澪さんを見送って、響子さんとホテル屋上のヘリポートに残る僕。
澪さんはヘリの小さな窓にへばりついて、僕たちを見下ろしながら、青空に消えていった…
今日は大会七日目、新人戦ミラージ・バットとモノリス・コードの予選が行われる。
僕は観客席でほのかさんや森崎くんの応援をしようと思っている。
「響子さんも一緒に観戦する?」
「ごめんなさい、そうしたいけれど…」
お仕事じゃ仕方がないね。響子さんは風のように去っていった…
響子さんと出会ってから数日、あまり打ち解けるほどは会話をできていない。
でも、僕と関わって迷惑をかけても悲しいから、これくらいの距離が良いんだと思う。
達也くんたちや先輩、光宣くんに澪さんも、僕と関わって人生を狂わせなければいいけれど…
こんな考えは、昔はまったく持たなかった。人と親しくなることは臆病にさせるんだな。
でも、これまで僕が関わっている人たちは今でも十分波乱万丈な人生を送りそうだ。
並大抵の精神力ではない人たちばかりな気がする。
「魔法科高校に普通の人はいない」
4月の雫さんの言葉は全てを語っている、と僕も思う。
観客席は九校戦のメイン試合開始とあって満員だった。深雪さんやレオくんたちのいる席に向かおうとしたんだけれど…
すっかり有名人になった深雪さんに、隙あらば話しかけようとする男子生徒が一高生以外にも周りに集まっていた。
深雪さんの隣の席が空いているからだ。そこは達也くんの指定席だから誰も近づけないよ。
エリカさんは周りのハエを追い払うべく八面六臂の活躍をしていた。
そのエリカさんが僕に気が付いて、レオくんが男子生徒をかきわけて僕をその空席に連れて行ってくれた。
ん?僕のために席をひとつ空けておいてくれたのか…みんな有難う!
でも、逆に周囲の男子生徒が増えた気がする…
一部生徒の僕を見る目がちょっと怖い…
やっぱり僕は外は苦手だ。九校戦が終わったら、家に引きこもろう。
宿題も沢山あるし。
ミラージ・バット決勝ではほのかさんとスバルさんが活躍して、ほのかさんが優勝。
でも、モノリス・コードでは事故が起きて、森崎くんたちが怪我をおってしまった。
深雪さんと雫さんと僕はあわてて一高のテントに向かった。
たいへんな騒ぎだった。森崎くんは重症だったけれど命に別状がないそうでほっとした。
モノリス・コードのファンである雫さんがフライングだって怒っていた。
いくら仲が良くないからって森崎くんの心配をしようよ、雫さん。
モノリス・コードはその後、達也くん、レオくん、幹比古くんがかわりの選手になって、翌日の決勝で三高に勝利して優勝をかざっていた。
観客席の前にそろった3人に惜しみない拍手がおくられて、深雪さんは涙をながして感動していた。
そういえば僕は、達也くんがCADの調整以外で魔法を使っている姿を昨日初めて見た。
勉強だけでなく、CADにも詳しくて、僕が負けた一条将輝選手にも勝ってしまう…
ほんとうに達也くんはすごいなぁ…
僕は達也くんになら…あげても…いいかな…なんて、ウソです。僕も負けないよう頑張ろう。
九日目の朝、僕は烈くんに誘われて、VIPルームで食事をしていた。
食事中は当然、九校戦の話が殆どだったけれど、僕が盛んに達也くんの事を賞賛するから、烈くんも興味を持ったみたいで、
「少し、会って話をしてみたいね、その司波達也くんに」
って言ったから、じゃあ僕が紹介してあげるねって烈くんを一校のテントに連れて行った。
外はこれまでの晴天とはうってかわって、今にも泣き出しそうな曇天だった。
烈くんにはお偉いさんや警護の人がぞろぞろついて来たから、僕はひとりで一高の天幕に入って達也くんを探したけれどいなかった。
ミラージ・バットで一高の選手がまた怪我をしたみたいでテントの中は重い空気になっていた。
スポーツに怪我は付き物だけれど、怪我をするのは一高の選手ばかりだな…
真由美さんに聞いたら、達也くんはデバイスチェックをしに大会本部にいるそうなので、烈くんと大会委員のテントに向かう。
大会委員のテントにはシステムチェック待ちの生徒の列が外まで並んでいた。
僕が生徒たちをよけて、中に入ろうとすると騒動が起きた。
一高の生徒…いや、達也くんが係りの人を取り押さえていた。
何があったのだろう、いつもとは違う物凄い殺気だ。
右手で手刀を作って、係りの人の首にすぅっとおろしていく…あの右手で何をする気なのか…
いつもの無表情な達也くんしか知らない僕は、テント入り口で立ち尽くしてしまった。
僕の隣にいた烈くんが、すっと前に出た。
「何事かね?」
「九島閣下」
烈くんの穏やかな声が、殺気だったテントを一変させた。
うぅん、達也くんが殺気を引っ込めたのかな…
達也くんと烈くんが難しい話をしている。紹介はできなかったけれど、結果的にOKなのかな。
やがて達也くんはCADを手にテントを後にして、烈くんもさっきとはちがって、大会役員を厳しいまなざしで見回していた。
忙しそうだな…
僕は烈くんに一声かけると、観客席に向かうことにした。レオくんが席をとっておいてくれているはずだ。
深雪さんのミラージ・バットは華麗だった。
あの衣装はもう少しデザインをどうにかできないかなと思ったけれど、深雪さんに似合わない服はないのだ。
