魔法科高校の年表だと、九島烈くんはもう産まれてその辺をうろうろしているんですよね(笑)。
すずめの鳴き声で朝になったことに気がついた。僕は書き取りしていた手を止めて時計を見る。
もう7時か…魔法の勉強は面白くて時間が経つのが早い。一般教科は…まぁ魔法科高校だし。
僕は魔法科高校と大学の中間辺りに住んでいる。烈くんが手配してくれた一軒家だ。
僕一人に大きすぎる家だけど独房じゃなければなんでも良いや。
奈良の九島家から第二高校に通えば、来年光宣くんと同じ学校に通えるのではと最初は考えていたのだけれど、
「一校に通わないと話が進まない」とメタな事を言われた。???
キャビネットという交通システムで高校まで30分くらいだから、そろそろ登校準備をしよう。
朝ごはんは、水と高カロリージェルだ。同じジェルは台所に箱で買ってある。
自動調理器というのが台所にあるんだけれど、ボタンを押してもなにも調理されて出てこない。壊れているんだ。
本当は手料理したいけれど、そんなスキルはないので、今はジェルで十分だ。
どんどん栄養をとって『咲-Saki-』の姉帯豊音さんみたいに大きくなるんだ。このままだとすこやんになりそうだから。
なんで『咲-Saki-』を知っているかって?烈くんの書斎の蔵書にあったんだ。このペーパーレスの時代に紙媒体の全巻初版本で。初版本が好きなんだな。
烈くんは10代の頃『電脳の伝道師』と自称していたらしい。チュウニビョウと言う病気だったそうだけれど。
その頃から二つ名を持つほど活躍していたんだ。凄いな。
『咲-Saki-』の最終巻、インターハイ個人戦決勝、照と和のリードを最後の最後にまくる咲さんが…おっと、早く登校しないと遅刻しちゃう。
今日から新入生勧誘週間なんだそうだ。
「お前は狙われるから気をつけろ」って森崎くんが忠告してくれたけど、運動神経も頭もそんなに良くない僕を勧誘するような部活は無いと思う。
僕は料理部にはいって美味しいものを沢山つくるんだ。
僕は美味しいものさえあれば大概幸せなんだ。
キャビネットから降りて、一校までの道をとてとて歩く。他の生徒は男子は特に手ぶらが多いけど、僕は筆記具やらなにやら入れたかばんを肩にかけている。
はやくこれにお弁当を入れて登校したいな。
「はぁはぁ…」
それにしても一校前のこの坂はつらいな。息が切れる。でも、いくら僕が体力不足でもちょっと疲れすぎなんじゃないかな。
いつもはこんな…ぐらり、あれ?世界が斜めに…違うな僕がふらふらしているんだ。
倒れそうになった僕は、街路樹の幹に手をついてかばんを道路に落とす。
「はぁはぁおかしいな…薬が抜けてから僕の能力ならこんな体調になるはずはないんだけれど…」
薬物を大量に投与されていた時代は、僕の回復能力はその薬の毒を排出しようとしていた。だから凄く身体が痛かったんだ。
薬のせいで能力が打ち消しあっていて僕の機能は低下していたんだけれど、そのことに気がついたのはずっと後のことだ…
「久、どうしたの!顔色がすごく悪いわ」
とても素敵な声が僕の背中にかけられた。顔をみなくてもわかる。深雪さんだ。この声で告白なんてされたら絶対即OKうけあいの美声だ。
深雪さんがいると言うことは、当然、
「後ろから見ていてもふらふらしていたぞ」
達也くんも無表情だけれど、心配してくれているのは良くわかる。
「歩ける?すこし休んでいく?」
「ん、平気…」
平気じゃなかった。僕はその場にぺたりと座り込んでしまった。
「お兄様、とりあえず、久を学校の保健室に連れて行きましょう」
「そうだな」と言うと、達也くんは、僕を両腕に抱えて…ってこれお姫様抱っこでしょ!
「達也く…これは…この時代は…お姫様抱っこがデフォなのかい…?おんぶでいいのでは…」
「何を言っているの久!女の子が公衆の面前でおんぶなんてはしたないですよ!」
「あうぅ…」
色々つっこみたいけれど、体調がそれを許してくれない。僕は二日連続で男子にお姫様抱っこされてしまった。今回は二科生もいる…これで全校生徒に知られるのか。
それにしても達也くんは全然動じていないな…すごい精神力だ。すごい…んだと思う。
深雪さんは僕のかばんを持ってきてくれている。自分で薦めておいて「私もお兄様にお姫様抱っこされたい」とかつぶやいて微妙に不機嫌になっている。
はやく保健室につかないかな…
保健室の安宿先生は、なぜか胸元の良く見える服を着ている。寒冷化の影響で露出が少ないのがセオリーのこの時代、一人だけ作品が違いません?と言った感じだ。
目のやり場に困る。けっして見たいわけじゃないぞ、うん。どきどき。
安宿先生は見るだけで患者の状態がわかるそうだ。CADを使わなくてもいいなら、これは魔法と言うか超能力だ。魔法と超能力は同じもの…か。
「久はどうですか、先生」
深雪さんが先生に尋ねる。見ただけで異常がわかるのなら、僕の能力もわかってしまうのだろうか。そのあたりは守秘義務とかあるんだろう。
安宿先生は神妙な顔をして一言。
「これは…寝不足ね」
「「は?」」
兄妹の声がきれいに重なる。これはもうデュエット曲出しなよ。
「多治見君、あなた最後に寝たのはいつ?」
僕はちょっと考えて「一週間くらい前、東京に来る前日かな…あっ入学式のとき達也くんの隣でうとうとしたな」
そうお兄様のお隣で…と言うつっこみはなかった。僕は起きていれば少しずつ回復する能力があるので眠らなくてもたいして疲れない。
おかげで遅れている勉強がはかどる…丸暗記、と言う説もあるけれど…
エネルギーをとり続ければ長い間起きていられるだろう。
あれ?ぼくが10歳の容姿なのはもしかして老化もこれで回復しているのか!?
