パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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ありがとうございます。
他作品とのコラボでもなく、原作は厳守なので、主人公の久は原作の行間で活動する。
達也たち登場人物の出番は原作で確認してくださいと原作部分はばっさりカット。
原作の登場人物の活躍や台詞を奪わないようにしているので、
逆に原作シーンに久が登場すると、テンポが悪くなって書きにくいと言うジレンマに…
展開が早いのが取り柄ですが、原作の最新刊に近づいて来て、ここのところ展開がゆっくりに…
それでも、ここまで力尽きずに続けて来られたのはお読みいただいている皆様のおかげです。
評価が上がるとテンションもあがるし、下がるとしょんぼりしますが、今後も原作が続く限り、頑張って行きますので、宜しくお付き合いくださいませ。


「…」 「…」 「…」

 

先週まではいろいろあったけれど、始業から二週目の今週末は久しぶりにのんびりと過ごしている。逆に師族会議が近づいて、十師族、師補十八家、ナンバーズの関係者は落ち着かなくなっているようだ。一高でも生徒達は無関心ではいられない、関係の深浅に関わらずあちこちで話題になっている。

土曜日の今日は、特に問題も起きなかったので、僕は部活をこなして、暗くなる前に帰宅した。短い通学路を一緒に歩いた友人たちの雰囲気はかなり元通りになっていた。

 

夕食を食べて、お風呂が沸くまでの待ち時間を、響子さんと澪さんに挟まれて、リビングで恋愛ドラマを観ていた。

熱中する二人には悪いけれど、ドラマは大人の女性向けで僕には退屈な内容だった。

ちょっときわどいシーンがあると二人して僕の視界をふさぐのは、子ども扱いされているようでため息が出そう。

まぁ実際子供なんだけれど。

ただ、2人の体温を感じていると僕の精神は落ち着く。精神破綻者の僕がここまで安定していられるのは2人のおかげだ。温かいな。

 

温かい、と言えば、僕は自宅ではカラスの行水だけど、温泉では何故か長風呂だ。

七草家の別荘でも、お母様の家でも、清里の宿でも温泉は長風呂だった。

誰かと一緒に入るからかな…七草家の別荘では千葉修次さんと一緒だったから性別は関係ないのかな、それとも広いお風呂が好みに合うのか…

 

「清里の温泉では澪さんと入ったの?」

 

うん。あの時は身体の自由が利かなかったし、体温が低下していたから気持ちよかったな。

 

「家ではちゃんと身体は洗っている?」

 

適当だよ。めんどくさいもん。僕は不器用だから、背中とか上手に洗えないんだ。

頭を洗うと必ず泡が目に入るから、髪の毛もいい加減切りたいな…

 

「久君は体温低いんだからゆっくり入って身体を温めないと。それに、あそこはしっかり洗わないと汚れが溜まっちゃうわよ」

 

「あそこって…どこ…え…あ!?」

 

考えていることを無意識に口にしてしまうのは僕の癖だ。ふと顔を上げると、テレビ画面そっちのけな2人が僕の顔を左右から覗き込んでいる。

響子さんはにやにや、澪さんは顔が真っ赤だ。

 

「清里でのことは内緒にしておいて欲しかったのに…」

 

「今さら恥ずかしがらなくてもいいでしょ。久君のお風呂が短いのは1人で入るからなのね」

 

あっ、小悪魔に美味しいネタを提供してしまった。

 

「そうだけど、でも3人一緒に入るには流石に狭いよ」

 

「狭いお風呂に一緒に入るから良いんじゃない?」

 

「それじゃ、身体がくっついて手足が伸ばせないよ!」

 

「伸ばせば良いのよ」

 

「伸ばしたら、色んなところに触れるでしょ!」

 

「触れても良いわよ。それに、久君は寝ている間、おっぱい揉んで来るわよ」

 

「えっ嘘っ!?」

 

それは、衝撃の新事実だ。

 

「揉まれるわよね、澪さん」

 

