「はぁ、分からないの。私はシンタローさんについて行くの、これはわたしの意思よ!」
ヒヨリは目を見開き、全員を睨みつけて怒鳴るように断言した。
メカクシ団の面々は、その言葉に動揺し、いまだ言葉の意味を理解できず、ヒヨリからシンタローの方へ目線、いや、敵意を向けた。
どうやらと言っていいのか、予想通りと言っていいのか、全ての責任を全ての原因をシンタローに押しつけて張り付けた。今のメカクシ団、いや、カゲロウデイズを解放する前から何かあるたびにシンタローの所為だと決め付け、罵倒していた。流石に罵詈雑言までいかなくても、言葉の節々に棘が生えていた。
シンタローはそれでも、メカクシ団から離れていかなかった。
今、シンタローに向けている敵意は、虚言によってヒヨリを騙したと勝手に決め付け押しつけた、身勝手なヒーローの、戯言だ。
「化物め」
「ヒヨリ! そんな化物の言葉なんて嘘に決まってるよ!」
「ヒヨリちゃん! そんな化物の横にいたら危ないって!」
「ほら、早くこっちに戻ってくるっす!」
「そんな奴と関わるといい事ないいわよ」
口々に言う言葉は、相変わらず非難の言葉。
アヤノは無言で、誰にも気がつかれずに小さく首を横に振る。
違う、と。
彼女の方が、自分が今いる場所よりどれだけ正しいのか。
どうして、こうなってしまったのか、どうしてあんなことをしてしまったのか。どうして、『やめて』って言えなかったんだろう。
そんな想いが、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、何度もループしていた。
答えなんか出ない、出ても意味が無い。だって、もう、戻れないのだから。
本当なら、涙を流して泣きたい、でも絶対に涙を流してはいけない。涙を流した時点で、また、シンタローを裏切ってしまうからだ。
そんな、アヤノの心境なんて誰も分からない。なぜ、へたりこんでいるのかさえ分からない。
ヒーローがヒーローでいるためには、必ず悪役が必要だ。悪役がいれば、悪役にしてしまえば、ヒーローはヒーローとして自分が正しいと思うことができる。自分が悪であると自覚するのは、非常に難しい。自分が正しいと思い込む方が楽なのだ。
故に、シンタローを悪として、自分達のためだけに、仕立て上げた。悪役と言うスーツを仕立て上げて着飾った。
なんども、なんども、なんども、なんども、ヒヨリに向かって呼びかける、言い聞かせる。これが本当に騙されていたのなら、仲間を取り戻すために必死になるヒーローになるだろう。いいシーンだ、非常にいいシーンだ、ほんと、どうでもいいシーンだ。
ヒヨリの表情がどんどん怒りに染まっていく。そんなことさえ分からずに、ずっと呼びかけ続ける。ただ呼びかけるだけ、誰一人として近づく気配さえない。クロハが怖いのか、シンタローが怖いのか。ヒーローが聞いてあきれる、本物は、どんな状況でも、どんな相手でも救うために体が動く。
ヒヨリの怒りが頂点に達したのか、メカクシ団全員の声を押さえて、
「うるさい! あんた達、どれだけ自分の事しか考えていないのよ! 黙って聞いてたら好き勝手言って! 私の言葉を聞いていなかったの、私は私の意思でシンタローさんの味方をしているのよ!」
あれだけわめき散らしていたメカクシ団は、一気に静かになった。
だが、悲しいかな、自分達のやっている事を顧みたのではなくいまだに自分達が正しいと思い込んだうえで、理解できない言動に戸惑っただけだった。
ヒヨリは呆れかえって、怒り狂っていた。
『ヒヨリはそんな化物と一緒に居たらいけないよ!』
うるさい、ヒビヤ。あんた、シンタローさんにどれだけ助けられたか忘れたみたいね。
『流石化物だね。人を騙すのが得意みたいだ』
あんたが言うの? ずっと他人どころか自分にも嘘をつい続けていたくせに。
『ほら、君はこっち側っすよ』
なに勝手に決めてくれてるの。あんた、私の何を知ってるの。
『ヒヨリちゃん、ほら一緒に戦おうよ』
戦う? 何とよ。あんた、シンタローさんの妹じゃなかったの。あ、もう妹じゃなかったわね。
『まったく、化物の言葉なんて信じる方がおかしいのに』
私の方こそ、あれだけ頼っていたくせに裏切ったあんた達なんて信じられないわよ。それにずっと笑ってばかりのコノハさん。今は遥さんだっけ、そんな人を一時でも好きになっていた私を殺してやりたいわ。
『ば、化物、さっさとどっかいって』
化物が何言ってんの?
