でも、『爆裂』も相当エグイ魔法ですよね。
寒冷化で天候が変化したこの時代でも6月は比較的雨が多い。
科学の進化で天気予報が外れることはほぼなっくなったそうだ。
学校前駅から一校への道には傘の花がいくつも開いていた。
その傘の色を「アジサイみたいだな」と、キャビネット乗り場に立つ僕はぼぅと見ていた。
誘拐事件が起きてから、僕は極力誰かと行動を共にするようにしている。
帰りは達也くんやレオくんと一緒になることが多いけれど、登校はみんな時間がばらばらなので、だれか友達がいないかなと探す。
誘拐組織は壊滅したけれども、同じような犯罪組織は世界にいくつもあるそうだ。
あるレベル以上の魔法師以外は、海外移動が容易になっている時代、未知の組織が突然目の前に現れてもおかしくない。
一校の生徒の多くが護衛をつけて身を守っているそうだ。
八雲さんとは、あの事件以降、特に連絡をとりあっていない。
誘拐事件のときはボランティアで助けてくれたけれど(僕の能力で支払ったようなものか?)、一度で終わらせておかないと、後々たくさんの借金を背負い込むような気がする
僕は探知系の能力をいちじるしく欠いている。情報収集力も家電以上携帯以下だ。誘拐のたびに組織を皆殺しにしていては、社会貢献にはなるけれど、面倒だ。
迷ったけれど、昨日、一校に入学してから初めて烈くんに電話で相談してみた。
「ふむ、わかった、手配しておこう。では九校戦で会えるのを楽しみにしているよ」
九校戦。夏休み中に行われる、魔法科高校対抗の魔法スポーツ大会か。
僕の成績や運動能力では選手に選ばれることはないだろうから、応援に行ったら会えるのかな?
赤点とって夏休み中に補習が無ければだけれど。
二ヵ月後か…そんなに頻繁に事件は起きないよね…
雨粒が傘をぽつぽつ叩いている。
僕は友達が少ない。21世紀初頭に大ヒットしたライトノベルのタイトルじゃないけれど、そうなのだ。
特に男子生徒の友人は壊滅的だ。同じクラスでは森崎くん。他のクラスでは、達也くんに、レオくん、新しくお友達になってくれた吉田幹比古くん…
女子生徒は比較的僕に好意的なんだけれど、上級生の女性陣は、僕を女の子あつかいするので困る。
できれば、僕を女の子あつかいしない人がいないかなぁときょろきょろしていたら、
「おはようございます、多治見君」
黒い傘を手にした市原鈴音先輩が僕を見つけて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「おはようございます、市原先輩」
丁寧に頭を下げて挨拶して、市原先輩を見上げる。
市原先輩は生徒会の会計をしていて、渡辺先輩と同じくらい背が高い綺麗な人だ。僕を女の子扱いしない数少ない女子の先輩の一人でもある。
生徒会と部活連の幹部の人は、4月の誘拐事件のことを知っていて、何かと気を使ってくれてる。登校時には一緒になってくれる時がある。
真由美さんや渡辺先輩は時々からかってくるけれど、市原先輩はそのようなことはしない。無表情なんだけれど落ち着いていて、ちょっとした気遣いをしてくれる。
「行きましょうか」
「はい!」
何より、その声には『絶対王者』の風格がある。三順先を見通さないと太刀打ちできない、あっさりと10万点差がつきそうな…ガクブル。
僕は市原先輩の後ろをとてとてと歩いて一校に向かう。
手をつないでもいいかな…と思っていたら、市原先輩は手が濡れるのも構わず手を伸ばしてきてくれた。
えへへ、って笑って市原先輩の顔を見上げたら、いつも無表情な先輩が少し照れたみたいだ。さすが照。
魔法科高校の授業はあいかわらず僕には難しい。来月にはテストもあるので、僕とレオくんは相変わらずひーひー言っている。
こんな難しい勉強で必ず上位に入っている僕の友人(レオくん以外)は本当に凄いな。
