艦これ要素はほぼありません...。
Prologue / 0-1
その日は雪が降っていた。
冬が終わり多くの新しい出会いが起きる春という季節に、最後のとっておきだと言わんばかりに訪れた記録的な大雪は、冬でも滅多に振らないはずの地域にまで影響を及ぼす。
滅多に見ることのない雪に子供達や犬は大喜びし外ではしゃぎ回り、大人達や猫は心底迷惑そうに、先月しまった炬燵を引っ張り出し中で丸くなる。
そんなとある日__
今日は運が途轍もなく悪かった。
思えばそれは、今日の朝、目が覚めて次の瞬間から予兆があった。
今まで生きていて、こんな事を思ってしまうほど運が悪かった日はないだろう。
___朝起きると、余程変な寝相をしていたのか、全身に鈍い痛みがあった。
目を開こうとすると、目やにが上下の瞼を縫いつけていた。
それを力ずくで剥がし、若干不機嫌になりつつも、ベッドから降りると、足の裏に何かのトゲの刺さった。
それからタンスの角に小指をぶつけた。
些細なことだったが、この時点で既に普段よりもかなり運が悪いと言える。
しかもこれだけでは終わらない。
しばらくして落ち着くと、外に異様な光景が広がっているのに気付いた。
雪だ。それもかなり積もっている。
道路上から横によけられた雪は、見たところ、平均的な大人の男性の胸のあたりまで積もっている。
今は4月である。
長年住んでいるこの横須賀で、この時期に、いや、例え真冬だったとしてもこの量の雪が降ったことはなかった。
というか、これは真冬の北海道並みだ。控えめに言って、異常。
ボーッとニュースを見ながらそう考えてから、電車の大幅な遅延の可能性に気付き、急いで家を出た。
この時、口にくわえていた食パンを、ジャムを塗った面を下にして床に落としてしまった。
普段よりかなり早く家を出たものの、予想以上に電車が遅れていたために会社に遅刻してしまった。
上司には当然怒られ、その日新人社員達がやる予定だった仕事の半分を、その新人達への見せしめのように押し付けられる。
やっとの思いで完成させた書類も、細かいミスが見つかりやり直しになってしまった。
その後も、なにもない所で転んでまとめ上げた書類をぶちまけ、コーヒーをこぼしてスーツを汚したりと散々な目にあった。
そんな調子で、普段よりも長く感じる時間が過ぎていく。
そして現在。
普段よりも4時間ほど長く働いていたせいで、疲労が限界を迎えているが、なんとか帰路についていた。
ブラック会社も真っ青になるような残業をしたせいで、酒を飲んだわけでもないのに意識が朦朧としている。
凍えるような、季節遅れの異常な寒さと慣れない雪に足を取られながら、ふらふらと歩く。
ふと、前から自分と同じようにふらふらと歩いてくる影が見えた。
何となく親近感を覚え、若干気が緩む。
前方から近づいてくる影を、そろそろ寿命が来ている街頭がちらりちらりと照らす。
どうやらフードを被っているらしく、顔は見えない。しかし、その人物は手に何か持っているようで、そこから微かな光が見えた。
スマホかなにかだろう。
フードの中から流れるように出ている髪は、よく見ると、今も降っている雪のように白い。染めているだけなのかもしれないが、あそこまで完璧に白いと、カツラかもしかしたら「アルビノ」っていうやつなのかもしれない。
背はかなり低い。体型を見るに、ひょっとしたら中学生くらいの女の子だろうか。
何となく気になって観察していると、パチリと目があった。
深い海のような、蒼色の瞳。
気のせいか一瞬だけ赤だったような気もしたその瞳は、吸い込まれそうな不思議な輝きを放っていた。
他人から見れば、暗いはずなのに
何故か目を逸らすことができず、そのまま歩き続ける。
ごり、ごり、と雪道を歩くときの独特な音が、妙に大きく聞こえる。
気付いたときには、お互いに手が届きそうな距離まで近付いていた。
お互いに目を合わせながら、同時に立ち止まる。
自分の意志ではない。本能が勝手に体を動かし、止めた。
しかし、それに気づくことはない。
服装は、黒いパーカーで、中には下着以外なにも着ていないのか、白い下着のようなものとモデル顔負けの白い肌が見える。
フードの中から伸びている白い髪の毛は、濡れていた。
この格好で寒くないのだろうか?
そこまで考えてから、今更ながら、現在の状況が少し危ないことに気づく。
目の前で中学生(仮定)が自分と向かい合うように立っているのだ。
こんな時間にこのような子供が1人で外にいるなんて、危険である。
それに誰かに見られたら、そういう場面に思われて通報されかねない。
取りあえず、こんな時間にここで何をしていたのかを聴いてみることにした。
迷子とかなら最寄りの交番に連れて行こう。
__普段の思考能力があれば、絶対に取らない行動である。
疲れすぎているという理由は、この行動についての説得力に欠けていた。
そうして話しかけようとした瞬間、全身に電流のように、悪寒が走る。ぶるりと体が震え、風邪でも引いてしまったかと思いつつ、一瞬だけ外れた視線を戻す。
すると、そこにはさっきまでそこにいた娘とは全く違う雰囲気を全身に纏い、金色に光る瞳を持った少女が、それを三日月のように歪ませ、口から「アハッ」とこれもまた鈴のようにきれいな声を出しながら、笑っていた。
世界中どこを探してもこれ以上にないほどに、見惚れるような笑顔に魔力のようなものを感じ、瞬間頭の中が真っ白になる。
そして、その手に持ってたいモノが光ったと知覚したのと同時に、視点が急に上に上がり、何が起きたのかを理解する前に意識が途絶える。
その夜、雪がさらに降り、人が歩いた痕跡は無くなる。
雪の上にまかれた赤いインクは、日が昇ると雪といっしょに流れ落ち、消えていく。
そして、辺りは不自然なほどに自然に戻った。
そこでは何も起きていなかったと主張するように。
その日も雪は振り続ける___
書きたい衝動に任せて書いてしまいました。
書き溜めは無いので不定期になってしまいますが、なるべく早めに更新していきたいと思います。