超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

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34話、もう一つの決着

 一夏と箒が福音と決着をつける少し前のこと。

 セシリアはエムと対峙していた。

 セシリアのISはブルーティアーズ、そして、エムはサイレントゼフィルス。

 どちらも同じイギリス製のISであるが入手の経路は違う。

 セシリアはイギリス政府から正式に入手しているが、エムは強奪している。

 セシリアはイギリスの代表候補生だ。

 イギリスは基本的に自らの失態を隠しているが、そういう理由でサイレントゼフィルスの経緯を知っている。

 祖国から盗まれたISを纏っているエムは、セシリアからしてみれば盗人だ。

 それも、盗んだそのISを使って、自身が習得していないフレキシブル、つまりはレーザーを曲げる機能を使いこなしている。

 人のものでいい気な顔をされてはたまらない。

 セシリアは真剣な顔でエムを睨む。

 逆にエムの反応は薄い。

 セシリアの持っている因縁もエムにしてみれば、取るに足りない要素に過ぎない。

 それよりも気になることがこの場にはあるのだ。

 

「……安城大晃!」

 

 あの男だ。

 二対一と圧倒的に不利な立場でありながら、エムをそれこそ片手間の対処で済ませた男だ。

 一度見下した人間に己の力が通用しなかった。

 大晃の名が不意に出てきたのは、それがどれほど大きな出来事だったかを雄弁に物語るものだった。

 渋い顔をするエム。

 それを見てセシリアはどこか納得のいったような顔をした。

 

「なるほど、わたくしの想像以上にひどい目に合ったようですわね」

「貴様に何が分かる!」

「ええ、分かりますとも。今まで負けたことが無かったのに、路傍の石に躓いた気分と言うのは最悪ですものね。

 わたくしもあの男に負けたから分かりますわよ」

「貴様と同じにされたくはないな。私はまだ負けてはいない!」

「いえ、同じですわよ。だって――」

 

 セシリアの口が三日月を描く。

 長いライフルの砲塔が、一瞬でエムを狙う。

 

「これから、このわたくしに負けるのですから」

 

 発砲音と同時に吐き出されるレーザーを避けるエム。

 セシリアはそのエムを追い掛けるようにライフルを操る。

 一発。

 二発。

 三発。

 発砲音が重ねられるごとに、増える発射弾数。

 それをエムは避けていく。

 何度か同じことを繰り返してセシリアの技量を測る。

 その判定の結果は、凡庸の二文字。

 それに尽きた。

 確かに、狙いは正確だ。

 弾を出すタイミングも悪くない。

 だが、それだけなのだ。

 所詮は単発式のライフルだ。

 火力はともかく、物量が圧倒的に足りない。

 射線にさえ気を付けていれば被弾はない。

 恐らく、普段ならばビットを使って物量を補っていたのだろう。

 高機動モードでビットを機動力強化のためのブースターとして使っている今はそれすら叶わない。

 

「避けるのがお上手ですのね」

 

 先ほどはエムを激昂させたセシリアの煽りももう通用しなかった。

 武装と技量の圧倒的な差を推し量った、エムは余裕を取り戻す。

 所詮、取るに足りない雌が一匹。

 ここで力の差を見せつけてくれる。

 エムに仄暗い感情が宿った。

 それに呼応してビットが再び動き始めた。

 六基のビットが複雑な軌道で動く。

 高機動モードのセシリアは包囲を何とか抜け出そうとする。

 しかし、それこそがエムの狙いであった。

 レーザーが唯一の逃げ道に向けて放たれる。

 セシリアはそれを避けるが――、

 

「むっ」

 

 そのいくつかが当たる。

 理由は簡単。

 フレキシブルによるレーザー軌道の操作。

 それにより避けたかに見えたレーザーが機体に直撃したのだ。

 ダメージは軽微。

 しかし、数が重なれば致命的になりかねない。

 セシリアは飛んだ。

 右へ、左へと。

 それを追うビットの動きを読んで巧妙に敵の射線から己の身体を晒さないように。

 フレキシブル。

 事前の射線を外れた軌道を描くことが可能なフレキシブルを相手にそれでは勝てない。

 レーザーが曲がり、そのいくつかがセシリアに当たる。

 レーザーが曲がる。

 それは射線から外れた敵すらも、射程に入れることが可能な、極めて有効な技術である。

 エムはそれを実感する。

 これに対処した大晃の勘が驚異的なだけだったのである。

 