「えっ…ええ。特に熟睡している時は…すごく。時々、その…吸われる…赤ちゃんみたいで可愛い…」

 

「実は久君はおっぱい星人なのよね」

 

星人?いや高位次元体だよ。

ウィンクしながらにんまりの響子さんと真っ赤で俯きつつもちらちらこちらを見る澪さん。

確かに、僕はラッキースケベよりは高い頻度で2人の胸に触っている…ような気がする。

一緒にお風呂に入っていてラッキーも何もないけど…肌と肌の接触部分が多いほど、高位からのエネルギーを相手に伝えられるから、無意識で肌を、つまり露出しやすい部分を触ってしまうんだ。

それで、2人の胸を毎晩揉んでいる?流石に、それは恥ずかしい。

恥ずかしさでいたたまれない!

うわー!

 

リビングにお風呂が沸いた事を告げるメロディーが流れた。

これ幸いにと、

 

「ぼっ、僕1人でお風呂に入るね。2人はテレビを観てなよ!ほら佳境だよ!わかんないけど、佳境っぽいよ!色々と佳境だよ!僕自身、すごくテンパってるよ!」

 

「テレビなんて、どうでも良いわ。録画してるし。こっちの方が断然面白い…いえ、大事よ。それにね久君、今の時代、許婚は一緒にお風呂に入るものよ」

 

響子さんがにやり。

 

「え、ほんと?でもこれまでは時間が合わなくてそこまで頻繁に入らなかったよね。本当に?澪さん」

 

「こら、どうして澪さんに確認するのよ」

 

「そっそうね、許婚だもの、これくらい当然よ。エコでもあるしね」

 

澪さんが目を逸らしながら言った。澪さんが言うなら間違いないな。

確かに寒冷化のこの時代、エネルギーは超重要問題だ。うん。

エコのために許婚は一緒にお風呂に入るんだ。

じゃあ達也くんと深雪さんも入っているのかな…あまりイメージがわかないけど…

 

僕は基本的に疑うことを知らない…

 

 

「さあ久君、服を脱ぎましょうねぇ」

 

「待って、子ども扱いしないで、服くらい自分で脱げるから」

 

響子さんにとって僕は面白い玩具と同じだ。

今日は特にしつこいから、職場で何かあったのかな。世界情勢が逼迫しているそうだし、響子さんはデスクワークが主だって言っていたけれど、国防軍は響子さんほどの優秀な魔法師を後方にとどめて置くだろうか。

僕は軍の協力者でも、基本的に未成年で一般人だから軍の動向は知らされない。響子さんの職務も独り言を漏れ聞くのがせいぜいだ。澪さんは五輪家から内々に知らされる場合があるから、軍の動きから響子さんのストレスを察しているのかも。

 

 

「はふー」

 

散々弄ばれてぐったりする僕を真ん中に挟みながら、湯船に身を沈める2人。前にも横にも動けない…身体は縮こまるけど、一部は大きく…それ以上は18禁タグだ。

そんな僕の姿を見て、2人は上機嫌だ。僕が2人を女性と意識していることが嬉しいみたい。

でも、このバスタブに3人は狭すぎるな。

お風呂のリフォームをしよう。もっと広く、出来れば5人くらい余裕で入れる浴槽を…って、

これって何かの伏線?

この狭さは僕の『男』が耐えられない…思春期の少年、少年じゃないけど、とにかくこれ以上は僕だって…

 

ピンポーン。

 

来客を告げるチャイムが鳴った。

お風呂場の3人の意識が玄関に向く。お風呂のコントロールパネルを見ると、時刻は20時過ぎ。

今日は来客の予定はないし、そもそも家に来客は殆ど来ない。ご近所付き合いもないから回覧板も回ってこない。

自宅周辺には警備の魔法師が沢山いるから、来客は不審者ではない。こんな時刻に誰だろう。

2人も同じことを考えている。いぶかしげに首を捻っていた。

柔らかい拘束から脱出する好機だ。

僕は浴槽から飛び出ると、そのまま脱衣所に逃げる。

 

