多分それさえも平穏な日々〜オーバー艦これ後日談〜 作:ウェステール
「はぁ……不幸だわ……」
浅瀬に腰まで浸かった山城が、天を仰いで呟く。
全身ずぶ濡れの彼女のよそに、僕と愛宕は周囲に浮かぶ色とりどりの魚達を回収する。
「山城スゴ〜い!大漁よ〜♪」
能天気な愛宕に、ジト目で無言の批難をする山城。
おっと、これはヤバいかな?
僕はとりあえず黒いオーラを立ち昇らせそうな山城を海岸から上げて、軍服の上衣を掛けた。
「ゴメンね、こんな事やらせちゃってさ」
「あ、いえ!……別に……」
山城は上衣の端を手にすると、頬を赤らめて俯いた。
上機嫌とはいかないが、沈み込むのは防げたかな?
僕は砂浜で火を起こす準備をしながら、ホッと胸を撫で下ろした。
発端は、演習の視察だった。
夕張と明石が開発したという『提督用座乗艦』の性能チェックを兼ねて、艦娘達の演習を見物に行ったのだが……
それがマズかった。
突然の時化で散り散りになった艦隊を立て直そうとした僕の目の前で、渦潮が発生したのだ。
これがゲームであれば資源をちょっと失って終わりなのだが……生憎とこれは現実だ。
僕の船は渦潮に巻き込まれ、制御不能に陥った。
渦に飲み込まれる寸前、山城と愛宕が僕の船の縁を掴んでくれたが、大自然の猛威の前には焼け石に水。
僕は山城と愛宕共々、渦に飲まれて意識を失ってしまった。
目を覚ますと、そこは無人の砂浜だった。
僕の船はズタボロで航行不能、同じく砂浜に打ち上げられていた山城と愛宕は羅針盤が不調な上に燃料の大半を失っていた。
まさか本当に資源が減るとは……どうでもいい所でゲームとシンクロしてくれやがるな、この世界は。
付近を捜索したものの、人の住んでいる痕跡はゼロ。
うろ覚えのサバイバル知識で水は確保出来たが、食糧が無い。
で、冒頭のシーンに繋がるのだが、山城に海に入ってもらい、水面近くで砲撃してもらったのだ。
付近に味方が居れば合図になるのは勿論、砲撃の衝撃で周りの魚を失神させるという狙いもある一石二鳥の策だ。
結果としては半々で、大量の魚はゲット出来たのだが、味方が砲撃に気付いた様子は無かった。
その上、山城は砲撃の衝撃で巻き上がった波を被って濡れ鼠になってしまったという訳だ。
びしょ濡れになった山城の服は魚を焼くついでに焚き火で乾かし、その間は僕の軍服を着てもらう事になったのだが……
「提督、こっち向いちゃダメよ〜?」
当たり前だ。
そんな事をしたらどうなるか、考えるだに恐ろしい。
しかし、場所を変えるなり僕を遠ざけるなりすればいいものを、どうして間近で着替えさせるんだか。
背後から聞こえる衣擦れの音が想像力を刺激して、余計にドキドキしてしまう。
「はい、ど〜ぞ〜♪」
愛宕の声に振り向くと、そこには艤装を外して男装、つまり僕の軍服を着た山城が立っていた。
「その……開いてる部分はどうにかならなかったの?」
基本的にサイズには問題は無かった。
その、一点以外は。
第二・第三ボタンを外して無理やり着込んだ上衣は、却って胸の谷間を強調する事になっていた。
「ボタン、外します〜?“破壊力”倍増よ〜♡」
悪戯っぽく笑う愛宕。
思わず想像してしまう。
この状態でボタンを外したら……上衣の前立は、
「て、提督!変な事考えないで下さい!」
泣き出しそうな山城のツッコミで、僕は現実に戻ってきた。
勘のいい娘だなぁ。
「そ、そのままでいいです」
僕はそれしか言えなかった。