超重力格闘伝―IS―   作:泣き虫くん

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61話、臨界点

 山田真耶とアリーシャ・ジョセスターフ。

 かつて、千冬に敗れたままになっている二人は、決着を求めていた。

 しかし、それは難しかった。

 千冬には制約が多い。

 その特殊な立場からではない。

 むしろ、ワガママに振る舞える人間にとって、最初のブリュンヒルデという称号は活用できるものだったろう。

 だが、千冬はそうではなかった。

 千冬はワガママを押し通せる人間ではなかった。

 ISの競技者としての現役を引退したのはその最たる例だ。

 事情はあった。

 

 ――己の本性を突きつけられた運命の日。

 

 その日を境に自身が競技者として闘うことに恐怖を抱いた、という事情が。

 現役を続けようと思えば続けられた。

 続けたいという意思も少しはあった。

 結局、千冬は引退することになる。

 ワガママを許すことのできない、その性質ゆえにだ。

 現役ならば決着を付けるチャンスが試合という形で自然と舞い込んでもくる。

 しかし、引退してしまえばそのチャンスもなくなってしまう。

 だから、二人は手を組んだ。

 公の舞台で決着を付けるために、自分たちの人脈を生かして、試合を成立させるのだ。

 裏で手を取り合った二人は、その努力が実って、遂に試合の渡りをつけた。

 

 ――どちらが千冬と闘うのに相応しいのか?

 

 今はそれを巡って闘っている。

 元よりそういう契約であった。

 二人で協力しなければならない。

 試合で千冬と決着をつけられるのは一人。

 そういう場合、闘うのが最も理にかなっている。

 その闘いに一人、無関係にも見える男が紛れていた。

 安城大晃。

 つい最近まで自身のISと闘っていた男である。

 その決着を付けて死の淵から帰還してから、あまり日は経っていない。

 次から次へと闘いを求め続ける、周囲に闘いが起こってしまう稀有な男。

 この男にもまた、千冬と闘う権利があるかもしれなかった。

 千冬はほんの二、三ヶ月前に現役の復帰を宣言している。

 その原因が大晃であった。

 正確には大晃とISの闘いに起因するものだった。

 詳細は置いておく。

 大事なのは大晃の存在によって、千冬の現役復帰がスムーズに行われたことだ。

 いかにして現役として返り咲かせるかに頭を悩ませていたアリーシャたちにとって朗報である。

 そして、三人によるバトルロイヤルが始まっていた。

 千冬の目の前で――。

 

 

 

