多分それさえも平穏な日々〜オーバー艦これ後日談〜 作:ウェステール
「今よ電!」
「なのですっ!」
目を瞑っての電のタックルを華麗に回避する。
と、
「ゴハァッ!」
後ろから近付いていた天龍に誤爆する。
あ、これは中破だわ。
「はわわっ!天龍さん、大丈夫ですか!?」
「電……良い……タックルだった……ぜ」ガクッ
「天龍さぁぁぁん!」
これが横菅の緋乃本軍を恐怖させた軽巡洋艦かと思うと、感慨深いなぁ。
艦娘寮に入った僕は、なんとか逃げ延びていた。
機動艦隊チームは艦載機に絡み付いたネットを外すのに手間取っているし、ドイツチームは落とし穴だ。
今しがた天龍を同士討ちでリタイヤさせたし、さて次は……
「逃がさんぞ提督!」
お、凛々しい物言い。
那智か。
飲兵衛チームが相手なら……こっちだ!
近場にトラップルームがあって良かった。
逃げ込んだのは、窓も何も無い空き部屋。
「あらら、袋の鼠じゃん提督〜」
隼鷹がからかう様に言う。
それがそうでもないんだな。
チーム全員の入室を確認すると、僕は床のスイッチを踏んだ。
ゴゴゴ……
床下からせり上がる、酒棚、ソファ、カウンター……
一瞬にして、空き部屋はバーに変化した。
那智の目が、酒棚の中の一本に吸い付けられる。
「これは……『臥龍』か!?」
緋乃本で仕入れた“幻の銘酒”に、那智は釘付けになった。
他の面々も、それぞれ世界中から掻き集めた酒に魅入られている。
「んじゃ、ごゆっくり〜」
酒盛りを始めた飲兵衛チームを尻目に脱出成功。
さすがは飲兵衛。
『ゲームの景品<酒』なのか。
一抹の寂しさを感じつつ、艦娘寮を走る。
ふと、どこからか水音が聞こえて来た。
艦娘寮の隣のプールか?
視線を転じて、驚く。
なんと、誰か溺れてるぞ!?
でも……艦娘って溺れるのか?
とにかく艦娘寮の窓から飛び出し、プールへ。
溺れていたのは、まるゆだった。
なんだか納得。
自主練で潜水訓練でもしてたのか?
とにかく、見物してる場合じゃない!
僕は上衣を脱いでプールに飛び込むと、まるゆを抱えた。
「た、隊長……」
「しっかり掴まってろよ」
プールサイドに辿り着くと、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
『ゲームは終了しました。皆さんグラウンドに集合して下さい』
鹿島の声。
あれ?
もう終わり?
まだ昼前だぞ。
何かトラブルでもあったか?
非常事態……なら、放送は大淀からだろうし、グラウンドに集めたりせず出撃用ドックに呼ぶだろう。
釈然としないまま、僕はまだグロッキーなまるゆを背負ってグラウンドに向かった。
「勝者は、まるゆちゃんで〜す」
香取の裁定に、僕は真っ白になった。
「なんでそうなるのさ?」
「だって……形はどうあれ、まるゆちゃんは提督を“捕まえた”じゃないですか」
そういえば、溺れたまるゆを助けた時、まるゆは僕にしがみ付いていた。
「では、提督から勝者への御褒美を」
いやいやいや。
相手はまるゆだよ?
マズいでしょ。
条例とか、倫理とか色々と。
(頰とか額で良いじゃないですか)
懊悩する僕に、香取の耳打ち。
…………………………
で・す・よ・ね〜!
キスといっても唇に限った話じゃないですよね〜!
知ってた、知ってましたよ!
かくして、誰も想定していなかった形でゲームは終わった。
「次に提督を捕まえる必要が出来た時は、目の前で溺れて見せればいいのデ〜スね!」
「勉強になりましたね、お姉様!」
味を占められてしまった。
今後は、艦娘に追われる事態になったら絶望しかないんだな。
やれやれ。