パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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小悪魔

 

 

一高生の僕に対する態度は、先週ほどではないけれど相変わらずよそよそしい。

ただ僕個人にというより、達也くんも同様の扱いを受けていて、深雪さんの不機嫌が続いている。

前線で戦っていた先輩やレオくんたちはいつも通り僕たちに接してくれて、料理部の先輩たちも、極力以前どおりにしていてくれる。

 

僕は気にしないようにしていた。そんなことより今日は、澪さんが出征する金曜日だ。

 

メールでは心配ないって言われたけれど、ひとつに意識が向くとそのことばかりに集中してしまう癖はここでも発揮されている。

戦場に安全地帯なんてない。一日中そわそわ落ち着かなかった。

だから部活もしないで、一高前通りのスーパーで適当に食材を買って、早々に帰宅することにした。

横浜から二週間、僕一人だったので、食事は適当だ。お弁当も夜ご飯の残りを適当に詰めて行っている。

 

僕の家は一高と魔法大学の中間のかつての練馬区といった地域にある。この家は烈くんが用意してくれたんだけれど、一人で住むにはホント大きすぎるな…

澪さんと響子さんが家に住む様になって二ヶ月ちょっとなんだけれど、二人がいないとなにか心にぽっかり穴があいた感じになる。僕の依存性は進む一方だ…

 

玄関のロックを解除して廊下の照明をつける。無人の家は、どこか冷たいな…

とぼとぼと歩いて、無人の台所のドアを開ける。

 

とたん、照明が点灯し…

 

「お帰りなさい!ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」

 

「うわぁ!?」

 

エプロン姿も初々しい、新妻ごっこをする響子さんがお約束の台詞で僕を迎えてくれた。

 

「響子さん、その台詞は前にも言いましたよぉ」

 

感知系がダメダメな僕は、それはもう驚いた。心臓が口から飛び出るかとおもったよ…

ここは面白突っ込みをするところなんだけれど、いきなりで嬉しくって、ほかに言葉が浮かんでこなかった。

二週間ぶりの響子さんはあいかわらずのお茶目さんだ。僕はなんだか安心してしまった。

 

「どうしたの?」

 

僕の表情を敏感に察してたずねてきた。

 

「響子さんが軍人さんだって知って、どう接したら良いか考えていたんだけれど、いつもの響子さんで安心したんだ…」

 

「軍人っていっても、私はデスクワークがメインだから、普通の会社員とあまり変わらないわよ」

 

『電子の魔女』のいる職場ってどんな会社になるのか。

デスクワークがメインなので、響子さんが本当に忙しいのは戦いの後の事務処理になるんだそうだ。

そうだよね、ドラマの刑事みたいに捜査だけしていれば良いわけじゃないものね。報告書や書類つくりのほうが時間がかかるんだし。

『相棒』の『杉下右京』さんは犯人を捕まえるだけで、その後の書類は『イタミン』さんたちが書いているんだよね。功績は半々になるわけだ。

 

「響子さんはずっと防衛省にお勤めだと思っていたよ」

 

「まぁ間違ってはいないんだけれど、私が軍属なのは普通に公表されているから、所属部隊以外は秘密じゃないんだけれどね」

 

「達也くんも軍人さんだったなんて驚きだけれど、あの姿勢の正しさとか口調が軍隊っぽい所は今思うとそうなんだなぁって」

 

「達也くんが軍属だってことは内緒よ、口外すると冗談抜きで捕まっちゃうから」

 

「後輩のシスコンが達也くんだったとは…」

 

「それを私が言ったって事は達也君には、絶対、絶対に内緒よ!冗談抜きで!」

 

その剣幕に、僕はたじろぐけれど、いちもにもなく同意する…

 

「ところで…このリンゴの箱は?」

 

響子さんは台所の隅に積まれている木箱に視線を向ける。

 

「間違えて注文しちゃって…五個のつもりが五箱で配達されちゃって…」

 

「くすっ、相変わらずの機械音痴ね」

 

毎日リンゴなんて減量中のボクサーじゃないんだから、今は保存が利くようにリンゴジャムをつくっている。

 

「だから家の中が甘い香りに満ちているのね」

 

うふふ、っと笑う響子さん。響子さんと婚約(仮)になって三ヶ月。こういう表情をするときはよからぬ計画を立てていることを僕は学んでいる。

たぶん仕事場の人間関係でストレスを溜めているんだな。まわりに良い男の人はいないのかな…

僕は子供だから、響子さんを満足させてあげることはできないし…

 

そんな事を考えている僕を、響子さんが微笑みをたたえながら見下ろしている。

うぅ…なんだか今夜の響子さんは、ものすごく色っぽい…どきどきする。

 

「ねぇ久君、一緒にお風呂入ろっか?」

 

土器…いや、ドキッ!