 闘いは未だ序盤。

 繰り広げられている攻防は、既に奥深いものになっていた。

 場所は、夜のアリーナだ。

 舞台の特性上、行動の範囲は半径五百メートル圏内となる。

 闘いの舞台としてはとんでもなく広い。

 しかし、最上級のIS操縦者が三人も集って闘うのにはこの数倍の広さは欲しい。

 いささか窮屈な舞台だ。

 いざとなればアリーナのバリアを破って行動半径を広げることは能力的には可能だが、後の事を考えれば絶対にあり得なかった。

 ここには見届け人として千冬がいる。

 もし、他の生徒に被害があるかもしれない行動を取れば千冬は黙っていないだろう。

 後に控える千冬との闘いも成立しなくなる。

 少なくとも、公衆の面前で真っ当に決着を付けるという欲望を叶えることは諦めなければならないはずだ。

 だから、彼らは狭い空間の中で闘っていることを余儀なくされていた。

 最も不利なのは真耶だと思われた。

 どちらかといえば遠距離系に属する真耶にとって、このアリーナは遠距離の特性を活かすには狭い。

 機動力に優れる、大晃とアリーシャの相手をするには、もっと距離が欲しいところだったろう。

 だが、真耶はその不利であろう要素を逆手に取った。

 突如、展開されたのはグレネードと大口径のマシンガン。

 爆発と弾幕の展開による広範囲攻撃の前に逃げ場はなかった。

 熱と鉄による暴力がアリーナの内を包み込む。

 残る二人は選択を迫られる。

 防御か回避か……。

 アリーシャの選択は防御であった。

 テンペスタのワンオフアビリティにより、風を纏う。

 それにより、飛来物の全てが風で弾き飛ばされた。

 大晃の選択は回避だった。

 いや、回避とは少し違っていた。

 大晃は高速で跳び回った。

 尋常ではない速度により攻撃のことごとくを切り裂き、その全てを無に帰した。

 攻撃に攻撃をぶつけて無効化する、という力技である。

 当然、そのまま敵の攻撃から逃れることに専念するはずもない。

 真耶の攻撃に乗じて、反撃を試みた。

 しかし、それは現在進行形で阻まれている。

 真耶は大晃の速度の緩むタイミングを見計らって軌道を狂わせて、アリーシャは大晃が迫る瞬間を狙いその軌道を逸らすように風を起こす。

 いずれも高速で動き回る大晃の動きを把握し、見極める能力がなくてはできない。

 三人の実力は現時点では互角。

 闘いは臨界点に達しようとしていた。

 だれが状況を変えるのか。

 

 ――風が舞う。

 

 それは強い強い風だった。

 アリーナを全て巻き込む規模の暴風雨だった。

 地中深くに根を張る大樹をなぎ倒し、岩盤を貫く杭を土台とする建築物すら倒壊させる。

 恐ろしい災害であった。

 ISは本来、宇宙探索用に開発された多目的用のパワードスーツである。

 現在、兵器としての側面が強いISであるが、並みの災害ではビクともしない。

 そんなISであっても防御姿勢を取らねばダメージは必至。

 しかも、風の中に色々なものを仕込まれていた。

 薬莢、地に落ちた、あるいは、まだ空中に滞空していた弾丸、グレネードの破片、爆破によって巻き上げられた土砂。

 それら全てが巻き上げられて、高速で飛び交っている。

 

 ――アリーシャ・ジョセスターフ。

 

 テンペスタ。

 そのワンオフアビリティによる風である。

 今まで防御に振っていたその力を、本格的に攻撃へと転化させていた。

 熱と鉄が作り出す地獄から自然災害すら凌駕する天変地異へと、アリーナの内部は一変していた。

 全てを巻き上げた風は、何もかもを等しく呑み込んでいく。

 真耶と大晃ですらも――。

 

 ――さあ、どうする二人とも?

 

 アリーシャは敵の対応を注視した。

 徐々にレベルの上がっていくやり取り。

 一つレベルを上げるごとに、能力の開示を要求してくる難しい盤面。

 アリーシャは確かに己の能力で有利なフィールドを築き上げた。

 だが、それも能力の開示という代償を払って得た有利である。

 未だに、手札は残してある。

 だが、それは向こうも同じだろう。

 一体、どれほどの手札を敵は残しているのか?

 残った手札の枚数は誰が一番持っているのか?

 その比べ合いのような闘いだった。

 手札を切るタイミングも重要だ。

 同じ手札を使い続けるという手もあるにはあるが、それではより上位の切り札には勝てない。

 最悪、切り札を抱えたまま落ちることもあり得るのだ。

 それを避けるためにはタイミングを見計らうしかない。

 いつ、どうやって、何のために、カードを切るのか。

 手札と場を見極め、己の能力を最大限に活かすことは困難を極める。

 そして、だからこそアリーシャは残る敵に注意と敬意を払っているのである。

 

 ――こいつら、まさか、ここまでやりやがるとは。

 

 今までのやり取りから分かったことがある。

 真耶と大晃。

 自分よりも幾分か若い二人はただの力自慢ではない、カードの切り方と場を読む力、その両方に秀でている、と。

 アリーナの中に逃げ場などない。

 突風は全てを破壊し尽くすだろう。

 だが、もし、二人が未だにカードを残していれば、そして、その最適な切り方をこの場に見出すのだとしたら、ここで終わることなどある筈もない。

 そして、アリーシャはそれを確信していた。

 なぜならばこの二人は自分と同類なのだから……。

 口の両端が歪に吊り上がる。

 細胞の一つ一つが生み出した感情のエネルギー。

 歓喜すらも、風へと注ぎ込まれる。

 

 ――さあ、来い! 

