多分それさえも平穏な日々〜オーバー艦これ後日談〜   作:ウェステール

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鬼軍曹1

「もぉやってらんないよ!」

 

太平洋の大海原に、駆逐艦『望月』の怒声が響き渡った。

同じ艦隊の駆逐艦達が、その剣幕に立ち竦む。

だが、怒号を贈られた主は、眉一筋動かす事もなかった。

 

「回避行動に移るタイミングが半瞬遅いです。もう一度やり直し」

 

望月の熱い叫びに比して、軽巡洋艦『神通(じんつう)』の声は南洋の海さえ凍りつかせそうな程だ。

 

 

 

神通率いる艦隊の今日の任務は『戦闘訓練』。

しかし、艦娘達の間には定期的に繰り返されるこのメニューに懐疑的な空気が醸成されていた。

 

曰く「そんな事しなくても、私達無敵じゃない」。

 

この世界において、艦娘と深海棲艦の持つ戦闘能力は破格だ。

世界にはもう、僕等に対抗できる手段は見当たらない。

油断や慢心が生まれるのは当然であり、それを差し引いても僕等は無敵だった。

最近の訓練では大半の艦娘が手を抜きがちで、『長門』や『武蔵』といった武人達ですらニチームに別れての簡単な紅白戦演習で済ますくらいだ。

 

そんな中、従来と変わらない猛訓練を課す艦隊があった。

神通の艦隊と、深海棲艦『軽巡棲姫』こと“深通(しんつう)の預かる艦隊だ。

他にも一航戦コンビなども居るのだが、一航戦は自己練習に余念がないのに対して、神通と深通には“麾下の艦隊”というものがある。

つまりーーーー戦闘能力を追究する“地獄の訓練”に巻き込まれる艦が居るのである。

ひたすらに反復される、いつ終わるとも知れない訓練の中で、とうとう望月は不満を爆発させたのであった。

 

「こんなに執着しなくたって、あたし等最強じゃんか!こんな訓練が生きるシチュエーションなんて金輪際起きやしないっての!」

「今の攻撃を躱せなかったという事は、“最強”ではないという事です」

「そんな事言ってたらキリないじゃん!いつまで続けりゃいいってのさ!」

 

通信機から流れてくる望月の声には、不条理に対する熱い怒りがこもっていた。

 

 

だがーーーー

 

 

「いつまででも」

 

応える神通の声には一切の動揺も怒りもなく、その淡々とした態度が一層の恐怖を掻き立てた。

 

「当てられたのなら当てられなくなるまで鍛錬し、当たらなければ当てられるまで鍛錬する。至極当たり前の話で、最強を語るなどおこがましいにも程があります」

 

自分自身を対象として、最強の矛と最強の盾を用意するというのか。

文字通りの『矛盾』を内包することを前提にした、正に「エンドレス訓練」な理屈だ。

赤道に近い南国の海に、ツンドラのブリザードが吹いた。

 

 

 

 

 

その後も訓練は続いたが、雰囲気は最悪だった。

望月はあからさまにテンポが遅れるようになり、その度に神通はやり直しを命じる。

他の駆逐艦達に倦怠感が伝染しかけたのを見かねて訓練中止の命令を出して強制的に終わらせたが、放っておいたらどうなっていたか……あまり想像はしたくない。

 

 

神通と望月のそれぞれと面談した結果、望月は暫く神通のニ水戦から離れて遠征組に回す事にした。

 

「甘やかすのは、良くないと思います」

 

神通は反対したが、ここは譲らなかった。

このまま組んでても、良くなりそうにないしな。

 

 

 

そして、僕の判断は裏目に出た。

 

望月ら遠征組がゴンドワナ(オーストラリア)沖合で大時化に遭遇、連絡を絶ったのだ。

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