超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

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44話、分岐点

「さあ、やろうか」

 

 大晃が腕を軽くあげる。

 己の体躯を上回る無人機を相手に力比べを提案する、ある種の蛮行。

 先ほども無人機を一機、腕力で圧倒している現実がある以上、見た目で強弱を測ることはできない。

 それにしてもそれはあまりにも無茶な行為であるように思えた。

 今までの無人機とは何かが違う。

 見る者全てにそう思わせるほどの圧倒的な何かを無人機は放っていた。

 

「SYAAAAAA……」

 

 大晃の蛮行をあざ笑うためか、どうかは分からない。

 先ほどまで猛っていた巨躯を誇る無人機は、打って変わって静かに、しかし、闘志を漲らせてそれに応えた。

 無人機が差し出された掌をしっかりと握った。

 

「ほほう! これはこれは……」

「GYYY……」

 

 力と力の比べ合い。

 腕に力を込めて、単純に押し合うだけの動作。

 しかし、それも極まれば一定の技術が必要となってくる。

 例えば、脚。

 大地へと踏ん張り、足裏から受け取った力を、膝、腰、背中を通して腕へと通せばそれは尋常でない力となる。

 大晃の強靭な足腰に、ISのアシストも加わればその力はもはや計測不能となる。

 その大晃の力が無人機へと向かう。

 無人機がそれを受け止め、返す。

 その力の差が、実感とともに明らかになる。

 結果。

 大晃の力をもってしても、ほぼ互角。

 否。

 わずかに無人機の方が上であった。

 

「ぬぅ……」

「GYSYAAA」

 

 少しずつ、状況が傾き始める。

 無人機の方へと流れが引き込まれて行く。

 徐々に大晃は押され、そして。

 背が壁へと着くほどに壁際へと追い詰められた。

 

「へへへ、凄いでしょ~~。束さん特製の『キングゴーレム』は」

「キングゴーレム!?」

「そう、それがこの子の名前。だいちゃんを越えるためだけに不要な機能の全てをオミットした特別製」

 

 キングゴーレム。

 全てのパーツが太く、それら全てが強靭な関節で結びついた、近接戦闘専門の無人機。

 束の言葉が本当であれば、その認識で間違いはないはずだった。

 大晃と同等の膂力を得るためには、複雑な機構の全てを除く必要があった。

 

「GYAAAAAAッ!」

 

 キングゴーレムが力尽くで押す。

 大晃の身体が壁へとめり込み、バランスを崩す。

 力の拮抗もまた崩れ、その隙にキングゴーレムは脚を振り上げた。

 脚が前へと伸びゆき、足の裏が大晃の顔面を打ち抜く。

 

「ぐッ!?」

 

 大晃の身体が壁に穴を空けて、さらにその奥へと飛んで行く。

 一つ、二つ、三つ。

 いくつかの部屋をぶち破り、その度に衝撃を受ける。

 四つ目の部屋の壁に叩きつけられて、ようやく、大晃の身体が止まった。

 ゆっくりと重力に従い、大晃の身体が俯けで床へと倒れた。

 

「GRURURUUU……」

 

 キングゴーレムは大晃を見下ろし、前進する。

 ぐったりとして動かない様を見ても、決着を認めてはいないようで。

 大晃を言葉通り『抹殺』するまで止まらないだろうことは目に見えていた。

 

「やめてッ!」

「NU?」

 

 だからこそ、誰かが立ち上がらねばいけない。

 大晃が瀕死で倒れている。

 そう判断した簪は、自分の行動を素早く決めた。

 簪は大晃の存在を未だに測りかねている。

 粗野な獣のようでいて、弱きを助けるヒーローのようでもある。

 どちらの性質もきっと大晃の本質そのもので、ヒーローと言い切れない部分に煮え切らない思いもある。

 だが、大晃が自分を助けてくれたこと、自分の無事を願っていることもまた事実だ。

 

 ――だから、今度は私が安城君を助ける。

 