「あっ、こら、逃げるな!」

 

「久君、身体ちゃんと拭かないと風邪引くわよ」

 

そんな心配している余裕はない。脱衣所でバスタオルを引っつかむと適当に腰に巻いてテレビドアホンのある廊下に駆け出す。

こちらの姿は向こうには見えない。片手でぎこちなく身体を拭きながらドアホンのタッチパネルを操作する。

玄関の広角カメラが、ドアの前に立つ人物をとらえた。

 

「あれ?真由美さん?」

 

「こんばんわ、久ちゃん。夜分に連絡もなく訪問してごめんなさい、実は大学の帰りに、ちょっと寄ってみたの…」

 

玄関で白色のライトを浴びて立っていたのは、七草真由美さんだった。

 

魔法大学は、僕の家から直線道路を北に3キロほど行った、かつて自衛隊の駐屯地があった広大な地域にある。コミューターを使えば20分もかからない距離だ。

真由美さんは七草の直系として、四葉の僕の家を訪問するのは色々と準備が要る。いきなり思い立ったからと言って訪れるわけには行かない。

でも、高校の後輩の家に、先輩として、友人として訪問するのなら、言い訳は立つ。本来強引な方法だけれど、何か重要な用件があるなら別だ。

実際、大学の帰りのようで、大学生らしいカジュアルな服装をしている。

ドアホンのディスプレイを操作して、別ウィンドウを開く。門の前に停車する七草家の車の映像を拡大する。リムジンではない普通のちょっと装甲が厚めのセダンで、エンジンがかかったままだ。突然の訪問を断られたら、そのまま回れ右して車に戻るつもりのようだ。

 

「お土産もあるわよ、大学近くの人気の洋菓子店でショートケーキを買って来たの」

 

カメラに向けて、手提げの白いケーキボックスを見せる。それは僕でも知っている人気のお店のロゴが入っていた。

やや非常識な訪問時刻だと、お互いわかっているけれど…

 

「今開けます」

 

僕は食い意地が張っている。ええい、策士め!

僕は玄関に向かって、ドアの鍵を直接外す。鍵は外側は指紋認証など厳重だけど、内側からは簡単に解錠される。

そのままたたきまでぺたぺたと裸足で下りて、真由美さんを迎え入れようとドアを開ける。

僕はひとつに意識が向くと、それ以外考えられない癖も持っているから…

 

「ちょっ!?久ちゃん!?その格好!!」

 

「え?ああ、お風呂に入っていたんだ」

 

僕は、バスタオル一枚だ。ちゃんと拭いてもいないから、全身からお湯が滴っている。

 

「いきなり訪問した私が悪いんだけど、せめて胸を隠しなさい!」

 

玄関のたたきに慌てて後ろ手にドアを閉めながら入ってくる真由美さん。おかしなことを言うなぁ、僕は男の子なんだから胸を隠す必要はないよ。

僕は自分の裸を見られても全然平気だ。上がりかまちにあがって平然としている僕より、真由美さんの動揺ぶりがすごい。

そんなに慌てるとケーキの箱、落としちゃうよ。

濡れた髪から雫がぼたぼた落ちて、顔を濡らす。うっとおしいな、だから長い髪は面倒なんだ。僕はタオルで髪をやや乱暴に拭く。

 

「ちょっと、久ちゃん!見えてっ、見えてるわよ!前っ隠して…こど…子供…うん、子供ね、うん」

 

騒いでいたかと思ったら、急に静かになっちゃって。僕はタオルで前が見えないけど、真由美さんは何を真剣に見つめているんだろう…

 

「久君、誰が来たの?」

 

「女性の声みたいだけれど…」

 

廊下の奥から、澪さんと響子さんが出てきた。

 

「えっ!?響子さん?」

 

真由美さんが驚きの声を上げた。

どうしたんだろう。真由美さんは2人とも面識がある…

 

「あっ!」

 

