そのたびに周りが驚くことになるのですが…どう驚かれるかまでは深く考えていないのです…大汗。
真夜中のキャビネット乗り場、僕たちの包囲を狭めてくる10人の男たち。どう見ても堅気じゃない。
そこにさらにワゴンタイプの電動カーが乗り付けられた。車からぞろぞろ手に得物を持って降りてくる…さらに10人の男たち。
僕とレオくんは特に逃げも身構えもしないで、肩を並べて立っている。レオくんは相変わらず楽しそうだし、僕も無警戒にパーカーのポケットに両手を入れている。
「西城レオンハルトだな」
20人の男たちは僕たちを取り囲むと、ひとりが前に出て言った。手には鉄パイプを持って、手のひらに当ててぺちぺち音をたてて、へらへらと笑う。もてあそぶ気満載だ。
「違います、僕は多治見久です」
僕はまじめに答えてやった。
「ぷっ。あっはははははははっ!久っ、いいぜその台詞、喧嘩の前口上としては最高だぜ!」
レオくんは大爆笑。男たちは苦虫を噛みまくった顔をしている。
「レオくん笑いすぎだよ!僕はまじめなんだよぉ!」
「だってよぉ、あはははは」
男たちに囲まれているのに、僕たちは登校中の雑談みたいに余裕だ。
「ちっ、こんな夜中まで歩き回りやがって、しかも女と逢引かよ…」
つばを吐いて男が呟く。恐ろしいくらいに…安っぽい男だ。
ん?女って誰のことだろう。今日の僕はデニムに長袖のシャツ。夜にそなえて、いまはパーカーを羽織っている。
いつものユニセックスな姿だ。この髪の長さは…女の子に見えるんだろうな。
そして、男たちは繁華街でカップルにからむ街の爪弾き者たちにしかみえない。
「レオくん、ボク…コワイヨォ…ヨヨヨ」
僕は、台詞棒読みでレオくんの逞しい腕に、細い折れそうな手でしなだれた。今夜のボクはテンションが高いな。見上げると月は暗い。ルーナマジックじゃなさそうだ。
チンピラに絡まれた恋人を装う僕は、男たちの死角で舌をぺろっと出した。
「おぉおおう、俺がいるから平気だぞ!」
レオくんも悪乗りに付き合ってくれている。まったく緊張感がない。それは男たちにも伝わった。
「けっ余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
最初に誰何してきた男がいきなり、鉄パイプをレオくん向けて振り下ろしてきた。他人を傷つけることになんのためらいもない動き。敵を前にしたら僕も見習いたい潔さだ。
でも、体重を乗せた渾身の一撃は、戦闘訓練は受けていない素人の動き、そして遅い。
エリカさんや達也くんの体捌きと比較にならないほどスローモーションだ。
レオくんがいつもエリカさんのシバキを食らうのは、エリカさんの動きが速くて、レオくんの動きも予測しているからだ。レオくんは避けようとしているのに直撃する。剣術で鍛えた能力の使いどころをわざと間違えているエリカさんは意地悪だよなぁ。
僕の慣れない目でもそうなのだから、レオくんには止まって見えるほどだったかも。
がしっ!
