パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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暑いですね。


壁の向こう

翌月曜、僕の頭痛は拍子抜けするほど収まっていた。

『三次元化』システムの恩恵なのかもしれないけど、僕としては澪さんと響子さんの温もりのおかげだと思いたい。

2人と相談して、僕は登校することに決めた。それ程、出席日数の不足は深刻なのだ…高校四年生になるのは多方面に迷惑をかけるので、避けなくてはいけない。

そのかわり、登校は警護の運転する車でするよう、学校にも許可を貰った。

車は来客用の玄関につけてもらった。

警備の車は、七草家や九島家の利用するリムジンではなく、外見は普通のセダンなので目立つことなく裏門から校内に入れた。

来客用玄関では、達也くん、深雪さん、水波ちゃんが待っていてくれた。

深雪さんは素直に僕の体調を憂う顔、達也くんは硬質な視線にほんのり柔らかさがある。水波ちゃんは、僕がお母様の養子となってからは緊張しっぱなしで、逆に無表情になっていた。

登校前にメールで連絡していたけど、わざわざ待っていてくれたことがちょっと嬉しい。

一高では上履きに履き替える必要はなく、洗浄用のシートを通ればいい。

そのシートは数ミリの段差しかないのに、ふらふら歩く僕はつま先が越えられず、シートの段差につまづいてしまった。

まるで襖につまづくお年寄りみたいで情けない。今日は一日、『念力』で身体を支えてなくちゃ。

幸い、僕の『念力』は校内のセンサーには検知されない。

 

「久、危ない」

 

転びそうになる寸前、意外な素早さで深雪さんが抱きとめてくれた。

柔らかな胸に顔が埋まる。深雪さんは華奢なイメージだけど、魔法師として、肉体は強化されているから、僕の体重を受け止めてもびくともしない。

花の香りがする。

 

「ありがとう深雪さん、ごめんなさい達也くん」

 

「何故、俺に謝る?」

 

「だって、深雪さんに触れて良いのは達也くんただ一人だから」

 

何を当たり前のことを聞くんだろう。

深雪さんから離れようとしたら、逆に深雪さんに強く抱きしめられた。どうやら、照れ隠しみたいだ。

深雪さんは僕を完全に弟扱い。

 

「良いのよ、久は私たちの可愛い妹だもの」

 

いや、異性にすら見られていないようだ。

 

「身体に力が入らないみたい…このまま保健室に行く?」

 

「それじゃ無理して登校して来た意味がないよ。静かに座っている分には大丈夫。二年生も後一月だけど、休む可能性がないとは言えないから」

 

僕は『念力』で自分の身体を支えて立つ。

 

「ねえ、達也くん、僕の体調不良だけれど…どこが悪いのか『視て』くれないかな。過労にしては状態が悪いし」

 

「いいのか?」

 

達也くんの『異能』は、対象者のすべてを『視る』。それこそ裸を見られるようなものだ。

 

「達也くんに身も心も捧げてるから、平気だよ」

 

僕は達也くんに全裸を見られているし、別に今更隠すことなんてない。

達也くんにすべてを預ける僕の頭を深雪さんが優しく撫ぜてくれた。

 

「誤解を招くような発言は控えろ」

 

達也くんが研究者の顔になった。

今、僕は裸どころか、細胞や、DNA、肉体を構成するすべての要素を視られている。

校内のサイオンセンサーは反応しない。機械的な補助を使用しない『魔法』は実質、超能力だ。

でも、それも一瞬。達也くんが僕と視線を合わせた。

 

「どう?」

 

「体内のサイオンがかなり減っている。それでも、常人よりも圧倒的に多いのだが…」

 

僕の核の部分、高次元への門は達也くんでも視えない。

絶対記憶を持つ達也くんは、僕の身体データを暗記している。通常時、僕の身体データは一定だ。

達也くんにしては珍しく言いよどんでいるな。

 

「脳細胞が活発に動いている。シナプスにおける情報の伝達効率が上がっている。人の記憶はシナプスではなく、肉体内の細胞のネットワークに蓄えられると言うが…」

 

「お兄…達也様、説明は短くお願いできますか」

 

達也くんが解説モードに入りそうになったので、深雪さんがくぎを刺す。少し虚を突かれた達也くんが苦い笑みを唇に浮かべた。

 

