パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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ラブコメにしても良いとのご意見がありましたので、今回はラブコメです。


ピンク

 

僕が『戦略級魔法師』に認定されたことは当然、瞬く間に世界中に知れ渡った。

『戦略級魔法師』の認定は僕の想像以上に重大な事件だと思うんだけれど、夏休み期間中とあってか一高からは何も言ってこない。大丈夫なんだろうか。新学期が始まるまで放置?

校長先生は一高に国会議員が訪問したときも出張で不在だった。今も出張しているのかな?大事な時にいないとか、学校の経費で旅行でもしているんじゃないだろうか。ファーストクラスで…80年前のどっかの辞めた都知事みたいに。

魔法協会には、マスコミからの取材要請が殺到して、通常業務に支障が出るほどなんだって。国や軍への対応も魔法協会と『師族会議』がほとんどしてくれている。

正確には僕はまだ第一高校の学生で『魔法技能師』の免許を持っていない、いわゆる『魔法師の卵』だ。魔法協会に所属をしているわけじゃない。でも、『戦略級魔法師』として特例で魔法協会に所属することが決まっている。これが特例と認められないなら、認められる特例なんてないと思う。

今後の僕のする事は高校を卒業して、魔法大学か防衛大に入学することだ。大学は推薦がほぼ確定しているけれど、高校留年や落第は保障してくれない。とにかく勉強すること、勉強に集中しろと言う事だ…

 

学力に問題のある僕は勉強しなくちゃいけないんだけれど、夏休みの残り約二週間は宿題と格闘しながらあちこち出かけることになっている。

まずは真由美さんたちと海に行く約束だ。今回は澪さんといつも仕事が忙しい響子さんと一緒。二人とお出かけなんてほとんど初めてで、僕はテンションが上がりまくっていた。

前夜から楽しみで眠れない。いや、いつも眠らないけれど…ベッドで左右にごろごろ。お弁当は…いらないか…おやつは500円って言うよね…でも自作ならその金額に含まれないかな…

なんだか遠足前の小学生みたいで、これも初めての気分だ。魔法科高校は高校らしいイベントが全然ないから、こんなちょっとした事でハイテンションになる僕の情緒はやっぱり不安定だ。

 

海へは一泊の予定で、場所はセキュリティーの関係で不明だ。ただ、澪さんの警護は国策でもあるから、沢山の警備員はすでに七草家のプライベートビーチに配備されているって。

澪さんの行動は、基本一週間前には決まっていないと自宅から出かけることができない。僕の警護は当面はこれまでどおりだ。

『戦略級魔法師』の心得みたいなものは、本来ならしかるべき機関できちんと学ばなくちゃいけないんだろうけれど、それは澪さんが教えてくれることになっている。澪さんとほとんど一緒にいるからね。ちょっとしたきっかけで『魔法師』は力を失う。未成年ならなおさらだ。だから新しい『戦略級魔法師』の教育は時間をかけてゆっくりと行うんだって。

『戦略級魔法師』の生活は色々と大変だから、たまには澪さんも開放感を味わえるといいな。

まぁ自宅に引きこもっている澪さんはいつも幸せそうだけれど。僕も将来同じ道をたどりそうだ…

 

早朝、七草家に澪さんのリムジンで向かう。それにしても、どうして十師族はリムジンがデフォルトなんだろう。狭い日本の道路にはとても向かない車なのに。

僕はいつものデニムパンツにリネンシャツ、一見すると性別が不明だ。僕は魔法師界では比較的知られた容姿をしている。派手な一高の制服を着ていると、一般人でもすぐ気がつく。この服装だと、とても高校生には見られないという利点がある。貧弱な身体の利点なんて嬉しくないけれど。

