パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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原作の行間を読んでみました。


バレンタインデー

2月13日、この日も刺すように寒い日だった。

 

「どうして僕を参加させてくれなかったの!」

 

一高の来客用玄関で待っていてくれた達也くんに、僕は朝の挨拶もなしに詰め寄った。

昨日、達也くんが早々に帰宅したのは、グ・ジーの潜伏現場である座間に向かったからだった。

襲撃には黒羽の双子と四葉家の戦闘魔法師も参加した大掛かりな物だった。

僕がその襲撃の情報を知ったのは、昨夜、真夜お母様から知らされたからで、それも捕縛失敗の情報だった。

グ・ジーの潜伏場所が住宅街、米軍基地の隣、しかも米軍の介入があったから達也くんでも捕縛に失敗したんだって。

 

「僕がいれば、グ・ジーを逃がすことなんて絶対になかったのに。介入して来た敵だって、皆殺し…全員倒したよ!」

 

来客用玄関には僕、達也くんと深雪さん、水波ちゃんしかいなかったけど、一応言葉を柔らかくする。柔らかくしても意味は同じだ。

 

「米軍の介入は想定外だった。それに捕縛、殺害も外交問題に発展する。お互いが非合法活動中だったからな」

 

十師族は法的に認められた組織ではない。表の仕事以外で、非合法でない活動があるのだろうか。

その疑問は脇に置いて、

 

「それでも、ちゃんと指示してくれれば、敵の無力化も出来たよ!」

 

僕は声を抑えながらも反論する。僕だって四葉なんだ。僕が捜索メンバーに参加しているのは、捕縛殺害が僕の役目だからだ。

僕は敵は容赦なく殺す。その考えは僕の身体と心に染み付いている。

でも、指揮官がきちんと僕を使ってくれれば、確実にその指示を果たす。

 

「久、落ち着いて。久は体調不良で普通に立っているのも辛かったでしょ。だからお兄様は…」

 

深雪さんが仲裁に入ろうとする。

 

「違うよ、僕が怒っているのは、僕に教えてくれなかったことだよ、達也くんも深雪さんも昨日の朝から、潜伏場所と襲撃計画を知らされていたんだよね」

 

昨日、『魔法の終了条件定義』の実技があった日、2人は朝からその計画を知っていた。当然、水波ちゃんもだろう。知っていて、いつも通り生活をしていたんだ。

僕は、今回の捜索では達也くんの指揮に従うようお母様に言われている。

 

「体調不良だから待機していろって言われれば、僕は従っていたのに…」

 

命令には忠実に従うのも僕の身に染み付いた習性だ。

急襲は、情報を知らない人が多いほど成功率が上がる。それは理解している。

僕は米軍とは因縁がある。横浜騒乱の時には米軍の工作員に襲われたし、吸血鬼事件では赤髪の仮面魔法師と戦った。

僕が米軍兵士と戦わなかったのは、埋火を再炎上させない結果になった。でもそれは運が良かっただけで、結果論だ。

信用されていない…わけではない。前回の襲撃で四葉家の戦闘員を間近で見ているから、今更、隠す意味がない。

それとも、僕に知られたくない政治的な理由があったのか。

戦略級魔法師の僕が捜索に参加していることは特に秘密でもない。

市街地での襲撃でも、特に問題はなかった。

僕の体調を慮ってくれたにしても、ひとり蚊帳の外は、悔しいな。

体調不良を理由に四葉の仕事、非合法活動に参加できなかったのは、光宣くんの焦燥が初めて理解できた気がする。

 

「僕は、達也くんの足手まといになったりはしないよ」

 

僕は頬を膨らませる。

10歳ころの深雪さんの顔をした僕が、上目遣いに涙を溜めて、恨みを込めて達也くんの顔を見つめる。

 

「…わかった。今後は久にも同行してもらう。情報もすべて公開する」

 

達也くんが頬に汗を流して動揺する姿は珍しい。

体調は万全ではないにしても、問題はない。

 

「うん。今後は達也くんにくっついて離れないから。捜索にもトイレにもお風呂にも一緒についていくから」

 

達也くんの制服の裾を指でつまむ。

僕は達也くんの居場所がどんなに離れていてもわかる。逃げることは不可能だ。達也くんもそれを知っている。

ちょっと意固地になっている自分を理解している。

 

「作戦の時だけだ」

 

