超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

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43話、さらなる乱入、そして裏切り

 セシリアと鈴は二機の無人機を前にしても、背中合わせに構えたりなどしなかった。

 それぞれが、それぞれの相手を見定めつつも、二人の間には距離がある。

 この程度の相手ならば、二人掛かりでやる必要もない。

 無人機から溢れでる威圧感ですらも二人にとってはさらりと受け流せる程度でしかない。

 

「さてと……さっさと片付けて、救援にでも行きましょうか」

「そうね、私も早く一夏と合流したい」

「あら、お熱いですわね。片思いですのに――」

「うるさいわ、余計なことを言わないで。それに一夏に会いたいのも、私が無事だってことを伝えるためよ。

 一夏の顔を見たいからじゃない」

 

 会話に思考を割きつつも、敵への意識を途切らせてはいなかった。

 二人のふざけた態度ゆえか、無機質であるはずなのにどこか苛立ちが見え隠れするように、攻撃を開始する無人機たち。

 二機は近接の距離へと間合いを詰めて腕を振り下ろした。

 ISも展開せず、身体の線がはっきりとするインナーを着ているだけの二人は、即時対応する。

 彼女らは光に包まれそのシルエットを急速に変えてISを纏って姿で出現する。

 二人はそれぞれの相手に相対した。

 セシリアはビットを展開し周囲に張り巡らせつつも、己の懐に一基のビットを配置する。

 振り下ろされる腕がセシリアに到達する、その遥か以前にその行動は完了される。

 それが意味することは一つだった。

 

「さあ、踊りなさい」

「!?」

 

 ビットが一斉に火を噴く。

 セシリアの懐から無人機を遠ざけるように、そして、周囲から串刺しにするように。

 腹に当たった光が無人機を吹き飛ばし、腕に衝撃を与えた光は殴打の軌道を変え、他のあらゆる一切全ての光は無人機を刺し貫く。

 セシリアの技量は本人ですらも驚くほど上昇している。

 以前ならば考えられなかったほどの闘い方をセシリアにもたらしている。

 ピットのレーザー。

 一言で表されるその言葉の中に、セシリアは今いくつかの意味を見出していた。

 拡散させて放てば、それは掌で物を押すような性質が強くなる。

 反対に、一点に収束させれば、それは鋭く尖った針が物を刺し貫くような性質が強くなる。

 簡単に言えば、拡散レーザーと収束レーザーの二つが存在する。

 目覚めたきっかけは弾道を自在に曲げる『フレキシブル』の体得だろう。

 レーザーを曲げるためにはレーザーに自分の意思で干渉を行わなければいけない。

 では、レーザーの波長そのものに干渉を加えればこの拡散と収束を操れるのではないか?

 この疑問を経て、セシリアは自分の意思でこの二つを自在に切り替えることができるようになった。

 それだけではない。

 レーザーの性質をより深く知ることで、その特性を極限にまで高めることができるようになった。

 貫く性質を強化されたレーザーを受けて仕舞えば、無人機の装甲ですらも穴だらけになるのは必然。

 対応を迫られた無人機は球体を吐き出し、それが急速に円を描く。

 そこにシールドが張り巡らされた。

 レーザーのいくつかが吸い込まれ、弾道を曲げることで無人機へと到達したレーザーですらも当たらない。

 人では関節などの構造上の理由で不可能な動きで、無人機はレーザーの軌道から逃れる。

 機械の性質を生かした対応策。

 

「それも無駄ですわよ」

 

 しかし、それすらも無駄の一言で片付けられる。

 無人機が避けたはずの一度軌道が曲がったレーザーは明後日の方向には飛んで行かずに、再びその軌道を変えたのであった。

 当たるまで絶対に追跡をやめない軌道はセシリアの卓越した技能の証明だった。

 機械といえども無理な体勢が祟って無人機は回避できない。

 頭部に大きな穴を作ってしまう。

 

「あっけないですわね」

 

 それでも反撃を試みるが全てが出す前に潰されていく。

 無尽蔵に放たれるビットからの連射は一つ一つが強力で、それでいて正確。

 ピンポイントで武装を損壊させられて、取るべき手段が根こそぎ奪われていく。

 仰向けに倒れた無人機は無数の光に貫かれて、ただのガラクタへと変わりいく。

 それは獣の牙に突き立てられた獲物のようで、哀れみすらも覚えてしまう光景だった。

 