澪さんと響子さんも夏らしい涼しげなワンピースだ。これにストローハットをかぶれば、完璧な避暑地に赴くお嬢様だ。二人とも素敵だ。

七草家は朝から緊張に包まれていた。何しろ世界に14人しか公式に認められていない『戦略級魔法師』を二人も招くのだから。わざわざ七草家当主の弘一さんが三姉妹と玄関先まで迎えに出てくれていた。『戦略級魔法師』はフランクな友人と言う扱いが出来ないんだ…

とは言え、今回は公式行事ではないから、簡単に挨拶をすませて、真由美さんの案内で控え室に向かう。

控え室といっても、かなり広いけれど、室内には市原先輩、渡辺先輩に、見知らぬ男性が一人いた。僕たちが部屋に入ると、すっと立ち上がって頭をさげた。

男性は、うわぁ、美青年だ。光宣くんとは違う大人の美丈夫。背が高くて細身だけれど、鍛えられた日本刀のような雰囲気がある。

渡辺先輩がずっと寄り添っていて、一高在学時には見せなかった表情をしている。

 

「はじめまして、五輪澪さん、藤林響子さん、多治見久君。千葉修次です」

 

僕と澪さんと響子さんも簡単に挨拶をする。

真由美さんが控え室のドアを閉める。お手伝いさんも廊下に閉め出して、ふうっと一息をつく。ここからは、友人たちの時間だ。堅苦しい態度もこれまで、と言う事になる。

 

「多治見君が来てくれてよかったよ。男が僕一人だけだと、ちょっと居心地が悪いからね」

 

今回の海水浴は女性ばかりだ。千葉修次さんは、それほど居心地が悪いようには見えないけれど。

修次さんは初対面の僕を女の子あつかいしない…この人は、絶対に良い人だ!

 

「それにしても、『戦略級魔法師』二人に『電子の魔女』の組み合わせって、冗談抜きで世界征服できるわよね…」

 

僕が澪さん響子さんと並ぶ姿を見て、真由美さんが冗談でもつまらない事をいう。世界を征服しったって何の意味もないよね。支配する事は支配されるという事でもあるし。

僕が『戦略級魔法師』に認定されてから先輩方とは初めて会うけれど、僕への態度は以前と変わらない。修次さんは剣術家らしく、このくらいで落ち着きをなくしたりはしないみたいだ。

香澄さんと泉美さんは僕たち、というか澪さんに少し萎縮しているみたいだ。

七草姉妹と響子さんは以前からの知り合いだけれど、それほど深い付き合いではない。師族同士の一定の距離感がある。

 

「ところで、久先輩と響子さんは、どういうご関係なんですか?澪さんは同居しているけれど…」

 

香澄さんが聞いてくる。余所行きの態度なのに少しジト目だ。ちょっと不機嫌みたいだ…

『師族会議』で七草弘一さんは僕と響子さんの関係を知ったはずだけれど、未公開の情報はたとえ家族でも話していないのか。そのあたりはちゃんとしているんだなぁ。

響子さんとは婚約者(仮)だけれど、未公表の情報だから秘密でいいよね!

早く響子さんの前に、修次さんみたいな男性が現れると良いな。響子さんの演技がちで相手を計るような性格を受け入れられる男性はなかなか居ないと思うから、響子さんも少し変われれば人生楽になるんだけれど、大人がそう簡単に変われるわけがない。

澪さんは、出会いは難しいだろうなぁ…

響子さんは、僕が東京で暮らすに当たって九島家や烈くんにかわって色々と面倒を見てもらっているというような説明を曖昧にしておく…

七草姉妹はそれで納得してくれたけれど、市原先輩は無表情で疑っている…気がする。

修次さんは防衛大の学生だけれど軍属でもあって、世界的に有名な近接格闘魔法師なんだって。なるほど、渡辺先輩が魔法大学に進学しなかった理由はそれでか。でも、『千葉』ってことは…

 

「じゃぁええと、エリカさんのお兄さん?」

 

「うん。よく似てないって言われるけれどそうだよ」

 