「あっ、そうか、お風呂は深雪さんと入っているから、僕が入っちゃダメだよね」

 

「入ってない!」

 

ん?おかしいな。響子さんが婚約者はお風呂は一緒に入るって言っていたのに。

 

「今夜のミーティングで他のメンバーには詳細を省いて報告するが、久にはすべて教える。昼休みに使用されていない、この教室の使用許可を…」

 

「その教室に行けばいいんだね」

 

達也くんが端末で表示した教室を頭と端末にインプットする。

 

 

その夜のレストラン会議では、初めてメンバーが全員集合した。真由美さん、僕、達也くん。テーブルを挟んで十文字先輩と将輝くんの順に座った。

達也くんが昨夜のグ・ジー襲撃を詳細を省いて淡々と説明した。

十文字先輩と将輝くん、真由美さんの表情が苦い。

原作では、この場面は一行でさらっと済まされていた。

でも、だ。

四葉家はグ・ジーの隠れ家を2度発見している。他家、特に関東を本拠とする十文字家と七草家に先んじて捜索に成功している。

十文字先輩と真由美さんとしては、内心忸怩たる思いをしているだろう。

そして2度とも取り逃がしている。

隠れ家の襲撃は、一般には不審火として報道されているし、十師族には四葉家の襲撃による失火だと知られている。

十師族で協力、レストラン会議で情報の共有までしているはずなのに、四葉家が単独で動いてグ・ジーを逃がして、事後報告をしている。

グ・ジーの拠点を確実に潰しているとも言えるし、情報を独占して他家と連携できず、捜索場所が分散して網に隙間が出来ているとも言える。

十文字先輩の頬に、わずかながら不満の色が見える。

単身、東京に居を移している将輝くんも、自分が現場にいれば、もしくは襲撃に参加できれば、事態はかわっていたと考えている。

誰もがボタンの掛け違いのような、もどかしさを感じている。

 

「その後、捜索に進展はありません」

 

達也くんが事務的に語る。

 

「…そう」

 

無言の十文字先輩と将輝くんにかわって真由美さんが答えた。

 

 

 

ミーティングは微妙な空気のまま終わり、その後、メンバーを晩御飯に誘う十文字先輩。

達也くんは深雪さんが待っているからと帰宅。将輝くんも土地勘を増やすためにバイクで周囲を走ると退出した。

僕も澪さんたちが心配するから、食事を断って帰宅する予定だった。

結果、大学生の2人だけが残る。十文字先輩は内心では嬉しいかもしれない。でも、真由美さんは十文字先輩との2人っきりの食事は気まずいだろう。

そうなると真由美さんは小悪魔心を発揮して十文字先輩をいじる、十文字先輩は大きな体を小さくする。

2人の相性も、微妙にかみ合わないな。

2人は婚約の噂もあるんだけど…うぅむ、空気が重い。

このレストラン会議は、もともと真由美さんと達也くんの会う機会を増やす七草弘一さんの腹案だから、真由美さんと十文字先輩の距離感も微妙だ。

それぞれの家の事情と秘密が交錯して足を引っ張っている。

僕が腰を浮かせようとすると、真由美さんが僕の上着の裾をつまんだ。

 

「久ちゃん、『お義姉さん』として、少し話があるんだけど、良い?」

 

にんまり笑う。

良いも何も、裾をつまむ指は、かなりの力だ。

僕と七草家の問題だと判断した十文字先輩が先に席を外して、レストラン二階の個室に僕と真由美さんだけが残った。

玄関のドアベルが、からこんっと鳴るまで黙っていた真由美さんは、裾をつかむ指を放すと、

 

「はぁー」

 

盛大にため息をついて脱力。姿勢を崩して天井を見上げた。

 

「今日は久ちゃんが来てくれて、ほんっとーに良かったわ。一昨日、一条くんが初参加してくれた日のミーティングは、本当に疲れたのよ」

 

達也くんと十文字先輩、将輝くんが揃って、同世代でも皆、十師族の次期当主と配偶者。流石の真由美さんも気疲れする。

 

「昨日は昨日で3人だと交換する情報も話題もないし。関東がホームグラウンドの両家なのに、情けないわね」

 

ただでさえ将輝くんは出遅れていて、一人だけ三高だ。2年前の九校戦くらいしか話題はなさそうだ。将輝くんも負けた大会の話は汗顔してしまう。

男子3人に女子1人の構成も気まずい。十文字先輩の存在感だけで、部屋が狭くなる。年頃男子の会話は弾まなそうだ。

ここに渡辺先輩が参加していれば潤滑油にもなるし、市原先輩がいれば毒を吐きつつも話を上手に繋げてくれるだろう。なぜ会議を十師族限定にしたのか。

 