レオくんは振り下ろされた鉄パイプを無造作に素手で受け止めた。そのままパイプを軽く握ると、もう男が引こうが押そうがびくともしない。
ブルゾンに隠れた腕にはそれほど力がこめられているようには見えないし、レオくんは相変わらず獰猛な笑みを浮かべたままだ。
男がむきになって押したり引いたりしている。大木に止まる虫みたいだ。
「そんなに欲しいのかよ、ほらよっ」
男がパイプを引いたタイミングで、レオくんは、ぱっと手を離す。男はバランスをくずしてよろめいた。
尻餅をつかないように踏ん張ったけれど、レオくんは喧嘩慣れしている。相手が体勢を立て直す前に、軽く握った拳が男の頬げたをとらえた。
たった一撃、軽く撫ぜた程度だった。それでも、男の口からは鮮血と、折れた歯が飛び出す。
鉄パイプがからんと金属音を立てて転がり、倒れた男を頑丈な登山靴で、無造作に踏みつける。変な声を出して、男は気を失った。
その一撃だけで彼我の実力差がわかった。その間、他の男たちはぽかんと見ているだけだった。こいつらはただのチンピラだ。弱者をいたぶるだけしか能力がない連中。
「ねぇレオくん、この人たち、レオくんを追ってきてたみたいだけれど、弱すぎるね」
「ああ、しかも連携が出来てねぇ。こいつら普段からチームじゃねぇな」
「『一般人』すぎて『魔法』は使わない方がいいかもしれないね」
「大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だっよっ!」
僕は一番近くに立つ男にすっと近づくと、くるりと綺麗に回し蹴りを決めた。
「ごっがぁ!?」
細い足を高くまっすぐ伸ばして、つま先が男のアゴにヒットする。
蹴りの速度はそれほど速くない。体重も乗っていない、見た目だけが綺麗なダンスのような蹴り。
それなのに、僕の体重の二倍はあるだろう男は、ヒットしたアゴを中心に空中で一回転して、派手に地面に倒れた。
大の字になって、白目をむいて、動かない。脳震とうを起こしているみたいだ。
「ほらね」
僕はレオくんにウィンクをする。男たちもレオくんも驚いていた。僕は『魔法』は使っていない。ただの蹴りにしては威力が異常だった。
「くそっ!このガキッ!」
男の一人が、スタンガンを取り出した。スタンガンがばちばちっと放電している。それを僕に押し付けてくる。
「久っ危ない!」
レオくんの警告。
僕はそのスタンガンに左手のひらを向けて、放電部分を正面から受け止めた。
ばちばちっ!ばちばちっ!
男がスタンガンのスイッチを何度も入れる。そのたびに放電の音がキャビネット乗り場に嫌に響くけれど、僕は左手でスタンガンを受け止めたまま、にこりと笑った。
夜のキャビネット乗り場、淡い街灯に照らされた、黒髪を腰まで伸ばした、人形のような僕の目が、薄紫色の燐光を放つ。
物の怪じみた容姿の微笑みに、スタンガン男がひるんで後ずさった。
僕はひょいっと一歩踏み込むと、スタンガン男の股間を思いっきり蹴り上げた。『念力』とともに。僕は男の汚い股間なんて触れたくないから蹴りは寸止めだけれど、『念力』は容赦ない。
「ぎゃっ!?」
男は股間をおさえて内股になる。ふらふらで立っているのがやっとみたい。無様に前かがみになった男のアゴを蹴り上げた。男は伸身後方宙返りして、顔から地面に落下した。
「なっ、なんだあのガキ!」
「『魔法』なのかっ?」
「でも道具もなにも使っていないぜ…」
道具…?CADの事か。これでこいつらは魔法師のことを知らない一般人だってわかった。
もしかしたら最近話題になっている『人間主義者』や『魔法師排斥運動』にかぶれた連中かもしれない。
『人間主義者』。この言葉を聴くと、僕は怒りを覚える。人間は自然のまま生きろだって…?魔法を使う人間は確かに遺伝子に手を加えられている。その意味では人間とは違うけれど、今の魔法師たちは、かつての僕や弟たち、多くの犠牲の上に成り立っている。出来ることなら戦争の道具じゃなくて、人類や世界の発展のために貢献して欲しい。実際、昔よりは選択肢の多い自由な世界に向かっている。魔法師は戦争以外でもさまざま世界に貢献している。時間が経てば、人口における魔法師の割合も増えているだろうし、いまさら過去には戻れない。
