パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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いろいろと忙しいんですが、文章を書くのは楽しいので頑張ります。


プロポーズ

僕は藤林響子さんと婚約(仮)をしている。

もともと、響子さんに結婚の意志がないので、魔法師界の責任や親戚からの圧力をかわすために、去年の九校戦のとき、烈くんの提案で行われた。

ただ、公にはされていない。将来、響子さんにふさわしい男性は必ず現れるはずなので、婚約解消の汚点をつけないためだ。さびしいけれど、本来なら、僕みたいなイビツな存在に関わるべき存在じゃないと考えている。

この婚約(仮)は、響子さんへの親戚からのお見合い圧力は、完全に避けることに成功した。烈くんの威厳と影響力はそれだけ巨大なんだ。

 

でも、困ったことに、僕が元旦の九島家の会に参加してから、僕あてにもお見合いの話が来るようになった。とくに魔法師の家系じゃない大企業家や大物政治家からが多い。

大物社長やら政界の誰それさんの娘さんのお見合い写真が健康診断書や家系図なんかと一緒に自宅に送られてくる。

 

大名の過去は野に伏し山に伏し

 

財力を手に入れたら、次は現在の日本を裏から牛耳る十師族の権力に手を伸ばす。

雫さんのお父さんもその一人だね。雫さんのお母さんは魔法師界では有名だったそう。北山家のパーティーで達也くんに絡んでいたイメージが強いけれど…

僕みたいに天涯孤独な身は犯罪組織や企業以外にも魅力に感じるみたいだ。僕の住所は少しずつ世間に知られるようになっている…八雲さんじゃないけれどどうやって調べるのやら。お見合いの承諾もしていないのに健康診断書って、先走りすぎるよね。娘の個人情報を他人に晒しているんだから。

でも、ときどき息子さんの写真が送られてくるのはなんでだろう。僕を女の子と間違えている人もいるんだ…つまり表面上の僕しか知らない、にわかに魔法師界につながり、とくに九島家とつながりを持ちたいと考えている人たちがいるんだね。元旦の九島家でお年玉を沢山くれた人たちと同じ底が浅いけれど、権力のにおいに敏感な人たち。僕の値段をつけるのは僕自身じゃない。利用価値が高いと思われているんだ。正直面倒くさい。

 

響子さんは冗談で見合い写真と、ネットで見つけてきた本人の写真との違いを教えてくれる。犯罪すれすれな冗談だよ、響子さん。いくらネット上にながれている画像だから問題ないって言っても、限度があるよ。

それにしても、このお見合い写真は修整がすごいな…

それに、お見合い写真が来るたびに、澪さんの機嫌が悪くなるから、これが一番こまる。

お見合い写真が来た時の澪さんのプレッシャーを間近に受ける僕の精神は鰹節のようにごりごり削られる。『精神』の存在に近い僕にとって、それは体が削られるようなものだ。

こんな人たち、僕にとってはアニメの通行人かモブだよと言ったら、背景まで細かくチェックしている澪さんの機嫌はますます悪くなった。おかげで、この見合い写真を送ってくる人たちに対して敵意を覚えるようになった…澪さん機嫌直して、ほらプリン作ったよ、一緒に食べようよ!

興味はまったくないんだけれど、安易に捨てるわけにも行かず、この手の見合い写真を自宅に積んでおくのも気分が落ち着かない。

だから、澪さんの提案で、ある程度数が溜まると、烈くんに郵送する事にしている。澪さんと五輪家には政治力がないし、もともと烈くんと繋がりを持ちたいんだから、別にいいよね。逆な意味で目をつけられるけど。正直、この見合い写真を送ってくる人たちがどうなろうと僕には興味がない。それより澪さんのプレッシャーの方が怖い。

 

それでも3月までは二~三週に二回くらいのペースだったんだけれど、4月、僕が模擬戦をした、あの日以降、その手の見合い写真が増えた。毎日のように送られてくる…響子さんは面白がっているし、澪さんは…うぅ。