 

 アリーシャの無言の叫び、そして、込められた歓喜。

 それに呼応するかのように一人が動き出した。

 いや、もう既にそこに居た。

 

「はい、あなたのご希望通りに……」

「!?」

 

 いきなりだった。

 注視して居たはずの真耶が後方に現れて、首筋にナイフを突き立てて来たのだ。

 一体どうやったのか?

 それをアリーシャは一瞬で察した。

 風だ。

 吹き荒ぶ風に乗って、真耶はここまでやって来たのだ。

 真耶と自分との間を飛んでいる無数の礫も関係ない。

 飛び道具といってもそれらは風に流されているだけのもの。

 風の軌道乗ってさえしまえば、相対的に礫は減速する。

 そして、気取られぬほどの速さで接近したのだ。

 凄まじい殺気がアリーシャの身体を叩いている。

 突風の中でも際立った、冷たい殺気だった。

 その殺気の込もったナイフを受けるわけにはいかなかった。

 PICで地面を蹴った。

 真耶から距離を取ろうとした。

 しかし、間に合わなかった。

 痛み。

 それが首にあった。

 瞬間、アリーシャから胴体の感覚がなくなった。

 頭と胴体とが切り離されたかのような。

 首が神経ごと切断されたかのような。

 鳥肌が立つ感覚であった。

 

 ――負けるのか?

 

 首は人間の急所である。

 その急所に大きなダメージがあれば、自動的に絶対防御は発動する。

 絶対防御が発動したか否か?

 そこまで確認する余裕はなかった。

 無意識化ではその程度の確認はしているが、意識をそこまで割いている暇はない。

 アリーシャは自らの起こしている風へと意識を向けた。

 己の能力を発動するのと、爆発音が聞こえたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 突風は突如止んでいた。

 風のベールで隠されていた惨状が明らかになった。

 グラウンドには大きな凹凸があった。

 平らだったのに、全体に大きな起伏ができていて、高いところと低いところで十メートルの高低差はありそうだった。

 そこに三人が離れて立っている。

 全員が酷い有様であった。

 アリーシャは首筋に焦げ目を付けていた。

 真耶は腹の部分が露わになっていて、そこに赤く染まっている。

 大晃は灰と煤で汚している身体に切り傷と火傷の痕が無数にあった。

 何が起こったのか?

 真耶はナイフでアリーシャの首をかっ切った。

 刀身にエネルギーを纏うことで射程をわずかに伸ばし、距離を取ろうとしたアリーシャの首を凪いだのである。

 そして、アリーシャは風で己の分身を作り出して、真耶の腹に強烈なカウンターを入れた。

 この二人に関しては、これが真相だった。

 大晃の傷に関しても理由はあった。

 大晃は嵐を不動で迎え撃っていた。

 不動で風の巻き上げるあらゆる物を弾いて、攻撃のチャンスを伺っていたのである。

 滑らかな軌道で動くことが苦手な無手を扱う大晃にとっては、下手に動くよりもずっと良い手だった。

 誤算があるとするなら、そんな大晃に飛び道具を仕掛けてくるものがいたことだろう。

 犯人は真耶だった。

 グレネードを嵐の中に放り込んでいたのである。

 全てを迎え撃つ構えをしていたことが仇となった。

 風に流されてきたグレネードは真耶の計算通りの地点で爆発。

 その爆破に巻き込まれて大晃はダメージを負っていたのだ。

 

「飛び道具は使えないと思っていたんだけどなぁ」

 

 だが、大晃は軽口を叩く余裕があるようだった。

 ISを未だに展開している様子はない。

 ぞくり、とアリーシャの背中に戦慄が走っていた。

 

 ――まだ、切り札を切っていないのか!?