 

「いっ…いやそれはだめ…だよ、結婚前の男女が一緒にお風呂なんて…」

 

響子さんの左手が伸びてきて、僕の頬のあたりの髪を撫ぜる。

 

「髪…綺麗なのに、横浜で少し焦がしちゃったんですって?」

 

焦げて不恰好になっていた僕の髪は深雪さんが綺麗に整えてくれた。

『発火念力者』との戦闘中、邪魔でしょうがなかったから「短く切りたいな」っていったら笑顔で拒否られた。

あの『発火念力者』と背後の米軍のことを考える…

今後のことを考えると響子さんを巻き込んでしまうんじゃないかと不安になる。

 

その表情をみて、「…じゃあ髪を洗ってあげるわね、それならいいでしょ」

 

と優しく言ってくれた。

 

「うん…それなら」

 

 

僕は基本、疑うことをしらない…小悪魔には格好の餌食だ。

 

 

脱衣所で服をぬいで、一人お風呂に入る。実際、長い髪はお風呂に入るのも不便なんだよな…

座椅子に座って、シャワーを全身に浴びながら、浴室の温度を上げる。

お風呂掃除も響子さんや澪さんがいつ帰ってきても良いようにしたばかりだから、かび臭かったりもしない。

湯気が浴室に満ちる。僕の怪我はもうすっかり治っている。

 

自分の手足を見る。凄く細いな…簡単に折れそうだ。レオくんみたいながっしりとした体型に憧れるなぁ。

でも鍛えようと腕立て伏せしたけれど、5回とできなくて…僕は貧弱だなぁ。

そんな事を考えていたら、浴室の扉が開いて…

 

 

バスタオルをつけない、一糸纏わぬ響子さんがお風呂に入ってきた…

 

「のわああ!?ちょっと響子さん、何してるの!現代のドレスコードは人前に肌をさらさないんでしょ!」

 

「あら、私たちは婚約しているんだもの、問題なしでしょ」

 

両手を前に出して視界から響子さんを隠す。指の隙間から見えてなんていない…

 

「問題だらけですよぉ!」

 

ほあわぁ!見ちゃ駄目だ見ちゃ駄目だ見たい…見ちゃ駄目だ見ちゃ駄目だ…

 

「ほら、髪洗ってあげるから、背中を向けていれば見えないでしょ」

 

この小悪魔は言う。響子さんに背を向けて背中を丸める…響子さんが膝を突いたのが音でわかる。

ふと前を見ると…

うわぁ、目の前に鏡があるぅ!湯気の向こうに、響子さんの裸…

 

ぬあわぁ!見ちゃ駄目だ見ちゃ駄目だ見たい…見ちゃ駄目だ見ちゃ駄目だ…

 

僕の家は『暦お兄ちゃん』のアニメ版のお風呂と違って、二人はいると狭いんだよ…

でも、人に髪を洗ってもらうって気持ちいいな。しばらくすると、僕も力が抜けて、響子さんに全てをゆだねる気分になる。

 

シャワーで泡を洗い流すと…「背中も洗ってあげるわね」とのたまう…

 

「ほえぁ?いっいいよぉぉおあああ?」

 

僕の背中に柔らかい温かいものがむにゅむにゅあたっているよ…

ちょっ、スポンジ使おうよ、『暦お兄ちゃん』みたいに手で洗うって…あっ響子さんの手、温かくて気持ち良いな…でもぉ。

響子さんは僕のもじもじな挙動にご機嫌だ。絶対に僕をからかって遊んでいる。

 

…あっいや前は自分で洗うから…ほんと、平気だから、うわぁ僕の身体の向きをそっちに向けないで…

僕は非力だから抵抗できないんだよ…あっ響子さんの膨らみの…あっ、いや僕はこれから目を瞑っているから!絶対開けないから…

甘い吐息が僕の全身をくすぐる…

 

そこは自分で洗うから…え?昔、光宣くんとお風呂に入ったことがあるから平気?僕は平気じゃないからぁ!