いったい誰があの日の情報を流したんだろう。あの日の演習室にいた人物は、達也くん、深雪さん、幹比古くん、沢木先輩、桐原先輩、十三束くん、七宝くん。

うぅん、誰にもメリットがない気がする。僕に注目が集まって喜ぶのは…誰だろう。

 

5月下旬、8月の九校戦に向けて生徒会や選ばれるであろうメンバーは少しずつ準備を始めてる頃だ。

特に今年の生徒会長あーちゃん先輩の性格から、例年より早めに動き出している。去年、僕も九校戦代表メンバーに選ばれたけれど、選出されたのは7月半ばだった。今年も成績上位者やクラブ活動に力を入れている生徒はメンバーになれるかどうかそわそわし始める頃なんだって。

九校戦が大好きな雫さんなんかはそのうちの一人だ。

逆に、僕は九校戦のメンバーに選ばれるかどうかはそれほど興味がない。

選ばれればがんばるけれど、成績上位者じゃないし、料理部部員に出場可能な競技はないし。九校戦よりもなによりも、その前の定期試験の方が僕には壁だ。

毎日二時間勉強しているけれど、記憶力がイマイチな僕は、この一ヶ月はとくに自分を追い込まなくてはいけない。

 

実は今週の土曜日、光宣くんから例の『使い魔』を使役していた術者の正体がわかったので、一緒にご挨拶しに行くことになっている。約束したからって律儀に連絡をくれたんだ。

術者がわかった時点で一気に攻めたほうがいいんじゃない?って光宣くんに言ったら、包囲する人員の確保や、根回しと後処理の準備が必要になるんだって。

背後関係や、確実にその日、その場にいるように仕向けることも大事で、他の古式魔法師との全面戦争にならないよう気を配らなくちゃいけないんだそうだ。

僕はその手のノウハウがないから、本当に制圧向け。悪く言えば鉄砲玉だ。昔なら烈くん、今なら光宣くんが僕を上手に使ってくれる。誰にだって向き不向きがあるって達也くんも言っていた。

 

「僕の役目はどうなるかな?カメラやセンサーの類さえ押さえてくれれば、まとめて髪の毛一本残さず消しちゃうけれど?」

 

老若男女かまわず殺すと言う僕の物騒な提案に声色一つ変えず、

 

「いえ、術者の一人は生け捕りしたいのです。それ以外は処分しても構いませんよ。いちいち穴を掘って埋めるのも手間ですし」

 

と子供同士で無慈悲な提案をしあっている。この会話は僕の部屋で携帯端末で行っている。少し小声で、階下の二人の美女に聞かれないように。何だか子供の悪巧みみたいで楽しい。

 

殺戮は、土曜の夜に行われる…

 

 

 

自室で勉強中、そんな事を思い出していたら、携帯端末が鳴った。ディスプレイをみて電話の相手の名前を確認してみると…

 

「え?十文字先輩?」

 

十文字先輩から電話なんて初めてだ。一高在学中、緊急連絡用に携帯アドレスは教えあっているけれど利用する機会はなかったし、最後に会ったのは3月のパーティーの時だ。

 

「こんにちは、お久しぶりです十文字先輩」

 

「久か。3月以来だが元気そうだな」

 

十文字先輩が電話をしている絵がなかなか想像しにくいけれど、相変わらず声には迫力がある。十文字先輩は細かな気遣いは苦手、というかそもそも念頭にない人だけれど、一高では僕の事は気にかけてくれていた。

どうも十文字先輩の僕のイメージは入学したての体調不良のときで固定されているみたいだ。

簡単な挨拶をして、普通ならお互いの近況なんかを話すところだけれど、十文字先輩がそんなまどろっこしい事をするわけがない。いきなり、

 

「明日、一高の放課後、横浜の魔法協会ビルに来てくれ」

 

僕の都合とか、あまり気にしていない発言をする。まぁ予定なんて引きこもりの僕にあるわけないけれど。

 

「お話があるなら魔法大学は近いから大学にいきますよ」

 

魔法大学はかつての自衛隊の朝霞駐屯地にある。僕の住んでいる練馬の一番北に正面入り口があって、キャビネットなら20分もあれば行ける。

 

「いや、個人的な用件なので、衆目は集めたくはない。横浜まで来れるか?」

 

「はい、じゃあ学校が終わったら直接向かいますので16時頃で大丈夫ですか?」

 

「かまわない」

 

十文字先輩が僕になんの用だろう?わからない…気になって勉強に身が入らない。一つが気になるとほかに意識がいかなくなるのは僕の悪い癖だ。決して勉強をサボっているわけじゃない!