顔の造作は似ている。でも最大の違いは、エリカさんはいつも不機嫌そうで、修次さんはすごく丁寧で落ち着きのある人ってところだ。

 

「エリカさんは、僕の事を頼りない子供だと思っているんです」

 

「そうなのかな?エリカとはあまり学校の事は話さないんだけれど」

 

ん?エリカさんは家族仲があまり良くないのかな…?こんな優しそうな、理想的なお兄さんなのに。千葉寿和さんとはずいぶん雰囲気が違う。寿和さんはパーティー会場のでれっとした雰囲気のイメージが強い。

 

「じゃぁ…千葉寿和さんはお兄さん?」

 

「うーん、全然似てないって言われるけれどそうだよ…」

 

兄と妹でずいぶんとニュアンスのちがう返事だな…。修次さんと渡辺先輩は恋人同士なんだ。渡辺先輩が高校時代からのお付き合いだって。

 

「じゃぁ、修次さんが渡辺先輩と結婚したら、渡辺先輩はエリカさんのお義姉さんになるんだ」

 

「ちょっ、こら多治見いきなり何を言う…」

 

僕の唐突な発言に渡辺先輩は顔を真っ赤にしている。でもマンザラデモナイみたいだ。

 

「そうねぇ、結婚したらそうなるわねぇ」

 

「そうなりますね。あまり妹仲は上手くいくとは思えませんが」

 

恋人同士は苦笑い、真由美さんはにやにや、市原先輩は無表情で毒を吐く。双子は視線を泳がせる。ナンバーズは色々と複雑みたいだ。

 

 

朝食は各自すませて来ているから、七草家のヘリポートに向かう。この人数に警護の人員もいるから、ヘリは中型で一般家庭にはそぐわない汎用型…十師族ともなれば防御も重要だ。つまり分隊を運用できる軍用ヘリを改装したものだ。ブラックホーク…ごつい。

これは飛行中はローター音がすごくて会話なんて出来ないなって思っていたけれど、真由美さんがちょいちょいっとブレスレット型CADを操作して騒音をヘリ内に入れないようにしている。

自衛以外の魔法使用は厳しいのでは…と言う突っ込みは無駄だね。座席は三人がけでゆったりとしている。シートベルト必須だから座りっぱなしだけど、七草家のプライベートビーチには数十分で到着した。

正確な場所は不明だけれど、太平洋側なのは間違いない。プライベートビーチは小さな入り江で、海には七草家の別荘からしか行けない。他の海岸からは隔離されていて死角になっているから、他人の目はまったく気にしなくても言い。もっとも人家も離れていて、ビーチの周辺は警護の人達が囲んでいるから一般人は近づけない。海には巡視艇もいるから、海側からの襲撃も難しい。『戦略級魔法師』の警護は大変だ。澪さんが遠慮して引きこもるのも無理もない。

十師族のプライベートもいろいろと大変だと僕は思うけれど、真由美さんたちはそれが当たり前の人生なので、全然気にしていない。

このメンバーで一般市民は僕と市原先輩だけだ。でも、市原先輩もすっかり慣れている…諦めている?

 

弓形に弧を描くビーチは綺麗で、ゴミ一つ落ちていない。きちんと手入れされている。静かな夏の海を独り占めって感じだ。一般の海水浴場を貸切にしたのとは趣が違う。海の家がないのは残念だ。

21世紀前半の真夏なら、あっという間に日焼けして大変なことになるけれど、寒冷化時代の太陽は、真昼でもちょうど良いくらいだ。

僕たちはさっそく水着に着替えてビーチに向かう。

僕は修次さんと同室で着替えたけれど、修次さんは僕の女の子みたいな華奢な体型に少しも動じない。修次さんは細マッチョだ。剣術家だから身体は鍛えている。怪我のあとが見当たらないのは、卓越した実力の証明なんだと思う。

僕はショートパンツなんだけれど、響子さんが選んでくれたコレは女性用なんじゃ…それに、上に水着用のタンクトップを着る。去年、雫さんの別荘に行った時は上にパーカーを着させられていたけれど、あれじゃ泳げないし。

ショートパンツだけでいいと思うけれど…男なんだから…

…そういえば、去年、僕は南の島で結局泳がなかった。泳ぐってどうすればいいの?