僕は足もとに落ちている鉄パイプを拾うと、両端を手に持って、無造作に二つに折った。かたい鉄パイプが飴細工のようにぐにゃりと曲がった。
「なっ!?」
僕はCADを使っていないから、『魔法』を使っていないことは誰の目にも明らかだ。もちろん思考型CADも使っていない。
僕は都心で達也くんが飛行船を消滅させた『魔法』を思い出していた。あの『魔法』は論文コンペの会場で、ライフル弾を右手で受け止めた『魔法』と同じかもしれない。
『消滅魔法』と体の動きを組み合わせて、相手の動揺を誘う。そして、『魔法』の偽装も同時にできるんだ。達也くんもCADを使わずに『能力』をつかえるんだ…
僕も同じように、キックが決まる瞬間、『念力』で男のアゴや股間を叩いた。蹴りで男が倒されたように見せるためだ。
スタンガンも手のひらと放電部の間に見えない『空間の隙間』を作っていた。リーナさんのプラズマの嵐すら通さなかった『空間の隙間』を。
この程度の『念力』では街のサイオンセンサーは反応しない。純粋な体術にしか見えないんだ。
鉄パイプも『念力』で曲げている。それをバレーボールくらいに丸めると…
「そっれっ!!」
と、男たちに向けて、思いっきり投げつけた。『念力』で加速された鉄のボールは別の男に直撃。鼻血を吹いて、もんどりうって倒れた。
「デッドボール!」
僕はこういうとき、容赦はしない。一撃で無力化していく。ここにレオくんがいなくて、街頭カメラがなければただのチンピラだろうと無慈悲に殺していたはずだ。
「はっ、やるな久!」
レオくんは僕の心配はいらないと知って、獰猛な気を爆発させた。
レオくんが軽快なステップで男たちの中にもぐりこむ。男たちはすれ違うたびに、顔や身体にパンチを受けて、倒されていく。
「化け物がっ!」
一人が、レオくんの背後から警棒で殴りかかる。レオくんはその警棒を腕で弾きかえした。
頑丈な警棒がぼっきり折れたけれど、レオくんは痛みすら感じないのか、弾き返した左腕で、男の顔面を鷲づかみにする。
「おおっ!アイアンクローだ!」
レオくんは男を掴んだまま、男一人、80キロはあるだろう体重を片手で持ち上げた。
ぎりぎりと頭蓋骨がきしむ音がする。男は手足をばたばたさせるけれど、レオくんは微動だにしない。
レオくんは地面で伸びている他の男の上に、そいつを叩きつける。
男たちは一人ずつじゃぁ敵わないとわかって、全員で襲い掛かってきた。全員と言っても、同時に攻撃できるのはせいぜい二人、それも素人の攻撃だ。
僕は肉弾戦は苦手だけれども、一高の実技で、毎日、森崎くんや深雪さん、一年生の三学期にはあのリーナさんとだって真正面から模擬戦をしているんだ。相手の攻撃はかすりもしない。間合いは完全に見切って5センチの幅で避けて、体重の乗っていない蹴りやパンチでも相手を確実に無力化していく。僕はほとんど一歩も動かずに4人を倒した。
レオくんは一見無造作な動きだけれど、一撃一撃が重い。レオくんの蹴りを食らうと、相手は数メートル吹っ飛ぶ。
20人いた男たちは数分で残り2人になった。僕たちは呼吸ひとつ乱していない。
「なっ何なんだこいつら…魔法師でも劣等生じゃなかったのかよ!」
「これじゃワリにあわねぇよ!」
残りの男たちは逃げ腰だ。
「どうする、まだやるか?」
倒れている男のひとりがうめき声を上げた。レオくんがこつんと蹴ると、すぐ静かになった。あれは常人の全力以上の威力があるんだ…
「くっぅ…」
残った男たちは腰が引けている。手には警棒とスタンガンを持っているけれど、そんなものが役に立たないことはわかっているようだ。
「レオくん、どう料理する?右腕の二~三本はへし折っても正当防衛だよね」
「右腕は一本しかないぜ」
「じゃあ肋骨にしようか、意外に治りにくくて大変なんだよねぇ」
にじりと、僕たちは二人に詰め寄る…
「そこで何をしている!全員動くなっ!」
