僕が、赤いマスクの少女(?)と戦った翌日の木曜日、警備会社の担当さんから連絡があった。
警察病院に入院していた二人は重体だったけれど、意識を回復して命の心配はなくなったって。よかった。
二人は、僕やレオくんのようにサイオンを奪われたのではなく、血液だけが失われて、脳が酸素欠乏になっていたそうだ。
失った血液が多かったせいで、酸欠にショック症状が出ていたけれど、輸血と『治癒魔法』のおかげで助かったそうだ。
今はまだ集中治療室で面会謝絶なので面会はできないけれど、一般の病棟に移ったらお見舞いに行きたいので連絡してくださいとお願いした。
報道では、『吸血鬼』に襲われた被害者は少しだけ血液が失われていたといっていたけれど、『吸血鬼』が『怪人』だった場合、被害者は『幽体』を奪われるはずだ。
血液だけって…
ん?それは、僕が九校戦のビップルームで暗殺者の血液を『飛ばして』意識を奪ったのと同じ…
護衛が意識を刈られるだけですんだのは、車内にいて怪人が触れることが出来なかったからかな?
怪人の一人は『サイキック』だった。わざわざ『念力』で車の鍵を開けて、『幽体』を奪うなんて手間を避けたのか?
わからないけれど、なんとなく『怪人』は僕の護衛を殺したくなかった、僕と対話をしたいのでは…漠然とそう思った。
すでにレオくんと僕自身が被害にあっている状態で、対話なんてできない、とも思う。
あの赤いマスクの少女(?)は米軍なのかな?軍人にしてはコスプレ臭が…
でもどうして『怪人』を米軍が殺しているのだろう。ボランティアじゃないよね。
あの赤いマスクの少女が米軍だとしても、狙いは僕よりも『怪人』の方だ。
レオくんが襲われたあの日も、仮面の少女は『怪人』を追っていたし、昨夜、少女は僕のことを明確な殺意で攻撃してきたけれど、『怪人』を追ってきた途中でたまたま目撃者の殺害を図ったような気がする。
真夜お母様が言っていた。僕は米軍に狙われている。
少女の第一目標は僕ではない。工作員を倒した僕を殺害するのに、あの赤いマスクの少女はレベルが過剰すぎる気がする。
別の暗殺者がいると思う。物量は米軍の伝統だ。一人や二人ならともかく、延々狙われ続けてはたまらない。相手を殺しつくすまでに、僕の周りの人を巻き込むのは確実…
昔みたいに、敵の中枢を『飛ばす』にしても、相手は超大国だ。容易くない。
でも、おかしいなとも思う。どうして僕を殺そうとするのか。ほかって置いても、うぅん、ほかって置いた方が安全だ。
横浜の工作兵を米軍と結びつけるなんて、ただの高校生に考え付かないと思う。
僕は真夜お母様から教えられたから知っているけれど、あの工作兵が自分から米国工作兵と暴露しないかぎりわからないだろう。
今の僕を殺すのは、逆に、あの工作兵の素性を日本の魔法師が探るきっかけになるかもしれないのに。
下手をすると米軍は世界最強の魔法師集団でもある十師族を敵に回すことにも繋がる。
米軍は仲間を殺された報復を考えているのか?それならわかりやすいけれど。
僕が米軍に狙われるかも、と教えてくれたのは真夜お母様だ。
僕が米軍に狙われている証拠はない。真夜お母様に植えつけられた幻想なんじゃ…
わからないな。僕は頭はよくないし、混乱して真夜お母様を疑うようなことを考えてしまう…
正直、米軍の問題は僕個人には荷が重い。
そんな事を、学校に向かうキャビネットの中で考えていた。流れる街の風景をぼぅと見ている。
少なくとも、一高の登下校中に狙われる可能性は低い。『怪人』の問題もこの状況では深入りしない方がいいと思う。
あの羽音に似た声は小さいけれど、時々聞こえてくる。正直この音も僕の気持ちを削っている。
どうすれば良いんだろう。烈くんに相談しようか…
僕は制服のポケットから携帯端末を取り出した。本当は迷惑をかけたくはないんだけれど、この問題は放置して置くと状況が悪化しそうだ。
唐突に、手に持っていた携帯端末が鳴った。端末の画面を確認すると、
「えっ?真夜お母様?」
慌てて僕は電話にでる。
「もしもし、真夜お母様ですか?」
「おはよう、久、ごきげんはいかがですか?」
電話から聞こえる、真夜お母様の声は、物凄く優しかった。その声を聞いたとたん、僕は涙がこぼれてしまった。
「おっおはう…おはようござ…ぃます」