「知識や情報を過剰に、『魔法』的に詰め込んだようだな…なるほど」

 

達也くんが頷いた。

 

「昨日、四葉本家に行ったのか?」

 

何故か水波ちゃんが身動ぎした。

 

「え?うん」

 

どうしてわかったのだろう。

そう言えば以前、お母様と一緒に温泉に入った時の湯疲れに似ている。

 

「あー」

 

と、奇妙な声を漏らしたのは水波ちゃんだ。

 

「そうか、期末試験は問題なさそうだな」

 

よくわからないけど、達也くんと水波ちゃんが得心の表情をしている。僕を支えてくれている深雪さんの表情は、わからない。

 

「体調は数日で改善するだろう」

 

達也くんが目に慈愛を込めて言ってくれた。

頭にクエスチョンマークが大量に浮かぶけど、達也くんが言うなら間違いないか。

 

 

達也くんと水波ちゃんと途中で分かれて、教室までの廊下は、深雪さんが手を引いてくれていた。僕の介添えの意味もあるけど、僕が傍にいると、男子が近づいて来ないって理由もある。

そのせいで教室に入るのが始業ぎりぎりになってしまった。

始業前の学生特有の騒がしさが教室から廊下に溢れていた。

深雪さんに支えられながら入室すると、いつもなら男子生徒の嫉妬の視線を浴びるんだけど、今朝はそれがなかった。

興味が別の方向に向けられている。先週、テロ組織の犯行声明をテレビ放映で聞いた時とは違う、浮ついた雰囲気だった。

深雪さんが違和感に首を捻る。

ほのかさんと雫さんに挨拶をして、僕はごとりと軋み音を立てて自分の席に腰かける。深雪さんは、隣の席に静かに座る。

喧噪の理由をほのかさんに尋ねようとしたら、校長の腰ぎんちゃくの教頭と、その後ろから一人の男子生徒が教室に入って来た。

生徒たちが自分の席に戻る。喧噪は、奇妙な熱になって教室に満ちていた。

 

「第三高校の一条将輝です。一か月の短い期間ですが宜しくお願いいたします」

 

その男子生徒は、いつにもまして背筋をピンと伸ばした、一条将輝くんだった。

思わぬ貴公子の登場に、女子生徒は静かな黄色い声を上げる。男子生徒も、熱のこもった非音楽的なうねり声をあげる。生徒たちの浮ついた雰囲気の原因は将輝くんだったのか。

深雪さんはと言うと、いつもの余所行きの表情だけど、ちょっと唖然としている。

将輝くんのことを知っていた僕は、教室の浮かれた雰囲気に小さく埋没していた。

教頭が事情を説明する。

僕はリーナさんが転校して来た時を思い出していた。

将輝くんの視線が、向かい合った生徒たちを、誰かを探すようにゆっくりと窓から廊下側に動いた。

僕の姿を見つけて一瞬笑みを浮かべる。僕も軽く頷いて返事を返す。

直後、僕の隣の麗人の姿を発見して…奇妙にマイルドな笑顔を作った。

(魔法科高校18巻巻頭カラーの将輝くんの笑顔を参照してください)

あんな表情は初めて見たな。何だか、自然に緩む口元と喜色を懸命に堪えているみたいだ。

自己紹介をする将輝くんの意識は完全に深雪さんに向けられていた。胸の奥で揺れている感情が込められている。

正直、将輝くんの感情は上っ面の、思春期の少年にある一時的な恋愛だと思う。

いくら深雪さんが美しく、世の男性の多くが恋心を抱くとしても、達也くんと深雪さんの歴史を考えれば、底が浅い憧れでしかない。

深雪さんが僕を異性として警戒しないのは、僕には決まった女性がいるし、深雪さんをそのような目で見ないからだ。

とは言え深雪さんは、そのような視線に慣れている。

その紅唇にほんのりと浮かぶかすかな笑み。でも、鈴蘭のような佇まいとは逆に、その瞳の奥は氷河期…いや、いかなる生命の存在も許さない真空だ。

決して叶うことのない夢が叶う直前になって、その夢に水を差してきたプリンスをフリージングコフィンして日本海に沈めたいと思っている(に違いない)。

接点が少ないけど、ひょっとしたら、真由美さんに対してもそう考えているのかも。

 