大きな怒声がキャビネット乗り場に響いた。複数のライトが僕たちに向けられる。
その場に立つ僕たち四人はすでに制服の大人たちに包囲されていた。
駅の反対側にある交番から警察官が駆けつけてきたんだ。探知系が弱いから全然気がつかなかった。怒鳴った警察官の顔は見覚えがある。だったら、
「警部補さん、助けて!あいつらがいきなり襲ってきたんだっ!」
僕は弱弱しい声で助けを求めた。警察官の一人が僕に気がついた。
「君は…多治見久君!?」
自宅の最寄の交番のお巡りさんは、僕のことを知っている。僕も知っているから、正しい階級で呼んだ。
この街には戦略魔法師の澪さんが住んでいるから、警備の魔法師は地元の警官にも協力をお願いしている。
僕と澪さんも、地元の警察所のお巡りさんにきちんと挨拶をしているし、警察官には一高出身者も多いから、僕のことを知っている人が多い。
僕は見知ったお巡りさんに駆け寄ると、涙目でうるうると見上げて助けを求めた。
「友達のレオくんがいなかったら、僕、何をされていたか…うぅぅ…怖かったよ!」
僕は警察官の制服にしがみついて哀願する。
レオくんは呆れ顔で僕を見ている。僕の上目使い涙目うるうる攻撃に耐えられる人はいない。
「くっ久君、もう大丈夫だよ」
会話している間に、残りの男たちは得物を地面に放り落として拘束されていた。
人数が多かったので駅の交番ではなく、最寄の警察署で事情聴取を受けた。
街頭のカメラに一部始終が記録されていて、僕たちは魔法師だったけれど素手、男たちは武装していた上に、2対20の人数差。明らかに男たちが悪い。
相手が一般人だから、あえて『魔法』の行使も控えた…となれば、男たちの怪我も正当防衛の範囲内だ。だから、警察署での僕たちの待遇は悪くなかった。僕とレオくんにココアとコーヒーまで出してくれた。
男たちは知らない人物からレオくんを襲撃するようにお金で雇われた街のチンピラだったそうだ。本当はもっとひと気のない場所で襲撃する予定だったのだけれど、レオくんの歩く速度が早い上に放浪するように目的もなく動き回るから、中々追いつけなかったそうだ。
レオくんは襲われた心当たりはないとは言えないけれど、金で雇われた集団に襲われるほどの記憶はないって。襲撃者は誰も札付きで前科持ちもいたから、僕たちはすぐ解放された。
レオくんはそのままキャビネットで帰宅、僕は家までは歩いても5分の距離だけれど、わざわざ警察官が自宅までパトカーでおくってくれた。
レオくんは別れ際に、
「今回は巻き込んじまったみたいですまなかったな…」
って本当に済まさそうな顔になった。
「気にしないで、これでも僕も色々と面倒ごとにはなれているから…じゃぁ明日一高でね」
パトカーで自宅に着くと、警備の人が慌てて待機用の家から出てきた。
今日は澪さんの警護の人は数人が残っていて自宅を監視していた。僕の家はセキュリティーを構築したのが『電子の魔女』なので監視は必要ないんだけれど、警備にも手順があるから。
警察官と話をして警護を引き継ぐ。僕は警備の人に澪さんには黙っていてくださいってお願いした。警備員さんも澪さんや僕が狙いじゃなかった事件なので了承してくれた。
パトカーで帰宅した自宅には、久しぶりに誰もいなかった。照明のついていない家に帰ってくるのは久しぶりだ。…なんだか凄く寂しい。
軽くシャワーで汗を流して、今、時間は真夜中の1時だ。どうせ一人では眠れないから、自室で勉強していよう。ここのところ、僕の成績は下降気味だ。勉強に集中できないことが多いからっていい訳には出来ない。
響子さんは2時ごろに帰ってきた。
4時間前に都心で起きた事件の事はなにも会話しなかったけれど、目と目で通じ合う何かが僕たちにはあった。共犯者の意識だろうか。
響子さんは自室でこまごまと何か調べ物をしているみたいだ。さっきの事件の事は響子さんにはすぐばれるんだろうな…
僕は、朝まで、ベッドで横になりながら、天井を見つめていた…
翌朝、一高に登校すると、校門に七宝君が立っていた。何だか不機嫌な表情だ。誰か待っているのかな?