「どうしたの?泣いているの?何か困ったことがあるのなら『お母様』が力になってあげますよ」
「うぇ?でもお母様にご迷惑はかけられない…」
「私は久の『お母様』なのよ、息子の困難は『お母様』が何とかするものでしょう」
『真夜お母様』が心配してくれる。『お母様』には頼っても良いんだ…
君の周りには複雑に蜘蛛の糸が絡まっている。
以前、九重八雲さんがそう言っていたことを何となく思い出したけれど、『お母様』に頼るのは間違っていないよね。
僕は、今置かれている状況を説明した。米軍の対応は僕には困難だって…
「そう、わかったわ、『四葉』の力で、米軍には手出しが出来ないように働きかけましょう。安心して」
そんな事が『真夜お母様』と『四葉家』には出来るんだ。すごい。
僕には『真夜お母様』に頼るしか方法がないのだから、「お願いします」って電話なのに頭を下げてお願いした。
こんな簡単に解決できるなんて、『もともと米軍に狙われてなんかいなかった』なんてオチだったとか。
まるで、僕の困難を知って、絶妙なタイミングで救いの手を伸ばしてくれたみたいだ。
『真夜お母様』は凄いな。嬉しいな。『四葉家』には『達也』くんも『深雪』さんもいる…もっと仲良くなりたいな。
僕の憧れや依存性は、精神支配のひとつなのかもしれない。
駅前でキャビネットを降りる。一高前の通学路に、兄妹と友人たちを見つけて、僕はとてとて駆け出した。
あれ?エリカさんと幹比古くんがいないな。レオくんはまだ入院中だ。
僕が声をかけるより早く、達也くんが振り向き、深雪さんも同時かそれより早いタイミングで僕に気がついた。
「達也くん、深雪さん、ほのかさん、美月さんおはようございます!」
「おはよう」「おはよう久」「久君おはよう」「おはようございます久君」
達也くんは朝から両手に花々状態だ。兄妹二人の距離は今日も近い。いいなぁ。でも、二人はすこし疲れているような感じだ。
僕は、達也くんと深雪さんを手招きして、ひそひそ話をするポーズをとる。
達也くんと深雪さんが耳を傾けてきた。その耳にむかって小さな声で、
「さっきね、真夜お母様と電話でお話できたんだ」
達也くんは目を少し細め、深雪さんは目に見えて緊張した。僕は超ニコニコ顔をしている。
「なんの話をしたんだ?」
「僕、ちょっと困ったことになってたんだけれど、真夜お母様が手助けしてくれるって。えへへ凄く嬉しい。真夜お母様は凄く優しいね」
深雪さんは少し考える表情。達也くんは「お前、絶対騙されているぞって」目が言っている。
そんなわけないよ、真夜お母様は綺麗で素敵な僕の『お母様』なんだもん。
1-Aの教室には、まばゆい存在を放つリーナさんが、自分の席でクラスメイトと会話を楽しんでいた。
「おはようございます、リーナさん」
「…おはよう、ヒサ」
何となくだけれど、笑顔が曇った気がする。僕は深雪さんのおかげで人の表情を読むのは得意だ。
僕を見る、スカイブルーの目には少し警戒心が宿っている。
どうしたのかな…僕嫌われるようなことしたかな。
お昼に聞いてみようと思ったけれど、今日はリーナさんは別のグループと食事をして聞きそびれてしまった。
その夜、『怪人』の声が、まるで断末魔の悲鳴のように僕の意識に響いた。かなり遠かったけれど、殺された、そう思った。
たぶん、赤いマスクの少女が殺したんだ。
ぶるるっ、あの少女のプレッシャーを思い出して、僕は震えた。
「ん?久君、どうしたの?寒い?暖房の温度上げる?」
僕はその時、自宅で澪さんに勉強を教えてもらっていた。大丈夫、と答えて勉強に集中する。
何となくだけれど、『怪人』が殺されても『意識』『幽体』は残るんじゃないか、何故かそう思った。
翌日、金曜日。お昼。
エリカさんと幹比古くんがぐったりしていた。昨夜、あの赤いマスクの少女と『怪人』と戦いになったんだそうだ。
「あの二人を相手によく無事だったね…」
「達也君が邪魔…いや、助けてくれたのよ!」
その時のことを思い出しているのだろう、不機嫌と睡眠不足で目つきが悪い…
「あのあとエリカは達也のバイクで先に行っちゃうから、僕は大変だったんだよ…」
頭痛がするのか、幹比古くんは頭を抑えながら言う。
達也くんのバイク?後ろに乗った…はっ!?
