多分それさえも平穏な日々〜オーバー艦これ後日談〜 作:ウェステール
夜の闇の中、次から次へと襲い来る小山のような大波に、軽巡洋艦『名取』を旗艦とする遠征艦隊は進むも退くもままならず、足止めを食っていた。
僚艦たちが転覆を避けるのに四苦八苦する中、ただ一人望月だけは器用に波をやり過ごしていた。
「望月ちゃん凄いねぇ」
綾波型駆逐艦『
「んぁ?別に、こんなの何でもないし」
とぶっきらぼうに答える望月。
暴風雨と夜闇が無ければ、赤面している様子が確認できただろう。
凌波訓練は、戦闘訓練に次いで徹底的にシゴかれた科目だ。
波頭を乗り越えるタイミングや角度が少しでもズレれば、やり直し。
一々「何処が悪かったか」を懇切丁寧に教えてくれる神通を、「ウザい」と思った事も一度や二度ではない。
だが、その猛特訓が深夜の大時化で活きていた。
夜目が利かなくても、足から伝わるうねりで波の大きさが解る。
(これは流石に地獄のシゴきに感謝、かな)
「やり直し」を宣告する神通の顔を思い浮かべながら考えていた望月の耳に、雨風の音に紛れて聞き慣れた風切り音が届いた。
全身に鳥肌が立つ。
「回避、回避ぃぃぃっ!」
唐突に叫ぶ望月を訝る艦隊の面々。
その中央に、突如水柱が立った。
一瞬遅れて、轟音。
それは、確かに砲撃だった。
「何?何処から撃ってきたの!?」
「まだ抵抗する勢力なんて居たの!?」
皆がパニックに陥る中、ただ一人
「全艦消灯!狙い撃ちされるぞ!」
望月だけが戦意を保っていた。
名取が望月に遅れて同様の指示を出す。
望月は波の高くなる点を見極めて移動し、最高点に達した瞬間を狙って索敵を行った。
居た。
暗い海の波山の頂で、望月同様に周囲を伺う
それは見間違えようのない、昔馴染み。
深海棲艦、戦艦タ級だった。
で、あれば……
「敵は深海棲艦!タ級一人は見つけたけど、他にも居るかも!」
「か、各艦は索敵を厳に!」
名取の指示で散った駆逐艦達が、次々と報告を上げてくる。
軽巡2、駆逐3。
艦隊の面々は息を呑んだ。
緋乃本でも、オロ社でも、ベイ帝でもない相手。
久々の深海棲艦との戦いは、この世界に渡ってから初めての『
「て、撤退を……」
「何処に!?ちんたら逃げてたらヤられちゃうよ!」
名取の消極案を、望月の怒声が掻き消した。
波の逆巻く大時化の中では、軽巡駆逐の足の速さは活かせない。
撤退行動にモタつけば、待っているのは敵艦の集中砲火だ。
「あたしがタ級を引き付けてる間に、みんなは取り巻きを倒して!上手くすりゃ、向こうから撤退してくれるかも」
「戦艦相手に単騎駆けって、自殺行為だよ!?」
「この状況で一番動けるあたしが、アイツの相手をしなきゃでしょ?夜戦なら大物食いだって夢じゃないってね」
引き止める名取を振り切って、望月は一人戦艦タ級に向かって行った。