 

 アリーシャはさっきの攻防で分身を発動させていた。

 それは切り札の一部である。

 本当ならもう少し温存したかったが、真耶がそれを許さない。

 だから、自らの分身を作り出して、真耶の腹に一撃を加えたのである。

 その甲斐あってか、絶対防御は発動しなかった。

 どうにか肉体で受けられるギリギリのダメージで済ますことが出来たのだ。

 切り札の一部を使ったということでいえば、真耶だって同じだった。

 あのナイフは既成品ではない。

 特注品の武器は切り札の一つであると考えるのが妥当だ。

 だが、大晃は未だに装甲の展開すらしていない。

 複数のグレネードに巻き込まれてもなお、PICの使用以外は生身の状態で闘っている。

 新しくカードを切る気配が一向にない。

 それが不気味だった。

 同じ感想を抱いたのだろうか。

 真耶も硬い顔で大晃を見ている。

 不穏な空気。

 それが闘いの流れが変わったことを告げている。

 アリーシャは即座に動いていた。

 触れたものを切り刻む一陣の風が人型の分身となり、大晃へと襲いかかる。

 アリーシャは完全に照準を大晃へと絞っていた。

 人型の風は触れればそこが切れる。

 ISの装甲すらも容易に貫通する殺傷力。

 それをもってすれば、大晃に切り札を使わざるをえないだろう。

 そういう算段だった。

 五体を構成する風が複雑に渦巻き、突きと蹴りの動作が生まれる。

 秒間何発に及ぶのかを数えることすらできない連打が大晃を襲った。

 正に暴風雨のような連打だった。

 そのことごとくがいなされ、弾かれ、避けられ、有効打を与えられない。

 それでも、腕で弾けばその腕に、足で受ければその足に――。

 人型の暴風雨は生身の大晃に生傷を作っていく。

 それでも、大晃は一向に装甲を纏う気配を見せない。

 真耶もアリーシャの動きに乗じた。

 大口径のアサルトライフルを構えて、肉薄した。

 どうやら、遠間からちまちまと、という発想はないらしい。

 例え、遠距離用の武装を持っていようと果敢に攻める。

 それが、山田真耶だ。

 かつて鬼の山田と称された女の正体であった。

 大晃の周囲を右に左に動いて、休まず弾丸を浴びせる。

 弾丸を一つたりとも外さないように、気迫を込めて引き金を引き絞っている。

 ワンオフアビリティによる分身が一体。

 そして、近距離からの弾幕。

 およそ回避も、防御も不可能に思える布陣だった。

 

 ――みしり。

 

 大晃の動きが瞬間、止まっていた。

 弾雨と拳雨を避けるために半身となった刹那。

 大晃の肉体は硬直していた。

 そのとき、大晃の全身に発生して強張りは拳を放つ前に力を込める動作にも似ていて、見ているだけで空気が締め付けられる様が想像できるほどの力みは後の一撃の凄まじさの前兆であった。

 垂れ下がっている右腕。

 それが力みの基点であり、収束地点でもある。

 全力でスイングさせた。

 右腕を――。

 

 ――パァン。

 

 空気が叩かれていた。

 臨界点を超えた力は、周囲の空気を弾き、同心円状に衝撃波を発生させていた。

 分身と弾丸はその衝撃波によって、霧散し弾かれる。

 たった、一撃。

 それだけで大晃は全ての障害を撃破してしまった。

 ISの装甲すら展開せずに。

 これは大晃が新たなカードを切っていないことを意味するのか?

 それは違う。

 アリーシャが長年培ってきた勘が叫んでいた。

 大晃もまたカードを次々に切っているのだ、と。

 

「騙されませんよ……そんな派手なパフォーマンスではね」

 

 大晃はわざわざ印象付けている。

 装甲を展開しないことで、PICを除くISの機能を封印していることを。

 果たしてそうだろうか?