でも、横浜か。そうだ、以前、周公謹さんが招待してくれた中華街に帰り寄っていこう。いきなり友人や澪さんと響子さんは誘えないので…

いつもの警備会社に電話して、翌日の予定を伝える。学校から直接、横浜に向かうので、校門に直接は目立つので、キャビネット乗り場まで迎えに来てもらうことに。そのさい警備のいつもの二人のほかに、運転専用の人を追加で一人お願いする。

 

翌日16時、魔法協会ビルの個室で僕と十文字先輩は二ヶ月ぶりに再会した。

個室は20畳、自宅のリビングくらいの広さなんだけれど、十文字先輩がいるともっと狭く感じられる。個室は盗聴なんかの心配がないように設計されているって説明してくれるけれど、そんな重要な話なのかな?

でも、十文字先輩のカジュアルなスーツ姿は一高の制服に見慣れた僕には新鮮だった。

ソファで向かい合って座る。お茶はインターホンで呼んだ協会の女性が用意してくれた。ティーポットごとテーブルに置いて外に出るのを確認してから、十文字先輩は話し始めた。

 

「制服のまま来たのか。そこまで急がなくてもよかったのだがな」

 

「いえ、この後、近くでお食事していく予定があるので」

 

そうか。と答えると、前置きなく用件に入る。

 

「最近、見合いの話が多いらしいな」

 

昨夜、十文字先輩の用件について、澪さんと響子さんに質問しても予想できなかったので、ぶっちゃけ何も考えずに横浜に来たんだけれど、この話題は唐突で驚いた。

 

「よくご存知ですね、じつは毎日のように来ているんで困っているんです」

 

「ここのところ、昵懇の政治家や企業家から相談を受ける機会が増えていてな、久も17歳だからそういう話題があってもおかしくはない」

 

「先輩にもそういう話は来るんですか?」

 

「来るな。だが俺は十師族次期当主だ。相手は同じ十師族かナンバーズから選ぶことになるだろう。だが久は九島閣下や五輪澪殿の庇護下にいてもナンバーズではない。そのせいでハードルが低いと考える連中が多いんだろう。今でもさまざまな組織から注目を浴びているし、今後はもっと浴びることになるだろうな」

 

「…はい、九校戦の選手に選ばれたら、たぶんこれまで以上に面倒になると思います」

 

「アイスピラーズブレイクか…」

 

「はい、今年も一条くんと競うことになると思います」

 

競技用のCADに慣れるまでに去年は二週間もなかったけれど、今年はもう少し準備期間があるから、このままだと面倒なことが増えそうだ…辞退しようかな。

新人戦に出場した去年と違って、今年は本戦、出場選手は3年生も候補だから、実力者もいるだろうしね。そんな事を考えていたら…

 

 

 

「そこでだ、結婚してくれないか」

 

 

 

「は?」

 

唐突に十文字先輩が言った。真顔で。まっすぐ僕の目を見つめて。

 

 

十文字先輩にプロポーズされてしまった。

 

 

十文字先輩と僕が結婚?この時代は男と男の娘で結婚できる時代になったのか。

まさか連載第5話の男好きネタがここまで引っ張られるとは考えてもみなかったよ。

 

「そりゃぁ僕は十文字先輩の事は好きです。入学以降いろいろと気を使ってくれて、すごく助かっていました。でも、僕たちは男同士ですから…結婚は…」

 

「…?何を言っている。魔法師は早婚が求められているが、久につりあう年齢の女子はそういない。どうだ、俺の妹と婚約する気はないか?」

 

「妹さん?十文字家のパーティーでお会いした?」

 

びっくりした。十文字先輩は天然さんだから!ただの言葉足らずだったのか!

