パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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今回は、短いです。プロローグみたいな感じです。


お買い物、前日。

 

 

「あれ?香澄さん、一人?」

 

「お疲れ様です、久先輩…私は香澄ちゃんじゃなくて、泉美ですわよ」

 

土曜日の放課後、料理部にいた僕は、携帯端末の校内連絡用回線に生徒会役員直通メール「ただちに生徒会室に出頭せよ」を受けた。

論文コンペが終了したこの時期の生徒会は、特にイベントもないから暇だ。僕は料理部の活動に専念していたんだけれど、何か非常事態?押っ取り刀で生徒会室に顔を出した…

それなのに、生徒会室はがらんとしていた。情報端末の座席はすべて無人。『ピクシー』もいない。存在感のある兄妹がいないと、いつもと同じ生徒会室でも妙に広く感じられる。

その生徒会室のミーティング用のテーブルに一人、香澄さんがおしとやかに座っていた。達也くんに一方的に噛み付いている香澄さんが生徒会室にいる事は珍しい。それにしても、他の生徒会のメンバーはどこに行ったんだろう。

僕も、香澄さんの隣、いつもの定位置にすわる。このテーブルは会議以外では飲食に使われる。生徒会役員はそれぞれの情報端末に腰掛ける。端末付近では基本的に飲食は禁止なんだ。

名ばかり生徒会副会長の僕は戦略級の機械音痴だ。入力端末には触らせてもらえない生徒会副会長って何なんだろうね。

 

「香澄さん、明日はお昼どうする?僕は、食事とかは外食だと不都合があるから、お弁当作っていくよ。何かリクエストはない?」

 

明日のお買い物の相談を、隣に座る香澄さんとする。

僕は食事に関しては、ちょっと面倒だ。

ディナーを予約している赤坂の遠月レストランには僕の体質の事は知らせてある。

遠月レストランに電話で、

 

「日曜日予約をしている者ですが、料理についてお願いをしたいんです」

 

って、電話口の担当者に最初お願いした時、何言ってんだ?この子供、ウチの料理にケチをつける気?みたいな雰囲気が確かにあった。音声オンリーの電話だったから。

けれど、僕が名乗って暫くしたら担当者がいきなりかわって、レストランのオーナーが電話口に現れた。それはもう緊張していて、くどいほど謝って来た。何かほかにご希望は?と言われたけれど、

 

「僕は出された料理を文句を言わずにきちんと残さず食べますよ。皇室の晩餐会の時は、時間が足りなくて食べ切れなかったのが残念だったけれど…」

 

「こぉしつの晩餐かひぃ?」

 

オーナーさんの声が裏返っていたけれど、どうしたんだろう。マナーだの作法だの粗相をして同席の烈くんや澪さんに恥をかかせては…と考えながら食べていたんだけれど、あの晩餐会は皿を下げるのが早かったんだ。まだ残っているのにもったいない。

 

「横浜と京都の遠月ホテルで食べた料理は美味しかったですし、お任せします」

 

「横浜と京都っ!」

 

横浜と京都の遠月ホテルはグループの最高峰でよっぽどのVIPでもなかなか予約がとれないんだって。烈くんはいろいろとツテがあるそうだ。また『家族』で行きたいな。

添加物を一切含まない食材や調理は、大変だろうから「楽しみにしていますね」って、丁寧にお願いをしたら、オーナーさん自身が料理家人生をかけて調理してくれるそうだ。

ただの高校生相手に、そこまで張り切らなくても…と思うけれど?まぁうん、楽しみだ。

それはともかく、お弁当の話だ。僕は、食い意地がはっている…

 

「久先輩、それは明日一緒にお買い物に出かける香澄ちゃんと相談してください。私は、泉美ですわ。いくら双子だからって別人ですから、間違えないでください」

 

香澄さんが変な事を言う。ボーイッシュな香澄さんは活動的で生き生きしている。おしとやかな泉美さんとは髪型や制服も好みも違う。

そりゃあ二人は一卵性双生児だから遺伝子や血液型も同じで、顔は区別がつかないくらい瓜二つだけど、今、僕の隣に腰掛けている香澄さんは、何故かヘアウィッグをかぶっている。

肩に届く長さの、眉毛の高さで前髪を切りそろえた泉美さんと同じ髪型のウィッグに、リボンのカチューシャ。制服も、泉美さんのキャミソールタイプの半透明のレースを着ている。泉に群生するアヤメの花がデザインされたレースだ。毎日のように見ているから間違いはない。

香澄さんは制服にレースはつけていないから、

 

「香澄さん、泉美さんの制服と交換したの?よく似合っているね。何だかすごく、新鮮」

 

「わっ、わたく…しは、香澄ちゃんではなくて、泉美ですわよ、間違えないで…くださるかしら?」

 

声が震えている。何だか、感動で泣きそうな声だ。どうしたんだろう。

 

「ん?もしかして、香澄さん、双子の泉美さんと入れ替わって、お互いが苦手な授業を受けるって言う、コミックスのお約束プレイをしているの?二人とも苦手な科目なんてあった?泉美さんも体育は苦手じゃないし…それに、放課後までその姿って…うーん」

 

「久先輩は、どうして私が香澄ちゃんだって断言するんですか!お父さまだってお姉さまだって、子供の頃いたずらで入れ替わった時、気がつかなかったのに!」

 

香澄さん、泉美さんの口調じゃなくなっているよ。

 

「え?どうしてって言われても、どう見ても香澄さんは香澄さんだし」

 

何故か香澄さんは意固地になっている。香澄さんの瞳をじっと見つめながら、僕は念のため『意識認識』をしてみる。僕の深い『意識の海』が生徒会室に広がっていく。

目の前にいるのは、香澄さんの『意識』だ。それに、階段で繋がっている階下の風紀委員会本部にいる達也くんと深雪さんの『意識』も感じられる。

水波ちゃんの『意識』もわずかに感じる。何度か手をつないで料理部まで一緒に行っていたからか。残念ながら泉美さんはわからない。

もう少し、『意識』を浅く広げてみた。

ん?以前にも認識できた、謎の人物の『意識』がある。消えそうな、かすかな、残り香のような『意識』だけれど、校舎裏の人工林を動き回っている。これは、山岳部のアスレチック…?