 

響子さんは赤のビキニ。ブラジルビキニって言うんだって。ストラップは細くて、ボトムはハイレグカットなのにローライズ。体型に自信がないと着られない。大人の水着だ。

束ねた髪にサングラス。堂々としていて、なんだかセレブかモデルだ。

真由美さんが、めずらしく萎縮しているな…真由美さんはトランジスタグラマーで、同じくビキニなんだけれど、少し背の低い事を気にしている。この日のためにわざわざショッピングセンターで試着までして水着を新調したそうだけれど(原作13巻135ページの挿絵をご参照あれ)、小悪魔対決は響子さんの圧勝のようだ。

澪さんはチューブトップビキニ。青と黄色が鮮やかでボトムはやっぱりハイレグカットでローライズ。お尻が半分見えちゃっているよ…恥ずかしそうだ。もじもじしている。

未成熟な体型にまっすぐな黒髪とあいまって、奇妙に大人っぽい。

渡辺先輩は動きやすいスポーツタイプのビキニだ。鍛えているから、ウエストがすごく細い。

市原先輩はワンピースだけれど、背中はほとんど肌だけのタイプだ。背も高くて、スタイルいいなぁ…

こうしてみると、香澄さんと泉美さんは、同じビキニでもなるほど高校一年生なんだなって思う。子供っぽいって思う真由美さんもやっぱり大人なんだね。

僕はどうみても子供、それも女の子みたいだけれど。

寒冷化の影響で、肌を露出しない服装が一般的なこの時代。でも、どうして女性陣の水着は布が少ないのだろう。海で開放的な気持ちとは言え、男だっているのに。

男…修次さんは…渡辺先輩しかみていないな…渡辺先輩も…あぁもうこのラブラブカップルは…五十里先輩&花音さんのカップルとは違う熱い空気を周囲に撒き散らしている。

真由美さんの機嫌が目に見えて悪くなっていく…

こういうとき、真由美さんのとる行動はひとつだ。周囲の男子をからかって憂さ晴らしをする。一高時代ならはんぞー先輩か達也くん。修次さんは年上だからからかえない。

つまり標的は僕しかいない。

 

「久ちゃーん、お姉さんに日焼け止め塗ってくれる?」

 

ビーチパラソルの下にシートを広げて、うふふふふっと小悪魔は僕を呼び寄せる。トップのヒモを解いてうつ伏せになる。大きな胸がむにゅっとなっている。ライトノベル的展開だ。普通の男子ならここはドキドキしてしどろもどろになるはずだ。でも…

 

「いいですよ」

 

僕は、普通に返事をして、オイルのビンを受け取ると、自分の手のひらに広げて少し温める。

 

「うつ伏せのままリラックスしてくださいね。お尻はどうします?僕が塗ってもいいですか?」

 

真由美さんの横に座って、平然とオイルを塗り始める。その手つきは強くなく弱くなく、僕の柔らかい手で丁寧に、ムラなく塗っていく。

 

「えっ?ちょっと久ちゃん…上手…え?あっふゃぁん」

 

と、逆襲を受けた真由美さんが可愛い声を上げる。うん、めちゃくちゃ可愛い声だ。

残念ながら真由美さんの悪巧みは僕には通用しない。僕は大人小悪魔と一緒に住んでいるんだよ。

響子さんは時々…いや頻繁に僕をからかう。よっぽど、仕事場でストレスがあるんだろうね。手をかえ品をかえて僕で遊ぶんだよ。響子さんは基本的に僕を子供か弟と見ている。

僕が子供だからできることだけれど、髪を洗わせられたり、背中を…いや前もだけれど、洗わせられたりは良くあるんだ。しかも、スポンジじゃなくて素手で洗わされるんだ。『暦お兄ちゃんと月火ちゃんのお風呂シーン』みたいに丹念に…その間僕は目を瞑っているから、わざと身じろぎして妙なトコを触らせて僕をからかうんだ。だから女性の身体の触り方も、それはもう上手になって…

