パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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思春期ラブコメ後半?

動乱の序章編で紹介されていた戦略級魔法は…難しくてわかりません。
久の魔法は単純です。
でも深いツッコミはしないでください…汗。


アンロジカル

公式の戦略級魔法師は、僕を含めて世界に14人しかいないと言われる。

13使徒の戦略級魔法は、魔法師の二つ名にもなっているから基本的には知られていて、『魔法』の名前以外、正確な破壊力や規模を完全に秘匿された戦略級魔法もある。

実は、僕は世界的には正式な戦略級魔法師の1人とは認められていない。

僕の戦略級魔法が高校の競技用だと言い張って、頑なに認めない国が幾つかあるんだって。

認めようと認めなかろうと、僕の戦略級魔法の破壊力に嘘はない。

正確には、嘘だらけなんだけれど…

僕の戦略級魔法は『光の紅玉(スタールビー)』。

まず名前からしておかしい。

宝石のルビーはダイヤモンドについで硬く、成分中にルチルの針状結晶が混ざっていて反射光が星状に見えるものをスタールビーと言う。本来なら『六方星の紅玉』が正しい。

僕が『光の紅玉』を使用している映像ははっきりと残っていて、全世界の誰でもいつでも見られるし、起動式も、世界の命運を左右する戦略級魔法でありながら資格がある人物や団体には制限なく公開されている。

CADの調整能力と、魔法師の魔法力、サイオン量、演算領域さえ一定レベルに達していれば、理論上は使用することが出来る。

『光の紅玉』は一般市民でも理解しやすい『魔法』だ。

太陽光を使用した熱レーザーは、小学生の虫眼鏡で紙を燃やす実験の延長線上にあり、ルビーレーザーは工業技術として100年も前から使用されている。

九校戦で『光の紅玉』を使用した後、多くの検証番組で解説され、子供向け番組でも何度も取り上げられた。

空気を『密集屈曲』させてレンズを作り、そのレンズで太陽光を屈折させて紙を燃やすことは一高の一科生なら殆どの生徒が可能。

ただ、レンズの中で太陽光を『光共振』、圧縮空気の触媒で『誘導放出』、光の波長を同じにして威力を増幅。さらに往復させて太陽の表面温度である6,000度まで上昇、その光をレンズの中心の一点に集約する、となるとかなり難しい。

普通の優秀な魔法師では、魔法力不足でそもそも起動できない。

卓越した、超がつく優秀な魔法師なら、たとえば、深雪さんや光宣くん程の魔法力なら発動自体は可能だ。澪さんも出来るし、リーナさんも発動できる。

 

『光の紅玉』の最大の弱点は日中にしか使えないこと、緯度の高い地域では使いにくいこと。

空気中では距離に反比例して威力が弱くなることで、そもそもの射程が短く、レーザーの直径が細いと標的に届く前に減衰してしまう。

標的を破壊させる威力に達するには、レンズの直径を最低でも1キロにしなくてはいけない…

 

 

「実は冬休みに、『光の紅玉』に挑戦してみたんです」

 

四葉家から帰宅した日曜の夜、勉強部屋で光宣くんと電話をしていた。

僕がお母様の養子に、四葉の一員になっても、僕と光宣くんの関係に変化はなかった。

光宣くんに気の置けない友人が少ないせいでもあるけれど、僕が四葉の直系ではなく、継承権すらない、名前だけの四葉だから、と言うことでもある。

僕が知っている四葉の秘密は、お母様の聖母の様な優しさ、黒羽の双子の存在とお屋敷の場所。達也くんの『分解』と『再成』、達也くんが真夜お母様の実子ではないこと、深雪さんが実妹ってこと…結構知っているな。

 

「どうだった?」

 

「実験は生駒の自宅で試みたんですが、レンズの大きさは10メートル、レーザーは地表に届きませんでした」

 

「光宣くんの魔法力ならもっと出来そうだけど、調子が悪かったの?」

 

電話の向こうの光宣くんの声は少し弱い。病床の孤独を紛らわすために僕に電話をかけてきたんだ。

 

「いえ、その時は調子は良かったのです。初めてだったこともありますが、生駒の上空に巨大な赤い円盤が現れたと周囲の住民を驚かせるわけにもいかなかったので」

 