僕は『意識認識』をしながら、香澄さんの瞳を、瞬きもせず見つめていた。香澄さんも負けじと見つめ返してくるけれど、その間、呼吸を忘れていたみたいだ。

可愛い顔が、見る見る真っ赤になる。香澄さんの顔から熱を感じるほど、僕達は近距離だ。

 

「ふっはぁ!」

 

数秒後、香澄さんが思い出したように息を吸って、視線を逸らした。僕も『意識認識』をやめて、香澄さんの横顔を見つめる。耳が真っ赤だ。ウィッグの隙間から見える首筋までほんのり赤い。まぁ、自分で息を止めていたんだから、そうなるよね?

 

「子供の頃のいたずら…あぁ、香澄さんは泉美さんと入れ替わって、僕を驚かそうとしたんだ」

 

やっと理解できた。

 

「そっそうです。なのに、久先輩はまったく騙されなくて!生徒会の皆さんは全員、見分けがつかなかったのに」

 

「達也くんも?」

 

「しっ司波先輩は…何も言いませんでした!あの表情は、呆れている表情だったと思います。私の事を子供だって思っていた…」

 

実に子供っぽく怒っている。真由美さんとは姉妹なんだなぁって思う。

 

「ん?でも、子供っぽい香澄さんも可愛いよ」

 

「かわぁ!?」

 

「僕が香澄さんを間違えるわけないじゃない」

 

「ふはぁああ!?」

 

香澄さんが理解不能な言葉を発した。俯きながら全身でもじもじしている。おトイレ行きたいのかな?

僕の周りには大人びた人たちばかりだから、これも新鮮だ。

僕は一度覚えたことは忘れない。双子と言っても、体型は微妙に違う。香澄さんは鹿のように綺麗な筋肉で、泉美さんより顔の輪郭がわずかにシャープだ。

泉美さんはインドアだから、少しだけ女性的な柔らかい体つきをしている。魔法科高校の女子用制服は身体のラインが出るから良くわかる。

別に香澄さんだけでなく、これが泉美さんでも、友人達でも、たとえ変装していても体型でわかるんだけれど…今日の香澄さんの態度はおかしいな。

僕が首を捻っていると、風紀委員会本部に繋がる階段から、生徒会役員共と幹比古くん、雫さんがどやどやと現れた。僕達ふたりの会話を盗み聞きしていたのかな?何の為かわからないけれど、いたずらの共犯者、もしくは首謀者たちなのは間違いない。

 

「これは、脈ありなんじゃない!」

 

ほのかさんが溌剌と香澄さんに駆け寄り、まるで自分のことのように喜んでいる。首謀者は…ほのかさんか。

ほのかさんと泉美さん(香澄さんの制服を着ている)が女子高生らしくわいわいとカシマシイ。雫さんもかなり乗り気な表情。水波ちゃんはむすっとしてるし、深雪さんは笑顔の仮面…かなり複雑な感情を秘めた笑顔だ。幹比古くんは「ごめん」と手を合わせている。

脈?僕は、生きているから脈はあるよ。きょとんとしている僕は、無表情の達也くんに尋ねてみる。

 

「ええと、これは…いじわる?いじめ?ゆとり教育の弊害?」

 

魔法科高校にゆとりなんてないけれど…ちなみに僕の成績もゆとりがない。えっへん。

 

「いや…ちょっとしたお返しのつもりではあったが…そうか、久は恋愛感情はわからないと記者会見で言っていたが、本当なんだな。子供だから『精神』が未成熟ではなさそうだが…」

 

お返し?木曜日の司波家での僕の全裸ガン見事件の?あの後、達也くんは大変だったんだね。翌日、深雪さんが物凄く機嫌が良かったから、デートの約束でもしたのかな?

僕は、恋愛感情はわからない。達也くんもかなり鈍そうだけれど、まったくないわけじゃなさそうだ。それに、達也くんは僕と違ってモテルシ。

僕みたいな化け物を好きになるのは、同じように『精神』が壊れている人物だと思う。達也くんは僕に同情に近い感情を抱いている。同病相哀れむ、とは違う感情。二人とも病気じゃないし、哀れんではいないし、かと言って突き放しもしない…それでも、僕には丁寧に接してくれている。

あと、僕は子供じゃないよ、戸籍上は17歳だし、実際は12歳だけれど10歳で成長を止めてて、『物質化』してからは82年経っているから…えーと?

 

生徒会役員共と風紀委員共がわいわいと騒いでいる。皆、年相応だ。

そんな皆を見渡して、僕は『予知能力』はないけれど、明日は大変そうだと、何故かそう思った。

 

 






姉妹そろって子供っぽい。生徒会は暇。デートの約束でもしたのかな?謎の『意識』の人物。
変装していても、一度覚えた人物は体型でわかるんですよ。
日曜日は大変そうだよ、久。
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