パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

36 / 128
お見舞い

翌日、体調は完全とはいかないけれど、日常生活には問題ないくらいサイオン量は戻っていた。

自分でもこの回復には驚いている。激しい運動でもしない限り平気だ。そして僕は運動音痴の料理部部員だから、運動なんて絶対しない。

 

朝、早起きして三人分のお弁当をつくる。澪さんも響子さんも遠慮したけれど、僕は人に何か出来ることが嬉しいんだ。

 

弁当と勉強道具(こんなの持って行くの僕くらいだ)を持って、キャビネットで学校へ。

キャビネットを一高前駅で降りると、ほぼ同時に市原先輩もキャビネットから降りていた。目が会う。

 

「おはようございます、市原先輩」

 

「おはようございます、多治見君」

 

市原先輩は後輩の僕にも丁寧に話をする。知的で静かな市原先輩と一緒にいると僕は落ち着く。他の人にはさらっと毒舌を吐くけれど、僕にはしない。真由美さんみたいに僕をいじって遊ばないから安心だ。

 

「学校まで一緒でもいいですか?」

 

「構いませんよ」

 

ぶっきらぼうだけれど、どことなく優しさを感じる。やっぱり知的なところが達也くんに似ているな。

学校まで一緒に歩いていると、市原先輩がふと、

 

「多治見君…少し背が伸びました?」

 

「え?」

 

そういえば、ぶかぶかの制服がすこし縮んだような気がする。

いつもいるメンバーではなく、久しぶりに会った市原先輩だから気がついたのか。

 

僕の成長を止めるほど無意識で使ってしまう『回復』は、寝ているときは働かない。

最近、僕はよく眠れている。二人の美女に囲まれてよく眠ると言うのも、アレだけれど。

そのおかげで、成長している…これはまずいのではないだろうか。

今は僕が子供だから響子さん澪さんと『川の字』でも、道徳的(?)にもSS的にも問題はない。

でも、僕が少し大きくなったら、R-18のタグを押すことになるシチュエーションになってしまうのでは…

 

1-Aの教室、論文コンペのころのぎすぎすはなくなっていた。

日常の僕はごくごく普通の…絶世の美男の娘(?)だ。僕の上目遣い(背が低いから必然そうなる)瞳うるうる攻撃に耐えられる生徒はいない。

でも、男のプライドとして、そんな行為はしない。していない。涙もろいから結果的になっているかもしれないけど…

 

 

深雪さんの席の周りに美女が集まっている。リーナさん。ほのかさん、そのほか生徒大勢。

 

「おはようございます」

 

挨拶しながら人垣を掻き分けて、深雪さんの隣の席に座る。

 

「ヒサっ!あなた大丈夫だったの?」

 

リーナさんが僕の元気な姿に過剰なほど驚いていた。綺麗な青い目が見開かれている。一日休んだ程度なのに、どうしてそんなに驚くんだろう。まるで死人が生き返ったみたいな反応だ。

 

「ただの体調不良だから。立ちくらみで倒れたけど、一日休んだら全然平気」

 

『あれで立ちくらみ程度?…どうなってるのよ…』

 

英語でぶつぶつ呟いている。

 

「立ちくらみって…久も女の子なんだから気をつけないと…」

 

深雪さんがまじめな顔で心配してくれている…はずだ。まぁ普通はアレだけのサイオン損失は意識不明の重体になるだろうな。一日でほぼ回復して学校には登校できないだろう。

リーナさんが首をひねりながら青い目で僕をみていた。

 

放課後、僕はレオくんのお見舞いに行くことにした。他のメンバーは昨日もう行っているので、今日は都合が合わず僕だけ。

一人で迷わず行く自信はないけれど、そこは問題ない。

普段、僕は学校と自宅の往復だけなのでキャビネットを使う。

4月以降、烈くんが雇ってくれた護衛は遠巻きに僕を守ってくれていた。

どちらかと言えば、護衛より不審人物の確認だったんだけれど、論文コンペ以降は僕が嫌がっても、警護がそばにいる事になった。

さらに、お正月に僕は烈くんの生駒の家で新年会に参加している。

これはある一定レベルの情報を知る組織なら僕が九島家の派閥、もしくは庇護の下にいることを公に知ることになった。

警護の人たちの真剣度は以前とは比べようがないくらい高まっている。

僕としては不用意に外出できなくなったんだけれど、もともと引きこもりなので問題ない…ないのかな?