割り当てられた席に移動する将輝くん。君は氷の地雷原をふらふらと浮かれて歩いているんだよ。

 

 

休み時間、将輝くんは生徒たちに囲まれてしまい、意外な程に深雪さんとはあいさつ程度の会話しかしなかった。

お昼休みも男子生徒と昼食をとるみたいで、深雪さんには近づいて来なかった。

深雪さんは達也くんと食堂でお昼を食べる。雫さんとほのかさんも一緒だ。

僕は、生徒会室に向かう。残念ながら、生徒たちの僕を見る目は相変わらず厳しい。

深雪さんは誘ってくれたけど、僕のせいで達也くんと深雪さんまで白い目で見られるのは嫌だ。

今日の食堂はいつにもまして騒がしいだろうから丁寧に断った。僕はもともと騒がしいのは苦手だしね。

 

 

生徒会室には、階下の風紀委員の部屋から上がって来た香澄さんが待っていてくれた。

香澄さん的には僕と二人きりの昼食は、まるで逢引きみたいな状況だけど、生徒会室には『ピクシー』がいる。

香澄さんにとって『ピクシー』は、苦手な達也くんの所有物で、完全に物扱い、眼中にないけど、僕には一個の生命体と同じだ。

2人分のお茶を淹れてくれた後は、休止状態で生徒会室の隅で黙って座っている。その姿はまさに人形だ。

それでも、僕と香澄さんの会話の最中、羽音のようなざわめきが僕の『意識』に伝わって来る。

とても、義妹といちゃいちゃできるような状況じゃない。いや、いなくてもしないけど…

僕は昨夜、自宅で一人きりの時、倒れて意識を失ったことを話した。僕は虚弱ではないんだけど、自身の肉体の強度に自信がない。

香澄さんの同居は、香澄さんの大学入学後とされている。

それでも、自宅に誰もいない時は、可能なら家に来てくれるようお願いをした。

 

「おっ、同じ屋根の下、2人きりで、一晩を過ごす!?」

 

香澄さんは顔を真っ赤にしながら了承してくれた。

現実は、澪さんが不在の日なんてほどんどないので、その日が来る可能性は低いんだけど…

 

『流石は王。ハーレムですね』

 

『ピクシー』が無責任に呟いた。もちろん、僕にしか聞こえない『声』で。

 

 

今夜もレストラン会議は行われた。この日は将輝くんが初参加する。

放課後、2-Aの教室の前で達也くんに誘われていたけど、奇妙な態度だった。

深雪さんは生徒会室に、達也くんは早々に帰宅。僕も、体調不良なので今夜も不参加だ。

教室に戻って来た将輝くんは、帰宅準備をする僕の席の横に立った。

教室の騒動もやっと落ち着いて、僕と会話する時間的な余裕ができたようだ。

 

「ここが三高なら、一緒に行こうって誘われるところなんだが…」

 

一高だろうが三高だろうが、達也くんが将輝くんを誘うとは思えない。

 

「僕がレストランまで案内できればよかったんだけど」

 

「いや、気にしなくて良い。それに俺が来るから無理して登校してくれたんだろう。それだけでも感謝だ」

 

出席日数が心配だから、とは言えない。

 

「今夜は大人しく、将輝くんのお土産を澪さんたちといただくよ」

 

「たち?」

 

将輝くんは首を捻ったけど、僕にだって自宅に招く友人くらいいるだろうと特に追及はしなかった。

 

「それにしても、思ったより久は学内で孤立しているんだな」

 

「まあね」

 

「今日、俺は男子のグループと行動を共にしていたんだが、愚痴と言うか、ほとんど悪口、久とは付き合うなって忠告すらされた」

 

僕が同級生の男子に嫌われるのは、先日のテロや四葉への養子入り以前に、二年間の積み重ねだから、いまさら改善のしようがないし、する気もない。

 

「俺も、横浜事件の後、同じだったからわかるが、自分から歩み寄るのも大事だぞ」

 

嫌味のない笑顔とともに、将輝くんは善意からそう言ってくれる。一高の友人にはいないタイプの善意だな。

レオくんは掛け値なしの善人だけど、どこか屈折した部分があるから、こんな忠告はしてこない。

やはり十師族の長子としての立場や余裕がそう言わせるのかな。

 

