を蹴ったのだ。
敵を投げて空中で身動きの取れない間に蹴る、篠ノ之流の技である。
赤椿の爪先が福音の顔面へとめり込んだ。
崩れた体勢でさらに一撃を入れられた福音。
一夏はそこに切り込んだ。
エネルギーは十分にある。
ありったけのエネルギーと力を込めて福音へ零落白夜を向けた。
福音は咄嗟に翼を広げた。
そこから羽根が周囲へと放たれる。
「くッ!」
一夏はそれを零落白夜で叩き落そうとする。
雪片の刃が羽根に触れて掻き消える。
それを数度繰り返した。
そして、何度目かで異変が起きる。
キィン。
金属音。
福音の羽根に刀を当てるたびにそれが響くのである。
福音の羽根が掻き消えなくなっていた。
それは箒の方も同じようで、赤い衝撃波を乗り越えて羽根が襲いかかってくるようになる。
「これはっ……!」
福音の翼は羽根の集合体である。
では、打ち出すときにもそれは出来る筈であった。
羽根を複数本、束ねて撃ち出せば、威力、硬度が上がる。
今までの闘いでは箒と一夏へ、羽根の射出攻撃が届かないことは多かった。
それを学習した結果、福音は羽根を束ねて攻撃能力を上げることを思いついたのである。
これはまずい。
今まで、零落白夜により羽根を打ち消していた。
よほど力を込めずとも、零落白夜は羽根を消してくれていたが、それができなくなる。
すると、どうなるか。
これからは羽根を打ち消すのではなく、弾かなければいけなくなるのだ。
当然、打者がバットで投球を打ち返すように、インパクトの瞬間力を入れる必要が出てくる。
今までのように振っていたのでは、羽根を防ぐことは出来ない。
羽根を束ねた影響か、射出される羽根の本数自体は減っているが、それでも大量にあることに変わりはない。
「ぐっ……! 糞!」
一夏は呻いた。
その視線の先には箒がいる。
箒は黙々と刀を振っていた。
その太刀筋のなんと見事なことか。
箒が刀で羽根を打つ。
そこに次々と殺到する羽根の束。
しかし、それは箒には当たらない。
箒が打ち返した羽根が、後ろから押し寄せてくる羽根に命中したからである。
器用なことに自らが打った羽根を利用しているのである。
たった一度のアクションで、より多くのことを成している。
己がどう動くべきか、それを熟知しているからこその動きである。
それに比べて俺は――。
何を思っているのだ、俺は。
一夏はそう思う。
箒の剣戟が優れているのは当然のことだ。
十年近く。
恐らく、己の人生の半分以上。
それを篠ノ之流に費やしてきた。
辛いこともあったろう。
何のために篠ノ之流を学ぶのか。
師と家族から遠くに追いやられて、モチベーションを保つのも大変だったはずだ。
それでも尚、箒は止めなかった。
決して、怠けなかった。
それがその所作から分かる。
俺はどうだったか――。
何もやっていなかった。
姉に迷惑を掛けたくないと、バイトに明け暮れていた。
あるいは弾たちと遊んでいたことの方が多かったかもしれない。
それをいけないなどと言うつもりはない。
だが、今ならば分かる。
暗闇の記憶。
あの廃墟での人を殺した記憶。
それらを忘却の彼方へと追いやり、忘れたふりをしていたのだ。
己の中にいつしか巣くっていた暗黒から逃げていたのだと。
愚かな、と思う。
正に俺のような人間こそが武道に寄り添わなければいけないのに。
『一人で全員を守れるとでも思っているのか?』
千冬の台詞が蘇る。
ここに至ってその言葉が身に染みる。
一夏は他のことに多くの時間を費やした。
そんな一夏が誰かを守ろうと思ったところで限界はすぐに来る。
守るとはそれほどまでに難しいことなのだ。
一人では不可能で、だからこそ誰かの力を借りねばならない。
誰か力をくれ。