響子さんを洗わせられると、セットで澪さんも洗うことになるから、裸は見慣れて…いや見てないよ、見てない、うん。

『家族』だから一緒にお風呂に入っても問題ない!

だから逆に水着姿の方がどきどきする…響子さんはセクシーだし、澪さんも可愛いな。まだらに日焼けなんて出来たら綺麗な肌がかわいそうだよ。響子さんと澪さんにも言われなくても日焼け止めを塗る。ちゃんと自分用のを持ってきているあたり僕に塗らせる気満々だったね響子さんは。

市原先輩にも。市原先輩は真由美さんに恩を感じているけれど、こういうときは容赦なく真由美さんをいじる。

 

「有難う多治見君。でも私は真由美さんのように肌は白くないから、オイルを塗ってもあまりかわらないですし、自分でしますから」

 

「だめだよ、市原先輩は手足がすらっとしてるけど、それでも背中には手は届かないよ。ちゃんと塗らないとムラになっちゃう」

 

「別に誰に見せるわけでもありませんが」

 

「市原先輩は素敵だよ、背も高くて、頭も良いし肌もすべすべだし。綺麗な髪にオイルがつかないように塗らないと…」

 

言わされている。褒めさせられている。誘導されている。市原先輩はこう言う誘導がやたらと上手だ。男性と付き合って、いざとなると違法な魔法を使うとか…なるほどキケンジンブツだ。

僕に褒めさせるたびに、真由美さんにさりげなく視線を送り、ふふん、と軽く笑う。二人の仲が良いからできることだけれど、本当に恩を感じているのだろうか?ただ、市原先輩には一高へのこだわりという僕との共通点があるから、気持ち真由美さんより丁寧に塗る…ぬりぬり。

真由美さんと澪さんの機嫌が少し斜めになっている…うぅ美女二人からのプレッシャーが…

こういうとき、僕の依存性が発揮されて、妙に甲斐甲斐しくなるから、中途半端に終わらせられない。お尻からつま先までしっかりと塗る。いやらしさは微塵もない。ない!それに一見すると女の子がお姉さんたちにオイルを塗っているようにしか見えないんだけれどね。

さすがに香澄さんと泉美さんには断られた。香澄さんは興味があったみたいだけれど…渡辺先輩は修次さんとラブラブ塗りあっている。

で、その後、僕は女性陣にオイルを塗りたくられるんだけれど…あっいや、そこは、あっやめ、ああああぁ!もう、全身テカテカだ。

 

テカテカにされた後、ビーチバレーやスイカ割りなんてお約束の遊びを満喫する。スイカ割りは僕が割る担当で、目隠しをしてぐるぐる回されて、みんなの誘導でふらふら棒を構えながら歩く。

 

「久君、そのまま真っ直ぐ、少し右」

 

これは澪さんだ。素直で、一生懸命応援してくれている。

 

「久君、全然方向が違うわよ、もっと左、そのまま波に飲まれると完璧よ」

 

響子さん。僕に何を求めているの!僕は身体を張ってウケを狙うキャラじゃないよ!

 

「多治見、達也君なら真っ二つだぞ」

 

渡辺先輩は達也くんが好きだよね絶対。たしかに達也くんなら一瞬の迷いなく真っ二つにしそうだ。

 

「久先輩、わた…ボクはここだよ!もう鈍感!」

 

香澄さん…よく意味がわからない誘導だけど…鈍感なのは事実だ。痛みに強いのは良いことなのか悪いことなのか…

 

「目隠しするとほんと小さな深雪先輩ですわ…」

 

泉美さんは、僕とは微妙にかみ合わない。深雪さんしか見てないもんね。

 

「多治見君、55センチの歩幅で6歩、太陽の方角に、23度左です」

 

市原先輩!そんな細かく言われても無理ですよ!