 簪の意思が形となり、ISへと力が行き渡る。

 打鉄弐式を纏い、薙刀を構え、簪は怯えつつも立ちはだかった。

 

「嬉しいねぇ……、でも俺のためにそこまでする必要はないよ」

 

 キングゴーレムと簪の二人が退治したその直後。

 高濃度の空気が大晃から放たれた。

 戦闘への欲求の高まりが、脳を揺さぶり、肉体を活性化させる。

 その活性化した肉体が生み出す熱。

 それが空間を侵食するように発散されているのだ。

 

「安城君!?」

 

 簪が叫ぶ。

 無事だったのかという問いをするまでなく、大晃がいつもと何も変わりないのだ、と簪は感じる。

 うつ伏せになって倒れているために見えない顔に、愛嬌のある笑みが浮かんでいるのが何故か分かったからだ。

 

「喝ッ!」

「GYAッ!?」

 

 それは爆発だった。

 破裂する火薬と同等以上の速度と加速度で大晃は跳び上がり、その全身の捻りが効いた拳がキングゴーレムへとめり込む。

 反応のできないキングゴーレムは吹き飛んだ。

 大晃が空けた穴を通り抜け、無事だった壁へと新品の穴を空けて、キングゴーレムは飛んでいく。

 

「……安城君」

 

 簪は息を呑む。

 大晃の顔面が血で赤く染まっていたからだ。

 

「大丈夫なの?」

「ああ、だからお前さんは俺のために闘わなくても良い。誰か他の奴を助けてやってくれ」

 

 普段と変わらぬ様子で言った大晃が、しかし、簪は心配だった。

 何か不吉なものが、大晃の奥の奥にいるように思えてならかった。

 派手に吹き飛びこそしたものの、キングゴーレムはまだ健在だろう。

 相手は強敵だからこそ、今のうちに二人がかりで倒しておくべきではないか、という戦略上の理由もある。

 

「でも、そしたら安城君は死ぬかもしれないんだよ。それでいいの?」

 

 どこか不吉さを抱える大晃がキングゴーレムに勝てる保証はない。

 負ければ死ぬだろう。

 キングゴーレムの所作はそう思わせるには十分すぎた。

 大晃は簪の言葉に薄く笑う。

 己の内に巣食う何かを受け止めているかのように。

 

「女の子を守るために死ぬ、か……。それはそれで悪くない死に方だな」

 

 その大晃の顔に刺した、憂いを帯びた影。

 死ぬ可能性を否定せず、むしろ肯定しつつも、大晃の口調からは絶対に意思を曲げない強さが宿っている。

 大晃は全てを分かった上で一人で闘おうとしている。

 

「心配することはない。俺には奥の手がある」

 

 その言葉が本当か嘘か、簪には分からない。

 

「生徒会長はああ見えて、結構責任感のあるお人だ。きっと、無理をしているに違いない」

 

 勝算を語り、気がかりを告げる。

 その姿は大晃自身ではどうにも出来ない何かを託そうとしているかのようで――。

 

「だから、お前さんが助けてやってくれ。多分、巨大な熱源のある所に楯無さんはいるはずだから」

「……分かった」

 

 簪に断る選択肢など無かった。

 背を向けて、部屋の外へと加速する。

 画面に表示される情報を整理しながら、感知した熱源へと向かって行った。

 そして、大晃以外は誰もいなくなった部屋に。

 巨体を揺らして、キングゴーレムが戻ってきた。

 

「へえ、元気なんだな」

 

 大晃が拳を握った。

 そこから、血が出ている。

 先ほどの強烈な一撃で、逆に己の拳に傷もついたようだった。

 

「ここからが正念場か……、『リミッター解除』!」

「UGYYYY」

 

 大晃の全身を覆う装甲に赤い筋が広がっていく。

 胸の中心から広がり、腰から足、肩から腕、と全身を循環する血液を彷彿とさせる模様を浮かび上がらせる。

 