真由美さんは僕と澪さんが同居していることは知っていても、響子さんも一緒だってことは知らない。

2人ともきちんと服を着ている。澪さんはいつものジャージ姿で、響子さんはパジャマ姿。

ただ、髪はしっとりと濡れてほくほくと湯気と上げ、石鹸の香気をまとっている。手にはバスタオル…どう見ても直前までお風呂に入っていた姿だ。

それは僕も同様で。

 

「久ちゃん…これは?」

 

全身が硬直している真由美さんは目を白黒させながら、僕と澪さんと響子さんを同時に見つめている。

これは、これまでにないピンチだ。公式に婚約が発表されている澪さんはともかく、響子さんの存在は常識人には説明しにくい。倫理や道徳の問題やら何やら…

 

「えーと、どうしよう」

 

僕は頭を抱える。実際、抱えるしかないよね。

僕の手から、バスタオルがはらりと床に落ちた。

一同は動きを止めたまま、目の前の事態を見失った。真由美さんの手から、ケーキ箱がたたきに落ちる。

僕の家の玄関が、好奇やら疑念やら裸やら石鹸やら何だかごちゃまぜの喜劇の坩堝と化していた。

本当に、どうしよう。

 

 

真由美さんは紅茶フリークだ。

僕の家は、日本有数の富豪五輪家のおかげで良い茶葉がそろっている。僕が家で一番良い茶葉をマニュアルどおりに淹れて、真由美さんにお出しする。

リビングは紅茶の香りに包まれつつ、何とも表現しがたい空気に満ちていた。

 

「やっぱりケーキはいちごショートだよね…でも、どうして四つ?」

 

箱ごと床に落としたケーキは、無事だった。クリームに乗ったいちごが妙に赤い。

 

「久ちゃんは食いしん坊だから二人分食べると思ったのよ。まさかちょうど人数分になるとは…」

 

「この時間にこんなカロリーの高いケーキを食べるなんて危険よね」

 

響子さんがケーキにフォークを刺した。スポンジを貫通したフォークが皿に当たって、かちんと金属音がした。

響子さんはすらりと長い足を組んでソファに座っている。行儀が悪いのに、響子さんの都会的な雰囲気のせいか、すごくカッコイイ。

真由美さんがジロリとその姿をねめつける。真由美さんは身長の低さを気にしていて、響子さんのスタイルの良さと自身の体型を比較して、悩ましい顔つきになった。

勿論、響子さんはわざとやっている。実に危険な状態だ。

真由美さんの中で僕たちの評価が大暴落しているのは良くわかる。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

無言で会話しないでよ。物凄く気まずい。でも、僕と澪さんは戦略級魔法師だ。この程度のプレッシャーでは動じない。

響子さんは真由美さんより一枚上手の小悪魔だ。この状況を楽しんでいる。

黙って一緒の空間にいると、むしろ真由美さんの方が居心地が悪くなる。なにしろ完全アウェーの状況だ。

真由美さんは紅茶に口をつけて、一息つくと、

 

「夜遅くにいきなりの訪問ごめんなさい。まずは、久ちゃんと澪さんのご婚約おめでとうございます」

 

丁寧にお辞儀をする。

 

「ありがとうございます」

 

僕と澪さんが頭を下げる。

 

「こんな時間に尋ねるなんて不謹慎だとわかっているの」

 

うん。

 

「まさか久ちゃんが不謹慎がことをしているとは思ってなかったけど…」

 

うっ…うん。

 

「どう言うこと何ですか?響子さんは、たしか久ちゃんの後見人代理だったはずですよね?」

 

どう説明した物やら…

 

「このような乱れた関係は…人の道を外れていると思いませんか?」

 

人の道は、そもそも僕の存在自体が外れている。2人を巻き込んでしまったけれど、2人のいない世界は僕にはもう考えられない。

真由美さんの詰問にどこ吹く風の僕たち。

 

「人としてどうなんです!?」

 

「修羅の道を往く覚悟は出来ているわ」

 

