ステップを踏みながら、セシリアは先ほどの言葉を反芻する。
ゲームを変えさせてもらう。
それはつまり大晃がセシリアをどう狙いどう攻撃するかというゲームから再びセシリアが大晃をどう狙いどう攻撃するかというゲームに変える。
そういう意味で間違いはなさそうだった。
しかし、大晃が動き出すのを待つつもりはなかった。
逆に攻め続ける。
大晃の周りを舞い続けて、レーザーを周囲から惜しみもなく放ち続ける。
それで勝てるはずであった。
無論、大晃も避け続ける。
しかし、限界はあるのだ。
現に今は被弾をいくつかしている。
大晃の近距離に位置しながら、突きや蹴りの間合いの外から攻撃を続ける。
移動をし続けて狙いを定めさせず、ビットの攻撃は自身の影を貫くことさえある。
その闘い方により、大晃の攻撃を受けずにより読みづらい攻撃をすることが可能になっているのである。
無意識に動かせるビットの単純な動きを組み合わせて有機的に動かすことがその核となっている。
その一点が闘いの構造を変えたと言っても過言ではなかった。
それまではセシリアに拳を叩きこむことよりも、大晃に射撃を当てることの方が難しかった。
大晃のフェイントと急加速、あるいは減速でセシリアの狙いを悉く外したのだ。
そして、大晃は狙いを外した瞬間に接近することも可能であった。
もしセシリアが確実に射撃を命中させようと思えば、自身を餌にするしかない。
そういうところまで追い詰められたのだ。
今は違う。
セシリアはビットを動かしていてもなおその意識を自身にさえ向けることができるようになった。
これによって苛烈な攻撃を加えながらでも、自身は機敏に移動することができる。
この状況だと大晃の能力を持ってしても射撃を避けるのは難しい上に攻撃を当てることも困難である。
つまり、セシリアが攻撃を与えるのも避けるのも当たり前のことで、逆に大晃が攻撃を与える為には何らかの工夫が必要である。
だが、手はもう一つあった。
闘いの構造を変えてしまえばいい。
大晃が攻撃を避けるのも攻撃を与えるのも当たり前にしてしまえばいい。
それを大晃は違うゲームと表現したのだった。
そこで浮かび上がるのは、安城大晃を見せてやる、という脳裏に走った言葉。
通信によるものではない。
大晃が口にしていないはずなのに聞こえてきた幻聴のようなもの。
声が響いた理由は分からない。
ただ、大晃が全てを出してやろうとしていることは分かる。
大晃の中にまだまだ出していないものがあって、それで状況をひっくり返そうとしているのだ。
あるいはそういうことを察したセシリアが脳内で勝手に作った幻聴であったかもしれない。
いずれにせよ、セシリアはこれから何かが起きることを確信していた。
今まで渾身の力を込めて突きを蹴りを放ってきた大晃は、一転して避け続ける。
弾丸を何発かは貰いながらも、ジグザグに跳び下降を続けていた。
セシリアも大晃を注視しながら近い距離で攻め続けていた。
何もやらせはしない、とその眼は言っていた。
その前に勝つ、と。
大晃が地面に降り立つ。
セシリアは流石に降り立つことはしないで、比較的低い高度から上空からレーザーを浴びせかけている。
地上に降り注がれる無数の射線はまさしく光の雨であった。
無数の星が地上に落ちているようにも見える。
こうやって攻め続けて――、
迅ッ!