「あまりゆっくりもしてられないんでな。俺の生死は別として、お前さんを手っ取り早く確実にやれる方法でやらせてもらうよ」

 

 発揮できる力が増えれば増えるほど反動は増えるだろう。

 すでに反動で拳に傷をつけた状態でどこまでやれるか、通常なら躊躇を覚えるこの状況。

 しかし、己の身体に掛かる負担など、無視して大晃は構えた。

 

 

 

 

 

 アリーナで白と黒の軌跡が交差していた。

 白の白式を駆る一夏は目に決意を込めて、黒の黒騎士を操るエムは瞳に憎悪を込めて、激突する。

 

「お前は一体なんなんだ!」

「それは私に勝ってから聞くべきことだろう!」

 

 一夏は困惑していた。

 何度も、何度も、剣戟を交差する。

 その中で分かったことがある。

 エムはあまりにも千冬に似ていた。

 あまりにも、似すぎていた。

 そして、浮かべる表情は真逆だ。

 こちらを侮蔑し、見下すその視線は千冬にはないものであり、だからこそ、違和感が大きい。

 千冬そっくりでありながら千冬ではない、そのギャップが一夏の困惑の元だった。

 

「させない!」

「甘い!」

 

 剣と刀が打ち鳴らされる戦場にて。

 ディープパープルの大剣を振りながら、エムは器用なことにランサービットを操り一夏へと差し向けた。

 ささくれだった歪な槍。

 それが一夏へと向けて飛んできた。

 剣戟の隙間にねじり込んできたランサービットを一夏は捌く。

 エムの大剣と同時のタイミングで飛んできたそれを同時に捌くセンスは並ではない。

 しかし、それすらもエムにとっては布石にすぎない。

 もう一つのランサービットと共に一夏へと迫る。

 

「甘いのはそっちだ!」

「!?」

 

 一夏も負けてはいない。

 大剣の斬撃とランサービットの刺突。

 一夏は更にエムの懐に潜り込むことで、大剣とランサービットをすり抜けて、雪片を振る。

 エムがとっさにランサービットの軌道を変えることで、雪片の刃が逸らされる。

 それでも一夏は至近距離で喰らいつく。

 

「まだだ!」

「ふん!」

 

 二人の剣戟が加速する。

 エムは大剣とランサービット二基による擬似的な三刀流。

 ISのアシストで軽々と振ってはいるものの、どうしても大振りになりがちな大剣の隙。

 それを比較的取り回しが効くランサービットで補うエムの立ち回り。

 その立ち回りに隙はなく、一夏は不利な状況に立たされている。

 もし、勝とうとするのならば方法は一つ。

 戦闘をひたすらに高速化させて相手を疲弊させ、隙を作らせて、そこを突く。

 一夏はそう考えたのだ。

 実際、一夏にできることはあまりにも少なかった。

 限られた武装は選択肢を削る。

 しかし、それ故に一夏に迷いはない。

 その迷いのない行動は確かにエムの体力をジリジリと削っていた。

 

「ぐぅ! しつこい!」

「生憎、それくらいしかやれることがねぇんだよ!」

 

 エムは憎悪を込めて、一夏を見た。

 一夏があまりにもうっとうしかった。

 エネルギーを纏う大剣で零落白夜を封じ込めて、ランサービットで突く。

 その戦法は一夏を圧倒していた。

 エム自身にも多少の疲労はあるが、一夏の方だってそれは同じこと。

 白式に至っては既に傷が目立ってきている。

 こちらが無傷であることを合わせて考えれば、すぐに決着が着くはずだった。

 だが、一夏の顔に絶望は見えない。

 力で圧倒してもなお不敵に笑う相手を見てエムは、しかし、笑みを浮かべる。

 この顔が恐怖で歪めてやることを、エムはもう決めていたからだ。

 断末魔の瞬間、一夏が浮かべるであろう苦悶の表情を想像するだけでもう堪らなかった。

 その時がくればそれはきっと心を醜く満たしてくれるだろう。

 