特に達也くんは凄い。教師よりも何でも知っている。魔法力のスペックだけが高い僕には凄すぎて良くわからないくらいだ。
「自分は普通に魔法力が欲しかったが…」
って達也くんは言う。達也くんも深雪さんと同じクラスになりたかったんだろう。それに魔法科高校に通う生徒はそれぞれ複雑な事情をかかえているようだ。
一校に入学して三ヶ月、気がついたことがある。
魔法科高校は十師族と師補十八家・百家のためにある。
魔法師の勉強も、魔法科高校はすでに基礎は入学前に学んでいることを前提にしている(僕が苦労するわけだ)。
中学在学時に魔法関係の塾に通って勉強するのが普通なんだそうだ。
必然、塾に通うだけの経済力が求められる。
護衛の件もそうだ、経済的に苦しい魔法師の卵は、有力家の保護下に入ることになり、結果、有力家は力を増す。
それ以外の生徒は、たとえ優秀でもナンバーズ出身でないと侮りの目で見られる。
国策なら、小中学校から、魔法以外もちゃんと教える教育機関を作ってほしいと思う。
十師族は国に尽くす立場にある、なんて高潔なことを十文字先輩が言うけれど、その先輩も十師族に強い思いがあるみたいだ。
優秀な魔法師は十師族の一員でなければならない、なんて考えていないといいけれど…
一科二科以外に差別しているのは十師族などの有力家もそうなのだ。
まぁ十師族の出身の人も色々大変な事があるのだろうけれど。
だからと言って、僕を女装させようとするのはやめてください真由美さん。ストレスははんぞー先輩で晴らしてください。
その有力家に無関係の魔法師は、誘拐組織以外にも狙われる。あまり権力の中枢にいない家や、企業だ。
入試成績リスト流出のせいか、勧誘がくる。
放課後、料理部にいた僕に、来客のメールがきた。またか…とげんなりする僕を部の先輩たちが励ましてくれる。
「それだけ、久は優秀な男の娘なんだって」
男の娘じゃないったらぁ。
学校の応接室で僕の向かいのソファに座る女性は、いかにも企業の人らしくかっちりとしたスーツ姿だ。
「わが社のCADが…」「メンテナンスが…」「信号化するスピードが…」
めずらしい紙のパンフレットを読みながら、よくしゃべるなぁと感心する。
僕のCADは烈くんがくれたもので、メンテナンスも烈くんが手配した会社をそのまま使っている。
だいたい僕はCADが苦手なので、授業以外ではほとんど触らない(だから上手くならないんだな…)。
優秀な魔法師はつぎつぎと有力な家にとりこまれるので、まだ1年の僕にも早々につばをつけに来る。
将来も目標も、そもそも卒業できてライセンスがとれるかどうかもわからないのに。
「そのときはわが社が高待遇で研究員の立場を…」
研究される立場じゃないだろうか…と元実験動物だった僕は勘ぐる。
前にいる女性も、とにかく必死で勧誘してくる。説明する内容の半分も僕にはわからないのに…
義理で、一定時間相手をすると、僕はいつものお決まりの台詞を言う。
「僕はまだ新入生でして、相談できる身内もいませんから、七草生徒会長か十文字克人部活連会頭に相談してからお答えします」
こう答えると、滑らかだった舌が急停止する。
僕がすでに七草家か十文字家の下にいると勘違いするのだ。
目に見えて落胆し帰っていくその女性の後姿を見送りながら、僕は普通に学生生活を送りたいんだけれどなぁ、と一人ごちる。
学校前駅までは達也くんたちと帰るけれど、そこから自宅までは、当然一人だ。
自宅近くの駅からは、前回の事件以降極力コミューターを利用している。ただ今日はお弁当の食材を買うために、周りを警戒しながらの徒歩だった。
僕が方向音痴なのはわかっているけれど、さすがに自宅までの道で迷うようなことは無い。
エコバッグを片手にスーパーを出れば、自宅までは数分の距離だ。
僕はいつも通り、とてとて歩いていた…
無意識に、いつもはまっすぐ進む十字路を、左にまがった…
疑問に思うことも無く歩み、左に、左に…あれ?ここどこ?