「そうだね」

 

僕はあいまいに頷いて返事を濁した。

 

 

 

帰宅後、僕は澪さんたち、澪さんと響子さんと一緒に、北陸の幸に舌鼓を打った。

どれだけ体調不良でも、僕の食欲は衰えない。

 

 

翌2月12日は早朝から小雪がちらつく寒い日だった。

この日も僕は車で登校した。

将輝くんは2-Aのクラスに早くも馴染んでいた。

一時限目は実習で、課題は『魔法の終了条件定義』だった。

何度も言っているけど、永続する『魔法』はない。終了条件を定義しないで発動した『魔法』は効力を残したままになって、次の『魔法』に影響する。

それを防ぐには『魔法』の時間を定義する方法と結果を定義する方法のふたつがある。時間の定義は『飛行魔法』で証明された比較的新しい方法だ。

現在の主流は結果を定義する方法、より詳しく言えば、『魔法』の効果を失わせる方式だ。

『魔法の終了条件定義』は、基本中の基本にあたる。

実習内容は魔法式の作用を変数として自分で定義して、白いプラスチック球を赤、緑、青の順に、三十秒間に十回変化させる、と言うものだ。

今日は評価の日ではなく、練習日なので生徒は二人一組になって自習を行っていた。

僕はいつも実習でペアを組む時は深雪さんと組んでいた。

深雪さんの卓越した魔法力に釣り合う生徒が僕しかいなかったからだけど、実習中、クラスの男子生徒は誰もが僕の背中を睨んでいた。

でも、体調不良の僕は、実習室の隅で椅子に腰かけて大人しくしていた。

そのせいで深雪さんが1人ペアを組めず余る状態になっていた。

好機なのにクラスの男子生徒は深雪さんに声をかけられずにいた。

 

「司波さん、俺と組んでいただけませんか」

 

その間隙をついて、将輝くんが深雪さんに声をかけた。

他の男子生徒の怨嗟の声が起こる。

 

「ええ、喜んで」

 

深雪さんもクラスで一人は寂しかったのか、意外なほど嬉しそうに返事をした。

そんな笑顔を見せたら、将輝くんは…ああ、あの表情は、誤解とともに舞い上がっているなぁ。

実習『魔法の終了条件定義』は、魔法力よりも正確性を求められる僅か30秒の『魔法』だけど、

『現代魔法』は一瞬から数秒の事象変化が殆どなので30秒『魔法』を維持し続けるのは意外と難しい。

でも2-Aの生徒なら誰にでも簡単にできる…筈なんだけど、生徒の多くが手こずっていた。

ペアを組んだ2人は、まず深雪さんが先に実演した。

深雪さんは0.1秒の狂いもなく白いプラスチック球を赤、緑、青の順に変化させた。

それを目の前で見せられた将輝くんも、深雪さんのカウントダウンに助けられながら、

 

「余り0.7秒。一条さん、初めてとは思えないスコアですよ」

 

実習のクリア条件は1秒以内なので、一回目の実演で成功した。

深雪さんに笑顔を向けられているのに、将輝くんは不満そうだ。

すぐ隣でほのかさんも30秒ジャストでクリアしていたから、ますます不満そうだ。

将輝くんの視線がふと、僕に向けられた。

 

「三高ではどんな実習をしているの?」

 

三高の実習なら将輝くんはぶっちぎりで一番だろうから、僕は何気なく尋ねた。

 

「三高で最近実演したのは、壁の向こうに置かれた標的に対する『魔法』の発動だった」

 

深雪さんや他の生徒も興味深げに僕たちの会話に耳を傾けていた。

 

「遮蔽物に隠れた敵を攻撃する技術を磨く実習だな」

 

それを聞いていた生徒たちは、流石は実技の三高と唸っていたけど、僕は違う感想を抱いていた。

将輝くんの言う実習は、要するに実戦を想定している。

魔法科高校は、兵隊を育てる教育機関ではないはずだ。僕がこの時代に再出現して、生駒の九島家で烈くんと会話をした時、魔法師に選択肢が増えているって安心した。

僕の過去の魔法師は、兵器で消耗品だった。

緊迫した世界情勢でその授業。三高は兵隊を育てているのか…

勿論、三高の授業はそれだけじゃないだろうけど、僕は暗澹たる気持ちになる。

僕は、人と会話をする時は相手の顔をじっと見つめる。この時も、将輝くんの顔を無言で見つめていた。

この癖も僕が同世代の男子に嫌われる理由の一端だけど、短く言い様のない空気が教室に漂った。

将輝くんもちょっと戸惑ったようだ。

 