「吉田君、エリカ、そのお話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
うぅ、食堂って暖房きいてるよね…さっ寒い…
翌日の土曜日。昨日お休みだったリーナさんは登校していた。でも、少し体調と機嫌が悪そうだった。右肩を痛めているのか、動きがぎこちない。
寝違えたのかな…?僕も、寝返りうてないから肩と首がコルんだ。だって不用意に横を向くと美女が二人…寝ているときは時々抱きついて…いっいやあ『回復』がなければ苦行だね。
教室移動中に、達也くん、エリカさん、幹比古くん、美月さんとニアミスした。
さっさと移動しないといけないけれど、深雪さんが、達也くんを見つけてスルーするわけがない。深雪さんは行儀よく、でも少し急いで達也くん挨拶に向かう。
僕も後をとてとてついていく。
リーナさんは『エリカがあんな強いなんて、この学校は何なのよ…』とぶつぶつ英語で呟いていて、E組メンバーを睨んでいた。
今夜も、『怪人』の声が聞こえた。あちこちで争っているようだ…
耳をふさいでも、意識が聞いているので、意味がない。
澪さんと響子さんが怪訝な顔をしたけれど、僕はなんでもないふりをしていた。
日曜日、朝。携帯端末にメールが来ていた。誰だろう…
「え?達也くん…」
「どうしたの?」
朝の食卓で、向かいに座る響子さんが尋ねてきた。澪さんは達也くんと面識が無いから、誰だろうって顔をしている。
僕が学校の友達って説明したら、九校戦で大活躍したエンジニアって澪さんは覚えていた。
そうだよ、スーパーエンジニアなんだ。
「達也くんから、今から学校に来て欲しいってメールが来てる」
「急ぎなの?だったら私の車で送っていくわよ」
キャビネットで向かうより、響子さんの電動カーの方が校門前まで直行できて早いな。
「お願いします」
「うぅ…今日は久くんと一日引きこもろうと思っていたのに…」
「って澪さん、それ毎日ですよぉ」
涙(演技)の澪さんを振り切って、制服に着替えた僕は、響子さんの車で一高に向かった。
交通渋滞が無縁のこの時代、一時間とかからず一高に到着した。
日曜といっても部活はあるから、校門は開いている。僕は受付にCADをあずけて、指定された生徒会室に向かう。
生徒会室には達也くん、深雪さん、エリカさん、幹比古くん、真由美さん、十文字先輩がいた。
深雪さんと十文字先輩以外はなんだか微妙に雰囲気が悪い。真由美さんとエリカさんは何故かそりが合わない。エリカさんが一方的に意識、苦手にしている感じだ。
「どうして久ちゃんを呼んだの?久ちゃんは吸血鬼の捜索にはかかわっていないはずじゃない?」
真由美さんの疑問は当然だ。僕も知りたい。達也くんが答える。
「久は水曜日、レオの入院している警察病院の前で『吸血鬼』に襲われました。現場には『吸血鬼』が二体、謎の仮面の『魔法師』もいました」
「えぇ?」
真由美さんが驚きの声をあげる。十文字先輩は見た目は変化なしだけれど、その目は僕を心配していた。男と男の子に言葉は要らないんだ。
「幸い現場には幹比古とエリカがいたので事なきをえましたが、現場にいなかったお二人にも当時の状況を説明させたほうが良いでしょう。ですがその前に、俺からお知らせしたいことがあります」
達也くんの説明によると、『吸血鬼』に発信機を撃ち込んだ事、『吸血鬼』の正体が脱走した米軍の魔法師だという事。
合成分子機械発信機なんてどうやって手に入れたのかってみんな疑問に思ったようだ。
アキバで手に入れたんじゃいのかな…僕は一人ごちる。
後半の説明には全員の顔に、納得の表情が浮かんでいる。
「じゃぁ、あの赤い仮面の『魔法師』は、その脱走兵を追っていたんだね…」
「えっ?久ちゃんその『魔法師』と戦ったの!?」
「戦ったっていうか、目の前で『怪人』…『吸血鬼』を殺されて、死体を持っていかれただけだけれど…逃げるときに『電撃』を使っていたけれど、物凄い威力だったよ、直撃してたら死んでいたと思う…」
僕はあのときのことを思い出して右腕をさすった。
「その話は、後でしてくれ」達也くんは説明を続けた。発信機の寿命は3日、米軍からの脱走者はもしかしたら10名程度になるかもしれない、と。
