パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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サンルーム

 

 

寒冷化が進んだ時代、季節はかなり早まっている。

外気はもう冬の気配がするけれど、四葉家のサンルームは弱い日差しが心地いい。日向のにおいがする。

 

深雪さんの目は真冬の冷たさで僕を見ている。達也は深雪さんを僕から隠すように立つ。

 

…嫌われちゃったのかな…なんでだろう。コンペ会場で僕が侵入者を残酷に殺したからかな…一高生たちが僕に向ける視線とは違うような気がするけれど…

二人にお土産を持ってこなかったからかな…でも二人がいるって知らなかったし…

 

「久…お前は、四葉家と…いや、叔母上とどういう関係なんだ?」

 

達也くんは警戒感も露に尋ねてくる。ん?

 

「叔母上って誰のこと?」

 

達也くんは『しまった!』って顔になったけれど、気を取り直して、言った。

 

「四葉真夜、俺たちの母親の妹のことだ」

 

「えぇ!?達也くんたち真夜お母様の親戚なの!?いいなぁあんな綺麗な人が家族なんてっ!」

 

「おっ、お母様!?」

 

深雪さんが淑女にあるまじき声をあげた。

 

「久…お前が…いや俺が『視た』お前は、四葉とは関係は…なかった…いや…」

 

達也くんが少し考え込んでいる。深雪さんは、いつもの微笑みの仮面が崩れて憂い顔だ。

 

「久、貴方はいつから叔母様のことを『お母様』って呼んでいるの?」

 

深雪さんが達也くんのかわりに聞いてくる。

 

「今年の8月。あぁみんなと南の島に行ったよね、雫さんの。あの日の二~三日前に初めてあったんだ。だから今日は会うのは二回目だよ。ほらこうやってお土産も作ってきたよ」

 

僕は片手に持った包みを軽く持ち上げる。リンゴの甘い香りがしている。

 

「学校で紅茶のお菓子について聞いてきたあのことね」

 

「うん、『ヨル』さんと『ヤミ』さんにもあげたよ。あとは葉山さんにも。達也くんたちがいるって知っていたら二人の分も作ってきたのになぁ」

 

深雪さんも何だか考え込む表情になった。入れ替わって、達也くんが再起動した。

 

「それで、一体どういう関係なんだ?」

 

「ん?あっそうか、二人には言って…いや学校の友達には誰も言ってなかったか…僕、4月に犯罪組織に誘拐されたんだ」

 

「えっ?」

 

「?」

 

それまで警戒が強かった二人の態度が、軟化したのが雰囲気でつたわる。僕は簡単に説明した。

 

「4月下旬に誘拐事件があって、そのときは無事助かったんだけど…いや物凄く痛かったけど…

6月にもどこかのナンバーズの家の人に襲われたりしてね、その時『ヨル』さん『ヤミ』さんがいてね。

主が会いたいって言うから8月に会ったんだ。真夜お母様も昔同じような経験をしたから、相談に乗ってくれるって。

その後はときどき電話でお話するだけだったけど、勉強とかアドバイスしてくれて、おかげで僕最近成績あがっているんだよ」

 

僕のわかりにくい説明を二人は真剣に、脳内で整理しながら聞いているようだ。

 

「でも…どうして『お母様』なの?」

 

「ほんと初めは『お姉さん』って呼ぼうとしたら、さすがに無理があるから『お母様』でってことになったんだ」

 

「「…」」

 

こんな硬直する二人をみるのは初めて見た。

 

そこに、ドアをノックする音がした。

達也くんが気を取り直して「どうぞ」と言うと、ドアの隣に控えていた女の子のメイドさんがドアをあけた。

 

黒に近い、ロングドレスの女性がサンルームの中を一瞥してから、ゆっくり入ってきた。

当然、真夜お母様だ。

 

僕は、お土産の包みをテーブルに置くと、とてとて駆け出し、そのままばっと、真夜お母様のお腹に抱きついた。

 

「「「なぁ!?」」」

 

達也くん、深雪さん、それとメイドの女の子の三人が絶句していた。

 

「真夜お母様、お久しぶりです。今日はお招きいただきありがとうございます!」

 

「うぇ…ええ、お久しぶりですね。久」

 

真夜お母様も少しぎこちない…ような気がする。僕は抱きついたまま真夜お母様を見上げる。

 

「えへへっ」

 

「どうしたの?」

 

「うん、お母様、今日も凄く綺麗です。お母様のお顔を直接見れて、僕凄く嬉しいんです!」

 

この1週間、響子さんも澪さんもいなくて、実は物凄く寂しかった僕は、ついつい涙目になっていた。

 

