パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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一高内でのパラサイト事件は相手が見えないうえに、説明しにくく、久の視点からだと枚数がかかって冗長になるので、このSSお約束の大胆カット。
事件は原作を読んで補填してください(笑)。




校内は戦場

 

 

冬の朝日で寝室がわずかに明るくなった。

僕の自宅は閑静な住宅街にある。一日中静かだけれど、この時間は自分の心音が聞こえるくらいだ。

僕は目だけあけて天井を見つめていた。

 

「今夜も眠れなかったの?」

 

え?仰向けの僕は頭だけ声のしたほうを向く。響子さんが僕を見つめていた。

 

「ここのところ寝ていないようだけれど、心配事?」

 

澪さんの声に、僕は左をむいた。澪さんが僕を見つめている。

 

「気がついていたの?僕が寝ていないことに…」

 

「久君は、隠し事なんて出来ないでしょ」

 

「…うん」

 

本当はいろいろと隠し事をしているけれど。今日も『川の字』で澪さん、僕、響子さんで眠っていた。

先月、市原先輩に「背が伸びました?」と言われてから、僕は極力起きているようにしている。

僕は10歳の肉体をしている。昔の肉体に比べれば一回り小さいけれど、10歳…これ以上は成長したくない。

…でも。二人は僕のことを見ていてくれていたんだな、そう考えたら、涙がこぼれてきちゃった。

僕は情緒が安定しないから、ちょっとした事で涙がでちゃう。

 

「どっどうしたの?」

 

響子さんが心配して聞いてくる。僕は首を左右にふると、

 

「うぅん、嬉しいんだ。二人が僕のこと見ていてくれて。このまま時間がとまれば良いなって思うくらい。でもお二人ともはやくお嫁さんになってもらいたいし…」

 

「何を言っているの?私は久くんの婚約者なのよ」

 

「わっ私も、久君を一人前にする…いえ久君が一人前になるまではお嫁なんて…お嫁はその…」

 

一人前にするって、何をする気だろう…うぅむ、二人とも結婚する気ナッシングだね。

 

「いつまでかわからないけれど、一緒にいてくれる?」

 

「「もちろんよ」」

 

二人の声がきれいに重なった。僕は身体ごと澪さんに向いて、

 

「有難う」

 

澪さんの細い身体を抱きしめた。澪さんも僕の頭に手を回してくれる。

 

…良い香り…胸は…な…いっいやその…

 

「ちょっと久君わたしに…は…?」

 

響子さんにみなまで言わせず、右を向くと、背中に手を回し、むぎゅっって抱きしめた。ぷにゅ。う…柔らかい…

こっこれは僕が子供だから出来ることであって…むにゅむにゅ。

 

「ちょっくすぐったいわよ久君」

 

「わっわたしより抱きしめる時間が長いわよ…」

 

背中から戦略魔法師のプレッシャーが突き刺さる。ぜったいジト涙目してる。僕はその目に弱いんだ。

僕は二人の手を握ると、再び仰向けになった。

さっきより心音は高まっている。実はここのところ二人を女性として意識してしまうことがある。僕が成長しているせいなのかもしれないけれど、R-15タグは死守しなくては…

いつまでもこんな時間が続くと良いな…そう思って、目を瞑る。幸せなんだな。そのままうとうとと、まどろみのなかに沈んで…

 

「こらっ!起きないと遅刻よ!」

 

「いいじゃないですか、響子さん、今日はこのままベッドでお話していましょう」

 

社会人と、引きこもり大学院生の意見の相違…

今は2月で、澪さんは大学院は殆ど卒業状態。働かなくても、ご実家の会社の株主配当と戦略魔法師としての国からの慰労金で、24時間引きこもれる…

いまでも24時間引きこもっているか…今度どこかに出かけようよ。

僕は…

 

「そうだね、起きよっか。僕、ご飯つくるね」

 

誰かに尽くすのが、ものすごく落ち着くんだ。二人が幸せなら、それだけで僕も幸せだ。

 

「久君はいいお嫁さんになるわね」

 

「久君がいい旦那さん…ぶつぶつ」

 

ごっご飯とお弁当を今日もつくろう。

 

 

 

学校のお昼時間。今日は、いつものメンバーは食堂に集まっていなかった。

エリカさんと幹比古くんは昨夜も『吸血鬼』捜索でたぶん教室で寝ている。美月さんは…食堂にいないな。エリカさんか幹比古くんと一緒かな。

達也くん深雪さんほのかさんは、たぶん一緒だろう。僕としては達也くんの隣には深雪さんだけいれば良いと思うんだけれど、そう言うと、たぶんブーメランになって返ってくるから見ないふり…