セシリアは跳んだ。
弾丸のように飛び、壁に相対するように地上を向いた。
地上から距離を取り注意深く様子を探る。
ビットもまた高度を上げる。
セシリアの身体に奔る怖気がそれをさせた。
身体は敏感に感じていた。
このまま、地上の近くにいるのはまずいと。
一夏の最後がフラッシュバックする。
アリーナのシールドはセシリアたちを取り囲む天蓋のように広がっている。
それを足場として利用した正拳突き。
同じことをされればただでは済まないだろう。
ビットも同様に地上の近くに配置していたのでは、破壊される恐れがある。
セシリア自身もまたビットも距離を取る必要があったのだ。
状況は既に変わっていた。
あの地上に大晃が足を着けた瞬間から種目が変わってしまったのである。
そうセシリアは理解する。
あの瞬間からすべてが変わってしまったのだ、と。
大晃が自分の強みを本気で生かすとはどういうことか。
それは肉体を生かすことだ。
突きも蹴りもあるいは投げることも全ては大晃の肉体あってのことだ。
だがISの主戦場である宙空には大晃が全てを出すには足りないものがある。
足場だ。
通常PICで代用するが大晃はPICを足場として使うことができない。
その答えがこれであった。
敢えて大地に足を着ける。
今まで上下左右から喰らっていた射撃の出所が半分以下になる。
ビットもあまり地上に近づけてしまえば破壊される恐れがあるため、ある程度の距離は開ける必要がある。
つまり、斜め上や真上からの攻撃はあっても横方向からの攻撃は無い。
それに加えて大晃自身の動きにも大きな変化がある。
動きに淀みがなくなったのだ。
方向を変える際にわざわざ身体の向きを変える必要が無い。
地面を蹴ればいいからだ。
地上にいる状態の大晃に攻撃を命中させるのはかなり難しい。
しかし、大晃との間には距離がある。
例えフェイントを織り交ぜても地上から一直線に跳んでくれば迎撃できるだろう。
そこで一瞬でも動きが止まれば一斉射撃で仕留める。
どちらにとっても不利な形ではなかった。
お互いに相手の攻撃を避けるのが当たり前で、どう当てるのかが重要な状況。
打破するためにはどちらかがこの先工夫をするか、それを己の才覚で上回るかしなければならない。
その突破口をどちらが探り当てるか、そういうゲームに突入していた。
さあどうする、と大晃の声が頭に響く。
セシリアはこう返す。
こういうときは男が先に動くべきではありませんか、と。
そこでまた言葉が返ってくるからまた返してやる。
しかし、俺はこう見えても紳士なんだ。
何が言いたいのですか?
レディーファーストってことだよ。
貴方のような獣が人間の真似をしなくても宜しいですのよ。
ちぇッ! 上手く釣れないねぇ。
脳内で拡がる会話。
疲労した脳が、何らかの必要に迫られて聞かせているのか。
一つだけ分かることがあるのなら、お互いに先手を取るのを嫌がり、譲り合い、相手の手の内を見ようとしていることだけだ。
――じゃあ、俺から行かしてもらおうかッ!
弩ッ!
まさに砲丸。
それはセシリアを狙わない。
天蓋に向けて一直線で跳ぶ。
セシリアは動揺する。
まさか、天井さえも利用するとは思っていなかったからだ。
これは良くない。
地上とは反対に位置する天井にさえも意識を置かねばならないからだ。
どうだい? 迅いだろう。
そう思うのでしたら、わたくしに一直線に向かって来ればよろしいのではありませんか?
無茶を言ったらいけないよ。迅いとは言ったけどね、君なら十分に狙撃できるんじゃないかい?
さあ、気になるのでしたら試してみればいかがでしょうか?
怖いことを言うねぇ。
脳内で鳴り響く会話では動揺を表に出さずセシリアは大晃を狙い続ける。
天蓋を蹴ったPICをも利用した移動でまた地上に降り立とうとする大晃。
横から狙うのは無理だ。
しかし、軌道は単純。
ならば、どこに着地するのかは分かる。
そこにレーザーを降らせばどうなるのか。
おッ!? やるじゃないかッ!
レーザーの衝撃に身体を揺らしながら、大晃は大地を蹴る。
縦横無尽に駆ける。
大晃の声に呆れながらも注視する。
いつ跳び出してくるのかを見逃せばそれだけ不利になってしまうからだ。
ふと、大晃の姿が見えにくくなる。
視線を何かが遮っている。
土埃――大晃に荒らされた大地が、叫びを上げるように土埃を舞い上げている。
大地の悲鳴が大晃の姿を隠していく。
さあ、どうする。
簡単な話ですわ。あなたが仕掛けて来れば答えは分かりますから。
へへ、どうするかな。
豪、豪、鈍、鈍、と音が位置もタイミングも不規則に鳴る。
嫌がらせだ。
フェイントと言ってもいい。
音に注意を向けさせて、不意を打つ。
どこから出てくるのか分からない、いつ出てくるのかも分からない。
フェイント――?
そこでセシリアの中で疑惑が芽生える。
次に出てくる影が、大晃だとどうして言えるのだ?
大晃の腕力があれば、土の塊を飛ばすこともできるのではないのか?
土の塊を抜きだすのか造るのかは分からないが、土埃は大晃が何をしようとしているのかを隠すためであり、音は土塊を造る際の音を遮るためではないのか?