「馬鹿ね、あんた」

 

 そして、鈴もまた、相手を蹂躙する側の人間だった。

 双天月牙を振るって無人機を追い詰めた鈴。

 その纏っているISには若干の変化があった。

 肩で浮遊する衝撃砲はより攻撃的に尖っていて、腕部と脚部のアシストを兼ねた装甲はより逞しく、その手に持つ双天月牙は刃の厚みが増している。

 その性能の違いは以前ならば押し負けていたであろう、無人機を押している鈴の姿からも明らかだろう。

 事実、鈴の『甲龍』は瞬間的には無人機をも超える力を持っている。

 無人機はそれでも何とか、途中で鈴を押しとどめた。

 両腕を両足を存分に使って、周囲に球体を張り巡らせることでとっさの防御も可能な状態で、鈴と打ち合う。

 無人機の拳足と鈴の双天月牙が空中で交差する。

 二つが打ち付けられることで火花が生まれては消える。

 鈴の回転が始まる。

 この回転の最中、鈴は刃を搭載した駒のようなものであり、遠心力と双天月牙の重量を生かした斬撃は無人機ですらまともには受けたくない。

 だから、無人機はAIの下す命令のままに後ろへと下がった。

 チャージが完了しつつある掌の熱線砲を鈴へと向けながら。

 なぜ、無人機はチャージしきる前に掌の砲口を解放したのだろう。

 鈴と真っ向から打ち合うのは不可能で、これ以上は持たせきれないからだ。

 鋭い拳足の殴打と浮遊ユニットのシールド防御を起点とする近接戦闘では敗色濃厚。

 ならば、圧縮熱線砲で勝機を掴めば良い。

 例え、充填率六割程度でも勝負は決められる。

 そんなAIの思考が透けて見える。

 そして、AIの想像以上に鈴は手強い人間だった。

 

「その程度、怖くもなんともない」

 

 鈴には怖いものがいっぱいある。

 一夏の零落白夜には鳥肌が立まらない上に、日々の上達はそれに拍車をかけている。

 セシリアのビットの操縦技術はもはや手のつけようもなく、どうしようもなく強い。

 箒の篠ノ之流は近接型の鈴ですらも舌を巻くほどで、箒が専用機を手に入れてからは圧倒されてばかりだ。

 シャルロットは得意なことをさせてくれない嫌らしさがある上にやたら火力があるし、ラウラは掛け値無しに強い。

 そして、大晃は理不尽なほどに強くて、模擬戦で無敗だ。

 そういう相手たちに食らいついている鈴にとっては、この機械はなんら脅威ではなかった。

 鈴は無人機よりも早く、強化された衝撃砲をフルチャージしていた。

 圧縮熱線砲と衝撃砲が同時に火を噴く。

 威力は互角。

 違うのは術者の性能。

 鈴は全力の砲撃をかましながら、無人機との距離を詰めて、双天月牙を薙ぎ払わんとする。

 砲撃の中心地点へと切り込みを行う、勇気を超えた蛮行は功を奏す。

 砲撃の拮抗している地点に双天月牙は潜り込み、その向こう側にいる無人機の腕が熱線砲もろとも切り裂かれた。

 それに伴う誘爆が無人機のバリア発生装置を破壊。

 熱線は途切れて、障害が無くなった衝撃砲のフルチャージ弾が無人機を襲う。

 対抗する武器も己を守るための道具も失った無人機にもはや何の手もない。

 無人機が壁へと叩きつけられて起きた砂ぼこり。

 それが治ると、壁に開いた大穴と四肢を失い、錆びた鉄の塊同然となった無人機が露わとなった。

 

「あっけないもんね」

 

 鈴とセシリアはあっさりと勝利したのであった。

 

 

 

「シャルロット! お前は右をやれ! 私は左をやる!」

「うん! 分かった、ラウラ!」

 