「大口を叩いておいてその程度か……、もういい消えろ」

 

 セシリアへの関心がその言葉にはなかった。

 もはや、エムにとってセシリアはいないにも等しい。

 だから、だろう。

 セシリアが未だに笑みを浮かべていることに気が付かなかったのは。

 エムの操る六基のビット。

 それらが一斉にレーザーを射出するその直前だった。

 一機。

 たったの一機には過ぎないが、それが爆発したのである。

 

「なに!?」

 

 エムには何が起きたのか分からない。

 セシリアはビットを狙撃する気配を見せなかったのだ。

 ただ、ライフルをあらぬ方向に向けて軽く振った。

 そういう風にしか見えない。

 一体何が起こったのか?

 

「さあ、始めましょうか……」

 

 セシリアは悠然とそこに立っていた。

 エムはそれを見て感じ始めていた。

 何かが変わり始めている。

 違う。

 既にあった何かの気配にようやく気が付き始めたのだ。

 

「シュッ!」

 

 セシリアが鋭く呼気を吐いた。

 今までにないほどの前傾姿勢で前に跳んでいた。

 その先にいるのは一基のビット。

 先に手足となるビットを潰すのが狙い、とエムは読む。

 既に五基となったビットのこれ以上の消耗は避けたい。

 エムはビットからレーザーを放った。

 レーザーはセシリアへと向かう。

 セシリアはレーザーを避ける。

 しかし、その避けた先へとレーザーが――。

 だが、ここで大変なことが起こった。

 セシリアはさらに上体を逸らすことでレーザーを避けたのだ。

 しかも、その不安定な姿勢で、ライフルの照準をビットに合わせている。

 一点のブレもなくビットに追いすがるライフル。

 それは容易くビットを撃ち抜いた。

 ならば、と更にエムは畳みかける。

 残りのビットでレーザーを放ちダメージを与えるつもりだった。

 不安定な姿勢のセシリアが避けられるはずもない。

 だが、セシリアは避けた。

 逸らした上半身をさらに仰け反らせて、PICで作った足場を蹴る。

 スラスターの点火を合わせることで、それは後方宙返りの動作を描く。

 それでもエムは執拗に追う。

 ここで退いて余裕を与えればその分、セシリアを有利にする。

 エムは攻撃の手を緩めない。

 セシリアはそれらの攻撃を避け切った。

 フレキシブルを用いた四方からの攻撃を避け切ったセシリア。

 エムは気づき始めていた。

 このままでは勝てない、と。

 フレキシブルはその性質上、事前にレーザーの軌道を指定しなければならない。

 ほとんど光の速度で飛ぶレーザーを撃ってから、軌道を変えるなどとは人の反射神経では不可能だ。

 だから、撃つ直前、それも意識の引き金を引き始めて終わりまでの間に、相手を見て微調整しながら軌道を予測し修正する、繊細で迅速な作業が必要となるのだ。

 セシリアはエムの脳内にあるこの工程を意識しているようであった。

 相手が右に来るであろうから、左へと逃げる。

 やっているのはそんなようなことだ。

 コンマ何秒かの、複雑なじゃんけんの様なもの。

 そして、それは読み合いの発生を意味していた。

 

 ――これでは、同じではないか!

 

 安城大晃との対戦が思い出される。

 あのときは二対一で今は一対一と状況は違うが、それを除けば全く同じ事が起きている。

 さらに悪いことがある。

 セシリアはどうやら一瞬でも射線が合わされば、レーザーを当てることが出来るらしいのだ。

 最初にビットを襲った謎の爆発。

 あれはライフルの砲口とビットが重なる瞬間にセシリアが引き金を引いたことによって起こったのだった。

 何故、そんな曲芸じみた真似ができるのか。

 脳裏に浮かぶのはまたしても、あの男だ。

 大晃との模擬戦を繰り返して、あの超速を捉えるために身に着けた技術なのだろう。

 エムは気分が悪くなった。

 全ての悪いものが大晃に直結している。

 あの男と出会ってから自分の全てが否定されているようであった。

 そして、いつも強気で、傲慢ともいえるエムでさえ認めざるを得なかった。

 負けるかもしれないと――。

 