雫さんはアメリカ、レオくんは病院、リーナさんもいないな…

一人でお弁当も寂しいので、僕は料理部の部室に向かった。廊下をとてとて歩いていると…

 

 

「何をするのエリカ!?」

 

「カツト・ジュウモンジ!?」

 

「何を今更!」

 

 

エリカさんが業者専用通用門の校庭でなにやら騒いでいる。リーナさんの声も聞こえるな…

エリカさんは今日も機嫌が悪そうだ。

 

料理部にはお昼にもかかわらず部員が多くいた。みんな数日後に訪れるバレンタインのチョコレートを一生懸命作っていた。

 

「バレンタインは戦争よ!先んずれば男(ひと)を制すのよ!」

 

料理部の元部長さんが気合を込めて、お玉を持ったコブシを握る。いったい何人に配る気だろうあの量は…

甘い香りが満ち満ちている部室ですばやくお弁当を食べると、僕も深雪さんが以前プレゼントしてくれたエプロンを装着。

戦闘態勢に入った。

 

 

「危ないっ!」

 

「自爆!?」

 

「伏せろ!」

 

 

そのころ校庭も戦場になって…?

まさか、またテロリストでも襲撃してきたの?端末にはなんの警告も出てないし。

僕は気になって校庭を見ようとするけれど、

 

「ほら久くん、ちゃんとチョコレートをバットに広げて、気泡をいれないでね!」

 

「はっはいぃいい!」

 

現代のバレンタインは、愛の告白とともに感謝の気持ちをつたえる行事でもあるって、響子さんが言っていた。

感謝を伝えたい人は沢山いる。もうすぐ卒業の料理部の先輩たちにも大感謝だ。市販のものじゃなくせめて手作りをって。

ここ数日は時間があれば料理部にきてチョコを、ぐるぐるボールで溶かしまくっていた。

 

気のせいか、校庭から『魔法』の光が差し込んでくるような…?

 

「氷が足りないわよ!」

 

現部長が『魔法』を使う。校内のCAD所持は禁止されているのでは…

部活ならOKなんですか?え?バレンタインは戦いなんですか?いつもより激しく輝いている…

 

 

「ヴァンパイアの本体はパラサイトと呼ばれる非物質体よ」

 

「ロンドン会議の定義だろう、それは知っている」

 

校庭で、パラサイト?そういえば、例の羽音が聞こえ…

 

 

「久君、手が止まっているわよ!」

 

「あっはいぃぃい」

 

それどころじゃない。元部長の目は戦略魔法師もかくやと思うほど、情念の炎が燃えていた。

もうすぐ卒業の元部長は、ほんとうに何人に配る気でいるのか…いや僕もそれどころじゃない。ぐるぐる。

 

昼休み終了ぎりぎりまで作業して、残りは放課後。急いで教室に戻らなくちゃ。

渡り廊下をとてとて急いでいると、通用門の前で達也くん、深雪さん、十文字先輩、リーナさんが何かのトレーラーの周りで会話していた。

そういえば今日はマクシミリアン・デバイス社の人が新型測定器のデモに来ているそうなので、なにかトラブルでもあったのかな。エリカさんがリーナさんに食って掛かっている。

どうもエリカさんは少し気の強い女性とは相性が悪いな。真由美さん、渡辺委員長、リーナさん。たぶん響子さんとも合わなさそう…もっと肩の力を抜いてって、前にもそんな事言ったな僕…

早く教室に戻らないと…僕の意識はそっちにある。とてとて。

 

 

バレンタイン当日、僕は響子さんがめずらしく朝の着替えを手伝ってくれたので、疑うことなく、手渡された制服を着た。

心なしか、足元がすーすーする…今日は一段と寒いなぁ。

澪さんもなぜかにこやかに、僕の長い黒髪をくしけずってくれた。

今夜は帰宅したら、簡単なパーティーを催すことにしている。

二人に渡すチョコレートは、プレゼントのアクセサリーとともに準備済みだ。

まぁ、機械音痴の僕は、二人と一緒にプレゼントを選んでいるので、サプライズなんてものはないけど。

いつものお弁当箱以外に、手提げ袋を何枚もなぜか持たされた。

みんなに渡すチョコレートは料理部の冷蔵庫に入れてあるので、朝早く登校して、配らなくちゃ。

 

僕は基本疑うことをしらない。ひとつのことに集中すると他に気が回らない…

 

キャビネットを降りて、一高までの道を歩く。時間が早いので、知り合いには会わなかったけれど、他の生徒たちの視線を一身に集めているような…気のせいかな。

料理部によって(部の先輩たちの分は昨日お渡しした)、クラスメイトの分のチョコを持ってくる。

 