 気合いたっぷりに声を掛け合う二人は息が合っていた。

 非常時だからこそ迅速な行動が必要で、二人の行動に無駄はない。

 この掛け合いもそうだ。

 シャルロットは一瞬の判断に優れるが、それでも軍人ではない。

 ラウラに比べれば非常時の切り替え速度は劣る。

 そして、ラウラはそれを知っていて、だからこそ的確に指示を与える。

 激励の意味も込めて。

 その激励はしっかりとシャルロットに伝わり、シャルロットは感謝を込めて返事を返す。

 短い言葉からお互いのことを察する、二人の息が合わないはずがない。

 ラウラが腕を交差させてAICを発動する。

 二条の帯が二機へと迫る。

 無人機は避ける。

 しかし、それで終わりではない。

 右の無人機にはシャルロットからバズーカとグレネードの洗礼が、左の無人機には即座に貼り直されたAIC結界と徹甲弾が。

 それぞれに襲いかかる。

 左の無人機は加速し、爆発から逃れた。

 少々巻き込まれつつも、シャルロットへと迫る。

 シャルロットが遠距離の武器を手に持っていることから、近接戦闘有利という判断をしたのだろう。

 爆薬庫のようなシャルロット相手に近距離戦を選ぶのは正解とも言えた。

 しかし、シャルロットは敵の正解すらも不正解へと変えてしまう。

 ごりっと何かを押し付けられる感覚があった。

 人であれば不吉さを感じ取れるそれを腹に感じる。

 シャルロットはいつの間にか武装を切り替えていた。

 無人機が前に出てきた瞬間、その更に懐に潜り込み、その杭を打ち付けていた。

 

「GYAAAッ!」

 

 バンカーバスター。

 杭が無人機の中に勢いよく突き刺さり、穴を開けた。

 内部の配線がのぞき込めるほどに大きな穴だった。

 

「ごめんね」

 

 シャルロットは笑って、無人機から距離を取る。

 程よく距離を取った次の瞬間だった。

 逃げるシャルロットへと攻撃を仕掛けようとした無人機は腹から爆散した。

 限界以上に膨らんで破裂した風船のようであった。

 シャルロットは無人機に開けた穴へとグレネードを放り込んでいたのである。

 無人機は跡形もなく消し飛んでいた。

 

「終わったな」

 

 右の無人機をほぼ同時に片付けたラウラ。

 その背後にはスクラップとなった無人機が転がっている。

 AICを集中させられた無人機はあえなく捕らえられて、徹甲弾で穴だらけにされたのである。

 

「呆気ないもんだな」

「本当にね、呆気ない。否、『呆気なさすぎる』」

 

 無人機に対するイメージ。

 それは伝聞によって形成されていた。

 一夏は言っていた。

 速度と火力を両立しているから気をつけろと。

 鈴は言っていた。

 一対一ならばともかく二対一であれば連携で撃破が可能だと。

 箒とセシリアはこうも言っていた。

 所詮は機械仕掛けの相手だと。

 箒とセシリアの意見は別として、一夏と鈴の意見を参考に無人機の戦力を想定していた。

 前回襲ってきた無人機に、更なる改良を重ねているのであろう今回。

 推定と実際に闘ったときの印象の違いはあまりにも大きく、二人は頭を捻ったのだった。

 

 

 

 そして、この二人が持った違和感を、この二人も感じていた。

 

「なんか、呆気ないな」

 

 一夏は手を頭に当てている。

 その顔に浮かんでいるのは困惑という表情であった。

 

「ああ、こんなものだったか?」

 

 箒は残心を取りながら、もう動くはずもない無人機を見た。

 かつて感じていた無人機の性能。

 散々、箒はこき下ろしていたが、だからといっても歯ごたえがなさすぎる、と警戒を解かない。

 認識のズレがなぜ生じているのか分からない。

 そこが不可解であった。

 

「なるほどねぇ……」

 

