本当はもう少し書く予定でしたが、ちょうどキリが良かったのです。
十師族は、政治に拠らず裏からこの国に影響を与えている。
表立って国政で権力を振るわない利点は色々とある。
『魔法』を理解できない国民の大多数は、魔法師は優遇されていると考えている。
優遇された魔法師が権力まで手に入れてしまえば、やっかみや嫉妬の感情が、いずれは憎悪、敵視になる。
あえて表に立たないことで、それを未然に防いでいる。
欠点は、魔法師が実質的に社会を、特に国防軍を支配しているのに、政治が国を動かせないので、国と国民と魔法師が歩調を合わせることが難しくなっている。
魔法師の所得面での優遇は、医者や弁護士などと同じで、取得の難しい国家資格を持ち、特殊な技能を有しているからで、ある程度の地位につけば、高給取りになるのは当然だ。
高給取りと言っても、外資系企業のトップが貰うほどの金額を貰っていない。
戦略級魔法師の澪さんが受け取る慰労金は、戦車一台よりも圧倒的に安い。公僕である政治家よりも安い。
そのあたり、この国はしみったれている。敵国からの引き抜きが活発になるわけだ。
バレンタインデーの翌日、魔法大学の正門前で、反魔法師団体によるデモ隊と警察が小競り合いになった。
公道でのデモ行為は警察への届け出が必要だから、警察も事前に人員を動員していた。
小競り合いは、デモ隊が魔法大学の敷地に入ろうとしたから起きた。
魔法大学に限らず、公共機関には関係者しか入れない。不法侵入は警察が阻止するのは当然だ。
揉み合いはプラカードを振り回したり投石したりする程度で規模としては小さい。
だけど、マスコミが一部を切り取って大げさに報道している。
都内では去年、反戦デモが時々行われ逮捕者も出しているけど、今回ほど大きく報道されていない。
デモ隊をクローズアップして、デモ側の主張を一方的に報道するメディアもある。
そのマスコミはデモ側が呼んだんだろう。過激なデモ隊がカメラを意識して大げさな行動をとっている。
僕はその映像を、お昼休みの生徒会室で昼食を食べながら、薄い関心で見ていた。
生徒会室には僕と香澄さん泉美さん、水波ちゃんと『ピクシー』がいる。
デモと警察の衝突は11時ごろに起きたので、お昼休みには一高はその話題で紛糾した。
深雪さんは達也くんと一緒に食堂で報道を見ている。将輝くんやレオくんたちも一緒だ。
僕も食堂に誘われたんだけど、僕への非難が達也くんたちにも向けられるのは嫌だ。一部生徒の僕への白眼視はいまだ続いている。
生徒会室でも僕はその報道を見る気はなかった。
この国の安定は、多くの魔法師の犠牲の上になりたっている。
群発戦争当時の魔法師は僕も含めて消耗品の道具以下の扱いだった。
歴史を勉強しろとか感謝しろとかは言わないけど、反魔法師運動は故意に歪んだ思想を広めていて、社会に不満を持つ一部の市民をあおっている。
反魔法師運動をする輩は、魔法師は生まれながら優遇されていると喧伝している。本気で反魔法師の社会を願うなら、国会や国防軍基地、警察関係の施設前で行えばいい。
市民が、それでも平和に暮らせているのは、もはや社会の一部になっている魔法師のおかげなんだから。
魔法大学の前でデモをしているのも、相手が反撃できないことを熟知しているからで、まったく、耳元で不愉快な雑音を聞かされる気分になる。
誰だって不平や不満、閉塞感や不平等を抱えている。批判されている魔法師だって、規制だらけで息苦しい。
対案のない一方的な反対なんて、いちゃもんの類だ。
僕の感覚からすれば、反魔法師運動なんて宗教と同じで金集めの手段のひとつだ。
この国で、教祖様や運動家のリーダーが、信者や末端の運動家よりも貧しかったことなんてまずない。
気分が荒れるので、静かにお弁当を食べていたかった。
僕は、おいしいご飯を食べていられれば、それだけで幸せなんだ。
ニュースは、報道を知って駆け付けて来た泉美さんがつけた。
水波ちゃんも普段は友人たちと食堂を利用するのに、今日はクラスメイトの香澄さんと一緒に生徒会室に入って来た。
僕たちは、近未来的な端末に囲まれた生徒会室には似合わない重厚な方卓の片側に、一列になって座っていた。
机に並ぶ3種類のお弁当はそれぞれが手づくりで、水波ちゃんのお弁当は深雪さんとの共同制作だ。香澄さんも段々と上手になっている。
泉美さんだけが生徒会室の自販機のレトルトだった。魅力に欠ける白いメラミン食器。レンジで温められたご飯が冷めていく。