 

「久ちゃん、きちんと割れなかったら罰ゲームだからねっ!」

 

あっ、真由美さんが不機嫌だ。罰ゲームはなんだろう。不安だ。

 

「多治見君、心の目で見るんだ。」

 

修次さん!心眼なんて、いきなり出来ません!

 

「えいっ!」

 

ぽかりっ!

 

みんなのでたらめな誘導に、僕はスイカを見事に真っ二つ…とは行かなかった。スイカに棒は見事に当たったけれど、非力な僕の一撃はスイカの厚い皮に弾き返されたのだった。

罰ゲーム決定?

 

二時間もすると年長者三人は学生のテンションに着いていけずに、ビーチチェアに寝そべってほとんど日光浴状態だ。年長者は、僕と澪さんと響子さんだ。僕なんて、超後期高齢者だ。

女子学生のテンションは、ほんとすごいなぁ。えんえんと笑い声が絶えない。市原先輩のあんな楽しそうな笑顔は初めて見る。修次さんもタフだなぁ。

澪さんは以前の虚弱体質からは回復したけれど、そもそも引きこもっているから、長時間の直射日光は肌に悪そうだ。パラソルの影で日差しをまぶしそうにしている。

 

「澪さん、なにか飲み物いらない?響子さんも。僕、貰ってくるよ。タオル新しいのにかえて…」

 

別荘にはお手伝いの女性が数人いる。チェアの無線でお願いすれば飲み物や必要なものは届けてくれるけれど、僕は自分で何かをしたいんだ。

 

「久君も、のんびりしてください。こんなところにまできて主夫業をしなくてもいいんですよ」

 

と、たしなめられる。だって、僕は二人に尽くしたいって無意識に考えてしまうから…

そんな僕のもとに渚で遊んでいた香澄さんが近づいてきた。玉の汗を弾く若い肌が瑞々しい。

香澄さんもスポーツタイプのビキニだ。活動的な香澄さんにぴったりだけれど、渡辺先輩のよりはデザイン的に凝っている。良く似合って可愛い。数時間前までの大人二人への遠慮は、夏のテンションが駆逐していた。

 

「久先輩は泳がないんですか?」

 

「うぅん、実は僕、泳いだことがなくって。去年南の島に行った時も、波打ち際で戯れていただけで…」

 

浮き輪に乗って浮いていただけだったな…

 

「じゃぁ、わた…ボクが教えてあげるよ」

 

それはありがたい。『戦略級魔法師』が泳げないなんて、何となくだけれど情けないし。

 

「澪さん、響子さんも、何かあったら呼んでね、すぐ来るか…あっちょっと香澄さん!」

 

台詞を言い終わる前に、ぐっと手を握られて、ぐいぐい引っ張られていく僕。

香澄さんに手を引かれて、海におそるおそる入る。お風呂のお湯と違って、ちょっと粘っこい、まとわりつく水だ。

皆から離れて、少し淵になっているところに向かう。まだ足がつくけれど、まずは肩まで海水にひたる…うぅ、ここの淵は少し日陰で意外と水が冷たい。

まずは香澄さんの手を握って、バタ足の練習。香澄さんの両手はすごく熱い。

海水に顔をつけるけれど、水中で目は開けられない。髪は邪魔にならないように後頭部で纏めてあるけれど、一本二本が顔にまとわりついてわずらわしい。スイムキャップを持ってくればよかったな。

正直言って、結構怖い。海水は目にしみるから僕はずっと目を瞑っている。暗闇の世界で、香澄さんの声と両手だけが頼りだ。うぅん、僕の貧弱な身体はあまり水に浮かないみたいだ。