さらっと恐ろしいことを言いながら、ケーキをほお張る響子さん。すごい覚悟…いや、これは遊んでいる。小悪魔の貫禄は響子さんの方が上だ。

真由美さんは、ケーキは甘いのに苦虫を噛んだような表情だ。

真由美さんが噴火する直前、

 

「後見人代理は建前で、本当は私と久君は婚約しているの」

 

響子さんが真剣な表情に戻った。

 

「は?」

 

響子さんの言葉の緩急に、真由美さんが混乱している。

 

「私と久君の婚約は九島烈閣下の肝いりで2年前の8月に決まっていたわ。去年の臨時師族会議で十師族当主には周知されていたのよ」

 

「じゃあ澪さんと久ちゃんの婚約と結婚は…」

 

真由美さんも感情的な問題は棚上げして、すぐに気持ちを切り替えた。

 

「私にしてみれば強烈な後出しジャンケンね」

 

真由美さんは少し考えた。十師族の直系として、魔法師社会の主導権争いの臭いを敏感に感じとったみたいだ。

 

「…でも久ちゃんと澪さんとの婚約は全世界的に発表されているから、そちらの方が公式扱いになりますよね」

 

「そうね。でも、私と久君の婚約が破棄されたわけじゃないのよ」

 

真由美さんが真剣な表情になった。

 

「十師族の当主は知っている…父も…」

 

「当然、会議の場にいた七草弘一さんは師族会議で話された以上の内容を知っているわ」

 

「…そう…それで」

 

深刻な表情にかわった。

 

「皆さんは、父が久ちゃんの四葉への養子入りに異議を唱えていることはご存知ですよね」

 

僕たちは頷く。

 

「…それが?」

 

澪さんが先を促す。

 

「達也くんと深雪さんの婚約にも一条家と連合で異議を申し込んでいる事もご存知ですよね。一条将輝くんを深雪さんのお婿さん候補にしようとしていることも」

 

真由美さんが膝の上で手の指を重ねた。少し言いよどむ。

 

「…実は父が、私を達也くんの婚約者候補にしようと画策しているの」

 

は?

 

「それは無茶な」

 

「一卵性双生児の母を持つ遺伝的に近すぎる婚姻は危険だって名分があるのだけれど、はっきり言っていつもの嫌がらせ…だと思うわ」

 

弘一さんはいつも一方的にお母様に意地悪を吹っかけている。真由美さんも呆れ顔…ん?ちょっと違うな、何だか満更でもないような…

一高在学中の真由美さんは達也くんが好きだった。それが恋愛にまで発展したかは、僕にはわからない。

 

「十師族とは言え個人的な婚姻、法的にも問題なく、公式に発表された婚約への異議は無法ですよね」

 

「ええ。でも、久ちゃん、澪さん、響子さんの関係を父が知っていたなら、その横槍も別の意味が生まれるわ。少なくとも、四葉家、五輪家、九島家は積極的に反対できない」

 

「十師族としてはそうだけど、合法な婚姻に口出しは出来ません。個人の感情を表に出されては尚更でしょう?」

 

「非公式な婚約に公式で割り込まれた私達と、すでに公式な婚約に割り込むのは微妙に違うわよね」

 

「どちらも無法ではあるわ。実はこの話にはまだ続きがあって…」

 

真由美さんは溜めを一拍入れて、

 

「父は、久ちゃんの婚約者候補に、香澄を立てようとしているの」

 

「…は?」

 

香澄さんを?僕の婚約者に?

 

「それは、四葉への嫌がらせにしても程があるよ…」

 

「そうね。でも、父も私たちの感情を完全に無視するって程、無理強いはしていないのよ」

 

真由美さんの声が小さくなる。それは、弘一さんも策謀家の前に父親だから。

ん?でも、今の発言は真由美さんも達也くんのことが好きだって認めているんじゃ?