「さあ、闘いはこれからですわよ」

 

 セシリアは獰猛に笑った。

 

 

 

 セシリアは恍惚の中にいた。

 敵は祖国イギリスからISを強奪した、盗人だ。

 因縁は深い。

 しかし、それ以上に重要なのは、エムがBT偏光制御射撃(フレキシブル)を使えることだった。

 エムを捕まえる。

 それは当然として、他にも意図がある。

 セシリアはどう頑張ってもフレキシブルを習得できなかった。

 ビットと自らの挙動を並行して行い、ビットを素早く動かすことは可能。

 しかし、フレキシブルはどうにも習得が出来なかった。

 ここでエムと闘うこと。

 それはエムを観察して、フレキシブルを使う方法を学ぶことに繋がる。

 そんな思考もあった。

 始まったやり取りは読み合いにたどり着いた。

 エムがレーザーを放つ、その瞬間に思い描く軌道。

 それをどう避けるかを考えなくてはならない。

 フェイントを織り交ぜることで、敵に動きを読ませないことも重要だ。

 ともかく、考えることは多い。

 一つはっきりしているのは、セシリアが不利であることだ。

 基本、後手に回っているセシリアの方が要求される、思考のレベルが高くなる。

 セシリアの方が不利である、はずであった。

 だが、現実は――。

 圧倒とまでは行かない。

 しかし、セシリアはエムとほぼ互角に闘っている。

 装備の差を考えれば、セシリアが互角の闘いに持ち込んだと言えるだろう。

 セシリアは感じていた。

 己の力が増していることを。

 本来ならば、自分は相手にもされなかっただろう。

 それほどの実力差を覆している。

 闘い。

 大晃との闘いを通して、分厚くなった自分にとっての技量の概念。

 タッグトーナメントで磨かれた試合勘。

 そして、あの男を目指した研鑽。

 それら全てが己の肉と頭脳へと蓄積されているのである。

 闘いはそれを確かめる場に他ならなかった。

 この闘いもまた変わらないのだ。

 エムは確かに強い。

 しかし、セシリアに言わせてみれば、ひどく薄っぺらい。

 常に相手を見下し、それのみで勝ってきた故に、工夫が足りない。

 エムの機体とビットの操縦技術とフレキシブルは見事なものだ。

 セシリアも素直にそう思う。

 だが、いくら上手かろうが怖くはない。

 いくら薄い紙の上で自由自在に振る舞おうが、より高い次元で見れば己を害せないように。

 セシリアは今、戦場をより高い視点に置き、観察していた。

 

「糞!」

 