 逆に楯無は現状に対して、ある程度、理解しようとしていた。

 現在、一夏と箒、ひいては専用機持ち達が感じている違和感は力量差を正確に計測できていないことが原因である。

 敵の力量を測りかねているのも一つの要因ではある。

 しかし、それ以上に自分たちの力を過小に評価していることが違和感の元であった。

 専用機とは貴重なものだ。

 一学年に二つもあれば多い、と言われる。

 そんな状況下で五台以上も専用機がある今年は異常なのであった。

 それだけに一年生の競争は激しい。

 繰り返される模擬戦の中で専用機持ちは成長したのであった。

 楯無は程よく距離があるからこそ、それに気がついた。

 そして、そのただでさえ激しくなるはずの競争を激化させた男がいた。

 大晃の存在の影響は凄まじいものがあるだろう。

 公式戦で一度負けてはいるものの、それは二対一。

 一対一形式の模擬戦では未だ負けなしだ。

 そんな男がいるのだから、競争は激しくなる。

 より、一撃の威力を上げなければならなかった。

 頑丈な上に、被弾を滅多にしない男だったからだ。

 より、技巧を凝らさなければならなかった。

 そうしなければ、男に攻撃が当たらないからだ。

 大晃に勝つためにはあらゆる方法で強くなる必要があった。

 人は環境に適合する生き物だ。

 同じ人間でも育つ環境によって全く違う人間へと育っていく。

 良くも悪くも環境に左右される部分は大きいし、環境の影響を排除などできない。

 ただ、そこにいて、自分の力を誇示する。

 それだけのことで周りが成長するのなら、もはやそれは環境だ。

 過酷な環境が生物を進化させるのと同じように、大晃という環境が周囲を成長させる。

 だから、今年の一年生は、特に大晃という環境に慣れきった専用機持ちは頼もしいのだろう。

 

「もしかしたら、私は……」

 

 楯無は思う。

 多少なりとも大晃の影響を知っていたからこそ、簪を大晃に任せたのだ。

 簪に強さを獲得して欲しかったのだ。

 簪が姉である自分に負い目を感じないだけの強さを。

 

「!? そう……、まだ打ち止めじゃ無いってわけね」

 

 再び鳴り響いた轟音で楯無の意識が現実へと戻る。

 ビットを打ち破ってやってきたのは無人機が三機……、そして、楯無にとっては初めて目にする金髪の女性。

 

「あら、外れかしら」

「あなたは……!?」

「私の名前はスコールよ。悪いわね、あなたに用はないの……さようなら」

 

 極上のスタイルを持ったスコールと名乗る美女。

 目的はここには無いのか、楯無を無視する。

 楯無を遠目にピットの出口へと向かうスコール。

 ここでスコールは己の目を疑った。

 後、もう少しまけると思っていた楯無が進行方向を防ぐ形で出現したからだ。

 

「あなたに無くとも、私はあなたに用がある!」

「あら、どういう手品かしら」

「あなたも知っているはずでしょう。『ミステリアス・レイディ』は水を操る!」

「あそこに突っ立ているあなたは、幻影だったわけ」

「そういうこと!」

 

 楯無がランスを叩きつけ、スコールは腕部の装甲でそれを受ける。

 

「楯無先輩! こいつらは俺たちに任せてください!」

「ピットの外に無人機共を誘導します!」

「二人とも任せたわよ!」

 

 一夏と箒は攻撃をたくみに仕掛けて三機を誘導。

 ピットからアリーナへと移動していった。

 

「私相手に一対一なんて、あなたは相性の差を理解していない」

「む!」

 

 楯無が引いた。

 その理由はスコールの腕部を見れば分かる。

 赤く輝いていたのだ。

 熱が生まれ、それが装甲を赤熱化させていたのだ。

 もし、鍔迫り合いを続けていれば、楯無はその熱からダメージを受けていたかもしれなかった。

 

「あなたの水は、私の熱を突破できない! 大人しく降参した方が身の為よ」

 

 水を操る『ミステリアス・レイディ』と、熱を操る『ゴールデン・ドーン』。

 楯無に熱を突破する手段がない以上、手詰まりといっても良い。

 

「理解していないのはスコール、あなたの方よ」

「へぇ」

「勝てないから降参するのが賢いのは相手に分別がある場合だけ。

 あなたの目的を私は知っている。あなたが誰を傷つけようとしているのか私は知っている。

 ……ちょっと頭に来ることもあるけど、生徒を守るのは生徒会長の仕事なのよ」

 

 スコールの目的が大晃にある。

 それを楯無は知っていた。

 であれば、大晃の負担を少しでも軽くしてやらねばならなかった。

 この騒動の焦点は大晃であるからだ。

 

「じゃあ、死になさい」

 