 

「父は、久ちゃんの婚約が重なっている曖昧な状況を知っていて、無理にねじ込もうとしているのではないかしら」

 

「それこそ無理でしょう」

 

達也くんと深雪さんの婚姻は魔法師の世界には重大事でも、あくまでも個人的な、十師族間の問題。世間の関心は低い。

でも、僕と澪さんは戦略級魔法師、世界的に注目を受けている。今さらなかったことには出来ない。

 

「結婚までは3ケ月近くあるわ。それまでに、響子さんのように既成事実を作ってしまおうと…今の時代にそぐわない方法よね」

 

今の時代、婚前性交はタブーとされている。でも、それは不文律で法律じゃない。

 

「既成事実って、僕と響子さんは、澪さんともだけど、いかがわしい事は何もしていないよ」

 

「一緒にお風呂に入っているのに?」

 

「そっそれは、僕が子供だから…」

 

「見た目はね。でも戸籍では久ちゃんはあと3ケ月で18歳なのよ。それに同じベッドで眠っているのよね」

 

「そっそれは、僕が1人じゃ眠れないから…」

 

「久ちゃん、香澄の裸を見たわよね」

 

急に話題が飛んだ。

 

「え?海に行った時のこと?あれは水着が脱げちゃって不可抗力」

 

「香澄とデートした時、狭い密室で、2人して全裸になって、しばらく閉じこもっていたわよね」

 

ちょっと真由美さん!爆弾を投下しないでっ!

 

「え!?」

 

「ええ!?」

 

いきなり風向きがかわった。

爆弾発言後、真由美VS.僕&澪&響子の構図が、真由美&澪&響子VS.僕の構図へと形勢逆転した。

 

「あっあれは香澄さんの水着を選んでいただけだよ」

 

「香澄の水着を選ぶのに、どうして久ちゃんまで全裸になるの?私が現れなかったら、あのままどうなっていたの?」

 

「どうにもなっていないよ!変なこと言わないでよ」

 

「変なことって何?久君?」

 

「意外と肉食系よね、久君」

 

「2人とも、今は落ち着こうよ、すごく難しい話を、真由美さんがわざわざ知らせに来てくれて…」

 

ただでさえ複雑な家庭環境なのに、そこに香澄さんも?

 

「香澄さんとは、ちゃんとお話して、解決しているんだよ」

 

「解決?」

 

「解決しなくちゃいけない、ナニかがあったの?」

 

「変な言い方しないでよ。香澄さんからは告白されたけど、きちんとお断りしたよ」

 

「え?じゃあ、婚約が重なっていることは、香澄に説明したの?久ちゃん」

 

「そんなこと言えるわけないよ!」

 

それはかえってトラブルの種を蒔くことになる。

 

「香澄さんとは、お互いに裸体を見せ合っただけで、他にはナニもしていないのよね、久君」

 

「ちょっと!澪さん!言い方が卑猥だよ、何もやましいことはな…」

 

ファーストキス。

あの風の強い、一高の中庭…

 

「…何か」

 

「あったみたいね」

 

「久ちゃん?」

 

うっ、浮気のばれた旦那みたいな言い訳をするなんて僕らしくない。

 

「香澄さんとはキスしただけだよ、ホントだよ!」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

3人がまたしても無言で会話している。エスパー?あれ?僕は何か間違えた?

おかしいな、空気が歪んで見えるぞ…空間が重い。空間を操る僕ですら制御できない圧力が…

 

「久君、少しお話しましょうか」

 

「そこに正座しなさい」

 

「久ちゃんと香澄がそんな…私なんてさっき摩利に指摘されて恋愛すら自覚が…ぶつぶつ」

 

正直者は損を見る…口は災いの元…お口の恋人…キス…えっあれ?

こんな道化芝居は犬だって食べないよ。

道化芝居は笑劇とも言ってフランス語ではファルス。ファルス料理と言えば肉を野菜に詰めた料理でピーマンの肉詰めとか、後、ギリシャ語では男性器を意味していて…

僕は思春期を迎えていて…おっぱ…うわー何考えているんだ僕は!佳境だよ、テンパっているよ!