 エムは悪態をついた。

 目に見える要素では全てが勝っている。

 しかし、数字には現れない、地味な駆け引きで己は負けている。

 だが、分かっていてもどうにもならない。

 蓄積が容易ではなく、結局は感覚がものを言うからこそ数字には表れない差は、あまりにも大きかった。

 ビットを操り、敵を狙う刹那、目が合った。

 セシリア・オルコットと。

 背筋に怖気が走った。

 見られている。

 それは単にエムの表層を見ているのではない。

 エムがどう動いているのか。

 その奥にあるエムの心さえも見透かすような、セシリアの視線。

 それはきっと勘違いだ。

 いくらISの操作に習熟しようとも人の心など、読めるはずもない。

 それでも、尚――、セシリアに自分の心さえも見透かされているという疑惑を払しょくできない。

 現実にセシリアがビットの動きを読みこちらの攻撃を避けている。

 そういう読み合いの部分で優位に立たれているということが、この疑惑に妙な信憑性を与えている。

 感じるのだ。

 虚空に、目に見えない何かが自分を見ていることに。

 エムが意識すると、突如、それは現れた。

 虎だ。

 虚空に広がんばかりの巨体を揺らして、虎が見ている。

 その大きさはセシリアの意識領域の広さを表してもいるようで、100や200メートルを容易に超えるサイズは、セシリアの力量そのものだ。

 目が合う。

 セシリアの目と虎の目が重なり合った。

 エムは決意する。

 こいつはこの手で殺さなければ、と。

 その決意は冷たい。

 想定外の連続で沸騰寸前までに熱くなっていたエムは、冷たい石のような決意のお陰で落ち着きを取り戻した。

 ともかく、闘いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 エムは実力で勝つことを諦めていた。

 ビットを操作し、セシリアの動きに追従し、追いつき仕留める。

 だが、それは不可能だった。

 いくら追いかけようとも追いつけず、逆に逃げる相手に隙を突かれる始末だ。

 この場合、追いかけるのをやめることだ。

 セシリアの装備で今、役に立つのはライフル位のものだ。

 どれほど苛烈に攻撃を仕掛けてこようが、物量は限られている。

 強引につっかけることも考えた。

 ビットで敵の退路を封じ、近距離で敵を翻弄する。

 それは良い方法に思える。

 しかし、セシリアのブルーティアーズは高機動モードだ。

 それに引き換えサイレントゼフィルスは通常稼働モード。

 速力に優れた次世代型自立兵器搭載型の機体とて、速力を重視したブルーティアーズよりかは遅い。

 読み合いで優位に立っているセシリアを追い詰めるのは難しいだろう。

 ならば、方法はもう一つしかない。

 回避に徹するのだ。

 そうすれば被弾を抑えることが可能だろう。

 消極的かつ情けない作戦であることは否定できない。

 表面的な技量では上に立つエムにとってこれは屈辱的なことだ。

 だが、それでも――。

 この女を殺せるのならば――。

 瞬間、エムの身体が横へとスライドする。

 レーザーを横目に見てエムは行動を開始する。

 散発的な射撃。

 それは正確で、いやらしい位置に飛んでくる。

 もしも、攻撃の手を緩めていなければ、ここで喰らっていたことだろう。

 右に、左に、前後に距離を調節することで、回避を繰り替えしていく。

 そして、異変が起こる。

 あからさまなエムの態度故に見抜いたのであろう。

 セシリアは動きを止めたのだ。

 

「では、遠慮なく休ませていただきますわよ」

 

 エムは渋い顔をした。

 攻撃の手は確かに緩めている。

 しかし、手抜かりはないはずだった。

 途切れることのない弾幕は生半可ではない。

 それでもなおセシリアは言ってのけたのだ。

 温い、と。

 疲弊狙いの策を見抜いてきた上で、この台詞。

 エムは無視した。

 ここで攻撃を激化させる。

 胸の内にある感情を消化するには効果的だろう。

 だが、回避への意識が薄れれば攻撃を受けることになる。

 そうなれば血が上ってしまい、冷静な判断は不可能となってしまう。

 見え見えの挑発の言葉。

 これに乗る必要などない。

 回避を強いられている時点でセシリアは疲労への道へと突き進んでいくはずだ。

 

「乗るかよ」

 

 そう判断して、エムは動く。

 四基のビットという優位を生かして四方から攻撃を与え続ける。

 決して休ませない。

 それでいて、自分は一発の弾丸も受けないように。

 セシリアはやはり一か所には留まっていられない。

 四方からの射線を察知して、回避行動へと移る。

 ビットの位置と向きから、割り出したルートの上を。

 時間にして一分ほど。

 エムは訝しむ。

 弾が全く当たらない。

 それどころか、セシリアには疲労の陰すら見えない。

 涼しい顔で、全ての弾を避けていく。

 しかも、である。

 徐々に、その動きが最小化されていくのである。

 繰り返すたびに動きの無駄が無くなってきている。

 

「まさか――」

 

 見切られているのか。

 それも回避の省力化を可能にするレベルで。

 エムの身体に奔る驚愕の強張り。

 それをセシリアははっきりと捉える。

 

「お馬鹿さん」

 

 爆散したのは、エムではない。

 エムの操るビットの内の一基が、セシリアに撃墜されたのだ。

 セシリアはエムを再び見た。

 その目はやはり獣のそれだ。

 

「お……お前はなんだ? 何故、そんな芸当が――」

 