「死の間際、お前がどういう顔をするのかが、非常に楽しみだ……」

 

 エムの口が醜悪に歪んだ。

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……」

「頑張るわねぇ」

 

 スコールと対峙する楯無は一つのことを理解していた。

 『ゴールデン・ドーン』は熱を操るIS。

 自然とその間合いに入るということは、その熱に炙られることを意味する。

 近接主体のIS操縦者にとって天敵となりうる能力だった。

 スコールの目的は大晃であるが、大晃には飛び道具どころかナイフすらもない。

 大晃ならば素手でも熱の防御を突破するかもしれないが、確実に大きな怪我を負ってしまうだろう。

 大晃と闘わせるわけにはいかなかった。

 

「じゃあ、これはどうかしら? 『ソリッド・フレア』!」

「ッ!?」

 

 楯無は横へと跳ぶ。

 射線上の全てを蒸発させて火球が爆発し、それに巻き込まれないように楯無は動く。

 次々と飛ぶ熱火球がアリーナを揺るがし、部屋を崩壊させていく。

 当たればISであろうと致命傷になりかねない。

 

「喰らいなさいな!」

 

 楯無はランスに仕込んだガトリングで応戦。

 弾丸がスコールへと迫り、しかし、それは燃えるように赤い壁で遮られる。

 『ゴールデン・ドーン』は熱を操る。

 熱に形はなく、術者の意思により自在に展開することが可能。

 熱で弾丸を遮ることはスコールにとって容易い。

 そして、これでもまだスコールの行動は半分に過ぎなかった。

 

「……『カウンター・フレア』」

 

 一度放出した熱を更に操り火球として放つカウンター攻撃。

 『ミステリアス・レイディ』のガトリングを全て溶かしながら火球は直進する。

 

「『蒼流旋』!」

 

 止む終えず楯無は技を使う。

 水を放つランスを振り作り出した水流は、迫ってくる火球をいなして壁へと激突させる。

 壁がドロドロに溶けて穴が空いた。

 

「やるじゃないの」

「こっちにとってはありがたくないことだけどね」

 

 この結果は楯無の本意ではなかった。

 水中に含まれるナノマシンの数は有限。

 一度なくなれば回復はしない。

 それではダメだった。

 『ゴールデン・ドーン』の熱線を突き抜けるためには、無駄な消費を避けなければならない。

 

「何を狙っているのかは分からないけれども無駄よ。

 あなたでは『プロミネンス・コート』を破ることは出来ない」

 

 これまでの攻防の結果、楯無の『ミステリアス・レイディ』に防御を突破する手段はないとスコールは判断した。

 それは半分正しい。

 いくら水流をぶつけようが、それでは蒸発するばかりで水の刃はスコールには届かない。

 しかし、『ミステリアス・レイディ』には一つだけ手が残っている。

 もしも、ここが屋内でなければ使えない手だ。

 すでに布石は打ってある。

 空気中に散布された水分はもうかなりの量になっている。

 蒸し暑いと感じる程度に湿度が高くなっていた。

 それにスコールは気づけない。

 熱を操る『ゴールデン・ドーン』を纏うスコールにとって、体感温度の上昇など微々たるものに過ぎないからだ。

 熱火球を回避し続けて数十分。

 一秒が十倍以上に引き延ばされるほどに集中して機会を伺い続けて、ついにその時がやってくる。

 

「喰らいなさい! 『クリア・パッション』アンド『ミストルテインの槍』!」

 

 屋内を満たした水蒸気をアクア・ナノマシンで操り一斉に熱へと変換し爆破する『クリア・パッション』。

 防御用の表面装甲として全身を覆うアクア・ナノマシンを一点へと集中して対象を破壊する『ミストルテインの槍』。

 

「これは!?」

 