 確かにテンペスタに備わるあらゆるセンサーは大晃が能力を使用した痕跡を見出していない。

 それでも、この男に限ってはそうではないかもしれなかった。

 ファイナルシフト。

 最終移行。

 まだ、正式には名付けられていないが、現時点でそう言われる現象がある。

 全人類を襲った幻覚、幻聴の騒ぎがあったはずで、アリーシャも幻覚、幻聴の類を見ている。

 新聞やニュースは原因不明の怪奇現象として報じているが、どうやら大晃が体験した現象がその原因であるらしい。

 世界すらも巻き込む最適化。

 そういう前代未聞の体験をした大晃を通常の測りで見たところで分からないことはあるだろう。

 ISの機能もまたしかり。

 素でそこらのISをスクラップにする力は備わっているだろうが、痕跡を残さないで自身の身体能力を強化している可能性はある。

 そうでなくとも、より高いレベルで肉体を機能させる必要に迫られていることは明らかだった。

 身体機能をより高いレベルで使うというカード。

 大晃はそれをひた隠しにしているだけだ、と真耶は指摘しているのである。

 だとしても、ISの武装を一掃する腕力は脅威であったが。

 

「なるほどね、分かった。分かったよ」

 

 アリーシャはうわ言のように呟く。

 それは自分への問いのようで、問いかけるごとにその言葉は力強くなっていく。

 俯いていた顔を正面へと向けた。

 そこには決意を固めた女の顔があった。

 

 

 

 無風であった。

 風を操るテンペスタ。

 能力の特性上、かき乱された空気は流れ、いつしか風と呼ぶのに相応しい規模となる。

 暴風。

 それこそがテンペスタの特徴のはずだった。

 しかし、アリーナには風ひとつ吹いていなかった。

 能力によって四つの分身が生まれている。

 それは綺麗な輪郭をしていた。

 先ほどまで発生していた分身は形はともかく、表面は荒かった。

 分身と大気との境界線の濃さが部位によってまちまちだった。

 今、アリーシャが展開している分身にそのような荒さはない。

 頭も、首も、腕も、脚も、胴体も、全てが均一だった。

 望む形とぴったりと重なる形で風が渦巻いている。

 だから、分身よりも外に風が漏れることもない。

 だから、無風なのだ。

 

 ――キィィィン

 

 高周波のノイズは大気が削られる音である。

 分身を作り出す風は高速で動いている。

 外に風が漏れることはなくとも、境界線上で風と大気が触れ合う。

 大気と風が高速で擦れうことにより生まれる音は、大気が消える前の断末魔のようでもあった。

 触れた大気を呑み込む空洞であった。

 分身はアリーシャを中心に前後左右を囲んでいる。

 

 ――かかって来いよ

 

 アリーシャは無言だ。

 しかし、その行為は宣戦布告であった。

 こっちは切り札を切る。

 お前らはどうする?

 更に上位のカードを切るか、温存するか?

 どちらにしてもぶちのめしてやる。

 そう言っていた。

 

 

 

 四つ。

 有線接続された大質量の盾が一つ一つ備えているブースターにより推力を得て旋回し、真耶を取り囲んでいた。

 真耶自身は両手に大口径のマシンガンとライフルを持っている。

 後は変わりはない。

 ただ、盾を四つ展開しただけに過ぎない。

 直接的な攻撃力を持たないそれは、人によっては頼りないと感じることだろう。

 それはまやかしである。

 現に、真耶はそういう頼りなさを感じていない。

 展開した盾を愛おしそうに眺めている。

 盾で何かを防ぐという行為。

 盾で自分を守るという行為。

 そして、盾の持つ大質量。

 盾で何かを遮ることにより開ける活路がある。

 真耶は盾により多くの使い道を見出しているようだった。

 ぐるぐると回る盾は無骨に音を立てる。

 その度に盾は力を纏っていくようだった。

 

 

 