香澄さんが婚約者候補?

今でも手に余りそうなのに、広いお風呂…5人くらい入れる、プールみたいなお風呂…

えぇ!これやっぱり伏線だったの!?

 

 




今回は、原作の師族会議編の150ページ目あたり、1月19日土曜日、
魔法大学の食堂で真由美が摩利に恋愛について突っ込まれた日の夜の出来事です。
ついに響子との同棲が真夜以外に知られました。
達也と深雪は響子が時々泊まりに来ている程度としか認識していません。
ついでに、久と香澄の関係も澪&響子に知られました。
香澄とのデートも実は伏線のひとつだったのですが、着々とハーレムへと向かっています。
もちろん、そう単純でもありません。

今回、久は澪たちとお風呂に入ることにかなり肯定的になっています。
しかし、この回を書き始めたときはすごく抵抗していたんです。
それだと冗長になりすぎて、読みにくくなってしまいました。
書いていては楽しかったですが、その辺りを修正して、
なおかつ余分な文章もカットしました。
----------から下がカットした部分です。

オマケとしてお読みいただければ、幸いです。

次回、やっと師族会議です。
久の一人称で進めているこのSSでどうやって非公開の師族会議を伝えられるのか…


-----------------------------
僕の集中力が欠けているのは、常に無秩序な思考が脳内を渦巻いているからだ。
他ごとをしている時でも、色々と考えるから、方向音痴や機械音痴になる。料理だけ得意なのは、僕が食いしん坊だからで、魔法師のくせに論理だって思考が出来ないのは、僕がサイキックだからか、子供だからか…
------------
「でも、一高の生徒…ほのかさんとか美月さんとかエリカさんにそんな目は向けたことないよ。澪さんと響子さんだから見ちゃうし意識しちゃうし…」

「えっ?」

「あっ」

2人の表情が劇的にかわった。可憐な花と華やかな花が咲き誇る。物凄く照れている。

「どっどうして、深雪さんや雫さんや香澄さんや泉美さんや水波さんの名前が上がらなかったの?」

響子さんの声がちょっと震えていた。珍しく動揺している。変なツッコミは照れ隠しみたいだ。
そりゃぁ深雪さんはスタイル良いけれど、じろじろ見ていたら達也くんに殺されるから…
いや、

「そんなのわかんないよ!」

「久君、やっぱり胸が大きい女性が好み?」

「澪さん、そんな答えのない質問はやめてよ」

第一、澪さんはここのところ成長著しくワンサイズ大きくなって、ちょうど良い揉み心地…
いやいや。

「僕は肌が触れていると熟睡できる体質だから、お風呂もそうなのかも」

「じゃあ誰でも良いの?千葉修次さんとか」

いやいやいや。

「良くはないよ、澪さんと響子さんは僕にとっては特別な女性だもの一緒にいられるならいつでも一緒に居たいよ」

僕もどんどん墓穴を掘って行っている。

「あら、素直ね。だったらそんなに恥ずかしがらなくても良いのに」

そっそりゃ、2人の身体に興味がないといえば…嘘になる。でも10歳そこそこの精神だから、女性から積極的に来られると、逆に興味よりも恥ずかしさの方が強くなる。
2人は僕が恥ずかしがると、行動がエスカレートしがちだし…柔らかい胸が…

「何を考えているの?」

「何ってお…何も考えてないよ。僕は何とか星人じゃないよ」

じりっと、澪さんが胸元を強調しながら迫って来る。

「あっ」
----------
一緒にお風呂に入るのは良いけれど、どうして2人は僕の身体を『阿良々木暦お兄ちゃん』みたいに手で洗うの?スポンジとかタオルとか使おうよ。
僕が恥ずかしがると、2人の行動はエスカレートする。
響子さんが暴走すると澪さんも対抗して、普段ならしないような行動をとる。
響子さん、背中に柔らかいのが…澪さん!前は自分で洗うからぁ!あっそこは…らめぇ、あっん、ああー


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