閑静な住宅街から抜け、駅近くの雑居ビル群のほうに戻っている。
おかしいな…僕は家に帰って…あっ、やっとついた。
僕はビルの建設現場を見つめている。建設現場だとわかっているのに、そこが自宅だと頭の中の誰かが言っている。
はやく帰らなきゃ…
ふらふらと立入り禁止の看板を跨いで乗り越え、鉄骨がむき出しのビルの中に入っていく…
あれ?ここどこかな…赤茶色の鉄骨があっちこっちむき出しで…
全然知らない、ビルの建設現場だ。
重機はエンジンがかかっているのに、誰もいない。
にゃぁ
足元で猫が鳴いたような気がした。僕の意識が足元に向く。
ぎっぃぃぃぃぎぎぎぎぎぎっ
頭上で、金属がこすれてきしむ変な音がしていた。
ふと見上げると、沢山の鉄骨をのせた大きな鉄板のワイヤーがたわんでいた。鉄板がぐらぐら揺れ始め、クレーンのフックからワイヤーがばちんと外れた。
鉄板が傾き、何十本もの大きな鉄骨が滑り、僕に向かって次々と落下してきている。
危ない…逃げなきゃと思っているのに、足元の猫を見ろ、と脳内の誰かが言っている。
僕は足元の猫に手を伸ばす…
あれ?いない…あっ鉄骨…
ずががががががっん
鉄骨が耳を聾する轟音とともに、次々と落下している。ある鉄骨は地面に突き刺さり、転がり、土煙があがって、地面を揺らす。
立っていられないほどの局地的な地震だ。
辺り一帯に響く轟音、呼吸が出来ないほどの土ぼこり。
なのに誰も建設現場に現れない…
土煙が消えた建設現場に、鉄骨が複雑にからまって転がっている。
コンクリート片や鉄パイプがあちこちに散乱している。
アレの下敷きになって、人間が生きている確率はゼロと誰でも思う惨状だ。
建設現場の入り口に、二人の大人が立っていた。
一人は、昼間魔法科高校に僕の勧誘に来たお姉さん。同じスーツを着ている。
もう一人は、スーツ姿だけれど、少しくたびれている感じの男。
お姉さんは驚きで、ぶるぶる震えていた。
「こっ殺したんですかっ!?」
「おっ俺はただ、あのガキの実力を測ろうと…」
男も自分の両手を見ながら震えている。その左腕にはブレスレットタイプのCADがはめられていた。
「だからって、過剰すぎるでしょう、もっと別の方法があったはずです社長っ!」
「うるさいっ!魔法科高校入試の魔法力主席のガキだぞ!あの程度の状況覆して当然の実力があるはずだ!」
「でも、社長の認識阻害魔法と幻覚が通じている時点で、それほど突出した実力があるとは思えませんでした!」
「何だとっ!」
男は血走った目を一杯に開いて、お姉さんをにらみつけた。
「俺の魔法は十師族にも負けない!この精神干渉魔法は誰にも破られない!俺を数字落ちにした連中は俺の魔法の価値がわからないんだ!」
震える指先を鉄骨の山に向けて、
「あいつはいずれ七草家に飼われるんだろうっ?俺をエクストラ落ちにした七草弘一の!あの七草弘一の部下になるなら敵だ!敵は芽の内に摘んでおくんだ!」
女性は男の剣幕に鼻白んだものの、いつまでもこの場にいては危険と判断したのか、
「とっとにかく、はやくこの場から逃げましょう、私の魔法もいつまでも作業員を遠ざけてはおけないですよ」
左手の携帯電話型CADを操りながら叫ぶ。
「そっそうだな…これは不幸な事故だったんだ、あのガキが他の有力師族の眷属にならなかった事をよしとしよう…」
男の乾いた笑いは、どこかイビツだった。
「僕をいじめて、楽しい?」
「「ひっいぃ!?」」
僕は、二人の後ろから声をかけた。二人は面白いほど飛んで驚いた。振り向きながらCADを構える。
「なっぁ?いっいつからそこに…鉄骨に押しつぶされたんじゃ…」
「そんなことするわけないよ。あんな大きなかたいのがあたったら痛いよ。二人が会話しているあいだずっと後ろに立っていたよ」
僕は『移動』した後、二人の会話を全部聞いていた。
探偵ドラマの犯人みたいに、聞かれもしないのにベラベラしゃべる間抜けな人たちだなぁって。
「何の魔法をつかった…」
男は呟きながら、こっそりとブレスレットに右手を滑らせる。またあの精神干渉の魔法を使うのだろう。
僕は残念だけれど、感知系の能力はないし、精神支配の魔法は苦手だ。ふいをつかれるとあっけなくダメージを受ける。