「本気でやったら?」

 

「1キロのレンズは可能だと思います」

 

「持続時間は?」

 

「はい、『光の紅玉』を戦略級魔法の威力にするには継続時間が大切ですね。僕の魔法力では数分が限界です。これなら他の『魔法』の方が効率的です」

 

戦略級魔法の定義は、一度の『魔法』で都市、または艦隊を壊滅させること。1キロのレンズの数センチの熱レーザーでは地表を焦がす程度の被害しか与えられない。

 

『光の紅玉(スタールビー)』

太陽光を利用した不可視レーザーによる振動系の系統魔法。射程は50キロ、レーザーの温度は6000度以上。

レーザーの幅は10~100メートル。バラージ掃射可能。魔法の展開時間は数秒から、一時間程度。一日に複数回使用可能。

これは魔法協会を通じて公開された『光の紅玉』の規模と威力だ。

 

「公開された『光の紅玉』の起動式は制限と無駄がありますよね」

 

「うん。レンズを赤くする必要はないんだ。でも、光宣くんも言ったけれど、都市の上空に直径30キロのレンズが浮かぶってのは視覚的に物凄い圧迫感があるでしょ」

 

『光の紅玉』は世界を夕焼け色に染める。

 

「いえ、そちらではなく、久さんの魔法力ならもっと破壊力があるんじゃないか。そもそもレンズを高高度に作る必要もありませんよね」

 

「それは、秘密」

 

公開された起動式と映像ではレンズは30キロ。これは九校戦で使ったダウングレードの起動式で、澪さんの『アビス』の直径と同じにしてある。

水圧を操る『アビス』の方が難しい『魔法』なので、それと比較してもレンズの大きさ30キロ、レーザーの直径100メートルは世界的に、競技用と侮られる。

そもそも『光の紅玉』は都市よりも地下のシェルターや基地を破壊する『魔法』で、6千度の熱は周辺都市を焼きながら固い岩盤を溶岩と化す。

でも、現実の『光の紅玉』のレンズは100キロを超えて、レーザーの太さと破壊力はレンズの大きさに比例する。

しかも、魔法の発動時間は一時間どころじゃない。

レンズの位置は上下に移動可能で、成層圏にまで上昇させれば緯度は意味をなくすし、低高度で直径100キロの範囲に隙間無く6000℃の熱レーザーの雨を降らすことも出来る。

 

「レンズで太陽光ではなく、特定の粒子を加速させたら…」

 

「なんのことやら?」

 

まったく、頭の良い人は、すぐその結論にたどり着く。

そう。真実の『光の紅玉』は熱レーザーじゃなく荷電粒子砲だ。

荷電粒子は磁場により簡単に偏向するから地磁気の影響を受けやすく、地球上では直進しない。空気の壁も熱レーザーより影響を受ける。

『エヴァンゲリオン』では大量の電力を日本中から集めていた。僕の場合、それは僕の魔法力と熱エネルギーで代用、直進と減退の問題も『魔法』的に解決可能だ。

戦略級魔法『荷電粒子砲』の起動式は公開されていない。

自室の勉強机に大切に置いてある、小さなジュラルミンの箱。その中のデリンジャー型CADには、実は『光の紅玉』と『荷電粒子砲』の起動式が入っている。

戦略級魔法『荷電粒子砲』は僕以外に使う事はできない。その事実を知るのは、僕、達也くん、8月の師族会議に出席していた十師族の当主のみ。

荷電粒子砲のビームは無色透明で視認ができないけれど、空気を移動する時、空気イオンと反応して青白い軌跡を描く。

イオンジェットの青い光はビームその物より遅いから、狙われた側は青い光を視認する前に、消滅する。

僕の戦略級魔法は赤色と青色。『ルビー』と『サファイヤ』。『青の荷電粒子砲』、ブルーレールガンとかブルーサファイヤとか言うべきかな。

「ルビーとサファイヤは本来、同じ宝石」これは『咲-Saki-』の竹井久さんの言葉だ。うん、さすが僕の名前のモデル、含蓄がある。

九校戦の前、実験でごく小規模の『荷電粒子砲』を試したんだけれど、威力がありすぎて使用を断念したんだ。

理論上、全開の『荷電粒子砲』をぶっ放した日には、都市や大地どころかマントルすら容易く貫通してしまう。隕石の落下でもない限り、全力で使う機会はない。

 