『化物、さっさとヒヨリを返せ。最終的には殺してでも奪い返す!』
メカクシ団の団長のくせに、団員だったシンタローさんを真っ先に裏切ったくせに。そんなのが団長だったら結局こうなるのは当たり前ね。
『ヒヨリ! 今助けるから!』
……なら、早く助けに来てみなさいよ。だからあんたは口だけなのよ、ヒビヤ。ほんと、なんであんたなんかを連れてきたのか、思い出せないわ。
もう、我慢できない。
「うるさい! あんた達、どれだけ自分の事しか考えていないのよ! 黙って聞いてたら好き勝手言って! 私の言葉を聞いていなかったの、私は私の意思でシンタローさんの味方をしているのよ!」
「なに? シンタローさんが化物? あんたたちの方がずっと化物よ。あれだけ助けてもらった癖にお礼一つ言わずに追い出す相談? どんな神経してんのよ」
「そいつは考えるだけで、実際に実行に移したのは俺たちだ。安全なところから、ただ見てるだけの奴に助けられたはずないだろ」
「そうそう、僕達だけでも大丈夫だったのに勝手に混ざってきて作戦立てただけだよ、そいつは」
「そうっす! ケガしたのは俺たちっす」
どうあっても、認める気はないだろう。そんな、言葉をヒヨリは聞き流す。
ヒヨリはそんな中、すがるような表情で首を小さく振っているアヤノを見る。
アヤノだけは、自身のしてしまったことを自覚していると言うことは明白だった。おそらく、そのことはシンタローも分かっている。他の奴らに比べれば、まだましな方だろう。
しかし、頑なに自覚しない奴ら以上に、アヤノの罪は重い。人生を七度生まれ変わったとしても許されないことをした。
アヤノは口々に罵りだしたメカクシ団からヒヨリに、シンタローに向かって目線を向ける。シンタローは気がついたみたいだが、上から見下して目線を外した。
そして、ずっとアヤノの方へ視線を向けていたヒヨリと目が合う。
『あなたの所為よ』
『私の方がふさわしいわ』
『失望した』
『ここは、もうあなたの場所じゃないの』
そんなことを言っているように思えて仕方がなかった。
「結局、メカクシ団なんてのはお遊びのヒーローごっこなのよ。仲間も信用できなくて、仲間を陥れようとして、よく自分達をヒーローだって思えるわね。
あと、どさくさに言っていたわね。
人殺し、だって。
そこの、アヤ……マフラーをつけたおばさんを見殺しにしたって? なら、あんたたち三人は家族だったのに悩んでることを気が付かずに、見捨てたって事でしょ」
ここで、ヒヨリは大きく息を吸い込んだ。
「人の所為にして甘えるな!」
「人の所為にして甘えるな!」
シンタローは少し、笑う。
本当に、強いな、と。
「そもそも、化物ってなによ。そこの元凶だって化物でしょ」
ヒヨリはマリーを指差した。
「マリーは化物じゃないっす! 俺達と同じ人間っす!」
セトが化物と呼ばれて泣きそうなマリーをすぐに庇った。
「それは、なに? クォーターのメデューサだから? カゲロウデイズが解決したから? 能力が無くなったから?」
「最初から人間っす! なんでそんな事言うんですか!」
「なら、なんであんたたちはシンタローの事を化物って呼んでたのよ」
「化物だからに決まっているだろう」
怒るように団長が口を挟む。
「その子と、シンタローに何の違いがあるのか言ってみなさい!」
そう言って、団長を睨みかえす。一歩も引かないその姿は、凛々しかった。
「簡単だよ、マリーは化物じゃない。でも、そいつは化物。ね、簡単な話さ」
「そう、なら、私も化物よ」
その言葉に、一斉に凍りつく。
「なに? 私は不老不死の化物よ。ほら、言ってみなさい、化物って!」
目を真っ赤にしたヒヨリは見せつけるように一人ずつ見回す。
「……化物! ヒヨリに何をした!」
ヒビヤはシンタローに食ってかかる。だが、シンタローは相手にしない。
「おい、答えろ!」
逆上したヒビヤはシンタローに駆け寄って、ヒヨリに蹴り倒されてさっきまで立っていた場所まで吹き飛ばされた。
「ヒビヤ、何しようとしたのか知らないけど、またシンタローさんに手を出そうとしたらこれくらいじゃ済まないわよ」
再び見回す。
「言ったでしょ、私が決めたって」
誰も、動けなかった。
それを見たヒヨリは言い聞かせるように話し始める。
「あなたたちにはこれから、シンタローさんが作った【メカクシデイズ】に入ってもらうわ。もちろん、拒否権なんて無いわよ。
そこでずっと終わらないセカイを楽しみなさい。永遠に終わることのないセカイをね。
それにカゲロウデイズと同じだと思わないことね、どうせあなた達には攻略できないと思うけど」
シンタローの方へ全員の視線が突き刺さる。
恨みの、憎しみの、憎悪の視線。
そして、懺悔の視線。
「シンタローさん」
「お前らが言ったんだろうが、化物だと」