CADの操作も苦手だから『魔法』の発動もわずかに遅い。でもCADを使わない能力は人間の反応速度を遥に凌駕している。
男の左腕がブレスレットごと消える。男のCADを操作しようとした指が空振りする。
「え?」
男が痛みを感じるより早く、今度は右手が消える。血が吹きだす時間すらなく、右足、左足、が音も無く消え…
胴体と頭だけになった男が、どすんと地面に落ち、四肢を失った部分から、思い出したように血が吹き出る。
「あががっがががががぁ」
絶叫するも、転がることも出来ない男は、その場でばったんばったんと無様に暴れる。むわっと血の匂いが建設現場の匂いと混ざる。
「人間噴水みたいだね、お姉さん」
呆然と、男の姿を見ていたお姉さんの隣にたって、無感情で呟いた。
「ひっい?」
物凄い速度で振り向いて、僕から離れるお姉さん。
「ねえお姉さん、僕をいじめて楽しい?」
「ひいぃいぃ、いっいや来ないでっ!」
お姉さんが滑稽なくらい震えて携帯型CADを操作しようとするけれど、まったく魔法が発動しない。
「りっ…領域干渉…?うそ、なんでCADも使わないで…なにっ何なのあんた!はは…は…は…」
さっきから僕の質問に答えてくれない…踵の高い靴なんて履いて、背が高いな…みんな僕より背が高いから首が疲れちゃうな…
お姉さんの下半身を僕は、『飛ばした』。
上半身だけになったお姉さんが、べちゃっと地面に落ちる。上手いこと上半身だけで立って、僕を見上げた。
まるでおへそから下が地面に埋まっているみたいだ。
お姉さんの悲鳴が建設現場に響き渡る。なくなった下半身を探すように両手で、地面と自分の接地面をガリガリしている。
血と内臓がごぼりとあふれてくる。
僕は身長の縮んだお姉さんの前にしゃがんだ。お姉さんが僕を掴もうと手を伸ばすけれど、ぎりぎり届かない距離だ。
「ちょっ…うぉぞぉ…わた…し…しし…じぬ…ぅ」
人を殺そうとしておいて、何を言っているのだろう。…そうか、僕は人じゃないもんね。薄い紫色の瞳の化け物だ。
お姉さんの目は僕じゃない何か別のものを見ているようだった。
そんなお姉さんに僕は話しかける。
「昔ね、敵を殺すときは出来るだけ残酷に、他の敵が戦意を失うほど残虐に殺せって、偉い人が僕に言ったんだ」
お姉さんの血涙まみれの目が僕を睨んでいた。視線じゃ人は殺せないのに…
「僕はね逆効果じゃないかって思ったんだけれど、偉い人の言うことだから聞かないといけないよね」
四肢を失った男はまだぴくぴく動いていた。
だから僕は、すぐ近くに転がっていた鉄パイプを数本拾う。
上半身だけのお姉さんを男の方に『向け』て、
「ねえお姉さん、どっちが正解かな?えらい人?僕?」
と尋ねながら、男の致命傷にならない箇所を、鉄パイプでゆっくりと突き刺していく。
僕は非力だから、全体重をかけて、ぐいっぐいっと押す。
三本差したところで、男は動かなくなっちゃった。あれ?死ぬの早いな…差すとこ間違えたかな…
「ねぇお姉さん、どう思う?」
お姉さんは答えてくれなかった。
二つの変死体を見下ろしながら、どうしようかなと悩む。このままこの死体を放置していたら大事件だよね。
『飛ばす』かな…ん?
二人の女の子が、立入り禁止の看板の前に立って、こちらを見ていた。
二人とも顔を真っ青にしながらも、声も上げず、逃げたりもしない。
女の子のほかにも黒服を着た男の人が何人か現場を取り囲むように立っていた。
女の子たちの服装は、フリルやリボンをふんだんにつかった可愛い服で、黒い…どう見てもコスプレの類だ。
警察では無い様だけれど、
「こんにちは、あなたたちも僕の勧誘ですか?」
僕はご近所さんに話しかけるように、普通に聞いた。
この子たちも殺した方がいいのかな。偉い人は女子供も容赦はするなって言っていたし…
女の子の一人が、ゆっくり歩いてきた。
「こんにちは、多治見久さん。私はヨル、あの子はヤミ。主からのメッセージをお伝えしに来ました。」
次回からやっと九校戦に入れる…
原作は4月から一気に7月中旬に進んでしまうので、
6月になにかエピソード作れないかなと思い描きました。
あまり6月でなくても良い話ですが。6月に血の雨が降る…
お読みいただきありがとうございます!