メカクシデイズ   作:T・A・P

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メカクシデイズ Ⅴ

 

【メカクシデイズ】

 アザミの願いから創り上げた『カゲロウデイズ』と、マリーの想いから創り上げられた『カゲロウデイズ』を核にしてシンタローが創り上げたセカイ。

 現実世界と隔絶されたセカイだが、カゲロウデイズとは違い現実世界を元にして作られている。色も、形も、臭いも、空気も、全てがそっくりなセカイ。メカクシ団以外の人間も存在し、それぞれが自我を持って生活している。

 ただ、カゲロウデイズに接触した人間だけはいないセカイ。

 正確に言うなら、アヤノ以外の接触者がいないと言った方がいいだろう。

 カゲロウデイズなんて始めからなかった、そんなセカイ。当然、能力なんてあるはずもない。

 キドは、火事のさなか姉に助けられて楯山家に引き取られた。

 セトは、氾濫された川で可愛がっていた子犬に助けられ楯山家に引き取られた。

 カノは、強盗に殺されかけたが母親に助けられ楯山家に引き取られた。

 マリーは、暴行されている時に母親に助けられたがその怪我が元で母親を亡くした。

 モモは、海難事故の時父親に助けられた。

 エネは、病気なんてなく榎本貴音として過ごしてきた。

 ヒビヤは、ヒヨリと共に街を訪れたと言うことになっている。

 コノハは、貴音と同じく病気なんてなく久ノ瀬遥として榎本貴音のクラスメイトとして過ごしてきた。

 楯山夫妻は、あの日、土砂崩れに巻き込まれて死んだ。

 アヤノは、そもそも自殺する理由が無かった。

 アヤノはメカクシ団を作り、始めはキド・セト・カノの四人で活動しはじめた。両親が亡くなった後、その結束は一層強くなった。

それからセトがマリーを連れてきて、キドが街中で困っていたモモを助けて友達になった。アヤノは学校の先輩である貴音と遥を連れてきて、訊ねてきた自分の母親の妹であるヒヨリが連れてきたヒビヤも加えた。

 そんな、設定のセカイ。

 シンタローのみが最初から存在しない、セカイ。

 聞いていると、どこまでも優しいセカイに思えるだろう。親類の死を乗り越えて、信じあえる仲間を見つけて仲間と共に未来へ向かって生きて行こうとしている輝かしいセカイ。

 ふざけているよね。

 まぁ、実際は違う。これは全て立ち位置としての設定。

 メカクシ団が飲み込まれた後、それぞれが、それぞれの立ち位置に、それぞれの記憶を持ったまま割り振られる。当然、その世界での設定は飲み込まれた瞬間に記憶へ焼き付けられる。

 それが、始まり。何度も繰り返されるセカイの始まり。

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 この日が、このセカイの始点。

 この日から、メカクシ団の面々は現実世界でシンタローを追い出そうとしたその日まで過ごすことになる。

その日が、終点。

終点の日、シンタローは一度だけメカクシ団に問う。

「どうだ?」

 と。

 それが、メカクシデイズから解放される唯一の手段。

 そして、メカクシデイズをループさせるための条件でもある。

 メカクシデイズはループする。

終点から始点へと経ち帰り、また、始点から終点へ時は流れる。

 マリーのカゲロウデイズでは、記憶の蓄積はできなかった、しかし、メカクシデイズでは記憶の蓄積が発生する。

強くてニューゲーム? 違う、地獄のニューゲームである。

その蓄積される記憶が数回ならまだしも、十数回、数十回と数を重ねていけば、気が狂ってしまうだろう。最終的に待っているのは、絶望か、崩壊か。

 精神崩壊システム【メカクシデイズ】と言ってしまっても良いだろう。

 

 

 

