パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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入学式と。

講堂の中は新入生でいっぱいだった。

花のエンブレムのある生徒が前に、無い生徒が後ろに綺麗にわかれていた。

入学案内にそんなこと書いてあったかなと思ったけど、達也くんは悪目立ちしたくないと後ろの席に向かった。

僕も達也くんについて行った。

達也くんは何か言いたそうだったけれど、僕の手は達也くんの制服の裾を握ったままなのだ。

決して迷子にならないためじゃないたら。

 

後ろの空いている席に並んで座る。

 

しばらくして反対側の空席に女子生徒が四人座った。

達也くんと自己紹介しあっている。僕も自己紹介したほうがいいのかな。

 

「あっあの僕は多治見久です。宜しくお願いします」

 

座ったままぺこりと頭を下げる。

快活そうな女の子が不思議なものを観るように達也くん越しにつぶやいた。

 

「ええと…女の子?」

 

「女の子じゃないもん男の子だもん。ちゃんと付いてるもん」

 

何がって?もちろん…

 

「一科生の方ですか?」

 

メガネの女の子が気弱に尋ねてくる。一科生だと問題あるのかな。一科生だと友達になれないのかな…達也くんはなってくれたけれど。

女の子は少し苦手だなと思っていると式が始まった。

校長先生が舞台に立ってお話をしている。

こういうのはすぐ眠くなるんだよなと思っていると、達也くんの肩をまくらにまた眠ってしまった。

 

 

ゆさり。達也くんに優しく起こされた。

式は寝ている間に終わったようだ…

始業式の後IDカードの交付があった。あいかわらず僕は達也くんの制服の裾を握っている。

 

 

「なんだか親娘みたい」って千葉エリカさんが言って、達也くんが微妙にへこんでいた。親娘?

 

クラス分けは僕がA組、達也くんエリカさん美月さんがE組、あとの二人は別の組でE組になりたかったって残念がっている。

僕もE組がよかったな。

後の二人がそれぞれホームルームに向かう。

「あたしらもホームルームに行く?」エリカさんが尋ねると、

「すまない妹と待ち合わせしている」と、達也くんの妹さんのお話になった。

美月さんが妹さんの入学式答辞を素敵だったと言っている。

新入生の総代を務めるって言う妹さんのことか。オーラがどうとか、僕も起きていればよかった…

 

 

「お兄様、お待たせしました」

 

僕たちが会話している廊下の講堂の方から一人の女子生徒がゆっくりと、でも少しだけ急いで歩いてきた。

黒髪の凛とした女性だ。なるほど背筋のすっきりとした感じが達也くんに似ている。

妹さんはもちろん僕より背が高かった。

僕より背の低い生徒はいない…んだろうな。

 

「こんにちは、司波くん、多治見くん。また会いましたね」

 

妹さんの後ろから七草会長さんが声をかけてきた。

達也くんは軽く頭を下げたが、エリカさんと美月さんはちょっと気圧されてるみたいだ。

僕は達也くんの身体の影に隠れつつ頭を下げて、七草会長の視線からさりげなく隠れる。

こんなとき小さい身体は有利だ。嬉しくないけど…

 

「お兄様、その方たちは?」

 

達也くんが僕たちを紹介してくれた。

 

「そうですか、早速クラスメイトでデートですか」

 

ん?なんだか少し涼しくなったような気がする。外は春うららかなのに。

 

「そんなわけないだろう、深雪を待っている間、話をしていただけだよ。そんな言い方三人に失礼だよ」

 

三人?エリカさん、美月さん、僕…

 

「ちょっと達也くん!僕は男の子だよ!今日何度目かなこの台詞…やっぱりこの髪切っちゃおうかな…」

 

「「「だめよ!!」」」

 

エリカさんと七草会長と、なぜか深雪さんの声が綺麗に、ほんとうに綺麗にハーモニーした。

何故だろう、達也くんもそうだけど、この人たちの声には逆らえなくなる魔力が宿っているぞ…

 

 

生徒会の用は日を改めてと七草生徒会長が気を使ってくれて(隣の男子生徒が何か言いたそうだったけれど)、

僕たち5人は帰りにエリカさんが見つけたというケーキ屋さんに寄った。

僕はケーキ屋もカフェも生まれて初めてだったから興奮してしまった。

快活なエリカさんも意外と行儀良くケーキを食べている。

4人とも間違っても口にケーキをいれたまましゃべったりしないのだ。

僕はもぐもぐと甘いケーキを食べながら、達也くんの話を聞いている。

達也くんは口数は少ないけれど、話しかけるとちゃんと答えてくれるんだ。

僕の知っている大人は、烈くん以外はそうじゃなかった人が多かったから…

僕は達也くんの話をキラキラした目で聞いている。

その僕の姿を深雪さんが優しい笑顔で見ている。学校での笑顔とは違う本当の笑顔だった。

 

入学式の翌日、僕は1-Aの教室に向かう。

相変わらず制服のサイズはぶかぶかで、とてとて歩く。

待望の学園生活初日なので、浮き浮きと階段を上がる。

やっぱり薬物が抜けた身体は軽く感じる。ドーピングはやっぱり良くないよね。

教室に入り端末で自分の席を確かめる。今日は端末もCADもちゃんと持って来た。

CADは受付に預けてきたけれど、今のCADの軽量化には驚きを隠せない。

僕が実験していた頃は、大型バス一台分もあったりしたのだから。

科学の進歩は凄いな。人間もそれに追いついて進歩していてくれると良いのだけれど。

僕は明るく楽しい学園生活を送りたいんだ。

 

