メカクシデイズ   作:T・A・P

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メカクシデイズ Ⅰ

 カゲロウデイズ

 8月15日を繰り返す、創られた終わらないセカイ

 それは物語にすれば最終局面になるだろう。世界の秘密を解き明かした少年しかり、魔王との最終局面を迎える勇者しかり、ガラスの靴を履いた彼女しかり。

 推測し、試し、失敗し、挑み、攻略す。

思考錯誤の繰り返し、諦めかけるも立ちあがり、仲間と共に前へ進む。

 その現象を解き明かし、解放する彼等の物語の最終話。

 手に手を取り合って、皆が笑いあう大団円。

 飲み込まれていた人々を助けだすことに涙する英雄達。

 目が、体が、記憶が元に戻ることができた。

 これ以上ないくらいのハッピーエンド。

 笑顔に、微笑み、嬉し涙に歓喜の嗚咽。セカイは閉じられ、先へ進む。

 敵も味方も、正義も悪も。全てが平等に均等に。

 そんな、セカイの、終わらない夏の終わり方。

 真っ赤なヒーローによってたどり着いた。赤を残して喜ぶ終わり方。

 

 

 そんな反吐が出るほどに、つばを吐きかけたくなるほどに、踏みにじってしまいたくなるほどに、胸糞が悪い終わり方。

 彼等、いや、彼の物語が小説であり漫画ならそこで終わっていただろう。

 しかし、セカイは残酷で優しく目を覆いたくなるほどに現実でしかない。

勇者が魔王を倒して凱旋した後、勇者が幸せになったかなんて誰も知らない。ガラスの靴を履いた彼女が、本当に幸せだったのかなんて誰も分からない。

 もしかしたら、勇者はその強さ故に助けた人々に化物扱いを受けたのかもしれない、ガラスの靴を履いた彼女は自分の外面だけで中身を見てくれない王子に嫌気がさしていたのかもしれない。

 これはそんな御話し。

 使い捨てのヒーローにされた【彼】の御話し。

 

 

 

 メカクシ団アジト

カゲロウデイズが、終わらない夏が終わり、夏休みもようやく明ける事ができる夏の暑い日。戻ってきた家族と数日過ごしたメカクシ団の団員は数日ぶりにアジトへと集まった。

はじめにキドがカノとセト、そして夏なのにトレードマークの赤いマフラーを首に巻いたアヤノを連れてアジトの中に入る。

「アジトも久しぶりだな」

「そうっすね。見た感じ、ちょっと掃除が必要そうっすよ」

「じゃあ、皆が来る前に換気と掃除をしようか」

「さんせ~い」

キド達は持ってきた飲み物と食べ物を冷蔵庫に入れた後、数日分の空気を入れ替えるために窓をあけ、入ってくる風を感じ笑顔になる。そのあと、4人で手分けをしてアジトの中の掃除を始めた。キド、カノ、セトは久しぶりに会えるメンバーを楽しみにして、アヤノは自分を助けてくれた赤い少年に出会えることを楽しみに。

今日まで家族と過ごしていたため、あの日赤い少年の顔を見た以外の接触はできていなかった。会いに行こうとすれば、キドがカノがセトがなぜか引き止めて行かせてはくれなかった。アヤノはそんな三人を不思議に思っていたが、ようやくまた会えたから甘えているのだと自分で納得した。

だから今日のアヤノはかなり浮かれていた。

次にやってきたのは、マリーとモモだった。

「こ、こんにちは~」

「あ、団長さん達もう来てる!」

どうやらアジトの前でちょうど合流したらしい。

「久しぶりだな、マリー、キサラギ」

 キドが二人に向かって笑顔を向ける。あの日からキドは少しずつだが昔に戻ってきていた。今日は皆と会うと言う事でいつもの服装ではあるが、アヤノが戻ってきてから二人で女の子らしい服を数着購入して、部屋の中限定のファッションショーを行っている。