 

「そもそも、戦略級魔法は抑止力。はったりだよ」

 

こちらが戦略級魔法を使えば、相手も躊躇わなくなる。泥沼のジレンマに陥る。

 

「それに、都市を破壊するなら、地上で『稲妻』を使えばそれだけで都市機能は崩壊するよ」

 

僕の唱えた『メラ』は、『メラゾーマ』になる。

全開の、900GWに達する『稲妻』を地表で使えば、2万℃にまで熱せられた空気は水蒸気爆発と衝撃波を生み、都市は木っ端微塵だ。

僕の戦略級魔法規模の『稲妻』を、達也くんは『雷神の鎚(トゥールハンマー)』と呼んだ。

『銀英伝』まで網羅しているとは、流石は達也くん。

『雷神の鎚(トゥールハンマー)』は構造物の有無で破壊にむらが出来る。

標的を消滅させてしまう『荷電粒子砲(ブルーサファイヤ)』より、『雷神の鎚(トゥールハンマー)』の方が被害者の救出やライフラインの復元に時間がかかる。

戦争で使用するなら『雷神の雷(トゥールハンマー)』の方が意地が悪いけれど、目に見える被害は、相手の憎しみがすさまじい物になる…

 

まぁ、どちらも使う機会はない、筈だ。

 

「それは久さんの魔法力が桁どころか、次元違いだからです…羨ましいです」

 

光宣くんはまた体調不良で気弱になっているな。光宣くんの魔法力も十分戦術級なんだけれど、残念ながら実戦経験に乏しい。

『高位』からほぼ無限のエネルギーを奪っている僕と比較する方が間違いなんだ。そのせいで僕の体質はややこしくなっているし。

 

「何度も言っているけれど、焦っちゃ駄目だよ。僕だって冬休みの殆どを寝たきりですごしていたから、気持ちはわかるし」

 

「僕も久さんみたいに、今、最前線で能力を最大限発揮したいです」

 

この鬱々とした愚痴は何度目だろうか。

 

「ある人が言ったんだ。僕の体質は大人になったら安定するんじゃないかって。光宣くんも、同じかも」

 

「せめて一高に通えていたらと思うと…久さんも響子姉さんに澪さんがいて、達也さんや深雪さんのような卓越した方と一緒に勉学に励めたらって」

 

二高には好敵手がいないのか。まぁ、あの周公瑾さんですら手ごたえがなくてつまらなかったって言ってるからなぁ…普通じゃないよ、まったく。

光宣くんは自身の魔法力に絶対の自信があるだけに、十全に生活すら出来ない体質に苛立ちを抱えている。誰かアドバイスか支えてくれる人物が身近にいないかな。僕は…駄目だな、光宣くんの不安を解消させる言葉が浮かんでこない。

 

「僕は、光宣くんが憧れるような存在じゃないよ」

 

「魔法師として、久さんはこの国の守護神なんですよ」

 

「うーん破壊神と紙一重なんだけれど…テレビの映像では僕の脅威度は一般市民には伝わらないんだよね」

 

「たしかに九校戦の、特に一昨年の九校戦の映像からは久さんの破格さは伝わらないでしょうね」

 

光宣くんが人の悪い笑い声を、控えめに上げた。

僕の出現は唐突だった。国家が秘匿する以前に僕の映像は、ネットに溢れかえっていた。

特に一昨年の九校戦の女装姿は、とても人格破綻の化け物には見えない。

繰り返し報道された去年の九校戦の映像は、逆に映画のワンシーンみたいで現実感に欠けるきらいがある。

『光の紅玉』の起動式を分け隔てなく公開したこと(誰も使えないし)や、魔法協会の宣伝活動もあって、僕の存在は、国民から忌避感を抱かれていない。

一部の市民に偶像視させられている所もあるし、魔法協会もそれを止めようとしない。

僕の社交性が高ければ、人が苦手でなければ、魔法師のイメージアップのために、もっと積極的にアイドル活動をさせられていたかも…それは、ゴメンこうむりたい。

 