疑問がセシリアの中でグルグルと巡る。
答えは出ない。
だが、否定はできない。
何故なら、セシリア自身も一度そういうことをしたからだ。
ミサイルを飛ばしておきながらわざと攻撃とは別の手段に使っておいて、わざと攻めを緩くすることでそれをひた隠しにする。
ひょっとしたら大晃も似たようなことをやろうとしているのかもしれなかった。
だがそうでない可能性もある。
何ということなのでしょうか!?
セシリアは驚愕した。
闘いの構造がまた変化してしまったのだ。
どこから出てくるのか分からない上に、それが本物の大晃であるのかを見極めなければならない。
セシリアには不利な構造だ。
否、とかぶりを振る。
確かにゲームの内容は変わったが半分は自身のせいだ。
大晃が土塊を投げつけてくるかもしれない。
そんなことを考えなければもっと単純なゲームだった。
大晃が出てくる位置とタイミングを見極めるだけで良かった。
だが、それが悪いこととは思えない。
本当に偽物を投げてくるかもしれないからだ。
今、迷っているのは大晃が何をしてくるのか確信を持てない、それ以上に、大晃と土塊を見分けるには距離が足りないからだ。
ならば――、
豪ッ!
音と共に大地の悲鳴を切り裂く物体。
それを見た瞬間セシリアはより上空に飛んだ。
飛びながら、その物体を確認する。
土の塊であった。
それがセシリアの元いた位置を通り過ぎる。
もし、気づいていなければまんまと騙されて、大晃に接近されていただろう。
また、跳んできた。
それは土の色をした人影であった。
土塊だと判断しかけ、気づく。
土色の…人影?
違った。
土を全身くまなく塗りたくっているが、間違いなくそれは人であった。
ISのシールドが土を押し広げ、その下にある大晃の姿を露わにする。
それはセシリアが真意に気が付いたときへの備えであった。
「しゃあッ!」
セシリアが怪鳥の声を上げる。
もうセシリアは大晃を狙えない。
大晃とセシリアの軌道が交わる前にセシリアは自身の軌道をわずかにずらす。
それ位しかもうできない。
混乱していた。
無我夢中だった。
二人は天井に向けて飛ぶ。
すり鉢状の地面であるかのように天蓋に着地をし、観客たちはまるで重力に逆らっているかのように見える。
見上げる観客が見下ろしてくるようにも見える。
嫌だ、嫌だ、嫌だッ!
もう終わってしまうのか、と脳が悲鳴を上げる。
わたくしが負けるというのですか。
何か、何か、何かッ!手はッ!
セシリアは藁にもすがろうとする。
大晃にあと数発当てれば勝てるはずである。
勝つための思考が、意識を超えて奔っている。
ライフルはッ!?
構える時間などないッ!
ビットはッ!?
近くにッ!
でも、相手の方を向いていないッ!
向きなさいッ!
早くッ!早くッ!
思考が渦を巻く。
否。
もはや、思考ではなかった。
獣の欲求であった。
相手に牙をめり込ませ、喰いちぎり、咀嚼する一個の生物であった。
セシリアには獣としての資格があった。
だが、肝心の牙が大晃に届かない。
天蓋――、アリーナのシールド――、
セシリアの脳が鳴る。
わたくしの武器――、ビット……レーザー――?
一つ一つ単語が降ってくる。
独りでに動き、一つの形になっていく。
レーザー――、シールド――、シールドを足場に――?
些細な語句を重要に感じる。
シールドを利用――?
どうして、そんなことが起きるのだろう。
短い瞬きほどの時間に言葉が組み合わさり牙となる。
奇跡のような流れ。
それは闘いを見つめる眼差しがより高く位置に収まったからか。
あるいはそんな中で大晃と二転三転するやり取りをしたからだろうか。
これだけは言える。
今までの一つ一つが無駄ではなかったのだと。
無駄にはならなかったのだと――。
シールドを利用しての跳弾ッ!