「久ちゃんがいてくれると、男3人に女2人でバランスもとれるし」

 

「僕は男だよぉ」

 

と、からかいの言葉も他の男子にはかけにくい。

将輝くんなんて、真由美さんの格好の玩具、からかいがいがありそうだけどね。

誰かをダシにして場を和ませるのは、高校時代の真由美さんの常套手段だったのに、相手が十師族ともなると出来ないか。

 

「久ちゃんの体調も、だいぶ良くなって、学校では香澄ともうまくやっているみたいだし、お義姉さん、安心したわ」

 

ん?何だか風向きがかわったな。

その後、真由美さんの愚痴を聞かされた。渡辺先輩が千葉修次さんとラブラブで腹が立つとか、基本的に当たり障りがない内容で、単なるストレス発散の相手にされただけだった。

 

この会議、僕が真由美さんと達也くんとの間の防波堤になる目的は果たされている。

 

 

 

翌2月14日。いわゆるバレンタインデー。

反魔法師運動やテロの影響で暗い社会情勢でも、この日は思春期の高校生にとっては大事なイベントだ。

去年は九校戦で有名になった僕にチョコレートを渡そうとした女の子たちが駅前で待ち構えて混乱があった。

今は戦略級魔法師となって一般市民にも僕の容姿は知られるようになった。

魔法協会が僕を魔法師のイメージアップに利用しようとしていることもあって、映像中の僕は、理想的な優等生、少なくとも見た目は完璧だ。意図的に美化されているわけでなく、映像には僕の狂気や残忍性は映らない。魔法協会も、僕が化け物だって知らないんだ。

僕の容姿が幼いこともあって、二十歳以下の、特に小中高女子生徒に好意的に受け入れられている、らしい。

魔法協会は去年にも増して駅前が混乱すること、混乱に乗じたテロ事件の続発を恐れた。チョコレートは横浜の本部ビルに送付するよう世間に通知をした。協会に送られたチョコは、中身を確認後、一部は寄付され、残りの多くが残念ながら焼却処分される。これは大手芸能事務所でも同様の対応をとっているそうで、衛生面を考えるとやむを得ない処置だ。通知には、このむねがきちんと表記されていた。

そのかわりチョコレートに添付されていた手紙やカードは内容をチェック後、僕に送られる予定だった。

ただ、一か月半後に入籍するので、それ程の数は送られてこないと思っていたのだけど、協会からのメールによると、かなりの数が送られてきて業務に支障が出ており、添付のカードも協会で処理することになっていた。

そんな愚痴を光宣くんに話したら、京都の魔法協会には論文コンペで有名になった光宣くんあてのチョコが大量に届けられているって、電話でこぼしていた。

一高前駅には、通知を知らない女性がかなりいたそうなんだけど、今日も僕は車で登校したので、去年みたいに香澄さんにジト目で見られるようなことは起きなかった。

2-Aの教室は、去年ほどではないにしても、そわそわした雰囲気が漂っていた。

教室に入ると、雫さんとほのかさんが軽い気持ちで、義理だよって言いながらチョコをくれた。

お礼を言いながら席に着く。

隣の席に座る深雪さんからは、来客用玄関で貰っている。

深雪さんが本命チョコを渡すのは達也くんだけなので、僕のは家族チョコだ。

ちらっと視線を将輝くんの席に向けると、将輝くんは教室の浮かれた雰囲気には背を向けて、やや沈鬱、焦燥な表情でどこを見るでなく考え込んでいる。

その態度は授業中も続いていたけど、昼休み、女子生徒からチョコを受け取って、初めて今日がバレンタインデーだと気が付いたみたいだ。

将輝くんも九校戦のパーティーでは周囲に女子生徒を侍らせていたし、三高では沢山貰っているはずだ。

それでも立て続けに、可愛くラッピングされた小箱七つを手渡され、ぽかんとしている。

確かに、会って数日の顔も名前もまともに覚えていないクラスメイトからチョコを渡されれば戸惑うだろうけど、それにしても今日の将輝くんは心ここにあらずだ。

 

「この分ですと、まだまだ増えそうですね」

 