教室で久しぶりの出番の森崎くんに手渡す。

 

「おっおおおお俺は、そういう趣味はないぞ…」

 

「え?もらってくれないの?一生懸命つくったのに…」

 

涙目で森崎くんを見上げる。うるうる。顔を真っ赤にした森崎くんはしぶしぶ受け取ると、なぜか教室から駆け出してしまった。そんなに嫌がらなくても。

 

深雪さん、リーナさん、笑顔満面とろけそうな顔のほのかさんは、あれ?髪飾りが水晶だ。三人に感謝の言葉とチョコを渡す。

 

「有難う久…今日の久は完全に女の子ね」

 

「えっ?僕は男の子だよ」

 

「日本では男の娘は、バレンタインに女装してチョコを渡す習慣があるの?」

 

「へ?」

 

「なんて言うか、ミユキのミニチュアね…ヒサは紛れもない美少女よ…」

 

リーナさんに言われて、やっと僕は気がついた。女子用制服を着ていることに。

 

去年の4月、誘拐事件後に九重八雲さんが用意してくれた、紫のラベンダー柄のキャミソールの女子用制服だ。

洋服ダンスの一番奥に隠しておいたのに、電子の魔女に隠し事は本当に出来ないみたいだ…

少し、窮屈だな…やっぱり僕の身体は少しだけ成長したみたいだ。おかげでボディラインがくっきりでて恥ずかしい…

でも、響子さんが、バレンタインには男の子はこの格好が勝負服だって、普段は絶対に僕を女の子扱いしない澪さんも嬉しそうに髪をととのえてくれたし。

なんの問題もないよね。ね。

 

「ねぇ深雪さん、達也くんにもチョコレートあげていい?」

 

「どうしてそんな事聞くの?」

 

「だって達也くんは深雪さんのモノ…ん?違うな深雪さんが達也くんのモノ?これも違うな…なんて言えば…」

 

「ひぃぃぃぃ久、貴女はなんて可愛いんでしょう!」

 

深雪さんは奇声を上げながら笑顔が狂喜乱舞していた。顔を真っ赤にして、僕の頭を撫ぜながら、もだえている…?

リーナさんは呆れ顔、ほのかさんは心ここにあらず、クラスの皆は深雪さんの笑顔に酔っている。

森崎くんはどこに行ったんだろう?

 

午前中の体育の授業、着替え室に入ろうとすると、お前は全員が出てから使え!って久しぶりに言われた。

ここ最近は一緒に着替えていたのに。何故か僕だけ離れた隅のほうで、だれも僕のほうを見ようとしなかったけれど。

 

「ぼっ僕も男の子だよ!」

 

「ちょっチョコを男に配る男…の娘が…いっいるわけないだろうぅ」名前もしらない男子生徒が変なことを言った。

感謝をする相手がいないのかな…?

 

 

お昼休み、食堂にはいつものメンバー。そして、逞しい後姿があった。

 

「あっレオくん!退院おめでとう!昨日メールくれたけれど、元気な姿みられて嬉しいよ」

 

「おっおう、久も見舞いにきてくれてダンケな」

 

レオくんの元気な姿を見て、僕は瞳がウルウルだ。そんな泣き笑いの僕にレオくんは驚いている。決して女子用制服の僕に驚いているわけではない、はずだ。

幹比古くんエリカさん美月さんにも手渡し、最後に…もじもじ。

 

「たっ達也くん…これ、手作り。みんなのも手作りだけれど、一番上手に出来たやつだから、その…貰ってくれるかな…

あっ達也くんは深雪さんから貰うから、僕のなんていらないとおもうけれど…でも…ぅうぅぅ…貰ってください!!」

 

僕は精一杯の笑顔に、黒曜石の瞳に涙を溜めながら、ウルウルと達也くんを見上げる。達也くんは背が高いから…ウルウル。

 

「うっ…久…その…なんだ…」

 

食堂の生徒、全員の視線を集める達也くん。さすが達也くんだなぁ。

 

「どうみても愛の告白…と言うより、背伸びした小学生女子よね…」

 

「でっでも、ものすごく素敵な場面だと思いますよ」

 

「ほら達也、受け取ってやれよ」

 

「深雪さんは…何も言わないの?」

 

「あら吉田くん、私はそんなに心の狭い女じゃないわよ」

 

「タツヤが動揺するの初めて見たわ」

 

「…」

 

妙に不機嫌なエリカさん、達也くんにチョコ渡せなくて不機嫌なのかな。美月さんはいつもの優しい笑顔。ニヤニヤのレオくん。おどおどする幹比古くん。

鉄壁の笑顔の深雪さん、驚くリーナさん、心ここにないほのかさん、達也くんは笑顔がすこしぎこちない。

 