第二試合で深雪さんは『飛行魔法』を使って圧勝した。その艶姿に、僕も満員の観客もただただ魅了されていた…
属人的な能力での『飛行』は僕も可能だけれど、めったに使わない。感知能力の低い僕が空に浮いたら、ただの的になってしまうし。
その『飛行魔法』を技術として確立するなんて現代魔法は感動的だな。
みんなと一緒にお昼ご飯を食べてミラージ・バット決勝までの時間…散策でも…と思っていたら、僕は迷子になっていた。
僕の方向音痴は…このホテルには10日もいるのに。
うぅ、夕方までに会場に戻れればいいや、と散策…もとい、右往左往していた。
「ん?」
ひろい駐車場から、なにか争うような音と声が聞こえてきた。
近づくと、そこではサングラスの大男と女の子二人が魔法で戦っていたんだ。
大男は観客席にいた、存在感の希薄な大男だった。
はじめ僕は、何かの魔法競技の練習かと思った。と言うのも、大男の方は殺気がなく、女の子たちの方もあまり緊張感がなかったからだ。
男の魔法は肉体を駆使した接近戦で、一発一発が重い、死にいたるような攻撃だった。
女の子たちの攻撃も容赦なかったけれど、どこか殺人を恐れている、相手を気絶または行動不能にすることを主眼にした攻撃だった。
女の子たちは、そっくりで、ボーイッシュな子とお洒落な子の双子だった。
双子の姉妹…一瞬『ヨル』と『ヤミ』を思い出したけれども、こちらの双子は雰囲気が陽性だった。
双子は少しずつ焦り始めていた。魔法を当てても、大男はまったくダメージを気にせず、次々と攻撃してくる。
大男の攻撃は単純で、双子は上手く連携して戦っている。でも、体力的な差が双子を追い詰めようとしていた。
どうしよう、僕には大男と双子、どちらも手助けする理由が無いし、どっちが悪いのかなんてもっとわからない。
公共の場で魔法を使っていれば、サイオンセンサーが反応する。ここは軍の施設だから、いずれは軍の人が来るだろうけれど…
でも、この二人を助けないと、今後の学生生活に差し障りがある予感がした。
うぅむ、僕はエスパーではないから未来予知なんて出来ないんだけれど。
まぁ大男を戦闘不能にしておいてから二人に事情を聞こう
僕は、烈くんを狙ってきた刺客にしたのと同じように、血液を少し『飛ばし』た。
それは双子と激しく争っている最中だったので、大男は派手に転んで、動かなくなった。
驚いていた双子だったけれど、僕の存在に気が付く。
「君が助けてくれたのかい?」ボーイッシュな女の子が僕に聞いてくる。
僕が頷くと、「自分たちだけで何とかできたのに!」と突然怒り出した。
そうは見えなかったけれど、本人が言うんだからきっとそうなんだろう。
「ごめんなさい」
僕は素直にあやまった。
すると、女の子は僕が謝ってくるとは思わなかったのか「うそうそ!助かったよ」と慌てだした。
結局、自力で倒せたのかどうか、良くわからない反応だ…困ったな。
とりあえず、何があったのか尋ねてみるか。
「お姉さまの応援に来ていて帰るところだったのですが、急に二人の大男に襲われまして…」
髪の長い子が状況の説明をしてくれた。
「二人?」
「あっはい、最初は運転手の名倉さんと連携して戦っていたのですが分断されてしまって…あっ名倉さんを助けにいかないと!」
「ちょっと待って」
いきなり森に向けて駆け出そうとする二人を押しとどめて、僕は烈くんに電話をした。
「会場裏の駐車場で襲撃事件が起きている。相手は大男、たぶん強化兵だ、一人は捕まえたけれど、もう一人交戦中だよ」
「ふむ、すぐ手配しよう、なにここは軍人だらけだ、助けは一分とかからないよ」
そのわりには、双子が戦っている間、救援が来なかったけれど…気づいていたけれど、様子見していた…?まさかね。
「うん、お願いするね」
電話をきると、二人にすぐ救援が来るからホテルに避難してくれるかな、とお願いした。
僕は二人と一緒にホテルに戻る前に、大男が逃げ出さないよう念のために腕と足の腱を『切断』しておいた。
大男は死んだように倒れていたけれど、軍の施設にこうも不審人物や強化兵が入り込めるってのは、大丈夫なのかな…
魔法科高校といい軍の施設といい、日本はスパイ天国なのかな?
いずれ紛争が起きたとき、他国のスパイや工作員がずかずか土足で入り込んでくるのではないだろうか…
十師族が力をつけて自分たちを守ろうとするのは、軍や警察への不審があるのかな…僕は不安になった。
救援の軍人さんはすぐに来てくれて、僕は二人を軍人さんにまかせると、会場にとてとて戻っていった。
双子が僕に声をかけたようだったけれど、僕の意識は深雪さんの試合までに戻ることに移っていた。
僕には無関係の二人だし、名倉さんと言う人がどうなったかは、僕には関係が無いことだ。
それより早く戻って、深雪さんの応援をしないと。
観客席で応援していないことに気が付かれたら、深雪さんに凍らされる…ぶるる。
…あれ?そういえば、あの大男は三人いたはずだけれど、もう一人はどうなったかな…
達也のモノリス・コードを二行で終わらせる。
こんなSSは他にない!(笑)
デバイスチェックの場に九島烈が唐突に現れたのは、
久が連れて行ったからと言う事情があったとかなかったとか…