「魔法師排斥の運動は、二高の周囲でも起こっています」

 

「魔法師排斥運動?馬鹿馬鹿しいね。社会への不満の捌け口に利用しないで欲しいな」

 

優れた魔法師は1人で1軍に匹敵する。それは、一般市民には脅威だ。でも、その魔法師のおかげで今の安定した生活があるのも事実だ。

 

「はい、もともと京都は排他的な地域なんですが、ここのところ二高の生徒が小さな嫌がらせを受けていて対応に苦慮しているんです。僕たちは魔法師の卵である以前に、学生なんですが…」

 

魔法師の存在を人類の敵と見る奇妙な集団がいる。二高の副会長の光宣くんの心配の種は尽きないな。僕も一応、副会長だけど。

 

「宗教だの思想集団なんて、所詮は就職活動か金儲けだよ。信者より貧乏な教祖様や指導者なんてこの世にいないでしょ」

 

「相変わらず手厳しいですね。でも、矮小な集団に真っ向から対抗できないことは事実です」

 

「魔法師でも自衛の『魔法』は認められているよ」

 

「付け入る隙にもなります。それに、久さんを映像でしか知らない輩は勘違いして手出ししてくるかもしれません」

 

僕の見た目は弱弱しい。腕なんか簡単に手折れそう。

 

「手を出してきたら、容赦なく殺すから安心して」

 

「安心する所が少し違いますが…立場を危うくする可能性は考慮してくださいね」

 

「証拠なんて残さないよ。街頭のセンサーなんて関係ないし、現場と死体が見つからなければ、立証できない」

 

「…しかし」

 

僕に危害を加えるなんて、この国に居場所をなくす事になるけれど、間抜けな人間に足元をすくわれるのは、間抜け以上だって、昨日、四葉家で思ったっけ…

去年、僕を狙撃した組織も不明だし。

 

「ん、わかった、用心するよ。心配してくれてありがとう。特に…そうだね、登下校中は気をつける」

 

僕がその気になればかすり傷さえ与える事は出来ない。集中力不足も、登下校中くらいは保てるはずだ。

光宣くんのほっとする気配が携帯越しからも伝わってきた。

 

「それより今は、もっと楽しい話をしようよ」

 

「そうですね」

 

光宣くんとの会話は楽しいな。達也くんやレオくんと違って、僕たちはお互いの弱弱しい姿を熟知しているから、遠慮がない。

僕にとって本当の親友は光宣くんなんだろうな。

少しずつ喋れないことが増えているのは、寂しいけれど…

 

 

 

深夜0時、ドアをノックする音がした。

 

「久君、そろそろ寝る時間よ。長電話もそろそろおしまいにしてね」

 

と、澪さんの声。

ずいぶん長電話をしてしまったな。光宣くんにお休みを言って、僕は携帯を切った。

 

一階の寝室に向かう途中、響子さんの部屋の前を通る。

響子さんの部屋は機械音痴の僕が恐怖する電脳部屋で、ドア越しにも謎の電子音やら低周波の振動が伝わってくる。健康に悪そうだ。

響子さんは、少しネット中毒だ。

僕の家の電気代の多くが響子さんの部屋で消費されている。響子さんの電脳部屋は、日々拡張されて、アナログな僕には理解も想像も出来ない世界が広がっている。

僕と澪さんは点で世界を破壊するけれど、響子さんは自室にいながら、面で世界を崩壊させられる。

デジタル全盛の現代では僕たちより、危険な存在。レッツワイヤードな世界だな。

 

一階の寝室。

キングサイズのベッドの定位置、左側に澪さんがいる。半身を起こして、自室から持ち込んだコミックスを集中して読んでいた。

行儀が悪い体勢なんだけれど、だらしなさを感じさせない。

僕は携帯を充電用のケーブルに繋げてベッドデスクに置いて、もぞもぞとベッドの真ん中にもぐりこむと、澪さんの右半身に寄りかかるように横になった。

 

「久君どうしたんです?」

 

僕の睡眠は7日間サイクルとイビツだ。今日は起きている夜で、いつも2人の睡眠の邪魔にならないよう、下手に寝返りをうつと、柔らかいふくらみにむにゅっとしてしまうから、基本的に真ん中で姿勢良くしている。