「セト、久しぶり」

「久しぶりっす、マリー」

「あ、団長さん。掃除手伝いますよ」

 セトとマリーはお互いに笑顔を交換し、モモは元気よく箒を持って掃除を始めた。カノはそんな光景を微笑ましく笑いながらチラリとアヤノの方を盗み見た。

 モモが来た時、アヤノは少しだけ緊張していた。ようやく赤い少年に会えるんだと思うと何を言えばいいのか。だが、どうやら赤い少年は一緒ではなく、少し残念に思いながらその光景を見ていた。

 それからヒビヤがヒヨリを連れてやってきた。

「メカクシ団の皆様、初めまして朝比奈日和です。そのせつは助けていただいてありがとうございました」

 と、礼儀正しく頭を下げていた。

「ひ、ヒヨリ、あの、僕が皆に……」

「黙ってなさい。私が助けてもらったんだから私がお礼するのが正しいのよ」

 ヒビヤがヒヨリを、ではなくヒヨリがヒビヤをの方が正しそうだ。

「ほら、皆が掃除しているでしょ。手伝うわよ」

「ま、待ってよヒヨリ~」

 そんな小学生二人のやり取りを笑いながら皆が見ていた。

 掃除も終わり、開けていた窓を閉めエアコンをかけて各々涼んでいるとドアを開けて入ってくる二つの影があった。

「こ、こんにちわ~」

 目つきの悪い少女がにこやかな少年を後ろにつれて、おずおずと中を確認するようにドアを開けて入ってきた。

「あ、貴音さんいらっしゃい」

 アヤノがいち早く気が付き入口に駆け寄って、榎本貴音と九ノ瀬遥の二人をアジトの中に迎えた。

「アヤノちゃん、本当によかった」

「貴音さんも、よかったです」

 さっきまでの態度から一変して腰に手を当てて、先輩風を吹かす。

「遥さんも病気が治ってよかったです」

「うん、これでずっと貴音といっしょだよ」

「ちょ、遥、何言ってんの!」

「あはは、本当によかったです」

「…うん、アヤノちゃんもね」

 うっすらとアヤノの目の中に涙が浮かび、慌てた貴音は両手を振り回して自分がもう大丈夫であることをアピールしていた。

「さぁ、皆集まったな」

 キドが立ち上がりコップを持つ。モモとマリーが最後に入ってきた貴音と遥にコップを渡して、なみなみとジュースを注いだ。モモはおしるコーラを注ごうとして騒ぎを起こしていたが、それも皆が笑っていた。

「俺達メカクシ団に」

《乾杯!》

 事前に打ち合わせをしたかと思うほどに、全員の息が合った。

 アジトの中は笑顔があふれる。

 アヤノは赤い少年が来ていないことに不思議に思った。しかし、ここ最近の赤い少年のことをなまじ知っていたからこそ、あとで来るんだろうな、と自己完結で終わっていた。

 もう一度言っておこう、この日のアヤノはかなり浮かれていた。

 赤い少年はこの日、メカクシ団アジトにはこなかった。

 

 

 

 如月シンタローはいつものように昼ごろ目を覚ました。

 いや、あの頃を思い出せばここ数日のようにだろう。あの頃は無理やり、あの青いエネミーに起こされていたなと寝ぼけた頭で思い出す。

 この数日、家族と会わず以前のようにずっと部屋の中で過ごしていたシンタローは家の中が静かな事に気がついた。

父親が戻ってきて、モモはずっと父親にべったりと張り付いていた。物理的にも精神的にもだ。一度だけシンタローも一言言おうと部屋を出ようとした、出ようとしたんだ。

「お兄ちゃん、部屋から出ないでもらえるかな。あと、お父さんに近づかないで」

 笑顔でそうモモが目の前に立っていた。

「じゃ、そういうことだから」

 モモは言う事だけ言って、強制的にドアを閉めた。

 シンタローは特に何も思いはしなかった。こんなことはいつからか、いや、昔から慣れている。化物を見るような目は、もう見飽きた。

 昔ならそんな相手など一瞬後には切り捨てるのだが、メカクシ団はあいつが作ったから、あいつの大切な奴らだから。

 だから……でも……

 頭が通常に戻ってきたようで、どうやら家の中には自分以外誰もいない事に気が付きドアを開け部屋を出た。部屋を出てリビングに行くと案の定誰もいなかった。母親も父親も、そして妹であるモモさえも。

