当然、登録していた言葉も消えてなくなり、
十師族は当然、光宣なんて変換は一からやり直し。
ついでに、キーボードまで挙動がおかしくなり、買い替える羽目に。
ウィン10にしたら、それまで使っていたソフトや周辺機器との相性も悪く…
ストレス溜まる状況で、今回は短いです…汗。
2月8日金曜日の朝、僕は一高前駅のキャビネット乗り場で達也くん達を待ちながら、足元をぼぅっと見つめていた。
雑草が滴の重さにわずかにうなだれていた。あの滴は朝露か、朝日に霜が解けたのか、昨日降っていた小雨なのかな。
一年で一番寒いこの時期、丸裸のとちの木も寒そうに揺れている。僕の黒髪も、北風にゆらゆらとなびいていた。
次々と到着するキャビネット。白い制服の生徒たちが次々と降りてくる。
その一台の、ドアがゆっくり開いた。
視線を向けて、香澄さんだったら、どうしようかと一瞬考えたけど、あのすらりとした立ち姿は間違いようがなく、達也くんだ。
前側のドアから水波ちゃんが降りて、達也くんが後部の反対側ドアを開く。
何気ない所作も優雅な深雪さんがキャビネットから降りる。
学生らしくも高級な小さな手提げ鞄を持つ手が遠目にも綺麗だ。その神々しさは、駅前にいる老若男女の視線を集める。一高の制服すら深雪さんを飾るドレスに見える。
僕は深雪さんの数年前の容姿に酷似しているけど、深雪さんが達也くんを意識してつねに完璧であろうとするのと違って、僕は自分自身のことは基本どうでもいい。
ある種捨て鉢な感覚が、存在感の違いに繋がるんだろうな。
僕も良家の子女の一員なので、最低限度の態度や姿勢を保っているから、猫背で俯き携帯端末を操りながら歩きはしないけど。
例の銃撃事件以来、僕は外出中は周囲を警戒している。犯人がわからないし、澪さんと響子さん以外には知られていない事件なので、自分で警戒するしかない。
だから、今の僕は常人でも感じられるほどの圧力を発している。テロの件もあるから、誰も僕に近づかない。
深雪さんは集中する視線に動ずる事無く、すぐに僕を見つけ、達也くんと隣り合って僕に向かって歩いてくる。
僕の家の事情、澪さんと響子さんと二重の婚約状態が続いて、2人と同居していることと、香澄さんの養女の件は、昨日の十文字家での打ち合わせで、達也くんに知られた。
僕が2人と1年の九校戦後から同居していることを聞いても、達也くんは特に何も言わなかった。達也くんにとって響子さんは年上の異性の友人程度の関心しかない。
ただ、その件を深雪さんにも教えて良いかと尋ねられたので、構わないと告げた。
香澄さんの養女の件は、僕が頑なに拒んでいることを知って、達也くんは少し不思議そうな表情だった。
僕の不貞な同棲生活を知った今朝の深雪さんは…特に変化はないみたいだ。水波ちゃんも、昨日までと同じ態度だ。
簡単に朝の挨拶を交わすと、
「深雪さんは、達也くんから僕の家の話を聞いて、何も感じなかったの?」
素直に尋ねてみた。
「…それは、叔母様の御意思なのでしょう?だったら私からは何も言うことはないわ」
深雪さんは心の底から、そう考えているようだ。
十師族の子女は、師族会議で決定した事項には、素直に従うように教育をされている。深雪さんも、真由美さんも、十文字先輩もそうで、だから香澄さんの養女の話も素直に受け入れている。
僕も十師族の一員になったけど、そんな教育は受けていないので…足元の雑草のように、しょんぼりしている。
やはり、達也くんが不思議そうな表情をした。
「久、まだ、香澄の養女の話に納得していないのか?」
「…うん」
「母上の命令でもか?」
達也くんもお母様のことを、人目のある場では母上と言う。お母様の『命令』と聞いて、深雪さんと水波ちゃんが身を硬くしたのがわかる。特に、水波ちゃんは緊張が顔に出ている。
命令じゃないよ。お母様は、僕に強制なんてしないもの。
「久は、母上の命令には従うと思っていたのだが…違うようだな」
達也くんがあごに指を当てながら呟いた。
「そんなわけないよ」
お母様が僕に無理を言うわけがない。
達也くんは僕を見つめながら、黙考している。多分、僕の知能レベルでは理解できないことだけど、あごから指を離した後の達也くんの目は、どこか柔和になっていた。
今年になって、正確には僕がお母様の養子になってから、達也くんの僕を見る目は、結構厳しかった。
敵を見る、とまでは行かないまでも、確実に味方を見る目ではなかったんだ。
それが、少し変化していた。
達也くんの僕への警戒が何なのか、それが和らいだのが何故なのかは、さっぱりわからない。
「香澄の件は、深刻に受け止めなくても問題ないだろう。久は、香澄の部屋を用意して、同居人として過ごせば良い」
水波ちゃんって言う範例が間近にあるから、達也くんの意見は真摯だ。
「じゃあ、真由美さんの件は?」
ただ、香澄さんには小姑が付いている。
「それは、久に任せる。そうすれば、先輩が俺に絡む機会が減るからな」
冗談なのか、本気なのか、達也くんが真顔で言う。深雪さんが複雑な目を達也くんに向けた。
なるほど、今回の香澄さんとの縁組は、真由美さんの恋心(?)を達也くんから反らすことが理由のひとつかもしれないな。
義理とは言え親戚になれば、恋人にはなりにくいし。
七草弘一さんが、僕を足掛かりに四葉に探りを入れようとしても、僕は基本何も知らないから、それこそ無駄足になるし、養子縁組はナンバーズの間では頻繁にある。
真意は不明だけど今回の縁組は、お母様が僕の為にしてくれたことなんだ。
世界を取り巻く現実が、じわじわと僕たちの周囲を蝕む前に、前向きに受け止めなくちゃ。
「『その日を摘め』、かな」
「どう言う意味?」
僕の呟きに、深雪さんが首を捻った。
「古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する語句だ。『今この瞬間を楽しめ』『今という時を大切に使え』『熱心に物事を行うべき』と言う程度の意味だが…」
さすがは達也くん。博識だ。
でも、香澄さんは、良く言えば裏表がなく、悪く言えば感情が先走るきらいがあるから、その点だけは気を付けていないと。
僕は、十師族の一員と言うより、戦略級魔法師・四葉久と言う、個人の能力で、一個の独立したナンバーズになっている。
今回の縁組で、僕は四葉でもあり、五輪でもあり、九島でもあり、七草でもありながら、どの家の意思決定にも関わらない、複雑でもあり、身軽な存在になった。
成人する二年後までは、僕は魔法科の学校に通う学生でしかない。
少なくとも、この国が戦争に巻き込まれない限りにおいては、の前提付きだけれど…
原作に追いつかないようにのんびり書いています。
最近の原作は、ちょっと理屈っぽいですね。
無理やり達也を孤立させようとしていますし。
しかし、原作における達也の諸問題や、のちの起きるであろう光宣の問題は、
久の存在があれば、すべて回避できます。
新入生が弱いながらもサイキックであったり、誘拐事件、戦略級魔法など、
このSSと被るネタも多いので、今後も続けて行けそうです。
今年の更新はこれが最後になりますが、力尽きることなく書き続けたいと思いますので
来年ものんびりとおつきあいくださいませ。