僕の突然の行動に、澪さんが驚いた。

 

「今夜から、ちゃんと睡眠をとることにしたんだ」

 

「?」

 

「僕は寝なくて良い体質で、無理に眠ると悪夢を見る。余計に眠れない。でも、誰かと肌を合わせていると熟睡できる…」

 

「それは知っているわよ」

 

「起きている間は能力が拮抗して成長できない」

 

「ええ、響子さんから聞いているわ」

 

「僕は成長したいんだ。魔法力だけでなく、肉体的にも精神的にも澪さんに並び立つ人間になりたい。そのかわり、僕と肌を合わせている人の生命力が強まって成長が止まっちゃう」

 

「それで私の体質が治ったのよね」

 

澪さんも似たような体質だった。15歳程度で成長が止まって、その後は弱っていく一方。治療法は今もない。

 

「うん。それでも、生命力?具体的にはサイオンを送り込むんだけど、送り続けないと澪さんの体質は元に戻っちゃう。逆に送り続けると、一人の身体では耐えられない」

 

「ええ」

 

澪さんはむしろ成長している。止まっていた時間が少しずつ進んでいるみたいだ。病人そのものだった体格が、女性的な、特に胸なんかC…

 

「澪さんは、響子さんが隣にいるって耐えられる?」

 

「耐えられるわよ」

 

澪さんは、見た目はローティーンなんだけれど、その精神力は、常人とは違う。

 

「結婚した後も、平気?」

 

「私は平気。むしろ、響子さんの精神状態が心配…」

 

実はそこが気になる部分なんだ。澪さんは僕の奥さんとして法的にも確固たる立場になる。響子さんの居場所はあやふやで、理屈抜きの感情に頼っている。響子さんは平気だって言うけれど…

 

「私は一緒の時間を過ごせるのだから、それで幸せよ」

 

「誰かと一緒でいないと眠れない体質って、大人になったら恥ずかしいな」

 

今の僕たちは三姉妹みたいだし…

本当は、裸で肌が触れている面積が増えれば増えるほど、『高位』から流れ込んでくるエネルギーが澪さんと響子さんに流れて、僕は熟睡できる。

 

「…大人になったら。それは、久君、むしろ恥ずかしくない…わよ」

 

えーと。三人が裸で眠る。つまり…うわーうわー、思春期を迎えた僕に、そのイメージは恥ずかしすぎる。興味がないわけじゃないけど…それは将来の話だ。

2人の美女を、色々な意味で満足させられる男になるためにも、熟睡しなくちゃ。

もじもじする僕を、くすくすと澪さんが笑っていた。

 

「もう、寝る!」

 

澪さんを抱き枕にして、澪さんも僕を抱きしめてくれる。依存性の強い僕は、すごく落ち着く。

 

「お休み、久君」

 

「お休みなさい」

 

抱きしめる腕に力を込める。こんな細くて小さな身体で、この国を護ってきたんだ。

人間主義とか反魔法主義とか妙な理屈を並び立てて攻撃してくる輩すら、澪さんを代表するこの国の魔法師が護って、貢献している。

主義者達はわかっているのに理解していないふりをして嫌がらせをしている。

こちらから攻撃させて被害者になる機会を得ようとしている。そのさい、多分下っ端は切り捨てられて、上層部の賢しい連中が利を得る。どの時代でも、こんな連中は一定数いる。

イライラするな…

 

でも、今はこの温もりに包まれていたい。寝よう。照明を消そうとリモコンに手を伸ばした時、響子さんが寝室に入ってきた。

響子さんは眠る時は普通のパジャマで、下は穿かない。微妙にサイズが小さくて、白い太ももが扇情的で、胸の谷間が僕を圧迫する。勿論、わざとだ。

 

ベッドで抱きしめあって横になっている僕たちを見て、響子さんが嫉妬の感情を見せるかと言うと、そういうことはあまりない。

響子さんはまとわりつくような愛憎をあまり持たない。

婚約者を失った経験から、失うことを恐れて、深くは入り込まないようにしているのか、もともとの性格なのか…人の感情は難しいな。

でも、そのおかげで僕たちはぎすぎすしないで、水のような関係でいられる。

 