 三人で出かけたのかと思ったが、今日までの数日を考えるとモモはそろそろアジトにでも行ったのだろうと考えた。案の定、テーブルの上に母親から父親と二人で出掛けてくると言ったメモが残されていた。

 頭を掻いてどうするかとシンタローは考える。

 モモがアジトに行ったということは、おそらくだがメカクシ団で何か集まりがあるのだろう。なら、ちょうどいいと呟いて部屋に戻り、もう最後だろうと赤いジャージに袖を通し家を出た。

 

 

 案の定、アジトの中から全員分の声が聞こえてきた。偶然全員が集まったとは考えにくく、事前に計画されていたか全員に連絡がいっていたのか。まぁ、どちらでもいい、どうせ結果は変わらないんだとドアノブに手をかけようと腕をのばした。

『……姉さん、もうあいつに関わらなくていいんだ』

『そうそう、あんなやつもうここに来ないって』

 ……おい、やめろよ。

 シンタローの手は固まったように微動だにしなくなった。今すぐに耳をふさいでその場を逃げ出したかったが、どうにも足が動かなかった。

それはどうしてだったのか、恐れ? 怒り? それとも希望だったのか。

『アヤノちゃん、本当のこと言っていいよ。だって、ここにいる皆が』

『お兄ちゃんの事なんか、大っ嫌いなんだから』

 ああ、知ってたよ。すぐ分かったさ。全員が化物を見る目で見ていたことなんてな。

『アヤノさん、どうしたんですか? そんな顔をして。あ、分かりました。ようやく仲間ができてうれしいですね!』

『……う、うん、そうだね』

 …………………

 十分だ、それだけで、赤い少年だった如月シンタローはもろくも崩れ去った。

 希望? そんなのは絶望とセットだって最初から決まっている。

『シンタローって怖くなかった?』

『姉ちゃん、あんな気持ち悪い奴なんて忘れちゃえよ』

『あのおじさん、いちいちうるさいんだよ』

『そ、そうだったね。なんで一緒にいたか分からないよ』

『そうっすよ! 本当によかったっす!』

『そうだ姉さん。あいつまだメカクシ団の団員だと思っているから、俺達で追い出してやろう』

『いいね、それ。じゃあ、どうする?』

『あ、こんなのはどうですか? 始めからアジトを荒らしておいて、用があるからってメールを出すんです。アジトに入ったのを確認したら皆で入って行って追いつめるんですよ! これなら追い出せると思いませんか』

『あ、モモちゃん頭いい~』

『あの馬鹿の慌てる顔が目に浮かぶ』

『アヤノさん、いい案だと思いませんか!』

『う、うん。それだったら追い出せそう、だね』

『よし、それで行こう。やるなら早い方がいいだろう、明後日に決行する』

『あれ、明日じゃないんっすか?』

『準備が必要だろ。それに今日は遅くまでやるって決めただろ』

『ああ、忘れてたっす』

『まったく。そうだ、姉さん。あいつには姉さんから連絡入れてもらえるかな?』

『え、どうして』

『その方があいつも警戒しないだろうからな』

『キドも頭いい~』

『…うん、分かったよ』

 涙はとうに枯れつくした。

 赤い少年はもういない。

 どこかの誰かが言っていた。

正義の味方は期間限定だと。ヒーローは3分間で終わりだと。

結局、平和な世の中にヒーローなんて必要ないのだろう。

インスタントヒーローは使い捨てだ。

たった一人のヒーローは、救った相手に殺された。

心優しい化物は、心を失くした人間になり果てた。

 

 体は嘘みたいに軽くなった。さっきまで動けなかったことなんて嘘のように、今は羽よりも軽い。

 如月シンタローはアジトの前から離れて、今は公園のベンチに腰掛けている。道路から見られることのない、陰に隠れたベンチに座っている。

「よう、最善策。最高に面白いツラしてんな」

「まってたぜ、クロハ」

 クロハは少し意外な顔を見せた。

「おいおい、俺が来ることが分かってたような口ぶりだな」

「そんなことはどうでもいい」

 シンタローは真っ直ぐにクロハを見ながら、

「俺をそそのかせ」

 そう、言ったのだ。

 

 

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