パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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タイトルを『パープルアイズ・人が作りし神』にしました。サイオンで紫の目になる設定は最初から考えていました。


狂気とボタン

「僕は九重八雲、世捨て人の様な者さ」

 

 

その人は、そう名乗った。

 

「九重家 雲さん?落語家さんですか?」

 

「九重 八雲だよ。 そんな亭号みたいに呼ばないで欲しいな…」

 

八雲さんは目に見えて肩を落とした。だってお坊さんには俗っぽくて見えないし…

何だかつかみどころが無い人だ。少なくとも、頭は捕まえられそうに無い…

 

ぶるる。

 

僕は不意に寒さを覚え震えた。僕はシャツを破られて、お腹がむき出しになっている。

ぐっちょり濡れた制服が冷たくなり始め、僕の体温を奪う。

どうして僕の制服は濡れているんだっけ…意識が九重さんに向かっていたから一瞬忘れてたけれど…

 

「そうだ…」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

八雲さんが首をひねる。七草生徒会長と同じで、どこか動作が漫画チックだ。

 

「ボタン、探さなきゃ」

 

「え?」

 

ずっと飄々としていた八雲さんの雰囲気がちょっとかわった。

これまでは本心を隠すためなのか演技っぽい感じだったんだけれど、本気でわからない、といった感じだ。

 

「さっき、制服破られたとき、ボタンがどこかに飛んじゃって…探さなきゃ」

 

僕は、赤く染まったコンクリート床を、べちゃべちゃと音をたてながらさまよい始める。

かつて人間だった肉の塊や一部があちこちに散らばっている。

邪魔だな…

僕は四つんばいになって、まだ暖かさの残る肉だか内臓だかわからないものを、手でぞんざいに払いのけながら、ボタンをさがす。

 

ぺちゃり、べちゃっ…

 

最初はひとつずつ払いのけていたのだけれど、小さなボタンは見つからなくて…

面倒だな…

嗅覚はもう麻痺するほどの匂いだったから、僕にはただの赤いどろどろした液体にしか見えなくなっていた。

両手でばちゃばちゃと目の前をかき混ぜるように探しはじめる…

 

ない…ないよボタン…

 

それは酷く不気味な光景だったんだと思う。九重さんは、そのあいだ黙って立っていた。

 

 

「あっ…制服…汚しちゃった」

 

僕はそこでやっと制服が汚れていることに気がついた。

制服の両袖が変な色に染まっている…元の色がわからないくらい…

 

「九重さん…どうしよう…制服汚しちゃった」

 

僕は振り返って八雲さんを見た。言葉を捜しているようだったけれど、

 

「まいったな…僕より年上のはずなんだけれど」

 

八雲さんはつるつるの頭を撫ぜながら言う。最初の飄々とした雰囲気に戻った。

 

「ボタンは僕が探しておこう、それに制服も用意するから、まずはその汚れを落とそうか」

 

「この人たちはどうしよう」

 

「それも僕の弟子に片付けさせておくよ」

 

「…九重さんはどうしてそんなに親切なんですか?」

 

「うーん、遅れて到着しちゃったから…かな、そのお詫びって事でどうだい?」

 

僕は九重さんをゆっくりと眺める。この人は何者なんだろう。どうしてここにいるのだろう。

 

「うん、実はね、君の事を調べていたんだ」

 

「探偵さん?それともストーカーさん?」

 

「いやいやいや、身近で問題が起こりそうなときは、あらかじめ調べておく。情報を集め分析し対応を検討しておく。それが僕たち、忍びなんだよ」

 

なんだか妙なキーワードを聞いた。

 

「そうですか、忍野忍さんですか。じゃぁ暦お兄ちゃんはどこにいるんですか」

 

「おいおい、人を鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの成れの果ての名前で呼ばないでくれないかい?」

 

この状況でボケられるなんて、ある意味すごい精神力だな…と呟く忍さん…いや九重さん。

この状況でパーフェクトに突っ込める九重さんも凄いと思うけれど。

とりあえず現状はこの人を信用してもいい…ような気がする。

 

「僕は由緒正しい、忍術使い、忍びだよ。実は一校の入試成績が流出していてね」

 

魔法力だけだけれど成績上位者で、有力な一族とも関わりが無く、戸籍上天涯孤独の僕は、犯罪組織からすればとても狙いやすい立場なのだそうだ。

誘拐するなら、魔法科高校の生徒なら誰でもよく、たまたま僕が狙いやすかった、と言う事か…

 

「そうですか…それにしても魔法科高校は大丈夫なんですかね…」

 

「何がだい?」

 

重要な機密と魔法師の卵を集めた学校なのに、テロリストの侵入は許す、機密情報は一生徒にすら漏れる程ずさん。

管理は生徒会に丸投げ、一科と二科の問題、辞めていく生徒のケアもしない。

人材不足にしても教師役立たず、警備も常駐していない、カウンセラーはえちいし。

校長は切れ者なのか違うのか曖昧、教頭は富井副部長をイメージさせるし、違法な魔法使用はほとんど野放し。

魔法科大学に生徒を送り込むだけにしては脇が甘いのではないだろうか。

 

「うーん、そうしておかないとただのゆるふわ魔法学園ラブコメになってしまうからねぇ」

 

とメタな感想をのべる九重さん。

 