まさか、数行で済ませた十文字家のパーティーがここにつながる伏線だったなんて…

 

「そうだ。同じような話は司波にもしたことがある。その卓越した『魔法力』は学校の実技ではわかり難いが、この国のためには必要だ。九島五輪両家の庇護にある久は、もはや十師族のメンバーと言ってもいいし、十文字家として久を守ることもできる」

 

司波?達也くんのことか。達也くんにも同じようにプロポーズしたのかな?この二人がカップルになったら、責めは達也くんかな…おっと、この想像は危険だ。氷の女王を召喚してしまう…

十文字先輩は、本気だ。僕の現在の立場はともかく、もともとは天涯孤独の孤児に、十師族の十文字家の娘を嫁に出そうと言うのだから思い切った提案だ。先輩の気持ちは素直にありがたい。

でも、これは…困った。十文字先輩は真剣に僕のことを考えてくれているけれど、言った方が良いのだろうな…

全身で悩んでいる僕を見て、

 

「ん?妹はまだ小学生だが…やはり年齢が気になるか?俺としては似合いの二人だと思うのだが?」

 

たしかに十文字家のパーティーではとっても懐かれた。帰るときまで僕のことを女の子だと思っていたみたいだけれど…?お似合いなのは、それは僕の見た目が11歳だからですよ。戸籍上は17歳で、この地に現れたのは80年近くも前ですから。

 

「妹との年齢差が気にかかるならば、七草家の双子ならどうだ?同じ一高生として顔も見知っているだろうから、俺から七草殿に話を…」

 

「ちょっと待ってください!」

 

僕は両手で、十文字先輩の圧力を押し返すように制止する。

 

「じっ実は、これまで秘密にしていたんですが…僕には婚約者がいるんです!」

 

「ほう?それは、俺も知っている人物か?よければ教えてもらえるか」

 

「実は…烈くんの肝いりで、僕は藤林響子さんと婚約しているんです!」

 

婚約(仮)だけれど…心の中で呟くと、場を支配していた十文字先輩の圧力が消えた。

おそるおそる見上げるとぽかーんと口をあけた十文字先輩がそこにいた。これは快挙かもしれない。こんな顔誰も見たことがないだろな。

 

「そっ…そうか九島閣下の…たしかに藤林響子殿は未婚で閣下のお孫さんにあたる。藤林家は十師族に次ぐ名家だ、藤林殿自身も世界的に名を知られた『魔法師』…」

 

おおっ!十文字先輩が動揺している。これは動画に撮っておいて記念に残したいくらいレアだ。

 

「いろいろと事情があって、公にはしていないんですが…」

 

「うっうむ、いろいろと問題があるな。なるほど、久が成人すると共に公表することになるのか…なるほどなるほど、流石は閣下だな」

 

小学生の妹を婚約者に薦めるのも法的にいんこーですけれどね。まぁ僕の実年齢からすれば響子さんも滅茶苦茶年下なんだけれど。それに、僕と響子さんの婚約(仮)は、ライトノベル的な理由なんですよ。

 

先輩は、ひとつ咳払いをして、気分を落ち着ける。それだけで、いつもの十文字先輩に戻った。

 

「すまなかったな、どうやら先走ってしまったようだ」

 

「いえ、公表はしていませんでしたが秘密にしていたわけではなくて、知っている人は知っている…みたいな」

 

「ふむ、では俺も今後久のところに見合いの話が来ないように働きかけて置こう」

 

「お願いします」

 

僕は立ち上がってお辞儀をしながらお礼を言った。

個室からは僕が先に出たんだけれど、出るときちらっと振り返ったら、十文字先輩が複雑な顔で考え込んでいた。僕と響子さんのカップリングはそんなに変かな。十文字先輩と達也くんのカップリングよりは…おっとこれ以上の妄想は危険だ…

 

お見合い話のあと、警護人さんたちと中華街に寄った。

周公謹さんとの約束で中華料理屋に招待されている。いつでも良いと言っていたし、周さんが僕を見つけてくれなかったときは適当なお店で僕がご馳走すればいい。

今日は食事中、車から離れることになるので一人、運転手兼車の監視役をお願いしている。いつもの警護の二人は『パラサイト』事件のときにいろいろとご迷惑かけたので、今回のお食事はそのお礼も兼ねている。