そんなに沢山…規律が乱れているわけでもないのに、そんなに脱走兵がいるなんて。
『吸血鬼』には『パラサイト』という妖魔や悪霊がとり憑いているんだそうだ。
『パラサイト』に操られて、米軍の魔法師は脱走した…あの羽音みたいな声は『パラサイト』のだったんだ。
じゃあ、とりつかれた人間を殺しても、『パラサイト』は逃げちゃうんじゃないだろうか。
昨夜、僕が感じた肉体を殺しても『意識』『幽体』は残ると感じたのは何故だろう。
時々、『パラサイト』に共感に似た感情を持ってしまう…あいつらはレオくんを襲った敵なのに…
でも、米軍の脱走魔法師の約10人はそれなりのレベルだろうから、あの赤い仮面の『魔法師』が刺客に選ばれたのも当然かな。刺客はあの『魔法師』だけだとしたら、元仲間を殺し続けるのは精神が削られるだろうな。
達也くんは一通り説明すると、興味もなさげに退室しようとする。当然、深雪さんも。
達也くんの精神はタフだろうな。
このメンバーを招集はするし、そのくせ丸投げするし。
「えぇ?達也くんも深雪さんも帰っちゃうの、じゃあ僕も…」
がしっ!僕の肩を幹比古くんが掴んでいた。
「久君は、まだお二人に水曜日のことお話してないよねぇ」
その目が「頼むからいてくれ…」と訴えていた。
巌のような十文字先輩、ニコニコ作り笑いの真由美さん、不機嫌そのもののエリカさん、繊細な幹比古くん…これは可愛そうだ。
「そうだね…じゃあ達也くん、深雪さん、また明日ね」
「では失礼します」
と、達也くんに続いて、深雪さんは丁寧に頭を下げてドアを閉めた。
兄妹がいなくなった生徒会室は、沈黙が重い。
この場合、十文字先輩か真由美さんが仕切ればいいんだけれど、なんだろうこの空気。
さっさと説明をして、逃げよう。
「じゃぁ僕から説明します。ってそんなに話すことはないけれど、あの日、僕は烈くんが手配してくれた警備会社の人の車でレオくんのお見舞いに行って…」
「ん?」
それまでニコニコ笑っているだけだった真由美さんが、知らない固有名詞に反応した。
「久ちゃん、レツくんって誰?」
「烈くんは、九島烈くんだよ」
はっ?って顔を真由美さん、エリカさん、幹比古くんがした。
「あれ?九島烈くん知らない?ほら、九校戦でも舞台で挨拶してた、十師族の長老とか『トリックスター』とか『電脳の伝道師』とか」
最後のは70年も前の二つ名だから知らないか。
「とっ当然、九島閣下の事は知っているけど…」
「久は今年の元旦の九島家の会に参加している」
要領を得ない僕の説明に、十文字先輩が補足してくれた。十文字先輩は十師族代表代理だから知っているけれど、真由美さんは知らなかったみたいだな。
「えぇっ!?それって選ばれた人しか参加できない、ナンバーズでもめったに参加できない凄く名誉のある会でしょ」
「そうかなぁ…堅苦しくて、光宣くんも響子さんもつまらなそうにしていたけれど」
「光宣くん…たしか、九島烈閣下のお孫さんね、響子さんって藤林響子さん?久ちゃん、あなたは五輪澪さんの五輪家の庇護を受けているんじゃなかったの?」
「澪さんはお友達だよ。烈くんは…僕が施設にいたころからの知り合いで、学費や自宅も用意してくれたから、どちらかと言えば烈くんの庇護下になるんじゃないかな」
真由美さん、エリカさん、幹比古くんが絶句している。おかしいな、ちょっと調べればわかる情報だと思うけど。だって、真夜お母様は知っていたよ。
「施設って療養施設かなにか?久ちゃんは入学前は病気でふせっていたみたいな事言っていたわよね…」
「七草…詮索は失礼だぞ。この台詞はお前も生徒会選挙のときに言っていたが…」
「あのお正月の会ってそんなに凄かったんだ。途中で烈くんたちと初詣に出かけちゃったからわかんないな…あぁ出席者の人が沢山お年玉くれたけれど」
「出席者って財界や政界の大物ばかりだったんじゃ」
「お年玉にしては金額が凄くて戸惑っちゃった。100万とかのマネーカードが入っていたりしたから、名刺ごと全部烈君に渡しておいたんだ。僕はお金とか要らないし」
「それって、九島閣下に取り入ろうとする人たちのリストをまるまる渡した…いえ、もうこの話はやめましょう」
真由美さんはどこかぐったりしている。エリカさんは不機嫌なまま。幹比古くんは気弱げ、十文字先輩は巌さん。生徒会室の雰囲気は元にもどった。