 スコールから放たれる赤い熱と殺意。

 楯無はそれに立ち向かっていった。

 

 

 

 ピットからアリーナへと飛び立った、一夏と箒。

 追いすがって来る無人機三機を警戒しつつ、他への注意を怠ってはいなかった。

 周囲に乱入の影がないことを確認して、迎え撃とうとする。

 そんなときにもう一つ、黒い影が現れた。

 全身黒づくめの、騎士を思わせる機体。

 その顔に一夏は見覚えがあった。

 

「お前は、エム!」

「む、織斑一夏と篠ノ之箒か……、ちょうど良い、まずは貴様らから血祭りに上げてやるか」

 

 顔色一つ変えず物騒なことを呟いて、エムはビットを展開する。

 一夏は、しかし、エムに集中できない。

 無人機が三機もいる。

 どちらかに気を取られれば命取りである。

 自身の姉の幼い頃とよく似たエムと闘って、事情を聞き出したい思いもある。

 個人的にはエムと闘いたいが、しかし、無人機を相手にしないわけにはいかない。

 一夏は迷った。

 そんな一夏を見た箒が言った。

 

「しょうがない奴だ。その千冬さんによく似た奴とやりたいならそう言えばいいのに……」

「箒……」

「お前はエムとやれ。無人機の二機や三機など、似たようなものだ。

 行け! 遠慮するな!」

「……おう!」

 

 箒は無人機、一夏はエムへと飛び立つ。

 

「ほう、織斑一夏。逃げないのか……」

「誰が逃げるもんか! お前には訊きたいこともある!」

 

 一夏の振るう雪片弐型をエムは大剣で迎え撃つ。

 二つの剣が宙でぶつかり合い、白と黒のエネルギーが交差する。

 

「力づくでも聞きだしてやるぞ! 千冬姉との関係を!」

「……下らん」

 

 エムは、一夏の気合を一言で切り捨てる。

 その下には残忍な思考があった。

 

「私が私であるために、そして、織斑千冬を引きずり出すために。

 それらのための贄になって貰うぞ! 織斑一夏!」

 

 『黒騎士』の力に身を任せたエムは紛れも無い強敵だろう。

 そのエムに一夏は立ち向かう。

 日々の鍛錬を信じて。

 

 

 

 

 

 更なる乱入とそれによる混乱。

 IS学園の教員は、今、それに対処していた。

 

「生徒たちの避難はどうなっている!」

「順調です! 保護区域への非難は完了、防衛の布陣も敷いてあります!」

 

 現在、学園の防衛指揮を取っているのは千冬だった。

 『ブリュンヒルデ』としての実績と過去にドイツで軍の教導をしていた実績をIS学園が買ったのだ。

 そして、その千冬の方針はこうだった。

 更なる侵入者の排除と非戦闘員の保護。

 教員として闘う力のないものを優先せざるを得ない。

 そうなると自然と最前線に立っている生徒達に回る手が遅れてしまう。

 そこに己の無力さと苛立ちを滲ませつつも、千冬にできることは少ない。

 

「アリーナの様子は?」

「不明です。アリーナ全体を包むシールドに阻まれているせいで、中の様子は分かりません。

 通信機器での呼びかけを何度も試みていますが、今のところは成功はしていません」

「分かった。シールドの除去は後どれぐらいで完了する?」

「三十分はかかるとーー」

「とにかく急がせろ! 完全に除去できなくとも、通常火器で破れる程度に弱めさえすれば良い!

 頃合いを見て強引にでも突入させろ! 山田先生もすぐに合流してくれ!」

「了解!」

 

 山田真耶が自身のISを取りに格納庫へと向かう。

 

「どうか無事でいてくれ……、そして」

 

 全ての指示を終えて、千冬は管制塔でため息をついた。

 後は前線で闘うものたち次第。

 いくら千冬が力を持とうとも、生身ではISでの戦場に立つことはできない。

 

「任せたぞ、安城」 

 

 苦い顔で呟く。

 死んでも死なないと自らが評した男。

 千冬の口から出たのはそんな男の名前だった。

 

 

 

 

 

「何言ってるんスか……」

 

 アリーナに存在する複数のピット。

 ここでもまた修羅場が展開されていた。

 

「い……意味が、分かんないっスよ」

 