そう思っていたのだけれど、教室に僕が入ると早速雰囲気が変わった。

「なんで子供が?」とか「昨日二科生とつるんでたガキだ」とか教室のあちこちから聞こえる。

わざと聞こえるように囁いているところが陰湿だ。

でもこれくらい気にしない。昔は悪魔だの化け物だのもっと酷いこと言われてきたから。

僕の沸点はかなり高いのだ。

 

再び教室の雰囲気が変わる。教室がざわざわと、僕の時とは違う熱のこもったざわざわだった。

僕は端末で履修登録や学校の施設、部活動なんかを検索していたので、深雪さんが隣に立つまでそのざわざわの原因に気がつかなかった。

クラスの視線が深雪さんに集まっている。その美貌に釘付けなんだろう。

僕はあまり人の美醜には心を動かされないので(醜いより美しい方がいいけれど)、深雪さんをクラスの男子生徒たちの様な目では見ない。

(第一、深雪さんには達也くんがお似合いだし)

と思っていたら、深雪さんが極上の笑みを浮かべた。クラス中の生徒からため息が漏れる。その笑顔には僕もドキドキだったけど…

あれ?今、僕、声に出してた?

 

「おはよう、久」

 

「あっおはようございます、深雪さん」

 

昨日のケーキ屋でおたがい名前で呼ぶように約束をしたんだ。

深雪さんは今日も姿勢正しく、所作のひとつひとつが綺麗だ。

深雪さんは端末を確かめると、僕の隣の席に座った。

 

「お隣ね、一年間よろしく、久」

 

「うん、こちらこそ。あっ昨日は達也くんにお金全部払ってもらっちゃってご馳走様でした」

 

「もう、昨日も何度もお礼を言われたわよ、あんなに美味しそうに食べている姿を見せられたら誰だってご馳走したくなるわよ」

 

昨日のケーキ屋の支払いは5人分達也くんが払ってくれたのだ。

なにしろ僕は端末やCADどころか一円も持っていなかったのだ。今は端末での振り込みやマネーカードが主流らしいけど。

 

「お昼ごはんは達也くんも食堂?」

 

「まだ朝よ、もうお昼のお話?ええ、そうよ」

 

そっかぁじゃぁお昼は急いで行かないと、と思っているとオリエンテーションが始まった。

他の生徒は深雪さんに話しかけるタイミングがなくなり、何だか僕を睨んでいる気がする。

オリエンテーションはしかめ面の先生がつまらない訓示じみた話をした。

A組は特に優秀なんだそうだ。僕は勉強は皆に比べて遅れているので(入試後も一生懸命勉強したけど)頑張らないと。

 

授業見学のときは深雪さんが僕の手をつないで連れて行ってくれた。

恥ずかしかったけれど、「あなた方向音痴でしょ、お兄様に聞いたわ」と言われ黙って引っ張られていく。

僕が深雪さんの隣にいると、なぜか誰も近寄ってこない。二人を中心に他の生徒と奇妙な空間の半円ができる。

あれ?深雪さん僕を壁にしてる?話しかけるなオーラを発しているような…ああこれが昨日美月さんが言っていたオーラなのか。

授業見学ではモリサゲくんが張り切って先生の質問に答えて滑っていた。

でも大勢の前で失敗を恐れずに挑戦する姿勢は僕も見習わなくてはいけないな。

 

授業見学の最後、深雪さんは他の生徒に囲まれていたので、僕は先に食堂に向かった。

 

「久ぁー、こっちこっち!」

 

食堂に入るとエリカさんが声をかけてくれた。

達也くん、エリカさん、美月さんに、もう一人男子生徒がいた。堀の深いかっこいい人だ。

 

「皆さんこんにちは」

 

きちんと挨拶をすると、男子生徒が「君が多治見久くんか。西城レオンハルト、レオでいいぜ」と挨拶してくれた。

あっ、一校に入って、初めて女の子扱いされなかったぞ。レオくんは絶対にいい人だ。

達也くんと同じご飯を選んで来て、隣に座る。一口大に切られた卵焼きをほお張る。もぐもぐ…

 

「どうかしたのか?」

 

急に無言になった僕に達也くんが尋ねてくる。こう言う細かいところにすぐ気づくのが達也くんだ。

 

「美味しい…美味しいんだけど、思ってたよりは美味しくない…かな」

 

「学校の食堂じゃぁこんなもんじゃないのか」

 

と一人食べ終わっていたレオくんが言う。

僕は昔は薬物で味覚が死んでいたから気にならなかったけれど、今はもの凄く敏感になっている。敏感すぎて偏食になるかもしれないな。

そうだ料理部に入って料理の勉強をしよう。

さっき検索したとき料理部があった。活動に融通が利くそうなので勉強と両立できると思う。

僕は、美味しいご飯さえあれば幸せなんだ。

 

お互いのクラスの情報を交換しながらご飯を食べていると、深雪さんが急ぎ足でやって来た。

そこでA組の生徒と達也くんたちと一悶着があった。

モリサゲくんがブルームとかウィードとか大声でわめいている。

魔法師として誇りを持つなら人間として尊厳を持って欲しいと思うけど。

達也くんが気を使って席を立ち、エリカさんたちも文句を言いながらも大人の対応をした。

僕は一人取り残されて、もぐもぐとご飯を食べていたけれど、隣からものすごい怒気と冷気を感じる。

あれ?茶碗蒸しシャーベットなんてお昼ごはんのメニューにあったかな?

シャリシャリ。

 





久は人を美醜より、姿勢や声や態度で判断します。
声優さんの声は魔的ですよね。
なので、深雪の美貌もそれほど気になりません。
次回。モリサゲくんの大活躍と、全一科生合同授業で久が始めての模擬戦で全生徒の度肝を抜く。

原作の部分はさくっと進めていきます。
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