一番危ないのは一高付近と通学以外の場所だ。自宅周辺は澪さんの警護で国家レベルの安全地域だ。

今日はレオくんの病院に行く予定だと、朝連絡をしていたので、護衛の人が車を用意してくれている。下手に遠慮をすると、逆に周りに迷惑をかけることになる。名家の人たちもいろいろと大変なんだな…

 

僕の警護の人は二人、清潔感のある社会人の男性。いかつい雰囲気はなく物腰も柔らかい。でもかなりの腕利きだ。

一高の卒業生でもあったので、僕の九校戦での試合もテレビで見ていてくれたそうだ。

ただの護衛以上に親切にしてくれている。

規定どおり、二人の顔を確認。IDも確認して、4人乗りのセダンタイプの電動カーに乗る。これで僕は安心してレオくんの病院に行ける。

 

病院は中野の警察病院。中野駅の北側で一高からはそれほど遠くない。

都心が近いのに公園の緑も回りに多い環境も良いところだった。

 

受付で名前を告げる。僕が病院に来ることは先に連絡しているので、スムーズにレオくんの病室に案内された。

警護の警察官がドアの前に立っている。僕は身分証明書を見せて、レオくんの病室に通された。

レオくんの病室は広くて、逆に一人の部屋としては広すぎる感じだ。

 

白いベッドにレオくんは寝ていた。綺麗なお花を活けた花瓶が棚に飾られていた。

半身を起こそうとするレオくんを僕は制する。

 

「いいよ、レオくん無理しないでよ」

 

「いや、別に無理でもなんでもないぜ、むしろやることが無くてヒマでさ」

 

思ったより元気そうだけれど、そんなわけはないと思う。

 

「いや、昨日はきつかったけど、今はちょっとだるい…くらいに回復してるぜ」

 

強がりではないみたいだ。レオくんの回復力も相当凄いんだな。

 

「ゴメンね、レオくん。僕は何も出来なくて」

 

僕はレオくんに謝る。あの夜、僕はレオくんを助けずに放置している。

 

「何で久が謝るんだ?むしろ、俺が妙なことを口走ったせいで、会頭や会長がお前の家に行ったんだろ、俺が謝る方だぜ」

 

謝罪の認識にずれがあるけれど、修正もできないし、僕はただ「うぅん」って首を左右に振った。

 

「久も体調崩して昨日は学校休んでいたんだろ、無理するなよ」

 

「僕のはただの立ちくらみみたいなものだったから、一日寝ているのは退屈だったよ」

 

「そうなんだよな、それに病院食じゃ足りなくて、腹もへるしよ」

 

わかるよ、お腹すくんだよね。そこで僕はお見舞いにチョコレートや甘いお菓子なんかカロリーの高いモノを持ってきた。

ちょっと高価なものから駄菓子っぽいものまで幅広く。

病院食に飽きていたレオくんは凄く喜んでいた。その後は色々な駄菓子の話で盛り上がった。

レオくんは縁日とか駄菓子なんか日常の何気ないことに詳しくて、凄く面白かった。

 

意外と話し込んで面会時間がきりぎりになっていた。僕は長居をして恐縮したけれど、ヒマよりよっぽど良いぜって、レオくんは喜んでくれていた。その顔には疲労があった。ほんとうは、かなりきつかったのかも…悪いことをしてしまった…

 

病院の外は薄暗くなっていた。真冬の空気が冷たい…マフラーと手袋持ってくればよかったな。

警護の人を待たせてしまった…車は…駐車場にとまっている。

あれ?病院から僕が出てきたのに、車から警護の二人が降りてこないな…寝てるのかな?

車に近づいて、色の濃いウィンドウを覗く。ふたりはぐったりしていた。寝ているにしては全く動かない。

呼吸も止まっているような…死んでいる…?死んでいるのかはウィンドウ越しではわからない。でも、僕やレオくんと同じような症状みたいだ…

リアドアのハンドルに手をかけて、ドアを開けようとするけれど、鍵がかかっていて開かない。ドアを叩くけれど反応しない。

 

どうしよう、ここは病院だし、受付に行って事情を話せば、二人を見てくれるかな…

 

ざっ。

 

意外な大きな靴音に、顔を上げると、外国人の男性が少し離れたところに立っている。僕を見ていた。

 

ざっわああぁざわあああ

 