「あっ有難う、久、ちゃんと味わって食べるよ」

 

「うん、ありがとう!」

 

きれいにラッピングされた小箱を受け取る達也くん。涙目で笑う僕。冬の弱い日差しが二人を照らす…

食堂から、ぱちぱちと、自然発生的に拍手が起きた。食堂にいる生徒全員だ。万雷の拍手。

達也くんはチョコの箱を手にして、固まっていた。

 

放課後、部活連に向かう。

十文字先輩とはんぞー先輩に渡すためだ。

はんぞー先輩は、なぜか青い顔をして、チョコレートの強烈な匂いを発していた。きっと沢山貰ったんだね。

十文字先輩はいつものように泰然自若で受け取ってくれて…少し頬が赤い?

はんぞー先輩はぶつぶついいながらも受け取ってくれた。

 

生徒会室に行く。真由美さん、渡辺委員長、市原先輩、あーちゃん先輩に渡す。

真由美さんは、僕の女子制服姿に、超ご満悦だ。

受験勉強と『吸血鬼』騒動でストレス溜めているんだね。

 

九校戦で仲良くなったメンバーとエイミィさんやスバルさんを探して、なんとか手渡す。

 

教室に戻る頃の僕は、つくったチョコを配り終えてすっかり身軽に…ならなかった。

エリカさんとリーナさん深雪さん以外、みんな手渡すそばからお返しにチョコをくれる。

エリカさんは面倒だからと、リーナさんは習慣の違い(達也くんをもじもじ見ていたけれど…?)、深雪さんは本命の達也くんだけにあげるんだよね。

朝、響子さんが紙袋を渡してくれたけれど、一枚じゃ足りず、三枚使って、他のクラスメイトや女子生徒もくれたから、物凄く重い。

僕は非力なんだよ。腕が抜けるんじゃないだろうか…

 

教室に戻ると夕日に照らされた森崎くんがいた。どこか寂しそうだけれど…?

 

「おっお前、それ全部チョコか?」

 

「うっうん、重くって大変…」

 

そりゃこれだけあれば驚くよね。あれ?どうしたの森崎くん、何落ち込んでいるの?紙袋欲しかったの?ゴメンもうないよ…

 

「ホワイトデーには三倍返しだぞ!ざまーみろぅ!」

 

僕のことを心配してくれる言葉を言いながら、ん?泣いていた?僕があげたチョコをちゃんとみんなに見えるように手に持って、森崎くんは走り去った。

なんだ喜んでくれていたのか。よかった。

三倍返しか…さいわい僕は貯金があるし、あまり使い道もないから大丈夫だよ。

でも三倍もされたらすごいカロリーになるよなぁ。僕はカロリーは『回復』にまわされるから太らない、そもそも成長できないから、食べて寝た方がいいのだろうか。

 

澪さんはもう少し食べた方がいいよなぁ。今朝も響子さんに比べてふくらみが…いっいやげほんげほん。太らない体質なんだよね。

帰宅後は、三人で料理を作って、チョコレートの香りに包まれた晩餐は、凄く楽しかった。

 

僕は『パラサイト』が学校に現れたことを知らない。もちろん、ロボ研のガレージの前にいたほのかさんの意識が『それ』の覚醒に繋がったことも…

 





実はオリ主の久はエリカが少し苦手です。人の感情に敏感な久はいつも不満そうなエリカといると落ち着きません。
エリカと二人きりになる機会はまずないのでエリカが久で不満を解消することはないのですが、レオや幹比古への対応を見て、極力そばに立たないようにしています。
真由美も苦手ですが、こちらはオモチャにされるから。
渡辺委員長とあーちゃん、ほのかも達也しか見ていないので、久とは接点が少ないです。
逆に大人しかったり知的で静かな人を好みます。
雫は久を弟みたいに思っています。
久にとって深雪は達也の存在の一部、精神が繋がっていると判断しています。
深雪も四葉関係で不満を抱えていますが、基本的に久のことを気に入っているので(久が深雪が達也のものだと心のそこから思っているので)時々悪乗りでいぢる程度です。
美月もそばにいて落ち着きます。市原先輩もどこか達也に似ていて安心します。
澪は響子がいないときは、凄く大人しい落ち着いた人(オタクに関わらない場合は)。
響子さんも久で遊んでいますが、一緒にいる時間が多いので家族、姉のような存在だと思っています。
真夜はお母様、烈はお兄ちゃんみたいな感じでとらえているのでずっと「くん」で呼びます。

お読みいただきありがとうございました。
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