 エムには分からない。

 単純なスペック上での不利を覆していくセシリアは、ただの代表候補生には見えない。

 一体、何がこの女にそこまでの力を与えたのか、とそんな疑問が口を継いで出る。

 

「あの男のせいですわ」

 

 弾丸が飛び交う戦場だというのに、軽やかに舞うセシリア。

 だからこそ悠長に構えることも許される。

 過去に思いを馳せる。

 全てはあの男に叩き込まれたものだ。

 勝ちたかった。

 底の知れない大晃に。

 模擬戦は何度もやった。

 試行錯誤を繰り返し、一戦一戦を闘った。

 一度も勝ててはいない。

 敗北を何度も繰り返している。

 しかし、その度に何かを掴んできた。

 思い出してみれば、あの男以外にも結構負けている。

 鈴と組んで闘った、山田真耶、そして、箒とラウラのペア。

 だが、負けは悪いものではない。

 それが次につながるものでさえあれば。

 

「あなたは何のために闘っていますの?」

「なに?」

 

 セシリアは感じている。

 今、この闘いすらも己は血肉へと変えていることに。

 エムのフレキシブルに対応する中で磨かれている。

 タッグトーナメントの準決勝で負けた無念とそれからも続けていた研鑽。

 それらが、闘いという名の水を経て一気に花開こうとしている。

 もはや、力は肉の隅々に行き渡るどころではない。

 セシリアの肌に面した部分から空間を侵食し、飲み込んでいく。

 虚空の虎に、つまりセシリアの意識領域に力が注がれているのだ。

 

「わたくしは勝ちたかった、あの男に。ここまで、わたくしは負け続けてきましたわ。

 でも、わたくしは諦めきれないのです。いつか、この負けを次に繋げさえすればあの男に届くのではないか、と」

 

 何故、こんな話をするのか。

 エムは飲み込めない。

 セシリアからしてみれば自分は盗人であるはずなのに、その言葉にはある種の慈悲に近い響きがある。

 それがエムを困惑させている。

 

「あなたは負ける」

 

 セシリアから出た言葉は屈辱的なものなはずなのに、気にならない。

 すとん、と胸の中に入り込んでくる。

 エムのあらゆる感情を押しのけて、納得が鎮座している。

 それほどに重く、そして、優しい言葉だった。

 

「わたくしは強くなりましたから」

 

 セシリアから一条の光が奔る。

 見当違いの方向へと向かうはずだった光は、途中でその軌道を鋭角に変える。

 エムがその先にいた。

 胸に突き刺さるレーザーにエムは顔をしかめた。

 

「だから、諦めなければいつか届くかもしれませんわよ。あなたの目指すべきものに」

 

 きっとセシリアなりのエールだったのだろう。

 目指すべきものはエムにもある。

 そういう人間が持つ特有の雰囲気を察知したのか。

 大晃を目指している自分自身をエムの中へと見たのだ。

 そして、セシリアの攻撃が最大にまで達する。

 ライフルの引き金を引き絞りレーザーを吐き出し続ける。

 レーザーは彼方へと消えては行かない。

 光は複雑な幾何学模様を描いて、エムへと殺到する。

 

「おやすみなさい」

 

 そして、それらは一斉にエムとエムの操るビットへと殺到するのだった。

 

 

 

 大晃とオータムが向き合っている。

 共に機体へのダメージがありながらその表情ははっきりと分かれていた。

 大晃は朗らかに笑い、オータムは苦しそうに呻いている。

 

「へへへ、まだまだこれからだよなぁ」

「無茶言うなよ。この糞ガキめが」

 

 オータムの装備するアラクネはもうボロボロだった。

 八つあった装甲脚は全てが破壊されている。

 なんとか形だけは保っているが、一発の打撃で砕け散ってしまうだろう。

 PICはまだ生きているが、大晃を相手に翻弄できる気はしない。

 

「そんなことはないぜぇ。あんた前より動きがずっと良くなっている。

 あのときは本調子じゃなかったってことかい。まあ、本気で闘ってもらえて何よりだよ」

「……本当に何なんだよお前は」

 