香澄さんの誘導で、息継ぎの練習をする。筋力不足の僕のバタ足は、ばしゃばしゃと水しぶきが跳ね上がるだけで、なんとも無様だ。全然推進力になっていない。とても泳げそうにない。

数分、バタ足をしただけでかなり苦しい。香澄さんが手を握っていてくれるからかろうじて浮いている状態だ。もし香澄さんが握っている手を放したら…

 

「じゃぁ久先輩、手を離しますから、自力で泳いでみてください」

 

香澄さんが握っていた手を離した。

えぇ!?

途端、僕の身体は安定を失って海中に沈みだす。なんとかバタ足を続けるけれど、それはほとんどもがいているだけだ。段々と浮力を失って、肩から、顔が沈んで…

 

「もがっぶはぁ」

 

それはただパニックで暴れる子供だ。僕は、どうやらカナヅチのようだ。脂肪が全然ないから、垂直になると、もう沈む一辺倒。あぶっあっぼば!

相変わらず目は瞑ったままだから、何も見えない。香澄さんどこ!?

 

「ちょっ久先輩!」

 

パニックの人間が何をするか。とにかく目の前のモノにしがみつく。掴む、抱きつく!

 

「久先輩、落ち着いて、足がつきます、きゃぁああ!」

 

僕は、香澄さんの水着を掴んで、引き寄せて、めくり上げて、必死にしがみつく。

勿論、パニックの僕は何も見えていない。海水と水しぶきと白い肌に柔らかい胸…

じたばたと、全身で香澄さんにしがみつく。柔らかい胸に顔を埋めて、もう涙目だ。

やがて、足を滑らせた香澄さんは、盛大に転んで、水柱があがった。

 

僕たち二人は修次さんと渡辺先輩に抱え上げられるまで、何度もしがみついて倒れるを繰り返していた…

浜辺に引き上げられた僕たちは、ぐったりしていた。僕は溺れて、香澄さんは羞恥で。

目をこすって、なんとか目を開ける。目の前に水着の上がなくなっていた香澄さんが顔を真っ赤にして震えていた。寒いのかな…日差しはまださんさんと降り注いでいるけれど…

香澄さんの柔らかな胸のラインが両腕からこぼれて…

 

「久せんぱ…見…た…」

 

香澄さんが茹でタコに…あっと!

僕は慌ててタンクトップを脱ぐと、香澄さんに手渡す。

 

「香澄さん、とりあえず、これを着て…」

 

「えっ?ちょ、久先輩、上脱いだら…見える!」

 

ん?上を脱いだら、裸だよ。でも僕は男の子だから、そもそもタンクトップなんて必要ない…

僕の上半身の裸を見て、女性陣(澪さんと響子さん以外)が黄色い悲鳴を上げた。修次さんがなぜか目を逸らす。

えぇと僕は男なんだけれど…

香澄さんは僕のタンクトップを着ると、顔を真っ赤にして俯いていた。真由美さんが声をかけたけれど、僕のタンクトップをひっしっと掴んで、自分を抱きしめるように黙っていた。

少し前のぎこちない二人の関係みたいな雰囲気だ。香澄さんの涙目なんて悲しくて見ていられない。

暴れたせいで髪は中途半端にほどけている。濡れネズミの僕は、夏の日差しに、早く髪を洗いたいなってぼうっと埒もない事を考えていた…

 

ちょっと気まずい二人と、少し不機嫌な澪さん。それをにやにや見守る女性陣。

修次さんが動じない態度で、てきぱきとバーベキューの準備をする。肉の焼ける音と香りが食欲をそそる。僕は体型に似合わず、良く食べる。

 

「香澄さん、これ美味しいよ、取り分けるから、あっそれ僕の食べ止しだよ!澪さん、このオレンジ瑞々しいよ、皮をむくから、はいあーんして」

 

僕はいつもの甲斐甲斐しさを発揮して、二人の機嫌をとりながら料理を勧める。こういう細々した動きが香澄さんの機嫌をそこねる元になるのは経験で知っているけれど、直しようがないから。

香澄さんは一つため息をつくと気分を切り替えた。

 

「今度、買い物に付き合ってください。荷物持ちをしてくれたら、見たことは許してあげます」

 

見たこと?何を見たんだっけ?ピンク…ん?