二人は恐縮していたけれど、一人だと食事もさびしいからってお願いした。

中華街に入ると、異国を感じるな。入り口の門が異界への入り口みたいだ。こんな事を思うのは僕が『魔法師』だからだろうか。

平日だけれど、食事時なので人は多かった。僕を見つけてくれるかな…と思っていたら。

 

「多治見久様、ようこそお越しくださいました」

 

周さんがまるで今日僕が来ることがわかっているかのように中華街の入り口に立っていた。一安心だ。警護の二人に周さんを紹介する。二人は周さんの美青年ぶりに驚いていた。

周さんに、運転手さんがいることを教えると、帰りにお土産の天心を用意してくれるって。

僕たちは周さんに案内されるまま一軒のお店に入った。ここが周さんのお店なのかどうかはわからない。具体的な説明はなかったから。急な来店で席が空いていなかったのかもしれないし。

でも、まさか個室に招待されるとは思っていなかった。中華のマナーとかわからないな…

 

「いえ、個室ですから、マナーは気にせず、堪能していただきたいです。われわれも腕によりをかけて準備させていただきます。なにかお好みがあれば用意しますが?」

 

「僕は中華料理はわからないから…」

 

警備の二人にたずねると、警備があるので酒精のものは厳禁、とのことだった。

気にしなくても良いですよって言ったけれど、マニュアルで決まっているって。そこは厳格だ。

あとは周さんにお任せして、料理を楽しんだ。中華料理は食堂の簡単なものしかイメージがなかったけれど、多様で濃いものからあっさりしたものまで、満足の行くものだった。たぶん金額的にも高額な料理だったみたいで二人は驚きつつも箸を進めていた。

僕は最近、ホテルで高級料理を食べる機会が増えたせいか、あまり値段を気にすることがなくなっている。朱に交われば赤だけれど、今度は澪さんと響子さんとも来たいな。

コースとして時間がかかるし、量もおおかったけれど、僕は良く食べるし、二人も鍛えている関係で胃は丈夫だ。出された料理をどんどん片付けていく。

 

周さんは、僕に対してものすごく腰が低い。本気で僕が『高位次元体』だと信じているようだ。食事の終り、デザートをいただいているとき、少し雑談した。

そのさい、他国人として色々な組織との軋轢はあるけれど、僕個人と敵対することは絶対にないって、以前と同じ事をくりかえした。

『僕個人』って表現はすこし気になるけれど…僕や『家族』以外なら、僕には関係がない。

 

周さんはお土産にと人数分の天心を用意してくれた。運転手さんの分は多めに。

帰りの車の中、お腹一杯の三人に、高級な天心をお土産にもらった運転手さんは、それはもう満足げな顔だった。お腹一杯なのに車内のお土産の入った紙袋から漏れて漂ってくる天心の香りは…おいしそう…いやいや運転手さんの分だよ。僕はすこし食い意地がはっている。昔、まともな物を食べていなかった反動かな。

その車内で、周公謹さんの印象について尋ねてみた。子供の精神の僕とは違って、二人は『魔法師』としても社会人としても経験豊富で、多くの人を見てきている。

その二人が言うには、微笑みの仮面で本心はわからない。腹に確実に一物も二物も持っているし、見た目どおりの年齢とも思えない貫禄がある。でも、僕に対する態度は敬意と尊敬、

 

「あとすこし久君に対して恐れを感じているような気がします…なぜそう思うのかはわかりませんが…」

 

不確かなことを言ってすみませんと謝るけれど、素直な意見を聞かせてくれてこちらこそありがとうございますって、頭を下げる。どうやら二人も僕と同じ意見みたいだ。

それに、奇妙なことに二人は周さんの顔をよく覚えていなくって、覚えていないことに何の疑問も持っていなかった。最初、周さんの美貌に驚いていたのにおかしいな…

 

 

帰宅すると、警護人の一人が、僕が車を降りる前に、周囲の確認と自宅周辺の澪さんの警護人と打ち合わせをする。これもマニュアルなので素直に従う。

安全を確かめて、僕が車を降りると、もう21時だったんだけれど、家の前にリムジンが一台止まっていた。道路を半分塞いで。家の周りの住人は僕たちをどう思っているんだろう…

それにしても見覚えのある白いリムジンだ…僕も乗ったことがある。

 

警護の三人にお礼を言って、自宅に入ると、澪さんが笑顔で玄関に現れた。

 

「お帰りなさい」、旦那様。

 

ん?今、旦那様って心の声が聞こえたような…?