深雪さんの何気ない一言に将輝くんがへこんでいた。

まったく異性として眼中にない発言だ。

 

 

 

今日のお昼も生徒会室で香澄さんと食べる。

食事後、香澄さんからやや手の込んだチョコを貰う。

 

「『お義兄様』、今日はいくつチョコレートを貰いました?」

 

にこり。

笑顔が可愛い。こういう表情をする時は真由美さんの妹だなって実感が深まる。

 

「全部、義理だよ」

 

「『お義兄様』には婚約者がおふたりもいますからね。それで、いくつ、貰ったんです?」

 

「えーと」

 

香澄さんの半目が近い。

 

 

料理部の部員からと深雪さんと…放課後までに、響子さんに持たされた紙袋二枚が満杯になっていた。

ただ誰もが、僕には特定の女性がいるから、チョコを手渡す時に義理だよってはっきりと言う。

それでもお返しはしっかりしたいので、チョコをくれた生徒はきちんと覚えておく。お返しは去年同様、手づくりのお菓子になる。

 

グ・ジー追跡のため達也くんは今日も深雪さんを学校に残して先に帰宅する。今日は基本的に、自宅待機だって。テロリストの新情報が入り次第、僕に連絡してくれるようお願いしてある。

将輝くんは、これ以上チョコを渡されないようにと考えたのか、僕と深雪さんに挨拶をすると、ずんずんと教室を出て行った。

僕もミーティングまでの間、自宅待機するため早々に帰宅しようと席を立ったところ…

 

「あっあの、四葉先輩…はいらっしゃいますか?」

 

やや不安げな声が教室の前ドアから聞こえて来た。

3人の女子生徒が、2-Aを覗き込んでいる。クラスに残った生徒たちの視線が集まる。

深雪さんはまだ司波を名乗っているので、このクラスで四葉と言えば僕だ。

 

「僕?」

 

とてとて近づく。お辞儀をした女子生徒たちは一年生で知らない顔だった。

終業直後に急いで2-Aまで来たようで、少し息が上がっていた。

先頭に立つ生徒が緊張の面持ちで一歩前に踏み出た。

 

「こっこれ、私たちからお礼です!」

 

緊張を吹っ切るように、ずいっと紙袋を押し付けて来た。

紙袋は僕でも知ってる高級デパートの未晒のクラフト紙。中にはリボンのついた小箱とカードが入っている。

 

「お礼?」

 

お礼を言われるようなことは…思いつかない。僕は昼休みの将輝くんみたいにきょとんとする。

 

「一高を襲ったテロリストから、私たちと学校を護ってくれてありがとうございました」

 

「四葉先輩がここの所、体調が優れないのは犯人捜索でお疲れだからですよね」

 

「私たちよりも華奢な身体で、頑張っているって…」

 

3人は畳みかけるようにしゃべった。

そんな話が校内に広まっていたのか。

あの程度で僕の精神が疲れるなんてありえない。

 

「ありがとうございました!」

 

女子生徒は後ろの2人と一緒に深々と頭を下げた。

僕は他人の感情を理解する自信がない。自分の行動の結果に、他人がどう思おうと嫌おうと、悪口を言われても気にしない。

テロの矢面に一人立ったけど、生徒を護る使命感なんて特になかった。

それでも面と向かって、朴訥で飾らないお礼を言われると困惑してしまう。

女子生徒は僕の言葉を待っている。

ふと、深雪さんの視線と目が合う。深雪さんがふっくらと笑った。

いつもの意識して作ったそれではなく、掛け値なしの笑顔だ。まるで色が付いているように、教室を彩る。

僕もつられて笑う。

僕の笑顔に、3人もほっと息を吐いた。

 

「ありがとう。みんなに怪我がなくて良かったよ。これは大事にいただくね」

 

この生徒たちは、上級生のクラスに来るだけでも緊張するのに、戦略級魔法師で四葉でもある僕に会うのは、色々な迷いや勇気が必要だっただろう。

普段、意識しないし、むしろ自分から遠ざけている校内の人間関係だけど、やはり繋がりはあるんだなって思う。

チョコレートは手づくりではなく、自分たちでも手が出せる金額の市販品なことも気遣いができている。

 

「犯人捜索、怪我をしないよう気を付けてください!」

 

「うん、ありがとう」

 

そう言うと、3人は再びお辞儀をして、元気よく駆け去って行った。

胸の中に、瑞々しい何かがほっと沸き上がった。

 