あの音が聞こえる。あのときの『怪人』とは違うけれど、同じ存在だと思う。

その男は僕を見たまま、両手をあげて手のひらを見せた。敵意はないという魔法師のポーズ。

ゆっくり近づいてくる。ポーズをしているけれど、信用はできない。レオくんを、ひょっとしたら護衛を襲ったのはあいつらなんだ。

僕はじっと男を見つめる。体重をすこし落とす。集中する。

 

僕は、用心して自分の周りの空間を『捻じ曲げる』。見た目では僕の周囲はなんの変化もない。

でも、その男は僕の『念力』に反応した…

『魔法師』では気がつけない変化に気づいた…

 

こいつも『サイキック』だ。

 

僕は横浜でのことを思いだして、警戒を強めた。

 

僕は小さくて弱弱しい。近づく男を前に、車を背に少し腰を落として固まる姿は、どうみても不審者を前にした少女のおびえるそれだ。

男はちょっと困った顔になる。距離が5メートルくらいになる。

 

 

「久君、伏せてっ!」

 

聞き覚えのある声が僕に警告を発した。

 

渦巻く風が、男を襲う。男はとっさに避けるけれどコートがびりびり切れていく。

男が飛び退って後ろに下がると、今度は、僕の横をバネのような躍動感で、

 

「はあああああっ!」

 

警棒を振りかぶったエリカさんが、男に切りかかった。

男はかろうじて初撃は避けたけれど、返す刃を脇に受けて転がった。そこに、カマイタチが追撃。

 

「エリカさん?幹比古くん?」

 

そう言えば、今日の昼、いつもの学食で二人がこそこそ話していたな。いつも幹比古くんをからかうエリカさんが珍しく厳しい顔をしていた…

 

「久っ下がっていなさい!」

 

エリカさんの剣術で鍛えた腹式呼吸からくる、厳しい声に僕は素直に下がる…

二人は、男に次々と攻撃していく。

幹比古くんの魔法や、エリカさんの剣術は横浜のコンペ会場のときより速い。

エリカさんの得物が真剣なら、あの男はとっくに血しぶきを上げていたと思う。

達也くんといい、レオくん、幹比古くん、エリカさん、この4人の1-Eの二科生に勝てる1-Aの一科生が何人いるのか…

達也くんのまわりには凄い人が集まっている。これも達也くんの魅力なんだなぁ。僕も…魅了されている一人だけれど。

 

二人の絶え間ない攻撃は、僕に援護の間を与えなかった。

でも男に触れられるだけで、力を奪われるのでエリカさんも警戒気味に攻撃しているし、CADも使わない攻撃に幹比古くんは戸惑い決め手にかけている。

 

駐車場での戦闘は、僕から少しずつ離れていった。

 

 

 

ざぁああわぁぁぁ

 

 

僕の後ろから羽音がした。慌てて振り向くと、もう一人、いた。外国人の女の姿をしているけれど、『怪人』の仲間だ。

 

女は物言いたげな目で僕を見つめると、きびすを返して走り出した。

エリカさんたちから僕を引き離すのが目的みたいだったけれど、こいつがレオくんを襲った犯人かもと思うと、思わず追いかけてしまった。

 

「久っ!駄目よ!」

 

「くっ、久君、追っちゃだめだっ!」

 

後ろからエリカさんと幹比古くんの僕を引き止める声が聞こえたけれど、ひとつに集中すると他に意識が行かなくなる悪癖は直らない。

僕は女に導かれるまま、追いかける。駐車場の隣の広い公園まで走る。付かず離れずの距離で公園に駆け込む。

 

 

 

公園の広場で女が立ち止まった。

 

その瞬間、女の胸がいきなりはじけとんだ。心臓が砕け、血が飛び散って、女はどさりと倒れた。

 

「えっ?何?」

 

いきなりの展開に、僕はついていけない。

 

僕は立ち止まって、発砲音のしたほうを見た。

赤いマスクの黄金の眼の少女が銃を片手に僕を見つめていた。あの夜、あの公園にいた、『魔法師』だ。

少女のすさまじい圧力は消えていない。殺気は僕にも向けられている。

少女がいきなり銃をしまう。思わず僕の視線は銃を追う。少女の反対の手にCADが握られていた。サイオンの煌き、少女が『魔法』を使う。

 

銃は一発だけだったのか、僕の視線を誘うのが目的なのかはわからない。でも、僕も躊躇なく『能力』で少女を攻撃する。『魔法』と『サイキック』なら僕のほうが圧倒的に早い。