「この組織のことは僕も調べておくけれど、調査結果は知りたいかい?」

 

僕はちょっと考えて「そうですね、教えてください。お礼は…身体で払えばいいんですか?」

 

「いやいや、僕にその趣味はないよ。これもお詫びのうちさ。わかったら連絡するよ。そろそろ警察も来る頃だろう」

 

どれだけ時間が経過したかわからないけれど、警察だって無能じゃないだろう。たぶん。

 

「ここは片付けておくから、君は着替えてさっきの車の中で寝ていると良い。警察に質問されたら薬をうたれてずっと意識が無かったと答えるといいよ」

 

じっさい、この薬は2~3日は昏倒させる危険なモノなんだから、と血の池に浮かんでいた棒状の注射器を拾い上げる九重さん。

 

うん、こんなとぼけたやり取りをしている間も、全身に激痛が走っている。

九重さんのお弟子さんが大きな車でやって来た。その車の中のシャワーで身体を洗う。

その頃になると、疲れや痛みでふらふらになっていた。

用意してくれた制服を着ると、自力で歩いて、犯人たちが使っていた車の扉を開ける。

潮風が熱を持った僕の身体をやさしく撫ぜる。

僕はゆっくり犯人の車の後ろで身を横たえた。

九重さんがスライドドアをゆっくり閉めた。

僕は、近づいてくるサイレンを聞きながら、意識を失った。

 

悪い夢を見なければいいけれど…

 

 

警察が来たのは10分後ほどだっただろうか、車の中で寝ていた僕は、すぐに保護された。

警官に肩をゆすられると、目を覚まし、九重さんに言われたとおりに説明をする。

警察が呼んだ救急車で病院に運ばれ、検査をうけたけれど、薬の投与は拒否した。

僕には良い薬も悪い薬も害でしかない。

お医者さんは魔法師の事情に詳しいのか、僕の言うとおりにしてくれた。

食事は出してくれたのだけれど、病人食だったので、もっと高カロリーのモノが欲しかった…

 

そのまま一晩、病院の天井を見ながら起きていた。

今僕は病院のパジャマを着ている。制服はどうなったかな…

少しぼぅっとするけれど、朝になる頃には痛みもなくなる。

病室の壁に一校の制服がかけられていた。少しも汚れていない白い一校の制服…

 

僕はふらふら起き上がると、パジャマを脱ぎ、一校の制服を着た。

 

何だろう…落ち着くな。この制服が僕のいる場所になったのかな…

ベッドに腰を下ろし、そんな事を考えていたら。

病室のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

扉が開き、十文字先輩と七草生徒会長が入ってきた。

僕は身柄を引き受けてくれる人がいないので、二人がかわりになってくれて、今朝、病院に来てくれることになっていた。

 

僕は立ち上がり「ご心配をかけました」と頭を下げた。

 

すると、七草生徒会長が、

 

 

 

「久君!あなた、やっぱり女の子だったのっ!!」

 

 

 

 

「ほぇ?」

 

七草会長の言葉の意味がわからず、病室の姿見に映った自分の姿を見てみると…

 

 

一校の女子の制服を着た美少女がそこにいた。

 

 

「なっあ!?」

 

そういえば、昨夜シャワーを浴びた後制服を着たとき、やけに足元がスースーすると思った…

ん?下着は…あれ?いつもより布地が少ないような…まさか下着も女性も…の?

 

どうしよう、とっさにどうすればわからなくなった僕は、十文字先輩に助けを求めようと振り返る。

スカートとキャミソールのレースがふわりと揺れ、僕の素足があらわになる。

 

十文字先輩はいつものように巌のような…いや、男らしい太い眉をぴくぴくさせている。

 

どう説明すればいいんだろう、犯人が着せた、九重さんが着せた、実は女装が好き…どれも駄目だ!

気がついたら女子制服を着ていましたじゃ、だめだろうな…

 

とにかく、一度廊下にでてもらい、パジャマに着替えた僕は、昨日の説明をする。

警察に話したことと全く同じでで、薬をうたれた後は覚えていないの一点張りだ。

 

なんでも実行犯が見つからず、車のあった倉庫にもなんの手がかりもなかったそうだ。

実は車は、隣の倉庫に移動させて、現場は別、と言うミステリーの定番のトリックなのだけれど。

九重さんたちは警察が調べている間に、悠々と作業していたに違いない。

 

僕の意外なほどの元気な姿に、安心した二人だった。

でも、この事件は誰にも、とくに達也くんや深雪さんたちには絶対秘密にしてもらうことをお願いした。

 

「今日は学校はお休みして、明日から普通に登校します」

 

「無理をしちゃだめよ」

 

十文字先輩はだまって頷いて、僕も頷き返す。男と男の娘は、目と目だけで通じ合うのだ。

 

 

九重さんからの連絡はその日のうちにあった。ちょっと殺しに行って来ようかな。

 

でもその前に、九重八雲さんの頭を木魚がわりに叩く!

 

 

千切れていたボタンは、女子用制服のポケットに入っていた。

 




この誘拐事件は実は重要で、ある女性の興味と関心を誘います。
ただ九校戦で活躍して注目するだけだと、他の師族と理由が同じになってしまうので、差別化をはかる為です。
その女性とは、誰でしょうか。

僕は男の子だよ!
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