「おはようございます、多治見先輩」
「おはようございます七宝くん」
「少しお話を…お願いがあるのですがお時間よろしいでしょうか」
「えっ?僕?」
今日は土曜日で、放課後の午後、演習室で十三束くんと模擬戦を行うんだそうだ。そこで、僕に七宝くんのセコンドについて欲しいとお願いされた。
「セコンド?どうして僕が?」
模擬戦では七草家の影響下にある人物が多すぎて、中立的な立場の人物がいない。九島家と五輪家の庇護下にある僕に中立の立場で見届け人になって欲しいと言われた。
学校には他のナンバーズもいるし、僕が中立の立場なのかどうかはわからないけれど、了承した。
今日は放課後、澪さんの病院に行く予定だけれど、少しくらい遅れても大丈夫だ。
授業開始前、僕とレオくんは生徒指導室に呼ばれて、昨夜の事情を聞かれた。警察から事件の報告があったそうだ。
僕たちは何を聞かれても知らぬ存ぜぬを通す。実際、そうだったからだけれど…
とにかく夜は一人では出歩かないよう注意を受けるにとどまって開放された。
生徒指導室から出た廊下で、
「まったく…おちおち勉強もしてられねぇぜ」
「うん、僕もこれ以上成績落ちたら、今度は保護者同伴で呼び出しうけちゃうよ…」
「しゃれにならねぇ…」
二人してへこむ。一科と二科の違いはあるけれど、授業の内容はまったく同じなんだ…
赤点になるほど成績は悪くないけれど、毎日勉強をしてこの程度なのだから、どうすれば成績向上するのやら…
ただ、昨夜の事件後、なんだかレオくんとの距離感がぐっと近づいた気がするな。
ちょっと嬉しい。
放課後15時、約束どおり七宝くんと共に演習室に行く。第三演習室には達也くん深雪さん幹比古くんに三年生の二人、七宝くんの相手の十三束くんがいた。
「どうして久が?」
生徒会役員で立会人の達也くんが短く聞いてくる。僕の立ち位置を七宝くんが説明した。なんとなくだけれど、非難を含んだ視線が七宝くんに向けられる。先輩方を信用していないのだから仕方が無いけれど僕には無関係だ。僕は深雪さんの隣に立って模擬戦を見学することにした。
………
七宝くんと十三束くんの模擬戦は十三束くんの圧勝だった。僕が立ち会う必要なんて欠片もなかった。けれど、七宝くんがCADを使わずに大規模な『魔法』を使ったことに驚いた。CADを使わなくてもつかえる『魔法』は意外と多いのかな…
そのあと追加で行われた十三束くんと達也くんの模擬戦は僕には物凄く参考になる勝負だった。
特に十三束くんの『セルフ・マリオネット』は興味深い。
昨夜、僕は『念力』を身体の動きに上乗せしてチンピラを攻撃した。十三束くんの『セルフ・マリオネット』は『移動系魔法』だけで身体を完全に動かす魔法だ。これを『念力』に置き換えれば、僕は体術でも常人をはるかに超越した動きが出来ることになる。
勝負の間、深雪さんは憂い顔だったし、幹比古くんは達也くんと互角に戦う十三束くんに驚いていた。『術式解体』出来る生徒がもう一人いるって、一高はほんとにどうなっているんだろう。3月のリーナさんの嘆きを思い出す。
上級生の二人も興奮していたし、壁にもたれている七宝くんも高度な魔法戦に言葉がない。
十三束くんと達也くんの戦いは接戦だったけれど、達也くんの勝利に終わって、お互いが健闘をたたえあっている。
達也くんが攻撃を受けたことに深雪さんが驚いていたけれど、達也くんだっていつも無傷とはいかないと思う。昨夜だってビルの高さから落っこちてきていたし。
深雪さんは心配のしすぎだよなぁ。嬉しさで涙目になっているし。
僕は達也くんが魔法が苦手といっているわりにさまざまな魔法を使っていることに疑問をいだく。ひとつひとつの規模は小さいけれど、そのスピードは僕とかわらない。
「それにしても、マジックアーツは…ああいう戦い方があるのか…あれなら僕にも出来そうだな…」
貧弱な僕の身体も『サイキック』で動かせば、ほぼ無敵の格闘術に利用できるだろう。言うなれば『サイキックアーツ』だ。
これは、僕にとって肉弾戦におけるパワーアップフラグだ。『術式解体』は防げないけれど、瞬時に、何度でも『サイキック鎧』は修復できる。
ちょっと試してみたいけれど、機会はそのうち訪れると思う…
原作のこの時点で達也は劣等生どころか、国策の一高のシステムすら見直させる破格の人物だと知られていますが、オリ主の久はいまだに残念魔法師だと思われています。もちろん、高校生として学力は残念なんですが、覚えるのが苦手なだけで覚えたことは忘れません。それは魔法術式もです。『サイキック』として余裕で地球を破壊させるほどの力を持っていることを知っているのは、『ピクシー』だけ。九重八雲、九島烈、四葉真夜、周公謹がわずかに知っていています。完全思考型CADを手に入れた今は系統魔法の達人となりつつあります。系統外と感知系はまったくだめですが、もともと魔法力は深雪レベルなので、4系統8種を組み合わせて色々なことが出来るようになります。魔法師としても人間としても近しい人たち以外、一高生や十師族のほとんどは久の事をどこかで侮っています。殺人を厭わず友人や家族以外がどうなろうと興味がない精神が不安定な不老の少年…八雲の言葉通り、危ういです。