荷物持ちか…僕は非力だから役には立たないと思うけどなぁ。

ちゃんと約束をして、香澄さんは機嫌を直してくれた。また出かける用事が出来たな…勉強しなくちゃなんだけれど…

 

夜はパーティールームで全員参加のカード大会だ。

七並べはコツを覚えると燃えるね!デジタルなこの時代で、あえてアナログのゲームは楽しい。澪さんも響子さんも童心に帰って、修学旅行のノリになっていた。

カードは、ババ抜きやポーカーみたいに表情を隠すゲームは僕は強い。ポーカーフェイスどころか人形みたいな無表情だ。この表情から感情を読み取るのはすぐれた剣士でも難しい。

逆に、スピードや技術が必要なゲームは不器用な僕が負けまくっていた。一対一で僕に勝ちまくりの真由美さんのご機嫌が上昇して行っている。すごく子供っぽい。

結局、カードは僕が通算で最下位。スイカ割りのと同時に罰ゲームを僕がすることになった。

 

修学旅行(?)の夜といえば、付き物なのが、告白タイム…なんだそうだ。

真由美さん曰く、拒否は許されない、だって…

 

「久ちゃん、この中の女性で一番誰が好き?」

 

そんな物騒な質問は…ううん。

澪さん、響子さん、真由美さん、渡辺先輩、市原先輩、香澄さん、泉美さん。もちろん、全員…

 

「全員好きって言うのは却下よ!」

 

この小悪魔は、にっこり笑いながら人の退路を絶った。僕は少し考えて、

 

「えぇと、じゃぁ真由美さん以外の全員が好き、です」

 

「ええええっ!?」

 

真由美さんの驚きは演技っぽい。でも可愛い。

 

「そんな意地悪な質問をしていては本当に嫌われますよ。じゃぁ多治見君この中で、一番誰を愛していますか?」

 

市原先輩が微妙なフォローをする。フォローになっていないけれど…

僕は、その質問に、きょとんとする。僕の態度に、全員が黙った。

 

「…愛?は、わからない…何でだろう…僕が子供だからかな。愛って何かな」

 

ためらわない事さ~♪。それは『ギャバン』だ。

うーん、真剣に考えるけれど、わからない。雰囲気が少し重くなった。その空気をかえるべく、恋愛経験の豊富(?)な響子さんが、

 

「久君、恋は落ちるもので、愛は溺れるものなのよ!」

 

とウィンクしながら上手い事を言う。そりゃあ、海では溺れたけれど…僕と香澄さんの間に愛はないよ。見ちゃったけど…

それで全員が納得したり笑ったりしているけれど、愛は僕にはわからない。

昔の僕は他人から愛されたことがない。愛を知らないからなのか、『高位次元体』だからなのか、7年間実験動物をしていたせいで精神が壊れているからなのかはわからない。

 

強がるだけじゃ、誰も守れないから、僕は『戦略級魔法師』になったけれど、自分自身のことは何もわからない。

 

本当に、わからない事だらけだ。それでも夜は更けていく…

 




強がるだけじゃ守れない。
魔法科高校アニメのOPの歌詞です。
今回のラブコメ。いやぁ難産でした。人数が多いし余分をカットしまくって。
時間がかかって…そんなに時間があるわけじゃないのに。
ラブコメと格闘シーンと魔法は難しい…ってそれじゃ魔法科高校のSSは書けないですね…汗。
それでも楽しんでいただけたなら幸いです。
お読みいただき有難うございました。






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