「…あっ…ありがとう、私も久に会えて嬉しいですよ」

 

「えへへ」

 

真夜お母様は、僕と、椅子から立ち上がっていた達也くんと深雪さんを交互に見て、物凄く照れていた。

達也くん、深雪さん、メイドさんは、ほとんど凍って固まっていた。サンルームは暖かいのになんでだろう。

 

みんなが席に着く。僕は真夜お母様のおとなりだ。お土産のパイとスコーンをわたすと、お礼を言って、すぐに包みをあけた。

うん、一番上手くできたパイだ。それをメイドさんが用意したナイフで切り分けてテーブルに並べる。

 

達也くんが最初に一口食べて、顔を上げて頷いた。何だか毒見みたいだ。大丈夫だよ何にも変なもの入ってないよ。それをみて真夜お母様も一口食べて、

 

「とっても美味しいですよ。ん…ほんとに美味しいわね…これ」と、もう一口。

 

えへへ、やった。喜んでもらえた。

 

 

 

「横浜では大変でしたね」

 

少し落ち着いてから、真夜お母様が言った。

 

「うぅん、僕は自分だけ守っただけだから、市民や生徒を守っていた真由美さんや深雪さんみたいに凄くないよ…」

 

実際、横浜で僕は自衛しかしていない。誰かのために戦うなんて弱っちいな僕には無理だ。

真夜お母様はカップを上品にコースターごとテーブルに戻すと、

 

「ところで、九島烈先生とはどういうご関係なの」

 

と聞いてきた。達也くんと深雪さんがすこし緊張したみたいだ。どうしたんだろう。

 

「昔のお友達だよ。といっても半年の付き合いだったけれど。今の家も用意してくれて…」

 

「その家で、五輪澪さんと同棲しているんですってね?」

 

達也くんと深雪さんがぽかんとしている。はじめて見る顔だ。

 

「同棲じゃないよ、澪お姉ちゃんとはお友達だよ」

 

「でも週の半分は泊まっていくんでしょう?」

 

「うん、いつも一緒のベッドで寝ていて、そのあいだ手をつないでいてくれるんだよ」

 

いやらしいことなんて何もない。

僕は子供だし、澪さんは子供体型だし…あっいやこれはゲホンゲホン…

 

「藤林響子さんと婚約しているって本当?」

 

ぶほっ!

達也くんがコーヒーを吹き出しそうになって、目の前に真夜お母様がいることを思い出したのか、無理やりコーヒーを飲み込んでいる。

げほげほむせている達也くん。

 

「大丈夫ですかお兄様…」

 

「…大丈夫だ」

 

深雪さんが達也くんの背中を撫ぜている。ほんとに羨ましいくらい仲が良いな。もう結婚しちゃいなって!

あれ?深雪さんの機嫌がよくなった。また僕口に出してた?

 

「響子さんとは婚約(仮)だよ。親戚からのお見合い攻撃を止めるための方便だって」

 

「でも藤林響子さんも澪さんと同じくらい久の自宅にお泊りしていくのよね」

 

「うん、よく『川の字』になって寝てるよ、だって家はベッドがひとつしかないし…どうしてそんな事聞くの?」

 

響子さんは澪さんと違って柔らかい…どこがって?どこだろう。

あとお願いだから寝るときはパジャマのズボンははいて欲しい。はかないと澪さんもジャージの下を脱ごうとするんだ…

 

「久のお母様としては、息子の交際相手の事は気になるでしょう?どちらと将来結婚するつもり?」

 

「澪さんも響子さんも僕とは結婚はしないよ。だってあんな綺麗な大人の女性、大人の男の人が放っておくわけないもん」

 

「久から見ても魅力的なお二人なのね?」

 

「うん。でもお母様も綺麗で素敵だよ。僕が大人だったら絶対ぷろぽーずするよ!」

 

何だか言わされているような気がするけれど、本当のことだからいいや。

真夜お母様も満足そうに微笑んでいるし。

達也くんは驚きまくって百面相になっている。

その達也くんの姿に、笑いをこらえている真夜お母様。

ひょっとして真夜お母様は達也くんのこの表情を見たくて、今日僕を呼んだのかな?