得られたものを失う恐怖か。

僕や澪さんにもある。そして、ここの所感じる深雪さんと達也くんの微妙な距離感も、恐らく深雪さんの恐怖の発露、なのかも知れない。

 

 

寝室に入って来た響子さんは、ちょっと緊張を孕んでいた。

澪さんも僕も、感覚は敏感だ。響子さんのちょっとした変化に、すぐ気がついた。

 

「どうかしました?響子さん」

 

澪さんが静かに尋ねる。

響子さんが一瞬言葉を考えた。でも、直截な物言いの方が、僕に理解出来ると理解しているから、

 

「この数ヶ月で、世界的に幾つも事件が起きそう」

 

「?」

 

「事件?」

 

「ただの事件じゃなく、世界中の紛争地域、戦略級魔法師の活動が活発になって来ているわ…群発戦争は、終わっていないって説は、真実なのかも…」

 

「13使徒が動き出したってことですか?」

 

「僕の、九校戦での行動がきっかけなの?」

 

「それは否定できない。でも、久君の戦略級魔法は競技用って先入観があるわ。久君は現状、世界戦略で重要視されていない部分がある。

ただ、戦略級魔法師は高齢化が進んでいるから、久君の成長は、世界的に懸念事項ね。

二年前の『灼熱のハロウィン』以降、戦略級魔法師の有無が国力にダイレクトに繋がるようになった。2人とも、身の回りには注意してね」

 

他国と違って、僕と澪さんは基本的に民間人扱いで、軍の協力者だ。勿論、魔法師としての義務はある。他国だと、戦略級魔法師は首長クラスの扱いなんだって。

『灼熱のハロウィン』の戦略級魔法師は、どうなんだろう。

 

「それと、ここの所、家のネットワークに侵入しようとしている輩がいるわ」

 

何て無謀な挑戦を…僕と澪さんは同時に思っていた。『電子の魔女』のパソコンに忍び込めるハッカーがいるだろうか、いや、いない。

僕と澪さんのパソコンも自室にあるんだけれど、殆ど使っていない。二人とも携帯端末で十分で、どちらにも響子さん謹製のファイアウォールが組み込まれている。

 

「家のデータバンクに侵入はできないわ」

 

響子さんが断言する。僕たちも頷く。

 

「仮に侵入出来てもダミーに繋がって、私に履歴を暴かれるだけなのよね」

 

そんな相手よ来いって考えているな。

 

「ただ、しつこいハッカーがふたつあって、ひとつは四葉と十師族を探っていて、もう片方は戦略級魔法師と私の検索履歴、久君のことを探っているみたいなの」

 

「ふたつ?2人じゃなくて?」

 

響子さんの表情が、ちょっと曇った。でも、唇に不敵な笑みを浮かべている。

 

「ええ、どうもどちらも人間っぽくないのよね。同じシステムを利用しているみたいで…」

 

響子さんがぶつぶつ言っている。

 

 

世界的な事件?

僕が生駒の九島家に再出現した日、烈くんは「平和ではないが戦場ではない」と言っていた。

この2年で戦場は広がっている。

僕の住む街や第一高校に、広がるのも時間の問題なのかもしれない。

戦争の時代、か。

あまり楽しくない時代に、僕たちは向かっている。でも、僕は臆する事はなく進む。

 

「2人は、僕が護るよ」

 

「ええ」

 

「私たちも護られっぱなしじゃないわよ」

 

確かにそうだ。なにしろ真由美さん言によれば、僕たちは世界征服可能な3人なんだから。

振り返れば、達也くんに深雪さん、一高の友人に、光宣くんもいる。お母様も。

 

世界には武力に自信があるだけに、積極的にめんどくさいことを起こす輩がいる。

この国の周囲はそんな面倒な国しかいない。

まったく人類は成長しない。って、ラスボスの大魔王みたいなこと言ってるな。

僕は早く成長したい。

永遠の少年なんて、大魔王らしくない。いや、大魔王じゃない…ん……

僕は、まどろんでいる。

 

この温もりは、理屈じゃないな。

 

…う…ん、柔らかい。




2年生の新学期からは、初期構想では考えていない部分なので、
少しまとまりがない内容で、申し訳ありません。

次回からは師族会議。
良い訳の時間です。
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