 友達に話しかけるような気軽さで、軽口を叩いてくる大晃にうんざりする。

 反応するのも億劫で、口から出た声は思ったよりも小さい。

 確かに、動きは良くなっていたかもしれない。

 前回は侮っていたことと前情報の少なさが災いして、不覚を取った。

 今回は準備を整えて、ある程度のイメージトレーニング等を積んで挑んだ。

 しかし、だ。

 IS学園で襲ったとき大晃は生身だったのだ。

 ISを纏っている大晃を相手にした場合、その戦力の増加分を考えれば瞬殺もあり得た。

 二対一ならともかく一対一で闘いがなんとか成立しているのには、理由がある。

 

「なるほど、今の俺には足場が無いからな。あのときよりは読みやすいってわけだ」

 

 会話に乗ってくれないオータムの代わりに大晃は言った。

 思案の末に出た言葉は全くその通りで、今の大晃には足場がない。

 狭くて頑丈な部屋では床や四隅の壁、天井などが足場としての機能を果たしてくれた。

 足場があれば、例え上下が逆転していようが強烈な一撃をお見舞いできる。

 なにより、自由自在に跳び跳ねて先を読ませない動きは大きな利点だ。

 PICを足場にする術を未だに習得していない宙空での動きは、陸上でのそれとは比べ物にならないほど単純だろう。

 代わりにPICによる回転でそれを補ってはいるが、やはり地上での動きよりは読みやすい。

 

「じゃあ、頑張りなよ。まだまだ、チャンスはあるぜ」

「ふざけるなよ」

「いいじゃないか。どうせ、もう逃げられねぇんだ。

 俺をここでぶっ殺せばどうにかなるだろう?」

 

 読みやすい、だから、勝てる、とは言えない。

 一対一でやり合うには大晃は強すぎる。

 力だけではなく機転もきく大晃が相手では生半可な策は突破される。

 勝ち目はない。

 しかし、逃げる方法も思いつかない。

 オータムは仕方なしに言葉をつなげる。

 せめて時間だけでも稼ぎたかった。

 

「あらあら、まだ終わっていませんでしたの? のろまですわね」

「エム!?」

 

 現れたのはセシリア・オルコットだった。

 オータムが叫んだのはセシリアに力なく拘束されている少女の名。

 今しがた負けたエムは意識を失いセシリアに抱きかかえられている。

 当てにしていた戦力が消えたことで状況はさらに悪くなった。

 

「お前さんの手際が良いだけさ」

「わたくしの能力を認めて頂けるのは嬉しいですが、ご自身の不手際をそれで誤魔化せるとは思わないことですわね」

 

 二人の会話をしり目にオータムは考える。

 本当に絶望的な状況だった。

 それこそ、外部からの手が無ければ離脱が不可能なほどに。

 そして、オータムは見た。

 光輝く火球を――。

 

「むっ!」

 

 大晃の後ろに迫る火球。

 距離があっても届く熱。

 当たればISでさえも燃やし尽くせるという確信が大晃の背に届く。

 セシリアは回避を選択し、エムを抱きかかえたまま飛んだ。

 この火球の主に心当たりがあるオータムは咄嗟に、火球の飛んできた方向へと動いた。

 そして、大晃は――。

 

「ふふん」

 

 その場を堅持する。

 一か所に留まる力がそのまま大晃へと溜まっていくかのように、大晃が鳴動する。

 無造作に腕を上げる。

 厚い装甲の内にある、筋肉の収縮とそこから生まれるであろう力に空間が共鳴し。

 力が空間に伝搬したかのように、大気が震えた。

 

「羅ァッ!」

 

 迫りくる火球へと腕を振り下ろす。

 渾身の力を込めて振りぬかれた腕の軌跡には名刀の輝きがあった。

 それこそ空間すらも断ち切るほどの鋭い一撃が火球を斬った。

 空間の切断面へと吸い込まれるように、火球が消えてゆく。

 その中心に立つのは安城大晃。

 仁王立ちで火球の主と対面する。

 

「あなたが安城大晃……、こうして会うのは初めてね」

 

 その女は金髪であった。

 金色に輝いている髪を揺らして宙に立っている。

 纏っているISもまた金色に輝いている。

 

「亡国機業のスコールよ」

 

 そう言ってスコールは妖艶に笑って見せた。

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