ビットが光の弾を出した。
大晃に対してではなかった。
ビットが大晃の方を向いている間に拳が叩き込まれていただろう。
そうではなくアリーナのシールドに向けて放つ。
跳弾――。
光弾が奔る。
シールドを反射して大晃に向かう。
厄介なことに、その軌道は読むことはできない。
正確に狙いをつけたものではない。
セシリアはどうしても狙いをつける。
大晃が相手であれば肉体の部位レベルで狙いをつける。
正確であるからこそ避けやすくもある。
しかし、この跳弾はそうではない。
大晃のいる空間に向かうが、狙いは正確ではない。
大晃には当たりはするが狙いは正確ではない。
故に読めない。
そんな理想的な弾丸。
音がする。
甲高い金属音。
拉げる。
歪な機械音。
焦げる。
黒い煙が上がる。
おかしい。
無手がレーザーであそこまで破壊されることは無い。
ビット。
それを大晃が持っている。
ご丁寧に動けぬようにもレーザーを放てないようにも、素手で引きちぎるように破壊してある。
ビットを盾として利用したのか、と納得する間もなかった。
大晃の拳が目の前に――。
そこで止まる。
風景が変わる。
視界が身体を飛び出す。
目の前には大晃が居た。
笑ってセシリアを見ている。
どうだい、楽しかったかい?
問いを投げかけている。
セシリアが視線を廻りに向ける。
天地上下が逆転した状態で立っている。
横にはセシリア自身とそれに迫る大晃が居て、その状態で静止している。
大晃は楽しそうに拳を放とうとしている。
二人だけではない。
観客たちも、ビットに居る人たちも、あるいは無機物さえも静止している。
二人の魂だけが抜け出て、決着が着く一瞬前の時間に閉じ込められたかのような――。
疲労した脳が見せた幻覚かあるいはISのネットワークが偶然繋がってしまったから起きた現象なのかは知る由もない。
だが、理屈などどうでもよかった。
大晃とこうして向き合っている現実に勝るものは無い。
ええ、楽しかったですわ。
そう答える。
一つの闘いでこれほど多くの"ゲーム"をやったことは無かった。
その一つ一つのゲームで全てを出し切った。
大晃を追い詰めるために工夫をして、追い詰められないように手を打っていく。
やり残しは無い。
自分にできることのすべてをやったのだ。
それで負けたのならそれはもうどうしようもない。
そう思える。
充足感が肉の中に残っていた。
楽しかった。
自信を持ってそう言える。
ただ、出来れば――。
なんだい?
お父様とこうして話をしたかったなぁ、と。
父との間には本当に何もなかった。
母との間には本当にいろいろあった。
厳しくしつけられた。
今のセシリアの立ち振る舞いには母の教えが染みついている。
セシリアが生きている限り、自分自身の行いに母を感じることができる。
しかし、父との間にはなにも無い。
それがどうしようもなく寂しいのだ。
きっと幼い頃からそんなことを考えていたのであろう。
セシリアは目の前の肉体の二人を見る。
緩やかに景色は動きだしていた。
このまま動き続ければ肉体の方のセシリアに拳が直撃するだろう。
そこで自分の意識が途切れる。
その前に一つだけ話しておきたいことがあった。
あなた、新聞部の薫子さんのインタビューを受けているときに嘘をついていましたね。
ああ、俺が闘う動機か。
何が言いたかったのか、分かった気がします。
当ててみなよ。
人を思いっきり殴ったり蹴ったりしたかった、それをあえて言わなかったのですね。
当たり。流石に俺が素手だってことを闘う前にばらすつもりはなかったからね。
意外に慎重な方ですのね。
ただのサプライズだよ。
話ながら肉体の方を注視する。
拳はもう少しで当たる。
その拳の持ち主、大晃の肉体は何とも嬉しそうに笑っている。
この笑みを試合中に何度も見た。
今も嬉しそうにセシリアの肉体を殴ろうとしている。
拳が当たる。
肉体にリンクした痛みを感じる。
世界が崩れ落ちる。
風景が暗く歪んでいく。
その中でセシリアの精神は充足の笑みを浮かべながら、倒れたのだった。
一夏が廊下を歩いている。
闘いが終わりピットから出て、アリーナ、アリーナから寮へと向かっている最中である。
隣には箒がいる。
無言であった。
セシリアと大晃の決着が着くのを一夏は見ていた。
より正確に言うのなら、意識を失ってすぐにピットに運ばれてしばらくして目が覚めたのだ。
そこから闘いを見た。