生徒会室の大きなスクリーンに映し出された映像を、3人の下級生が昼食もそこそこに首っ引きで見つめていた。
興味が無くても、目の前の映像が視界に入って来る。
見慣れた魔法大学の正門。この程近くで毎日十文字先輩たちとミーティングしている。今日もミーティングがある。
まさか、この面倒なデモは夜まで続かないよね。
金曜の真昼間にデモとか、この人たちは仕事は平気なのだろうか。それとも営利目的の市民活動家なのかな。
リアルタイムの映像では、デモ騒動は落ち着いている。警戒しながら登校する大学生のなかに知り合いの顔はいないかなってふと画面を見る。
「ん?」
「どうしました、久先輩」
それまで黙っていた僕が声を漏らしたから、隣に座る香澄さんが訊ねた。
「知り合いの顔を見つけた」
報道の警察隊にエリカさんのお兄さん、千葉寿和さんがいた。パーティーで挨拶しただけだから知り合いと言う程の仲でもないけど、説明が手間なので省略した。
寿和さんは魔法犯罪を捜査する刑事で、警備は公安警察や交通部門の職分、担当ではないはずだ。何故いるのだろう。
人手不足で駆り出されたのかな。寿和さんは私服警官だし、安易に顔を報道されては今後の犯罪捜査に支障をきたすのではと、素人的には思う。
箱根テロ以外にもいくつも事件を抱えているだろうから、デモの中に犯罪に関わる人物や魔法師がいる情報でも持っているのかな。
デモもブームがある。去年は反戦、今は反魔法師だ。金になると考えれば、次は別のものを叩くだろう。
デモでは社会はかわらない。
問題は、反魔法師運動にテロリストが関わって、社会不安を煽っている場合だけど、ニュース画面からはわからない。
隣に座る香澄さんが、ニュース映像を見ながら唇を強く結んでいる。
『魔法』は、魔法科高校に通う魔法師の卵たちの感覚では、生まれ持った能力を約20年の研鑽と努力で伸ばし、大学在学中に資格を得ないと、卒業後仕事にもつけない大変な道だ。
魔法教育は国策で、魔法師の卵は貴重なはずなのにドロップアウトを一切救わない。資格を持たない魔法師は、それまでの努力が無駄になり、一般企業で通常の仕事をするか、ナンバーズの非合法活動員になるか、犯罪者になるかだ。
しかも、ちょっとした事故やきっかけで、『魔法』は使えなくなる。
魔法師の世界は、一般人が考えるより厳しく不確かだ。
十師族の香澄さんも泉美さん、四葉家の関係者である水波ちゃんは、一高の誰よりも、そのことを知っている。そして、デモの目の敵にされている当事者だけあって真剣に、深刻に、このデモ騒動を受け止めている。
僕は他人事のようにニュース画面を見つめた。
世界情勢が不安な今、いつ戦争が起きるかわからない。デモを起こしている市民は、戦争が起きれば魔法師に頼らず、自力で自分と自分の大事なものを護れるのか。
僕は戦略級魔法師として国民の生命と財産を護る義務がある。でも僕は、反魔法師デモをしている市民、心象の悪い人物を護る気はまったくない。少なくとも優先順位が低い。
十師族として教育を受けた十文字先輩や真由美さん、隣に座る香澄さんは、それでも市民を護る義務があると言うだろう。
自分の身は自分で護るしかない。弱者は奪われる。
それがこの時代の、この世界の現実だ。愚か者に足元をすくわれるのは、輪をかけて愚か者だ。
超人的な『力』を持つ僕ですら、自分と大事な人を護るだけで手いっぱいなんだ。
温くなったお茶を『ピクシー』が人数分いれ直してくれる。
僕は『ピクシー』がいれてくれた緑茶を行儀よく飲みながら、そんなことを考えていた。
本来のHARの機能を発揮している『ピクシー』は、ただの機械だ。
いつもより、お茶が苦いのは気のせいだろうか。
今回、生徒会室に集まった久、香澄、泉美、水波。
実はこの四人は偽装だったとは言え全員、義姉妹になります。
原作でも水波は一高入学時、達也と深雪の母方の従妹と言う偽装設定でした。
達也の母方の姉妹は真夜しかいないので、水波は真夜の娘にとなります。
久も水波が入学当時、妹が出来たと喜んでいましたし(笑)。
澪は戦略級魔法師ですが、基本的に民間人です。
なので、国から慰労金と言う名の給金を貰っていますが、民間人なのでその額は大した額ではありません。
戦闘機が100億、戦車が10億としても、ものすごいコストパフォーマンスです。
個人の魔法力で国と国のパワーバランスを崩せる世界なのに、
一般市民はそそのかされてデモなんてやっている場合ではないですね。
戦争が起きれば、文句を言いながら逃げ惑うだけになるでしょうし。
次回は久しぶりのアクション回、予定です。