 掟破りの必殺技同時発動にスコールは狼狽える。

 『クリア・パッション』だけなら『プロミネンス・コート』を超えることはできない。

 『ミストルテインの槍』だけではエネルギーの流れから発動を察知される。

 二つを同時に発動することで、スコールの感知能力の妨害し、防御を突破する。

 それこそが楯無の策であった。

 アクア・ナノマシンが一斉に生み出した熱エネルギーがスコールの『プロミネンス・コート』に触れる。

 『プロミネンス・コート』は正しく熱のバリア。

 生み出されたエネルギーは最初の内は、その熱のバリアに阻まれる。

 しかし、一瞬で生み出される膨大な熱が波状的に攻めたてることで『プロミネンス・コート』が一部揺いだ。

 このままでは堕とされる。

 そう判断したスコールは纏う熱の量を増加させる。

 拮抗する熱と熱。

 生み出す熱の量においては現時点で互角の両者。

 であるのならば、少しでも有利を取ったものが押し切るのが道理。

 屋内という空間を利用して『アクア・ナノマシン』で己に優位な環境を作り上げた楯無が、スコールを焼き尽くそうと力を込める。

 全意識を集中させてスコールを討ち取らんとする。

 そして、それが仇となった。

 

「きゃぁ!?」

 

 あともう少しで攻めきれる。

 その瞬間、楯無を横合いから殴りつけるものがいた。

 炎を纏った機械の番犬が楯無へと特攻。

 防御の薄くなっていた楯無は番犬の攻撃を受けて壁へと叩きつけられる。

 

「危なかったな、おばさん」

 

 横合いから攻撃を仕掛けて来た謎の乱入者。

 それは楯無のよく知る人物であった。

 

「おばさんはやめなさい。でも、ありがとう助かったわ」

「あなたは、レイン!」

 

 レインがスコールとともに並び立つ。

 最悪の光景であった。

 スコールは必殺技の同時発動で中破程度のダメージを受けてこそいるものの、戦闘は可能。

 レインに至ってはダメージゼロの状態で。

 楯無にもスコールと同程度にダメージがある。

 さらに問題なのは、アクア・ナノマシンを消費した結果、碌な攻撃手段がないこと。

 ランスを水で纏って攻撃くらいは出来るだろうが、それだけでは突破は不可能。

 必殺技の二重発動が途中で妨げられたのが、あまりにも痛かった。

 

「くッ!」

「今のあなたはもう脅威ではない。大人しく退きなさい。用があるのは安城大晃だけ。

 運が良ければ今日は生き残れるわよ?」

「誰が……あなたの言うことなんか……ッ!」

「そう、残念ね。じゃあ――」

 

 これから起きることを想像してか、スコールの瞳が加虐の喜びで満たされた。

 

「可愛がってあげようかしら」

 

 

 

 

 

 同時刻。

 廊下をさまよい歩いている者がいた。

 フォルテだ。

 レインの裏切り宣言を聞いたフォルテは最悪の気分だった。

 IS学園の一員として止めないわけにはいかない。

 しかし、レインと敵対するのは嫌だ。

 何故ならレインは恋人であるからだ。

 だからといって、レインの裏切りに付いて行くのも何故か嫌だった。

 自分で自分が分からなくなっている。

 

「私はどうすればいいっスか……」

 

 ここが戦場であることはもう分かっている。

 ISを展開しているフォルテは自分自身の安全は確保しているが、どこか注意力が散漫だった。

 事前にISが警告を発していたはずなのに、爆音が鳴り響くまで、フォルテはそれらの存在に気づかなかった。

 

「え!? 何っスか!?」

「ちぃっ! 一夏の手前格好つけたが、やれやれ……、これは少し骨が折れるな」

 

 廊下の壁をぶち破ってきたのは箒であった。

 しかも、箒の開けた穴からやってくるのは三体の無人機、ゴーレムⅢ。

 アリーナにて三機のゴーレムⅢを引き受けた箒であったが、三対一は流石に難しい。

 三機の連携に翻弄されて、箒はアリーナの端へと吹き飛ばされた。

 その壁をぶち破った先に偶然フォルテがいた、というわけだ。

 