 黒髪を一本の三つ編みにした少女が困惑している。

 その理由は無人機が現れたことにはない。

 ただ、少女が向かい合っている金髪の女子。

 背は高い。

 少女にとっては信頼している相棒であり、面倒見の良い先輩でもあり、そしてそれ以上のものであり。

 だからこそ、戸惑っていた。

 

「IS学園を裏切ろうぜ」

 

 この言葉に込められた意味は大きい。

 この騒動が起きた途端に裏切りを促す。

 金髪の女子がこの襲撃を企てた者と何らかの関係を持っていることは明らか。

 そして、もう一つ。

 わざわざ裏切りを勧めてくる相手が少女を本気で好いていることだった。

 

「ついてこい、フォルテ」

「どうして……」

「一緒にこの腐った世の中を壊してやろうぜ」

 

 フォルテには理解のできないが、一つだけ分かった。

 それはここで選ばなければいけないことだ。

 フォルテについていくか、ここでIS学園側につくか。

 フォルテは目眩がして倒れかかる。

 それを金髪の女子が肩を掴んで支える。

 

「先輩……!? う、ん……ぷはぁ」

 

 女子の顔が近づいてきて、唇を奪われた。

 舌が口の中を這いずり回り、呼吸が苦しくなる。

 恋人との別れを思わせる、やけに情熱なキスにフォルテの目に涙が浮かんだ。

 フォルテは振り払った。

 

「そうか……、それならそれでいい、結構楽しかったぜ」

 

 金髪の女子、レインが用はないとピットを出て行く。

 フォルテはその背をただ見送るばかりだ。

 無言でフォルテは俯く。

 IS学園を裏切ることも、レインと敵対することも、フォルテは選べないでいた。

 フォルテは未だに迷っていた。

 

 

 

 

 

 再び現れた襲撃者。

 大晃と簪、二人の前にも敵が迫っていた。

 

「GIYAAAAAAッ!」

「ひっ!?」

「ほう、これはこれは……」

 

 明らかに無人機と同系統の相手であったが、その姿は大きく違う。

 太い腕。

 太い脚。

 太い胴体。

 大晃を見下ろす巨躯。

 特別製であろう無人機の出現に、簪は息を呑み、大晃は犬歯を見せて笑う。

 

『やあやあ、だいちゃん君!』

「この声は……、束さんですか」

『ひっさしぶりだね~~』

 

 無人機の内部から音が響いた。

 束が無人機を通してこちらの様子を見ているらしかった。

 

「それで、なんなんですか? このデカブツは?」

『ふっふ~~ん。聞いて驚け! なんとこの束さん直々に作った特別製の機体だよ』

「へぇ」

『目的はただ一つ! だいちゃんの抹殺だよ~~』

「ほう!」

『だいちゃん、闘うか逃げるかは君の自由だけど、そしたらいっぱい人が死んじゃうかもね~~』

「……」

『どうする? だいちゃん?』

 

 大晃が俯き、表情が影となって見えなくなる。

 周囲を漂う空気が大晃へと流れ、濃淡の違いからか歪みらしきものが見える。

 空間の歪みがベールのように大晃を覆い、そして、ひと際白く輝く三日月が現れた。

 大晃のキレイな歯列が開けられた口から覗いていた。

 

「束さん……、気を遣ってもらったのは嬉しいのですが、俺にはそんなのは必要ないんですよ」

『は? 気を遣う? 私が?』

「ええ。わざわざ俺の為にそんな特別なものを用意してくれる上に俺に闘う理由をくれるなんて。

 本当に俺は嬉しく思っていますよ」

『……』

「でも、俺には必要が無いんですよ。特に闘う理由なんてのは」

 

 そう、大晃には束の脅し文句など必要のないものだった。

 ただ、敵を用意してくれるだけで十分だったのだ。

 何故なら、大晃は――。

 

「こんなにも、楽しいのだから」

『ッ!?』

 

 カメラ越しに伝わったであろう大晃の歓喜に束が息を呑む声が聞こえる。

 大晃がゆっくりと無人機へと歩を進めていく。

 

『そっか、その傷んだ身体でどこまでやれるのか。見せてもらおっかな』

 

 不吉な言葉がゴングとなった。

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