「久もやってみないか?昨日よりも顔色は良いから、大丈夫だろう?」

 

なるべく普段通りの口調で、将輝くんは話題をかえた。

 

「…うん」

 

気のない返事で立ち上がる。

 

「カウントダウンは必要?」

 

深雪さんが、やや不安そうに尋ねてくれた。

僕はそれを断って、丸いハイテーブルに置かれた白いプラスチック球に右手を向けた。

僕は背が低いから、白い球が目の前になる。

入試の時から僕は、こういった据え置きの決められた魔法式を使った『魔法』は得意だ。

あの時と違って、僕の右手の薬指にはお母様からいただいたトーラス・シルバー謹製CADのデバイスがある。

他の生徒たちも手を止めて、僕の実演を見ていた。

白、

赤、

緑、

青。

クラスの誰よりも鮮やかに発色したその光は、眩しいほどに実習室を照らした。

それを10セット。

 

30秒なんて、あっという間だ。

『魔法』を終えても、僕は白い球を見ていた。

 

「30秒ぴったり。流石は久ね」

 

時間を計っていた深雪さんが笑顔で言った。

 

「誤差はどれだけだった?」

 

ほのかさんが無邪気に尋ねる。

 

「えっと、誤差は、0.0001秒もなかったわ…それ以上は、ここの計器では計測できないわね」

 

ここで素直に喜べば、他の生徒から好感を得られるんだけど、

 

「うん」

 

僕は短く返事をしただけで、席に戻った。多分、僕の顔は人形のように無感情だっただろう。

だって、誤差が0.1秒でも0.0001秒でも、ぎりぎりの及第点でも、クリアにはかわりがない。むしろ、そこまでの精度にこだわるのは偏狂の類だ。

その辺り、僕はこだわりがない。

急げば道を外れることもある。人には人の速度があるんだ。

でも、圧倒的な実力差を見せつけられたクラスの雰囲気は、形容しがたい。

エリートを自称するクラスに、規格外の存在がいると言うのは、思春期の生徒にとっては複雑な感情を抱かせる。

それが十文字先輩や将輝くんみたいなエリート中のエリートならまだしも…

 

「流石は戦略級魔法師だね」

 

ほのかさんがやけに明るい声で、教室の空気をかえようとした。成功したとは思えないけど、生徒たちは気づかされたように自分の『魔法』に戻って、集中し始めた。

僕は待機状態の『ピクシー』のように壁際で大人しく座っていた。

深雪さんが僕の隣に立って、優しく肩を撫ぜてくれた。

 

「達也くんも僕と同じか、それ以上に正確な時計を刻んでいるだろうなぁ」

 

同じ課題は他のクラスでも行われている。達也くんの所属する魔工科でも同じだ。

達也くんは技術者として、偏狂的に追及する部分がある。

 

「お兄様なら、そうね」

 

深雪さんはまっすぐ前を見ながら同意した。

視線は、目の前の将輝くんではなく、その向こうの教室の壁に遮られた、見えないはずの達也くんを見つめていた。

深雪さんの視線上にいる将輝くんは、その視線に意識が何度も向けられていた。

深雪さんの視線には、達也くんしかいない。

 

将輝くんの実演は、その後もぎりぎり及第点だった。

でも、2人の間にある壁は、及第点の魔法では越えられそうにない。

 

 

 




将輝は、少女漫画ならヒロインに横恋慕して話をかき回す存在です。
エリート、貴公子、ハンサム、頭も良い。
男性読者に嫌われるタイプですね。
しかし、深雪の眼中にはまったくないので、道化です。
それでも一条家の長子として邪険に出来ないので、実に迷惑です。
味方になると達也に振り回され、敵に回ると面倒くさい。
まぁ、達也が完全無欠なので、ライバルにすらならないのが…合掌。
では、また次回。
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