それはまさしく異形の闘いであった。
セシリアの意志が獣に変じるのを感じた。
ビットの一つ一つが牙のように突き立てられるのを見た。
それを大晃は奇策で覆した。
なんと、大地に降り立ったのである。
空を飛ぶ。
その大前提を放棄したのだ。
自分の肉体を生かすことができればそんなものはいらない。
そう言っているように見えた。
正しく銃の弾丸のような動き。
それすらも対応されているのだと解ると、土埃を舞わせて姿を隠す。
挙句の果てには土塊に、自身に土を被る偽装。
もはや言葉も出ない。
「なあ、箒?」
「どうした、一夏」
「あの二人の闘いをどう思う?」
あれは本当にISでの闘いなのだろうか、そんな疑問を言外に含ませる。
「ISでの闘いだったとも、そうでなかったとも言える」
「もう少し分かりやすく教えてくれ」
「なら、そもそもあの二人にとって闘いとはどういうものかを説明した方がいいだろうな」
「頼む」
「まず、あの二人とって闘いとは構造の取り合いなんだ」
「構造の取り合い?」
「ああ。自分の長所を最大限に生かすことのできる有利な構造。自身が攻撃を与えるのが当たり前で、相手が攻撃を与える為には工夫が必要な構造。
その構造を作るために自らの持つ要素を出していくのがあの二人にとっての闘いだったのだ」
一夏には箒の言う言葉の意味が正確には分からない。
ただ、箒は少なからず自分を心配していたはずだ。
その闘いを目撃したのは崩れ落ちる自分を見てからのことのはずだ。
だというのに、闘いを見てそこまでのことを考えていた。
何という女だ――、一夏は箒の中に闘いの精神を見た気がした。
「それで?」
「ISとはあの二人にとっては闘いの大部分を占める要素の一つに過ぎなかったということだ」
「なにッ!?」
「ISだけではなく、セシリアにとっての射撃の腕も、大晃の体術も奴らにとっては要素に過ぎない。
奴らは全てを出し切り、脳細胞を絞り切り、一瞬一瞬の閃きに身を任せて、何もかもをも比べあったんだ」
後半は詩でも読み上げるかのようなリズムで箒は言った。
言葉を発しながら箒は興奮したらしい。
上気させて口を開いた。
「あれをISでの闘いだったと言ってしまえば、その言葉では汲み取ることのできない膨大な何かが残ってしまう。
かと言って、ISでの闘いではないといえば、それは嘘になってしまう……」
「なるほどな。すごいことをしていたんだな、あの二人は」
「少し意外だったな」
「意外?」
「一夏はもっと大晃を毛嫌いするのかと思っていたよ」
「もう、怒っていないさ、ほっとしているくらいだよ」
あの闘いの後、気絶したはずのセシリアはすぐに起きた。
そして、ふらふらと浮いて大晃の横に立って、腕を取って天に突き上げたのである。
それで観客は沸いた。
地鳴りのような声援であった。
一夏はこれをセシリアなりの気遣いだと解釈した。
闘いの序盤、あまりにも大晃は悪役に徹しすぎた。
闘いの終盤にはもうそんなことを覚えている人間も減っていたが、少なからず悪感情を持っていた人間もいたことだろう。
それはこの学園生活にとっては大きなマイナスになるはずだ。
そう考えたセシリアがとった行動だろうと一夏は考えた。
そうやって気を遣うような関係に二人はなっていたらしい。
それを友情と言うこともできるのだろう。
そういう姿を見せられれば文句があるはずもなかった。
ただ、不安はあった。
「俺はあそこまでゆけるかな」
「間違いなくゆける」
「それは俺が千冬姉の弟だからか?」
「それもある。が、それだけではない」
「何だよ、それは?」
「私が一夏に教えてやると言っているんだ。あの場所へのゆき方をな……」
そこに居る箒は幼馴染の箒ではなかった。
篠ノ之流剣術、その奥義を修めんと少女は日々修行に励んだ。
一家が離れ離れになっても、それを絶やさぬようにと修練を続ける日々は剣の腕、精神をはるか高みに押し上げた。
その箒が剣の先達として一夏に教えを授けてくれようとしている。
それはきっと他の人間ではできないことだ。
一夏は歓喜した。
「ああ、頼む」
そう言った、一夏の頭をズキリと痛みが走る。
ノイズとともに現れる灰色の記憶、薄暗い場所で自分を取り囲む男達。
白式の一次移行で見た光景。
それに何の意味があるのか、考えもしないで一夏は先を見つめる。
その光景に何の意味があるのか、一夏が悟るのはまだ当分先のことであった。