 大晃は両腕を僅かばかりあげた。

 掌はかぎ爪を立てている。

 空洞を握っているようだった。

 その肉は更に硬直し、更に膨らみ、かつてないほどに硬直している。

 血の巡りが激しくなっていた。

 大晃は膨張した風船が空気を吐きだすようにして言った。

 

「もうそろそろ、ですかね」

 

 大晃のその言葉にアリーシャと真耶は無言で肯定した。

 それぞれが少なくないダメージを負っていた。

 闘いのレベルが上がるにつれて求められる技術は加速度的に上昇する。

 同時にその技術が生み出す破壊力の上昇も加速度的だった。

 また、闘いのレベルが上がる。

 アリーシャは磨き上げられた真球の如き分身を四つ作り上げた。

 真耶は有線での遠隔操作が可能な盾を四つ展開した。

 大晃もまたより多くの力を肉体に込めた。

 にらみ合いは終わり、闘いがまた始まる。

 その時にここにいる誰かが、結果によっては全員が致命的なダメージを負っていることもあり得る。

 三人は同時に動き出していた。

 

 

 

 風が穿つ。

 盾が防ぐ。

 拳がめり込む。

 三人の攻防は全くの互角だった。

 分身は容赦なく残りの二人を襲っている。

 それを真耶は盾で防御し弾き、大晃は血が出るのも構わずに拳を分身にめり込ませた。

 真耶は真耶で防御しながら、銃を乱射しその逃げ場を防ぐように、鈍器として叩きつけるように盾を操作している。

 大晃は超速でアリーナの中を行き交い、アリーシャと真耶に拳を打ち付けている。

 アリーシャはそんな二人の攻撃を凌ぎながら、分身と己自身の肉体を操っている。

 目まぐるしい攻防だ。

 攻撃と防御が切れ目なく、淀みなく切り替わっている。

 攻撃をする。

 防御をする。

 その防御が実は攻撃の役目を果たしていたり、攻撃が防御として機能したりする。

 アリーシャ自身も分身とは別に風を生み、攻撃をする。

 大晃と交差して技のやり取りをする刹那。

 真耶にも注意を払わなければならない。

 分身で攻撃する。

 しかし、相手に防御される。

 その防御する間により、相手の攻撃の機会が失われ、こちらは命拾いする。

 そして、体制を崩した相手にもう一方の相手が飛びかかり、そして――。

 そういうことの繰り返しだった。

 気の遠くなるような繰り返しだった。

 何分のやり取りだったか。

 五分か、十分か。

 膨大な時間が圧縮された時間だった。

 三人に蓄積された疲労。

 積み重なったやり取り。

 それらの作用により、攻防に変化が生まれた。

 攻撃と防御のバランスが徐々に攻撃に傾いていた。

 隙を晒した者への攻撃。

 攻撃された者は防御して、攻撃へと繋げる。

 その防御はより最小限の物に変わっていく。

 アリーシャは大晃の拳をギリギリに引きつけてから迎撃を行う。

 盾を利用した跳弾と盾そのものの重量を生かした打撃も寸前に来るまで、弾いたりなどしない。

 真耶はアリーシャの分身による攻撃を盾で防ぐをやめた。

 盾で弾く、つまりはより難易度の高いパリィを操作した盾で行なっている。

 真耶は大晃の拳もまた同じようにパリィで弾いた。

 大晃も四肢による防御を全くしなくなっていた。

 多用するのは、急加速による回避と攻撃を両立したカウンターである。

 三人が三人とも己を守るための防御をしていなかった。

 より攻撃のチャンスを作るための防御。

 より防御の必要性を減じるための防御。

 時間当たりの攻撃の数が上昇していく。

 空間を埋め尽くす、分身と弾丸と盾と拳が、混沌と輝いていた。

 もはや、誰が攻撃をしていて、誰が防御をしているのか?

 どういう駆け引きが存在しているのか?

 外から見てもわからない。

 それでも分かることはあった。

 こんな綱渡りな闘いが長続きするはずはない。

 きっと、決着は近いのだ、と。

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