「お前らが言ったんだろうが、化物だと」

 ヒヨリから言葉を引き継いで口を開く。

ヒヨリは言いたい事を言い終わってソファに腰をおろしたが、いまだ何も考えようとしないメカクシ団の面々に呆れているのか表情は厳しいものだった。

クロハとはいえば、ヒヨリが言いたいことを言っている途中から既にソファに座って欠伸を隠そうとせず面倒くさそうにメカクシ団とのやり取りを眺めていた。

「化物が化物として行動しなかったら、それはもう詐欺だろ。だからさ、お前らが俺を化物と呼ぶなら、化物は化物なりに考えたんだよ」

 一人を除いて、一人一人の顔を順番に嘲笑するように眺めていく。その表情はどれも似たり寄ったりで、その表情によく飽きないなという感想しか湧いてこなかった。

「人間のふりをした化物と、化物のふりをした人間。前者は俺で、後者はお前らって事になんのか。

 化物が人間のふりをするのは許されないよな、でもよ、化物の側からしたらただの人間が化物のふりをするのも許せないんだよ。

 いくら化物が最初から覚悟もなく、気まぐれに、遊び半分で面白がって人間を殺すんだと言っても、化物のふりをしている人間を気分次第で見過ごすなんてありえないよな。化物は化物だから化物である、化物じゃないただの人間風情が化物を騙るってのは化物からしたら屈辱でしかない」

 シンタローは両腕を少し広げ、口元を三日月のように開いて、少しだけ首を横に傾けた。

「だってそうだろ? 虫けらが人間のふりをしているなんて、踏みつぶしたくなるよな。叩き潰したくなるよな。

 人間より小さなアリを踏みつぶすように、飛びまわる蚊を叩き潰すように、人間が人間としておこなう当然の行為のように、俺は化物として持つ化物の当然な力でお前らを蹂躙しつくしてやるよ」

 爛々と赤く紅く光る両眼は、捕食者の輝きを持ちその迫力から表情を憎悪から恐怖へと変えていた。しかし、悲しいかな自身が正しいと思っている人間ってのは厄介極まりない。そのまま恐怖を受け入れていれば良かったものの『赤信号みんなで渡れば怖くない』正義の味方ごっこの集団は仲間がいれば大丈夫、なんて甘ったれた集団だった。

 シンタローもその事に気がついたのか、ため息をつく。

 キド、セト、カノの三人が下半身に力を入れ、アイコンタクトを取っているのにシンタローは気がついた。

 ほかの面々もそれに合わせるように動く準備をしていたが、視線から何をしようとしているのか、だいたいは簡単に想像できた。

 マリー、モモ、は出口の方を気にしておりアジトから逃げる、もしくは退路の確保をしようとしていた。

 貴音、遥はすでにアヤノの両脇に立っており、おそらくへたり込んだアヤノを抱える準備をしているのだろう。

 ヒビヤは露骨にヒヨリの方を見ており、確実にキド達が飛びかかった隙を見て連れて行こうとしている。

 

 まぬけで愚鈍で滑稽なメカクシ団、そんなお前らが、

 

 

『大好きだよ』

 

 

 

 

 キドが先頭でシンタローに突っ込んでくる。

 その後ろから、セトとカノがクロハに向かって間合いを詰め、そのまた後ろからヒビヤがヒヨリに向かって走りだす。

 出口付近では、モモとマリーがドアを開けようとドアノブを掴み、貴音と遥がアヤノを両脇から抱え上げ出入口に向かって引きずるように移動しているのが見えた。

 

キドはその短い間合いを詰める瞬間、確かに見たような気がした。

 シンタローが一度ため息をついて、自分に向かって優しく笑っているのを。

 見たと思った瞬間、体が固定されたように動かなくなっていた。それに気が付き、一度自分の体に目を落とすと数匹の紅い蛇が纏わりついているのが目に飛び込んできた。それを確認した後にすぐシンタローの方へ目線を向けると、笑っていたように見えた顔は無表情に自分達を眺めていた。