「ッ!? 危ないです! 下がっていてください!」

「あ、はいっス」

 

 加勢を願おうにもフォルテの陰鬱とした様子から、不可能と判断。

 箒はフォルテを下がらせて、フォルテもその指示に従った。

 フォルテは無人機自体にはなんら脅威は感じないが箒の剣幕に押されたのだ。

 先まで静かだった空間が、箒と無人機が入り乱れ、流れ弾も飛び交う混沌とした戦場へと早変わりする。

 世界はフォルテの先延ばしの思考をよそに先へと進み続ける。

 しかし、それでもフォルテは迷う。

 場違いだと分かっていても、悩まずにはいられなかった。

 

「もし、恋人だと思っている人が、裏切りを勧めてきたらどうするっス?」

 

 フォルテは誰へともなく呟いた。

 誰かに聞かせるつもりもない。

 ただ戦場の音に紛れて、溶けてゆくだけの言葉。

 だが、それは届いた。

 箒の耳がそれをしっかりと拾っていた。

 

「そういうのは腹が立ちます」

「え?」

「もしも、一夏がそういうことをして来たのなら、一発殴って千冬さんに突き出します」

 

 箒は瞬時に自分に置き換えて物事を考えた。

 外見上は分かりにくいが、普段、箒は一夏のことであれやこれやを考えている。

 妄想の瞬発力はそれなりにあったお陰か、その妄想は瞬時に箒の中で形となり、結論へと繋がった。

 

「でも、もしも、それが悩んだ末のものだったとしたら――」

「関係ありませんね。むしろ、悩みが深ければ深いほど怒りが湧いて来ます。

 何で、私に相談しなかったのか、と」

 

 戦意高揚していることが過激な意見に繋がっていることは否めない。

 しかし、もしも箒がフォルテの立場であったのなら、黙って付いて行くことはあり得ないだろう。

 最低でも一度、闘ってその真意を探ることにはなる。

 

「先輩の思いが本物なら、決着をつけに行くべきです。

 だから、早く行って下さい」

「でも――」

「確かに苦戦はしていますが、この程度はいつも舐めている苦渋に比べればずっと甘い。

 私の力は通用しているのだから」

 

 今の問答で箒はフォルテの事情に大体の当たりをつけて、それでもレインの元に向かわせようとする。

 フォルテがレインについて行くことなど箒は考えていない。

 好きな人の為になんでも出来る、という常套句がある。

 同時にこうとも言える。

 好きな人には絶対にして欲しくないこともある。

 どちらが正しいかではない。

 フォルテは、レインに裏切りをして欲しくはない、と思っているに違いない。

 箒はそう考えている。

 

「さあ、行って下さい!」

 

 箒は無人機三機に対して果敢に挑む。

 側から見れば無謀にも見えるその行動は、しかし、本人にとって勝算のあるもの。

 躊躇なくフォルテを促して――。

 

「分かったっスよ、その前に……」

 

 フォルテは勢いよく飛び出した。

 無人機一機に掌底を叩きつける。

 無人機は避けなかった。

 物理的な威力がほとんど無く、エネルギーを纏っている様子もない。

 しかし、予想外のことが起きた。

 無人機のむき出しになっていた関節部が動かなくなったのだ。

 四肢が凍りついたかのように固定されていた。

 

「これは……ッ!?」

「一応これでも先輩っスからね。まあ、これでだいぶ楽になるはずっス」

 

 スラスターで移動は可能だが、姿勢を変えられなくなったことで、無人機は大きなハンデを背負うことになるだろう。

 少なくとも三機の連携に穴ができる程度のハンデだ。

 箒ならばその隙を突くことが出来るだろう。

 

「ありがとう。お陰で自分が何をするべきなのか、分かった」

「どういたしまして」

「……本当に頼もしい後輩っスねぇ」

 

 フォルテは去って行く。

 箒は無人機を豪快に蹴飛ばしながら、フォルテを見送った。

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