 

僕は洗われた…それはもう綺麗に。

 

「あっありがとう、じゃぁ僕は出るから…」

 

目を伏せたまま逃げ出すようにお風呂から出ようとすると、がしっと、腕をつかまれ、抱えあげられ、湯船に入れられる…

 

「だめよ、ちゃんとお湯につかって温まらないと」

 

いえ、僕もう身体が熱いです…

 

ちゃぽん。えっ?響子さんも湯船に入るの?だめだよ…そんな…

 

「ぼっ僕背中向けてるから、響子さん後ろに入って!」

 

うぅ、お風呂で体育座り…

 

「久君、お風呂、まだ隙間あるわよもっとこっちに背中を預けていいのよ~」

 

「いいですこのままで…僕100数えたら出ますからぁ」

 

「そんなカチカチじゃだめよ、しっかりリラックスしないとね」

 

響子さんが僕の両肩を掴むと、そっと自分の方に引き寄せる。

僕は、響子さんのすらっとして水滴をはじくみずみずしいほんのり赤い膝のでもそれなりに鍛えられた引き締まって無駄のない綺麗な両足にはさまれ…うあぁ僕何こと細かく説明しているんだぁ!

 

むにゅあり…

 

あっあああ!当たってます、なにか僕の細い背中になにかが当たっていますぅ…

考えないようにしようとしても、本能が、意識がそこに向かってしまいますぅ…

 

僕は…悩乱しまくって……過呼吸…

 

「さっ先に上がりますっ!!!!」

 

響子さんの腕の力が抜けた隙に、湯船から飛び上がって逃げる。びしょ濡れのまま、お風呂から出る。

その時、つい、ちらっと、響子さんの、白い身体を見…いっいや断じて見ていない!

響子さんが、超小悪魔な表情をしていたなんて、見ていないんだからぁ!ふぇええん。

もうお嫁にいけない…いやお婿だ…ぐすん、僕、遊ばれちゃった。

 

 

 

パジャマに着替えて、お風呂の熱気も冷めないまま、ベッドにぐったり座る。

なんだか疲れたけれど、響子さんも元気そうでよかった。

これでストレスが発散されたんなら、僕の犠牲は無駄じゃなかったんだよ、うん。

 

ガチャリ…

 

「あっ響子さん、お風呂どうでした…あぁあああああ?」

 

寝室のドアが静かに開き…そこには、バスタオル一枚の響子さんが…

 

…あっ綺麗だ…僕はぼうっと見とれてしまった。

 

響子さんは、怪しく微笑むと、僕に迫ってくる。

僕がベッドで少し後ずさると、響子さんの片膝がベッドに乗る。ベッドがぎしっと音をたてる。

響子さんのほんのり上気した顔が目の前にある。シャンプーの良い香りが鼻腔をくすぐる…

 

「今夜は夫婦水入らずね…あなた」

 

うわぁー僕は、10歳なんだよ、戸籍上は16歳で、実際は四捨五入すると100歳だから、なんの問題もない…

えっ?なんの問題…?

 

僕は…響子さんの、潤んだ唇に、吸い寄せられるように、自分の唇を…

 

 

 

 

 

 

バッタアアアアアアンッ!

 

 

 

 

 

 

すさまじい音とともに、寝室の扉が開いた!

 

 

 

「ちょっと響子さん!なにやっているんですか!久君はまだ子供なんですよ!!」

 

「えあっ?澪さん!?」

 

そこには修羅と化した、戦略級魔法師・五輪澪さんが立っていた。怒髪天を突きまくる表情…

僕は十三使徒といわれる当代最強の魔法師の気迫とプレッシャーを全身に浴びていた。

 

こっこれが、戦略級魔法師の実力…?いや違う…けど、違わない…

 

『咲-Saki-阿知賀編』であのレジェンド『赤土晴絵』に10年もの間トラウマを与えた『小鍛治健夜』の姿が、そこにある…このSSで澪さんのビジュアルは『すこやん・小鍛治健夜』なんだ。アラサーだよぅ!