 

今夜のミーティングもメンバーが全員そろって情報の交換が行われた。

このミーティングも原作では数行で、さらっと書かれている。

けれど、だ。

グ・ジーを見失った座間を中心に、四葉家、七草家、十文字家が捜索したものの、手掛かりは見つけられなかったそうだ。そのほかの十師族、組織、警察からも新情報はない。

捜索は行き詰っている。

十文字先輩はいつも通りで、将輝くんは、今日一日焦燥感をにじませた表情のままだ。

二度の襲撃が失敗したからなのか、意外にも達也くんのモチベーションも低い。

テーブルのカップに手を付けず、コーヒーはすっかり温くなっていた。なんだかこの会議を象徴しているみたいだ。

 

「今夜はここまでにしましょう」

 

真由美さんが立ち上がった。

場の空気を和らげるためか、声のトーンが高い。

真由美さんが腰かける椅子の横のバッグケースに女子大生らしいタペストリー社製のバッグが置かれていた。

真由美さんがバッグから高級感のある小箱を三つ取り出した。

 

「十文字君、一条君、久ちゃん。はい、バレンタインのチョコレート」

 

十文字先輩は、うむとか、ふむとか言いながら、将輝くんは戸惑いながら、僕は素直にお礼を言いながら受け取った。

 

「達也君にもあげたいところなんだけれど、今の状況だと…ね。ごめんなさい」

 

ウィンクしながら手を合わせる。

 

「気になさらないでください」

 

達也くんは、ほっとしている。

真由美さんは、七草家の長女として今は誤解を招く行動はとりたくないようだ。

この会議は真由美さんを達也くんに近づける七草弘一さんの策略だ。

婚約の決まった男性にアタックをかけるのだし、グ・ジー問題が終われば、達也くんとの接点は細くなる。もっと積極的な行動、チョコレートくらい強引に渡さないとダメなんじゃないかな。

高校時代は、ここまで調和を重んじる性格ではなかった。まんざらでもないような気がしていたんだけど、深雪さんと恋のさや当てをするのは気が引けるだろうし、真由美さんは弘一さんが絡むと意外と冷静になる。

周囲が意識しているだけで、真由美さんはまったく乗り気ではないのかな。

昨夜のミーティングで色々と愚痴を言っていたのは、多分、達也くんにチョコを渡すかどうかで、さんざん周囲、特に渡辺先輩に意見をされたせいなんだろう。

真由美さんが、小箱を入れる紙袋を僕たちに渡しながら、

 

「お返しを期待しているわね」

 

100%義理チョコだとわかる笑顔は、悪戯好きな高校時代を思い出させる。ホワイトデーは三倍返しなんだっけ?

紙袋のロゴは有名な高級チョコレート会社のモノだった。

十文字先輩は、心なしか嬉しそうだな。

将輝くんは、真由美さんと同じ立場だ。深雪さんからチョコを貰えなかった意味を少し考えているようで、ちらりと達也くんを盗み見た。

達也くんは無表情。

三倍返しの金額の多寡はともかく、テロリスト追跡が終わっていたとしても、僕は真由美さんと義姉と義弟なのだから、今後も会う機会が多い。

今回のテロ事件は、逆に真由美さんを達也くんから遠ざけている気がする。

 

誰もが茫漠とした未来に落ち着かない。

 

 

 






今回は、原作でさらっと数行で済まされたふたつの場面を、想像を膨らませてみました。
原作でさらっと済まされたのは、その場面を書くと、
18巻・師族会議中編がミーティングのシーンだらけになって、構成とテンポが悪くなるからだと思います。


この時のバレンタイン。原作では、達也が真由美からチョコを貰わなかったと言っています。
克人と将輝が貰ったかどうかは不明です。
高校の時の真由美なら2人にも渡していたでしょう。
師族会議編の真由美は、ものすごく煮え切らないのですが、渡辺摩利にチョコは渡さないのか?とたきつけられたり、弘一にそれとなく確認されたり、妹たちに反対されたり、もやもやしていたりしたでしょう。
このSSの展開では、真由美は久にはチョコを渡すし、そうなるとミーティングを円滑に進めるために、接点の少ない将輝の緊張をほぐすために渡した、克人は真由美のことを可愛い所があると言うように、ちょっと気があるし、将輝は真由美が苦手なタイプでしょうから、どんな反応をするかなと思いながら書いてみました。
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