 

僕の『念力』は少女を…傷つけず、そこの空気だけが揺らめいた。

 

え?僕の攻撃はあたったはず…

 

そう思った刹那、少女の魔法が発動。そのスピードの差はほとんどなかった。

 

強大な電撃が僕の小さな身体を貫く…はずだった。

仮面の少女が放った『電撃』は僕の頭頂部に落ちるはずだった。でも、電撃は僕の右腕を掠めてそれた。

 

「!?」

 

「!?」

 

直撃するはずだったはずの『電撃』がそれたことに敵が驚き、歪めた空間でもっと遠くに『電撃』が落ちると思っていた僕も驚いた。

敵の事象干渉能力と空間の把握は横浜の工作員を遥かに超えていた。

しかも、『電撃』の威力はすさまじく、右腕にかすった程度でも僕の小さな身体は弾き飛ばされた。

 

「ぐあっ!?」

 

右腕から、全身を走る激痛に、一瞬、意識が飛んだ。僕はその場に膝をついた。

 

制服の右袖が焦げている。僕は痺れてしばし動けない…これは…必殺の一撃だ…一撃で殺せる『魔法』。

ただ、体内に魔法を通すことは難しい。しかも僕の圧倒的なサイオンは必殺の魔法をかなり防いでくれていた。

それでも直撃していたら、死んでいた。常人なら直撃どころか、かすっただけでも死んでいる。

もし初撃が『電撃』でなく、あの女を倒したような『魔法の弾丸』だったらもっと大怪我をしていたかもしれない。

『魔法師』が『魔法』に頼る弊害が僕を救っていた。怪我は大したことがない、電撃に神経が一瞬びっくりしただけだ。

 

「くっう…」

 

なんとか立ち上がろうとする僕に、少女は瞠目していた。

一撃で殺すつもりだったんだ。

 

僕は一高の制服を着ている。困ったことに、僕は魔法師の世界ではそれなりに有名人になっている。

九校戦はテレビで全国に放送されているし、九島家、五輪家との関係はもはや公然の情報だ。

とくに、九島家との関わりは、敵対すれば、この国では立場がなくなるほどの後ろ盾だ。

四葉家との関わりは誰にも知られていないけれど、僕を誘拐や襲撃するのは、何も知らないアウトローか、あの怪人のような奇妙な存在か、もしくは十師族に渡り合えるだけの大きな組織…

 

僕は真夜お母様の言葉を思い出した。

 

こいつは…米軍っ!?

 

そんな事を考えていると、少女が片手にコンバットナイフを持って、僕の横に立っていた。

アレを首でも心臓でも刺されれば致命傷だ。

 

少女は躊躇なく僕にナイフを突き立てる!

 

しかし、少女の攻撃は、僕に当たらなかった。怪訝に思う間もなく、もう一度ナイフを振るう。でも当たらない。

僕はもう気を取り直して、空間を『捻じ曲げている』。さっきよりも強力に。これは『魔法師』では防げない。

 

僕の魔法力や術式を力技で弾き飛ばしでもしなくては、僕の『サイキック』は防げない。

そんな魔法師は…あれ?いたような気がする…けど…えぇと…

 

いっいや、そんな事を考えている余裕はない。

少女は『電撃』を放つけれど、見当違いのところに落ちる。

僕はここにいる。でも僕の周囲はこの空間にない。魔法は発動できるけれど、届かず、適当なところに落ちる。

戸惑っている様子が良くわかる。マスクの少女は、状況の唐突な変化に微妙についていけない。僕に似ている。

これが達也くんなら冷静に対処しちゃうんだろうなぁ…

僕は、マスクの少女を真っ二つに引きちぎろうと『念力』を使う。

でも、さっきと同じだ。少女のいる空間が揺らめくけれど、少女はそこに立っている。

そこに確実にいるのに僕の『サイキック』が当たらない…?

僕も戸惑う。

少女は僕が攻撃していることに気づいている。僕が攻撃するたびに怪訝な顔をしているのがマスク越しにわかる。

僕がCADも使わず、どんな『魔法』使っているのか考えているようだ。

この程度の『念力』はどんなセンサーにも探知できない。『魔法師』の常識にとらわれていては僕に勝てない。

 

黄金の目と、薄紫色の目が、お互いの攻撃が当たらず、膠着状態になっていた。

いつもならこの当たりで僕がボケをかますところなんだけれど、無言の相手では独り相撲になる…

 

目に見えているのに、いない。でもそんなに遠くにはいないだろう。殺気や圧力をいやなくらい感じる…

公園ごと『飛ばす』か…公園内にいないかもしれない…どうしようか。

 

迷っていた時間はわずかだった。

 

「久っあああああー!!!」

 

「久くーん、どこにいるんだい、いるなら返事してっ!」

 

病院の方からエリカさんと幹比古くんの声がする。あっちの勝負は終わったのかな?