一夏は箒を見た。
今のままでは箒の力になるのは難しい。
自分のことで手いっぱいだ。
だから、俺に箒の足手まといにならないだけの力をくれ――。
「一夏ッ!」
箒が叫んでいた。
一夏に無数の羽根が迫っていた。
とてもではないが助けには行けない。
一夏自身がなんとかしなければいけないのだ。
しかし、一夏に手はなかった。
羽根が一夏に押し寄せて、爆発を起こした。
爆炎が一夏を包み込んでいた。
「やってくれたな……」
囁くように、しかし、恐ろしい怒気を込めて箒は言った。
福音に怒りをぶつけようとする。
だが、箒は止まった。
「なるほどな」
一夏の声が聞こえた。
先ほどの爆発は一夏の白式を墜とすほどの威力があったはずだ。
それなのに、その声からはダメージの色が見えない。
まるで、万全の状態で話をしているような声に箒は疑問を持った。
爆発の煙が晴れるとそこには一夏がいた。
「無傷だと?」
安堵と驚愕をまぜこぜにして箒は言った。
装備の一部を犠牲にしたのでもない。
なんらかの手段で、一夏はあの爆発を防いだのである。
しかも、攻撃を受ける直前にあった傷すらも消えている。
第二次移行。
そんな単語が頭をよぎる。
「俺が必要としているのは、こういうものだったか」
そして、一夏は左手を見る。
籠手が一夏の左腕を覆っていた。
それは今までの白式にはない装備だ。
一夏はその籠手を眺めながら口を開いた。
何か重要な意味をその装備に見出しているらしい。
「ごめんな、箒。心配かけてしまって」
それは訣別の言葉だった。
自分が弱い。
それは仕方がない。
そういう生き方をしてきた自分が突然、力に目覚めたとしても、己は変わらない。
弱いままだ。
それでも良い。
誰かを――、箒を――、仲間を助けることさえ出来れば、今はそれでも良い。
だから――。
「Laaaッ!」
福音の電子音に焦りが見える。
白式に装備された新たな武装は、その性能以上に相性が悪い。
先ほどの爆発からの生還が偶然ではなく、当然のことであったことを認めるように福音は先手を打った。
再び羽根の一斉掃射が一夏を襲い始める。
「力を貸してくれ、白式」
一夏は左腕を掲げた。
籠手が光りを放ち始めた。
――雪羅、防御モード起動。
そして、籠手、つまり雪羅の機能が発揮される。
その機能とはシールドの構築。
特に対エネルギー性能は絶大である。
一夏を中心に広がるシールド。
それは福音から放たれた羽根を一つ残らず消失させた。
福音の懸念が現実化したのだ。
「La!?」
AIらしからぬ強張り。
無理もない。
今まで最大の効果を与えてきた零落白夜ですら福音の羽根を複数同時に、しかも広範囲に渡って消滅させるなど出来はしなかった。
だが、この新装備ならば、ただバリアを張ればそれだけでそれが出来てしまう。
大多数の攻撃を無力化されてしまった事実は、AIにとってすらも回路がショートしてしまうほどに衝撃的である。
エネルギーの消費量に難はあろうが今ならば無視してしまえる。
何故ならば、ここにはあの女がいる。
「おおおぉぉぉッ!」
箒が隙をついて、福音へと斬り込む。
再び、あの赤黒いエネルギーを纏って刀を振るう。
右に、左に、左右を巧みに組み合わせて軌跡を描く刀に福音は押されてしまう。
福音は決して諦めない。
だが、もう見えてしまっている。
その優秀な頭脳故に見えなくても良いものが見えてしまっている。
敗北のビジョン。
打っている一手一手の先に敗北があり、その一手を変えたところで、枝分かれしたそのルートの先も敗北に過ぎない。
その修正を試みるが、もう遅い。
勝負を決めるべきだった。
箒が、一夏が、目覚める前に――。
箒と一夏の一閃が走った。
決着の一撃であった。