 顔だけは動かすことができ、他の仲間はどうなっているかアジト内を見回すと同じように紅い蛇に纏わりつかれて身動き一つ取れない面々がそこにはあった。

 セトとカノは簀巻きにされたかのように床に転がされ、モモとマリーは手錠で腕をドアノブに固定されるように身動きが取れず、貴音と遥はその仲を引き裂かれるように対面になるように壁に磔にされ、ヒビヤはうつ伏せのままガリバーのように捕らわれていた。

 

 アヤノは自分以外が紅い蛇に纏わりつかれているのをただただ、見ていた。

 そして、自身だけが纏わりつかれていないことを、それを、自分への罰だと言うことを分かっていた。

 自分も皆と同じようになっていたら、少しはそれがシンタローからの罰だと思って心が休まっただろう。しかし、そんなことは既にお見通しだと言うように何もなかった。何もないと言うこと自体が、自身の甘い考えを突きつけるための罰だと。相手から与えられる罰ではなく、自身が気がつく罰である。それは、直接的でないゆえに、許された感覚は皆無だ。

自身で気がつくと言っても、それが本当に罰であるか、曖昧なのだから。

 

 シンタローはまず、キドを飲み込んだ。

 上から紅く大きな蛇の頭が現れ、キドを文字通り頭から飲み込んだ。それをメカクシ団の面々は目を見開いて、

『や、やめろ!!』

『化物が!』

『殺してやる!!』

 怒りをあらわに怒鳴りながら飲み込まれる一部始終を見ていた。

 キドは一切言葉も発せずに飲み込まれていった。

「言っただろうが、化物が化物らしく化物としてお前らを蹂躙してやるって」

 それでも、騒ぎ足りないようで、より一層わめき散らし始めた。

 そんな言葉なんて気にもせず、今度はクジラが海面の魚を捕食するように下からカノを飲み込んだ。蛇は飲み込んだ後、後退するようにそのまま床へと沈みこんだ。

 ようやく、面々に恐怖の表情が戻ってきた。

 それから、次々に飲み込んでゆく。

 モモとマリーの蛇をわざと緩ませ二人にドアを開けさせた後、二人揃ってドアの向こうに居た蛇に飲み込こませた。

 この時、マリーが飲み込まれる所をセトに見せつけ、意識がマリーの居たドアに向けさせ、足の方から飲み込んだ。

 貴音と遥には、二匹の蛇でお互いがお互いの飲み込まれる瞬間を見せ合うように飲み込まれていった。

 ヒビヤにはヒヨリが直々に合図を出すようだ、ヒビヤの真下に、大きな顎を開いた蛇を設置し体に纏わりついている蛇で落ちないように支えている状態だった。ヒヨリは見上げるヒビヤを見降ろし、見下し、

『ヒヨリ、助けて!』

 という、ヒビヤの言葉を聞き流して、

「落として」

 その一言を、シンタローに向かって放った。

 纏わりついていた蛇は一匹ずつほどけていき、ゆっくりゆっくりと体が口の中へ沈んでいく。そして、支えきれなくなったのか全ての蛇がほどかれる前に口の中へと落ちていった。その時、ヒビヤはその様子を見降ろす無表情なヒヨリの顔を見た。

 

 最後に残ったのはアヤノ、ただ一人だった。

 アヤノは、立ち上がっていた。

 シンタローは、そのアヤノに近づき横に立ち、

「あいつらの事、頼んだぞ」

 そう、頭を乱暴に撫でた。

「………うん!」

 アヤノはようやく気がついた。

 シンタローはシンタローだと言うことに。

 最後に大きく顎を広げている蛇がアヤノの目の前に現れた。それは、飲み込んでいった蛇とは違いトンネルのようにどこかへ通じている道のように見えた。数歩その蛇に近づき、ある事に気が付き立ち止った。

「シンタロー、ごめんね。それと、」

 体をシンタローの方へ向けて、後ろ姿のシンタローに言葉をかけ、少し照れくさそうに下を向きながら、

「私は、シンタローのことが一番大好きだよ」

 そう言って、真っ赤な顔で蛇の口の中へ小走りで駆けていった。

 

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