僕はあの日の状況と赤い仮面の魔法師の容姿について話す。エリカさんも補足してくれて、説明は簡単に終わった。その後は打ち合わせになるんだけれど…
「『吸血鬼』の捜索は、僕も参加するんですか?」
「いや、これは十師族と警察の仕事だ。久は参加しなくてもいい」
「そうね…千葉家の方も久は必要ないわ」
「僕…頼りないけど少しは協力できることもあるかも」
4人の目が、「子供は夜、出歩くんじゃありません」って言っている。うぅ子供じゃないのに。僕が一番年上なんだよ。
…じゃぁ、この気まずい空間にいる必要はないな。
「それじゃぁ、僕も帰りますね。『吸血鬼』の捜査は気をつけてください。赤いマスクの『魔法師』はかなり強いですから」
このメンバーが連携すればたぶん大丈夫だと思う。真由美さんとエリカさんは相性悪いから、連携できれば、いいけれど。
僕もひとつ頭をさげると、逃げるように、いや実際逃げだけど、空気の重い生徒会室から出て行った。
幹比古くんの目が「裏切り者ぉ!」って叫んでいたけれど、あとは大人に任せてって事で。
ふう、廊下の空気が新鮮だ。ひょっとして、生徒会室は空調が壊れていたのかも…
がんばれ幹比古くん。『吸血鬼』より面倒な相手だけど!合掌。
僕は一人で帰る事になった…
僕を襲撃するなら格好のタイミングだ。米軍も『吸血鬼』も。
僕は不意をつかれると弱い。だから、周りの空間を完全に『遮断』するほど空間を捻じ曲げている。
銃弾だろうと魔法だろうと、ミサイルだろうと、空間を操る僕に当てることは不可能だ。
物凄く警戒している。横浜の時とは比べ物にならないくらい。こんな警戒するのは初めてだ。
羽音ににた声は小さいけれど聞こえているし、さっきは難しい話を聞かされて頭が痛いし、すこし機嫌が悪い。
もし今、米軍が襲撃してきたなら、返り討ちして、近くの米軍基地を消し飛ばしてやる。
それでも諦めないなら、他の基地もその他の基地だって異空間に『飛ばして』やる。
チート能力をフルに使って、米国だって滅ぼしてやる。
…そう身構えていたんだけれど…あれ、何も起きない。
何も起きることなく、キャビネット乗り場に着く。油断させたところを攻撃…なんてことも起きない。
キャビネットに乗って、練馬の自宅に。この周辺は澪さんの護衛が固めている。
もう安心。でも油断しない。周囲に目を配り、襲撃や狙撃に備える…
玄関までつく。
…あれ?何も起きなかった…うっなんだろうこの中二病的独り相撲は。はっ恥ずかしい。
澪さんと響子さんが迎えてくれる。今日は全国的に日曜日、二人はどこにも出かけないね。
がっくり肩をおとして、部屋着に着替える。僕の部屋着はパジャマだ。
何だか疲れたな…今日は一日引きこもっていよう…っていつも引きこもっているけど…
生徒会室の会議に久が呼ばれるのはちょっと強引ですが、そうしないと久は『パラサイト』の情報を全然知らないまま話が進んでしまうので、強制日曜登校。
土曜夜、リーナは深雪と達也と八雲にいじめられて、日曜、久が一人警戒しながら帰宅しているときは引きこもっています。襲撃は起こりませんでした。
最初の予定では、米軍に拉致られて、横田ベースで無双して、米軍基地司令官を捕まえる…みたいなことを考えていましたが、いまいち後に続けられないし、スターズを倒すのは達也と四葉家の役目なのでやめました。
その分、真夜の精神支配の側面を強めました。
久は四葉家で真夜に「米軍に狙われるかもしれない」と言われて、自分は米軍に狙われていると思い込んでいます。
リーナが昨夜、久を攻撃したのは自分の姿を見られたからで、レオが襲われた公園で久を攻撃しなかったのは『怪人』に数秒間触れられていれば、重体の上確実に死ぬと思っていたから。
偶然も利用して、真夜は久の精神のもろさをついてジワリと支配していきます。
烈は慎重に外堀を埋めていきます。学校入学、支援、お金、響子と光宣、家族、九島家の庇護。
真夜は四葉家の強化と狂気から。久の過去と『能力』はまだ把握していません。その精神のもろさが疑惑の発端で、『多治見研究所』の関係者だとは考えています。
烈は久が普通に学校生活をおくれればいいけれど将来的には九島、もしくは十師族・この国の魔法師の守護者になってくれればと考えています。