 

ふいに、真夜お母様は、僕と深雪さんを交互に目をやって、

 

「そうやって並んでいると、本当の姉妹みたいね。5年前の深雪さんがいるみたいだわ」

 

「僕は男の子だよぉ」

 

今日の僕は男物のジャケットを着ている。腰まで伸びた長髪は、男らしくないけど。

達也くんが少し考え事をしている。

こういう表情の達也くんは無駄にかっこいい。深雪さんが見ほれている。

 

 

 

真夜お母様が、深雪さんを昼食に誘ったけれど、深雪さんは達也くんをちらっと見てから断っていた。

そのまま帰宅するって。叔母と甥、姪なら一緒にお食事していけばいいのに…

 

昼食は、僕と真夜お母様とで簡単な物で済まし、午後、残っていたスコーンで紅茶を楽しんだ。

夕食までは、僕は、くつろいでいる真夜お母様の隣で『ジキル博士とハイド氏』を頑張って読んで、勉強のわからないところを教えてもらったりした。

とっても穏やかな時間で心が落ち着く…

 

夕食は凄く豪華で、僕はこんなちゃんとしたディナーを食べたのは初めてだった。

真夜お母様の係りは当然と言うべきか葉山さんで、僕の担当はさっきのメイドの女の子だった。

女の子は、なぜか僕より緊張していた。

真夜お母様と葉山さんと僕は普通に談笑しながら(僕が学校であったことが中心だ)お食事している。

 

食後、お茶をしているとき。

 

「これは少し難しいお話なんだけれど…」

 

と、真夜お母様が少し前置きして話を始めた。

 

「久が横浜で倒した『発火念力者』なのだけれど、どうやら米軍の特殊工作兵だったようなの」

 

ん?どうして真夜お母様はあの戦闘のことを知っているのだろう。

僕は生徒会役員でも十師族でも軍人でもないから、あの『発火念力者』のことは誰にも言っていない。

 

「あんな二流のテロリストが米軍の?」

 

二流でも僕はかなり手こずった…思い出すだけで自分が情けない。

でも米軍ならもう少しちゃんとした能力者を派遣するんじゃないだろうか。

 

「ん?米軍?横浜のときの敵は大亜連合じゃなかったっけ?」

 

「ええ、どうやら、米軍は裏で消極的に大亜連合を支持していたみたいね。あの『発火念力者』は建前上脱走兵になっていたわ。あまり有能な工作員を送るわけにはいかなかったと言うことかしら…」

 

なるほど、『能力』も汎用性に乏しい『発火念力者』が『魔法師』を襲う、と言うのは見せかけだったのか。

ただあの男は、たしかに『魔法師』に隔意があった。演技ばかりとは思えなかったけど…

 

「米軍は工作員を倒した人物のことを徹底的に調査するでしょうね。脱走兵に偽装していても、米軍が消極的にとはいえ大亜連合に協力していた確かな証拠なのだから」

 

「それは…僕が米軍に襲われるってこと?」

 

「そこまではないでしょうね、久が倒したって記録はどこにも残っていないから」

 

残っていないのに真夜お母様はどうして知っているのか…綺麗な女性には秘密が多いなぁ

 

「ただ、原因究明のために久や一高の周りを調査しに来る可能性は否定できないわ」

 

コンペ前、九重八雲さんが「次は君が標的になるかも」という忠告をしてくれたけれども、『僕の価値』とは違うレベルで狙われるようになるのかもしれない…

真夜お母様が「護衛をつけましょうか?」と言ってくれたけれど、僕は少し考えて断った。

今だって烈くんの手配してくれた護衛が遠巻きに警護してくれているし、澪さんがいるときはそれこそ国家レベルだ。九重八雲さんもそれとなく気にかけていてくれるし、すでに護衛銀座状態だ。

 

真夜お母様は、お茶を飲みながら、じっと僕を見ている。

葉山さんが、そこが定位置とばかりに真夜お母様の斜め後ろに立っている。

僕の後ろに立っている女の子はどんな顔をしているのだろう…

 

 




引きこもりなオリ主の久くんが、ナイトウォーカーな吸血鬼もどきやスターズとどうからめるか、ずっと考えていました。
原作中で米軍は消極的に大亜連合を手を結んでいると言っていたので、
久が横浜で元スターズ工作員と戦っているところを、米軍は衛星カメラ撮影しています。
しかし、真夜が妨害工作で衛星と街頭カメラの映像を破壊します。
なので真夜は工作員と久が戦ったことを知っています。
映像は撮れなかったけれど、現場の状況や証言から、スターズは久が工作員を倒したことを突き止めます。
マテリアルバースト真相究明という大きな理由で達也とリーナが戦っている横で、吸血鬼騒ぎに巻き込まれた久は米軍にも狙われる…みたいな?

街頭カメラやセンサーが町中に張り巡らされれているという原作中の設定は、とっても厄介です。
映像をごまかせる人物が仲間にいないと全部記録に残ってしまう。
まぁ響子さんが全部消してくれれば万事解決ですが…汗。
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