まっまあいい。それは後で考えよう。
「僕はあまり寝なくてもいい体質なんです」
安宿先生は呆れ顔で「いくら肉体はよくても、精神的に疲弊していくわ。その精神的な疲れをリセットしてくれるのが睡眠です」
眠るとスッキリして嫌なことを忘れられると言う。眠っている間に嫌な夢をいつも見るので無理なんじゃないかな…
でもひとつに夢中になると僕は行動が極端になるみたいだ。
何十年も身動きとれず、空だけ見ていた僕の心は、すこし壊れているのだろう。
「じゃぁ久は大丈夫なんですね」
達也くんが相変わらずの無表情に呆れ顔が混じっている。
「ええ、今日は保健室で寝かせておくから、あなたたちは教室に行きなさい」
「僕も行く」
「駄目です、寝ていなさい」
「はい」
そんな素敵ボイスで言われては…
達也くんと深雪さんが教室に行って、安宿先生と二人保健室に残った。安宿先生は結婚していて子供もいるそうだ。
だから子供の扱いが上手なんだ…ん?僕は子供じゃない…
春の日差しが暖かいな。新緑も、町の緑の匂いだ。
んぅん、他人と一緒の部屋で…寝るなんて…光宣くん…ち…いらい…すぅすぅ。
昼休み、エリカさん美月さんレオくん雫さんほのかさんがお見舞いに来てくれた。
なんと森崎くんもお見舞いに来てくれたんだ。深雪さんへの公開告白撃沈の傷も癒えてないだろうに。嬉しいな。
結局、午後の授業も休んだ僕は、「新入生勧誘でけが人が増えるから」と、忙しくなる安宿先生にお礼をして保健室を出た。
勧誘でなんでけが人が出るのかよくわからないけれど、とにかく僕も料理部に見学に行こう。問題ないようならそのまま入部しよう。
僕は足取りも軽く、とてとてと歩き出した。
「…迷った」
一人、料理部の調理実習室に向かっていた僕は、見事に迷った。
これは『咲-Saki-』の主人公宮永咲さんと同じスキルだな。どうせ同じスキルならリンシャンカイホーしてみたいけれど、魔法科高校に麻雀部はないだろう。
ここどこ…と涙目でうろついていたら、急にくらっとめまいがした。
さっきの寝不足とは違う、何か波のような強い波動…
僕は両手をついてその場にしゃがみこんだ。
あっそういえば僕のかばん、深雪さんが教室に持って行っちゃったな…
しばらくその場でじっとしていたら、
「大丈夫か?」
と逞しい声がかけられた。見上げると、十文字先輩が立っていた。相変わらずの存在感だ。そこにいるだけで廊下が狭く感じる。
「十文字先輩…?これは…」
「どうやらサイオン波酔いの生徒が何人か出ているようでな、安宿先生が症状の出た生徒を見つけたら第八演習室につれてくるように部活連にも通達が来ている」
「サイオンは…酔い」
「立てるか?」
十文字先輩に言われて、何とか立ち上がったけれど、地に足が着いていない。ふわふわする。また倒れそうになるところ…
ふわり、と十文字先輩が抱きかかえてくれた。って、またお姫様抱っこ!!?
「連れて行こう。多治見は感受性が強いのだな」
「久です」
「ん?」
「多治見という苗字はあまり好きではないので、久と呼んでください」
「そうか、では久、行くぞ」十文字先輩は優しく僕の名前を呼んでくれて、実習室に連れて行ってくれた。
お姫様抱っこしたままで…
当然、道中も実習室も騒然。
「きゃぁぁあ!なにあの子、噂の男の娘?」「ファンタジスタねっ」「じゅるる、これ誰か写真を…」「わっ私も撮る!」「十文字君!そのまま動かないで!」
帰宅時間になり、症状がなくなった僕は、かばんを取りに1-Aの教室にもどった。
そこには深雪さんと雫さんとほのかさんがいて、
「久は男の人が好きなのね。でもお兄様はだめよ」
「…アブノーマル」
「久君と達也さんがっ!!?」
僕は回復能力以上のダメージを受けた…
『咲-Saki-』は当然、魔法科高校の時代には完結していますよね!ね?
久の心はすでに狂っています。なのでちぐはぐな行動を時にとります。
自動調理器の謎に気づくのはいつになることやら。
烈くんは若い頃、2010年代、つまり今頃アキバをうろうろしていたりする(笑)。
誰にだって黒歴史があるのだよ…