 

マスクの少女は歯軋りすると、物凄いスピード(でもさっきのエリカさんのほうが早い)で、倒した女に駆け寄り、肩に担ぐと、あっという間に走り去った。

 

僕はボケも突っ込みもする余裕がない。

はっきり言って『魔法師』としては、僕には手も足も出ない存在だった。

『怪人』に遭遇して、用心して空間を『曲げて』いたから助かったけれど、いきなり襲われていたら、僕は死んでいたと思う。

 

「ふぅ…」

 

緊張が弛緩して、僕はベンチに腰をおろして息を吐いた。

戦闘は凄く短い間だったけれど、物凄く疲れた。仮面の少女のプレッシャーに命をごりごり削られた気分だ。

胸を撃たれた女の血痕と、僕の右袖のこげた制服が激しい戦いのあった証拠だ。

 

エリカさんと幹比古くんが走ってくるのが見えた。僕は座ったまま手を振った。

 

「久君っ!大丈夫?」

 

「へへぇ逃げられちゃった」

 

幹比古くんの質問に、苦笑しながら僕は答える。

 

「あの血痕は?あの量なら致命傷だと思うけど!」

 

広場にまき散らかされた血痕と肉の破片を、厳しい顔のエリカさんが指差す。

 

「アレをやったのは僕じゃないよ、横から掻っ攫われたんだ、この汚れはそのときの『魔法師』の攻撃のだよ」

 

僕は公園で起きたことを簡単に、仮面との戦闘の部分は割愛して説明した。

怪人の仲間を追ってここまで来たけれど、赤い仮面の『魔法師』に女は殺され、僕が『電撃』を避けている間に、死体を担いで逃げちゃったって。

 

「私たちや警察、十師族のほかに別の組織が動いているってこと…?」

 

「…わからないな」

 

二人が相談をしている。

 

「そういえば…」

 

「なに?」

 

エリカさんが不機嫌そうに聞いてくる。

 

「駐車場で二人が戦っていたやつはどうしたの?倒したの?」

 

「うっ…」

 

「逃げられたわよ!今、家の門下生が追っているわよ!」

 

不機嫌を通り越してゲキオコにエリカさんがなった。こういうとき、被害にあうのは幹比古くんだ。エリカさんのイライラを一身に受けている。

幹比古くんが僕を恨めしそうに見る。僕はしれっと横を向いた。

 

エリカさんの剣術道場の門下生たちが駆けつけてきた。怪人は完全に見失ったそうだ。

 

僕は、エリカさんと幹比古くんと警察病院の前にもどった。警察病院の受付で事情を話し、警備の人を助けてもらう。

二人は意識不明の重体だった。命が助かるかどうかは生命力しだいだって。

エリカさんもつきそってくれて、警察に事情を説明する。エリカさんの存在のおかげか、すぐに開放されたけれど、この吸血鬼騒動は他人事ではなくなっていた。

 

僕は夜は出歩けないから、エリカさんたちの報復部隊に協力はできないし、どうすれば良いだろう…

 

帰宅後、僕の制服(袖が焦げて、ズボンも土がついていた)を見た澪さんは驚いていた。事情を話すと、心配された後、物凄く怒られた。

赤い仮面のプレッシャーにも引けをとらない気迫に、僕は涙目で「ごめんなさぁい」って謝った。

 

戦略魔法師の澪さんの怒プレッシャーに匹敵する、あの『魔法師』はいったい何者なんだろう。

本当に米軍なんだろうか…

 

「ちょっと!久君反省してますか!?」

 

「ふえぇーんごめんなさーい」

 

今夜の澪さんには、僕の必殺上目遣い涙目哀願も通用しなかった…

 

 

 




レオが入院していた、中野の警察病院。
中野駅の北口、区役所の近くに本当にあるんですね。
地図で確認してびっくり。
現実には隣に公園はありませんが、劣等生の世界は人口減少時代ですから緑も多くなっていることでしょう。

お読みいただきありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。