 

流石にジャージは着替えていた。お土産の天心を手渡す。響子さんが帰ってきたら…真夜中にこんなカロリーの高い物、響子さんは食べるかな…僕と澪さんは『魔法師』の弊害のおかげでどれだけ食べても太らないけれど、響子さんは気になるお年頃…でも逆に澪さんは体型が中学生のままで…おっとこれは今考えることではない。

澪さんの笑顔は少し緊張が混じっている。自宅に十師族の直系がいれば、当然そうなるよね。

リビングのソファに想像していた女性が座っていた。

 

「こんばんは、真由美さん」

 

「こんばんは、久ちゃん」

 

真由美さんとも3月末のパーティー以来だ。私服の真由美さんは、あまり一高時代とかわりがない気がする。

 

 

 

「え?七草家に正式に招待?お食事?僕が?」

 

真由美さんの言葉に、僕は『?』マークの連続だ。いきなりどうしてだろう。

 

「ええと、澪さんと一緒に?」

 

「久ちゃんだけよ。以前のパーティーでは父は久ちゃんとほとんど会話ができていなかったし、去年の九校戦で妹たちが外国の『魔法師』に襲われていたのを助けてくれたお礼もしたいって」

 

「今になって?」

 

「そうよ、今になってよ。何かたくらんでいるんじゃないかって…家の父親は陰謀が趣味みたいなところがあってね。だから久ちゃんは無理に来なくても良いのよ。私が直接、久ちゃんに会えば断れないと狸親父が考えたのよ…」

 

澪さんが困った顔をしている。ここにまで来た時点でもう断れない状況を作っていることに真由美さんは気づいているのだろうか。

 

「そんな深刻に考えなくてもいいですよ、真由美さん。親しい先輩のお家にお食事に行くってことですよ。最近は烈くんや澪さんのおかげでテーブルマナーもそれなりになったから、ちゃんとした料理で緊張することもなくなったし」

 

「そう言ってもらえると助かるけれど…今日は十文字君と会っていたそうね?何か問題でもあったの?」

 

「最近僕がいろいろと面倒な事に巻き込まれているので気をかけてくれたんです。でも、その問題は大したことじゃないですよ。ちょっと資源の無駄遣いなだけですし」

 

お見合い写真は全部、九島家に送る。

 

「土曜の夕方からなんだけれども大丈夫?」

 

土曜!?

その日の夜は人殺しに奈良まで行かなくちゃだけれど…

これはアリバイ作りにちょうどいいかも。僕は光宣くんとの悪巧みを思い出して、くすっと笑った。

一高時代みたいに漫画チックに首を一瞬ひねってやめた真由美さんは、お礼を言いながら帰っていった。

 

土曜まで、一高で七草姉妹には会わなかった…

その日の夕方、澪さんに衣装を調えてもらって、警備の人の車で七草家に向かう。

今夜は東京も奈良も、晴れだって。でも奈良の空には一時、血の雨が降るかもしれないけれどね…

 

 




今回、ちょっと長いですね。
最初の構想では七草家に行くところまで考えていたんですが。

達也と克人、どちらが責めで受けか…なんて事を考えていた久は、
澪さんの部屋にあったそっち系の話も当然読んでいます。
澪さんのライブラリーは烈と違って女性向けが当然あるわけです。
創作での性的な表現は久は平気です。でも、現実に性的な目で見られることには苦手です。
人殺しや報復行為に禁忌は感じなくても性的な方面は恐怖を感じる…あいかわらずチグハグですが、いずれ事件が起きる…かもしれません。

次回はひさしぶりにエグイかな…?
お読みいただいてありがとうございます。
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