 

「あら?澪さんは今頃、佐世保から出航して、東シナ海に向かって船の上だったのでは?」

 

響子さんがいかにもまじめくさって尋ねる。

 

「出征は中止になりました。そのことは昨日公表されているはずですよ!響子さん!」

 

澪さんの出征は大亜連合とのこれ以上の関係悪化を防ぐ穏健派によって中止になったそうだ。

強硬派はそれでも澪さんを出航させようとしたけれど、穏健派には有力な十師族がいたらしく、結局は中止に。

国防軍の派閥争いに辟易していた澪さんは、チャーターしたヘリでさっさと東京に向けてとびたったそうで…

 

 

…響子さんは、今日、澪さんが帰ってくることを知っていて、あんな意地悪をしたんだっ!

 

「ちょっと惜しかったかな…」

 

ぼそっと響子さんがこぼす…いやいや18禁指定してないんですよこのSSは。

 

「ちょっと警告タグのR-18をチェックするだけなのよ」…ってそんなメタな台詞はやめてぇ!

 

はぁ、僕はため息をつくと、澪さんを見つめる。

二週間ぶりに会う澪さんは少しやつれているようだ…

 

僕は「お帰りなさい」って澪さんを抱きしめた。

凄く細い、弱弱しい…この折れてしまいそうな小さな身体で、この国の運命を左右する立場におかれているんだ…

澪さんの五輪家は、十師族としてそれほど有力ではないそうで、国防軍の派閥争いに表立っては意見できないみたいだ。

今回も他の十師族の口ぞえがあったから帰れたんだそうだ。十師族でもいろいろあるんだなぁ。

僕が支えてあげられればいいんだけれど、僕にはそんな力はない…

澪さんは僕を力強く抱きしめ返して、

 

「久君、今日からは私は、もうずっとここに住みます」

 

「は?」

 

「緊急ヘリは近くの公園のグランドを使います!許可もとりました!」

 

「へ?」

 

こうなると澪さんは人の言うことは聞かない。戦略魔法師である澪さんはある程度のわがまま…もとい、融通が利くそうだ。

すごく逞しい。

小悪魔な響子さんも、くすっと笑っている。

 

澪さん帰宅後は、あわただしかった。

特に戦勝に沸くこの国ではあちこちでパーティーが開かれている。

当然、この国でも最重要人物の澪さんは、あちこちから招待を受けることになる。

澪さんはあまり公式の場に出たがらないので多くは虚弱を理由に断っているけれど、断るわけにはいかない場もある。

今上帝主催の晩餐会、首相主催、国防軍トップ主催、この三つは無理でも出ないと行けないそうだ。

当然、どこの馬の骨だかわからない僕はその三つには付き添いすらできない。

 

ただでさえ、消耗していた澪さんはこの三つのパーティーで完全グロッキー。

僕や響子さんは色々と気を使って、体力回復を手伝い、まるで召使のようにお世話をして…

引きこもりクィーンはもはや引きこもり女皇帝にランクアップ。

朝、僕が学校に行くときの悲しい顔は…あぁ後ろ髪ひかれまくる…すぐ帰りますからぁ。

11月の残り二週間はずっとそんな感じだった。

 

12月最初の土曜日夜、十師族合同のパーティーが行われた。

澪さんの体調を考えて、十師族のパーティーは一回だけにするそうだ。

同じ十師族は家族という建前から、付き添いはある程度自由なんだそうで、今回は僕も付いて行くことになった。

響子さんも藤林家の代表として参加するって。

パーティーは社交的な家として知られている七草家が主催なんだそうだ。

 

七草家…真由美さんのお家か…何も起きないよね。

僕と澪さんは同じリムジンに乗って、七草家のお屋敷に向かった。




響子さんは、このSSではお色気担当です。
澪さんは、お色気…えーと。

久の立ち位置的に十師族と会う機会なんてないので、今後の伏線を張る流れでオリジナルを3話続けます。
これもオリ主目線の一人称文の弊害でもありますが、ころころ視点が変わるのも読みにくいので。
お読みいただき有難うございます。
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